●『日本全国ペナントレース』
「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」
滋賀県琵琶湖のほとりで、一体の強力なご当地怪人が復活を果たした。
「我、目覚めたり。そしてスキュラよ、サイキックエナジーは受け取った。
我はここに、『日本全国ペナントレース』の開催を宣言する!
その身に大地と人の有り様を刻む怪人共よ、我、安土城怪人が元に参集せよ」
琵琶湖から放たれた大量のサイキックエナジーは、様々なご当地へと降り注ぎ、新たなご当地怪人を生み出した。
ご当地をその身に刻む者、すなわち『ペナント怪人』である。
「安土城怪人様のお呼びである、いざ、琵琶湖っ!」
日本各地に現れたペナント怪人達は、一斉に琵琶湖に向けて走り出したのだった。
●『ペナント怪人』が現れました
ペナントの怪人が日本各地に出現したんだ、と須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は言った。
「ペナントって、野球じゃなくてお土産のほうだよ。あの、細長い三角形で、地名や名所が書いてある旗」
マリィアンナ・ニソンテッタ(聖隷・d20808)の懸念は、懸念のままでは終わらなかったのだ。
かつて、ペナントといえばお土産の定番だった。行く先々でいつもペナントを買う人もいた。自宅の壁一面にペナントを貼る人もいた。……あのペナント達は今、どうしているのだろう?
そんなペナントが日本各地で実体化した。
ペナント怪人とは、頭部がペナントになっているご当地怪人だという。
「で、長野県でも『野尻湖』ペナントの怪人が現れたの。野尻湖といえば遊覧船があって、冬はワカサギ釣りができる昔ながらの観光地。ナウマンゾウの化石や、石器時代の遺物が見つかるところだね」
野尻湖ペナント怪人は、配下に5人の強化一般人『ご当地黒子』を連れている。ご当地黒子は皆が全身黒タイツで、頭部に『野尻湖』の文字がある。
「黒子の皆さんはKOするか、ペナント怪人を灼滅すれば元の姿に戻れるみたい」
もともとは毎年の野尻湖発掘調査に参加している、郷土愛豊かな一般人らしい。
「野尻湖ペナント怪人は安土城怪人の呼びかけに応えて、滋賀県の琵琶湖を目指して移動するの。国道18号線を北上して新潟入りし、国道8号線から北陸経由で来るつもりらしいね。だけど……」
道すがら、新潟県糸魚川市で大暴れするのだという。
新潟県糸魚川市にはヒスイの原産地があり、糸魚川の道の駅には世界最大のヒスイ輝石岩(重量102トン)が展示されている。野尻湖ペナント怪人はこの道の駅で展示物のヒスイ輝石岩や、ヒスイ原石を粉々にしてしまう。
ヒスイ原石を手に入れ、野尻湖でヒスイが発見されたことにしたいらしい。
「どうか野尻湖ペナント怪人を撃破し、糸魚川のヒスイを守り、ご当地黒子とされてしまった人を助けてあげて!」
まりんは真剣な表情で、灼滅者達に告げる。
「糸魚川の道の駅駐車場で待っていれば、野尻湖ペナント怪人とご当地黒子さん達はやって来るよ。戦う広さに支障はないけど、外部からの侵入者対策は必要だよ」
野尻湖ペナント怪人は、ナウマンゾウの牙で日本刀相当の攻撃をする。ご当地黒子の皆さんは、野尻湖出土の石器でリングスラッシャー相当の攻撃をしてくるという。
ご当地黒子の皆さんは発掘調査隊のメンバーで、発掘参加者数が伸び悩んでいることを気にしていた。そのため、戦闘中に『野尻湖発掘調査の知名度アップ方法』を提案すると戦闘から気がそれ、こちらの攻撃が当たりやすくなるという。
「がっかりお土産のペナントといっても、安土城怪人が生み出したご当地怪人の力はホンモノだよ。言うまでもないけど油断は禁物。しっかり勝利を収めて、無事で帰ってきてね!」
参加者 | |
---|---|
千菊・心(中学生殺人鬼・d00172) |
タージ・マハル(武蔵野の魔法使い・d00848) |
橘・彩希(殲鈴・d01890) |
佐渡島・朱鷺(第五十四代佐渡守護者の予定・d02075) |
結城・桐人(静かなる律動・d03367) |
羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283) |
牛野・たん(踊る牛・d19433) |
アスティミロディア・メリオネリアニムス(移動式鍵付き冷凍庫探してます・d19928) |
●対するはペナント怪人
新潟県糸魚川市の道の駅は、高架橋の下にある。海水浴場が近く、日本海から吹く潮風が気温を下げる。季節がら、人の訪れはまばらだった。
橘・彩希(殲鈴・d01890)は駐車場の入り口に『改装中につき全館閉鎖中』の看板を置いた。
「この辺りに置けば、道を行く車からも見えるかしら?」
「……見える、な」
突然の背後からの声に振り返ると、結城・桐人(静かなる律動・d03367)がいた。彼の設置ぶんも終わったらしい。
ここに来るのは野尻湖のペナント怪人。安土城怪人の呼びかけに応え、滋賀県の琵琶湖を目指しているという。
「私、野尻湖の発掘調査って初めて知りました。日本にも象さんっていたんですね……」
道の駅のシンボル、巨大なブロンズ海亀像を撫でながら、千菊・心(中学生殺人鬼・d00172)が言う。
「野尻湖から糸魚川までって、100㎞くらいあるよね。どうやって来るんだろう?」
タージ・マハル(武蔵野の魔法使い・d00848)がそう言った時、はためくペナント頭と、黒い人影が見えてきた。
徒歩だった。
……黒子の人たちも大変だな、とタージは思った。
「野尻湖ペナント怪人ですね」
佐渡島・朱鷺(第五十四代佐渡守護者の予定・d02075)が、ペナント怪人の名を呼ぶ。
「私は第54代佐渡守護者(予定)、佐渡島朱鷺。愛する新潟の為、この地であなたを灼滅します!」
朱鷺は人を遠ざける殺気を放ちながら、ペナント怪人と相対する。
「いかにも、我は野尻湖のペナント怪人!」
ペナント怪人は頭のペナントを誇らしげにひるがえし、ナウマン剣を抜き払う。
「我のペナントレースの邪魔をするならば、このナウマン剣の錆びにしてくれようぞ!」
「やーい、三角、三角」
「さん……ッ!?」
小学生モード全開の牛野・たん(踊る牛・d19433)にはやされて、ペナント顔が朱に染まる。
ぷっ、と吹き出す音。終始眠そうなアスティミロディア・メリオネリアニムス(移動式鍵付き冷凍庫探してます・d19928)だった。
「人間わずか五十年、そう言ったのはお前に力を与えた安土城怪人だが……」
羅睺・なゆた(闇を引き裂く禍つ星・d18283)が、ビシッ! とペナント怪人を指さして宣戦布告をする。
「お前らの命は僕と会った瞬間に終わると思え!」
もぐもぐもぐ。
「ダークネスは一匹残らず、僕が刈り取ってやるんだからな!」
もぐもぐ。ごくん。
「……お前、何を食べている?」
「これは糸魚川B級グルメ、ブラック焼きそばだ!」
ビシッ!
なゆたはスタイリッシュにポーズを決める。右手には、ブラック焼きそばの皿。
ちなみに中華麺にイカスミを混ぜた、本っ当にブラック一色の麺です。
アスティミロディアの目がきらんと輝いた。
「なゆた、ボクもそれ食べたい」
「……灼滅が終わってからな」
●野尻湖アピール大作戦
「ゆけ、忠実なる野尻湖の黒子達よ!」
ペナント怪人の号令一下、5人の野尻湖ご当地黒子が石器を飛ばす。旧石器時代のナイフが、雨あられと降り注ぐ。
石器とはいえ、とがっていて結構痛い。
前へと飛び出すのは桐人。石器の刺さる痛みは表情に出さず、黒子に向かってぽつりと言う。
「『せっきー君』……というのは、どうだろうか」
え? と首をかしげる黒子に、タージが画用紙を掲げる。
「ほら、これ。僕たちが考えた『せっきー君』だよ」
そこには、人型にデフォルメされたナウマン象のクレヨン画があった。
「便乗商法……かもしれないが、何もやらないよりは、色んなアプローチ方法があって良いと思う」
桐人のとつとつとした言葉は、黒子達の心にすとんとはまる。
『せっきー君』はやさぐれた顔のゾウで、妙な愛嬌がある……ようにも見える。
思わず手が止まった黒子を、タージはサイキックソードで殴りつける。そしてさわやかに説明を続けた。
「石器時代の野生と愛らしさを兼ね備えたニューヒーロー! このせっきー君で、野尻湖の知名度をアップさせるんだよ!」
