殲術病院の危機~いい病院を紹介しましょう

    作者:かなぶん

     北海道の海沿いに佇む病院。
     いつもは物静かなその場所では、現在、銃声や斬撃音、恥ずかしげな嬌声が響いていた。
     真夜中の院内に耳障りな警報が鳴り響く。
     看護服を着た女性が、白衣の女性に肩を貸しながら、白い廊下を逃げる。
    「防護隔壁を閉鎖しました。これでしばらくは持ちこたえられるはずです」
    「籠城戦か。援軍は……期待できそうにないな」
    「はい……。日本中の病院が襲撃されているみたいです……」
    「くっ、全員あきらめるな、なんとか耐えるんだ! 淫魔風情が、この病院をあんな奴らに渡してたまるか!」
     肌蹴た白衣を直しながら、女性は苦々しく呟いた。
     一方外では、病院をぐるりと囲むように、無数のピンクハートちゃんが群がっていた。
     最前線で防衛を行う医師や看護師達が、恥ずかしさを抑えて桃色の触手と戦い続ける。
     その時、女の声が響いた。
    「さすが、スキュラ様の勢力から頂いたピンクハートちゃんは素晴らしいですの」
     ピンクハートちゃんの群れの中を滑り、彼女――淫魔は病院を見上げた。
     見た目は20代女性。下半身は蛇化しており、彼女の魅力を増大させている。
    「ここを制圧すればスキュラ様の配下に加えてもらえますの。そうなればきっと、スキュラ様にわたくしの名前を覚えてもらえますの。そしたらそしたら、うふふ……ぐへへへ」
     すでに勝ったつもりで自分の妄想にふける淫魔。
    「わたくしの名はキヨヒメ、スキュラ様配下(になる予定)の淫魔ですの! さあ、ピンクハートちゃん! この病院をえっちに制圧しちゃって下さいですの!」
     
    「白衣の天使が大ピンチだ!」
     真剣なまなざしで神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が告げた。
     真面目なところ申し訳ないが、そのフレーズに何か残念なものを感じる。
     武蔵坂学園とは別の灼滅者組織である『病院』。
     その『病院』に対して、複数のダークネス組織が襲撃を目論んでいるらしい。
     一つは、ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢。
     もう一つは、白の王・セイメイの軍勢。
    「そして、淫魔・スキュラの軍勢」
    「どれも武蔵坂と因縁のある相手ですね」
     我々としても無関係ではない、と灼滅者の一人が呟いた。
     病院勢力は、殲術病院という拠点を全国に持っている。
     その防御力は高く、どこかの殲術病院が襲撃されても、籠城している間に他の病院から援軍を送って撃退する、という戦いを得意としていたらしい。
    「だが、今回はその戦法が封じられてしまった」
     ダークネス三勢力により、ほとんどの病院が一斉に襲撃された。その為、互いに援軍を出す事ができずに孤立無援となっているというのだ。
     このままでは、病院勢力が壊滅してしまうだろう。
    「同じ灼滅者として、病院の危機を、白衣の天使達を救ってくれ」
     
    「お前達に救援に向かってもらいたいのは、北海道の海沿いにある殲術病院だ」
     そう言ってヤマトは地図に印をつける。
     この殲術病院は、殲術隔壁を閉鎖して籠城しているが、既に正面入り口の隔壁が破損して白兵戦になっており、長くは持たないだろう。
    「攻めてきている敵は、淫魔1体と50体のピンクハートちゃん。まともに戦えば、お前達だけで勝てる相手では無いな」
     「だが策はある」とヤマトは目を光らせた。
    「殲術病院との戦闘中の隙を狙って、まずは指揮官である淫魔「キヨヒメ」に奇襲をかける!」
     指揮官の彼女さえ倒してしまえば、病院の灼滅者達も籠城をやめて眷属を倒すために外に出てくるだろう。
    「あとはお互い協力してピンクハートちゃん達を一網打尽。どうだ、燃えるだろう?」
     掌に拳を打ち付け、ヤマトはにやりと笑いかける。
     だが、淫魔を倒すのに失敗し、眷属に助けを呼ばれると手出しが難しくなる。
    「そうなりゃ撤退もやむをえないかもしれない。心してかかってくれ」
     次にヤマトは、君達が現場に到着した時点での戦況を説明する。
     主に戦闘が行われている場所は、病院入り口に展開された殲術隔壁前。
     隔壁は破損しており、ピンクハートちゃん達が流れ込むのを、なんとか水際で食い止めているという状況だ。
     一方、キヨヒメは、病院の外で一人妄想にふけっている。
    「やる気あるのか、そいつ?」
    「よっぽどスキュラの配下になれるのが嬉しいんだろ。その事で頭がいっぱいみたいだ」
     とはいえ、相手はダークネス。奇襲を成功させるためには、最初から全力を叩きこむ必要があるだろう。
    「救援が間に合わず、すでに陥落した病院もあるらしい。だが、今ならまだここを救うことはできる。頼む、駆けつけてやれるのはお前たちだけなんだ」


