殲術病院の危機~悪魔来たりて拳を鳴らす

    作者:泰月

    ●悪魔襲来
    「敵襲ー! 敵襲だー!」
     怒号が響き、非常を知らせる赤いランプが点滅する。
     隔壁の内側は、大騒ぎになっていた。
    「敵襲だと? 相手はどこの勢力だ!」
    「敵影確認。強化一般人が、5……10……多数! 敵リーダーの姿は確認出来ませんが、ソロモンの悪魔と思われます!」
    「くっ……恐らく、ハルファスの一派だな。何、いつものように対処だ。他の病院に連絡を」
    「駄目だよう。連絡は付いたけど、何処の病院も襲撃を受けてるって」
    「連絡がつかない病院もあったぞ……もしかしたら、もう」
    「一斉襲撃……だと。ハルファスめ。さては、他のダークネスと手を組んだな」
    「どうする? 撃って出るか?」
    「いや。籠城しよう。数で来ようが我ら殲術病院、そう簡単に落とせると思うな」

     少し離れた駐車場で、攻め込まれる病院を見ている影があった。
    「ギルト様。奴ら、隔壁を閉じました。籠城するようです」
    「ならば、全員で行け。ぶち壊せ。踏み込め。蹂躙せよ!」
     ギルト、と呼ばれた神父服姿の男は、ゴキゴキと拳を鳴らしつつ周囲にいる修道士姿の配下へと命令を下す。
     その背中には、人にはあり得ない、コウモリのような黒い翼が広がっていた。

    ●狙われた病院
    「集まってくれてありがとう。ダークネス達の動きが掴めたわ」
     夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)が集まった灼滅者達に告げる。
    「ソロモンの悪魔・ハルファス。白の王・セイメイ。そして、淫魔・スキュラ。この3つの勢力が、どうやら手を組んだみたいなの。標的は、『病院』と呼ばれる灼滅者組織よ」
     病院勢力は、全国各地に殲術病院と言う拠点を持っている。
     その防御力は高く、どこかの拠点が攻め込まれても籠城し、他の病院からの援軍を待って撃退すると言う戦いを得意としていた。
     しかし、ダークネス3勢力が手を組み、ほぼ全ての病院が襲撃された事で、各地の病院は孤立無縁となった。
     籠城して耐えていられるのも、長くはない。
    「このままじゃ病院勢力が壊滅するのは、時間の問題よ。そこで、皆には『援軍』になってきて欲しいのよ」
     病院内で援軍が出せないのなら、病院の外から援軍に向かおうと言う訳だ。
    「それに、今回手を組んだハルファス、セイメイ、スキュラ。どれも無視出来ない相手でしょ」
     ダークネスの企みを潰すと言うだけでも、戦いに向かう価値は充分にある。
    「皆に向かって欲しいのは、長野県の山間にある病院よ」
     長野の地図を広げ、柊子は1点を指す。
    「ここを攻めている敵は、ソロモンの悪魔。名前はギルト。あと、配下の強化一般人が――40人」
     その数に、灼滅者達も息を呑む。
     とてもこの人数でまともに戦って勝てる相手では無い。
    「だから、皆が狙うのはギルト1人よ。病院は殲術隔壁って言うのを閉じて籠城してる。その隔壁を破る為に、ギルトは全ての配下に病院を攻めさせて、自身は少し離れて病院の様子を見ている。背後を突くチャンスよ」
     集団の頭が孤立しているのだ。狙わない手は無い。
    「それでも、ギルトは強いわ。魔力を込めた己の手足を武器にする、武闘派悪魔」
     氷の魔法も使うが、手足を使った接近戦も得意とする。
     ソロモンの悪魔には珍しい戦い方かもしれない。
    「皆が着く頃には、隔壁の一部は破られてる。それでも、ギルトを倒す事を最優先にして。逃げられて配下と合流される方が、厳しくなるわ」
     相手が配下だけなら、そう簡単に病院が陥落する事はない。
    「逆にギルトを倒せれば、病院側も籠城をやめて強化一般人を倒しに出て来るわ」
     後は協力して、配下を掃討するだけだ。
    「隙を付けるとは言え、相手はダークネスが率いる大部隊。危険な状況よ。危ないと思ったら無理せず、撤退する事も考えて」
     引き際を誤れば、逃げ道を失う可能性もある。
    「でも、勝てない相手じゃない。病院を助けて、皆で帰ってきてね。気をつけて行ってらっしゃい」
     勝てると信じて、柊子は灼滅者達を見送った。


