箱根から往く暴走怪人

    作者:天木一

    「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」
     滋賀県琵琶湖のほとりで、一体の強力なご当地怪人が復活を果たした。
    「我、目覚めたり。そしてスキュラよ、サイキックエナジーは受け取った。
     我はここに、『日本全国ペナントレース』の開催を宣言する!
     その身に大地と人の有り様を刻む怪人共よ、我、安土城怪人が元に参集せよ」
     琵琶湖から放たれた大量のサイキックエナジーは、様々なご当地へと降り注ぎ、新たなご当地怪人を生み出した。
     ご当地をその身に刻む者、すなわち『ペナント怪人』である。

    「安土城怪人様のお呼びである、いざ、琵琶湖っ!」

     日本各地に現れたペナント怪人達は、一斉に琵琶湖に向けて走り出したのだった。
     
     
     教室に居た能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が、集まった灼滅者に顔を向ける。
    「やあ、来てくれたんだね。ご当地怪人がまた新しい行動を開始したみたいなんだよ」
     マリィアンナ・ニソンテッタ(聖隷・d20808)が危惧していた通り、ペナント怪人が行動を開始したのだ。
    「ペナントって知ってるよね。旅行のお土産にある三角の奴だよ。その怪人達が一斉に動き出したみたいなんだ」
     配下として一般人を『ご当地黒子』に強化して、数名従えて行動しているという。
    「配下は直接倒すか、ペナント怪人を倒せば元も戻るはずだよ」
     だから普通に戦って問題ないと説明される。
    「ペナント怪人達は滋賀県の琵琶湖を目指しているみたいだね」
     ペナント怪人が全国各地から集結しようと一斉に動き出しているのだ。
    「問題は、移動中に他の地域の名物を発見すると、全て破壊してしまう事なんだよ」
     人的被害は出ないものの、道中の道すがらとんでもない額の被害が出てしまう。
    「それを皆に阻止して欲しいんだ。名物を怪人から守るにはみんなの力が必要だからね。それとご当地黒子にされた人も助けてあげて欲しい」
     放っておけば被害は拡大する一方だ。怪人を止めなくてはならない。
    「みんなに戦ってもらう怪人は、箱根ペナント怪人だよ」
     怪人は名前通り箱根から出発し、走って滋賀を目指す。まずは隣の静岡に入ることになる。
    「そこで、最初におでんのお店を襲うみたいなんだよ。静岡のおでんは黒いつゆが特徴あって有名だよね」
     だがそれ故に襲われてしまうという。
    「襲われる場所は分かっているから、そこで待ち伏せすれば出会えるよ」
     敵はご当地怪人と、配下の黒子5人だ。配下の戦闘力は高くない、サポート役だろう。
    「敵は走り続けてるみたいでね。お店のおでんを攻撃したらそのまま走り抜けて行っちゃうみたいだよ」
     だからまずは敵の足を止めたり、注意を引く行動が有効かもしれない。
    「集まって何をするつもりかは知らないけど、どうせ碌な事にはならないからね。みんなの力で阻止して欲しい。無事に終わったらおでんを食べるのもいいかもね」
     誠一郎の言葉に頷き、灼滅者は静岡へと向かう準備をするのだった。


    参加者
    犬神・夕(黑百合・d01568)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)
    ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    月岡・朗(虚空の紅炎・d03972)
    天雲・戒(紅の守護者・d04253)
    ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)

