ロリータロリータ

    作者:池田コント

     彼女はとても美しい容姿をしていた。
     蜂蜜色のふわふわした髪の毛は人形のようで思わずふれたくなる。
     ミルクのように白く澄んでシミ一つない肌の、顔も首も腕も足も指も、パーツ一つ一つが作り物のように小さくて愛らしい。
     花弁のような長いまつ毛も、まつ毛の下の透き通った海のような瞳も、細くて柔らかな線を描く鼻梁も、芸術品のようで見ていて飽きない。
     彼女はたとえるなら絵本から出てきた妖精のようであった。
     その凶悪なまでの愛らしさは、同性でさえ嫉妬をかくのも忘れて見惚れてしまう。手に入れたくなる。飾っていたくなる。
     そんな、神様からの恩恵を一身に受けたような少女だった。
     けれど、そんな彼女はこの都心から電車やバスを乗り継いで片道三時間かかるこの片田舎においては、ただただ浮いていた。
     祖母と二人暮らしの土の匂いのする古い家では、彼女の髪は色あせる。
     彼女の小さな体は畑仕事を手伝うには不向きで、彼女の鈴のように澄んだ声も聞くのは蝉や笹の葉ばかり。
     小学一年生である彼女は、ひと学年十人に満たない地元の小さな学校に通う。
     彼女の蠱惑的な容姿に惑わされないものはなく、誰もが彼女を独占したがる。
     理想や期待に縛られ、しかし彼女はそれに応えようとする。それが彼女の存在意義であるかのように。
     彼女は、ある日、一通の手紙をしたためた。
     それが誰宛のものか、彼女当人をのぞいて誰にもわからない。
     そして、嫉妬や疑念に囚われた彼女の虜囚たちは、遂にささいないさかいを発展させ殺人を始めてしまうのだった。
    「ロリタンをペロペロできるのはおれだけだー!」
    「ロリタンはあたしとー! おふろにはいるのー!」
    「くつしたぁ! くつしたかがせてぇー!」
     
     
    「過ぎたるは及ばざるがごとしってぇ言葉がありますが、何事も程々がよろしいってのは昔から言われてることで、よいものも過剰であっちゃあいらぬ騒動も呼び込んじまう。一万円もらえるならラッキーで済みますが、突然二億円ももらった日には、事件にでも巻き込まれるんじゃねえかと不安でしょうがない。いや、もらえるもんならもらいますけどね」
     前口上を述べて調子を整えると、落合・文語(高校生エクスブレイン・dn0125)ことラクゴは依頼の説明を始める。
     一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている。それにともなって殺人事件も起きてしまうようだ。
     通常ならば、闇堕ちしたダークネスは、すぐさま人格が入れ替わりそれまでの人間の意識は掻き消えてしまうのだが、彼女は力を持ちながらいまだダークネスになりきっていない状態だ。
     もし彼女が灼滅者としての素質を持っているようならば、闇堕ちから救い、学園に連れ帰って来てほしい。
     だが、完全にダークネスとなってしまうようならば、確実に灼滅して来なければならない。

     事件の中心にいるのは、小学一年生の少女、鈴木ロリータ。
     両親を交通事故で亡くし、福島県の県境にある田舎町で、祖母と二人暮らしをしている。
     年齢の割に利発な少女であるが、性格は内向的。無理してまで周囲の期待に応えようとしてしまうところがある。
     元々、美しい少女ではあったが、今の可愛らしく、従順で、愛想の良い彼女は、期待に応えてきた結果のようだ。
     そうして、理想的な美少女として成長していく中でいつのまにか淫魔としての才能が開花していったらしい。
     今の彼女は、相手の自分に対する期待を敏感に察知し、それに応えるようになっている。
     あるいは無垢な少女に。あるいはドジで隙のある女の子に。あるいは聞き分けのいい優等生に。
     彼女に好感を持たない人間はまずいない。好感を持たない人も無関心ではいられない。
     彼女がそうあろうとしているから。
     嫌われないでいるために、誰かの理想の少女であり続ける。それが彼女の望み。
     だが、それも限界が来ている。
     ダークネスとしての力が強くなりすぎて、彼女が学校に手紙を持ってきているのを見たクラスメイト達が暴走する。
     自分こそがロリータちゃんに相応しいと殺し合いを始めるのだ。
     最終的には、大人げなく担任の男性教諭が勝つのだが、むざむざ彼らに人殺しをさせるわけにはいかない。
     灼滅者の介入のタイミングは学校のホームルームでケンカが始まる直前になる。
     幸いクラスメイト達は今日かもされていない一般人に過ぎない。灼滅者ならすぐに鎮圧できるだろう。
     殺し合いを阻止したら、周りの期待に応え続けようとしてダークネスに覚醒しつつある少女を止めなければならない。
     彼女の戦闘能力は強敵という程ではない。灼滅者一人で対抗することはさすがにできないだろうが、八人いればまず負けることはないだろう。
     というのも、彼女の能力は性別問わず周囲の人間のハートをつかむことに特化しているようだ。
     その魅力は抗いがたく、歴戦の者であっても思わずなでなでしたり、膝の上にのせてプリンを食べさせてあげたり、肩車してあげたり、ペロペロしたり『おじょうちゃんかわいいねおにいさんといっしょにおきがえしてみよっか』したりしたくなってしまうだろう。
     それはしょうがないことだ。ダークネスの魔力だ。
     ついつい、ほっぺをくっつけてぎゅーってしてしまったり、彼女の脱いだ靴下をクンカクンカしてしまっても、誰も責めることはできないとまでは言わないが、まぁ、とにかくしょうがない。
     彼女もそれらの行為が自分に対する好意や過剰な興味からきていることは理解している。だから、嫌がらない。受け入れてしまう。
     だが、彼女を灼滅から救うためには、どうにか彼女を説得し、彼女の灼滅者としての素質を芽吹かせなければならない。
     彼女の本当に欲しているものを与え、今の彼女の状態が健全ではないことを彼女自身に気づかせることが必要になってくるだろう。
     