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)
    神虎・闇沙耶(闇の塵を護る悪鬼獣・d01766)
    謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)
    夏炉崎・六玖(夜通し常識外れのシミュレータ・d05666)
    射干玉・闇夜(高校生ファイアブラッド・d06208)
    龍統・光明(千変万化の九頭龍刃・d07159)
    六条・深々見(狂楽遊戯・d21623)

    ■リプレイ


     夜の駐車場に佇むソロモンの悪魔が1人、ギルト。
     その視線は道を隔てた向こう側、己が手先とした人間に攻められる『病院』にのみ、向けられている。
    「つまらぬ。援軍を封じれば、病院もこの程度か」
     退屈そうに呟くギルトはこの時、周りをろくに警戒していなかった。
     援軍を封じた今、敵が現れる筈などないと、油断していたと言える。
    「沖縄の太陽よ、我に力を!」
     その声が響いた直後、コウモリのような翼の生えた背中を眩い光が直撃する。
    「ぬぐっ!?」
    「隙だらけだぜ」
     さらにギルトが振り向くよりも早く、無数の弾丸が背中に撃ち込まれる。
    「なんだ、お前達は!」
     背後からの急襲に顔をしかめながら振り向くギルト。
    「通りすがりのヒーローさ!」
     答える謝華・星瞑(紅蓮童子・d03075)の隣には、銃口をぴたりと向けてガトリングガンを構えた射干玉・闇夜(高校生ファイアブラッド・d06208)の姿があった。
    「一戦を所望する。悪魔の将よ!」
     その2人の後ろから飛び出した神虎・闇沙耶(闇の塵を護る悪鬼獣・d01766)が、漆黒の騎士剣を構えて一気に間合いを詰める。
    「我、九頭龍の顕現者也……来い、絶。纏え、応黄龍」
     続けて龍統・光明(千変万化の九頭龍刃・d07159)も龍の闘気に身を包みながら飛び出し、さらに宙を蹴って間合いを詰める。
    「この身を盾に、そして刃となる!」
    「蹴り穿つ、九頭龍――斬蹴迅雷」
     破邪の光を纏う刃が振り下ろされ、闘気の雷を纏わせた足が跳ね上がる。
     上下からの連続攻撃を、しかしギルトは魔力を込めた両腕で受け止め、闇沙耶の刃を弾くと同時に、光明に拳を叩きつける。
    「何者だ。他の病院の連中か?」
    「答える必要はありません」
     2人の攻撃を止めた隙を見逃さず、高速で死角に潜り込んだ石弓・矧(狂刃・d00299)が、繋げたままのウロボロスブレイドを振るい、神父服ごとギルトの体を斬り裂く。
    「一緒に遊ぼー♪」
     明るい口調とは裏腹に冷たい笑みを浮かべながら、六条・深々見(狂楽遊戯・d21623)は別の車の陰から飛び出して、ギルトの足へと槍を振るう。
    「今日のお相手ゴリラかあ。嫌だいやだ。あはははは!」
     小馬鹿にしたような口調とは裏腹に、夏炉崎・六玖(夜通し常識外れのシミュレータ・d05666)は禍々しい漆黒の縛霊手を全力で叩きつけ、網状の霊力で絡め取る。
    「あなたはここで倒します」
     複雑に変形したナイフを、霊力の編みを縫い込むように振るって雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)が言い放つ。
     ギルトのいる駐車場にあった数台の車。
     限られた物陰を利用して、慎重にギリギリまで距離を詰めて、行動順を調整し遠距離攻撃から連続で畳み込んだ灼滅者達。
     一部こそ防がれたが、初手の攻撃はほぼ理想的な形に持ち込めた。
    「8人……数は、揃えて来たようだな」
     完全に不意を突かれた上に攻囲にさらされながら、ギルトはバキボキ拳を鳴らす。
    「何処の連中か知らぬが、退屈しのぎにはなるか」
     戦いは此処からだと、誰もが肌で感じていた。