    ■リプレイ

    ●静岡名物黒おでん
     静岡県の街道を軽快に走るランナーがいた。
    「スッハッスッハッ」
     小気味よいリズムに乗った呼吸。ランニングシューズが地面を蹴る音も軽やかだ。
     ランナーは箱根から続く道を、ずっと西に向かって走っている。
    「スッ……ん?」
     軽快に飛ばしている時、不意にペナント顔が周囲を見渡す。その嗅覚に訴えるものがあった。出汁の良い香りが鼻腔をくすぐる。
    「この匂いは……」
     ランナーが視界の端に捉えたのは簡易テントとテーブルを並べた屋台だった。
     近づくと、お揃いの法被を着た店員が元気に動き回っているのが見える。
    「静岡名物、黒おでんだよ。これを食べなきゃ静岡に来た意味がないよ! 美味しいよ。絶対後悔させない味だよ」
    「おでんー、静岡の黒おでんだよー!」
     法被を着た天雲・戒(紅の守護者・d04253)と法被四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)が大きな声で呼び込みを行なっていた。
    「いらっしゃーい、静岡名物のおでんだよ」
     二夕月・海月(くらげ娘・d01805)もやって来た客に声をかける。
    「牛すじに黒はんぺん、ちくわも昆布もあるよ。そこらのご当地グルメには負けない美味しさだ!」
    「ここはおでんの屋台なのか?」
     テントを見ながらランナーは尋ねる。
    「そうです。黒はんぺんがお勧めですよ」
     頷く犬神・夕(黑百合・d01568)がはんぺんを一押しする。こっそりとおでん鍋の一角ははんぺんに占拠されていた。
    「おでん……うーん、頭が痛くなってきたわ……」
     最近おでんに関係する事件に巻き込まれたリリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)は頭を押さえる。
    「なんだか嫌な記憶がフラッシュバックするのだけれど……まあ忘れましょう……」
     頭を振って気を取り直すと、声掛けに加わる。
    「いらっしゃい……ご注文は?」
     椅子の前でも足を止めずにランニングを続けるランナーに向かい、無愛想にニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)が尋ねた。
    「そうだな牛すじ、黒はんぺん、それと大根と卵をくれ」
    「牛すじ、黒はんぺん、大根、卵だ。注文は以上かな?」
     月岡・朗(虚空の紅炎・d03972)が紙皿に載せたおでんを渡す。
    「ああ、いただこう」
     ランナーは足を動かしたまま皿を受け取ると、牛すじの串を横から咥えてさっと引き抜き、弾力ある食感を楽しむ。次に黒はんぺんを箸で切り、口に含むと溶けそう柔らかさが広がる。更には黒く芯まで味がしみた大根を味わい、ほくほくの卵をあつあつと口に含み、最後に黒い出汁を飲み干す。
    「ぷはぁ~。この黒く濃い出汁、確かに確かに、これは静岡の名産。黒おでんに間違いない!」
     目に暗い光を灯し、ランナーは皿と箸を置いた。
    「ならば消えてもらう! この世に箱根以外の名物など必要ないのだぁ!」
     一喝してランナーは鍋に向かって走り出す。だがその前に立ち塞がる人影。
    「はっはっはっ。健康の為に走るのはとてもいいさねー、だが、名物を破壊するのは断じて許さんさよー俺たちが相手さね!」
     ゼアラム・ヴィレンツィーナ(埼玉漢のヒーロー・d06559)はオーラを纏った拳を顔面に打ち込んだ。