    「神様からの恩恵っていったって、くれって言ってもらったもんでもねぇしなぁ?」
     今思いついたようにそう言って、ラクゴは君達を送り出した。


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリア・d00502)
    ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    五美・陽丞(幻翳・d04224)
    フィリア・スローター(ヤンデレ強化月間・d10952)
    星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    綺羅星・ひかり(はぴはぴひかりん・d17930)

    ■リプレイ


     時の流れが止まったかのような田舎だった。
     有名店はもちろん、コンビニもない。
     あるのは田畑と山河と古めかしい民家だけ。
    「鈴木君はこの町で育ったんだね」
    「……とても自然豊かな場所だね」
    「つーか、ド田舎だろ」
     五美・陽丞(幻翳・d04224)、ミケ・ドール(凍れる白雪・d00803)、榎本・哲(狂い星・d01221)が雑談しながら歩いている。
    「うっかりしたら迷子になってしまいそうですね」
     星空・みくる(お掃除大好きわん子・d13728)の感想はもっともである。
     代わり映えのない風景。はぐれたら途方に暮れてしまいそうだ。
    「迷子に、ならない、ように、ついて、きて」
     十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)が淡々と言う。
     小学生は二人。みくると、もう一人の小学生であるフィリア・スローター(ヤンデレ強化月間・d10952)はクールに言い返す。
    「……子供扱いしなくても大丈夫だから」
    「あー! あそこがロリータちゃんの通う学校だにぃ!?」
     綺羅星・ひかり(はぴはぴひかりん・d17930)が指差す先には、年代物の校舎が見える。
     あそこに闇堕ちしかけた少女、鈴木ロリータはいるはずだ。
    「どうしてロリはいいものなんだ! ……ってのは今更デスケド、ンマー、がんばりましょー」
     狐雅原・あきら(アポリア・d00502)とひかりは格別テンション高く駆けていく。


