殲術病院の危機~コスプレ淫魔は立派なのがお好き?

    作者:智葉謙治

    『緊急事態発生! 直ちに持ち場について下さい! 繰り返します! 緊急事態発生!』
     病院内に、緊急のアナウンスが鳴り響いていた。
     廊下を慌ただしく駆け回る医師や看護婦は皆、生き死にをかけた形相を浮かべている。
    『緊急……うわっ!』
    「何!? もう侵入されただと! ……まずいな。おい! 援軍はどうなってるんだ!?」
    「それが……どこからも救助信号が出てます。もしかすると……」
    「日本中の殲術病院が、一度に襲撃されているのか? そんな馬鹿なっ!」
     慌てる医師たちが持つのは人の命を救う道具ではない。
     ――殲術兵器だ。
    「駄目だ、敵が多すぎて止められない! 早く、誰か来てくれっ!」
    「手が空いている者は一階へ向かえ!」
     看護婦や入院患者をも含めた総力戦となっていた。
     淫魔軍の襲撃の一報を受けてから、わずかの間の出来事である。
    「油断したな……、だが、このまま落とされるわけにはいかんのだ! 皆、徹底抗戦の用意を急げよ!」
    「はいっ!」
     窓から見えるのは、大量に押し寄せるピンクの集団。
     その中央には軍を率いる淫魔の姿がある。
     視線に気が付いた淫魔は、楽しそうな表情でウインクを飛ばした。

    「ちょっと大変なことになってるみたいなんですよ」
     黒部谷・伏吾(高校生エクスブレイン・dn0174)が薄ら笑いで話す。
     だが、口調にはどこか緊張感が漂っていた。
    「えっと、ダークネスが『病院』の襲撃をするらしいんですが、どうやらそれが一組織じゃなく、複数のダークネスが絡むみたいなんです」
     一つは、ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢。
     一つは、白の王・セイメイの軍勢。
    「そして最後に、淫魔・スキュラの軍勢です。あなたたちが戦ってほしいのはコレですね」
     どれも武蔵坂と因縁がある相手。捨て置くわけにはいかない。
    「知ってるでしょうが、『病院』勢力は殲術病院という拠点を全国に持ってます。たとえ、どこかが襲撃されても他の病院から援軍を送って撃退する、という方法を今までとってたようですが……」
     今回はダークネス三勢力により、ほとんどの病院が一度に襲撃された為、互いに孤立無援となり得意な戦法が使えないとの事。
    「このままじゃあ、病院勢力が壊滅してしまいます。これってまずいですよね?」
     集まった灼滅者たちが向かうのは、淫魔軍に襲われた病院となる。
    「襲撃を受けて、病院側は殲術隔壁を閉鎖して籠城してるんだけど、既にいくつか隔壁は破られちゃってるみたいです。白兵戦で応戦してるけど、そう長くは持たないでしょうね」
     攻めてきたのは淫魔1体とピンクハートちゃんが4、50体ほど。
    「あなたたちだけで、まともに戦って勝てる数じゃないですね。なので、まずは指揮官である淫魔を撃破していただきます」
     現場に着く頃には両軍の戦いは激化しているだろう。
     ほとんどの眷属が病院内に侵入している、この時を逃すわけにはいかない。
    「病院の外で、3体の眷属を従えた淫魔と遭遇する事ができます。コレを倒しさえすれば、『病院』の灼滅者たちと協力して、残る眷属を撃破することも可能でしょうね」
     逆に、倒すのに失敗し、眷属の中に逃げ込まれると手出しするのは難しい。
     そうなれば撤退もやむをえないかもしれない。
    「淫魔の名前はりょん。ピアニカを使ったサイキックを得意とするそうです。ピンクハートちゃんは触手で攻撃と回復を使いわけるみたいですね」
     伏吾の頬を、一筋の汗が伝った。
     彼が経験したことのない規模の戦闘で、緊張しているらしい。
    「正直言うと、心配です。もう間に合わない場所もあるみたいですし。……絶対に、武蔵坂へ帰って来て下さい。ずっと、待ってますから」