    参加者
    黒瀬・夏樹(錆色逃避の影紡ぎ・d00334)
    九条・風(紅風・d00691)
    水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750)
    水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)
    ストレリチア・ミセリコルデ(銀華麗狼・d04238)
    桃地・羅生丸(暴獣・d05045)
    花京院・雅(宵闇の道化師・d08941)
    柴・観月(サイレントノイズ・d12748)

    ■リプレイ

    ●奇襲
     ピンクハートちゃんに囲まれた病院を眺め、淫魔は頬を紅潮させた。
    「うふふ、病院の制圧は時間の問題。わたくしがスキュラ様の配下になるのも時間の問題ですの……ぐへへへ」
     そうして再びキヨヒメは妄想にふける。
     突然その頭上に複数の影が落ちた。
    「っ!?」
     刃の嵐が無数の斬撃を降らせる。
     同時、振り下ろされた二つの巨腕が叩き付けられた。
     広がる衝撃。
     巻き上がる土煙の中から傷ついたキヨヒメが姿を現す。
    「な、なんですの!?」
     初撃の直後、混乱するキヨヒメと病院の間に柴・観月(サイレントノイズ・d12748)とストレリチア・ミセリコルデ(銀華麗狼・d04238)が滑り込み、戦場内の音が遮られる。
     隙を作らず、花京院・雅(宵闇の道化師・d08941)がキヨヒメに詰め寄った。
     ビハインドの霊撃と同時にマテリアルロッドで魔力を叩き込む。
     状況を確認しようと距離を取る淫魔の足元に、機銃の銃弾が跳ね、キヨヒメは足を止めた。
    「どうした、スキュラ様の配下に加わるんじゃねェのか」
     振り向いたキヨヒメの横っ面を九条・風(紅風・d00691)が盾で殴りつけた。
    「俺ら程度の灼滅者、一人で潰せないようじゃ取り立ててもらっても失墜すんのも早いだろうよ。何せ、スキュラの配下になりてェ淫魔なんざ、星の数ほども居るんだろうしな」
     挑発を混ぜた風の一撃が淫魔の怒りを買う。
     自分が奇襲を受けたことを理解し、キヨヒメは体勢を立て直そうと、
    「させないよ」
     黒瀬・夏樹(錆色逃避の影紡ぎ・d00334)の鞭剣が伸びる。
     淫魔は艶めかしく尾をくねらせて回避する。
     しかしそれすらも予測して、影の精密な狙いがキヨヒメの尾を撃ち抜いた。
    「あなた方、何者ですの!?」
     狼狽する彼女に、ナース服を纏った水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)が仁王立ちで対峙する。
    「白衣の天使、推参! なんてな?」
    「病院勢力の援軍? いえ、有り得ませんの。ということは……無関係の灼滅者? こんな話聞いてませんの。理解できませんの、なぜ無関係の灼滅者が?」
     訝るキヨヒメに水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750)は、クールに答えた。
    「出来る事があるのに見過ごすなんて出来ないもの」
     桃地・羅生丸(暴獣・d05045)は豪快に笑む。
    「白衣の天使がピンチと聞いちゃあ、助けに来ないわけにはいかねぇだろ?」
     やましい気持ちとか無い。あくまで灼滅者としての使命感である。
     周囲を見回す淫魔。
     ピンクハートちゃんは出払ってしまっている。
     病院への道も塞がれた。
    「仕方ありませんの。あなた達如き、わたくし一人で倒してさしあげますの」