    「き、君達はなんなんだね」
     初老の男性に見咎められたが、哲は面倒くさそうにプラチナチケットを取り出して男を黙らせる。
    「ボランティアかなんかッス」
     ギシギシと音のなる板張りの廊下を進んで、一年生の教室の扉を開ける。
     ここが惨劇の舞台。
     殺戮の現場。
     そこで深月紅達が見たものは……。
    「ロリターン、ペロペロー! ペロペロー!」
    「ボクのオチ○チン、なんだかムズムズしてきたよぅ」
    「ハイリスク、ローリターン! ロッォォオオリタァアアアアン!」
     ……。
     深月紅はそっと扉を閉めた。
    「あれ? なんで閉めるにぃ?」
    「意味が、わからなくて、つい、見なかった、ことに……」
    「いや、気持ちはわかるよ。でも開けないと始まらないと思うよ」
    「なら……」
     ガラガラガラ……。
    「ハァハァ……見ておくれよぉお! 先生もねぇー! 先生のオチ○チンも、ムズムズしてたまらないんだよぉお!」
    (「うわぁ末期デース」)
     興奮した男性教諭が児童を前にベルトをカチャカチャしてるという、割とドン引きな光景。
    「……これもかわいらしさのせいか。なるほど。時としてかわいいは罪になる。わたしも気をつけないと」
     一人頷くフィリアの横から、ミケが進み出る。
    「やれやれ……」
     ガヅン!
    「キミは自粛しなよ」
     一瞬の早業。ビスクドールのように可憐な少女ミケが、血迷った男性教諭の頭をつかんで机に叩きつけた。その華奢な外見からは想像できないパワフルさに教師は一発KO。
     ヒューッ♪
     誰かの口笛。
     児童達は突然の闖入者に敵意を向ける。支配欲。所有欲。独占欲。瞳から理性が失われ……。
    「さてはお前らもロリータピンピコゲームをしにきたな!?」
    「なんですか、そのゲーム!?」
    「うるせー色黒わんこみたいな顔しやがって」
    「言いがかりです!?」
     みくるに襲い掛かる児童が突然くたっと脱力する。
    「ケンカはよくないにぃ」
     ひかりの王者の風が争う気力を奪い、
    「怪我を、しない、うち、逃げると、いい」
     深月紅の放つ殺気によって、児童達はワラワラと教室から出て行った。のびた教師を放り出す。
    「さて、と……」
     余計な一般ギャラリーが退散し、残ったのは八人の灼滅者と一人の少女。
    「この方が鈴木さん、ですか」
    「どなたでしょうか」
     少女がいた。
     場違いな位の存在感にみくる達は息を呑む。
     鈴木ロリータ。
     美少女。
     その一言では言い表せられない程の、美少女。
     天使の微笑には、全てを赦すような清らかさを含み、そこにいるだけで絵画のように際たつ。
     混じりけなく、あどけない。それが彼女の容姿から受ける印象。
    「た、確かに可愛らしいお方ですね」
    「……うむ。わたしよりちょっとだけかわいいな。うむ」
     隅っこでこっそりサボっていたフィリアがつぶやいた。勿論負け惜しみなどではない。
    「……わたし達は」
     と名乗るより早く、
    「ロリちゃん! ロリちゃんぅぅうううわぁああああああああん! あぁああああ……ああ、あっあー! あぁああああああ! ロリちゃんロリちゃんロリちゃんぅううぁああああ! あぁクンカクンカ! スーハースーハー! ロリちゃんの体臭! ロリちゃんの吐いた息! いい匂いだなぁ! ……くんくん! んはぁ! 鈴木ロリータたんの髪をクンカクンカしたいお! してるお! あぁあ! 間違えた! モフモフしたいお! 髪モフモフ! カリカリモフモフ……きゅんきゅんきゅ……ひぎぃ!?」
     真顔で少女を愛で続けるあきらに、ミケは無言でクルセイドソードの鞘を振り下ろした。教室の外へ放り出す。
    「やれやれ」
     と言う間もなく、
    「にょわー☆ ロリータちゃんかわいい~! 幼女の白タイツが最高なんだにぃ! タイツ! タイツ! 白タイツはいて踏んでにぃ! またがってにぃ~! タタ、タイツ! タタタタイツ、タイツタイ……にょわ!?」
    「はいはい、気持ちはわかるけど、ちょっとだけ落ち着こうね」
     陽丞がひかりを少女から引き剥がす。
     あきら達の暴走具合を見たみくるはおどおどと周りを見渡し、フィリアに問いかける。
    「ボクもああした方がいいんでしょうか?」
    「……無理するな」
    「いけないお姉ちゃん達ですね」
     少女は微笑んでいた。その柔らかな表情は作り物には見えない、が。
    「……仕方ない。わたしが先輩として色々教えよう。なんならわたしのこともお姉ちゃんと呼んでいい」
    「キミ、言われたがっていないかい?」
     ゴシックなドレスに身を包んだフィリアとミケが並ぶと、まるで仲の良い三姉妹のように見えて、深月紅は心が疼くのを感じる。
     誰かの小さな舌打ち。
     三姉妹のもとへ、みくるが加わるとさながらお嬢様達に仕える幼馴染の執事見習いみたいな。
    「うん、なんだか髪をとかしたくなるね」
     陽丞も微笑ましさを感じたのか。
    「ご飯を用意したり散歩したりしたくなるよ」
    「世話係!?」
    「でも、残念だな。この子しっぽも肉球もないんだね」
    「実はペット扱い!?」
     哲は無遠慮に近づいて、少女のほっぺたを引っ張る。
    「ほ?」
     小鼻をつまむ。
    「にゅぅ!?」
     ほおと鼻をさすりながら、少女は上目遣いに哲を見上げる。
     ……。
     気付いていたのは、深月紅だけではない。
     ロリータという少女が与えてくれるもの。
     甘い砂糖菓子を口に入れたときのような、浅くまどろむ夢の中にいるような感覚。
     溺れる。
     直感が告げた。
     受け入れてくれる。彼女が。
     どんな醜態を曝け出しても。膿んだ傷口を見せ付けても。
     彼女の無垢は優しく包んでくれる。
    (「でもそれって、なんのためにぃ? 本物のロリータちゃんの心はどこにあるにぃ?」)
     彼女が『幸福』そのものなのだとしたら。
     彼女にとっての幸福は、どうなるのだろう……?
