甘いお誘い、危険な香り☆

    作者:雪月花

     空と鉄塔の見える空き地。
     そこが、彼女の練習場所だった。
    「……ふぅ、今日はこのくらいでいいでしょうかねぇ」
     栗色の髪をツインテールにした可愛らしい少女が、キレ良くステップを決めてダンスを終える。
     と、そこへぱちぱちと手を叩く音が響いた。
     少女がそちらを向くと、物陰からグラマラスな女性が現れる。
    「あなた、可愛いわね。お名前は?」
    「ありがとうございますぅ。星空・リリカっていいますぅ」
     照れ笑いを浮かべるリリカに、女性は笑みを深くする。
    「ねぇ、丁度ケーキを買って来たんだけど、良かったら一緒に食べない?」
    「ケーキですかぁ♪」
     夜空を見上げながら、土管に並んで座った二人はケーキを口に運ぶ。
    「美味しい?」
    「はい~。とっても……あれ……?」
     リリカの焦点がぽわっとぼやける。
    「なんだか……」
     女性はそんな少女の耳元で囁いた。
    「ねぇリリカちゃん、あなた淫魔なんだから、その力を使えばこんな練習なんて必要ないでしょう?」
    「えっ……」
    「ラブリンスターの許にいたって、窮屈なだけじゃない。アイドル? どうせバベルの鎖のお陰で、売れやしないのにね」
    「そ、そんなことないですぅ。ラブリンスター様は、がんばって」
    「頑張る、ねぇ……努力してるのは、人間に媚びることくらいじゃないの?」
    「なっ」
    「その点、スキュラ様のところは良いわよ。楽しいし、淫魔らしくしていられるもの」
     女性――スキュラ配下の淫魔は、愕然としているリリカに色々と吹き込んでいく。
    「それに、半端な力しか持ってない灼滅者にまでおもねるなんて、大淫魔の格じゃないと思わない?」
    「おもねるってなんですかぁ?」
    「あぁ、うん……おもねるってのはね……」
     
     灼滅者達が教室に集まると、園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)はなんだかオロオロしていた。
    「あ、みなさん……来てくださって、ありがとうございます。みなさんも、この学園の芸術発表会にラブリンスターさんが来ていたのはご存知ですよね」
     何故かいつの間にか混ざっていたラブリンスター。
     それはそれとして、彼女も楽しんでいたようだけれど。
    「その……彼女のお話によると、風真・和弥(真冥途骸・d03497)が予想なさっていた事態になってしまっているようなんです」
     槙奈の話によると、ラブリンスター配下の淫魔を強引に勧誘して寝返らせようと、スキュラ配下の淫魔達が動いているのだという。
     スキュラ配下の淫魔は、怪しい技を使ってラブリンスターの配下を籠絡しようとしているので、もしよければなんとかして欲しい、とラブリンスターは言っていた。
    「スキュラの勢力が強くなるのは、学園にとっても良くないです。それと……ラブリンスターさんは、スキュラ側に寝返ってみなさんを攻撃してきた淫魔に関しては、悲しいけど灼滅されても仕方ない、と仰っていました」
     場合によっては、2体の淫魔を灼滅することになるかも知れない。
    「みなさん、お忙しいと思いますが、お手すきの方がいらしたらお手伝いいただけないでしょうか?」
     
     依頼を受けることになった灼滅者たちに、槙奈は少しほっとしたように説明を続ける。
    「ラブリンスター配下の星空・リリカさんが町外れの広場で練習している時に、スキュラ配下の淫魔、マリーさんが現れます。マリーさんはケーキを差し入れますが、これに何かがあるみたいで……リリカさんがふわふわした気持ちになっている間に、色々吹き込んでスキュラ側に引き込もうとするんです」
     阻止する為には、勧誘中に乱入して、リリカがラブリンスター側に留まるように説得する必要があるという。
    「リリカさんは元々アイドルに憧れていらっしゃったようですから、アイドルの良さやラブリンスターさんの良さをアピールして、スキュラに対しては悪い部分を押していけば、いいんじゃないでしょうか」
     上手く説得出来れば、リリカは戦闘に加わらず、戦う相手はマリーだけになる。
    「説得に失敗してしまうと、2体と一緒に戦わなければならなくなります。でも、どちらか一方を灼滅出来れば、もう1体も撤退していくと思いますから……」
     無理はしないで下さいね、と槙奈は心配そうな顔をした。
    「マリーさんは、サウンドソルジャーや影業のサイキックを、リリカさんは同じくサウンドソルジャーと天星弓のサイキックを使用してきます」
     マリーは見た目通り色気たっぷり大人のお姉さん的な淫魔で、リリカは普段からふわふわした感じの不思議ちゃんキャラらしい。
     勧誘中もちょっとズレた返事をして、マリーを梃子摺らせているようだから、乱入する時はそこまで慌てなくても大丈夫そうだ。
    「ラブリンスターさんを助ける、という訳ではありませんが、敵対する淫魔の勢力を増やしてしまうと大変です。どうかみなさん、よろしくお願いします」
     槙奈はぺこりと頭を下げた。