    参加者
    艶川・寵子(慾・d00025)
    フェリス・ティンカーベル(万紫千紅・d00189)
    坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144)
    極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    天倉・瑠璃(アンチヒアルロン酸コラーゲン・d18032)

    ■リプレイ

    ●病院が堕ちる前に
     獣道もないような山中を灼滅者たちが駆け抜けている。
     ガサガサと乱暴に小枝をかきわける音に紛れ、遠くから人間らしき悲鳴が届く。
     何が起きているのかは知っているというように、天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)は表情を変えぬまま、先を急いだ。
    「組む相手がハルファスにセイメイとは、スキュラも仲良しごっこに余念がないようだ」
     どこか血生臭い匂いが漂い、彼は全身に重いオーラを纏わせる。
    「いずれにせよ俺たちにとっては敵、この機に少しでも戦力を削げればよいのだが」
     戦いに備える玲仁を見て、フェリス・ティンカーベル(万紫千紅・d00189)も槍を掴んでおく。
    「でも……殲術病院がまとめて襲われるなんて、一大事だよね」
    「病院……学園とは……違う……灼滅者の……組織……ね……」
     ふわりと地を駆け、皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)が静かな声で応えた。
     逢ったことはないが、ダークネスを灼滅するもの同士。
    「……助けないと……ね……」
    「ええ、もちろん。私たちの相手は淫魔か……とりあえず、えっちなのはいけないと思うんだよ?」
     木々の間を易々と抜ける仲間の後を、色素を持たない純白の小動物が着いて走っていた。
     彼女もまた灼滅者。天倉・瑠璃(アンチヒアルロン酸コラーゲン・d18032)の化けた姿だった。
    (「……やばい、なんか全然状況に着いていけてないのに来ちゃったかも。ううう、全く訳がわからないよ……」)
     夜の闇の下、赤い目が爛々と輝いていた。

     下り坂を跳ぶと、目の前は開け、古く寂れた建物の全景が現れた。
     その『病院』の前で淫魔りょんが背を向けて立つ。
     桃色のウイッグを付け、ふわふわスカートの魔法少女ちっくなコスプレの淫魔がゆっくりと振り向いた。
     相手の余裕の微笑に、艶川・寵子(慾・d00025)が対峙する。
    『今頃きても遅いわよ? もっとも、私がいるから、どちらにせよ間に合わないけどね♪』
    「言うわね……、ちいさいお胸も嫌いじゃないけれど、悪いちっぱいはお仕置きが必要よ?」
     馬鹿にした口調で話しかけるのは、戦況把握のために、周囲へ視線を巡らせるのを気取られないためだった。
    「大きさはともかく……淫魔軍の所業を止めるのが私たちの役目。お覚悟を」
     桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144)はそう言うと、じゃらりと蛇剣を手元から垂らした。
     同時に、平穏な顔からは想像できない程の殺気が辺りを包む。
    『単純な挑発に乗るほど、こっちは暇じゃないの♪ ……んが?』
     絶句するりょんの前に現れたのは極楽鳥・舞(艶灼姫・d11898)だ。
     ビキニの水着からこぼれそうな豊満な肉体。その上には黒いマントしか羽織っていない。
    「ふふ~ん♪ どっちが魅力的か勝負してもいいよお?」
     片手を膝に乗せて前かがみにセクシーポーズをとる舞の背後で、戦闘開始と呟く声。
     それはチェーンソー剣を両手に持った坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)だった。
     彼女は舞を飛び越え、おもむろに纏う殺気を敵群へと放った。
     殺気の圧が迫るのに気付くピンクハートちゃんたち。だが、彼女の刃は淫魔に止められた。
     深追いせずに、一歩引く未来。
    「……さあ、反撃の嚆矢と洒落込もうか」
     敵襲に3体の眷属が戦闘態勢をとる。その前で、淫魔は嬉しそうに長い爪を舐めた。
    『うふ、こんなに殺したら、きっとスキュラ様も喜んでくれるわ~♪ うっしっし』
     月明かりに、ピンクのネイルが妖しげに光った。

