殲術病院の危機～死者襲来

■リプレイ

●侵入
　灼滅者達が辿り着いたのは６階建てのビル。
　１階は窓が割れ、入り口にはガラスの破片や血の跡、そして腐った肉片が落ちて異様な臭いを発している。
　上を見上げれば、４階から上の窓には頑丈そうな金属のシャッターが下ろされていた。
　そんな中東側の外壁を登る人影があった。
「うかつに顔も出せないな……よし」
　内部の敵に見つからないよう壁を垂直に歩いて２階に登った紗守・殊亜（幻影の真紅・d01358）は、ガムテープを張りはめ込み式のガラス窓を割った。
　素早く中に入ると、続けて猫を抱えた布都・迦月（幽界の深緋・d07478）が高く跳躍する。空中で空気を蹴るようにもう一度高く昇る。殊亜の伸ばした腕を掴み、一気に室内へと飛び込む。
　すぐさま窓からロープが垂らされ、音が漏れぬよう結界を張っていた穂邑・悠（火武人・d00038）がロープを登りきる。そこで見たのは御盾崎・力生（ホワイトイージス・d04166）をお姫様抱っこする迦月の姿だった。
「おっとすまない」
　猫から元に戻った力生は着地する。
「気にするな……もう少し猫のままでも良かったがな」
　迦月は猫のもふもふとした感触を思い出すように呟く。
「ぷっ……、さ、さっさと行こうぜ」
　その光景に思わず噴出しそうになった悠は笑いを堪え、敵が居るだろう内部へ向かう。
　重苦しかった緊張も解れ、灼滅者達は迅速に行動を開始する。

　同時刻、西側にも同じように人影があった。
「忍法ガラス割りの術……なんちゃって」
　忍装束を纏う霧ヶ峰・海璃（絶切刃・d15615）はガムテープを張った窓を叩き割る。２階の窓の横、壁に垂直に立つ姿はまさに忍者の如しだった。
　中に入るとロープが窓から垂れる。それを空井・玉（野良猫・d03686）は俊敏に登る。
　登り切ると体からタイパン種の蛇と猫がするりと降り立った。
「ムズ痒い感覚ですね。出来ればもう遠慮したい」
　猫から人の姿に戻った姫切・赤音（紅榴に鎖した氷刃影・d03512）は、初めて猫になった感覚に体を震わせる。
「考えるべき事は多いけれど、まずは目の前にあるやるべき事をやれば良い」
　玉の言葉に皆が頷く。先導するように蛇がするりと奥へと入り込んだ。
　仲間が無事に侵入したのを確認すると、周囲を警戒していた少女も動き出す。
「全員侵入を終えたな。それではわたしも合流するので、後はお任せする」
　貴堂・イルマ（小学生殺人鬼・dn0093）は手伝いに来てくれた灼滅者達に目配せし、ロープを登った。残された灼滅者も行動を開始する。

