三角形に宿りし下関四大名物

    作者:泰月

    ●宣言だそうです
    「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」
     滋賀県琵琶湖のほとりで、一体の強力なご当地怪人が復活を果たした。
    「我、目覚めたり。そしてスキュラよ、サイキックエナジーは受け取った。
     我はここに、『日本全国ペナントレース』の開催を宣言する!
     その身に大地と人の有り様を刻む怪人共よ、我、安土城怪人が元に参集せよ」
     琵琶湖から放たれた大量のサイキックエナジーは、様々なご当地へと降り注ぎ、新たなご当地怪人を生み出した。
     ご当地をその身に刻む者、すなわち『ペナント怪人』である。

    「安土城怪人様のお呼びである、いざ、琵琶湖っ!」

     日本各地に現れたペナント怪人達は、一斉に琵琶湖に向けて走り出したのだった。

    ●狙われた風車
    「ペナントって知ってる? 昔は観光地に良くあったお土産品らしいのだけど」
     夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)は、教室の黒板にペナントの写真をペタペタ貼り付けながらそう口を開いた。
     写真のペナントには、二等辺三角形の中に『摩周湖』と書かれている。
    「他にも『京都』とか『富士山』とか地名が入る物らしいわよ」
     さっきから、らしい、だらけなのは、柊子も実物を見た事がないからだ。
     貰ってもしょうがないお土産、なんて言われた事もあり、最近では観光地の売店でも見かけなくなった。
     と、そんな話をする為に灼滅者達が集められた訳ではない。
    「ペナントのご当地怪人が各地に現れる――マリィアンナ・ニソンテッタ(聖隷・d20808)さんの懸念が的中したわ」
     ペナント怪人の頭部は、勿論三角形のペナントだ。
    「こんなに頭の薄いご当地怪人は初めて見たわ」
     薄い頭と侮るなかれ。
     ペナント怪人は、その地に住む郷土愛豊かな一般人を強化して全身黒タイツ姿の『ご当地黒子』として配下に加えている。
    「予測できたのは、下関のペナント怪人よ」
     頭のペナントには下関の地名の他、フグのイラストが描かれている。
    「じゃあ、向かうのは下関か」
    「それがね。ペナント怪人御一行、何故か琵琶湖を目指して東へ進むのよ」
     しかも、道中で他の地域の名物を発見すると、それを破壊しようとするらしい。
     放っておくと、下関から琵琶湖の間にあるご当地名物がペナント怪人達に破壊されてしまうのだ。
    「山口の周南市の永源山公園にある風車が破壊目標になるのが、予測出来たわ。風車を守って、ご当地黒子になった人達も助けてきて欲しいの」
     黒子達は彼らを倒すか、ペナント怪人を灼滅すれば元に戻る。
     風車を守り、ご当地黒子となった人達を助ける事が出来るのは、灼滅者だけなのだ。
     ペナント怪人は公園の北から、周りの森を突っ切って風車の元に現れると言う。
    「先回りして、風車の傍で待ち伏せるのが良いと思うわ。敵のバベルの鎖にもかからないし」
     公園の外は市街地だ。
     人の多い所では怪人も警戒しているが、目標を見つければその警戒も緩まる。
     公園ならば市街地より人は少ないであろうし、こちらも戦い易いであろう。
    「連れている黒子は4人。頭巾に『下関』って書いてあるわ。瓦で攻撃を仕掛けて来るわよ」
     下関発祥の名物、瓦そばにちなんだ攻撃らしい。
    「ペナント怪人自身は、フグを始めとした下関四大名物にちなんだ技を使うわ。詳しくは纏めといたのを見てね」
     配られた紙面には、フグやウニの文字。
     なんだか観光案内みたいだけど、ご当地怪人の能力詳細です。
    「敵の見た目の頭の薄さに油断しないで、風車を守って黒子になった人達を助けてきてね。それじゃ、気をつけて行ってらっしゃい」


    参加者
    マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)
    烏丸・織絵(黒曜の鴉・d03318)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    明日・八雲(十六番茶・d08290)
    五十嵐・匠(勿忘草・d10959)
    柊・司(灰青の月・d12782)
    禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)
    綾芽・藤孝(林檎大好き・d22545)

