殲術病院の危機~進軍する悪魔

    「正門付近の隔壁に甚大な被害が! これ以上は持ちません!!」
    「他の隊の人員を回して、白兵戦に備えろ! なんとしても敵を病院内に入れるなっ!!」
     とある殲術病院にて指揮を執るその医師は、仲間たちに指示を出しながら人知れず歯噛みしていた。
     当病院に襲撃あり、援軍を求む――こちらの援軍要請に対する、近隣の病院からの返答であった。
    「先生、我々はどうなってしまうのでしょうか……」
    「大丈夫。この病院が、そう易々とダークネスに屈するものか」
     日本中の殲術病院が同時に襲撃されるという異常事態に直面しながらも、彼は仲間を必死に鼓舞していたのだ。
     ――そんな中、最も被害を負っている正門へと、指揮官であるダークネスが姿を見せていた。
    「進め! ハルファス様に仇なす者共を誅戮するのだ!」
     軍服姿で頭からは山羊のような角を生やした女ダークネスは、戦闘服を纏った大勢の強化一般人たちを進軍させていた。
     彼女が率いる圧倒的戦力の前に、この病院が陥落してしまうのは時間の問題であった――。

    「諸君、非常にマズい事態が起きている。すぐに対処してもらいたい」
     神妙な面持ちで教室へとやってきた宮本・軍(高校生エクスブレイン・dn0176)。複数のダークネス組織による、全国の殲術病院への一斉攻撃が起きつつあるのだ。
    「関与しているのは、三体のダークネスを中心とした軍勢だ。ソロモンの悪魔・ハルファス、白の王・セイメイ、淫魔・スキュラ――いずれも我々学園とも因縁のある相手だ、捨て置くわけにはいくまい」
     対する病院勢力は、全国に拠点を持つ灼滅者組織である。
     防衛力に優れており、仮に襲撃されても籠城が可能で、その間に別の病院からの援軍を得ることができるのだ。
     だが今回は三つのダークネス勢力により同時攻撃が仕掛けられたため、互いに援軍を出すことができないでいた。
    「このままでは、孤立無援となった各病院が各個撃破されてしまう。同じ灼滅者として、なんとしても彼らを助けてやってほしい」
     そして軍は、地図を広げると一つの病院がある地点を示した。
    「諸君らに向かってほしいのはここだ。
     この病院は殲術隔壁を閉じて籠城しているのだが、正門方面の隔壁が真っ先に破られ、そこで白兵戦が展開されることになる」
     この病院に投入されたのは、ハルファス配下のソロモンの悪魔一体と、それが指揮する強化一般人数十体である。
    「まともにやり合えば、諸君らでは到底太刀打ちできない数だろう。故に君らは敵が病院に注力している隙を突いて、後方に控える指揮官を叩くのだ」
     指揮官であるダークネスを倒してしまえば、病院側も籠城をやめて強化一般人の殲滅に作戦を切り替えるだろう。
     そうなれば、彼らと強力して残りの配下も撃破することができるはずだ。
    「だが指揮官の撃破に失敗し、配下の中に逃げ込まれてはどうしようもできない。その場合は無念だが、撤退することを考えてくれ」
     最後に軍は、敵であるダークネスについて話し始める。
    「指揮官は、軍服姿の女悪魔だ。魔法使いのサイキックに加えて、帯刀している剣によってクルセイドソードの能力を使ってくることが予測されている」
     そして行動を開始する灼滅者たちへと、軍は激励の言葉をかける。
    「今回は普段と違い、大規模な戦闘に介入しなければならない。危険な任務を負わせてしまってすまないが、諸君らの武運を祈っている」


    参加者
    花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)
    羽嶋・草灯(三千世界の鳥を殺し・d00483)
    鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)
    川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    一宮・光(闇を喰らう光・d11651)
    丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)
    大和・閂(暁より勝利を求め・d20314)