●屍王
　天井から騒音が響き、埃が舞い落ちる。
「まったく、無駄だと分からないんですかねぇ」
　２階の一室。待合室のような広い場所で、ゾンビを従えソファーに座る男が溜息を吐く。騒音が聴こえるのは３階での争いが続いている証拠だった。
「まあ、好きなだけ抵抗すればよいでしょう。それだけ遊ぶ時間も長くなるというもの……くっ」
　声を殺すような笑い。顔の半分が水晶となった男の唇が厭らしく歪む。
「屍王らしいイヤらしい顔ですねェ」
　男がばっと振り向く、そこにはポケットに手を入れて不敵な笑みを浮かべる赤音の姿があった。その背には影で出来た巨大な腕。一斉に５体のゾンビが立ち塞がる。そこへ蛇がするりと近づき、その姿を人影へと変えた。
「全く巫山戯た事をしてくれますね」
　人の姿に戻った霧島・絶奈（胞霧城塞のアヴァロン・d03009）が指で十字を切る。すると赤き逆十字が放たれ男を切り裂いた。
「そのキレイな半貌を剥ぎ取ってあげましょうか？　じっくり嬲って、ね」
　冷たい視線で睨み槍を手にする。
「どうやってここまで下りてきたのかは知りませんが、わざわざ死にに来るとは愚かですねぇ」
　屍王が水晶化している右腕を上げる。すると黒い十字架が浮かび上がり周囲を闇に覆う。
「行くよクオリア。為すべき事を為す」
　玉とライドキャリバーのクオリアが前に出てその波動を受け止める。衝撃に鍋蓋のような盾が軋み、クオリアは吹き飛ばされる。そこへゾンビが群がってくる。
「ちょっと通りますよーっと」
　その真っ只中へ海璃が槍を旋回させて飛び込んだ。吹き飛ぶゾンビ達。だが１体が背後から手を伸ばす。
「汚い手を近づけないで欲しいですねェ」
　声と共に腕が切り落とされた。大きな音と共に赤音の巨大な刀が床に突き立つ。
「その程度で調子に乗り過ぎですよ？」
　闇の波動が赤音を貫く。吹き飛ばされる中、影の腕で受身を取った。だが屍王の腕が次の攻撃を放とうとしていた。
「そこまでだ！　ってな。好きにはさせねぇぜ」
　部屋に飛び込んだ悠の影が伸び上がり背後から屍王を飲み込む。
「くっ新手ですか」
　屍王は影を振り払い、ゾンビを盾にして背後に現われた灼滅者を確認する。
「ここは病院、生命を救う場所だ。屍王の来るところじゃない」
　それを丸ごと撃ち抜かんばかりに力生の銃口が火を噴く。無数の銃弾がゾンビに穴を開けていく。
「ええい、鬱陶しいですね」
「鬱陶しいのはお前の存在だ」
　攻撃しようとした屍王の側面から迦月が炎を纏う細剣を振るう。その刃は肩を斬り裂き、傷口から敵の身を焼く。
「がぁっ……おい！　３階のゾンビを何体か連れて来なさい！」
　傷を抑えながら屍王はゾンビに命令を飛ばす。
「ここは絶対に通さない！」
　殊亜が輝く剣に炎を宿しゾンビの右足を斬り飛ばした。そこへライドキャリバーのディープファイアが機銃を発射して追撃する。
　穴だらけになりながらも、命令通りに這って進むゾンビ。その首筋に黒い獣が喰らいついた。それはイルマの影が作り出す漆黒の豹。
「ここがお前達の墓場だ」
　ゾンビの首を折る。だがそれでもまだ動くゾンビを殊亜が斬り裂き止めを刺した。
「役立たずが！　私が直接行く！　お前達道を作れ！」
　３階へ向かおうとする屍王。それを阻止せんと、灼滅者達は武器を構え立ち塞がった。

