戦慄! テレビ塔ベルリンタワー化計画

    作者:一本三三七

     みんな、集まってくれ、時が……来たようだ。
     先刻、札幌市で開かれる、ミュンヘンクリスマス市を怪しいと睨んで調査を行っていた朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)から、報告があった。
     ミュンヘンクリスマス市が開かれる大通公園周辺で、朱雀門のデモノイドロードの一人、ロード・シラヌイを見かけたらしい。

     詳しく調査した所、ロード・シラヌイは、グリュック王国でご当地幹部のゲルマンシャークと密約を結んだ後、札幌で、ゲルマンシャーク勢力との同盟締結に伴う援助活動を開始しているようだ。
     朱雀門の財力を使い、ゲルマンシャーク勢力のご当地パワーを増大させ、その見返りに、ゲルマンシャークは朱雀門に戦力を貸し出す……。
     おそらく、そういうウィンウィンな密約がなされたのだろう。

     現在、ロード・シラヌイは、札幌の大通公園に拠点を置き、札幌のシンボルである札幌テレビ塔を、ドイツのシンボルである、ベルリンタワーに作り替える作戦を進めているようだ。
     勿論、完全に作り替えるわけでは無い。
     塔を白く塗り、展望台付近にベルリンタワーの特徴である球型展望台を外付けする……くらいだな。
     外見的には、札幌テレビ塔がベルリンタワーのコスプレをしているくらいになるが、それでも、札幌のご当地パワーの幾分かがゲルマンご当地パワーに変換されるのは間違いない。
     更に、札幌テレビ塔を支配下に収める事で、札幌市内に怪電波を流し、札幌の大通公園などで行われる『ミュンヘンクリスマス市』に、札幌市民を大動員するという大作戦も行う予定だ。

     そんな事になれば、ゲルマンシャーク勢力が、ゲルマンご当地パワーを大量に得てしまうのは間違いない。
     さらに、それにより、朱雀門とゲルマンシャーク勢力との同盟が強固なものとなってしまう為、なんとしても阻止せねばならないだろう。

     工事を担当するのは、朱雀門の財力で雇われた一般人で、彼らは『ミュンヘンクリスマス市の企画の一つとして、札幌市から受注した正規の仕事である』と騙されており、ごく普通に作業を行っている。
     工事を邪魔しようとするものは、ロード・シラヌイと配下のデモノイドロードによって排除されている為、彼らの工事を邪魔するものはいないようだ。

     つまり、この工事を差し止めるには、ロード・シラヌイと配下のデモノイドロードを撃退するか、作戦を諦めさせて撤退させるしかない。
     ロード・シラヌイは、札幌テレビ塔の会議室『しらかば・あかしあ』に、仮の本拠地を置いて、作戦の遂行を行っている。
     テレビ塔の入り口から『しらかば・あかしあ』へは、エレベーターと階段が用意されている。
     ただ、エレベーターには監視カメラが設置されている為、エレベーターを使った場合は、ロード・シラヌイに接近が察知されてしまうだろう。
     また、階段には、屈強なデモノイド1体が侵入者の警戒を行っている為、階段を利用する場合は、デモノイドとの戦いは避けられない。

     どちらも一長一短のある侵入方法である為、どちらの作戦を取るか、或いは、それ以外の作戦を考案するか検討してほしい。

     なお、『しらかば・あかしあ』には、ロード・シラヌイと配下のデモノイド1体が居る。
     デモノイドロードとデモノイドの2体を同時に相手どった場合、苦戦は免れないだろう。
     更に、この状態で階段のデモノイド1体が戦闘に加われば敗北は間違いない。

     ロード・シラヌイは劣勢になれば、デモノイドを足止めにして撤退するように、上から命じられているので、それを利用すれば、勝機は見えるかもしれない。
     皆の健闘を、期待する。


    参加者
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    皆守・幸太郎(微睡みのモノクローム・d02095)
    朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)
    近江谷・由衛(朧燈籠・d02564)
    テン・カルガヤ(黒鉄の猛将・d10334)
    七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)
    金岡・劔(見習いヒーロー・d14746)
    サイラス・バートレット(ブルータル・d22214)

