殲術病院の危機~戦華争乱

    作者:東城エリ

     陽も落ち、夜へと代わって静かな時間がやってくる。
     だが、長野県の都市部に近い殲術病院では、緊迫した状況を迎えていた。
     治療を行うことが主の殲術病院で、手に殲術兵器を持ち、医師や看護師、病室のベッドで安静にして居るはずの入院患者達が、平時のそれよりも鋭い眼差しでもって、病院内を駆け、襲撃してきた敵を迎え撃つ。
     その姿は闇堕ちした灼滅者の姿に酷似している。
    「ハルファス軍の襲撃だ!」
     1階の正面玄関、救急搬入口、職員出入口、東西2つの駐車場へと繋がる入口に迫り来るアンデッド。
     正面玄関のガラス扉の向こう側、車寄せを支える柱に背を預けている襲撃を指揮している男の姿が見えた。
     蒼い髪に赤い瞳をし、ゴシックパンクな衣装を身に纏っていた。
     水晶化している箇所は、頸にかけて右手、胸元へと及んでいる。
    「よし、配置完了したな。じゃぁ、存分にいたぶらせて頂こうか。東と西! 切り刻んでやれ!」
     男の指令を受け、アンデッド達が病院内へと進入してくる。
    「私たちではこの数は対処仕切れない! 援軍を!」
     他の殲術病院に救援を請う連絡を意志を受けて、看護師が連絡を入れるが、帰ってきたのは、向こう側も同じ状況で、尚且つそれが日本国内にある殲術病院が同様の状況下にあると言うことだった。
    「くそっ! まさか、国内同時襲撃をするとは……」
    「先生、どうしますか」
     不安げな表情を貼り付けた看護師に、医師は深く呼吸をし、意志を固める。
    「籠城する。それならば、陥落することもないだろう」
     この病院を襲撃してきた者達を纏める男は、少しずつ戦力を削っていく戦法を取ってきた。
     襲撃してくる出入口に戦力を傾けて対処して行けば、何とかなるだろうと考えているようだった。
    「武蔵坂学園とは別の灼滅者組織である『病院』に複数のダークネス組織が襲撃を計画しているようです」
     そう切り出したのは、斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)。
     話を聞いている中に、御門・薫(藍晶・dn0049)の姿もあった。
     その勢力は3つ。
     ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢、白の王・セイメイの軍勢、淫魔・スキュラの軍勢です。
    「三者とも武蔵坂学園とも因縁のある相手です。襲撃されるという事が分かっているのならば、同じく灼滅者組織として活動する同志として救援の手を差し伸べる事は可能だと思います」
     『病院』の勢力は、殲術病院という拠点を全国に置いています。
     防御の力は高く、どこかの殲術病院が襲撃されたとしても籠城をしていれば、他の殲術病院から援軍が駆けつけ、撃退するという戦いを得意としていたようです。
     ですが、今回は日本国内にある『病院』を同時襲撃することで、得意戦法の籠城が無効化されました。
     籠城をしたとしても、駆けつけるべき他の『病院』からの援軍が無いのですから。
     孤立無援の状態で籠城をするのは、後にやってくるのは戦力を削りきられて壊滅する未来です。
     皆さんには、同じ灼滅者として『病院』の灼滅者達を救い出して欲しいのです。
     
    「皆さんに救援に向かっていただくのは、長野県の都市部に近い場所にある病院です」
     この殲術病院は、今は殲術隔壁を閉鎖して籠城していますが、既に2つの隔壁が破損し白兵戦になっています。
     このままでは、他の殲術隔壁も突破され、逃げ場も無く一方的な殲滅劇へと変わるでしょう。
     襲撃してきている眷属のアンデッドの数は50体。
     正面切って戦えば、こちらが疲弊し、数で押されて仕舞うでしょう。
     まずは、皆さんでノーライフキングを殲滅してください。
     最近闇堕ちしたノーライフキングであるようで、皆さんでも倒すことが出来るのではないでしょうか。
     殲術隔壁が突破され、病院の灼滅者とアンデッドが戦闘中の間は、指揮官であるノーライフキングの方にアンデッドを増援として、戦力を向けることは出来ません。
     アンデッドを指揮しているノーライフキングを叩けば、統率者の居なくなったアンデッドは病院の灼滅者と共に掃討すれば可能でしょう。
     もし、ノーライフキングを倒すことに失敗すると厄介です。
     その場合は、撤退することも一案としてください。

