刺青羅刹達の死闘。歌舞伎町大決戦を阻止せよ!

    作者:波多野志郎

     東京都新宿区歌舞伎町――眠らない街にも、光の届かない『闇』がある。
    「はん、で? 一体何の用さね?」
     そう言って振り返ったのは、着物姿の妖艶な女だ。その花のように瑞々しい唇が紡ぐ声は、甘くはあっても聞いた者の心を焼き切る――そんな覇気に満ちていた。
     対するは、女の声に応えてその場に着地した大男だ。さらした筋肉は隆起し、誇るように晒した右半身には大量の大蛇が踊る刺青があった。
    「お前が、あの男を改造した『刺青持ち』だな。ようやく見つけたぜ。俺の名は『外道丸』、全ての刺青を集め、この日本に覇を唱える男だ」
    「そうかい、アンタも『刺青持ち』かい。奇遇だねぇ、こんな所で会うなんてさ」
     そう笑う女の胸元にも、刺青が浮かんでいた。赤と青の鬼面――その刺青を見ながら、外道丸と名乗った男は低く言い捨てる。
    「おい、女、俺が名乗ったんだ、てめぇも名乗れ。それが、この歌舞伎町のルールってやつだぜ」
    「なにを偉そうに、だが、まぁ、仁義は通すよ」
     外道丸の物言いに、女はその胸を張り真っ直ぐに答えた。
    「あたいは鈴山・虎子。二つ名は箕輪御前さ」
     外道丸と鈴山・虎子――互いの名を知った二人の羅刹が睨み合う。外道丸はルールを、虎子は仁義を、互いに譲れぬものを通した。
     ――ならば、残るは相手をへし折り己を貫くのみ!
    「てめぇら、出てこい」
    「出入りだよ、派手にいこうじゃないか」
     二人の羅刹の呼びかけに、その子分達が姿を現わす。配下達が激突するその戦場を、虎子は流れるような動作で駆け抜けた。
    「見せてもらおうかい! 覇を唱えるだけの資格があるか!?」
    「吼えるな、ここでは俺がルールだ」
     無数にばらけた虎子の鋼糸が地面に亀裂を走らせ、外道丸の拳が地面を殴りつけ鋼糸ごと衝撃を撒き散らす――この刺青羅刹二人の勢力が遭遇した事により、この夜、歌舞伎町が消滅する事となる……。

    「……まさか、こんな大事になるとはな。とんでもねぇぜ」
    「羅刹は、群れるダークネスっすからね」
     唸る成瀬・圭(サウンドオンリー・d04536)に、湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)も困ったように口を開いた。
    「成瀬さんの事後行動から調べた結果、歌舞伎町で、羅刹同士の大きな争いが発生する事がわかったんすよ」
     一人は知っている者もいるだろう、鈴山・虎子。もう一人もまた刺青を持つ羅刹、外道丸。この二者の争いで、歌舞伎町が多大な被害を被る未来が予知されたのだ。
    「そうなったら最悪っす。そうなる前に歌舞伎町に向かって阻止して欲しいんすよ」
     今回の羅刹同士の戦争は、偶発的なものだ。なので、彼等の接触を阻止する事が出来れば事件を未然に防ぐ事が出来るだろう。
    「阻止する方法は、大きく二つに別れるっす」
     鈴山・虎子に接触するか? 刺青の男に接触するか? この二つだ。どちらに接触するかは任せるが、少なくとも接触から十分以上、その場に釘付けにする必要があるのだ。
    「鈴山・虎子はある裏路地を通る時に。刺青の男は、とある公園にいる時に。それぞれ接触出来るっす。ここで十分以上釘付けにして時間を稼げれば、羅刹二人が出会う事もなく、歌舞伎町壊滅という未来は回避出来るんすけどね……」
     方法は、戦闘以外でも構わない。みんなが知恵を絞って、足止め方法を考えて欲しい。
     今回の任務は、歌舞伎町の破壊を阻止する事だ。なので、まずは確実に二人の羅刹を接触させない事、それを目標に動いて欲しい。
    「その上で、もしも勝算があるのなら接触した方の羅刹の羅刹の灼滅を狙っても良いっすけど……どっちも強大な力を持った羅刹っす。灼滅できれば、それだけ羅刹の勢力を削ぐ事になるはずっすから」
     どんな手段を選ぶかは、みんな次第である。翠織は真剣な表情で締めくくった。