    ■リプレイ

    ●テレビ塔侵入作戦
     地下鉄大通駅から、地下街オーロラタウンを通り、テレビ塔へと向かっていた。
    「地上部分を通っていけば、ロード・シラヌイに目視されてしまうかもしれないからな」
     作業服の上にマフラーを巻いたサイラス・バートレット(ブルータル・d22214)が口を開く。
    「それは賛成だけど……それより、あっちぃ……。地下街だからって油断したわ。こっちの人って暖房強すぎなんじゃない?」
     そうつけていたマフラーを外して、朝霞・薫(ダイナマイト仔猫・d02263)は、手でぱたぱたと仰ぐ。
    「ベルリンタワー計画……なかなか興味深い計画だけど、仲間に悪事を働かせるわけにはいかないわ」
     仲間から作業服を借りたテン・カルガヤ(黒鉄の猛将・d10334)もやる気は充分のようだ。
    (「本当は帰ってらっしゃいって言いたい……」)
     長い金髪をまとめて、ヘルメットに押し込むと、七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)は。
    「でも今回は、このふざけた計画を潰すことが第一」
     きりっと前を向く。その先にはテレビ塔へと通じる通路があった。
    「そうだよ。テレビ塔をベルリンタワー化なんてさせない、絶対阻止するよ!」
     金岡・劔(見習いヒーロー・d14746)も気合いの入った様子で、猫変身をする。彼女は作業員にしては幼すぎるため、こうして猫変身して潜入する予定だ。同じくサイラスも小柄な蛇で潜入を試みる。そしてもう一人。
    「……」
     瞳を細め、僅かに口元に笑みを浮かべながら、周囲を眺める近江谷・由衛(朧燈籠・d02564)の姿が。
    「そろそろ行きますよ?」
     灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)が声をかけると。
    「今行くわ」
     由衛も犬に変身して、フォルケが用意した大きなボストンバックに入り込むと、フォルケはそれを担ぎ、歩き始める。
    「だいたい俺はドイツよりもイタリアの方が好きなんだがな……と、準備が出来たみたいだな。行くか」
     皆守・幸太郎(微睡みのモノクローム・d02095)の言葉に、皆が頷いた。

     作業員に変装した灼滅者達は、そのまま地下街から通じる通路を通り、テレビ塔の地下1階へと入っていく。幸いなことにそこにたむろしていた作業員らしき者達と遭遇。幸太郎とフォルケは顔を見合わせ、彼らに近づいていった。
    「お疲れ様です、こんな有名処な現場なんて凄いですね」
     フォルケが先に声を掛ける。
    「ああ、年末に良い仕事が舞い込んで、本当に助かったよ。ところで君らは?」
    「先輩から手伝えって言われて、ここに。本当なら家で寝てるところなのに」
    「こら、先輩を悪く言ったらいけないですよ。そういうわけで、私達も皆さんの手伝いに来たんです」
     幸太郎とフォルケの言葉に、その作業員はすっかり信じ込んでしまったようだ。
    「それは助かる! 人数が少なくて、どうしようかと困ってたところだったんだ。さっそく、上の階に行って手伝ってくれないか?」
     そういう作業員によろこんでと応えるフォルケ。
    「ところで……あのエレベーター使っても?」
     幸太郎が尋ねると。
    「もちろん。うっかり階段上がってくと大変だからね。仕事する前に疲れちゃうよ。その分、君達の働き、期待しているよ」
     ぼんぼんと二人は作業員に肩を叩かれて、言われるままにエレベーターに乗ることが出来た。
    (「まずは第一関門突破!」)
     灼滅者達はアイコンタクトで僅かに笑みを見せる。
     いや、次からが本番だ。
     次は誰からも気づかれぬよう、しらかば・あかしあの隣の部屋、はまなすに潜入しなくてはならない。
     気を引き締めて、目的地の部屋があるレンタルスペースフロアへと入っていく。
     作業員達がいたが、仕事が忙しいらしく、こちらには目が行っていない。
     しかも監視カメラ等も設置されていない様子。
     それを確認すると、作業員達に気づかれないよう、物音を抑えながら、はまなすへと向かい、入り込むことに成功した。
    「さて、準備の仕上げと行きましょうか」
     フォルケが鞄を開くと、そこから動物達が元の姿へと戻っていく。
    「あ、ちょっと待って」
     薫が窓に細工して、ガムテープで目印をつける。
    「何をしているの?」
     尋ねる劔に薫は答える。
    「退路を用意してんのよ」
     ウインクして、準備完了を告げた。
     皆、戦闘準備を整え、あかしあ側の壁の前に集まる。
    「さて、始めるわよ。サウンドシャッター!!」
     テンの掛け声と共に、皆は息を合わせて、壁をぶち抜いた。