    「木更津の件の借り……ハルファスに返す前に、貴様で少し憂さ晴らしをさせて貰おう」
     アスファルトを蹴って駆け出した光明が、漆黒の長刀を振るう。
     分かれ伸びた刃は、駆ける勢いも加わって次第に加速し幾重にもギルトを斬り裂いていく。
    「ほらほら、こっちだよー♪」
     その後に続くように、深々見もギルトの横に回り込みながら、槍の穂先に集めた冷気を氷として撃ち放つ。
    「食らっとけ!」
     闘気の雷を帯びた闇夜の拳が、ギルトの顎を目掛けて突き上げられる。
    「ちっ。次から次へと!」
    「後ろ頂き! あはははは!」
     闇夜の拳はギルトの掌に遮られたが、その背中を六玖の縛霊手の爪が切り裂いた。
     背後からの一撃にギルトの体勢が崩れた隙に、闇夜はギルトの横を駆け抜ける。
     奇襲に成功した灼滅者達が次の狙いは、病院側との分断。
     ギルトが病院側へと移動し、配下と合流するのを防ぐ為に病院側を背にする布陣へ持ち込む事にあった。
     だが、初撃も背後から奇襲した事により、そこに持ち込むには、再びギルトの背後へと回らねばならない。
     光明と深々見が地図で確認しておいた事で、灼滅者達が病院の方向を見失う事はない。
    「ふん。俺を病院の方に行かせたくないらしいな」
     しかし、その動きからギルトも灼滅者達の狙いを察していた。
    「ならば止めてみるがいい!」
     言うが早いか、弧を描く軌道で放たれたギルトの拳が六玖の胴に突き刺さる。
    「貴様の思い通りにはさせん!」
     灼滅者の横に回り込もうと動いたギルトの前に、闇沙耶が踊り出て低い軌道で漆黒の刃を振るいギルトの足元を斬りつける。
    「ちぃ! なら」
    「そうはさせません」
     ならばと闇沙耶の横へ回り込もうとすれば、今度は矧の影が鋭く伸びて足元からギルトを斬り裂いた。
    「行かせるかよ」
     ギルトがたたらを踏んだ所に、星瞑が鋼の糸を操って巻きつけその動きを食い止める。
    「痛い痛い痛い! あははははは! 流石にキッツいね!」
    「大丈夫ですか?」
     口の端から血を流しながらも笑いを上げて、距離を取る六玖の背中に、ケイが護りの符を飛ばし傷を癒す。
     実の所、とても笑って済ませられるダメージではない。ケイの符でも、癒しきれていないのだ。
     とは言え、状況は不完全ながらも灼滅者達が描いた布陣へと近づきつつある。
     戦いの天秤は、徐々に動き始めていた。