    参加者
    杉下・彰(祈星・d00361)
    黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)
    杜羽子・殊(万色を抱く蕾・d03083)
    成瀬・圭(サウンドオンリー・d04536)
    伊勢・雪緒(待雪想・d06823)
    森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)
    朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)
    櫻井・椿(鬼蹴・d21016)

    ■リプレイ


     新宿歌舞伎町――眠らない夜は、今日も輝く。その地上の星々の中でぽっかりと空いた薄暗闇の穴、歌舞伎町公園にその男はいた。
     鍛え上げられた上半身の上に、パーカーを羽織る大男だ。その首からは金の鎖を無骨なアクセサリーとしてさげ、その右半身には精緻にして大胆な蛇の刺青を施した――外道丸、そう名乗る刺青羅刹である。
     その大男を物陰から、目を凝らして伊勢・雪緒(待雪想・d06823)はこぼした。
    「あれが外道丸さん……、んむ……どんな刺青なのでしょう?」
    「虎子さんと同じ、刺青を持つ羅刹ですか。ちょっと楽しみですね」
     森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)もまたそう呟き、小さく笑みを浮かべる。
     八人の灼滅者達は、物陰に身を潜めていた。相手は未知数だ、ただ無策に接触するのを避けるためだ。
    「何にせよ、とっととせんとな」
    「だな、頼むわ」
     櫻井・椿(鬼蹴・d21016)の言葉に、成瀬・圭(サウンドオンリー・d04536)が振り返る。その視線と言葉に、朝倉・くしな(初代鬼っ娘魔法少女プアオーガ・d10889)はうなずいた。
     くしなは外道丸を見ながら、その右手を耳に当てる。ESPハンドフォン――それは、外道丸の携帯電話へとコールした。外道丸はパーカーのポケットから携帯を取り出し、その表示画面を確認してから通話ボタンを押す。
    『……もしもし』
    「初めましてっ私は灼滅者の朝倉くしな。魔法少女をやっています」
    『あぁ? 灼滅者?』
     外道丸の声にうろんげな響きが混じった。しかし、くしなは自信のある声を揺るがせない。
    「魔法少女は人々の平和を守ったり悪と戦う者です……例えば刺青の羅刹、と、か……!?」
     思わず漏れそうになる声を、くしなはギリギリで押し殺す事に成功した。外道丸が、通話したまま歩き出したからだ。
    「出来れば、話を聞いて欲しいんですけね?」
    『なら、とっとと出て来い……見ているんだろう?』
     その言葉に、灼滅者達の背筋に戦慄が走る。外道丸の足は、止まらない。このままでは公園を出てしまうと判断して、黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)が立ち塞がった。
    『ESPハンドフォンは、非通知と相手に表示される。知っていれば、非通知表示なら気を配るのは当然の対処だぜ? 憶えておけ』
     くしなの耳に、その言葉が残され通話が切れる。自分の目の前に姿を現わした灼滅者達に、外道丸は携帯電話をしまいながら口を開いた。
    「で? 何の用だ?」
    「初めまして、杉下彰と申します」
    「初めまして、森沢心太と言います」
     ぺこんとお辞儀する杉下・彰(祈星・d00361)と心太に続き、杜羽子・殊(万色を抱く蕾・d03083)が言う。
    「ボクら、このあたりだと新参者なんだ。色々教えてくれない?」
    「歌舞伎町はまだ不慣れで……これからちゃんと勉強します。お怒りだったり無礼があったなら、ごめんなさい」
     害意は見せず、心の底から誰も傷つかずにすめばと思っている彰の言葉に、外道丸は小さく眉根を寄せた。
    「……何だ?」
     外道丸が、一歩下がる。話を聞く体勢を取った外道丸に、圭はばれないように小さくガッツポーズを取った。
    (「よし、第一段階はクリアだぜ!」)
     だが、それはまだ一歩しかクリアしていないというのと同じ事だ。十分、あまりにも長い時間稼ぎの戦いは、まだ序章だった。


