殲術病院の危機~群蟲

    作者:来野

     欠け行く月が、湖畔に佇む白い建物を照らす。病院だ。
     ガラス窓に、赤黒い染みが叩き付けられた。ゴッという音が地を這い、ブラインドが燃え上がる。
     窓の内で規則的に響く無数の足音。廊下を修道女に似た黒衣の女たちが進む。しかし、頭を覆うのは頭巾ではない。全頭タイプのガスマスク。手には火炎放射器。まるで火を噴く軍隊蟻のよう。
     すぅっと群れを離れた一人だけが、黒いデザートストールで全身を覆っている。フードのせいで顔が窺えないが、女にしては胸が厚く歩幅が広い。
     サイレンが響き渡る。
    「全棟に告ぐ。敵軍侵入。各員、迎撃体制に入れ。繰り返す――」
     院内のスピーカーから響き渡る声は硬い。武装した医師や看護師が駆け回る。
     医局の一室では、白衣の男がインカムを耳に押し付けていた。
    「状況は?」
     看護師長が振り返る。
    「敵は、ハルファスの配下と判明しました。ただいま援軍要請をかけましたが」
     内線のスピーカーから、逆に援軍を求める声が聞こえる。
    「こちらへも要請が殺到しており、応答はありません。要請元は全国規模です」
     スピーカーの向こうで爆音が弾け、切迫した声が断末魔に変わった。ぷつりと通話が途切れる。
    「那須以降は、嵐の前の静けさだったというのか」
     男がデスクに拳を打ち付ける。
    「どうなさいますか、部長」
     師長の声に顔を上げた。
    「防護システムを作動させる。各員に通達」
     ディスプレイに浮かび上がった院内図の中、幾つものグリーンのラインが走る。要所に配された殲術隔壁。
    「これより籠城戦に入る!」
     
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が教壇に立った。
    「『病院』勢力が、複数のダークネス組織に狙われています」
     説明が始まる。
     彼らの拠点である殲術病院は全国に散らばっており、その防御力は高い。どこか一点が襲撃を受けた際は、籠城中に他の殲術病院から援軍を送り撃退するという戦法を得意としている。
    「ですが、今回はほとんどの病院が一斉襲撃を受けたため、援軍を出し合うことができずに孤立無援となっています。このままでは、勢力の壊滅は時間の問題でしょう」
     姫子は、訴えた。
    「どうか、病院の危機を救って下さい」
     穏やかさはいつもと変わらず、眼差しは真っ直ぐに。
    「襲撃元の組織は、まず、ソロモンの悪魔、ハルファスの軍勢。そして、白の王・セイメイの軍勢、淫魔・スキュラの軍勢です」
     指を一つ、二つ、三つと折って、また一つに戻す。
    「皆さんに相手取って頂きたいのは、ハルファスの軍勢です。そして、向かう病院は、こちら」
     スクリーンに病院の全景が浮かび上がった。
    「この殲術病院は要所に配された殲術隔壁を閉鎖して、籠城作戦に入りました。が、既に幾つかの隔壁は突破され白兵戦を繰り広げています。そう長くは持たないでしょう」
     姫子は、薄く眉根を寄せる。
    「敵はダークネス1体に眷属30体~50体と多数です。まともに戦っては勝ち目はありません。ですので、殲術病院との戦闘中に隙をつく形で、指揮官であるダークネスを撃破して下さい。そうすれば、病院所属の灼滅者の皆さんも籠城を解除し、眷属を倒すために出て来てくれるでしょう。協力して当たれば、残る眷族の撃破は可能と思われます」
     ですが、と続ける。
    「ダークネスを倒し損ねると、眷属の中に逃げ込まれて手出し不能となる恐れがあります。その際は、撤退を余儀なくされてしまうかもしれません」
     姫子は全景を院内見取り図に切り替えた。建物は真ん中を渡り廊下でつないだ『エ』の形となっている。
    「交戦はこの『エ』の、下部真ん中の交点(正面入り口)と右上端(通用口)で行われています。そして、ダークネスと接触可能なのは1階のここ」
     と縦に走る渡り廊下の中央地点を指差す。
    「ここで、前方(『エ』の中央上方)にある隔壁を破壊しようとしているはずです。廊下の左右は大きなガラス窓ですので、叩き割っての侵入が可能でしょう。他に2階渡り廊下へと侵入して床を破壊し、通風孔から1階に飛び降りることもできると思われます」
     物柔らかな表情で、ぶっ壊し侵入を推す姫子だった。
     ダークネスの能力は魔法使い相当の三種類と魔導書相当の三種類で計六種類。
    「勝機は一瞬。長引けば、多数の眷属たちから挟み撃ちとなるでしょう。この病院はまだもっていますが、陥落の報も幾つかあります」
     姫子は指先を組み合わせ、強く握り締めた。
    「危険を承知で、皆さんにお願いします。どうか、くれぐれも気をつけて」