    「強化なんぞさせるか!」
     星瞑が、首元の赤いマフラーをなびかせ、飛びかかる。
     勢い良く飛びついてギルトの体を僅かに浮かせると、そのまま一気に地面に叩きつけた。
     ドンッ、と起きた爆発が、ギルトの瞳に集まりつつあったバベルの鎖の流れを打ち砕く。
    「燃えてろ!」
     そこに、闇夜のガトリングガンの銃口が、文字通り火を噴いた。
     放たれた爆炎の弾丸が、ギルトを炎の中に飲み込んでいく。
    「俺を燃やしたければイフリートでも連れて来い!」
     炎を振り払うギルトだが、その言葉とは裏腹に険しい表情を浮かべ、その瞳は真っ直ぐ灼滅者達を見据えていた。
    「お前達『音』を止めているな」
    「っ!?」
     突然の指摘に、音を止めている本人であるケイ以外も思わず息を呑む。
    「これだけ派手にやりあっても配下共がこっちに気づいた様子もなければ、気づくさ」
     ニタリと笑みを浮かべ、ギルトは言葉を続ける。
    「まあ、俺1人に手こずるようでは、配下共がこっちに来たら困――」
    「手こずってるのはどっちかな?」
     挑発するようなギルトの言葉を、六玖の声が遮った。
    「俺らを1人で倒し切る自信がないの? 武闘派かと思ったら、雑魚だったかー」
    「全くだ。調子こいて高みの見物してたとこに不意打ち受けたら、部下の援軍を当てにするってか? とんだ武闘派がいるもんだなぁ!」
     続けて、闇夜も挑発の言葉を言い放つ。
     配下に合流されて困るというのは、事実だ。だからこそ、意識をこちらに向けようと2人は挑発した。
    「なり損ない共が、調子に乗るなッ!」
    「来い! ここで決着をつけようぞ」
     ゴキリ、と拳を鳴らしてギルトが地を蹴ると同時、闇沙耶も手にした剣に炎を纏わせて飛び出す。
    「潰れろ!」
     炎の刃をその身に受けながらも、魔力を込めた悪魔の拳が猛然と打ち込まれる。
     闇沙耶は咄嗟に持ち替えた巨大な刃を構えて受け止めるが、衝撃の重さに膝をつかされる。
    「5分以上過ぎた……一気に攻めるぞ」
     背後の病院に向けていた視線を前に戻し、光明は高速で背後に回り込むと長刀を一閃。
    「ここの病院は必ず救ってみせます」
     そう告げる矧の顔に、いつも浮かべている柔和な笑みはなく、あるのは決意。
     臆すことなく間合いを詰めて、オーラを纏わせた両の拳を連続で叩き込む。
    「あなたも配下も倒しますよ」
     闇沙耶へ護りの符を飛ばしながら、ケイが言い放つ。
     ギルトの一撃は重く、初撃以外はずっと回復に専念し続けていた。それ故にまだ誰も倒れてもいない。
    「足が止まってるよ?」
     間合いを広く取って戦う深々見は、攻撃を意識した動きの中に生まれる僅かな隙を見逃さず、ぴたりと槍の穂先を向けると鋭い氷を撃ち込む。
     さらにその直後、ギルトの周りの空気が急速に冷えた。
    「アハハハ! 凍れ凍れ!」
     笑いながら六玖の放った魔法が、周囲の空間から熱を奪い、悪魔の体を凍らせる。
     だが。
    「貴様の魔法はその程度か? 悪魔の氷を見せてやろう!」
     氷に怯むことなく、ギルトは掌を灼滅者達へと向ける。
     今度は、前に立つ4人の周囲の熱が急速に奪われ、凍りついていく。
    「ぬんっ!」
     ギルトの魔力を込めた足が強く強く踏み込まれると、ズンッと辺りが震えた。
     その体を覆ったばかりの氷が砕ける程の衝撃波が、前衛の4人を襲う。
    「皆さん!」
     すぐにケイが優しい風を招いて吹き渡らせるが、氷を溶かし足の痺れを取り払えても、連続で叩き込まれたダメージを癒すには足りない。
     中でも、これまで特にギルドの攻撃を引き付けていた星瞑が、堪らず膝をついた。
    「ヒーローが、このくらいで倒れるか……よ」
     だが、倒れない。
     ヒーローらしくあろうとする事を忘れず、立ち上がった星瞑はギルトを見据えたまま、呼吸を整える。
     その気迫と視線に、ギルトが僅かにたじろいだのを見て、矧と光明は迷わず地を蹴った。
    「援護する!」
     飛び出した2人の後ろで、闇夜がガトリングガンの引鉄を引いた。
     2人を追い越してギルトに浴びせられた弾丸は、援護と呼ぶには多すぎる。
    「斬り通す。九頭龍……陽炎」
     光明の握る漆黒の長刀の刃が忽然と消えた。物質としての刃を失った長刀を、しかし迷わず振るう。
    「っがぁ!?」
     霊魂を直接斬られたギルトが苦悶の声を上げる。
     その時、矧は既にギルトの背後にいた。
     ダークネスの襲撃、と聞いて思い出したのは、自身の過去の惨劇の記憶。
    (「今の『私』はあの時の『俺』とは違う」)
     今度こそ、救ってみせる。
     声に出さずに呟いて、手にした剣で悪魔の翼を斬り裂いて――矧はそのままもう一度刃を振るった。
     蛇の如く伸びた刃がギルトの体にまとわりつく。
    「貴様、その剣は――っ!」
    「アハハハ! 良い様だね!」
     もがくギルトが絡みつく刃を振りほどくよりも早く、六玖が笑いながら拳と共に霊力の網を叩きつける。
     さらに、星瞑の操る鋼の糸も、その上から巻き付いた。
     力を奪った上で3重に重ねた拘束は、ほんの数秒、ギルトの動きを確かに止めた。
     その数秒で、戦いの天秤は完全に傾いた。
    「貴殿は確かに武人だった。これからは安らかに眠れ」
     闇沙耶の振り下ろす黒刃が、ギルトの肩に深く食い込む。
    「確かに強かったよ、ギルト」
     冷たくもどこか満たされたような笑みを浮かべた深々見が振るう槍は、深々とギルトを貫いた。