     まず、口火を切ったのは蓮司だ。
    「この街でルールを犯すと徹底的に制裁を受ける、って耳にしましてね。知っとかないと何かと動きづれーんですよ。……一体、どんなルールなんすか」
    「はっ!」
     無表情で言った蓮司に、外道丸は小さく笑い飛ばした。そして、言葉を続ける。
    「ルール、というのは、歌舞伎町の暗部で生きていれば自然と身に着くもんだ。いちいち、言葉にして伝えるようなお上品なもんじゃねぇ」
    「何だ、そりゃあ」
     圭が思わずツッコミを入れてしまうのも仕方がない。歌舞伎町のルールとは文章化され明確となった成文法ではなく、習慣や風習に近い不文律だ、という事だ。ある意味では、粗暴である羅刹らしいと言えばらしいルールだ。
    「刺青について調べているうちに外道丸さんを雇えると聞いたのですが、本当ですか?」
     心太の問いかけに、外道丸はうなずく。
    「ああ、その通りだぜ」
    「もし雇うとしたら、報酬などはどれ程でしょうか?」
    「ルールを守る者なら、雇えるだろうさ」
     心太の言葉に、外道丸は即答した。すべてはルール次第、そういう事なのだろう。
    (「……実際に、ルールを把握して雇ってみないとわからないという事ですか」)
     こればかりは、初めての接触でどうこうなるものではない。それを理解して、心太は素直に退いた。
    「最近立派な虎の刺青をした人と会いましたが、ちょっとした事で羅刹になりました」
    「ほう?」
     雪緒の言葉に、外道丸は反応する。先を続けろ、という無言の圧力に雪緒は口を開いた。
    「最後は刺青ごと塵となりましたね。刺青を持つ人が次々と羅刹になっているようですね」
    「それは何時で何処だ?」
     外道丸が、疑問を投げてくる。それに、雪緒は武蔵坂学園の事を知られないように情報を提供していった。外道丸自身、背後の事は気にした風もない。重要なのは、どこで刺青羅刹が現われたのか? その事のようだった。
    「その刺青、すごく執着してるみたいだけど、何なの?」
    「刺青ってのは作れるモンなのかい。オレも使ってみてェくらいだが、どうやったら作れるんだ? 工場みたいなのでもあんの?」
     殊の問いかけに、圭が言葉を重ねる。
    「刺青を全部集めるとなんかいいことでもあんのかい、願いが叶うとか無敵になれるとか。オレも大概興味あるぜ、その手の話は」
    「刺青集めるとなんかあるんやろか?」
     ふとした疑問として口にした椿に、外道丸が口の端を持ち上げた。そして、短く答えた。
    「力だ」
    「? えっと……」
    「刺青の話だ。それ以上でもそれ以下でもない」
     そこまで告げると、外道丸は歩き出した。これ以上語る事はない、そう言わんばかりの態度だ。
    『駄目や、全然時間を稼げてへん』
     接触テレパスで椿の言葉を聞いた殊も、息を飲んだ。このまま行けば、外道丸は虎子と接触して――結果、歌舞伎町は崩壊してしまう。
    「刺青を集めてる羅刹の情報があるんですけど」
    「――――」
     その言葉に、外道丸が足を止めた。これは、最終手段だ。もちろん、残りの時間を稼げる程の量ではない。引き伸ばすのには限界があるだろう――だからこそ、くしなは言った。
    「情報を渡す前に。力量、確かめさせて頂きますっ」
    「……それは、俺を測ると言う事か? お前達が?」
     ゾワ、と灼滅者達の背筋に旋律が走る。明確な怒り、それを容赦なくぶつけられて心太は呼吸を整えた。
    (「虎子さんと同等で同質な力、ですか」)
     相手は違え、二度目の遭遇だ。心太は、覚悟を決めて構えを取れた。
    「死の幕引きこそ唯一の救いや」
    「ボクがボクであるために」
     椿が、殊が、解除コードを唱える。そして、目を閉じて引き抜いたナイフを持つ手を額にあてて殊は言い放った。
    「じゃあその力量、試させて貰うよ?」
    「舐めるな、灼滅者ごときが――!」
     踏み出した外道丸に、灼滅者達が身構える。左手薬指の指輪に口付け、雪緒が言った。
    「……絶対無事に帰るのです、行くですよ八風!」
    「それを決めるのは、この俺だ!」
     外道丸の刺青が刻まれた右腕が巨大化する。その拳が地面に豪快に叩き付けられた瞬間、ズン……! と衝撃が撒き散らされ、歌舞伎町公園を揺るがした。