    「皆さんが到着した頃の戦況を説明します」
     突破されていないのは、正面玄関、救急搬入口、職員出入口の3つ。
     突破されているのでは、東玄関、西玄関の2つ。
     ダークネスであるノーライフキングがいるのは、正面玄関です。
     眷属であるアンデッドの総数は50体。
     武器は皆、殲術道具の妖の槍にした武器を手にしています。
     攻略ポイントに配置されているアンデッドは、正面玄関に10体、救急搬入口10体、職員出入口10体、東玄関に10体、西玄関に10体です。
     交戦中であるのは、突破された東玄関、西玄関の2カ所。
     一斉に突破させる戦法ではなく、段階的に突破し対処させて戦力配分が薄くなったところで、一斉に制圧し虐殺する戦法のようです。
     数でどうにかできると慢心している所がありますから、そう思ってくれている内に、皆さんが背後から不意打ちし、戦況を覆してください。
     救助の手が来たと戦意高揚した病院の灼滅者達と共に、残る眷属の撃破をお願いします。
     
    「今回の依頼は、病院へと大規模な同時襲撃を企てたダークネスに介入する危険なものです。残念な事に、救援が間に合わずに陥落してしまった殲術病院も既にあるようです」
     晄は痛ましげに僅かに目を伏せるが、気持ちを切り替える。
    「皆さんなら、大丈夫だと信じています。無事に帰還されるのを祈っています」
     そう言って、晄は皆を送り出したのだった。


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)
    佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)
    雪片・羽衣(朱音の巫・d03814)
    エール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)
    リステアリス・エールブランシェ(今は幼き金色オオカミ・d17506)
    レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)

    ■リプレイ

    ●蠢く屍人
     夜空の星が綺麗に見える。それだけ空気が澄んでいるということなのだろう。
     冷たい吐息を吐きながら、影を走る。
    (「わふ~。新しい組織、仲良くなれると嬉しいな~っ♪」)
     海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)は前向きな思考で、これから会える人々に思いをはせた。同時襲撃の事は気に掛かるが、自分の出来る事をしようと、拳に力を込めた。
     霊犬のぽちは歩の考えが伝わったのか、跳ねるように付いてくる。
     佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)は携帯機器で病院の案内地図を拾い、皆の携帯に画像を送る。隔壁5箇所の配置を確認しておけば、向かう時に素早く行動出来るだろうと考えたからだ。
     上から見た図は工の字になっており、左上が職員出入口、右上が救急搬入口、左下が西玄関、右下が東玄関、下辺中央の位置が正面玄関となっていた。
     殲術病院の敷地に踏み入れると、闇夜に蠢く影が数多くあった。
    「(何ていうか、典型的な数の暴力っていう感じ? 慢心してくれてるなら、それに越した事はないけど、それにしてもすごい数だよねぇ)」
     レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)が小声で素直な感想を口にする。
    「(多くてもやれるよ、リステアリスちゃん)」
     普段と変わらず淡々とした口調でエール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)が言う。
    「(…ん、大変だけど頑張ろう…)」
     リステアリス・エールブランシェ(今は幼き金色オオカミ・d17506)が頷く。
     数に怖じ気づくことなく、敵に打ち勝とうと言葉よりも表情が雄弁に語っていた。

    ●正面 屍王
     建物内部は電灯が灯されている。殲術道具を手にしている人の姿が見えた。
    (「闇に抗う人達ならば、仲間も同然なのです。ダークネスの思い通りになんかさせませんっ」)
     志織は無事な姿を認めると、決意を固めた。
    (「…仲間に、なれるのかな」)
     どんな人だろうと思っていた姿は、闇堕ちした灼滅者の姿に似ているようで、雪片・羽衣(朱音の巫・d03814)は少しだけ不安を覚える。
    (「でも、今は。まず、手を差し伸べるために戦うことを考えよう」)
     まずは目の前の敵を滅するのが先だと、不安を脳裏から追いやった。
     植えられた常緑樹に隠れ、気づかれないように正面玄関へと近づく。
     車寄せに近い木々の影にいったん留まり、状況を把握する。
     彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)は深く息を吐く。
     敵にも己自身に潜む闇を抑えるように、言い聞かせるように。
    「(感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ)」
     背後から強襲するほんの短い間、様々な感情を胸に秘める仲間達を見やり、影道・惡人(シャドウアクト・d00898)が、まずは戦闘だけに注意を向けておけばいいと言葉を投げた。
     正面玄関の屍王と戦う仲間とタイミングを合わせるべく御門・薫(藍晶・dn0049)とメールアドレスを交換していた葉は、着信を知らせる微かな振動に頷き、他の仲間へと合図を送った。