    参加者
    神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)
    黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392)
    琴葉・いろは(とかなくて・d11000)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    高辻・優貴(ピンクローズ・d18282)

    ■リプレイ

    ●星空の下で
     遠く高くそびえる鉄塔。
     瞬く星座を隠すように、暗い雲がゆっくりと横切っていく。
     妖艶な女性――スキュラ配下の淫魔・マリーは、力の抜けたリリカの肩に腕を回して囁いていた。
    「わたしのしてきたこと、ムダだったんでしょうかぁ……」
     リリカは目を潤ませて呟く。
    「努力する方向が間違ってただけよ。これからは、淫魔として楽しく過ごすことに力を注げば良いじゃない」
    「間違って……た……?」
     夢も今までの積み重ねも、憧れの存在への想いも。
     砂のように崩れようとしていた、その時だった。
    「「待ちなさい!」」
     灼滅者達が空き地に突入した。
    「こんな時にお客さんなんてね」
     マリーは意外そうながらも余裕の体で肩に掛かる髪を払い、リリカを抱えて土管から飛び退いた。
     倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392)が仲間とは違う足取りで近付いてきたのに気付いたのだ。
    (「包囲しようとしてるの、バレちゃったか……」)
     マリーを包囲することについては殆どの灼滅者が考えていたが、そのタイミングはまちまちだった。
    「何かご用? 良い子はお家へ帰る時間よ」
     力の抜けたようなリリカを支え、マリーは嫣然と微笑む。
    「他戦力を自戦力へ勧誘……淫魔らしいね」
     けれど厄介だと、姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)は深い藍の瞳でマリーを見遣る。
     神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)の目は、クールな杠葉とは打って変わって睨むように淫魔を射ていた。
    「アイドル志望の女の子を騙そうなんて……怪しいおねーさんにはおしおきだよっ!」
    「私もこんな手法は気に入らないし、潰させて貰うよ」
     びしっと人差し指を立てる希紗に、杠葉も同意した。

