●
木々のざわめきは拍手の如く。
「……さあ、皆さん、参りましょうか」
恍惚にも似た表情で虚空を仰いでいた男が、手にしていた指揮棒を振り上げた。
後ろに控えていた正装の群集が動き出す。
突き抜けていくトランペットのファンファーレ。フルートのメロディラインは高らかに歌い上げ、激しく響くシンバルのリズムが駆けるヴァイオリンの旋律を後押しする。
「ふふふ……あははっ、イイですね! 今日は最高の舞台になりそうだ!」
オーケストラを指揮するコンダクター。男の姿はまさにそれだった。だが、そこには、狂信的な殺気が漂っていた。
そんな、死のオーケストラと言うに相応しい軍勢が向かう先には、小さな病院が……。
非常ベルの音が、けたたましく鳴り響く。
「せっ、先生ぇ! 襲撃です! ハルファス軍がこの病院にっ……きゃうっ!」
「落ち着きなさい。援軍の要請を急いで」
廊下で思いっきり転んだ若い看護師に手を貸しながら、医師の女性は混乱する現場を取り仕切っていた。
「北病棟を封鎖! 南病棟で迎撃の態勢を整えるわ! さあ、防護隔壁の展開を急いで!」
「先生、大変です! 他の病院からも援軍の要請が届いています! 全国各地から、続々と……!」
研修医らしい青年が、階段を駆け上がってきて叫ぶ。医師の女性は親指を軽く噛み、考える仕草をみせた。
「なるほどね……那須殲術病院を襲撃した後、動きがないと思ったら……この機会を狙っていたんだわ……」
「せ、先生ぇ……」
「どうしますか、先生」
「ほら、情けない声出すんじゃないの! 立てこもるわよ! しゃんとなさい! ここは殲術病院よ。援軍がなくったって、そう簡単に落とされて堪るもんですか! 見せてあげましょう? 私達の底力を!」
「……っ、はい!」
殲術病院の医師や看護師達は、皆それぞれ武器を手に取り、駆け出していく。
いつまで持つか分からない、圧倒的不利なこの状況下で……。
●
「あのね、いくつかのダークネスの組織が、例の……武蔵坂学園以外の灼滅者組織だっていう、『病院』を襲撃しようとしてるらしいの」
いつになく真面目な顔をした、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)が、教室に集まっていた灼滅者達に向かって人差し指をピッと立ててみせる。
「ひとつは、ソロモンの悪魔、ハルファスの軍勢。ふたつめは、白の王、セイメイの軍勢。それから、みっつめ。淫魔、スキュラの軍勢」
最終的に三本指を立てたスイ子は、そのまま腕を下ろしてメモ帳へと視線を落とした。
「みんなとも、いろいろあった組織ばっかりだから……きっとみんなは、無視できないって言うよね。うん、わかってる」
半分、自分に言い聞かせるように頷いて、スイ子は説明を続ける。
彼女が言うには、武蔵坂学園とは別の灼滅者組織である『病院』は、『殲術病院』と呼ばれる拠点を全国に持っているとのことだった。
もともと、殲術病院は防御力が高い。襲撃を受けたとしても、籠城作戦をとっている間に他の病院から援軍を送ってもらい、襲撃してきた他組織を撃退するという戦術を得意としていたのだ。
だが、今回の事件は、ダークネスの三勢力により、全国各地ほとんどの病院が一斉に襲撃されてしまった為、互いに援軍を出すことのできないジリ貧の籠城作戦を余儀なくされているという。
「このままじゃ、病院勢力は壊滅しちゃう……だから、みんなに、助けて欲しいんだ……お願い……!」
言いながら、スイ子は一度、深く頭を下げた。
そうしてスイ子はゆっくりと顔を上げ、机の上に地図を広げてペンを握った。
「ここに集まったみんなに向かって欲しいのは、ここの病院だよ。ここはね、ソロモンの悪魔、ハルファスの軍勢に襲撃されているの」
迫りくる軍勢は、ソロモンの悪魔が率いる強化一般人。その数は数十名にも達するという。襲撃に対し、病院は籠城作戦を展開しているものの、それもいつまで持つか分からない。
