守れ! 佐野の耳うどん!!

    作者:日向環


    「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」
     滋賀県琵琶湖のほとりで、一体の強力なご当地怪人が復活を果たした。
    「我、目覚めたり。そしてスキュラよ、サイキックエナジーは受け取った。
     我はここに、『日本全国ペナントレース』の開催を宣言する!
     その身に大地と人の有り様を刻む怪人共よ、我、安土城怪人が元に参集せよ」
     琵琶湖から放たれた大量のサイキックエナジーは、様々なご当地へと降り注ぎ、新たなご当地怪人を生み出した。
     ご当地をその身に刻む者、すなわち『ペナント怪人』である。

    「安土城怪人様のお呼びである、いざ、琵琶湖っ!」

     日本各地に現れたペナント怪人達は、一斉に琵琶湖に向けて走り出したのだった。


    「貰って困るお土産ベスト5の中に入ると思うなのだ」
     木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)が、「鎌倉」と記された薄汚れたペナントを広げる。
    「マリィアンナ・ニソンテッタ(聖隷・d20808)さんが危惧していた事が、現実になってしまったようなのだ」
     一昔前の観光地のお土産の定番であったペナントの怪人が、日本各地に一斉に出現してしまったのだという。
    「因みにこのペナントは、いとこのお姉ちゃんから借りてきたのだ。こうやって、壁に逆さに貼るのが『しきたり』だそうなのだ」
     そう言ってみもざは、黒板にペナントを逆向きに貼ってみせる。
    (「たぶん違うと思う……」)
     灼滅者たちは心の中でそう思ったが、口には出さなかった。
    「あ、そうそう。ペナント怪人の話をするのを忘れていたのだ」
     みもざはポンと手を叩く。
     ペナント怪人は、頭部が三角形のペナントになったご当地怪人で、頭部に書かれた『阿蘇山』とか『京都』とか『摩周湖』などに由来するご当地攻撃をしてくるようだ。
     更に、ペナント怪人は、その地に住む郷土愛豊かな一般人を強化して『ご当地黒子』とする力を持っているらしく、3~5名を配下として引き連れているらしい。
    「ご当地黒子の皆さんは、前進黒タイツの姿で、頭部にご当地の名前が書かれた姿の強化一般人なのだ。ご当地に由来する攻撃を仕掛けてくるぞ! KOするか、ペナント怪人を灼滅すれば、なんやかんやで元の姿に戻るって寸法なのだ」
     みもざは黒板に、ペナント怪人とご当地黒子の想像図を描いた。ちょっと笑えるイラストだ。
    「北海道にある五味温泉のペナント怪人なのだ。地元の下川うどんをこよなく愛する怪人なのだ」
     特に手延べうどんは、コシと風味が強く、独特の食感がクセになるという。
    「この五味温泉ペナント怪人は、何故か滋賀県の琵琶湖を目指して移動しているのだ。北海道の広大な大地を駆け抜け、海を泳いで渡って南下しているのだ」
     ご苦労なことである。
    「ペナント怪人は、道すがら、他の地域の名物を発見するとそれを破壊しようとする、とっても迷惑なやつなのだ」
     その途中、怪人は栃木県の佐野市を通り掛かる。
    「佐野市には、『耳うどん』という郷土料理があるのだ」
     耳の形に似ているので、その名が付いたという。その耳は、悪い神様の耳を意味している。耳を食べてしまえば家の話を悪い神様に聞かれることがないとのことから、一年間悪いことが起こらないようにとの意味を込めて、食されているようだ。
    「このまま放っておくと、佐野の郷土料理が失われてしまうかもしれないのだ。それを阻止する為に、ペナント怪人を撃退しちゃって欲しいのだ」
     ペナント怪人を撃退することは、各地の名物を守ると同時に、ご当地黒子とされてしまった人々を救出することにも繋がる。
     佐野市にあるとある街道沿いに、耳うどんを提供してくれるうどん屋がある。空腹のために立ち寄った五味温泉ペナント怪人が、その店で耳うどんを発見し、激怒して暴れ回るのだという。無茶苦茶である。
    「五味温泉ペナント怪人は、5人のご当地黒子さんたちを引き連れて、街道を走ってくるのだ。なので、お店の手前で怪人と接触して、耳うどんを振る舞ってあげるといいのだ」
     道端で待機し、現れた五味温泉ペナント怪人に、試食と称して耳うどんを振る舞えばいいというわけだ。つまり、先回りして耳うどんを食べさせ、激怒して暴れ出したところを撃退する作戦だ。
    「この作戦ならば、怪しまれずに怪人と接触できるのだ」
     五味温泉ペナント怪人は、うどんのように、にょろにょろと伸びる剣を武器にしているという。うどんを伸ばして相手の動きを封じたり、振り回して複数の相手を攻撃してくるようだ。
    「それと、1人の体に乗っかって、相手を踏み踏みするのだ」
     まるで、うどんを捏ねるように。余談だが、その武器の名前は「手延べうどんブレイド」というらしい。
    「五味温泉にまつわる攻撃がないというツッコミどころ満載のペナント怪人なのだ」
     温泉より、地元のうどんに愛を注いでいるらしい。
    「ご当地黒子の皆さんも、踏み踏み攻撃をしてくるのだ。それと、粉を振り撒いて味方の体力を回復させて、防御力も高めてくるのだ」
     全員、武器として丸棒のようなものを持っているようだ。
    「佐野の郷土料理を失うわけにはいかないのだ。五味温泉ペナント怪人の撃破を頼むのだ!」
     みもざは「鎌倉」のペナントを振り回す。
    「あ、それとね。時間があったら、折角だから耳うどんを食べてくるといいのだ。みもざにも、お土産をよろしくなのだ!」
     さりげなくお土産を要求して、みもざは教室を後にした。