    参加者
    ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)
    間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)
    羽守・藤乃(君影の守・d03430)
    三角・啓(蠍火・d03584)
    碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)
    焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)
    炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)
    百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)

    ■リプレイ

    ●烏合
     夜闇の中で、白い建物が燃えている。
     薬品に引火したのか。気色の悪い七色の炎が夜空を焼き焦がしていた。
     二棟をつなぐ渡り廊下の左側、低く伏せた炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)が頬に親指を当ててぐっと真横に引いた。闇に紛れるよう、泥で迷彩を施す。髪も暗色のタオルできっちりと覆っていた。
     手を伸ばし、すぐ脇に身を屈めている三角・啓(蠍火・d03584)の黒衣の背に触れる。口は動かさない。接触テレパスを用いる。
    (「正面口側の敵数20余、指揮官は廊下を前進中。単独行動」)
     それを、トランシーバーを持参した啓が抑えた声で繰り返す。どうぞ、の結句に、ジ、と短いノイズ。
    「了解」
     返ってきた声は、廊下を挟んだ反対側に潜む間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)のものだ。彼は、ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)、羽守・藤乃(君影の守・d03430)と共に突入の瞬間を待っている。全員、暗い色の衣服で遮光は完璧だ。
     爽太は斜め後ろを振り返り、付け足した。
    「通用口側の敵数ほぼ20。どうぞ」
     敵はほとんど減っていない。
     啓の傍らの焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)が、自分のトランシーバーにそれを告げる。ここが、灼滅者八名のハブ(HUB)の役割を担っていた。
    「了解」
     応じたのは、百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)の声。彼女は今、碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)の箒に同乗して、二階渡り廊下の窓のすぐ脇にいる。
     二人とも黒い布でカモフラージュをし、窓ガラスにガムテープを貼り付けたところだった。爾夜が、下界の音に耳を澄ます。
    「火が、火、あつ……あ、ぐぉ、ああっ!」
     ゴッという炎の咆哮と断末魔。建物の一部崩落。その瞬間を借りて、窓を割る。絶命の声に比べれば、ガラスの悲鳴はあっけない。
    「弱い者はよく群れるな……」
     ぼそりと呟き、クレセントを回した。
    「開いた」
     爾夜に頷き、煉火がトランシーバーに口を寄せる。
    「解錠成功」
    「了解。百舟先輩」
     聞こえてきた勇真の声に、煉火が耳を澄ます。
    「うん?」
    「通風孔の場所は、正面隔壁から二歩ほど後方らしい」
     廊下に降り立ち、伝えられた辺りの床に屈み込む。床材を剥がすと、その下から敷き詰め式のフリーアクセスフロアが現れた。二重床だ。
     一枚を持ち上げる。
    「あった」
     神経束か毛細血管のように収められたケーブルとダクトの合間、大きな金属格子が見える。
     二階の二人が、格子に手をかけた時だった。
    (「待て」)
     淼の指先が跳ねた。
     啓がそのままを口にすると、顔を見合わせた勇真も同時に繰り返す。反対側の窓辺では爽太が。
    「待った」
     頭を持ち上げて、ミレーヌが赤い瞳を瞠る。黒い簪を片手で押さえ、藤乃が唇を噛んだ。
     綿埃。
     魔の足が止まる。位置は、通風孔より半歩ほど後方。分厚い革表紙の書を開き、掲げた。
     そこに、ふわり、ふわり、羽毛のように落ちる埃ひとひら。
    「……」
     煉火がトランシーバーを握り締め、爾夜がその一部となったかのように格子の動きを止める。
     魔が目深なフードの横顔を俯け、唇を動かした。
     ふっ、と埃を吹き飛ばす。
    「オゥ、……ス……ラァ」
     神経質な一吹きの後は、すぐに忘れて詠唱を始めた。どこの国、いつの時代のものとも知れない音の羅列。指先が示しているのは正面の隔壁。
     煉火が、短く宣言する。
    「降下」
     爾夜が金属格子を跳ね除けた。