「こんなとこに、真正面から突っ込んでいっちゃったら、いくらみんなが強くても勝てないよ、だって、数が多すぎる……! だからね、まずは、この軍勢を指揮してるソロモンの悪魔をみんなで倒して!」
そうすれば、病院の灼滅者達も籠城作戦を解除し、強化一般人を撃破するために討って出てきてくれるという。
つまり、病院の灼滅者達との協力が可能になるのだ。この戦いで、勝機を見い出せるとすれば、この方法しかないとスイ子は言う。
「……あたしが見た、ハルファスの軍勢はね、なんか……うん、そう、オーケストラみたいな感じだったの」
ハルファス配下のソロモンの悪魔が一人。名はラインハルト。白い肌に白い髪。頭から黒い山羊のような形の角を生やした彼は、オーケストラの指揮者のような格好をしているという。
「楽器を武器に持った強化一般人の軍勢に病院を襲撃させているの。ラインハルト自身は病院の正面広場にいるみたいだから、みんなにはまずそこで戦ってもらうことになると思う」
ラインハルトは、病院の正面広場で指揮に没頭している。奇襲を仕掛けるのは難しくないだろう。
だが、一度戦闘になれば、彼も当然応戦してくる。
「タクトから飛んでくる魔法の弾に気をつけてね。もし、万が一ラインハルトを逃がしちゃうようなことがあったら、それ以上の深入りは危ないよ。だから、そうなっちゃたら、逃げることも視野に入れておいてね。お願い……!」
何かを堪えるよう、きゅっと唇を結んでスイ子は灼滅者達を見つめる。
「もう、間に合わなくて壊滅しちゃった病院もいくつかあるんだって……ホントはね、あたし、みんなには、あんまり危ないこと、して欲しくない……けど……」
それでも、灼滅者達は戦うことを選ぶはずだと、スイ子も確信しているようだった。彼女は何度か頷き、そして、少しだけ笑ってみせる。
「あたしが、みんなにしてあげられるのはここまで。悔しいけどね。みんなの無事と成功を祈ってるよ。いってらっしゃい、気をつけて……!」
参加者 | |
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喚島・銘子(糸繰車と鋏の狭み・d00652) |
古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042) |
夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512) |
蒼崎・鶫(星屑の軌道・d03901) |
真月・誠(道産子くせっ毛ガキ大将・d04004) |
淳・周(赤き暴風・d05550) |
春日・和(胡蝶の夢・d05929) |
ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183) |
●
山間の小さな病院を目前に、灼滅者達は木陰に身を潜め、じっと機会を窺っていた。
遠くの方で、音楽が聞こえる。雄々しい行進曲。どこか、狂気的な色を含んだそれは、決して心地の良いものではなかった。
(「……ちゃんと帰るわ」)
喚島・銘子(糸繰車と鋏の狭み・d00652)は祈った。音が鳴らないようにと布できつく巻いた鈴のお守りを握り、大丈夫、と心の中で自分に言い聞かせる。
病院の前の広場には、ひとりの男がいた。燕尾服に身を包み、一心不乱に指揮棒を振るっている。
あれが、ソロモンの悪魔、ラインハルト。
その姿を、双眼鏡のレンズの向こうに捉えていた、ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)は、ハンドサインで突入のカウントダウンを始める。
おそらく、病院内を侵攻しているのだろう。辺りに楽器を持つ強化一般人の姿はなかった。
今が好機。まずは、速攻で先手を打つ。
カウントゼロ。灼滅者達は一斉に駆け出した。
兎や猫に姿を変え、その小さな体を活かして先行していた、夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)と、真月・誠(道産子くせっ毛ガキ大将・d04004)が、変身を解いてラインハルトへと迫る。
