●
「なんてこと……援軍を求めようにも、近隣の病院、いえ、日本中の病院が襲撃されています!」
看護婦の言葉に、殲術兵器を持った医師らは驚きを隠せなかった。
突然、ハルファス軍の襲撃を受けているのは、当病院だけではなかったのだ。
「那須殲術病院襲撃から何も動きがないと思っていれば……」
「悔やんでも仕方がない。籠城しても今は、この状況を悪化させないことが先決だ。敵は!」
「40体は、いると思われる強化一般人と、それを統べる悪魔1体! 共に正面玄関側から向かってきています!!」
「……っ!」
窓の端から外を覗き見た医師が、煤けたマントをはおった群衆を目にして苦々しい声を漏らした。
顔の半分をマントで隠す強化一般人の後ろで指揮をする4本の角を生やした悪魔を倒せば勝ち目もあるが、後手に回っている以上それは難しい。
「しかし、簡単に落ちはせん!」
殲術兵器を手にする医師や看護婦、そして入院患者は、力強くうなずいた。
●
「みんな、大変だよ! 複数のダークネス組織が武蔵坂学園とは別の灼滅者組織である『病院』の襲撃をもくろんでいるみたいなの!」
呼吸をする間もなく、一気に語る須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)の話に灼滅者たちは息をのんだ。
相手は、ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢、白の王・セイメイの軍勢、淫魔・スキュラの軍勢。
どちらも、武蔵坂学園にとって因縁のある相手だ。
「『病院』は、全国に殲術病院という拠点を持っていて、どこかの殲術病院が襲撃されても、籠城している間にほかの病院から援軍を送って撃退するっていう戦いを得意としていたみたい。だから、防御力が高いんだけど……今回は、さすがにダークネス三勢力が相手だから、互いに援軍を出すことができないで孤立無援になってるんだよ。
ほとんどの『病院』が一斉に襲撃されたんじゃ手の打ちようがないよ。
だから、みんなにはこの『病院』の危機を救ってほしいの」
まりんがいうには、救援に向かう殲術病院は、殲術隔壁を閉鎖して籠城しているらしい。
しかし、すでに、いくつかの隔壁が破損して白兵戦になっている個所もあるため、長く持たないだろう。
「攻めてくる敵は、4本の角を生やした悪魔1人と46人の強化一般人。強化一般人は、みんな顔を半分隠す煤けたマントをはおっているから分かりやすいと思うんだ。でも、悪魔と強化一般人。まともに戦って勝てる相手じゃないってことは、みんなもわかるよね。
だから、まずは指揮官である悪魔を撃破してほしいんだ」
指揮官のダークネスさえ倒してしまえば、病院の灼滅者たちも籠城をやめて強化一般人を倒すために外へ出てくる。そうなれば、病院の灼滅者たちと協力して強化一般人を撃破できる。
「でも、もし撃破に失敗した悪魔が強化一般人の中へ逃げ込んだら手出しが難しくなるから、撤退もやむを得ないということだけは覚えておいてね」
殲術病院へたどり着いたとき、病院は正面玄関付近で戦闘を行っているだろう。
強化一般人は、最前列で戦い、悪魔は戦況がわかりやすいよう、少し遠ざかった後ろで指揮をしている。
「すでに、陥落している殲術病院もあるんだよ。
ダークネスの勢力と戦うなんて、とても危険だけど……でも、これ以上『病院』が落ちないように、みんな、お願いね!」
参加者 | |
---|---|
樹・咲桜(蒼風を舞う子猫・d02110) |
リーンハルト・リーチェル(魔砲使いの弟子・d07672) |
高峰・緋月(全力で突撃娘・d09865) |
鴇・千慶(ガラスの瞳に映る炎と海・d15001) |
熊谷・翔也(寂しがり屋のウサミミ執事・d16435) |
万時・鴉助(その日ガラス・d16553) |
星見・紗生(星を見る人・d16863) |
マー・リン(世界の最強迷子・d22103) |
●1
激戦の音が鳴り響く病院には、多勢の強化一般人たちが押し寄せていた。
陰に身をひそめる灼滅者たちは、強化一般人たちが建物を根元から蝕むように群がる光景を目の当たりにして息をのむ。
今にも飛び出して加勢したいが、強化一般人の後ろには指揮をする4本の角を生やしたソロモンの悪魔がいるため、うかつな行動には出られない。
息をひそめている灼滅者たちは、互いに目を合わせると、作戦を決行した。
奇襲に気づかれないようにウサギや猫の姿に変えた鴇・千慶(ガラスの瞳に映る炎と海・d15001)と星見・紗生(星を見る人・d16863)、熊谷・翔也(寂しがり屋のウサミミ執事・d16435) 、マー・リン(世界の最強迷子・d22103)は、ソロモンの悪魔の元へ向かう。
ぬきあし、さしあし、しのびあし、と背後からそっと向かうのは赤茶色の猫となった紗生。