    ●蛇女
     キヨヒメが腕をかざす。
     すると彼女の影が伸び上がり、弥咲の腹を貫いた。
     しかし弥咲は怯まず、口元の血を拭う。
    「切り刻んでやろう!」
     弥咲の剣がキヨヒメを絡め取った。
     絡め取られた淫魔を羅生丸が雷を纏う拳で殴る。
     雅の歌声が共鳴し、弥咲の痛みを和らげ、立ち代るようにして雅のビハインドが敵に霊障波を打ち込んだ。
     灼滅者は攻撃の手を休めない。
     迸る魔力で鏡花の妖槍が青白い電光を帯びる。
    「撃ち抜け、蒼雷っ! ――Blitz Urteils!」
     閃光が奔り、槍を媒体に高純度の魔力が放たれた。
     魔弾の陰から夏樹のウロボロスブレイドが自在に宙を這う。
    「しつこいですの!」
     身を翻すキヨヒメを魔弾が執拗に追撃する。
     淫魔は蛇化した尾を滑らせてそれらをかわそうとするが、夏樹はそれすら上回って狙いを澄ます。
     咄嗟に身を庇う淫魔の背後と、蛇腹剣をかたどった影業の軌道が重なった。
     刃が蛇の尾を切り裂き、雷が体を焦がす。
    「チィッ!」
     キヨヒメの影が鏡花を縛ろうと、幾本もの触手に形を変える。
     バシッ!
     影の触手を風のシールドが弾き返した。
     障壁が灼滅者達の眼前に展開され、淫魔は舌打ちする。
     エンジンをふかし、車輪が地面を巻き上げ、キャリバーが走る。
     足を鈍らせたキヨヒメは避けきれず、キャリバーの突撃を受けた。
     直後、雅と観月がキャリバーの陰からロッドを振り上げる。
     雅のロッドをいなした淫魔に、続けざま観月が無表情のまま攻め立てる。
     心なしか、いつもより苛烈に。
    「オルァ!」
    「ひっ!」
     羅生丸の鋼鉄の拳をギリギリでかわすキヨヒメ。彼女に隙を与えず、ストレリチアがその鼻先に滑り込んだ。
     零距離から蹴りを抉り込む。
     間近からの攻撃にキヨヒメは後ずさり、思わず距離をとる。
    「わたくしが押されてる!?」

    ●追撃
    「こ、このままではいけませんの! ピンクハートちゃん、ピンクハートちゃんを!」
     助けを呼ぼうと淫魔は病院を目指す。
     その背中に高らかに声が響いた。
    「スキュラ様の配下とやらが、そんなに慌ててどうした? 一人では私も倒せないのか!?」
     地面を滑るキヨヒメの動きが止まる。
    「灼滅者相手に眷属の力を借りないと戦えないなんて、スキュラが聞いたらどう思うでしょうね?」
     カチン。
    「ま、妄想淫魔なんてこんなものよね」
     ピクピク。
    「あらあら、アタシ達の相手も一人でマトモに出来ないのー? ちょっとそれは情けないんじゃない?」
    「ムッッッキィィィィィ! 聞き捨てなりませんのおォォォォ!」
     目を吊り上げてキヨヒメが灼滅者を振り返る。
     淫魔の反応に灼滅者達は密かに口元を吊り上げた。
     ちょろい。
    「あなた達如き、わたくし一人で十分ですの!」
     淫魔が叫んだ直後、羅生丸の足元の影が口を開け、彼を飲み込んだ。
     しかし羅生丸は魂を燃やし、踏みとどまる。
    「白衣の天使が俺の助けを待ってるんだからな! その為だったらこの程度の傷なんざ痛くも痒くもねえんだぜ!」
     忌々しげに毒づく淫魔。
     観月が告げた。
    「君一人で灼滅者八人を倒したと知ったら、スキュラ様とやらも君の名前をより覚えてくれるんじゃないかな」
    「ハッ! スキュラ様が、わたくしの名前を……ぐへへへ」
    「私と似たような口調なのに、「ぐへへへ」なんて……はしたないですわ」
     妄想に沈むキヨヒメにストレリチアが言った。
    「どなたかに認められたいみたいですけど、貴女にそんな魅力はありますの? 自分の魅力だけで私達くらい、えっちに制圧できちゃわないとダメなのでは?」
    「言われなくたって……って、ひっ!?」
     挑発に乗ったキヨヒメに、空中を這う夏樹の刃が迫る。
     足止めを受けたキヨヒメをさらに追い詰める雅と観月。
     逃げる暇など与えはしない。
     ギリギリで神霊剣をかわしても、百裂拳がさらに攻める。キヨヒメは這うように(というか実際這いながら)逃げる。
    「ひっ! や、ヤバいですの! やっぱり助けを……っ!」
    「どうした、怖いのかァ? ハッハァ! ケツの青い餓鬼共相手に尻尾巻いて逃げるってのか淫魔ァ! だが逃がさねェよ」
     病院に向かって叫ぼうとした淫魔に風が迫る。
     彼女が声を発するよりも早く、シールドバッシュで黙らせた。
    「ぐっ、わたくしの顔を!」
     怒りに囚われた彼女を、弥咲のウロボロスブレイドが縛った。
    「淫魔を縛り上げるとか、なかなかに楽しいものだなぁ?」
    「貫け、氷楔っ――Keil Eises!」
     鏡花が淫魔を指差すと同時、無数の氷柱がその身に突き刺さる。
     冷気の塊は、着弾と共に拘束された淫魔を凍てつかせる。
    「そんな、わたくしは、スキュラ様の配下(になる予定)ですのに!」
    「愛しの天使ちゃんに手を出したのが運のツキだったみてえだな。悪いが邪魔者はこの辺でオサラバしてもらうぜ!」
     斬艦刀を豪快に振り上げ、羅生丸は渾身の力で振り下ろす。
    「スキュラさま~!」
     斬撃が地を走り、キヨヒメを吹き飛ばす。
     淫魔は水泡となって消滅した。
    「……ばいばい。よいゆめを」
     呟き、観月は病院を振り返る。
     指揮官は潰したが、戦いはまだ終っていない。
    「俺達がこうしてる間にも、病院の中では白衣の天使がピンクハートちゃんにえっちな攻撃を……」
     羅生丸の脳内ではあんな事やそんな事が。
    「今行くぜ、白衣の天使ちゃん!」
     指揮を倒した灼滅者達が病院へと急ぐ中、観月が歌声で仲間を癒す。
    「さて、天使達を迎えにいこうか。出来る限り急いで、さ」