    「おぅヤローども、やっちまえ!」
     漆黒の恐竜の似姿を持つライドキャリバー、アームド・ザウエルに騎乗した惡人の声と共に、援護に来てくれた灼滅者達も必要と感じる場所へと趣く。彩希がサウンドシャッターを使い、戦場外へと漏れないようにする。
     戦いに専念出来るように援護してくれる仲間に感謝しつつ、このアンデッドを統括する屍王の背後を取った。
     車寄せの天井が夜空の下よりも闇を濃くするが、敵を同じくする者達だと気づいた病院内部から操作したのか、電灯が点いた。
    「まずは目の前の敵から倒すだけだよねっ!」
    「わうっ!」
     歩が相棒であるぽちの背中をぽんっと叩き、犬型のバトルオーラを展開した。
    「何処もかしこもアンデッド。気が滅入りそうだよ。何より、こんなにアンデッド連れてきたアンタにね」
     慌ただしく動く戦場の中、のんびりとレイッツァは溜息をつく。
     表情とは裏腹に内心では、病院内部にいる人々の状態が気懸かりで何とかしたいと思ってはいたが、焦りを悟られ、まだ攻撃を仕掛けていない出入口に攻撃の号令を掛けられてはたまらない。
    「病院の勢力外の奴らか」
     がしゃんと大鎌の柄を床に打ちつけ振り向いた屍王は、眷属のアンデッドを前後に動かす。前に5体、後ろに5体。自身は中衛に立つ。余裕があれば、扉側の破壊をしようというのだろう。
     槍を手にしたアンデッドが無言で空虚な眼差しを向けてきた。
     それまで病院内部に興味を向けていたのを、新たな獲物が来たとばかりに、蒼い髪を水晶化した手で掻き上げ、赤い瞳を向けた。
    「折角、じっくりいたぶってやろうって時に邪魔するのは無粋だと思わねぇか」
     攻撃手として前衛にあるのは、歩と志織、羽衣とエール。守り手として立つのは、さくらえと薫、ぽち。
     狙い手として後衛にあるのは、ザウエルとザウエルに騎乗した惡人。癒し手として、リステアリスとレイッツァ。
    (「勝つのはワタシ達だ。これ以上、誰の犠牲も出したりはしない。皆で生きて帰るんだ」)
     さくらえは強い意志を赤瞳に宿らせる。
     狙うのはアンデッドの奥にいる屍王。なりたてとは言え、アンデッドを操る能力は厄介だ。
     志織は、アンデッドに視線をやり、仲間に聞こえる位の声音で提案する。
    「アンデッドの怒りの効果は厄介です。初手で火線を集中しましょう」
    「同感だ。奴が最優先だからな」
     惡人は、見知った顔へ視線をやり、手を振る。屍王の前に陣取っているアンデッドを任せるとでも言う風に。

    「守りはガザ美ちゃんに任せるッスよー」
     豊満な胸を揺らし、ガザ美はWOKシールド展開し、拳を構える。
    「対象確認、援護する」
     真熱は敵の行動を阻害すべく、ガンナイフでの援護射撃。
    「回復は任せて下さい」
     ももは治癒の力を降り注がせ、治癒の力を高める。
    「私たちが来たからにはもう大丈夫だ!」
     勢いよく突っ込んで来た鉄子は、光り輝く十字架を解き放ち光線をアンデッドへと浴びせた。
     アンデッドの姿がはっきりと見えた。
     威司はリステアリスの姿を視界に収め、無事に終えられる様に願い乍ら、夜霧の力を展開する。
     セレスティは妹の様に思っているリステアリスを案じつつ、アンデッドに輝く十字架から放たれる光を浴びせた。
    「さぁ、こっそりとヒーロータイムだ!」
     特徴的な骸骨の仮面を被った矜人が、拳に雷に変化させた闘気を下方から繰り出し、突き上げる。さくらえはその姿を捉え、ふっと微かな笑みを浮かべた。
    「羽衣、俺が余計なシゴトやってやるからさ、お前は前だけを見てガンバレよ!」
     明慧黒曜を回転させ突き出し、慧樹は彼女である羽衣に思いを伝える。
     羽衣に抱くのは心配という感情ではなく、羽衣の為に何か力になりたいと思ったから。
     良太はビハインドの中君と共に加勢し、紗和はアンデッドのいる場所を凍り付かせる。
     密度の高くなった戦場で、優歌と蓮二はバイオレンスギターの魔力を解き放ち、癒しと浄化を、ヴァンはリングスラッシャーを分裂させ守りの力を高めさせた。
     静佳は凛とした仕草で十字架の放つ光を浴びせ、イブはビハインドのヴァレリウスに守って貰いながら、自身はどす黒い殺気を走らせる。
    「群れれば勝てる訳ではございませんでしょうに…」
     花逝の切っ先を向け、秘められた呪いの力を毒にし、解き放つ。銀静は癒しと同時に攻撃力が上がるようヴァンパイアの魔力を霧に変えた。
     このまま進めばアンデッドは任せておいても大丈夫だろう。
     半数以上数を減らして露払いして呉れた中、先に踏み込む。