    「他人の、為に、頑張るのは、すごい、事だと、思う。けど、それで、他人が、傷ついたり、自分が、苦しいのは、辛いよ、ね」
     深紅の言葉に少女は健気に答える。
    「ううん、辛くはないです。皆が笑顔になってくれたら、私も嬉しいから」
    「……何でもかんでもYESじゃダメ。NOが言えるようにならないと」
    「英語のこと?」
    「……そうじゃない。他人の望みに全て応えてたら。身が持たない」
    「ありがとう」
    「……っ」
     少女は自分より年上のフィリアを抱きしめた。自分を心配してくれてと礼を言った。
    「でも大丈夫、だから」
     おねえちゃんがしんぱいしてくれるならわたしもっとがんばれる。
     溺れ、る……。
    「誰かに嫌われるのが怖い?」
    「……え?」
    「そうだよね、皆きっとそうだと思うよ」
     ミケは語る。名家に生まれたことでしがらみや軋轢があったことを。従わず屈さなかったこと。
    「その結果が悪かったとはちっとも思わないよ。確かに私にがっかりした人はいるかも知れないけれど、私は私を貫けたんだから。自分が自分らしくいるのが、一番幸せなことだと思うんだ」
    「お姉さんは」
    「うん?」
    「強い人、なんですね。憧れます」
     少女の澄んだ瞳は、自分の芯を見透かすかのようだ。
     たじろいではいけない。自分のこれまでも、彼女のこれからも、恥じ入ることなどないのだから。
     白タイツの誘惑を振り切ったひかりは問う。心の中は既に踏まれて、跨がわれて、満足したお礼の気持ちで溢れている。
    「ロリータちゃんの本当の望みって何だにぃ? いまのロリータちゃんは他人の言うこと聞いてばかりだにぃ」
    「私の……本当の望み?」
    「素のままのロリータちゃんを知りたいんだにぃ、ロリータちゃんの本当の望みって何だにぃ?」
    「素の私は……」
     きょとんとしたままの少女の仮面を剥ぐように、ひかりは一生懸命言葉を紡ぐ。
    「……他人の言いなりじゃ何にもなれないにぃ、自分の人生は自分で決めなきゃにぃ、だから、本当のあなたを見せてにぃ!」
    「本当の私は……」
     少女は天使のように微笑んでみせる。
    「どうしたの、お姉ちゃん? これが本当の私だよ?」
    「ロリータちゃん……」
     ひかりは自分でもよくわからないままに少女を抱きしめていた。
    「なんつーかさ、大人扱いしすぎじゃねぇ?」
     言ったのは哲だった。
     気だるげに視線をさまよわせながら、ひかりの肩をポンと軽く叩いた。
    「小1だぞ。『自分』なんてあるわけねぇだろ。大人から無償でエサ与えられてすくすく伸びる時期だろ」
    「ちょ……哲さ」
    「『自分を出していいよ、自分のやりたいことは、周りなんて気にしなくていい』……そんなん無理に決まってる」
    「ダヨネー。自分が一体ナンなのかわからなくなっちゃってるだろうシー?」
    「狐雅原さん!? いつの間に!?」
    「エー? ずっといたケドー?」
     一度放り出されたあきらは何食わぬ顔で混じっている。
    「受身でいちゃ何も起こらないし変われないヨー。初めは良いケド、だんだん虚しくなるダケデスヨ? その内手遅れになっちゃうしねー」
     成人後のおたふく風邪とかひどいっていうデショ?
    「時々さぁ、ガキは大人以上に空気読むよな。話し方やら言葉尻やら捉えてビクビクしたり無闇に懐いたり……まだ全然付き合い方とかわかんねーから、気にしないっつー選択肢がねぇんだよな」
     哲は手を出した。
    「手紙、出せよ。書いたんだろ」
    「……」
     少女は叱られている子供のように、おずおずと手紙を差し出した。
    (「父ちゃんか母ちゃんか、それともサンタさんか? ラブレターっつーセンも……ないだろうなぁ、小1のチビじゃあな」)
     なにも書かれていない手紙。
     『助けて』と読めた。
    (「……あーあ」)
     哲は先程ほっぺたを引っ張った手を少女に向けて伸ばす。
     ビクリと体が震える。
     しかし、哲の手は少女の頭へ届いて、雑に撫でた。
    「……頑張ったな」
     期待に応えようとすることが悪いわけではない。
     でも、ミケ達も皆気づいているように、今の彼女は完全に分不相応。無理をしてる。
    「でもま、もうちっと頑張らずにお前が楽に勉強できるとこがあんだ」
    「もし自分が見つけられないのなら、そこで俺達に手助けをさせてもらえないかな?」
     頑張って守ってきた狭い範囲のロリータという少女の殻。
    「壊すこと、大事。時には、痛み、伴う、けど」
     怖がらないで。
     教えて。あなたのこと。
     あなたが誰なのか。
    「勇気を出して。少し期待に応えられないくらいで、皆がキミを嫌いになるものか」
    「貴女は、もっと、我が儘を、言っても、いいと、思う」
    「自分の気持ちを相手にお伝えする事も大切だと思います」
     特別であることは変えられない。
     目をそむけたくても、向き合わなきゃ前に進めない。
     でも。
     心配するな。
     特別であることは、普通なことだ。
     武蔵坂には、特別な連中が、普通に笑ったり、怒ったり、泣いたりして、毎日を過ごしている。
    「俺も今まで色んな人に期待されてさ。自分の存在に疑問を持つ事があったけど、学園に来てから少しずつ変われてる気がするんだ」
     陽丞は少女に目線の高さを合わせて、微笑む。
    「だから、大丈夫。きっと君も変われるよ」
     ……。
     少しだけ皆と違うことはわかっていた。
     髪の色や顔立ち。それをくれた両親がいないこと。周囲の反応。
     それは、人によっては欲しくても手に入らないもので。自分はもしかしたら、とてもぜいたくなことを言っているのかも知れないけれど。
     それでも、少女は口にした。
    「……わ、私は、普通の女の子に、なりたい、です……楽しいことに笑ったり、悔しくて怒ったり、悲しいことには泣いたりして……んっ……なんだか、そういう風に、生きたいです」
     ポロポロ。
     少女は憑き物が落ちたような泣き顔を見せていた。
     それがきっと本当のロリータ。