    ■リプレイ


     なんとか籠城を続ける病院だったが、遂に正門の隔壁が破壊され、悪魔の軍勢との白兵戦が開始されてしまった。
    「よし、このまま一気に内部まで進めぇ!」
     揚々と配下に指示を飛ばす、軍服姿の女悪魔。だがその背後へと、数名の灼滅者が忍び寄っていた。
    「おう、そこの悪魔。邪魔が入らないところで俺らとやろうや」
     サウンドシャッターを展開しつつ、丹下・小次郎(神算鬼謀のうっかり軍師・d15614)がシールドで悪魔の後頭部を殴り付けた。
    「――っな、別働隊だと!?」
    「そういうこと。というわけで、一戦お相手願えないか?」
     言いつつ羽嶋・草灯(三千世界の鳥を殺し・d00483)は、指揮官直衛の配下もろとも、濃密な殺気の霧で包み込んだ。
    「指揮官さん、貴方のお相手は私達がしてあげますよ」
     花蕾・恋羽(スリジエ・d00383)もまたシールドを展開すると、挑発するように悪魔へと殴り掛かる。敵は剣を抜いてその攻撃を防ぐと、すぐさま病院側の配下と合流しようとする。
    「おいおい、前の戦争でもそうだったが、悪魔ってのは腰抜けの集まりかね。挑発にも乗れない腰抜けが前線指揮官とは、人材不足ここに極まり、か。
     直接戦闘が苦手な俺相手にも芋引くようじゃ……」
     言いつつ盛大な溜め息と共に、病院から遠ざかるように僅かに後退する小次郎。そんな仕草が、遂に敵の怒りを呼んだようだった。
    「ふん、この機に乗じて私を取りにくるとは、病院側も考えたじゃないか。だが残念だったな、たかが三人では私は殺れんぞ!」
     彼らの挑発に乗った悪魔は、彼らを追って病院から離れてしまう。
     ――そこへ、待機していた残りの灼滅者たちが、左右より現れて敵と病院とを分断したのだ。
    「――ほ、包囲されただと!? まだ仲間がいたのか!!」
     まず左方より、咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)が二体のキャリバーを引き連れて飛び出した。一体は自身のサーヴァント『バーガンディ』で、もう一体は恋羽の『紅桜』である。
    「まずは配下から片付けてやるよ」
     巨大な棺桶を抱えた千尋は、その棺桶に内蔵されたガトリングを掃射する。そして二体のキャリバーによる機銃と共に、配下へと弾雨を降らせる。
    「三人じゃなくて残念だったね。さすがにこの人数は辛いんじゃないかな」
     さらに同じく左方に待機していた鹿野・小太郎(バンビーノ・d00795)が、配下の一人の背後に回り込むと、サイキックソードによる斬撃で絶命せしめるのだった。