     ぽやんとした顔のリリカに、高辻・優貴(ピンクローズ・d18282)は少年のような凛々しい眼差しを向けた。
    「お前のアイドルになる夢ってのは、そんな簡単に諦められるものなのかよ?」
     今度は正真正銘の男子、黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688)が「そうだ」と同意を示し、続ける。
    「今までその道を目指すために努力してきた自分を否定するということだぞ……アイドル、なりたいんだろ。なら、ここで諦めるは早いんじゃないか?」
     今まで頑張ってきた自分の夢を捨て去ってしまっていいのかと、訴え掛けた。
    「アイドルじゃねーけど、俺もいつかバンドで有名になりたいって思ってる。それは簡単なことじゃねーのは分かってる。でもよ、自分の実力を認めさせることができたら、爽快じゃねーか?」
     ニッと笑う優貴。
    「あら、王子様達に人気なのね、リリカちゃん」
     揶揄するようにマリーは笑った。
     大人びた雰囲気の翼だけでなく、優貴も中性的な顔立ちと服装もあって男子のように見えるからだろうか。
    「でも淫魔らしく生きるなら、もっと沢山の素敵な子と一緒にいられるわよ?」
    「それは……」
     マリーの誘惑に、リリカの心が揺らぐ。
    「待って下さい」
     それを引き止めたのは、和装の良く似合う琴葉・いろは(とかなくて・d11000)だった。
    「リリカさんは、どうしてアイドルを目指そうと思われたのですか?」
     それを思い出して欲しいと、穏やかな菫色の瞳は語る。
     ダンスに歌にと一生懸命になるからには、きっと切っ掛けがあった筈だと。
    「わたし、ラブリンスター様のステージを見て……凄いって思ったんですぅ。ラブリンスター様はとっても輝いていて、わくわくして!」
    「でも、お客さんに殆ど見て貰えないんじゃねぇ」
    「あうぅ」
     マリーの横槍に、キラキラし掛けたリリカの顔が曇ってしまう。
    「ラブリンスターは、アイドル活動に関しては真剣にやってるぞ」
     咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)は『ドキドキ☆ハートLOVE』のジャケットを見せ、対抗する。
    「このCDも、バベルの鎖がなけりゃもっと売れてるんじゃない?」
     マフラーに顔を埋めた彼女のテンションは低そうだけれど、ここに来る前にCDの内容も聴くなど密かに説得に力を入れていた。
    「あぁ、そのラブリンスターのCD。うちの学園でもかなり人気のようだ……格だのなんだのというが、真のアイドルになるには下々から広めていくのが順当だろう? 焦る必要もないと思うぞ」
     リリカが目を丸くしたのに、翼は静かに笑む。
    「リリカは、代々木の野外ライブには出たの?  ラブリンスター軍団は見事なパフォーマンスを見せてくれたよ」
    「ラブリンスターのライブは大成功だったんだよ。わたしも見に行ったけど凄かった! リリカちゃんもこのままがんばれば凄いアイドルになれると思うよ!」
    「見に来てくださったんですかぁ?」
     千尋と希紗がライブの話をすると、リリカの反応も大きい。
    「まだほんのちょっと、バックダンサーで出して貰えるだけですけどぉ……」
     恥ずかしげに俯く彼女に、希紗は強く頷く。
    「夢を追い掛けて一生懸命に努力してるリリカちゃんは凄いと思う! こんな怪しいおねーさんの一言で、夢を諦めて欲しくないよ!」
    「淫魔の力を使う偽りのアイドルではなく、純粋に踊りや歌で勝負する真のアイドルたるラブリンスター、その誇り高さは尊敬に値すると私は思うよ」
     打って変わって、冷静にラブリンスターの努力を認めた杠葉は、ちらりとマリーの顔を見遣る。
    「その点そこのスキュラの犬……淫魔の力を安易に肯定すると言うことは、淫魔の力なしでは何もできないと自ら認めているようなものだね。淫魔の力に頼る怠惰さは、踊りや歌を生業とするアイドルを侮辱する行為、違うかな?」
     マリーは肩を竦めた。
    「それは鳥に飛ぶな、魚に泳ぐなと言っているようなものよ。摂理と本能に従って、懸命に生きることの何が怠惰なのかしら……よく分からないわ」
     彼女の言い分は気にせず、何処か勝気そうな眼差しのエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)も口を開く。
    「努力をするのは悪いことではないと思うよ。そうした努力が魅力をより一層輝かせ、見ている人に夢と希望を与えるのが真のアイドルなんじゃないのかな?」
    「夢と希望……」
     リリカが呟いた。
     うんうんと頷く紫苑。
    「アイドルっていうのはね、誰かに言われたり自分からなるものじゃないのよ。誰かが憧れてくれたら、それはもうアイドルなの。あなただってラブリンスターに憧れたんでしょ?」
     笑みを浮かべる彼女を、リリカはじっと見詰めている。
    「ラブリンスターに憧れてあなたが努力したみたいに、努力してるあなたに誰かが憧れてくれたら、それはとても素敵なことだと思わない? そうなったら、あなたはもう立派なアイドルなのよ」
     続けられた言葉に、リリカははっとしたような顔をした。
    「わたしが、誰かに憧れて貰える……」
    「あら、ダメよリリカちゃん。また苦労をする道に戻るの?」
     マリーは執拗にリリカを引き戻そうと囁く。
     けれど……朧な意識に入り込んだ淫魔の言葉は、グラグラと崩れそうになっている様子。
    「努力を怠らないリリカさんには、真のアイドルになる素質があると私は思います」
     こんな横槍で、今までの努力を無にしてしまわないでと、いろはが言い募る。
    「人も淫魔も関係ねえ。音楽が好きなら頑張れよ!」
     ダメ押しとばかりに、優貴も声を張り上げた。
     短い沈黙の後。
    「……やっぱり、ダメですよぉ」
     俯いたリリカの肩が震える。
    「わたし……わたしは、スキュラさんよりラブリンスター様の方がずっとずっと、ずっと大好きですぅ! 歌ったり踊ったりするのも好き!」
     精一杯の声を上げながら、リリカはマリーの手を振り払って逃れた。
     その姿は、翼を生やしたちょっと際どい天使のような姿に変化している。
    「皆さんのお陰で、思い出しましたぁ。いつかラブリンスター様と一緒に最高のスターになりたいって、アイドルを目指し始めたの……ぁ」
     灼滅者達の前に降り立った彼女は、ふにゃふにゃと座り込んでしまった。
    「まだケーキに入っていた怪しい何かが効いてるのか」
     手を差し伸べる仲間達の側で、翼が呟く。
     いろははそっと微笑んで見せた。
    「少しの間、後ろに下がっていて頂けますか?」
    「え、えへへ……ありがとうございますぅ」
     リリカはちょっと恥ずかしそうに笑って、素直に従った。
    「仕方ないわね……あなた達も簡単には帰してくれそうにないみたいだし」
     武器を構え戦闘体勢に移っていく灼滅者達を前に、マリーは溜息をつく。
     その姿は、赤い蝙蝠羽とドレスの淫魔本来の姿に変わっていった。