    「ちょーっと疲れちゃったけど、まだこれからだねー……。がんばろっか」
     縛霊手の指先に癒しの霊力を集めながら、深々見が呟く。
     そう。ギルトを倒した灼滅者達だが、まだやるべき事が残っていた。
     ポジションの変更と、短い時間で出来る限りの体力の回復を図った後、壊された扉から病院の中へと突入する。
    「隠れて逃げ回りやがって! 見つけたぞコラァ!」
     そんな声が、遠く頭上から響いてきたのは突入してすぐだった。
     聞こえる音を頼りに階段を駆け上がり、更に病院の奥へと進む。
    「あそこ……もう交戦中のようですね」
     廊下の先、中待合と思われる広い空間に修道服姿の集団がいた。
     響いてくる戦闘音から、通路に誘うのは難しそうかと、矧は内心で舌を打つ。
    「さて、掃討戦と行こうか」
     小さく呟いて、光明はぐんっ、と加速し飛び出した。
    「斬り裂く、九頭龍――龍ヶ逆鱗」
     伸びた漆黒の長刀を縦横に振るい、敵の群れをまとめて薙ぎ払う。
    「な、なんだテメェら――ぐあっ!」
     突然背後から攻撃され驚く一団に、闇夜はガトリングガンを向けると、広い範囲に嵐にように弾丸を浴びせかけた。
    「燃えろ燃えろー! あはははは!」
     六玖の石版から放たれた禁呪の起こした爆発が、敵を炎に飲み込んでいく。
    「何だ? 敵の後ろで何が……」
     その様子は、敵集団を挟んで向かいの通路にいる病院の灼滅者達にも見えていた。
    「外のソロモンの悪魔に手間取って遅くなりましたが、援軍に参りました!」
     縛霊手から展開した祭壇で結界を作りながら、矧が大きく声を張り上げる。
     その声は、戦いの喧騒に消されることなく、病院側に届いていた。
    「他の病院が来てくれたのか! だが、何処の――」
    「考えるのは後だ。こちらも打って出るぞ!」
     通路の反対側からも、遠慮のない攻撃が始まる。
    「ギ、ギルト様が……? そんな馬鹿な!?」
    「ギルトの首は俺達が頂いたぜ」
     後背を突かれた上にギルトの死を聞かされ狼狽える配下達を、星瞑の魔術で渦巻いた風が飲み込んでいく。
    「年貢の納め時というやつですね」
     風が収まった所を、ケイが周囲に放った符で築いた壁が打ち据えた。
    「ちょっと踊ろうよー」
     深々見は殲術道具を手に情熱的に舞いながら敵を次々となぎ倒していく。
    「死に急ぎたいもの、来るがいい!」
     闇沙耶はそう言い放つと、炎を纏わせた刃を振り下ろし1人を斬り伏せる。
    「く、くそっ。こうなりゃまとめて殺っちまえ!」
     ギルト配下達も次第に動揺から立ち直り、破れかぶれの反撃を始める。
     戦いが混戦の様相を呈していく中で、光明が敵の攻撃を受けて膝をついてしまう。
     ずっと攻撃に専念し続けたが、その分、攻撃を受けるのも少なくない。その疲弊が今になって響いたのだ。
    「無茶しすぎですよ」
     体力に余裕のあるケイが庇う様に前に出る。
     だが、病院側の奮戦もあり、それ以上追い込まれる事は無く、ギルト配下の数は確実に減っていった。
     そしてついに。
    「いい加減、寝とけ!」
     闇夜が雷を纏わせた拳を振り上げる。
     顎を打ち上げられた男は、そのままぐらりと真後ろに倒れて動かなくなった。
    「今の人で最後かな?」
     深々見が見回せば、そこにはもう立っている修道士姿はいない。
     それでも起き上がって来ないか、他に敵はいないか。身構える時間が続き――やがて、向かいの通路で歓声が上がった。
     見れば、医師や看護婦姿の者達が無事を喜びあっている。
    「……救えて良かった」
     その姿に、矧が笑みを浮かべる。その笑顔は、彼自身が救われたかのような安堵の色があった。
    「いやあー。無事に終わって良かったね!」
     ずれた帽子を被り直す六玖も、笑みが浮かべている。
    「さすがに連戦は疲れますね……お腹が空きました」
     転がっていた椅子を起こし、座り込むケイ。
    「良かった。窮地に陥ってる人達を救うのはヒーローの役目だよね」
     精根尽きた様子で、星瞑も椅子に座り込んでいるが、その顔は実に満足げだ。
     3つのダークネス勢力に狙われた『病院』を巡る戦い。
     その一角は、灼滅者達の勝利で幕を閉じたのだった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