    ●正面衝突
     枝が軋む音に、淫魔は樹上を見上げた。
     そこにいたのは真っ白な毛皮の真っ赤な目を持つ小動物。
    「ねえ、僕と契」
     ――ガシャァッン!! バキバキッ!!
    「やくぅっ! (どさり)……きゅう……」
     突然病院の窓が割れて、丸焦げになったピンクハートちゃんの死体が降ってきたのだ。
     瑠璃はその下敷きになって地面に落下し、変身が解けたまま動かない。
     動揺する様子をみせずに零桜奈は静かに殲滅の合図を呟く。
    「ソノ死ノ為ニ、対象ノ破壊ヲ是トスル」
     背から蒼炎を立たせ、眷属へ炎の刃撃を見舞う零桜奈に、りょんは不敵な笑みを崩さない。
    『あなたたち、そんな力で勝てるつもり? 甘いんじゃなくて♪』
     ピンクのハイヒールで蠱惑的なステップを披露する。そこから繰り出される攻撃に、零桜奈の足が止まった。
     ピンクハートちゃんから伸びる触手が、太い縄のように次々に振り下ろされた。
     受け止めるフェリスの槍が音を立てて軋む。
    「くっ、思ったより強いかも……、だけど、みんなは私が守らなきゃ。えいっ!」
     クルリと槍を持ち替え、眷属へとかざした掌から凍結の呪法を放った。
    「そんな余裕もいまのうちよ?」
     うねる触手の雨を避けつつ、鬼と化した寵子の拳は凍結する眷属の側面をべこりと凹ませた。
     キシュッシュッ――!
     空気を切り裂く音と共に、綾鷹のブレイドサイクロンは眷属たちを刻んだ。
     剣風に紛れ、ナノナノのしゃぼん玉が当たって弾けた。集中攻撃で弱る敵の触手が萎れていく。
    「サクラ、ありがとう。さて、このまま押しきれるとは思いませんが……」
     予想通り、眷属たちは仲間へ触手を伸ばす。
    『みんなあ、太っといのでお願いよお♪』
    「……させない……くっ!?」
     刀を向ける零桜奈に、淫魔の歌声が降りかかる。
     そこに、舞が彼を守る為に身を挟むが、サイキックの乗った歌を正面から受けて、がくがくと膝が震えてしまう。
     それでも、舞は聖剣を、全身のばねを使って振り切った。
     歌を邪魔されて淫魔は彼女を睨む。
    「えへへ、お返しってね♪ ……きゃっ!?」
     淫魔の後ろから蠢く触手が、舞を襲う。なんとか剣の柄で弾くが、なぜかちょっと照れた様子。
    「わ、私、そういうのはちょっとまだ早いかも……?」
     再び息を吸い込む淫魔に、玲仁の歌が重なる。
    「ペットをぞろぞろ引き連れて数の暴力で戦うのが魔法少女、か」
    『なっ、何がいいたいのかしらっ!?』
     青筋を立てて反論するりょん。
     玲仁は答えず、悲壮感の残る美しい歌声を放ち続けた。
     その身に触手を打ち据えられても、歌は止まらない。
     いらつきを隠さず彼へ爪を振るう淫魔に、再び未来が衝突した。
    「おっと、お前の相手はあたしがしてやろう」
     チェーンソー剣の刃と硬質の爪が火花を散らす。
     未来は引きざまにもう1本の刃で、敵の服を刻んだ。
     一方、回復を終えたピンクハートちゃんは、ビンビンに戻った触手を大量にくねらせていた。
     ……カサカサ。ブーン。
     背後に物音がした、と思った次の瞬間、眷属の頭の上に軽い重さと、深々とえぐられた激痛が襲った。
    「待たせてすまん。こいつは俺に任せな!」
     それは病院の壁を駆け昇って飛んできたルリだった。