    ●挟撃
     籠城を続ける病院勢力。
     彼等は崩壊した殲術隔壁の前で、水際の攻防を繰り広げていた。
     絡まる触手が服の隙間に入り込み、いやらしい情動を注ぎ込まれる。
     まとわりつく触手に心が折れかけた時、
    「ハァッ!」
     隔壁の外から誰かのシャウトが聞こえた。
     新手か!?
     絶望した彼等は、群がるピンクハートちゃんの向こう側に灼滅者を見た。
    「病院の皆様、ごきげんよう。通りすがりの灼滅者ですのよ? 義のため癒しのため、ピンク色の空気をお掃除しにやって参りましたわ!」
     銀髪の少女が呼びかける。ストレリチアだ。
     喧騒の中でも、観月の割り込みヴォイスが戦場に淀みなく声を伝える。
    「ピンクハートちゃんを指揮していた淫魔は俺達が片付けました。あとはここにいる奴等だけ。挟み撃ちで一気に叩きましょう」
     共闘の申し出に戸惑う病院勢力の医師や看護師。
     しかしその言葉が本当なら。
     雅、弥咲、夏樹が隔壁に群がるピンクハートちゃんを引き剥がす。
    「アタシ達は敵じゃないわよ!」
    「そういうことだ。君達と戦う意思はないよ」
    「ピンクハートちゃんを片付けます。手を貸してもらえますか?」
     医師や看護師達は互いに頷き合い、殲術道具を握り、隔壁を飛び出した。
     両勢力がピンクハートちゃん達を挟み撃つ。
     隔壁の中では、生気を吸われた患者や看護師が、仲間の回復を受けていた。
    「くそ、回復が間に合わん」
     肩を落とす医師に声が届く。
    「私達も手伝うわ」
    「そういうこった、諦めてんじゃねェ」
     鏡花と風がピンクハートちゃんの群れを掻き分け、病院勢力の回復にまわった。
     横たわる灼滅者に対して、二人は治癒の力を発動させる。
     風がオーラを打ち込んで無理矢理注がれた情動を洗い流し、鏡花の聖なる光が横たわる者たちに再び生気を吹き込んでいく。
     戸惑っていた医師は、
    「…………ありがとう。よろしく頼む」
     そう言うと医師もまた、オーラで仲間の治療を再開した。
     しゅるしゅる! ぬぷ、ぬぷっ……ドクンッ!
    「あぁんっ……!」
     ピンクハートちゃんの触手に絡め取られたナースの喘ぎ声が響く。
     情動を注ぎ込まれ、熱い吐息を漏らす。
     目のやり場に困る光景だ。
     ストレリチアは顔を赤らめつつ、蹴りで触手を切断する。
     蹴り上げた浴衣の裾に集まる視線を敏感に感じ取り、
    「くっ、さすがは半ばえっちに制圧されてしまった戦場ですの……」
     腰が抜けてしまったナースを羅生丸が全身で庇う。
    「待たせたな、愛しの天使ちゃん」
     彼の背中にナースは、
    「あ、ありがと……」
     今こそ、羅生丸はしっかり考えてきたイケてるポーズで答える。
    「俺は単なる通りすがりのイケメンだ。これくらいお安い御用さ」
    「か、かっこよくなんかないし! ピンクハートちゃんのせいでそんな気がするだけだし!」
    「あんな眷属、他人の手を借りずとも!」
     すでにボロボロに白衣を肌蹴させた女医が、果敢に敵に挑む。
     彼女を無数の触手が襲う。
     それらを観月と雅のビハインドが防いだ。
    「弱ってるなら後ろに下がって」
     淡々と述べる観月に女医は反論しようとするが、
    「はいはーい、無茶しないの♪」
    「やめろ! 私はまだ戦える! あぁ~……」
     雅にがっしり抑えられて連行されていった。
     キャリバーに防衛を任せ、風が女医を癒す。
     渦巻く刃が、群がる触手から弥咲を守る。
    「一気に押し切るぞ!」
     彼等を取り囲むピンクハートちゃん達を弥咲の剣風が豪快に薙ぎ払った。