    参加者
    砂原・鋭二郎(中学生魔法使い・d01884)
    四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)
    天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)
    犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)
    秋風・千代助(からんか・d12389)
    清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)
    キング・ミゼリア(ヴァカチアンメイド・d14144)
    ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)

    ■リプレイ


     師走である。
     栃木県は北関東に位置することもあり、朝晩の冷え込みが厳しくなってくる季節ではあるが、佐野市は宇都宮市に比べれば南にあることもあってか、太陽さえ顔を覗かせてくれれば、昼間はコート無しでも過ごすことができる。(注/ただし個人差があります)
     佐野市と言えば厄除け大師が有名だが、ラーメンやらいもフライなどのご当地料理も良く知られている。佐野市のゆるキャラが、2013年のゆるキャラグランプリで優勝したのも記憶に新しい。
    「どんな味か楽しみだわ」
     わくわくしながら成り行きを見守るキング・ミゼリア(ヴァカチアンメイド・d14144)。初体験の料理を前に、期待に胸を膨らませる。
    「王族テイストのおうどんをバキッと振る舞っちゃうわよ」
     調理も主にキングが担当だ。
     街道沿いにテントを張り、即席の試食コーナーを設置した武蔵坂学園の灼滅者たちは、現在、せっせとその準備中だった。
     作っているのは、佐野の郷土料理のひとつである「耳うどん」だ。
    「耳うどんって本当に耳の形してるんだな」
     耳の形に似ているうどんを眺めながら、天城・兎(赤兎の騎乗者・d09120)は感心したように言った。なんというか、うん、本当に耳の形に似ている。白いからまだいいが、これで肌色っぽい色合いをしていたら、ちょっと異様かもしんない。
    「う ど ん 食 べ た い」
     じーーーっと見詰める四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)。エプロンを付けて料理を手伝うふりをつつ、でも心は食べる方に向いている。
    「ペナントレースのためにペナント怪人が集まる、か。洒落のつもりなのか?」
     遠くに連なる山々をぼんやりと眺めながら、砂原・鋭二郎(中学生魔法使い・d01884)は嘆息した。
     それにしても、何気に賑やかだ。それというのも、今回はサーヴァントを連れている灼滅者が多いからだ。兎はライドキャリバーの赤兎、清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)はビハインドの影千代、ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)はナノナノのエンピレオを連れてきていた。
    「で、この霊犬は誰のサーヴァントだ?」
     秋風・千代助(からんか・d12389)がテーブルの下でもぞもぞしている物体を指し示す。
    「犬じゃねーの!! オオカミなの!!」
    「しゃべった!?」
     テーブルの下から勢いよく飛び出してきたのは、霊狼・蕨……じゃなかった犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)だ。ピンと立った尻尾が、ふるふると震えてちょっとお怒りモードだ。
    「食べる?」
    「わふっ」
     玄武がお椀に盛った耳うどんを差し出すと、蕨は嬉しそうに食べ始めた。
    「おかわり、食べる?」
    「こくこく」
     完全に餌付けされた模様。
    「ところで、どうして『おいしくなあれ 』を準備しているのかしら?」
     キングが蕨にジト目を向ける。
    「!?」
     耳うどんをがっついていた蕨の動きが止まる。
    「まさかとは思うけど…」
    「あ、ね、念のため! 念のためだよ!! ミゼリアの腕を信じてないわけじゃないんだよ!!」
     大汗を掻きながら弁明。更なる追求が来そうなところへ、思わぬ助け船が現れた。
    「あー、君たち。何やってるのかな、ここで」
     声を掛けてきたのは、自転車に乗ったお巡りさんだった。探るような視線を向けてきている。
    「試食を提供する許可は貰っているけど」
     後方に見えるうどん屋を指差しながら、鋭二郎は宣言した。
    「あ、そう。うん、そうなんだ」
     プラチナチケットが効力を発揮し、お巡りさんは何となく納得した。
    「お巡りさん。巡回ご苦労様でござる」
     ずり落ちたマフラーを直しながら、静音は耳うどんのお椀をお巡りさんに差し出す。
     お巡りさんはお礼を言いながら、自転車を漕いで去っていった。