「……っ!?」
「残念だけどここで演目は中止だよ」
目を見開いたラインハルトが言葉を発するよりも速く、千歳は高く跳んだ。
真っ直ぐ、まるで突き刺すように振り下ろされた斬艦刀が、土煙を巻き上げる。
「いくぜ……合わせろ!」
「わかってるわよ!」
間髪入れずに踏み切った誠に、蒼崎・鶫(星屑の軌道・d03901)の少し怒ったような声が答えた。誠は、にっと笑ったまま振り返らない。後方から勢いよく伸びてくる影と共に、ラインハルトへ拳ごと突っ込んでいく。
「杣、行って!」
流れるようなコンビネーション。銘子が合わせて指輪から弾丸を放ち、霊犬の杣を前方へと向かわせると、鶫の霊犬、ヴェインもその後を追う。
「歯ぁ食いしばりな! アタシが本当の心に響くモノを叩き込んでやるよ!」
杣とヴェイン、二匹の霊犬達と共に前線に出た、淳・周(赤き暴風・d05550)が、ラインハルトに飛び掛った。
炎を纏った拳が、激しく頬を打つ。
「っ、ぐぅ……っ!」
「まだだよ」
「えーいっ!!」
一歩、後ろへとよろめいたラインハルトに、古城・けい(ルスキニアの誓い・d02042)は加速した勢いに乗せてハンマーを振るい、春日・和(胡蝶の夢・d05929)がその後方からオーラの衝撃波を飛ばす。
「……っ! お、お前達は……」
なんとか体勢を保ち堪えるラインハルトに、ジンザはシールドを構え、一気に詰め寄った。
「Quiet『病院内はお静かに』そんな事も知りませんか」
そうして、低い位置から見上げて人差し指を口元で立ててみせる。
「くっ……」
ラインハルトが、後ろに飛び退く。だが、退路はない。奇襲を仕掛けつつも、灼滅者達はしっかりと彼を取り囲んでいた。
「……ふふっ、ははっ! アハハハハッ!! よくも……よくも邪魔をしてくれましたね! 私の、最高の舞台を!!」
「……見過ごせる要素がないな」
顔をしかめ、低く呟きながら、けいはハンマーの柄を握り締める。
「だね。評判最悪、大ブーイングにより、オーケストラは中止~」
頷いて、和も後方で構えてみせた。
「いいでしょう! 教えて差し上げますよ、神聖なるこの舞台を土足で踏みにじった罪というものを……!」
ラインハルトが、指揮棒を振り上げる。
狂気に満ちた、凶悪な笑み。
反撃の、気配だった。
●
奇襲作戦は、概ね予定通り成功した。だが、ラインハルトも強敵だった。
振り上げられた指揮棒に、膨大な魔力のエネルギーが集まっていく。
「来るぞ!」
「受けてみますか? 勇ましいお嬢さん?」
にやりと笑って、ラインハルトはそのまま魔力の塊でできた弾を撃ち放った。
鈍く光る魔弾が、周の肩を掠めていく。
「っ! あっ、ぐぅ……っ!」
みしり、と、骨の軋む音が聞こえて、周は思わず肩を押さえた。
「大丈夫、支えるよ」
和がすぐにカバーに入るも、灼滅者達の間に緊張が走った。あの攻撃を、まともに喰らえば、その分勝機も薄くなる。
奇襲からの短期決戦が勝利の鍵だ。灼滅者達は、攻めの姿勢を崩さずに立ち向かう。
周は負った傷をも気にする事なく、構えを直して駆け出した。
前衛から、けいのハンマーと千歳の斬艦刀の重い一振りが猛襲を仕掛ける合い間に、銘子やジンザも素早く、確実に攻めていく。
勢いよく地面を蹴った誠に合わせて、鶫が再び影を伸ばした。
和は陣の後方から動きを読みつつ、仲間達の背中を守る。
「く、小癪な……」
大きく飛び去って、ラインハルトはちらりと後ろを見た。
彼の後方には、病院の正門。逃げるつもりなのか。そうはさせまいと、誠が声を上げた。
「はんっ! 半端者って馬鹿にしてる奴ら相手に尻尾巻いて逃げんのか? オメェもそのボスのアモンのアホ以下のヘタレなんだな!」
「……口が、過ぎますよ」
すっと近づいてきたラインハルトが、誠の体に指揮棒をあてがった。
次の瞬間。
「この、糞餓鬼が……!」
暴発するように膨れ上がった魔弾が、誠を飲み込み、吹き飛ばす。
「っ! あの馬鹿!!」