    ■リプレイ


    「すいませーん! これから周囲の樹木へ薬剤散布を行うので、退避をお願いします!」
     公園の一角。地域のランドマークでもある風車があるエリアに、文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)の声が響き渡る。
    「ご協力お願いしまーす」
     明日・八雲(十六番茶・d08290)も周囲に向かって呼び掛ける。
     揃いの作業服姿に、直哉のESPの効果もあり、人々は首を傾げながらも移動を始める。
    「風車に、行けないの?」
    「うん。飴あげるから、向こうに行っててね」
     中々動こうとしない小さな子供に、五十嵐・匠(勿忘草・d10959)がポケットから飴を出して説得。
    「オイ。今来たばっかなんだぜ?」
     ちょっとしつこい人には、禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)の出番だ。
    「出直してくれや。ほれ、さっさと行った行った」
     迫力のある風貌に王者の威風を纏って促せば、相手は渋る気力をなくし、すごすごと立ち去って行く。
     風車の周囲に人がいなくなるまで、時間はかからなかった。
    「お疲れ様です」
    「人払いは問題なく終わったようだな」
     風車の元に戻って来た4人の前に、木陰に隠れていた柊・司(灰青の月・d12782)と烏丸・織絵(黒曜の鴉・d03318)が出てくる。
    「後の2人は?」
    「マルティナさんはそこに。多分、寝てないと思いますよ」
     首を傾げた匠に、司が一匹の猫を指差す。
     マルティナ・ベルクシュタイン(世界不思議ハンター・d02828)の変身した姿である猫は、寝てないよ、と言わんばかりに尻尾を上下にパタパタ。
    「藤孝も猫になっていたが……遠くには行ってないだろう」
     織絵が辺りを見回し、そう言って間もなく。
     北側の木立から飛び出して来た一匹の猫が、綾芽・藤孝(林檎大好き・d22545)の姿に戻る。
    「林檎の木がないかなって森を見てたんですが、こっちに来る足音が聞こえました。多分怪人達です」
     藤孝のこの一言で、緊張が走った。マルティナも人の姿に戻る。
     そして程なく。
     ガサガサと枝葉をかき分け、薄っぺらい三角頭が、続いて全身黒ずくめが4人、現れる。
     ペナント怪人と黒子達の登場である。
    「聞いてはいたけど、珍妙な姿だね……」
    「……奴らは迂回という言葉を知らないのか」
     落ち葉まみれの姿に、軽くため息を吐く匠と織絵。
    「出たな下関ペナント怪人。だが進撃はここまでだ」
    「さあ、あの風車を――む?」
     直哉のその言葉に、怪人も風車の前に阻むように並ぶ灼滅者達に気づく。
    「待っていたぞ。さて、演じようか!」
     織絵に続いて次々と封印を解除する灼滅者達。
     そして――。