    ●亀裂
    「エィ、レリ、……?」
     魔の詠唱が、わずかに淀んだ。
     壁を見つめていた視界に赤縁眼鏡の少女が降って来た。背後には影のような黒マントが降り立ったのだが、虚をつかれ見返る余裕がない。
     左右の窓ガラスがけたたましく砕け、大量のカケラが津波となって吹き込んだ。
     煉火がレーヴァテインの炎を生み、爾夜が魔導書を開く。その時。
    「ラァ、ラアア、ロゥ!!」
     書の面を撫でて掴んだ魔の手から、炎の奔流がどっと迸った。
     後ろのない煉火が隔壁の一部であるかのように劫火に包まれ、自らの炎を放ちながら巨大な亀裂に叩きつけられる。身を捻って相打ちを避けようとした魔だが、背後から来た爾夜の一撃は避けられない。
    「喰らえ……」
    「なっ、に」
     ぐらりと姿勢を傾け、振り返る。その目の前にミレーヌが踊り込んだ。
    「刎ねろ、断頭男爵!」
     解除の声に応える解体ナイフ――は置いてきたが、得物を変えても急所は逃さない。腕の下をかいくぐり、首裏へと一閃を放った。踊るように両者が入れ替わる。
    「ぐ、っ」
     魔の足元に黒々とした血が飛び散った。一歩、壁の亀裂に向かい、止まる。
     爽太が行く手を阻んでいた。額のゴーグルを指先で目へと落とす。
    「燃え上がれ、俺の心っ!」
     両手に現れるのは、龍頭の斧、ドラゴンビート。重みに自分の体も乗せて、大きく振り抜く。身軽だ。
    「刻め、竜の鼓動!」
     ザ、という乾いた音が翻り、一度真っ黒に染まった爽太の世界が斜め二つに裂けた。斧刃に絡みつくデザートストールを、飛び退きざまに振り払う。血濡れてじっとりと重い。
     その向こうで横側に退く男は、真っ白に色の抜けた髪をどす黒い血に汚している。髪は白髪なのに、肌は褐色。革鎧のように硬化した異形を、肌と呼ぶのならば。
     爽太と挟み撃ちの位置に、もう一つ、別の人影が翻った。暗色に身を包んだ藤乃。
    「お出でなさい、鈴媛」
     大鎌の刃は清かな銀で、鈴振る花には毒がある。長柄を斜めに構え、すぃと爪先を出した。
    「ダークネスが他勢力と手まで組んで……何が狙いですの?」
    「知を求むか。好もしいが、命を頂くぞ」
     魔が、腕を広げて地獄へと誘う。藤乃は黒々とした影を遣わせた。
    「答えなくても、逃がしませんけれど、ね」
     避けようとしたダークネスは、かなわずに膝を落とす。その膝頭に伝わってくる、キィッ、というホイールの高回転。
     エイティエイトを駆る勇真が、廊下を真っ直ぐに横切る。龍砕斧の重みを斜めに落として、床に火花を引いた。
    (「ダークネスの勝手、灼滅者のピンチ、細かい事はわかんねーけど」)
     斧刃が大きく翻る。威嚇する掃射音。きついバンクに膝を締めた。
    「どっちもほっとくわけにはいかないからな」
     立ち上がりかけの魔が、左腕で龍骨斬りの一撃を受けた。書を握り締めた左手が、腕から断たれて真後ろへと吹っ飛んで行く。勇真の頬が血に濡れた。
    「……ガッ」
     魔が床に倒れ伏し、二転する。
     淼がサイキックソードを振り抜き、そして、ふ、と眉根を寄せる。啓が瞳だけを動かした。緑の輝きが睨んだのは、一点、交戦地帯だった入り口側。彼はずっとそこに注意を払っていた。
     全身血まみれ。虫の息に見えたダークネスが、床を這ったままで薄く笑った。
    「ようやく来たか」
     ザクッ、ザクッ。無機質な足音が近づいて来る。防毒マスクの女たちが火器を携え、足に縋る遺体を蹴り払いながら。
     魔が右手を伸ばし、投げ出された書を掴んだ。