     お巡りさんを撃退(?)し、準備をしつつ時を待つ。
     玄武や兎が殺気を放って一般人を寄せ付けないので、冷やかしも野次馬も現れない。一般人を危険に巻き込まないようにする為の配慮なのだが、これはこれでちょっぴし寂しいものである。
     うどん屋に普通に客としてきている人々は、逃げるように店内に入っているので、営業妨害はしていないはずだ。
     のどかな風景を眺めながらのんびりとしていると、北の方からえっちらおっちら駆けてくる集団が目に付いた。
     先頭を走っているのは、頭が三角形の変な人だ。その後ろに、へろへろになりながらも、どうにかこうにか走っているのは、5人の黒子さんたちだ。
    「頑張るのであ~る! こんなことでは、ペナントレースに優勝なぞできないのであ~る!」
     後ろ向きに走りながら、黒子さんたちに檄を飛ばす頭が三角形の人。首に巻き付けた何本ものカラフルなリボンが、風に揺らいでいる。この変な人が、今、巷で噂のペナント怪人なのであろう。エクスブレインからの情報によると、北海道は五味温泉のご当地ペナント怪人らしい。
    「ただいま、佐野名物『耳うどん』の試食を行っています。そこを行く5人の黒子を連れた方、一休みも兼ねていかがでしょうか。寒い身体が温まりますよ」
     街道に出てさりげなく行く手を遮り、鋭二郎は客先を開始した。
    「うどんとな?」
     五味温泉ペナント怪人の耳がぴくりと動く。
    「くんくんくん。ふむ。良い匂いなのであ~る」
     ぐぅぅぅぅ。
    「自分らもう限界です。腹が減って死にそうですっ」
     黒子さんたちのお腹が激しくなっている。どうやら、五味温泉からここまで、飲まず食わずで走ってきたらしい。
    「もっきゅもっきゅ」
     テントの中では、蕨が無心に耳うどんを頬張っている。その様子を見ただけで食欲が湧いてくる。
    「すっげー美味そうに食ってるぞ、あの子…」
     黒子の一人が涎を垂らす。
    「こいつはうめぇ! これぞうどん界のキングだ!」
     千代助は豪快にうどんを食う。チラと怪人たちに目を向けると、
    「そこのイケメンたちもどうだ?」
     無理にとは言わないがと、くるりと背を向けてガツガツと食べている。
    「さささ。遠慮せず…に、いかが…でござるかな?」
     しゃべる毎にマフラーがずり落ちてくるので、必死に直しながら静音がお椀を差し出した。
    「うむ。では、少しの間休憩にするのであ~る。お前たち、有り難く頂戴するのであ~る」
     怪人の許可を貰った黒子さんたちは、待ってましたとばかりにお椀に飛び付く。
    「美味い! 美味いっす!」
    「天は我らを見放さなかった!」
    「ありがたや、ありがたや」
     泣くほど嬉しかったらしい。気をよくしたキングが、更にうどんを振る舞う。
    「……どうぞ」
     お盆に乗せて運んできたお椀を、ポルターは怪人に差し出した。
    「かたじけないで、あ~る」
     怪人は割り箸を手にして、お椀を覗き込む。
    「むむむ!? な、何と!!」
     ガーーーーン!!という効果音付きで、怪人は大きく仰け反った。
    「な、何であ~るのかこれは……?」
    「佐野市の郷土料理『耳うどん』」
     玄武が答えた。ついでに「え? 知らないの?」という表情をしてやる。
    「これが、うどんであ~るというのであ~るか!?」
    「何か問題でも?」
     鋭二郎が問い掛けた。
     怪人が難癖を付けている後ろでは、黒子たちが蕨や千代助たちと和気藹々と語りながら、耳うどんを食している。
    「うどんとはぁ! 長ぁぁぁぁぁいものであ~る! 長くないものは許されないのであ~る! 下川のうどんに喧嘩を売っているものであ~る!」
     言い掛かりも甚だしい。
    「お前たち! いつまで美味しそうに食べているのであ~るか!?」
    「はい?」
    「こんなうどんを広めてはいけないのであ~る。下川うどん推進委員会としては、断固として阻止しなければならないのであ~る」
     なんだその「下川うどん推進委員会」って。
    「耳うどんなるものを、直ちにこの世から抹殺するのであ~る! 手始めに、試食コーナーを作って道行く人々を誘惑しているけしからんこやつらを、我らの僕にするのであ~る!」
    「え? マジですか?」
     黒子さんたちはちょっと不満そうだったが、怪人の命令には逆らえない。造反許すまじと、ジロリと睨まれた黒子さんたちは、しぶしぶとお椀をテーブルに戻した。
    「佐野の耳うどんを抹殺し、下川のうどんを広めるために、こやつらを仲間に引き入れるのであ~る!」
    「「ペナーッ!!」」
     きをつけの姿勢から右手をあげ、黒子たちは奇声を発した。
    「何ならアタシのお耳もかじってみる? なんてねッ、オーッホッホッホ!」
     キングは、妙に得意げに高笑いして挑発した。
    (「…今まで見た怪人たちと違って…シンプルに迷惑行為、ね…。…耳うどんのためにも…倒さなきゃ……」)
     ポルターは心の中で誓う。
     全員、素早くキリングツールを解放する。
    「灼滅開始」
     鋭二郎が短く言い放った。
    「な、な、な……!?」
     ペナント怪人は狼狽えている。
    「北海道のご当地ヒーローに言いつけてやる!」
     玄武は憮然とした態度で叫んだ。