「次のゆるキャラグランプリ、1位間違いないのです!」
イラスト担当のたんも断言する。そうしながら、攻撃の手が鈍った黒子達を5人まとめて焼き払った。
「何をしている、お前たち! 野尻湖のために戦うのだ!」
「あなたは黙っていてください」
朱鷺は腕を異形に変え、ペナント怪人に叩きつける。怪人はすれすれで回避。朱鷺の腕が地にめりこむ。コンクリートがぼこりと陥没した。
「あの、私も描いてきたんです、ゆるキャラのイラスト」
心も持参のイラストを出す。そこには……キモ可愛い系のナウマンゾウ。
「デッサンは出来ますが、デフォルメは苦手なんです……」
そんなイラストを見るために近づいた黒子が1人。その死角に心は素早く回り込み、黒子の後頭部に解体ナイフを振り下ろした。
ゴツッ。
鈍い音がして、黒子が1人、地に伏した。
残っている黒子へと、アスティミロディアがずずいと迫る。
「野尻湖はワカサギ釣りも楽しい。発掘とワカサギを組み合わせるといい」
ワカサギはとても美味しい。天ぷらやフライなど揚げ物にして美味。どちらがおいしいかを問えば戦争が起きてしまうほど、どちらも美味。
アスティミロディアの説明は滔々と続く。
「素焼きにして生姜醤油、塩焼き、タレをつけて焼いてもうまい。佃煮などにしても……」
「……つまり、冬のワカサギ釣りや、小中学校の課外授業の時、発掘調査へ参加するよう呼びかけるのよ」
いつまでも続きそうなワカサギトークを、彩希が強引に方向修正した。
黒子達は戦いも忘れ、ゆるキャラ『せっきー君』の将来性に心奪われている。
「私はせっきー君の携帯ストラップを提案します。コレクション性もあり、コンパクトで場所も取らず、しかも実用性に富みます!」
朱鷺が新商品を提案し、タージはせっきー君ソングに合わせたダンスを踊る。
「せっきー君のポーズは、こうだよ! ダンスは、こう!」
「ああー♪ 愛の戦士ー♪ せっきー君~~♪ きめぇー♪」
歌詞・たん、作曲・桐人、振り付け・タージ。
一緒に躍りだす黒子まで現れる始末。
「ほら、曲にあわせて♪」
「きめぇー♪ ……まあ、牛野牧場の牛には適いませんけどね」
踊りながら、歌いながら攻撃され、黒子は1人ずつ倒れていく。
「そんなに郷土愛があるなら、ちゃんと自分たちで考えろなのです」
4人目を炎でKOしたたんがそう言いながら、もう1度「きめぇー」と呟いた。
最後の1人となった黒子の眼前に、なゆたが迫る。
「『野尻湖発掘調査の知名度アップ方法』? ……そんなもの、たった1つに決まっているだろう!」
言いながら、なゆたは至近からの神薙刃を放った。
「こんな所で馬鹿な真似やってる暇があったら、さっさと戻って真っ当に参加者の面倒を見てろ!」
どーーーーん。
渦巻く風に吹き飛ばされ、黒子は駐車場の隅へ転がって動きを止めた。
●ナウマンゾウとヒスイ、灼滅者の見解
ご当地黒子を失ったペナント怪人を、灼滅者が囲む。
「では改めて、灼滅をしましょう」
心は地面を鋭く蹴ってペナント怪人の懐に滑り込み、解体ナイフをひらめかせる。
二等辺三角形のとがった部分がちぎれ、布片が日本海の寒風に舞った。
同時に迫る、アスティミロディアのご当地ビーム。ペナント怪人はとんぼ返りで回避する。
「こしゃくな真似を!」
ペナント怪人は左手を前に突き出し、右手にナウマン剣、歌舞伎でいう見得のポーズでぐるりと首を回す。マントが風になびく。
『野尻湖』と描かれたペナント顔を、くわっと広げる。
……多分、今、キメ顔をしているつもり。
「でも……その武器、ナウマンゾウの牙よね?」
「いかにも!」
「発掘した牙や石器は、大切な守るべき物じゃないかしら?」
「……ぐッ……!」
彩希の言葉は、ペナント怪人の痛いところをついたようだった。
「武器にして自ら痛めつけていては、郷土愛は他者には伝わりにくいと思うの! 発掘した物自体にもっと愛を、捧げましょう!」
気圧されるペナント怪人。どこまでもテンション高く、格調高く断言しながらも、彩希はシールドリングでの回復と援護の手を休めない。
……しかし彼女の目は雄弁に語っていた。『そんなもんどうでもいい』と。
「ええい、慮外者が!」