    ●ペナント怪人
    「がふっあ」
     ペナント顔を折り曲げながらランナーは吹き飛び、屋台テントの外へと転がっていく。
    「よし、いまのうちに……」
     夕は素早くおでん鍋を確保し、衝撃に揺れるテントから脱出し敵とは反対側に避難させる。
    「どうしたさー? こんなもんではではないさね」
     ゼアラムが後を追うようにテントを飛び出ると、そこにランナーは地面に伏したまま倒れていた。
     近づくと何処からとも無く、全身黒装束の衣装を着た5人の黒子が現われた。
    『選手にはさわらないでください』
    『道路には出ないでください』
     そんなプレートを持って行く手を遮る。その間に一人の黒子がスポーツドリンクの入ったボトルをランナーに手渡す。そのドリンクを口の端から垂らしながらぐびぐびと一気に飲み干した。
    「ぷはっ。不意打ちとは卑怯な! 知らぬようだから教えてやろう。貴様等が一体誰に戦いを挑もうとしているのか!」
     ランナーはゆっくりと起き上がり、周囲を囲もうとする灼滅者を見渡し堂々と名乗りを上げる。黒子達が背後から紙吹雪を投げた。
    「私はペナント怪人。箱根ペナント怪人だ! どうだ、驚いたか。許して欲しいなら今が最後のチャンスだぞ!」
     胸を張り怪人が威圧する。自信溢れる三角のペナント顔が風に揺れる。その後ろで黒子は落ちた紙吹雪を箒と塵取りでかき集めていた。
    「ペナントってあれよね……地味なお土産の」
    「地味とは何だ地味とは! おでんの方がどこにでもある地味な料理だろうが! ただ黒いだけで名産など片腹痛い!」
     怪人はリリシスの言葉に額に青筋を立てて言い返す。
    「寒い冬にあつあつおでん以上においしいものなんてない!」
    「何ぃ?」
     海月がそれに挑発するように反論する。
    「走ったって温まるのは本人くらいだ! むしろ暑苦しい!」
    「なん……だと? 」
     箱根のアイデンティティを打ち壊す一言に、ペナントが青く染まった。
    「ってかあんた今美味しそうにおでん食ってたじゃないか。なあ黒子の皆さん」
     戒が冷静にツッコミを入れると、黒子達も一斉に頷いた。
    「ええい、煩い煩い! 別に美味そうに食ってなぞいない! 名産のおでんかチェックしただけだ! もういいもういい、おでんより先に貴様等を消してやる!」
     キレた怪人は疾走する。そのまま戒に接触して肩をぶつけ足を踏み抜いた。
    「いてっ」
    「どうだ! 駅伝に並走して鍛えたこの脚力は!」
     その場でジョギングを続けながら怪人は自慢気に言う。
    「俺の知っている駅伝と違う」
    「なるほど、駅伝に出るには足の速さが足りなかったんだね」
     そんな会話をしながらニコといろはは、黒子を狙って攻撃する。
     ニコの視線が黒子5体を捉えると、不意に周囲の温度が下がる。熱を奪われ黒子の体が凍える。そこへ、いろはが腕を異形化させて、一番近くの黒子に大振りの拳を叩き込んだ。黒子は吹き飛ばされ、被り物が破れて気を失った。
    「寒いなら暖めようか」
     朗が周囲を照らす炎の渦を放ち黒子達を薙ぎ払う。直撃を受け服に火が燃え移った黒子は、火を消そうと転げまわっているところへ、女性型のビハインドが現われて波動を飛ばす。体を強く地面に打ちつけられ黒子は力尽きて動かなくなった。
    「少し痛いわよ」
     リリシスが魔力を込めて槍を旋回させながら黒子の間に飛び込む。次々と槍の柄で黒子達を殴打していく。
    「安心するさー、ちゃんと手加減するさね」
     ゼアラムは背後から忍び寄り手刀を黒子の首筋に落とした。一瞬で意識を奪われ、崩れるように黒子は倒れる。
    「喰らえ! 画鋲アターック!」
     黒子と戦う灼滅者に向けて、好機と怪人は金色に光る大量の画鋲を投げつける。だがその前に戒が飛び出て両刃の剣で斬り払う。だがすり抜けた画鋲が幾つも体に刺さった。
    「っ画鋲なんて投げるもんじゃないだろ!」
    「ふはははっ痛かろう? それはペナントをしっかり固定できるように通常の3倍の針の長さがあるのだ! その保持力も3倍よ!」
     肩に刺さった画鋲を抜きながらぼやく戒に、怪人は高笑いで更に画鋲を投げつける。
    「その程度、どうということはない!」
     海月はエネルギーの盾を構え突っ込む。画鋲を弾きながら怪人の体に叩き付けた。
    「ぐふっ」
    「画鋲は壁に穴を開けるから迷惑だ!」
     吹き飛ばされる怪人は黒子に支えられて何とか踏み止まる。
    「黒はんぺんは美味しいですね」
     夕は串に刺したはんぺんを見せ付ける様に食べると、串を投げる。
     怪人は思わず顔を逸らして避けた。そこに金に染まった髪をなびかせながら夕が踏み込む。怪人の横を通り抜け、支える黒子の首にナイフの峰を叩き込む。
     意識を失って倒れる黒子と共に怪人もバランスを崩して尻餅を突く。
     そこにドリンクを持っていこうとする黒子の前に戒が立ち塞がる。
    「ちょっと痛いけど、ちゃんと加減はするからな」
     魔力を込めた杖で殴り昏倒させた。