鶫は咄嗟に影を伸ばしていた。
「絶対、逃がさない……っ!!」
ぎり、と、影を操る指先に力を込めた。誠が作ってくれたチャンスを、ここで無駄にしてはいけない。
「……っ、は、お、オレ……」
「しっかりしな。正義のヒーローは望めば必ずやってくるって事、アタシ達が示さねぇと!」
倒れ込んだ誠を庇うように立ち、周はシールドを展開した。そこへ駆けつけた和も、素早く回復の手を施していく。
「あはっ、アハハハハッ! 邪魔を、邪魔をするからだ!! ヒャハハハハッ!!!」
「……相手が悪かったね」
地面に座り込み、誠の回復に専念していた和が、狂ったように笑うラインハルトを見上げた。
「……何?」
ぎろりと見開いた目を向けながら、ラインハルトが振り返る。
「私達、困ったちゃんには容赦しないんだから」
「は……」
「そう、逃がさないわ。ここで、仕留めてみせる!」
思い切り踏み切った銘子の縛霊手から、網状のオーラが大きく広がり、ラインハルトの体を包む。
「は、放せ! 私は、作り上げるのだ! 最高の舞台を……!」
「ねぇ、何か勘違いしてない? 音楽は人を心地よくさせるものじゃないと……」
影を纏った千歳が、ラインハルトへと近づいていく。
ゆっくり。ゆっくり。また一歩。
そうして、薄く笑って耳元でそっと囁く。
「第二幕なんて許すと思った?」
「っ、ひ……っ!」
反射的にであろう、ラインハルトは身を仰け反らせた。
狂気の魔法は、自らの恐怖心によりあっけなく解けてしまった。表情を引きつらせ、どこかへ向かって走り出そうとしたラインハルトの前に、けいとジンザが立ち塞がる。
「おや。演目はこれで仕舞いか。実に性急で中身も無く、拍手に値しない演奏会だったね」
「全く、酷い演奏で。それに、指揮者が逃げてどうします。続けましょうよ、終りまで……」
「や、ヤメロ……!」
「やめろ? ふん、嫌だね」
けいが、遠心力に任せてハンマーを振るい。
「まあ、そう言わずに受け取ってください。拍手の代わりですよ」
ジンザが、ガンナイフをカチリと鳴らした。
遠くで聞こえる音楽に溶けていくように、悪魔の叫びが、消えていく……。
●
ボロボロと、まるで乾いた泥の塊のように、ラインハルトの体は崩れていった。
「これにて、終演です」
ジンザは細く息をついた。遠くの方で聞こえていた行進曲は、指揮者をなくした今、狂ったような音色を奏でている。
「まだ、撤退には早いわね」
縛霊手を持ち上げて言う銘子に、けいが頷いてみせる。
「ああ、急ごう。差し伸べれる限り、彼らの意志に応えてみせよう」
灼滅者達は、駆け出した。向かう先は、目前の小さな病院。
「……! あそこからだ!」
千歳が壊れた正面玄関のドアを指差した。狂ったオーケストラの侵入経路だろう。迷っている暇はない。灼滅者達は病院内部へと突入する。
入ってすぐの場所は、広い待合室になっていた。楽器を持った強化一般人達は、椅子やソファを踏み倒しながら、狂った演奏を続けている。
トランペットの、そこら中をかき回す不快な金属音。リズムの乱れたシンバルの出す轟音にフルートは湿っぽく泣き出して、酷い摩擦音を響かせていたヴァイオリンの弦は千切れ、あちらこちらに落ちている。
灼滅者達が戦闘態勢に入ったその時、廊下の奥から若い男性の声が響いた。
「いました! 先生、こっちです!!」
「ビンゴね! さあ、私達も行くわよ!」
続いて、落ち着いた雰囲気の女性の声。
「あっ、待って下さい! せんせ……きゃん!」
後を追うように、ちょっと抜けたような若い女性の声が聞こえた。
その彼らの声が、割れる音楽の中、だんだんと近づいてくる。
「失礼! あなた達よね、外にいたアイツを倒してくれたのは!」
待合室を右往左往する強化一般人達を払い除けながら、白衣の女性が灼滅者達に向かって叫んだ。
「ああ、オレぁ誠ってんだ! 助太刀すんぜ!」
「私達は灼滅者、貴方達を助けにきたの」
互いの背中を合わせて立ち回っていた誠と鶫が、大きく声を張って応える。
「あ、ありがとうございますっ! あの、でも、どうして……」