     アンデッドのいる前衛を突破し、距離を縮める。
     惡人はガンナイフを構え、狙いを定め逃す事のない弾丸を撃ち込み、ザウエルには機銃掃射をさせた。
    「わんわん影さん、ぱっくんだよ~っ!」
     歩の影に潜んでいたわんわんシャドウから文字通り犬の影が伸び、鋭い牙でかみ砕く。続けてぽちが追いかける様に、勢いよく咥えた斬魔刀で切り裂いた。
     バイオレンスギターを志織は超絶技巧で掻き鳴らし、音色で殴りつける。
    「弾けちゃえ」
     エールはマテリアルロッドで殴りつけ、その先から魔力を一気に流し込み弾けさせる。
    「こちらが数をそろえたら、そちらも数で勝負ってか」
    「ぁ? 勝ちゃなんでもいんだよ」
     勝ちさえすれば、それだけで選べる選択肢は多く、実りも多い。まずは勝たなければ何も生まれないのだ。そう惡人は思う。
     片腕を異形化させ、羽衣にもたらした莫大な打撃の力を叩きつける。慧樹が傍に居ると言うだけで、力が湧き上がるよう。
     続けて、さくらえも異形化させた腕を振り抜き殴りつけた。
     どんっ、とコンクリート床が振動した。屍王は何とか床に膝をつくのを回避するも、一斉に受け続ける攻撃の雨に、取り繕う事さえ出来なくなってきている様だった。
    「こっちは任せて!」
     まだ癒しは大丈夫だと把握すると、レイッツァは護符を歩に飛ばす。屍王の後ろにはまだアンデッドが居る。だから保険を掛けて置くのだ。
    「…裁きの光…悪しき者、滅せよ…!」
     リステアリスの言葉通り、裁きの光が出現し鋭い光条と共に突き立った。
     薫は治癒が増す様に、癒しの光を生みエールに注ぐ。
     ゴシックパンクの服があちこち破れて、身体も傷ついている。
    「クソが…」
     最初の勢いも既に無く、悪態にもキレがない。
     大鎌を水平に持ち横薙ぎにする。近くに居た羽衣達の周囲に上空に浮かんだ虚ろな刃が降り注ぐ。
    「お前ら、時間を稼げ」
     前に居る残りのアンデッド2体は槍を振ってかき回し、後方にいるアンデッド5体はつららを生み出し撃ち出してきた。
     ダメージを幾らか負うが、致命的な程ではない。
     歩は硬質化させた拳で、抉り込む。
     志織が咎人の大鎌の振るう。
    「終わり、か。つまらねぇな」
     そんな言葉を残す。
     振り下ろされる死を内包した刃は、同じ獲物を持つ屍王を狩り取った。
     崩れるアンデッドの統制。
     後は、次々と狩るだけだった。
     東西の玄関に向かった仲間はどうしただろうかと、無事を祈りながら、地道に積み重ね数を減らしていく作業に集中するのだった。

    ●東玄関
     屍王により襲撃の号令をかけられ、殲術隔壁は破損し、殲術病院の灼滅者とアンデッドの攻防が始まっていた。
     正面玄関ほどの広い間口ではないのが救いだろう。
     2体のアンデッドが槍を振り回すので精一杯だ。
     突然現れた救援の手に、内部から驚きの声が上がる。
    「俺達は武蔵坂学園の灼滅者だ。援護させて貰う」
     日本刀を手にした咲哉は闇色の殺気でアンデッドを覆う。敵の増援かと一瞬表情が変わったのを見て、声を掛けた。
    「詳しい話は後! 今は目の前の敵を倒すことに専念!」
     空は両手に集中させたオーラを撃ち出しながら、促す。
    「あ、ああ」
     戸惑いながらも頷き、これ以上内部に侵入されないように一歩前に出る。
     切羽詰まっていた精神も、援軍が来たことにより勇気づけられたのもあるだろう。
    「先に片付けちまおうぜ」
     葉が殺気を解き放ち、アンデッドを覆い尽くす。
     殲術病院側と共闘しながらアンデッドを挟み撃ちにし、数を減らしていく。