●攻防
「人間如きが私の邪魔をするな！」
　屍王が腕を振るうと風が巻き起こる。風の渦は見えない刃となって灼滅者を襲う。
「人の家に邪魔しに来たのはそっちだろ？」
　クオリアが突撃し、風の勢いを弱めたところへ玉が盾を構えて駆け抜ける。風を貫きそのまま屍王の体にぶつかる。
　屍王は押し戻されながらも腕を叩き付けた。魔力の込められた水晶の拳が玉を捉え殴り倒す。更に振り上げられる拳。
「布都くん、仕掛けるぞ！」
「了解だ、俺は左から行く！」
　力生は屍王とゾンビを巻き込むように位置取りして、ガトリングを撃ち弾幕を張る。その攻撃に意識が向いた瞬間、死角から迦月の影が伸びて屍王の体に巻き付いた。縛り上げている間に玉は後退する。
　その空いた空間にゾンビが迫る。だが同時に爆発が起こり炎の渦がゾンビを薙ぎ倒す。
「火遁大弾炎の術ー、ニンニン」
　海璃の起こした術によりゾンビの足が止まった。
「手加減は無しです。全員ここでその腐った体を土に還しなさい」
　その機に絶奈が飛び込むと、正確無比な槍の旋風が次々とゾンビ達を襲う。顔を削り、腕を落とし、胴に穴を開け、血と肉片を飛び散らす。
　だが腹に大きな穴を開けたままゾンビは無表情に近づいてくる。その時、青白い閃光が奔るとゾンビの胴が両断された。
「死者は静かに眠るがいい」
　イルマの手には澄んだ湖の様に青い輝きを放つ両刃の剣があった。
「そら！　ザコはどいてなっ！」
　悠がゾンビの顔に槍を捻じ込む。そのまま捻って首を折り地面に叩き伏せると、止めの一撃を胸に刺し床に縫い付ける。
「何をしている！　そんな奴らも足止めできんのか屑ども！」
　倒されたゾンビを見て怒鳴りつける屍王。叱咤されゾンビ達は悠に迫る。
　左右から迫るゾンビに対し、槍を手放して飛び退く。そこへ入れ替わりに赤音が仕掛ける。両刃の剣が横薙ぎに振るわれゾンビの首を飛ばす。
「病院に屍の群れとは、随分ゴキゲンな三文芝居ですね」
　返す刃でもう一体の腕を斬り落とした。
「ですが大抵、その末路は一つきり。お望み通り、芥に還して差し上げますよ」
　赤音は血の滴る剣を振るい、口角を上げた。
「お前達もその屍の群れに加えてあげますよ！」
　屍王の前に黒い十字架が現われ周囲を闇に侵食していく。
「丁重にお断りさせてもらうよ！」
　殊亜が光輪を放ち、キャリバーが機銃を撃って威力を減退させながらその身で受け止める。体中に傷を作りながらも何とか耐えきった。だが続けてゾンビの腕が振るわれ、腐敗した爪が背中の肉を抉る。
「つっ……」
　咄嗟に前に身を投げて追撃を躱す。そのゾンビの動きが止まった。よく見れば周囲に糸が張り巡らされ動きを阻害していた。
「死体なんだから、少しは大人しくしてなよ……っと」
　横から迫るゾンビも鋼の糸の結界に阻まれ足を止める。
「大丈夫だ傷はそれほど深くない、すぐに傷は塞いでおく」
　その間に力生が温かな光で殊亜の傷を癒す。
「止め刺しときますよー」
　海璃が穂先から飛ばした氷柱が首の無いゾンビの胸を貫くと、そのまま崩れ落ちる。
「もう起きないよう火葬にしておきましょう」
　槍に炎を纏わせ、絶奈は最後のゾンビの体を貫いた。炎が移り灰となる。

「本当に役に立たない……どうしてこう無能な奴ばかりが私の邪魔をするんでしょうねぇ！」
　怒りを滲ませ屍王から風が巻き起こる。
「無能なヤツほど、他人を無能呼ばわりするものですね」
　赤音は風の刃に頬を、腕を、太股を切られながらも影の腕で急所だけは防いで前進する。低く踏み込み間合いに入った。大きな刀が振り下ろされる。
　屍王はそれを水晶の腕で受け止める。だが勢いを止めきれずに腕と肩に刃が喰い込む。
「どけ屑が！」
　その腕を振り抜いて赤音を吹き飛ばす。その開いた懐に玉が飛び込んだ。桜色のオーラを纏い拳を打ち込む。拳の連打が放たれ体の水晶がひび割れ砕けていく。
「この！」
　風を起こして玉を吹き飛ばした。宙を舞いながら玉は声を出した。
「クオリア……今っ」
　突撃した車体がぶつかり屍王のバランスを崩す。
「ニンニン隙ありでござるー」
　そこへ海璃が槍を突く。捻った穂先が脇腹を抉る。
「好機だ畳み掛けるぞ」
「それじゃあ一気に仕上げるかな」
　力生と迦月は一瞬視線を合わせて動き出す。迦月の影が屍王の足を捕らえる。そこに力生のガトリングが雨のように弾をばら撒く。
「小賢しい真似を！」
　屍王は影を辿り迦月に拳を振り上げる。迦月はオーラを纏ってその一撃を受ける、だが衝撃を止めきれずに地面を転がる。
　横から絶奈が逆十字のオーラを放つ。屍王はそれを闇の波動で相殺した。そこへイルマの影が獣となって足に喰らい付く。
「これで終わりだぜ！」
　悠が肩に大きな刀を担ぎ、跳躍から一気に振り下ろす。迫る刃から屍王は逃れようとするが、影が纏わり付いて動きが鈍る。咄嗟に水晶の腕をぶつけて刀を防ぐと、ガラスが砕けるような音と共に腕が折れた。
　残った腕で影を払い、屍王は背を向けて全力で走り出す。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な！」
「逃がさない！　未来の仲間を殺させはしない！」
　その前を遮ったのはキャリバーに乗った殊亜だった。
「どけぇ！」
　交差する瞬間、殊亜の剣は残った腕を落とし胸の中央まで刃が通る。だが足を止めずに屍王は階段の見える位置まで進む。そこで足が止まった。
　その視線の先には葉、璃理、良太が階段を塞ぐように待ち構えていた。
　思わず足を止める屍王の胸から２本の穂先が突き出る。
「がはっ」
　振り向けば悠と絶奈が槍を投げた姿勢をとっていた。
「こんな……屑どもに不死の私が……」
「手前ェは念入りに灼いてやる」
　赤音の放ったオーラの塊が屍王の頭を撃ち砕く。水晶は砕け、体は塵となって消え去った。
「自然の摂理に反した歪な躯は、あるべき処へと返れ」
　消滅したのを見届けると、迦月は背を向けて呟いた。