    ●崖っぷち
    「ク、イェネ、ゼ、エルセ!」
     詠唱と共に男が、ゆらりと立ち上がる。右手で掴んだ書から古い手首が崩れ落ち、左腕に褐色の肉が生じ始めた。
     回復している。かつ、ダークネスの飴色の瞳の中で瞳孔が細長く切れ始めた。足元をふらつかせてはいるが、次の一撃は危ない。
     淼が隔壁側へと走る。なぜなら。
    「……っぅ」
     倒れ伏した煉火の頭上の亀裂からも、向こうの敵軍の靴音が聞こえていたからだ。
     啓が得物を入れ替え、弓に癒しの矢を番える。狙いは煉火。
     白髪魔が、一振りで書を開く。
    「ライィァ、ィァ、エリ……」
     詠唱が始まった。弓の弦が高く鳴る。
    「ランッ!」
     魔が、書の文字を辿った手を天へと突き上げた。天井が真っ赤に発光し、びしゃという異音と共に溶岩流のような炎が降って来る。
     矢を受けた煉火を押しやって淼が転がり込んだ。業火の苦痛を折半する。正面の敵軍が、火炎放射器を腰溜めにして駆け込んでくるのが見えていた。
     火ぶくれで覆われた腕を払い、淼が叫ぶ。
    「温いんじゃねぇか? 俺の血のが余っ程熱いな!」
     その声と刃から放つ輝きが、焼き手の足元を払った。
    「苦痛を愛すか。それでこそだ、灼滅者」
     ダークネスの縦割れの瞳に殺意が宿る
     その真正面に爽太が割って入った。無数の銃口がこちらを向いている。もう、一刻の猶予も無い。
     彼の拳が青い炎のオーラを纏う。ソロモンの男が書を開く。
     白髪の頭上で、何かが光った。輝ける十字。次の瞬間、魔の手から書が落ちる。
    「く……?!」
    「邪悪なる者は滅びよ」
     間近な銃口に背を晒したまま、爾夜が放ったセイクリッドクロスだった。彼の元へと光輪を纏った勇真が駆ける。
    「やってくれる」
     取り落とした書を拾おうと男が身を屈める。背に落ちてきたのは、ミレーヌのロッド。ぶんっ、と風切る音が響いた。
    「あなた達ダークネスが侮っている灼滅者の力、見せてあげるわ」
     どぅっという爆音が上がる。彼女のすぐ脇で、隔壁に真っ赤なラインが刻まれ始めた。大きな亀裂から紅蓮の炎が吹き込んでくる。
    「……?!」
     向こう側から焼き落とされようとしている。魔に寄った者たちには逃げ場が無い。
    「燃え、上がれ、俺の」
    「……オ、スティア、シンッ」
     ふらつきながら立ち上がる男の腹に、爽太の全身がめり込んだ。
    「俺の――心ぉっっ!!」
     拳が炸裂し、青炎のオーラがちぎれ、飛び散り、舞う。
    「ラ、ッ、……ガッ、ァァア!!」
     分厚い書から紙片が弾け、最期に放った氷の渦が輝く拳と背のロッドを真っ白に凍り付かせた。
     ビキッという音を立てて爽太の拳に亀裂が入る。ミレーヌの手にはロッドが張り付き、血の飛沫を飛ばす。
     背からの火炎放射に巻かれた爾夜を光で包み、彼を掴んだ勇真がキャリバーごと凍ったリノリウムの上をスライドする。
     そこへゆっくりと傾き落ちてきた隔壁が、ガンッという音を立てて斜めに傾ぎ止った。
    「……」
     肉の焼ける臭気が漂う。淼が拳を固めた片腕で、煉火が背で焼けた隔壁を押さえている。二人ともそのまま動かない。
     カチリ。
     氷が床に落ち、水に変わる。それら全てを縫う微かな癒しの旋律は、啓の指先が爪弾いていた。凍り付き血を噴く指が、まるでなんでもないかのように。
     彼を支えていた藤乃の全身から淡い輝きが薄れ、滑り落ちそうな簪の黒に吸い込まれて消える。
     静けさ。
     どろりと溶け落ちたソロモンの魔の器は琥珀色の水溜りと化し、樹脂を焼いたかのような薄甘い匂いだけを残している。
    「ヒ……ッ」
     ガスマスクの女が悲鳴を上げた。
    「ヒァァァァッ」
     絶叫が一斉に沸き起こる。ボイスエミッターを通した声はバンシーの嘆きにも似ていた。
     銃口が、灼滅者たちを囲む。
     