     巻き起こる砂煙、大震撃を繰り出した拳を引き抜き外道丸は笑った。
    「ああ、この程度で終わる連中に測られるなど、たまったまんじゃない」
     その砂煙の向こうから、圭が跳び出した。
    「情報以外にも見返りはあるぜェ――楽しませてやるよ、アンタを!」
     その巨大化した右腕での殴打、鬼神変が振り下ろされる。だが、構わず外道丸は踏み込み圭の顔面を鷲掴みにした。
    「うお!?」
    「これで楽しめるとでも? もっと芸を学んで来い!!」
     そのまま投げ飛ばそうとしたその瞬間、くしなが構えたバスターライフルの引き金を引いた。放たれる魔法光線、バスタービームに外道丸は左腕でそれを受け止める。その間隙に、霊犬の八風が圭を掴む外道丸の右腕を斬った。
    「させません!」
     そして、雪緒が振りかぶった右拳を繰り出す。鬼神変、異形の怪腕が外道丸を捉えた。それと同時、圭と雪緒が同時に後方へ跳ぶ。
    「馬鹿力やね」
     椿が解体ナイフを構え、夜霧を展開させた。歌舞伎町公園に広がる霧――その中を一気に駆け抜け、心太はその槍を繰り出す。
     心太の一撃が、外道丸の胴にめりこむ。しかし、外道丸の笑みは消えない――それどころか、濃くなるばかりだ。
    「温い」
     無造作な膝蹴りを、心太は咄嗟に左足で受け止める。膝を足場に後方宙返り、間合いをあけて着地した。
    (「まともに殴り合える気がしませんね」)
     実力で大きく差を開けられている、その事を心太は自覚する。だからこそ、退くという選択肢はなかった。
    「固まれ」
    「断る」
     契約の指輪をかざした殊のペトロカースの呪いを、外道丸は巻き起こす神薙刃で相殺する。ビキビキ! と小石が舞い上がるそこへ、蓮司が踏み出した。
    「ずんばらり、っと」
     淡々と、破邪の白光を放つ強烈な斬撃を蓮司は放つ。烈風を切り裂き、横一閃に外道丸の胴を薙ぎ――払えなかった。
    「……硬いっすね。何食ったら、こうなるんすか?」
     クルセイドスラッシュが、外道丸の鍛え抜かれた脇腹で止まっていた。手に甘い痺れが走る、まるで鈍器で壁を殴ったような感覚だ。
    「さてな? 知りたければお前もルールを憶えやがれ」
     外道丸の軽口が、不意に止まる。周囲の気温が急激に下がったからだ――外道丸の視線が、彰へと向いた。
    (「ごめんなさい」)
     心で詫びながら、彰はフリージングデスを吹き荒れさせた。ビキビキビキ! と凍てついていく大気――それを外道丸は裏拳で殴り砕く!
    「で? これで俺の何が測れた? 言ってみろ、灼滅者ども」
     外道丸が地面を蹴る。巨体から想像も出来ない身のこなしと速度で、ただその拳を振り回した。
    (「強いな、強ぇ……!」)
     圭が、思わず口の端を笑みの形に歪める。外道丸、そう名乗る刺青羅刹は確かに強かった。攻撃力、耐久力、身体能力、戦闘技術、どれを取ったとしてもこちらを大きく引き離す実力の持ち主だ。それとまがりなりにも殴り合えたのは、八人と一体が全力を尽くしたからだ。
    (「もう、少しです」)
     追い込まれる中、携帯電話の振動で正確な時間の流れを近くしていた彰が、心の中でこぼす。
    「やっぱりこっちの方がウチには解り易いわ」
     椿のオーラを集中させた両の拳による連打が、外道丸を襲う。その拳がボディへとめり込むが、外道丸は一切構わない。そのまま、大きく一歩前へと出た。
    「殴って解決、っていかせてくださいよ!」
     ドン! とその指輪から魔法の弾丸をくしなは撃ち放つ。外道丸はそれを両腕をクロスさせ、受け切った。
    「グッシャグシャに潰しますよ」
    「切り刻んであげる」
     蓮司の非実体化した刃が、殊の変形したナイフの一閃が、外道丸を襲う。外道丸は右腕で蓮司の神霊剣を殴打し相殺、殊のジグザグスラッシュを左手で掴み止めた。そこへ圭は指揮棒状のマテリアルロッドを手の中でクルリと回転させ、大量の魔力に輝かせる――!