    ●暴走ランナー
    「どうしてくれる、黒子が居なければ給水もペースメーカーも居なくなるではないか!」
     起き上がった怪人は足の動き速めると、一気に走り出す。
     盾を構える海月の直前で方向を変え、戒の方向へ向かったかと思うとまたもぶつかる前に方向転換をする。次はゼアラムに向かい、また方向転換すると見えかけてそのまま体当たりして吹き飛ばす。
    「痛いさねー」
     ゼアラムは受身を取って地面を転がりながら衝撃を逃がすと、跳ねるように起き上がった。
    「そうだそうだ、貴様等を黒子にしてやろう! 私の為に存分に働くといい!」
    「断る」
     朗が光の剣に炎を纏わせ斬りつける。同時にビハインドも波動を放ち追い討ちを掛ける。
    「あつっあつっ……何をするか!」
     火に巻かれながら吹き飛ばされた怪人は、ごろごろと地面を転がってフェンスにぶつかって止まった。そして、がばっと勢い良く起き上がる。
    「なんだか体を張った芸人みたいだね。お笑い芸人御用達、定番の超熱々おでんも特別に用意してあるよ?」
    「誰がお笑い芸人か! そんな物は必要ない!」
     いろはは腰に差した刀の柄に手を掛ける。走ってくる怪人を一歩踏み出すだけで躱し、左手で鯉口を切ると鞘走らせる。一閃。刃は怪人の胴体を斬りつけた。
    「痛い痛い、何故こんな痛い目に……静岡は魔境か?」
    「何故箱根から西に出てくる。復路に戻れ、さもなくば此処で死ね!」
     ニコがガトリングガンを構えた。吐き出される弾丸の雨に撃たれ、怪人はまるで踊るように弾け、体中が穴だらけとなる。
    「ふざけるな! 一年に一度、箱根と東京しか移動範囲がないのでは箱根の知名度が上がらん!」
     怪人は両手に山盛りの画鋲を持って投げつける。
    「防ぐぞ」
    「おう!」
     海月と戒が仲間の前に出る。海月が盾を使って防ぎ、防ぎ切れない分を戒が白く輝く剣で斬り払う。
    「まずは足……走れなくしてやろう」
     夕が死角から地面を這うような低い姿勢で駆け、すれ違い様にナイフ振るって怪人の足を斬り裂く。
    「こんな時期にそんな軽装で寒さには強いのかしら? 試してみましょう」
     続けてリリシスの放った氷柱が怪人の足を貫き凍らせる。
    「お、おまっ! ランナーの足は宝物なんだぞ! 何て酷い事をするんだ!」
     怒りに声を詰まらせる怪人は、その場でランニングして足が動くか確認し、リリシスに向かって突っ込んでくる。
    「人に向かって走ってくるのは危ないさー」
     そこにゼアラムは横から割り込み、オーラを纏った腕を伸ばすと、カウンターでラリアットを浴びせる。怪人は足を浮かせて頭から地面に衝突した。
    「げほっげほっ。は、走ってるところにラリアットの方がよっぽど危ないわ!」
     咳込む怪人に朗が背後から野球のバットのように杖をフルスイングした。頭を打ち抜かれ、そこで更にビハインドが反対側から一撃を加える。ふらふらと意識を朦朧として大の字に倒れる怪人。
    「そんなに足が大事なら、戦闘などしなければいい」
    「その通りだ、ちょろちょろと目の前を走られると目障りだ」
     海月は倒れている怪人にガトリングの銃口を向けた。炎の弾丸が吐き出され、怪人を火の海に沈める。
    「うあっっちぃー!」
     飛び上がる怪人に向けて戒が疾走する。跳躍と共に剣を振り上げた。
    「これは余所の特産品に迷惑をかけようとした罰だぜ!」
     怪人の頭上を取ると大上段から振り下ろした。剣は手応え無く怪人を素通りする。だが怪人は目を剥いて口から泡を吹いた。非物質と化した刃が怪人の霊魂だけを斬ったのだ。
    「うぇぇ……おかしい、おかしいぞ。まだ箱根の隣、静岡に入ったばかりなのに……駅伝で言えばまだ第一走者、なのにこんな障害物があるなんて……」
     ぼろぼろになった怪人は西に向かって走り出そうとする。だがその足に飛来したナイフが突き刺さった。
    「残念だが、そのたすきは誰にも渡らない」
     夕は近づきそのナイフを捻るように引き抜いた。
    「ここでリタイヤ願おう」
    「ぎぃやぁ!」
     足から血を流し引き摺りながらも怪人は逃げようと歩を進める。
    「それでも西に向かうか、どうやら本当に死にたいらしいな」
    「そんなに集まろうとするなんて、全国のペナントを一箇所に集めて全国統一、とか言うつもりなのかしら?」
     ニコが影を伸ばす。ケーブルのような細長い影が怪人の体に絡み付き刃のように体を斬り裂く。そこへリリシスが魔力を込めた拳を叩き込んだ。その衝撃で巻き付いていた影が勢い良く怪人の体に食い込んだ。
    「まだ私はゴールに辿りついていない!」
    「最初に道を間違った時点で失格だったんだよ」
     刀を鞘に納めたいろはが前に立つ。怪人は画鋲を投げる。いろはは鞘のまま刀を振るいそれを弾くと、くるりと勢いのまま回転して抜刀した。刃が逆袈裟に怪人の体に傷を刻む。
     深い傷に怪人はよろけながらも続けて画鋲を投げた。
    「ここがマラソンのゴールさね」
     画鋲の前にゼアラムが飛び込み、拳の連打を放つ。ラッシュで画鋲を弾きながら、更に踏み込み怪人を打ちのめす。
    「あぶぁっ」
     潰れたような声を漏らし、怪人はその場に倒れた。
    「わ、私がここで倒れても……他の箱根怪人が、箱根の発展を続けてくれる……たすきは繋がるのだ……」
     その言葉を最後に、怪人は爆発して跡形も無く消え去った。ひらりひらりと落ちてきたペナントも、火がつき焼け落ちた。