もう一匹の猫である千慶は、死角をついて進んでいる。
ウサギとなった翔也は仲間の動きに合わせ移動し、同じくウサギのマーは気づかれないように隠れる草陰を選びながら近づく。
その後ろから、万時・鴉助(その日ガラス・d16553)と病院を含む戦場一帯の音を外部に漏らさないサウンドシャッターを使用した高峰・緋月(全力で突撃娘・d09865)が続く。
ばれないように慎重に進んでいるが、動物になった仲間とは違い、人間の姿をしている緋月と鴉助がソロモンの悪魔に気づかれる可能性は高い。
待機組として、陰に身をひそめている樹・咲桜(蒼風を舞う子猫・d02110)は、緊張のあまり息をすることも忘れて紗生から借りた望遠鏡で様子を見守る。
リーンハルト・リーチェル(魔砲使いの弟子・d07672)も、後ろを取る仲間たちに危険が及ばないよう、移動しない自分たちも音ひとつ出さないよう細心の注意を払っている。
そして、ウサギや猫たちがソロモンの悪魔との距離を数メートルにまで縮めた。
その時だ。
ソロモンの悪魔が、気配を察知したのか後ろを振り向いた。
思わず、体をびくつかせたウサギと猫だが、ソロモンの悪魔は動物たちを一瞥しただけだ。
しかし、人の姿をしている緋月と鴉助に対しては別だ。
「――貴様らっ!!!!!!」
「危ない!!」
目を剥いて激昂するソロモンの悪魔を前にした灼滅者たちは、標的となった2人の仲間の危機をすぐに察した。
動物になっていた者は変身を解き、身をひそめていた者は間髪入れずに飛び出してくる。
だが、ソロモンの悪魔の動きは早かった。
「死ね!!」
ソロモンの悪魔が大鎌を振り払い、迎撃へと構えた鴉助と緋月に武器封じを与える波動を薙ぎつけた。
●2
「緋月お姉ちゃん!」
「鴉助! ――このっ!!」
「なっ?! いつの間に、こんなに数が増えた!!」
傷ついた緋月と鴉助を前にして優勢だと思っていたソロモンの悪魔は狼狽した。
2人だと思っていた相手は8人。しかも、至近距離から突然、姿を見せた灼滅者たちの攻撃を避ける余裕はない。
一気に押し寄せた集中攻撃に、ソロモンの悪魔は奥歯をかみしめて耐える。
その間に、リーンハルトは傷の治癒を施した。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう、リーンハルトさん。ちょっと、びっくりしたけれど、大丈夫! ここで、倒れるわけにはいかないからね。デモノイドにされた人に……誓ったから……。悲しみを生み出す連鎖を断ち切るって!」
緋月は、キッ、と、ソロモンの悪魔へ眼光を鋭くすると、両手に収まる柄を握り込んだ。
片手には愛剣のチェーンソー剣。もう片手には、新入りのクルセイドソード、noblesse oblige。
この剣がある限り頑張れる。
「人を玩具にして、人を滅ぼす存在は断ち切る!」
「こざかしい!」
「絶対に。絶対に灼滅するよ。――デモノイド・メルティング・ウェポン・セイバー!」
緋月のチェーンソー斬りに続いて、紗生がDMWセイバーでソロモンの悪魔を切り裂いた。
無表情な目の奥に思い出す過去。病院と悪魔。デモノイドヒューマンになった自分。
後悔はしていないが、なんだか悪魔は許せない。
ソロモンの悪魔の大鎌が、紗生の体にアンチヒールを与えたが恐怖はない。
再び、ソロモンの大鎌が振り下ろされたとき、千慶が紗生をかばった。
マーがビハインドへ叫ぶ。
「トール卿、霊撃だ! 皆を守ってくれ」
マーは狙いを定めてガトリング連射を打ち込み、ソロモンの悪魔に大ダメージを与えた。
仲間が与えているバッドスターテスが効いているのだ。
「病院を陥落させてたまるものか! お前を倒す!」
「包囲だ!」
ソロモンの悪魔の表情が陰ってくる。
ソロモンの悪魔を囲んでいる前衛は5人。その内、4人がクラッシャーという攻撃力を見せつけられれば、焦りの色も出てくる。
ソロモンの悪魔は、なんとか病院を襲撃している強化一般人の中へ逃げ込もうとするが、灼滅者から逃げることは難しい。
咲桜や鴉助からも与えられたバッドスターテスによって、思うように動けなくなったソロモンの悪魔は、救援を呼ぶ。
「病院は後回しだ! 数人援護へ来い!」
「そう来ると思っていた」
「何?」
「悪いとは思うが、そちらのたくらみを潰させてもらおう」
病院へ背を向けるように立ちはだかった翔也に、ソロモンの悪魔は片眉をあげた。
だが、すぐに、
「……そういうことか。お前たちには、全て計算のうちというわけだな」
鴉助や紗生、千慶が、強化一般人とソロモンの悪魔を隔てる壁となっていた。
「フハハハ! ならば、期待に応えよう! 10人……いや、20人こっちへ来い! こいつらを血祭りにあげてやる!!!!!!」
●3