    ●しらかば・あかしあ強襲
     激しい轟音と共に、壁から飛び出してきたのは、潜入に成功した灼滅者達。
    「何っ!? まさか、ここを嗅ぎつかれたのか!?」
     ロード・シラヌイは、彼らの奇襲に驚きながら、後方へと下がる。
     代わりに灼滅者達の前に立ちはだかるのは、作業員から変化したデモノイド達。
     数は多いが、突然の状況に追いつけてるのは、それほど多くはない。
    「いっけーっ!!」
     早い段階で放たれたのは、劔のバスターライフルの光。
    「くっ!!」
     あまりダメージは食らっていないものの、相手にプレッシャーを与えることには成功しているようだ。
     ブラックフォームで強化したフォルケは。
    「邪魔です! さっさと退場願いましょうか?」
     死角からの斬撃で次々とデモノイド達を滅ぼしていく。
    「こっちは任せて」
     由衛も自身が身に付けている指輪から魔法弾を放ち、敵に制約を与えていた。もちろん、それを見逃す灼滅者ではない。
    「冷えるわよ、覚悟なさいっ!!」
     動きに制限が加わったデモノイドをホナミが、槍から生み出した冷気のつららを放ち、デモノイド達を葬り去る。
    「逃さねぇぞっ」
     サイラスもロード・シラヌイと同じ連環刃【画竜点睛】で、相手を絡めながら攻撃を仕掛ける。
    「邪魔を……するなっ!!」
     それはロード・シラヌイの心を代弁したかのような、苦しげな叫び。
     同時に利き腕と一体化した刃が、サイラスを捉えた、はずだった。
     がきんっ!! 何かが弾かれる。
    「仲間を敵の攻撃から守る。それが今の……私の仕事だっ!」
     テンのWOKシールドが、ロード・シラヌイの攻撃を遮ったのだ。もちろん、テンも無傷では済まない。が、サイラスはお陰で傷を負うことなく、デモノイド殲滅に専念することができる。
    「大丈夫か、テン!」
     テンの負った傷は、幸太郎が放った小光輪の盾で癒されていた。
     ざっと、ロード・シラヌイの前に二人が立ちはだかる。
    「そう、あなたの相手は……」
    「この俺達だぜっ!!」
     薫とサイラス、それにテンが加わる。
     灼滅者達が考えた戦いはこうだ。
     薫、テン、サイラスがロード・シラヌイの牽制役を担い、その間にデモノイド達を攻撃するのが、フォルケ、由衛、ホナミ、劔。幸太郎は回復を担う。
     そして、ロード・シラヌイを追い詰めるために、先に盾となって立ちはだかるデモノイド達の殲滅を優先させる。
     それが、彼らの考えた作戦であった。
    「ぐっ……お前ら……っ!!」
     すかさず薫が、まるで龍の如く高速で強烈な打撃を与える。
    「顔色の悪い男の子って、好みじゃないのよね……けど、頭に血が上って、ちょっとイケメンになったじゃない」
     顔を歪ませるロード・シラヌイに灼滅者達は、余裕の笑みを見せた。
    「誰よりも不知火さんが、まず望まない事を……絶対成功などさせませんよ」
     更に放たれたフォルケの言葉に、ロード・シラヌイはまた、誰にも当たらぬ剣を振るうのだった。