    「赤兎、前衛にて盾になれ」
     物陰に身を潜ませていた兎が跳びだし、赤兎に指示を出す。あいあいさーとばかりに、赤兎はタイヤを軋ませながら前衛の位置へと飛び出す。
    「…破壊活動は…ここまで、よ……」
     ナノナノのエンピレオを後方に残し、ポルターも前に踏み出した。
    「まってろよ、すぐにその恥ずかしい格好を解除してやっからな!」
     千代助は、前進黒タイツの恥ずかしい格好をしている黒子たちに向かってそう言うと、味方を援護する為に前に出た。
    「抵抗は無駄だということを教えてやるのであ~る!」
    「「ペナーッ!!」」
     嗾けられた黒子さんたちが、一斉に襲い掛かってきた。怪人はというと、どうやら後方で高みの見物を決め込む気らしい。
    「自分達以外の名物を否定するとは愚かだ」
     突っ込んできた黒子さんたちに、鋭二郎がフリージングデスを放つ。直後、真っ白な粉が大量に舞った。黒子さんの1人が、かたくり粉を振り撒いたのだ。
     影響がないとはいえ、粉を被って真っ白けにまった影千代が、とっても迷惑そうにしている。静音の方は、珍しくマフラーがずり落ちないでいてくれたため、咳き込むこともなく、どうにか耐えることができた。
    「地味に迷惑でござる」
     でも前髪が粉塗れになってしまった。
    「あァン、そこよッ…♪」
     何か気持ちなさげな声がする。目を向けると、キングが腰を踏み踏みされながら身悶えている。
    「くっそ! 屈辱…! 見るなぁ!」
     千代助も踏み踏みされていた。流石にこんな姿は見られたくないらしい。
    「よし! 一気に畳み掛けるのであ~る!」
     怪人は「手延べうどんブレイド」を手にすると、うどんをびょ~~~んと伸ばしてきた。
     ぶぉん!
     狙われたのはポルターだったが、唸りを上げて爆走してきた赤兎が、その身を盾とした。タイヤにうどんが絡み付く。ご主人様を守ってくれたお礼にと、エンピレオが感謝のハートを飛ばしてくる。
    「あれ? 食べたい?」
     蛇っぽい自分の影に訊いてみる玄武。
    「…分かった。食べなくていい」
     嫌そうな顔をしているので、食べさせないことにした。
    「どんどん行くのであ~る!」
    「「ペナーッ!!」」
     黒子さんたちは元気が良い。とはいえ、いつまでも元気なままでいられても困る。
    「寂れたペナントに再び華を咲かせたいのでござろうか。しかし、それで他所のご当地グルメを破壊してよい道理にはならぬ!」
     静音と影千代が連携して、黒子の1人を撃退した。
    「月光衝で一気に蹴散らす!」
     短い気合いと共に、兎が月光衝を放つ。
    「普段と違う、その地特有のものであるからこその名物だろう」
     鋭二郎が突き出したマテリアルロッドに、影業が絡み付く。護符揃えが宙を舞い、弾倉の位置に落ち着くと、銃床を右肩に当て構えた。
    「喰らえ」
     銃口から影が放たれる。黒子の1人を直撃し、昏倒させた。
    「…蒼き寄生の大刃…対象割断……」
     ポルターもDMWセイバーで1人を撃退。
    「他所の名物を破壊しながら進軍するとは何事だー!! おこだよ!! 激おこだよ!!」
     黒子を打ち倒し、蕨はふと首を傾げる。
    「あれ? 歩いたり泳いだりしてるんなら、ここにくるまででどれくらい時間かかってるのかの?」
    「9日であ~る」
     律儀に怪人が答えた。
    「北海道の大地を駆け抜け、津軽海峡を泳いで渡り、後はひたすらここまで走ってきたのであ~る」
     目的の琵琶湖までは、まだまだ遠い。
    「北海道にペナントレースの優勝旗を持って帰るのであ~る!」
     心意気だけは立派だ。
     だがしかし、世の中そんなに甘くない。
    「黒子は正気に戻るまでボコればいいんだったな。早く戻らないと死んじまうぞ?」
     兎が閃光百裂拳で、最後の1人を撃退した。
    「あれれ?」
     配下全滅。
    「じゃ、そういうことで!」
     回れ右。
    「逃げるわよッ!」
     真っ先にキングが気付いたが、ちょっと遅かった。怪人は脱兎の如くその場から逃走を図る。
    「王族のパワー、ナメたらアカンぜよォォォ!」
    「来るな! 来るなであ~る!!」
     鬼神の如く追い掛けてくるキングを、全力ダッシュで振り切ろうとするペナント怪人。
    「こんな事するなら、温泉行ってもペナント買ってあげないよ!」
    「構わないであ~る!」
     玄武の声を振り切り、街道の彼方へと走り去っていく。猛追するキング。
    「追い付くか?」
    「無理だな、たぶん」
     赤兎に跨った鋭二郎の問い掛けを受けて、千代助は大きく肩を竦めた。