    「きゃあああああ!」
     悲鳴を上げながら触手をかわす雅。
     踊りながらピンクハートちゃんを蹴飛ばす。
    「いやあああああ!!」
     雅の足にぬめぬめと絡みつく生温かい触手を、看護師が切断した。
    「私達も負けてられません」
     病院勢力の灼滅者が各個に敵を攻撃する。
     弱ったピンクハートちゃん達を魔力の竜巻と刃の竜巻が、まとめて上空へ巻き上げた。
     落下しながら消滅する眷属を見上げ、観月はマテリアルロッドをくるくると回す。
    「ごめんなさい」
     消え行く眷属に、つい夏樹は小さな声で呟いた。
     深手を負った敵に確実にトドメを刺していくストレリチア。
     戦いに集中していた彼女は、ある違和感に気づいた!
    「っ!?」
     赤ら顔で浴衣の裾を抑える。
    (「い、いつの間に!?」)
     キョロキョロ見回すと1体のピンクハートちゃんが白い布を掲げていた。
    「ひ、ひきょう! ひきょうものー!?」
    「おお」
     病院の患者達から歓声が上がる。
     その光景に雅はおばさんのように頬に手をあてて、
    「あら、そういうはしたないのはアタシどうかと思うわ」
    「私のせいじゃありませんわ!」
     戦い慣れない様子の灼滅者を風の盾が守れば、殺気で敵の群れを覆いつくす夏樹の背後を、病院の医師が触手から庇う。
     いつしか病院勢力も、武蔵坂の灼滅者を守るように戦っていた。
     まとわりつく触手に生気を吸われながらも、羅生丸は死力を尽くして残党を始末する。
     ワイルドな漢が膝を折るわけにはいかない。
    「美女の窮地を救うのはイケメンの役目だからな!」
     その背中に癒しの光が降り注いだ。
     背後で回復してくれたナースに羅生丸は笑みを返す。
     女医と背中合わせに立つ弥咲を、ピンクハートちゃん達が取り囲む。
     鏡花は桃色の敵が群がるその地点に狙いを定めた。
    「Permafrost――さぁ、白き闇の中で眠りなさい」
     妖槍の一振りで氷柱が張り巡らされた。
     周囲の熱量が一瞬で奪われ、一帯の光景が氷の世界に姿を変える。
    「さっさと片付けよう」
     女医の言葉に、弥咲は漆黒のポニーテールを揺らし、眼光鋭く笑む。
     そして強く地面を踏みしめた。
     長大なライフルを大きく振りかぶり、振り抜きながらトリガーを引く。
    「派手にけしとべぇ!」
     横薙ぎに放たれた光線が氷像と化した眷属をまとめて爆殺した。

    ●戦い終わって
     静かになった戦場で、両勢力の灼滅者が休息していた。
     ピンクハートちゃん達は全て消滅。
     即席の奇妙な共闘は、無事に病院の窮地を救ったのだ。
     負傷者の手当てを手伝っていた鏡花は、ひと段落した所で額の汗を拭う。
    「ふぅ、さすがに皆手馴れてるわね」
    「君達は、どうして私達を助けたんだ」
     警戒するように、一人の医師が問う。
    「昔、助けてほしいって心から願ったことがあったから」
     夏樹が答えた。
     自分には助けは来なかったけれど、だからこそ、と。
    「……とりあえず礼は言わないといけないな。ありがとう」
     彼等に対し、観月は無表情のまま背を向ける。
    「お礼はいいです、お話もまた改めて」
     それだけを伝え、彼等はその場を後にする。
     かくして殲術病院の危機は救われた。

    作者:かなぶん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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