血祭りという言葉通りに、ソロモンの悪魔は灼滅者を倒しにかかった。
まずは、強化一般人と挟み撃ちにできる、壁――いや、強固な盾となっている灼滅者だ。
しかし、病院を守ろうという意志の固い灼滅者たちは一歩も引かない。
「援護や背中に護りは、まかせろ。私には遠距離しか戦う術がないが、皆を弓として矢を放つことには自信がある。強化一般人を氷漬けにしてやる」
すっ、と、短く息を吸い込んだマーは、向かってきた強化一般人全員の体温を奪った。
数の多い強化一般人だが、全てが同じ列。攻撃の手はある。
「悪魔への集中攻撃を邪魔させないからね」
宿敵である悪魔に静かな怒りを秘めるリーンハルトも向けるフリージングデス。
前衛がソロモンの悪魔を戦えるように、強化一般人の相手をする必要はないといわんばかりな後衛の攻撃に、千慶は笑みをうかべる。
迫り来た強化一般人の波から何度も仲間をかばう身が奮い立つ。
「ここからが正念場だね。陥落したところもあるんだ。病院の皆を死なせないために、何としてでも悪魔は倒す!」
「もたもたするな! こいつらを踏みつけてでも来い!」
「誰が踏みつけられるんだよ! SHOOT!!」
至近距離から銃口の先に狙いを定めた咲桜が引き金をひけば、まばゆい光線がソロモンの悪魔を駆け抜ける。
そこに、緋月の神霊剣が一閃を描けば、クラッシャーとしてひたすら攻撃を続ける紗生のデスサイズが振り落とされる。
強化一般人を間近にしながらも得ることができないソロモンの悪魔は、分の悪さに苛立ちを隠せなかった。
少なからずダメージを負っていく強化一般人から回復を得られても、戦況は変わらない。
「この役立たずどもらめ! 私が道を開けてやる! ――ぐわあぁぁ!!」
「ここを突破できると思ったか?」
「往生際が悪いね!」
翔也が展開した除霊結界に苦痛の声を漏らしたソロモンの悪魔へ、鴉助が妖冷弾をお見舞いする。
ソロモンの悪魔の口から大量の血が吐き出た。
「この私が……こいつらごときにっ――!!」
ソロモンの悪魔の大鎌が前衛陣を襲った。
しかし、前衛陣にかかったアンチヒールは、リーンハルトのリバイブメロディですぐに効果が消える。
「怪我は気にしないで。皆が最後まで戦えるように僕が支えるよ」
「逃がすわけにはいかない。ここで終わりにしてやる。観念しろ」
ジャマーである翔也がいくつものエフェクトを与えれば、その姿を頼もしく思ったマーと咲桜が強化一般人を攻撃する。
「さっきから、邪魔だよ!」
ソロモンの悪魔から強化一般人へ矛先を変えた左手で振り払うなり発動するフリージングデスが、前衛の後ろを狙う彼らに襲い掛かる。
なぜなら、盾となっている灼滅者たちの回復力は極端に落ちていたからだ。
ソロモンの悪魔と強化一般人によって蓄積されるダメージ。
そのことを間近に感じる千慶は、強化一般人の攻撃を受けながら、自身や前衛の仲間を集気法で癒していた。
灼滅者たちが立っていられる時間は少ない。
それと同じく、ソロモンの悪魔も――。
紗生と緋月の攻撃で足をふらつかせたソロモンの悪魔は、強化一般人の中へ逃げようと強行に出た。
だが、その背後を鴉助がDESアシッドでとらえた。
腐食する背中。
同時に、苦痛の声がソロモンの悪魔からほとばしる。
「おのれ……おのれえぇぇぇぇ!!!!!!」
それが、ソロモンの悪魔の断末魔の叫びとなった。
●4
ソロモンの悪魔が消えたことを知った病院側は、強化一般人へ総攻撃をしかけてきた。
ソロモンの悪魔が戦いのために分裂させられた強化一般人たちの総戦力は落ちている。数が減っているのだ。
ソロモンの悪魔側にいた強化一般人たちは、灼滅者たちの手で倒され、脅威とならない。
すぐに、灼滅者たちも応援に駆けつけた。
「悪魔を撃退したぞ」
マーの報告を封切に、
「救援に来ました!」
「皆さん、大丈夫ですか?」
2つの刃で派手に暴れて次々と強化一般人を緋月の横で、咲桜が助けに来ました、と、フリージングデスをふりまく。
「君たちは――」
「説明は後にして、残ったザコをお掃除しようか」
鴉助が笑むと、一気に攻めていく灼滅者。
千慶が狙われた看護婦を守れば、病院側は灼滅者たちを味方だと認識する。
「俺たちをも行くぞ!」
「後れを取るな!!」
激しい戦いの音。
その音を耳に、紗生は病院の人たちが生きていることを実感する。
もう、誰も死なない。負けない。
リーンハルトが灼滅者も病院の者も癒す音を奏でる中、翔也は除霊結界を構築する。
「一人も残すな!」
医者が叫んだ言葉は、すぐに訪れる未来を語っていた。
作者:望月あさと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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