●共闘
　１階は別行動の灼滅者達で敵を排除したと、様子を見にきた正流、律希、シュテラから連絡を受ける。
　２階に上がってくる仲間と合流し、４０名を越す部隊が出来上がった。戦闘準備を整え激しい戦いの音が続く上の階へと進む。
　３階では病院の灼滅者がゾンビを押し戻し、防護壁が閉まろうとしていた。
「おーい、指揮官ダークネスのヤツは倒したぜ。俺らも灼滅者だ。残りのゾンビの相手を手伝わせてくれよ。早いトコ終わらせて落ち着きたいしな？」
「敵のボスは倒しちゃったよー。あとはくさったしたいばっかりだよー」
　大きな声で悠と海璃がゾンビと交戦中の灼滅者に呼び掛ける。
「……なんだと？　お前達は何者だ？！」
「俺達は武蔵坂所属の灼滅者だ」
「私達もダークネスと戦う灼滅者です。あなた方を助けにきました」
　迦月と絶奈が病院の灼滅者を襲うゾンビを攻撃し、敵では無いことを示す。続けて采、高明、ブレイブ、時史、万も集中砲火によって交戦中のゾンビを叩く。
「ノーライフキングは撃破した。あとは眷属だけだ。一緒に戦おう」
　力生は傷ついた病院の灼滅者に治癒の光を当てる。ヴァン、いろは、優歌、咲結も傷ついた者の治療を手伝う。
「……どうやら罠では無いようだな。分かった、ご助力に感謝する。総員！　これよりゾンビの掃討戦を行なう！」
「「おおぅ！」」
　白衣のリーダーらしき男が仲間に呼び掛け、仲間達も気勢を上げて攻勢に移った。
「医者も傍にいることだし、無茶させてもらうよ！」
「行こう、全てのゾンビを駆逐する！」
　病院勢に呼応し、殊亜もゾンビの背後を突くようにキャリバーに乗って突っ込み、イルマが影の獣と共に敵陣に走る。
　それに続いて颯音、矜人、薫、璃理、流希、朝陽、寵、律、一鷹、成実の前衛部隊も前に出てゾンビと交戦に入る。
「まったく屍がウジャウジャと……掃除が手間ですね」
「掃除は最後までやらないとね」
　赤音は再度ポケットに手を入れ、影の手を伸ばし敵中へと駆け、玉とクオリアもゾンビの群れ散らすように突撃する。
　それを援護するように空、太郎、イブ、静佳は攻撃を放って敵の迎撃を妨害した。
　ゾンビは背後に迫る灼滅者の部隊に向かって攻撃を開始する。それを葉、想司、良太、純也、燈が矢面に立ち押し戻す。
　直人、稲葉が右から、飛鳥、智寛が左から挟撃してゾンビの注意を逸らす。
「ちゃっちゃと倒しちまうぜ！」
「いっぱいいるねー」
　そこに悠が斬り込み、海璃は爆炎でそれをフォローする。逸れた敵を正流、律希、シュテラは連携して各個撃破していく。
　ゾンビを上回る数の灼滅者達の集団が戦場を駆け巡り、敵を切り裂き、貫き、焼き、穿ち、砕き、蹂躙していく。
　最後の一体の体が両断され、全てのゾンビは塵となる。死者の群れは消えて無くなり、ビルの中に静寂が戻った。
「我々の勝利だ！」
「「おおおおお！」」
「助かったよ、ありがとう！」
「やるじゃねぇか！」
　病院の灼滅者が次々と握手を求め肩を叩いていく。　
　病院も学園も関係なく、共に戦った戦友と勝利を喜ぶのだった。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年12月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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