ナウマン剣を中段に構え、ペナント怪人は斬撃を繰り出す。標的は真正面のなゆた。
「……とめ、る」
怪人の斬撃を、クルセイドソードで弾いたのは桐人。怪人と桐人、2つの武器が激しくぶつかり合い、ギリギリと火花を散らす。
交差する武器と武器の下から、なゆたはペナント怪人へと迫る。
「ヒスイ? 黒子? 知ったことか! ダークネスが妙なことを企んでいるなら潰すまでだ!!」
なゆたのオーラキャノンは、ペナント怪人の脇腹にクリーンヒット。
姿勢がぐらつくペナント怪人を、桐人のクルセイドスラッシュが見舞う。
「ペナント、か」
ぺらぺらなびく頭のペナントは、桐人の古い記憶の扉をノックする。
「よく姉たちから修学旅行の土産で貰ったが……要らない、と思った事もある。その土地を愛してる人の事を思えば、申し訳無い事をしたな……」
「ペナントが売れないのは時代の流れとして仕方ありません。壁に貼るにも、賃貸ですと壁への穴も気になりますし」
朱鷺のペナント評は容赦ない。
「あなたの、地元を発展させたいという気持ちは分かります。しかしその為に他の土地の名産を破壊し、尚且つ奪い取ろうとは許せません……!」
ガイアパワーいっぱいの佐渡おけさビームが、草木をなびかせながらペナント怪人を撃ち抜いた。
「くうっ。……かくなる上は……」
ペナント怪人の重心が、後方へとシフトする。一瞬の隙をついて戦線を離脱――する前に、行く手を阻むのはタージ。
「どこに行くの? ヒスイは壊させないし、キミも逃がさないよ!」
せっきー君ダンスを踊りながら、タージのサイキックソードが光の粒子になって爆発する。
「やきにくー」
続いてたんのレーヴァテインが、絶妙の火加減で怪人を燃やす。
「って、ペナントって肉あるんですかね? まあいいのです」
頭のペナントはぼろぼろで、回復を担う黒子もいず、撤退の道はない。
せめて一矢と、小柄なたんを倒そうとしても――。
「ヒスイを奪うってことは、ナウマンゾウの何とかがヒスイに劣るって自分で言ってるようなものだよね」
「何ぃ……っ!?」
アスティミロディアと彼女の霊犬アヴィルネティオが、怒りを誘い怪人の攻撃を引きつける。
「もはや……これまでか」
ペナント怪人の目がかすむ。
琵琶湖は遠く、眼前には灰色の日本海と鉛色の空。
「他所の土地の名物を奪い取るなんて間違ってます。それに……ヒスイの原石とか、ぶっちゃけ『へ~』としか思いません!」
ペナント怪人にとっても、糸魚川の人々にとっても、微妙に問題発言をかましながら。
心のティアーズリッパーが、ペナント怪人を切り裂いた。
●おつかれさまでした
「……あ……」
何とも哀しげな声がアスティミロディアから漏れた。タージが首をしかげる。
「どうしたの、アスティ?」
「ブラック焼きそば……」
戦闘前になゆたが食べていたブラック焼きそば。脇に置いていたのだが、戦闘と潮風で、見事にひっくり返っている。
「あら、もったいない」
「あー、これは無理です。むりむりー。きめぇー」
彩希とたんも、思わず声をもらす。
3秒ルール無視のアスティミロディアでも、これはもう『食べ物』ではない。
「糸魚川名物、練乳米粉サンドでも食べて帰るか?」
見兼ねてなゆたが声をかける。
「どんなの?」
「米粉のカステラ生地で煉乳をはさんだ、もちもち食感のご当地スイーツだ」
きらん、と目を輝かせるアスティミロディア。
「せっかく糸魚川まで来たんですし、少し寄り道してもいいですね」
心も同意する。
「まず、そこの道の駅に入りましょうか。食堂もありますし」
朱鷺が道の駅を指さした。のぼりには『たら汁』『かに鍋』の文字がはためいている。
「……まだ、帰りの時間に間に合う」
桐人も頷き、灼滅者達は揃って道の駅に向かう。
ペナント怪人も灼滅できた。犬士の動きのヒントも調べたいが、少しばかり、新潟の美味しいものを楽しんでもいいだろう。
作者:海乃もずく |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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