    ●ブラッディ・マリー
     灼滅者達はマリーを包囲しようとしたが、先のことで警戒されてか上手くいかなかった。
     マリーの背には、金網が張られたフェンス。
     飛び越えて逃げられる可能性も含みながらの開戦だった。
    「スキュラ側の淫魔達は、具体的に何を目標にしているの? ただ、淫魔の能力を使うだけ?」
    「決まってるでしょう」
     エアンの問いにマリーは肩を竦めた。
    「スキュラ様にダークネスの頂点に立って頂く為よ。それには、まだ沢山の仲間が必要なの」
    「だから、こんな強引な勧誘をなさったのですか……」
     いろはが瞳を揺らすと、翼も思案げに視線を下げる。
    「戦力は幾らあっても良いということか」
     ダークネス同士のせめぎ合いに勝つ為には、手段を選ばないのだろう。
    「腐れ尻軽ビッチがアイドルのなんたるかについて語るんじゃないわよ!」
     周囲を黒い殺気で満たしながら、紫苑が剣幕を見せた。
    「年増の駄肉で誰かを誘惑出来るなんて思わないでよね。てゆうかその格好、流石に無理あるんじゃないの? もう少し若い外見にしてみたらどうかしら?
     ……って、何がおかしいの」
     罵声を浴びせる彼女に、マリーはくすくすと笑っていた。
    「だって、あなたね。覚えたての言葉が嬉しくて使ってしまう子供みたいだから」
     笑いが収まったマリーは、何処か優しい笑みを湛えたまま続けた。
    「ダークネスと渡り合っていくつもりなら、人間とは生きている世界も価値観も違うって、知っておくことね。それに……そんな汚い言葉使う子がいたら、同レベルと思われ兼ねないお仲間のことも考えてあげた方が良いんじゃないかしら」
    「……っ」
     紫苑は妖の槍を握り直した。
     何故か諭されているような状態だが、戦闘中だ。
    「あぁ、それとね。あなたの主張でいくと、ラブリンスターなんてそれこそイイ年してアイドルです~とか言って、痛い格好してるお婆ちゃんじゃない」
    「うっ」
    「ひ、酷いですぅ~。ラブリンスター様はお婆ちゃんじゃないですぅ……」
     言葉に詰まった灼滅者の後ろで、リリカはちょっと泣きそうになった。
    「……とにかく、即効でケリをつけよう」
     杠葉が冷静に告げる中、灼滅者達は改めて攻撃を仕掛ける。
     前衛5人のうち、彼女と希紗、エアンがクラッシャー、後衛にスナイパーの翼を配する火力寄りの布陣だ。
     ディフェンダーの千尋といろはを援護するように、千尋のライドキャリバー・バーガンディとメディックに回る優貴の霊犬・モモもディフェンダーを位置取っている。
     希紗がフォースブレイクを叩き込むのと同時に、エアンの妖の槍の穂先が螺旋を描いてマリーを貫く。
     更に紫苑の指輪から放たれた制約の弾丸が、マリーの身に痺れを齎した。
    「猟犬からは逃れられない……喰らいつけ!」
     hellhound――狗の姿を取った翼の影がマリーを丸呑みにする。
    「面白いわね」
     植え付けられたトラウマにも楽しげに、マリーは植物の蔦のような影を操って対抗してきた。
     影に灼滅者達が切り裂かれる毎に、ドレスの赤い模様が増し、色を深めているようだ。
    「踊りの心得を試してあげるよ……私の舞についてこれるかな?」
     風のように、暗殺者のように、『星詠杖カデンツァ』を手に杠葉が迫る。
     しかし、相手もダークネス。
     ドレスの裾を翻し、流れるようなステップでそれを往なす。
    「なかなか筋がいいじゃない。あなたもダンサーでも目指す?」
    「遠慮しておくよ」
    「そう……」
     マリーは笑みを浮かべたまま、囁くように歌った。
     始めのうちにいろはが掛けていたワイドガードのお陰で半数はダメージのみに留まったが、精神を絡め取るような感触を振り払えない者もいた。
    「拙い……っ」
     誘惑に耐え、千尋は『ブラッディガーディアン』の刀身に赤い光を宿してマリーを斬りつける。
    「そう、もっと抗って頂戴」
     催眠に掛かってしまった前衛陣が、攻撃対象を誤って混乱し掛ける。
    「しっかりしろ、俺の歌を聴けぇ!」
     共鳴にキュアを乗せた優貴の涼やかな歌声が、仲間達の靄の掛かった思考を濯いでいった。
    「皆さん、もう少しです」
     いろははもう一度WOKシールドを翳し、癒しの効果も付随するシールドを張りながら、内心ほっとしていた。
     マリーに唆されても、リリカは淫魔の力で相手を魅了することは選ばず、自分達の力を借りてでも今の自らの原点を思い出してくれたのだから。