     残念ながら怪人は取り逃がしてしまったが、黒子たちの救出には成功したので、由とすべきであろう。
    「黒子には少しやりすぎたかな?」
     兎が足元を見下ろす。
     救出という名のもとにボコボコにされてしまった黒子さんたちは、今は地面に伸びている。そのうち意識を取り戻すと思うので、申し訳ないがそのまま放置することにする。
    「う ど ん 。う ど ん 」
     せっかく来たのだから、耳うどんを食べて帰りたい。玄武は軽い足取りでうどん屋に向かう。
     蕨もその後に続く。かなり食べていた気もするが、戦えばお腹は空くのだ。
    「まだ食う気かよ。まぁうめぇからいいけどよ」
     千代助も食べて帰る気らしい。
    「拙者、食べた経験はないのでござるよ」
     先程は給仕をしていたので食べそこなった静音も、影千代を連れて彼らの後を追った。
     ポルターとエンピレオも店に足を向けた。
    「さーて、皆にお土産も買わないといけないし、少しぶらついて帰るかな」
     怪人を追跡したかったが、キングの猛追を振り切られてしまってはどうすることもできない。仕方がないので、鋭二郎は赤兎と共に辺りをぶらつくことにした。
    「土産になるような名物はあるのだろうか」
     土産をねだってきたエクスブレインの為に、何か買って帰るかと、鋭二郎は呟く。何て優しい人なんだ!
    「ジャパンの文化をまた一つ体験して真の『キング』にまた一歩近づいたわ。頑張れアタシ☆ 」
     調理に追走と、キングはかなり頑張った。
    「で、このテントは誰が片づけるの? ねぇ!?」
     頑張れ、キング!

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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