    「クロネコレッド、見参!」
     首に赤いマフラーを巻いたでっかい黒猫着ぐるみ姿になった直哉。
     更に、権三郎さん、おかゆ、六太、伏炎、計4匹の霊犬達が現れた結果、一帯のもふもふ成分が急上昇。
    (「霊犬いっぱい!」)
     この霊犬ぷち集合な状況に、八雲は足元で自分に噛み付いてるおかゆ以外の子も気になりつつ、素知らぬ顔で殺気を展開。
    「……もしや待ち伏せされていたのか?」
    「そう言うこった。破壊活動はさせねえぜ」
     事態を飲み込んだ怪人に、鋼矢が言い放つ。
    「永遠のライバル北九州のご当地ヒーローとして、貴様はここで倒す!」
     直哉もビシリと指を突きつけた。
     黒子の一人に。
    「直哉先輩。それ、黒子さんです。怪人はあっちです」
     藤孝が後ろから小声でそっと正しい向きを告げる。
    「おっと間違えた。薄いからだぞ、ペナペナ野郎。頭だけでなく存在感も」
    「誰がペナペナ野郎だ! 存在感まで薄くするなネコ野郎!」
     地団駄を踏んで言い返す怪人。
    「ペナント……?」
    「我の! 頭の! これだ!」
     なんだっけそれ、と首を傾げたマルティナに、ビッと自分を指して答える怪人。
    「あー、なんかどっかで見たことあるかも……。でも、印象の薄い三角だね」
    「ペナントなぁ……ペナントより本物のフグが食いたい」
     マルティナに続いて織絵も、ペナント怪人に飄々と言う。
    「どいつもこいつも。最近の若者はペナントを集めたりせんのか……」
     わなわなと震える怪人。
    (「……言えない」)
     順調に挑発が進む中、司は一人口を噤んでいた。
     実はペナント集めてたりするのだが、今は言えない。作戦とか場の空気とか、色んな意味で。
    (「後一枚でピザみたいにまぁるく一周分集まるなんて、言えない……!」)
     良かったな、怪人。コレクター、いたよ。
    「それに、下関でフグって安直だよね」
    「なっ!」
    「捻りが足りないしショボ。総合すると、カッコわる……ほらほら、権三郎さん。馬鹿がいるよ」
     マルティナは無表情な見た目とは裏腹に、良く口を動かし怪人を挑発して行く。
    「誰が馬鹿だ! あと下関のフグを安直とか言うな!」
    「ペナント様。落ち着いて!」
    「まだ、ウニもアンコウもクジラもあります!」
     怪人、再び地団駄。宥める黒子達。
     怪人の意識を風車から自分たちに引きつけようと言う挑発の目的は、実はもうこの段階でほぼ達していたのだが。
     灼滅者達の挑発は、更に続いた。
    「下関のウニ? 俺は北海道のウニの方がよっぽどおいしいと感じたけどな?」
    (「挑発とは言え、名産品を馬鹿にするのは心苦しいね」)
     そんな内心は表に出さず、匠は無表情に挑発する。
    「アンコウも何だか見かけがいまいちって言うか……」
    「うん、アンコウとかウニとか、ちょっとえげつなくて食えないっすね」
     更に続いた匠の言葉に、八雲も同意だと頷いて言う。
    「ク、クジラがまだ……」
    「可哀想じゃん! 動物虐待!」
    「言わせておけば!」
     四大名物に揃って否定的なツッコミを返され、怪人が更に地団駄。
    「ペナント様。あいつらやっちまいましょう!」
    「下関名物をこんなに言われて、黙ってられねぇ!」
     気づけば黒子達まで、怒り心頭と言った様子。
    「よし。黒子共! 風車の前に、あいつらをボコボコにしてやれ!」
    「そう言えば、郷土愛豊かな人達だったんでしたっけ……」
     怪人も黒子も揃って怒りを向けてくる様子に、司が思わず頬を掻く。
    「良いんじゃない? どうせ皆倒すんだし」
     身構えつつ、どこか楽観的に言ってのける八雲。
    「公園の風車がなくなったら、遊びに来る人達ガッカリするよ。そんな事するなら、やっつけてやる」
     りんごのような真っ赤なハンマーをしっかりと構えて、藤孝が言い放つ。
    「そんじゃ行くぜ……お前らは、ここでペナントレース脱落だ!」
     鋼矢が凄みのある笑みを浮かべ、怪人達が身構える。
     戦いの火蓋は、切って落とされた。