    ●激闘、ロード・シラヌイ
     灼滅者達の作戦は、功を奏していた。
     ロード・シラヌイらは追い詰められ、しらかば・あかしあの部屋を飛び出し、今はテレビ塔の階段まで圧されていた。
     程なくデモノイド達を倒した彼らは、残るロード・シラヌイと対峙することになる。
     しかし、敵はダークネス。その力は先ほど相手にしていたデモノイド達とは、比較にならないものであった。
    「どうした? さっきの威勢はどうした!?」
     ロード・シラヌイの攻撃をもろに受けて、由衛はその場に倒れる。幸いにもすぐに立ち上がれたが、深手を負っているのは誰の目にも明らかだ。
    「ブラックよりも酷いダーク企業ってトコか、朱雀門は?」
     そう減らず口を叩きながら、幸太郎は由衛をシールドリングで癒す。
    「何が言いたい?」
     DCPキャノンで灼滅者達を攻撃しながら、ロード・シラヌイは口を開いた。
    「不知火レイが闇堕ちして守った人は、皆、助かったわ。逃がした仲間も無事よ! それなのに……ダークネスが力を得るための計画を貴方が遂行するっていうの?」
    「そうだ、テメェらが堕ちてまで救ったってのに、今度は奪う側に回るのかよ!?」
     ホナミとサイラスの言葉に攻撃の手が緩んだかのように見えた。
    「うるさい、黙れっ!!」
     振るったウロボロスブレイドで、テンの腕が切り裂かれる。切り口から溢れる血が、地面を赤く染めてゆく。
    「……ゲルマンシャークにアゴで使われている状況に満足か? このまま、我々に灼滅されるのは、時間の問題だ。天文学者になりたい夢を掴めるかどうかは、貴方次第だ」
    「……っ!!」
     テンの台詞にロード・シラヌイは言葉を失っている。それに追い討ちをかけるかのようにサイラスが。
    「もう朱雀門の飼い犬は充分だろ。戻って来いよ、不知火」
     手を差し伸べる。
    「……お、俺は……」
     頭を抑えるかのように苦しむ様子を、ロード・シラヌイが見せたそのときだった。
    「ロード様!!」
    「ここは我らが抑えます、撤退してください!!」
     階段下から騒ぎを聞きつけて、援軍であるデモノイド達がやってきたのだ。
    「し、しかし……」
     戸惑うかのようにデモノイド達と灼滅者達を交互に見た。
    「逃げるならどうぞ。でも忘れないで。不知火レイが守ったものは、皆が知ってるってことを」
     縋るような瞳でホナミを見つめていたが。
    「……テレビ塔ベルリンタワー化計画は、確かに阻止された。だが、俺の作戦がタワー化だけだと思うなよ! 既に俺の指示で、ミュンヘンクリスマス市強化計画は進行している。恐らく今年の動員人数は昨年比23パーセント以上の増加となるだろう。ゲルマンパワーの増大は、もはや止められないのだっ!!」
     そう言い放ち、ロード・シラヌイは、やってきたデモノイド達に後を任せ、走り去っていった。
    「さてっと、どうする?」
     薫の言葉に由衛は苦笑を浮かべた。
    「彼らをそのままにしておくわけにはいかないわ」
     じゃあと、劔が前に出る。
    「派手にやらせてもらうよ」
     バスターライフルとガトリングガンをそれぞれ片手ずつに持って、一気にぶっ放した。

    ●後の始末
     ロード・シラヌイとの戦いで、灼滅者達はかなり打撃を受けていたが、相手はデモノイド。最初のうちは苦戦していたが、数が減るにしたがって、徐々に灼滅者側が有利に戦いを進められるようになっていた。
    「そのまま……溶けなっ」
     デモノイドの攻撃を受けながらも、DESアシッドで反撃するサイラス。
    「ゲルマン魂に負けてたまるかっ!!」
     幸太郎は、鋭い刃に変えた影で、敵を切り裂いていく。
     がちゃりとガトリングガンを構えて、劔が撃ち込んだのは。
    「僕だってやるときはやるんだっ!!」
     爆炎の魔力を込めた大量の弾丸。それが全て目の前のデモノイドに命中し、どうっと倒れた。
    「ちょっと早いけど、クリスマス満喫しましょ。……なんてね」
     闘気を宿した雷撃の拳で、目の前のデモノイドに強烈なアッパーカットを決める薫。
    「いい加減に、ぶっ壊れろっ!!」
     渾身の力を込めたサイラスの一撃で、デモノイドは崩れるかのように倒れ伏す。
    「これで……最後っ!!」
     由衛が両手に集中させたオーラを最後のデモノイドに放ち、止めを刺して、長い戦いが終わりを告げた。

     その後、ミュンヘンクリスマス市が行われている大通公園を通って、灼滅者達は、札幌駅へと向かう。
    「すっごい人が集まってるみたいだね。ロード・シラヌイが言ってたのは本当かも」
     盛況な様子に劔は、思わずそう口にしていた。
    「グリュック王国にミュンヘンクリスマス市……北海道は、ドイツと縁があるのでしょうか」
     悩むようにフォルケも口を開いた。
    「どうなんだろうな。……今回は最悪な事態を防げたが、ゲルマンシャークと朱雀門の同盟は、今後の脅威になるかもしれない」
     幸太郎もそう告げる。
    「まあまあ。試合に負けても、勝負に負けても、生きていれば別のチャンスがあるわ」
     励ますように声をかけるのは薫だ。その通りかもしれない。
    「ロード・シラヌイ。今回は説得できなかったが、次回機会があれば、彼を必ず助けて見せる」
     その言葉に皆は力強く頷いたのだった。

     こうして、灼滅者達の活躍により、テレビ塔のゲルマンタワー化計画が阻止された。
     灼滅者達は、疲れきった体を休めるかのように、帰途へと向かう飛行機でしばし、眠りに付くのだった。

    作者:一本三三七 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月9日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 23/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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