    ●悲しみの魔法少女
     ふざけた見た目と裏腹に、それはあまりにも堅い布陣だった。
    「ごめん、回復が間に合わない!」
    「任せて! ヒーリングライト!」
     更に、強烈な淫魔の歌声は灼滅者たちを疲弊させる。
    「くっ、あと少しが削りきれないっ!」
    「あたしがブレイクする!」
     戦場には叫び声が響き続けた。
     ――そして、回復を求め仲間の元に向かうピンクハートちゃんを、ようやく綾鷹のウロボロスブレイドが捕まえる事ができた。
    「いたちごっこは終わりにしましょう……紅蓮大蛇!!」
     切り裂かれ、生命力を吸われた眷属はしわしわになって倒れ込んで絶命した。
     それでもなおダメージの残る綾鷹へ、すぐにナノナノが癒しの力を送る。
    『よくも……やってくれたわね……許さないわよっ!』
     眉間のしわを隠さずに怒鳴るりょん。
     愛用のピアニカを構えると、明るい童謡を吹きながら灼滅者へと襲い掛かった。
    「万事休す、か……」
     圧倒的な魔力をたずさえて睨む淫魔に、怯えるナノナノと、歯を食いしばる綾鷹。
     その寸前で舞がフォローに入った。だが、強烈な連打は彼女の体を何度も打ち据え、露出する肌に内出血が溜まっていく。
    「これは……やばいかも……」
     一瞬、意識が真っ白になり、倒れ込む舞を、滑り込んだ寵子が抱きかかえた。
    「ごめんなさい、油断してたわ」
    「んくっ……、うう、ありがと寵子」
    「ここらで勝負を仕掛けないと。あれを何度もは耐えられないかもしれないわ」
     未来の斬撃を、淫魔がひらりと避ける。大型のチェーンソーを両手で振りまわすのだが、しゃがんだり跳んだりと、敵の体を捕らえられない。
    『無駄な事よ♪ あなたたちとは力の差がありすぎるのお』
    「……そうかな?」
     踊るように蹴られて吹き飛ぶ未来の口元に、微かな笑みが浮かぶ。
     見れば、淫魔の胸元のリボンは切り刻まれ、残念な胸板がちょっと覗いていた。
    『~~~!!』
     真っ赤になるりょんを、フェリスはじっと見た。
     そして自分の胸を見て、ぽよぽよと持ち上げて見た。
    「……(憐みの目)」
    『そんな目で見るなぁ!』
     叩きつけられるピアニカを堪えつつ、フェリスは見た目にもごつい槍を大きく振り回して敵を吹き飛ばす。
     淫魔の動揺に、未来は追い打ちをかけた。
    「フッ……胸は飾り……とはいえ、流石に其処まで無いんじゃ、な」
     だが、敵の目がキラリと光って、彼女の胸元を凝視した。
    『必殺、淫魔アイッ! ふふふふ、そういうあなた、私よりも小さいわよっ!』
    「なっ!?」
     血を吐いて倒れる未来。
    「見た目は……まぁまぁ……だけど……胸と……頭が……残念……」
    『なんですとぉ!? 無い乳に言われたくないわっ!』
    「私は……男……だ……」
     がーん。
     白眼でモノトーンになる淫魔に、零桜奈は冷ややかに妖冷弾を浴びせた。
    『ううっ、ちょっと、あんたたちっ、もっと私に力を注ぎなさいっ! これだけじゃ足らないわよっ!』
     眷属の触手から淫力を回復するりょんだが、どこか足取りは重い。
     そのためか、ちょこまかとコスプレ談義をはさむ瑠璃を振り切れなかった。
    「それ良い生地使ってますね、お手製です?」
    『しつこいわよっ! どっちでも良いでしょ!』
    「コスプレ好きなんですか? 似合ってますよ?」
    『う……ありがと……』
    「特に胸がぴったりで」
     ががーん。
    「なので残念ですけど、黒焦げにしちゃいます」
     瑠璃の必殺の叫びと共に、手のひらから轟雷が放たれた。
    『しつこいっ! 弱いくせにっ!』
     わずかに下がりつつあるのを、寵子は見逃さなかった。
    「相手のせいにする女って、嫌われるのよ?」
     神薙刃に逃走を阻まれる淫魔。そこへ未来が割り入り、耳元で囁く。
     淫わいな言葉に真っ赤になるりょん。ピアニカの一撃で未来は防御したまま吹き飛ぶ。
    「……本気にしてくれるな」
     更に、玲仁が鬼神変を打ち込んだ。
    「しかし、ピアニカとは随分ださいな」
    『こっ、これしか弾けないんだから仕方ないでしょうが!』
     巨大な鬼の拳に、じりじりと圧される淫魔。
    「……そもそも貴様、本当に魔法『少女』と呼べるのか?」
     ぶちーん。
     ゴゴゴゴゴ、と大気が震えた。
     たちまち、りょんは、翼を生やし牙が伸び、まさに魔に相応しい形相となっていた。
    『殺す! 殺す!』
    「くっ、サクラ頼むっ!」
     仲間の回復をナノナノに任せ、綾鷹は蛇咬斬で淫魔を捕らえようとする。
    「大人しくなさいっ! ぐぐぐっ!」
     だが、蛇剣を身に巻き付かせたまま、敵の歩みは止まらない。
    「前に出てきてくれてありがとねっと!」
    「ここで……倒すよ……」
     ルリと零桜奈が、ナイフと槍で淫魔を斬りつける。
     だが二人は敵の強烈な舞踏に弾き返されてしまった。
     寵子の清めの風を受け、なんとか立ち上がる。
     強烈な攻撃が続く中、灼滅者たちもギリギリで踏み止まり、攻撃を繰り返す。
    『いい加減、死になさいよォォォ!』
     淫魔の楽器を受け止め続けるフェリス。
    「……どれだけ辛くても仲間がいる。だから私たちは倒れないの、あなたにはわからないでしょう!」
     ぼろぼろになりながらも庇い続ける彼女の後ろから、敵へ豪炎が吹いた。
     舞のバニシングフレアに、淫魔は両腕で防ぐしかなかった。
    「早く逃げてれば、勝てたかもね。残念♪」
    『くうっ!』
     回復をと眷属を待つ淫魔だが、そこへフェリスの縛霊手が結界を飛ばした。
     痺れた触手の動きが一瞬止まる。そこを、玲仁は見逃さなかった。
    「おい、まな板。格下相手に逃げ回るなど、戦うヒロイン失格だ。来世で出直してこい」
     オーラを発しながら連続した拳を淫魔へと打ちつける。
    『……ああ……がぁっ!』
     その威力に、牙が、爪がぼろぼろと崩れ落ち、ようやくその動きを止めた。