    ●黒おでん
     怪人は消え、黒子から解放された一般人達も気絶しているだけなのを確認すると休ませた。
    「それじゃあおでんを頂くさー」
     ゼアラムの言葉に、避難させておいたおでんを準備し直す。後はおでんを無駄にする事無く頂くだけである。
     ぐつぐつと煮えた黒おでんの鍋を前に皆の顔が綻んだ。
    「やっぱり冬はおでんだな!」
     海月は串を手に牛すじを齧り、ほくほくと頬張る。
    「はんぺんに出汁がよくしみてます」
     夕は表情を変えずにはんぺんを食べる。だがその視線は既に次のはんぺんを狙っていた。
    「おでん……まあ残すのはもったいないものね……」
     リリシスは顔を青くしながらも、何とかおでんを食べようと戦いよりも真剣な表情で向かい合った。
    「超熱々おでん無駄になっちゃったね。……あれ? どこに置いたかな」
    「あッ熱ッ! ハッハッファッ」
     もぐもぐとちくわを食べるいろはの隣で、猫舌のニコが間違って超熱々おでんの卵を口にしてしまい悶えていた。
    「寒い冬におでんはいいものだな」
    「ほんとこんな美味いもんを潰そうだなんて、もったいないにも程があるぜ!」
     昆布と厚揚げを受け皿に取りながら、朗は温かな湯気に目を細める。戒も黒はんぺんやつくねを食べて満足そうに頷いた。
    「やはりご当地物は良いさねー」
     良くしみた大根を味わいながらゼアラムは笑みを浮かべる。
     寒い冬の風が吹きつける中、熱々のおでんが体の芯から温めてくれるのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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