    ●護るもの護られるもの
    「三角……せんぱ……い……」
     ライドキャリバーを撃ち抜かれた勇真が、啓の許へ爾夜を運ぶ。何とか起き上がった藤乃がそれを手助けしてくれたが、他は動けない。
     淼と煉火と爾夜がひどい熱傷、爽太とミレーヌとがひどい凍傷。
     啓が、血まみれの指を握り締めた。痛みがない。ペインキラーで切ってある。そうしていることすら顔には出さずに秘めて、次の旋律を用意する。
     傷の深い仲間たちを背に庇い、藤乃が顔を上げた。
    「ソロモンの指揮官は灼滅しました」
     澄んだ声が、きな臭い空気を震わせる。
     全てが死んでいるかのような無言。そして。
     チ、という電子音が響き、院内随所から隔壁の上がる音が響き渡った。
     灼滅者たちを包囲していたガスマスクの女たちが、弾かれたように周囲を見回す。
     院内のスピーカーがひどいノイズを吐き出し、そして、告げた。
    「援軍に感謝と敬意を。これより籠城を解除する」
     足音が聞こえる。
    「各員配備を変え、援軍の指示に従え」
     割れたガラスの間から黒い術衣に身を包んだ男たちが駆け込んできた。彼らが盾を構えて灼滅者たちの壁を務め、後に続いた黒いナース服数名が、負傷者の搬出に手を貸し始める。
     病院側の灼滅者たちだ。
     藤乃が鈴媛の刃を構え、勇真が全身にオーラを纏う。手の血汚れを裾で拭い、啓がバイオレンスギターを構え直した。
     カモフラージュのための黒い装いが、今この場ではまるで揃いの院内着のようにも見える。
     彼らの目は未だ見開かれ、この惨劇の全てを見据える。
    「灼滅を――!」
     火炎と黒煙の渦の中、その声が真っ直ぐに響き渡った。

     湖畔の殲術病院が静まり返ったのは、もう深夜も大きく回った刻だった。
     傷は深く、病院スタッフの多くが欠けるも、瀬戸際で迎撃成功。
     生き残った者たちは、傷の大小を問わず、救済者八名の全てへと深く頭を垂れた。
     月が洗われた爪のように白い夜だった。
     

    作者:来野 重傷:ミレーヌ・ルリエーブル(リフレインデイズ・d00464) 間乃中・爽太(バーニングハート・d02221) 碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041) 炎導・淼(ー・d04945) 百舟・煉火(イミテーションパレット・d08468) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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