    「さあ決闘だ、巌流島ビーム!」
    「名物の破壊なんかさせない。ここで止めさせて貰う!」
     直哉のご当地パワーを込めた光線と、八雲の制約の魔力を込めた魔弾が、ペナント怪人へと放たれる。
    「させん!」
     しかし、怪人が後退するのと入れ替わりに黒子達が前に出て、光線は瓦を構えた黒子に阻まれてしまう。
    「だったらお前からだ! 焼き潰れな!」
     鋼矢が振り下ろす戦闘用のギターは、今しがた光線を遮った黒子に容赦なく叩きつけられた。
     ガツンッ。瓦に遮られ衝撃は弱まるも、纏わせていた炎が燃え移り、黒子を焼いていく。
     先制で怪人を狙った2人の狙いは抑え。
     残るメンバーで、黒子を各個撃破していくのが灼滅者達の作戦だ。
     抑えの為の攻撃が阻まれた所で、最初に狙う黒子が決まっただけの事に過ぎない。
    「故郷を愛するのは結構だがな――私の手間を増やすなよッ!」
     羽織った赤いコートをなびかせ、黒子に織絵が飛びかかる。
     縛霊手と瓦が、またも硬い音を立ててぶつかり合うが、放たれた霊力の網が黒子を絡め取る。
    「他の土地のご当地シンボルを壊そうとは不届き千番。こらしめてやろう」
     静かに言って、匠の指がギターをつま弾き、奏で、かき鳴らす。
     音の衝撃が、黒子を襲うが、周囲を漂う瓦にいくらか阻まれ、本来の威力より減衰させられる。
    「ふっ」
     短い呼気を吐いて、司も動いた。
     掌中で鱗模様が回る。捻りを加えた朱塗りの槍が突き込まれる。
    「同志よ!」
     しかし槍が届く寸前、飛び込んで来た別の黒子が黒子をかばった。
    「「「「瓦シールド!」」」」
     灼滅者達の連携が止まったタイミングで、一斉に瓦を盾にと構える黒子達。
    「やはり防御を固めてきましたか……少し面倒ですね」
     黒子同士でかばいあった動きに、司がため息混じりに呟く。
     予想の範囲内ではある。だからこそ、黒子から先に倒す事にしたのだが、少々面倒であるのも事実だ。
    「しかもあの瓦、思ったより硬かったぜ」
     先ほど、ギターの一撃の威力を弱められた鋼矢が眉間にしわを寄せる。
    「瓦そば用の耐熱瓦だからな!」
    「下関なら瓦じゃなくて、瓦そばよこせー、なの……あ、名物のお菓子でもいいよ」
     瓦の強度を誇る黒子だが、眠そうな顔に似合わぬマルティナの拳の連打が叩き込まれる。
    「権三郎さん、わんこ風車の術だよ」
     更に相棒への突然のネタ振り。困惑し一瞬固まった霊犬だが、諦めたように駆け出すと特に意味もなくくるっと回って黒子に斬りかかる。
     マルティナのネタで権三郎さんが割を食うのはいつもの事だ。
    「かばい合うなら、まとめて攻撃します!」
     藤孝が、真っ赤なハンマーを黒子達の手前の地面へと振り下ろす。
     ロケット噴射の勢いを乗せて地面を叩いたハンマーの起こした衝撃が、黒子達を襲う。
    「ろくた」
     そこに、匠が相棒に短く告げる。
     その指示で六太が飛ばした六文銭が、ビシバシと黒子達に撃ち込まれた。
    「フグを食いたいならば毒だけやろう。フク毒ブラスター!」
     足元がふらつく黒子達の後ろから飛び出し、ペナント怪人が放った毒の弾丸が織絵を捉える。
     だが、怪人に攻撃を許しても、灼滅者達は落ち着いていた。
     なぜなら。
    「おかゆ、よろしく」
    「伏炎! 頼んだぞ!」
     八雲と鋼矢が同時に指示を飛ばし、それぞれの霊犬が癒しの視線を織絵に向ければ、毒は消え去りダメージもいくらか癒える。
    「え、えーと。……なぁ、犬4匹って多いだろ」
     怪人がぼそっと告げたその言葉に、全員が思った。
     お前が言うな。