    「っらああああああ!!」
     一気に懐へと肉迫、圭がフォースブレイクを叩き込んだ。衝撃音が、外道丸の内部から確かに響いた。しかし、外道丸は小揺るぎもしない。
    「まだまだ、なのです」
     そして、横から回り込んだ雪緒と八風の斬撃が、挟撃となって外道丸を斬った。そこへ、心太が真正面から跳び込み、その雷を宿した拳を夜空へと全力で突き上げた。
    「ククッ」
     外道丸が、顎を強打され反らした喉を鳴らす。遠心力をつけて、巨大化した右腕が一気に薙ぎ払われる――マルチスイングの一撃を受けて、心太がのけぞった。
    「――ッ!?」
     そして、全員が見る。横回転した外道丸の右腕が、ミシリと音を立てて巨大化していくのを。
     再行動、加速をつけた外道丸の鬼神変の一撃が心太を地面へと叩き付け、吹き飛ばした。
    「……っ!」
    「心配するな、しばらくは立てんだろうが重傷という訳でもないぜ」
     息を飲んだ彰に、外道丸が言う。彰の視線を受けた外道丸が、ふんと鼻を鳴らして顎で倒れた心太を指し示した。それに、彰はぺこりと頭を下げて心太へと駆け寄る。
    「さぁ、話してもらおうか? そいつの名前、見た目、得物、刺青の有無、あるのならばその数から、お前達が知っている事の全部を、だ」
    「……それは」
    「とっとと言え、これが最後のチャンスだぜ?」
     外道丸が、低く淡々と言い捨てた。
    「素直に話せば、生きて返してやる。これが、最後通告だ」
     外道丸の言葉に、椿は彰を盗み見る。その視線に、彰は小さくうなずいた。戦い、稼いだ時間がある。これから普通に情報を明かしたとしても、その時間で時間稼ぎは果たせるだろう。
    『……潮時やな』
     一気にディフェンダーを二発で削り倒したほどだ、外道丸の攻撃力は計り知れない。加えて、これにいつ配下が加わるかもしれないのだ――椿の接触テレパスに、くしなはうなずいた。
    「その羅刹の名前は鈴山虎子です……」
     語るくしなに、外道丸は静かに耳を傾ける。その態度も、こちらの情報を信頼しているようには見えない。ただ、一つの情報として参考にはなる程度、なのだろう。
     しかし、灼滅者側には大きい戦果だ。歌舞伎町を崩壊から守り抜く、その目的を達成できたのだから。


    「虎子さんと力量は互角。今戦っても勝算は五分五分で勝っても損害は必ず出ますよ」
    「ああ、そうかい」
     くしなの言葉に、外道丸はそう切り捨てた。暴力に生きる者が、暴力で受ける損害に心を砕くはずがないのだ――外道丸という男は、あまりにも典型的な羅刹だった。
     灼滅者達は、引いていく。それを外道丸も追わない。
    「色々気に懸かりますね……」
     雪緒の言葉に、全員の表情が曇った。謎の多くは、残されたままだ。ただ、外道丸の語るルールというのが不文律であり、それを知る事が出来ればあの羅刹を雇う事が出来るかもしれない、そんな微かな光明を掴めた、それも成果だ。
    「それも、これからどうするかの話っすね」
    「気の遠くなる話やな」
     無表情でこぼす蓮司の言葉に、椿もため息混じりにぼやいた。
    「ま、そこはしつこくしがみつくまでさ。最初から諦めちゃ、何も掴めないぜ?」
    「そうだね」
     言い切る圭に、殊はうなずく。状況は、始まったばかりだ。全ては、ここから始まるのだ。
     灼滅者達は、眠らない町を走り抜ける。そこに潜む深い闇は、まだ見通せそうになかった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 36/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