    ●増援湧く
     砂塵と化して消える淫魔を未来は見つめた。
    「最後に見せた人としての感情、あたしは信じるよ……」
     だがその後の呟きは、病院から起こった怒号によってかき消されてしまう。
     突然の爆発音と、人々の悲鳴。
    「逃さない……よ……」
     病院へと移動する眷属を、零桜奈は追った。
     ピンクハートちゃんの背後から槍を突き刺す。それでもまだ触手を伸ばす敵へ、玲仁がオーラキャノンを叩き込んだ。
    「しぶとい奴らめ……なっ!?」
     再びの爆発音と共に、病院の入口の扉が吹き飛び、中からぞくぞくとハート型の眷属が出てきた。
    「休む暇もないか」
    「これじゃ……帰れない……」
     寵子は蒼い聖剣で眷属を灼滅すると、一息吐き、剣の柄を握り直す。
    「こうなったら、みんな協力して掃討戦ね! 大丈夫、もう一息よ!」
    「了解! 挟み撃ちにしてやるからね!」
     フェリスの妖冷弾が眷属を貫き、その肉を凍らせる。
     院内に響く戦闘の気配に向け、綾鷹は声を張り上げた。
    「淫魔軍殲滅、武蔵坂も協力します!」
    「わ、私は淫魔じゃないですからっ」
     慌てて付け加える舞。ロビーへと押し入り、眷属の群れを次々に倒していく灼滅者たち。
     狭い室内を縦横無尽に駆け回りながら、ルリのナイフは的確に敵を裂いていく。
     予想外の増援に、指導者を失った眷属たちは混乱を収拾する術がなかった。
     戦いはしばらく続くが、彼らにはもう不安はない。
     残る体力は僅かでも、強敵を倒し終えた彼らには自信と勇気が満ち溢れているからだ。

    作者:智葉謙治 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 17
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