    ●あの星を目指して
     ダブルジャンプで空を駆け、希紗は金網を蹴ってマリーの真上から無敵斬艦刀を打ち下ろす。
    「これは厳しいわね……」
     その一撃だけでも結構なダメージだったのか、マリーの笑みが苦いものに変わる。
    「半端な力しか持ってない灼滅者に追い込まれるのは、どんな気分?」
     夢を邪魔する彼女が許せないと思っていた希紗は、睨むように笑みを返した。
    「そうね……やっぱりあなた達は脅威だわ。早いうちになんとかしなければね」
     ばさりと赤い翼を広げる淫魔。
    「逃がす気はないよ」
     すかさずエアンが妖冷弾を放ち、羽ばたこうとした翼を凍てつかせる。
     マリーもバッドステータスが嵩んでいた為、それからは灼滅者達の総攻撃に晒された。
    「そろそろ終わりにしてやるよ……」
     マフラーを激しくふかしたバーガンディに跨る千尋が、そのまま突撃。
     クルセイドスラッシュの一閃が、マリーに致命的な傷を与えた。
    「仕方ないわね……」
     肩を竦めるような仕草で、マリーは崩れ落ちた。

    「皆さんが来てくれてなかったらと思うと……」
     正気に戻ったリリカは震え上がった。
     淫魔が淫魔に籠絡されるなんて、堪ったものじゃないのだろう。
    「ううぅ、これからは知らない人に食べ物を貰わないようにしますぅ~」
     そんなリリカを見て、いろはは微笑んだ。
    「いつか貴方をテレビ画面で拝見したいです。バベルの鎖に負けずに、精進してくださいね」
    「いつかリリカちゃんのライブに呼んでね! そんな日が来る事を祈ってるよ!」
    「方向性は違うけど、音楽を愛する同士頑張ろうな!」
     希紗と優貴も笑顔を見せる。
    「……私も練習を頑張るリリカを応援するよ」
     控えめに、口許を緩める杠葉。
     ストレートに応援していいものかと軽く悩んだエアンも、頑張れと言葉を添えた。
     激励を受けて、リリカはとても嬉しそうだ。
    「ありがとうございますぅ。わたし、きっと皆さんに楽しんで貰える素敵なスターになります!」
     天上に輝く、星達のように。

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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