「それは、アタシ達がどこにでもいる正義のヒーローだからさ!」
待合室を駆け回って、少し不安そうな声を出した若い看護師の女性に、周は立てた親指をぐっと見せてウインクを飛ばした。
「何はともあれ、助かりました。貴方達のおかげで、僕らもやっと動くことができました。ありがとう」
研修医らしい、上下に分かれた白衣の若い男性が、身を翻した隙にぺこりと小さく頭を下げる。
「よーし、元気注入~。やられた分、やり返しましょ」
剣を掲げ、和は祝福の風を巻き起こした。
病院内にいる強化一般人の数は、数十人。とにかく今は、この状況をなんとかしなければ。武蔵坂学園の灼滅者達は、合流した殲術病院の灼滅者達と共に立ち回った。
勝機は完全にこちらに傾いている。おそらく、それほど時間も掛からないだろう。
●
揺れる木々の音だけが通り過ぎていく。空に、静けさが戻ってきた。
壊れてしまった病院の入り口の前で、誠が携帯電話を耳にあてがい、誰かと何かを話している。
「ああ、悔しがる必要ねぇ……お前のお陰でオレ達も病院の奴らも無事で敵をぶっ倒したぜ。ありがとな!」
そう、明るく言って、携帯電話を切った誠の側に、鶫がすっと近づいてくる。
「……やせ我慢」
そうして、ぼそっと呟いて、血の染みた上着の上をちょんと突いた。
「ってー!! おいっ、やめろバカ!!」
「馬鹿はどっちよ! こんな無茶して馬鹿じゃないの!?」
ぎゃーぎゃーと言い合う二人を見つけて、けいは、微笑ましそうにクスリと笑う。
「喧嘩するほど、何とやら……か」
言いながら、けいも学園に残してきた仲間達の事を想った。作戦成功の報告ができるというのはいい事だ。心配させたり、泣かせたりしなくても済む。
「……それにしても、ずいぶんと物騒なオーケストラだったねぇ」
病院を振り返って、千歳はその中を覗き込む。
中では、医師や看護師達が、怪我人の手当てや壊された設備の修理に追われていた。と、その中から、先ほどの女性医師と研修医の男性、それから看護師の女性が灼滅者達の姿を見つけ、慌てて駆けつけてきた。
「よかった、まだいたのね。改めて、お礼を言わせて貰うわ。今日は、本当にどうもありがとう」
「ううん、気にしないで。困った時はお互い様ってね」
深くお辞儀をする医師に、和は笑って首を横に振る。
「そういや、他所の組織の灼滅者とは初めて会うな……」
「そうですね、僕達も、貴方達の事を聞きたいところではあるのですが……」
興味深げに目を光らせた周に、研修医の男性は少し困ったように笑ってみせた。
無理もない。病院は無事だったとはいえ、被害もそれなりに出てしまっている。ここの殲術病院が元通りになるまでは、少し長い時間がかかるだろう。
「えと、何のお構いもできませんが、傷の応急処置くらいならできますので、少し、中で休んでいってください。お疲れですよね」
ぱっと、花が咲いたように笑った看護師の女性が、武蔵坂学園の灼滅者達を病院の中へと促した。
「ちょうどお誂え向きに、病院が有りましたね」
「……おう」
ジンザににこりと笑いかけられて、誠は少しバツが悪そうにもごもごと返事を返す。
なかなか苦戦を強いられた、殲術病院救出作戦ではあったが、こうして、一人も欠けることなく無事に終わった。
「よかった、本当に……」
そっと呟いて、銘子は鈴のお守りにきつく巻きつけていた布を解いた。
吹き込んできた風に、りん、と優しい音が鳴る。
今後、殲術病院と武蔵坂学園の関係が、どのような形になるのかはまだ分からない。今日のように、互いに協力できればいいのではないか。そんな事を願いつつ、灼滅者達は束の間の休息に、疲れた体を投げ出すのだった……。
作者:海あゆめ |
重傷:真月・誠(道産子くせっ毛ガキ大将・d04004) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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