    ●西玄関
     東玄関と同様に殲術隔壁が壊され、アンデッドが侵入を図るが、殲術病院側の灼滅者が、阻んでいた。
     アンデッドの数もいくらか減じている。
     内部へ1体ずつ誘い込み、集中して攻撃することで確実性を取っているらしかった。
    「援護する。敵陣に切り込め」
    「わかった! 行っくよ~!」
     青色の強化装甲服を身につけた智寛が冷静な口調で先導すると、赤色の強化装甲服姿の飛鳥が勢いよく突っ込む。
     マテリアルロッドに宿った炎を槍を構えたアンデッドに叩きつけた。
     HBSR-05から魔法光線を発射し、アンデッドの身体を貫く。
     治胡は瞳の色と同じ炎の翼を顕現させると、建物内にいる灼滅者の傷を癒すべく、距離を詰める。
     一霧はクルセイドソードから破邪の白光を放つ強烈な斬撃を繰り出し、切り伏せた。

     孤立している病院側の灼滅者がいないか、想司は周囲に目を配りながら進む。
     幸いにもそういった姿を目撃することもなく、アンデッドの配置されている場所へと辿り着いた。
     加勢している仲間に続き、素早い動きで敵の死角へと回り込み、切り裂く。
     水花は幸いにも死者はまだ出ていないのを見て取り、ほっとする。
     凛とした眼差しをアンデッドへと向け、ガンナイフの銃口から敵を追尾する弾丸を撃ち出した。

    ●救急搬入口&職員出入口
     救急搬入口はまだ屍王に攻撃命令を下されては居ないので、ガラス扉と殲術隔壁を挟んで睨み合いが続いている。
     同じく攻撃指令の出ていない職員出入口。
     敵にいつ襲われるかわからない恐怖に包まれている中、奈央はガトリングガンから嵐のように銃弾を降り注がせ、注意を自身へと向ける。
     攻撃の手法を変えながら、引きつけていく。
     距離が近くなれば、空飛ぶ箒で飛行中へとシフトし、上空からアンデッドに銃弾を降らせた。

    ●掃討、そして解放
     正面玄関にいた屍王とアンデッドを倒した後は、掃討戦に移行する。
     統率者の居なくなったアンデッドは、数が多いだけの烏合の衆。
     とはいえ、数が多い分手間も掛かる。
    「東か西、どっちにする?」
     羽衣がまだ戦いは他でも続いてるから、早く行こうと急かす。
    「東で良いと思うよ。手伝ってくれている仲間もいるし」
     絶望的な状況ではない筈だからとエールは淡々と考えを口にした。
    「治療が必要なら遠慮無く言って」
     治療が必要な仲間がいれば、回復サイキックを全て潰すつもりで回復する事をリステアリスは考えて居たが、幸いにも大丈夫な様だった。
     回復の援護をしてくれていた事もあるだろう。
     レイッツァは回復役にまわっていたが、数を減らすべく攻撃手に変わる。
    「次から次へと忙しいことで…」
     そう言いながら、うんざり気味な表情を浮かべた。
     順番に出入口に居たアンデッドを討伐し終えた頃、殲術病院の灼滅者も漸く息がつけると思ったのか、表情が幾分柔らかくなった。
     同時襲撃だったという事は重要な懸案だが、今は自分達の拠点の機能回復をするのが先決だ。
     救援に駆けつけてくれた事に礼を言い、
    「助かった」
     と、率直な気持ちを述べた。
    「組織同士、今後どういう関係になれるかは分かりませんが、こうして共闘できた事、私はずっと忘れません。どうぞ皆様、息災で。どのような立場にあっても、共に闇と抗い続けましょう」
     志織は丁寧に言葉を素直に口にすると、ではと小さく礼をし、歩き出した。
     来た道を戻り、病院の敷地を出ると、空を見上げた。
     戦いの余韻を洗い流して呉れる様な星空を。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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