    「っく! 何人いようと同じことだ、私が全員殲滅してやる!」
     言いつつ敵は魔力を収束させる。そして形成された魔法の矢が、千尋へと見舞われた。
     そこへ右方から現れた仲間たちが、指揮官の周囲の配下を掃討すべく攻撃を仕掛けるのだった。
    「私の結界は運命の呪縛そのもの――抗えるものなら抗えよ」
     川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)の放った護符が結界を為し、悪魔や配下たちの動きを痛烈に封じる。
    「同じ灼滅者として、絶対に病院を守りますよ!」
     そして一宮・光(闇を喰らう光・d11651)の放ったオーラが、配下の一体を撃ち抜いた。
    「瀬戸際、強敵、知るところではない。ただ斃す――抗う暇も与えぬ程に」
     厳かな呟きと共に、スレイヤーカードから巨大な斧を解放した大和・閂(暁より勝利を求め・d20314)。斧を持つ手を鬼の姿へと変貌させながら、渾身の斬撃で配下を一体撃破する。
    「――散れ」
     敵の退路を塞ぐように立ち回りつつ、草灯は空高くへ矢を放った。すると配下たちの頭上から、大量の光矢が降り注ぎ、残る配下を一気に掃討する。
     そうして敵が配下を失ったところで、仲間たちは指揮官への集中攻撃に移った。
     まず小次郎の狙い澄ました光線に続いて、千尋の真紅のオーラを込めた斬撃が見舞われる。
    「悪魔の血を、あたしにくれよ」
     敵への紅蓮の斬撃によって、魔力矢で負った傷を癒やす千尋。
    「一人になっちゃったね。いくら強くても、軍人さんが一人じゃあ戦えないんじゃないかな?」
     言いつつ小太郎は敵へと素早く肉薄し、オーラを込めた拳の連打を繰り出す。
    「――っ! 貴様ら程度を相手に、部下など不要だ!」
     言いつつ敵は剣を構えると、目映い光を放ちながら眼前の小太郎へと斬撃を見舞う。――だが、その攻撃を間に入った恋羽が防いだ。
    「……大丈夫ですか、小太郎さん?」
     どこかぼんやりとした口調で仲間を気遣いつつ、オーラで自身の傷を癒やす恋羽。さらにそんな主を援護すべく、紅桜が悪魔へと突撃をかける。

     そうして灼滅者たちは皆で敵を包囲しつつ、じりじりと病院との距離を開いていった。
     結界を構築して敵の動きを封じる咲夜は、さらに縛霊手による殴打で敵の攻撃を妨害する。
    「う、動けん。小賢しい真似を!」
     眼前の咲夜へと斬撃を繰り出そうとする悪魔だが、千尋のバーガンディが盾となって防いだ。さらに、仲間たちの追撃がかかる。
     光の放った影が刃となって、敵の軍服を斬り裂き、そこへ斧を手にした腕を異形と化して斬り付ける閂。


    「半人前どもが! いつまでも私を侮っているんじゃないぞ!!」
     全身から強烈な魔力を放つ悪魔。そして突如、周囲の気温が急激に低下し始めた。悪魔の放った冷気が、前衛の灼滅者たちの全身を凍て付かせる。
     そこへ黒い外套をなびかせながら、草灯がナイフを振う。そして放たれた夜霧が仲間たちのダメージを癒やした。
    「その半人前に、そっちも追い詰められてるんじゃないか? ――行け、コウモリたち!」
     冷気による負傷をものともせず、大量のコウモリと化した影で敵を包み込む千尋。
    「ダークネス勢力の三連合軍による全国同時襲撃を仕掛けるくらいですから、灼滅者を成り損ないなどと侮る輩とは違うと思っていたんですが……。貴女も私たちを半人前と呼ぶのですね、残念です」
     言いつつ影を放って敵を捕縛する咲夜と、彼を機銃で援護するバーガンディ。
    「確かにダークネスからすれば半人前かもしれないけど、オレたちだって結構やるんだよ?」
    「そうです。私たち人間の底力、見せてあげますよ」
     小太郎の輝くサイキックソードと、恋羽の霊体化したクルセイドソード、二振りの刃による斬撃が、敵の剣による守護を打ち破った。
    「この病院も、そして俺たちも! お前たちダークネスには絶対に負けない!」
    「……必ず帰ると宣ったんだ。無事で帰るも、お前を斃すも、全て成し遂げるさ」
     敵の防御力が低下したところへ、光の狙い澄ましたオーラキャノンが敵の急所を射貫く。さらにそこへ、閂の巨大な斧による上段斬りが見舞われた。
    「ぐ――! 馬鹿な、この私が貴様ら如きに!!」
    「さっき、直接戦闘が苦手と言いましたが……、あれは嘘です。逃げるふりで敵を引きつけるのは、厳しかった師匠が手放しで褒めた数少ないことですよ」
     呟きと共に、鋼鉄と化した拳を振う小次郎。その一撃が、遂に悪魔の体を打ち抜くのだった。
    「奇をてらわない、なかなかの指揮官――だが悲しいかな、あの用兵は背伸びしすぎだ。『城を攻めるは下策、心を攻めるが上策』ですよ」
     消えゆく悪魔の亡骸を見据えながら、静かに呟く小次郎だった。
     そして敵指揮官を撃破した灼滅者たちは負傷者に応急処置を施すと、すぐさま病院側への加勢に赴くことにした。