     抑圧されていた少女の闇が噴出す。
     半透明に輝く光の翼が生えた。
     解き放たれた闇は霧のように広がり、あるいは泥のようにまとわりつく。
     この小さな少女の中に、これ程大きく深い闇があったのかと驚きを覚えるような。
     けれど。
    「たったそれだけかよ。お前の中の邪悪は」
    「ひかりんのときの方がすごかった気がするにぃ」
    「この際だ。全部出しちまえ。その方がすっきりする」
     これから先も付き合っていかなきゃいけないものだから。
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
     力を解放した深月紅は七色の炎を纏って制約の弾丸を放つ。
    「ノノ、行くよ」
     みくるの轟雷が教室を走り、ナノナノ達のしゃぼん玉が視界を埋め尽くす。ミケのトラウナックルが闇を貫き、あきらが弾丸を撒き散らす。
    「それではそれでは自由にドンパチターイム、デスネー」
    「うっきゃー! 闇堕ち姿もかわいい~! はぐーっ☆」
     ひかりの鬼神変した腕でのハグはさすがに痛そうだ。
     少女の闇が実体となって陽丞を貫こうとする。
     陽丞はそばにあったイスに足をかけ、大きく飛び上がった。
     闇は陽丞を見失ったが、モスグリーンの眼鏡は常に彼女の姿を捉えていた。
     影が植物の蔓の様に少女を縛り上げ、哲の紅蓮斬が闇を裂く。
     拓けた道をフィリアが駆けて一閃。
     闇を砕いた。


    「……尽くすなら。これと決めた数人に尽くすべき。そうだ。わたしのお兄ちゃんを紹介しよう。きっと気に入る」
     クールな顔してロリータにべったりなフィリアである。
     深月紅がロリータの無事を確認し、戦いの汚れはみくるがESPで甲斐甲斐しく落としていた。
     学園の事を伝え去るあきら達に、ロリータはトトトっと追いすがり、哲の袖を引いた。
    「……一緒に来るか?」
     こくりと頷く。
    「本当の自分、掴めそうかにぃ?」
     ひかりの問いにロリータは答えた。ちょっとだけ別人のような笑みで。
    「NO。わかりません」

    作者:池田コント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 14
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