    「降り注げ!」
     ペナント怪人が掲げた右手を勢い良く振り下ろせば、灼滅者達の頭上に降り注いだ。
     ウニが。
     中々シュールな図だが、そこは怪人の攻撃だ。ダメージは決して小さくはない。
    「こんなぺらい頭のやつに負ける気しない! おかゆ、皆を頼むよ」
     暗く、深い影を伸ばして怪人を斬り裂きながら、霊犬に指示を出す八雲。
    「瓦くらえぇぇい!」
     そこに黒子が叫びと共に瓦が投げつける。
     しかし、司は落ち着いて槍を縦に構え、飛来した瓦を纏めて叩き落とした。
     不意をつかれでもしなければ、そうそう直撃する程の攻撃ではない。
    「甘いですよ」
     瓦が黒子の手元に戻るよりも、司が己の間合いに踏み込む方が早い。
     オーラを纏わせた両拳を一瞬で何度も叩き込まれ、吹っ飛んだ黒子はそのまま倒れ伏す。
    「ど、同志が……!」
    「驚いてる暇はねえぞ。次はお前だ。喰らってやるよ……! 伏炎!」
     その言葉の意味を別の黒子が理解する前に、六文銭が飛び交い、鋼矢の影が膨れ上がって黒子の1人を飲み込んだ。
    「幸い在れ」
     影が晴れたその前に、悠然と立つ織絵の姿。
     隠し持っていた十字剣の刃は、抜き放ったその時には既に魂を斬る非物質の刃と化している。
    「とりあえず、そうあれかし」
     振り抜いた刃を鞘に収めるのと同時に、また1人、黒子が倒れた。
    「ろくた。合わせて」
     残る黒子の1人を、匠が静かに指差す。
     その影が伸びて刃となり襲いかかると同時に、六太が咥えた刃で黒子に斬りつける。
    「元に戻してあげるから、ちょっと痛いけどがまんしてね」
     続けて、藤孝が間合いを詰めて真っ赤なハンマーを振りかぶる。
     致命的な怪我を負わないように、とロケット噴射を抑え手心を加えた一撃であったが弱った黒子を倒しきるには充分だ。
     これで残る黒子は1人。
     黒子達の動きは、各個撃破と言う灼滅者達の狙いを崩すものだったが、精々がその程度でしかなかったと言う事だ。
    (「残る黒子1人……仕方ない。逃げるか」)
     次々と黒子を倒されたペナント怪人が考えたのは、逃走。ジリジリと後退る。
    「おっと。逃げようったって、そうはさせないぜ!」
     しかし、背後からかかったその声に、怪人の足が止まる。
     怪人の逃走を警戒した直哉が、背後に回り込んでいたのだ。
    「くそっ! 邪魔をするな!」
     退路を潰された怪人が、ペナントの先端を直哉に向けて飛ぶ。そしてギュルルッと回る。
    「俺の地元北九州と下関は海峡を挟んだお隣さん……いわば良きライバル! そんな下関の怪人が各地に迷惑をかけるなんて見過ごせる訳がないだろう。お前の進撃は、ここで止めてやる!」
     ペナント怪人決死の回転突撃を、直哉は避けずに受け止めた。避ければ、逃走を許しかねない。
    「関門海峡花火大会ダイナミック!」
     クロネコのボディが赤く染まるのも構わず、怪人を抱え上げ叩きつける。
    「ペナント様!」
    「させるかよ。斬り刻め!」
     爆発に飲まれた怪人に、小さな瓦を飛ばし癒そうとする黒子。だが、瓦が飛ぶより早く伸びた鋼矢の影に斬り裂かれる。
    「怪人を倒せば良いとは言え、回復は見過ごせないな」
     匠が飛ばした強酸性の液体が、黒子の頭巾と黒タイツの一部を溶かしていく。
    「痛かったらごめんなさい!」
     そこに藤孝のハンマーが、ごっちん。
    「こうなれば、せめて一人は倒す……!」
     怪人の敵意が膨れ上がる。逃げられないなら、と言う事か。
     だが、怪人の攻撃よりも灼滅者達の方が早く動いた。
    「言っただろ? 負ける気しないって!」
     何度目かになる、八雲が放つ制約の魔弾。その魔力が、ついに怪人の動きを止める。
    「この風車って郷土のシンボルなんだよね……こー言う風情が判らないから、ダメダメなんだよ……」
     やはり表情を変えないまま淡々と告げて、マルティナがロッドを軽く当てる。
     内側で魔力が爆ぜた衝撃に、怪人が堪らず膝をつく。
    「愛は、愛し、愛され、最後に勝つからこそ、愛なんです。誰かの郷土愛を利用し、破壊に使うなんて許せません」
     司の怒りを体現するかの如く、咽ぶような音を立てて回る朱い槍が怪人を貫いた。

    「終わったなー……」
     ぺたん、と直哉が座り込む。実は怪人の攻撃、結構効いていたり。
    「権三郎さん、ごー」
    「あの。休憩を兼ねて、お昼にしませんか。お弁当とアップルパイ、作ってきたんです」
     ぼんやりとマルティナが霊犬に回復を指示する傍らで、藤孝が2つの包みを手に提案する。
    「アップルパイか!」
    「アップルパイ……」
     甘党な八雲と匠の声が、ハモった。
    「その前に、こっちを手伝ってくれ。黒子の中身、そこのベンチにでも寝かせておこう」
    「ああ、その方が良いですね」
    「もう一仕事、か。俺と伏炎で一人は運ぶぜ」
     織絵の呼びかけに司と鋼矢が応えて、それぞれ倒れた黒子の元に駆け寄る。
     彼らの頭上では、風車がゆっくりと回り続けていた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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