     敵の軍勢が統率を失い、次第に戦線が崩れつつあることを訝しむ病院側の者たち。その耳に、ESPによる草灯の声が聞こえてくる。
    「僕らはこの病院を助けに来た武蔵坂の灼滅者だ、敵指揮官は既に倒した! 共に困難を散らそう!」
     病院の指揮官はその言葉を信じてよいものか判じかねた。しかしこの時を逃してはこの病院に勝機はないと決断し、正門の戦闘員たちへと進軍の指示を出した。――ここに病院と武蔵坂学園の共闘が開始されるのだった。

     そして病院側が攻勢に出たことを見て取った草灯は、弓を手に攻撃を開始した。矢を放ち、敵の一団へと大量の矢を降らせる。
    「他勢力とはいえ同じ灼滅者の救援ですからね、気張っていきますよ!」
     魔導書によって敵群へと呪縛を刻み、攻撃を引き付ける小次郎。
    「的は余るほどいるからな、思い切りばら撒けよ」
     相棒のバーガンディの機銃と共に、敵群を棺桶に内蔵されたガトリングの弾雨で薙ぎ払う千尋。
     そして灼滅者たちと病院側との挟撃により、次第に敵の勢力が衰えていく。灼滅者たちの前に、病院側の者たちが姿を見せ始めた。
    「お前ら、武蔵坂の灼滅者だってな! 援軍に来てくれて助かったぜ!」
     まるで闇堕ちしかけのような外見の少年が、灼滅者たちへと感謝の言葉を告げる。
    「お仲間のピンチは放っておけないでしょ。ヒーロー参上、って感じ?」
     ウインクと共に、親指を立てて返す小太郎。そしてほんの一瞬の邂逅を終えて、サイキックソードを手に敵群へと突っ込んでいった。
     恋羽もまたクルセイドソードを手に次々と敵を切り裂いていく。だがふと、病院の灼滅者の一人が敵に襲われそうになっているのを目にした。
    「助けてあげて、紅桜」
     主の指示に応じて紅桜は、不意打ちを仕掛けていた敵を突撃で弾き飛ばす。
    「ありがとう、助かったわ!」
    「いえ、危ない時はお互い様です」
     助けた少女へと微笑で応じながら、次なる敵へと向かう紅桜。
    「これ以上病院の人たちを傷付けさせはしませんよ。――私の結界から、逃がしはしない」
     縛霊手を展開して、広域に結界を張る咲夜。その結界によって、錯乱する大勢の配下たち。
    「かなりの数でしたが、敵もだいぶ減ってきましたね」
     言いつつ、蜘蛛の巣のように展開させた影『影蜘蛛之巣』で、配下の一体を飲み込む光。
     しかし病院の何が、ダークネスをここまで本気にさせたのだろうか――と、病院の底知れなさを危惧していた光だが、ひとまずこうして共闘できたことに安堵する。
     さらに残り僅かとなった配下を、鬼の腕による殴打で撃破する閂。
    「……ふぅ。さて、初仕事にして大仕事でどうなるかと思ったが、なんとか無事生き残ることができたな」

     そうして、残敵がほぼ掃討されたことを確認した灼滅者たちは、病院側にも重傷の者がいないことを見て取ると、学園へと帰還することにした。
     未だ謎多き殲術病院だが、今回の共同戦線によってよき仲間になれることを信じて、無事守り抜いた病院をあとにするのだった。

    作者:AtuyaN 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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