クリスマス2013~女神に願いを

    作者:日暮ひかり

    ●venus
     秋の彩りが去り、季節は移ろい、今年も厳しい冬が訪れた。
     寒風吹きすさぶ十二月の街は、来たる聖夜の装いで華やぎ始めていた。
     ここ、お台場ヴィーナスフォートも例外ではない。
     一歩足を踏み入れれば、人工の空の下、異国へと誘うように石路の街並みが続く。屋内型モールであるここに寒風が届くことはない。
     中世の西洋を思わせる白い石造りの店舗間を、たくさんの買い物客が流れていく。どの店の前にも賑々しいツリーが飾られ、クリスマスソングが流れる。そんな街中に、どこかから鐘の音が響いた。クリスマスマーケットの広がる通りを抜け、人々は噴水広場に向かう。
     広場の中央には、杯を掲げる女神像が厳かに鎮座している。
     イルミネーションが輝き、天から滴る光の雨が女神に目覚めの時を告げた。
     今宵は聖夜。館内アナウンスが届ける神託は、奇跡か女神の気紛れか。
     
     ――お願い事をひとつだけ、心の中で、強く唱えてください。
     ――女神様に届けば、空から素敵なプレゼントが舞い降りてくるかもしれません。
     
     聖歌と蒼い光に清められた広場で、人々は手を合わせ、造られた星空を仰ぎ見る。
     祈りが星の果てまで通じたとき、女神の加護は粉雪となり、あなたへ降りそそぐだろう。
     
    ●Merry Christmas!
    「クリスマスです皆さん! それであの、そのう、一緒に過ごすお相手なんかは……やっぱり、いらっしゃるでしょうか!?」
     イヴ・エルフィンストーン(中学生魔法使い・dn0012)は両手を頬にあて、とろけるような笑みを浮かべている。
     どうにもこうにも人の恋路が気になる年頃らしい。いっぽう鷹神・豊(エクスブレイン・dn0052)は、その後ろでどうでも良さそうにスマホを弄っていた。
    「恋人がいらっしゃる方も、もう一歩勇気を出せない方も、女神様にお任せですっ。さあ、気になるあの方を誘って、お台場ヴィーナスフォートに行きましょう!」
     イヴはあさっての方向をびしりと指さし、3つのお勧めポイントを紹介する。
     
    「ひとつ目です。やっぱり、まずはショッピングですね!」
     巨大ショッピングモールであるヴィーナスフォートには、多数のテナントが入っている。
     さまざまな服飾店や宝石店を中心に、家電やペット用品、生活雑貨に家具、おもちゃ等、プレゼントはなんでも揃う。スノードームやオーナメントを扱ったクリスマスマーケットの露店は、もちろん今だけのもの。
     食事するならクリスマス限定ペアメニュー。焼肉、火鍋、チーズフォンデュやピザ、フレンチや中華のコース料理などの二人前セットがお得に楽しめる。小腹が空いたらベンチやカフェ広場でクレープを。
     ゲーセンやカジノ体験で遊んでもいいし、真実の口や教会広場を見に行っても良し。或いは、あえてファーストフード店で過ごしても構わない。
    「ステキな一日に、皆さんだけのステキなデートコース、見つけてくださいね!」
     
    「ふたつ目です。さっきお話した、クリスマスイルミネーションを見ましょう」
     この季節、施設内の噴水広場では特別なイルミネーションイベントが行われている。
     イベント中、噴水の女神像に願いをささげると、祈りが空に届いて望みが叶うそうだ。
     雪国の冴えた空気を思わせる蒼い光の中、頭上で流星雨のように白く輝くイルミネーションは幻想的で美しい。
     願い事を終えクライマックスを迎えると、なんと室内に泡の人工雪が降る。優しい粉雪の下で言葉や視線を交わせば、かけがえのない思い出となるだろう。
    「ステキですね……。女神様へのお願い、届くといいですね!」
     
    「みっつ目です。お台場に来たら、大観覧車らしいですよね!」
     ヴィーナスフォートを出れば、すぐそばに大観覧車もある。
     地上を離れる16分間、聖夜に二人きりで過ごす静かな時間。普段は味わえない特別な空気が、胸を高鳴らせるだろう。
     時間帯は夜がいい。窓から見下ろす夜景のどこかに輝く七色のハートを見つけた二人には、幸せが訪れるといわれている。
    「はあ……ドキドキしますね。ステキな時間をお過ごしください……っ!」
     怒涛の説明を終え、イヴはひいひい息を切らしている。そして思い出したように手をぽんと叩いた。
    「あっ、イヴと鷹神さんはお一人様の強い味方です! 気になるお店があったら、どうぞ声をかけてくださいね!」
     いきなり話を振られた鷹神は一瞬、おい聞いてねえぞという顔をした。だが、すぐに真顔に戻る。
    「……まあ、俺でよければ愚痴るなり八つ当たるなり荷物持ちなり好きに使え」
     イヴはVサインを作り、皆にエールを送る。ステキな日になりますように。
     
     大人も幼子も皆一様に、その日をじっと待てはしない。
     今年最後の祭りの夜が、もうじき訪れる。
     鐘が始まりを告げるそのとき、世界中が、暖かな光と喧騒に満ちるだろう。


    ■リプレイ

    ●光
     聖夜のマーケットに並ぶ商品は、皆一緒に連れて帰ってと訴えてくる。迷うのも楽しいけれど、と永久は雪春に微笑んだ。
    「今日を思い出せる物が欲しいのにね」
    「どうせだし、なにか連れて帰る?」
     色々見てから選びたいよね、と口実を交し、決めるのはもう少し後回し。クレープ屋に向け華やぐ街を歩き出す。今日は折角のクリスマスデート。連れ帰るなら、君に甘えた思い出を添えて。

    「まぁ……! 和服しか見ていなかったものだから、とっても新鮮だわ」
     ほわりと顔を綻ばせ、貴音はすせりの洋装を可愛いと褒める。姉妹達へ贈るスノードームを買い、語らいながら露店を覗く。白の街に菫色の彼女。
     道中思いがけず見繕って貰った服を抱き、嬉しいけど恥ずかしいとすせりは言った。
    「素敵よ。貴音さんの選んだもの」
     秘めた気持ちはまだ胸に、今は精一杯の笑顔を。

    「ゼロが沢山……可愛いけど、買えないなぁ」
     クリスマス限定ベアさんを、カーティスは名残惜しげに抱く。潤子は心配げに顔を覗くが彼は笑っていた。見てるだけでも楽しいけれど、まだ諦めない。
    「カーティスくん、これ買おうよ!」
     二人で店内を探し、見つけた小さな限定ベアさんキーホルダー。潤子ちゃんがサンタさんに見えたよ――お揃いのプレゼントで、笑顔も二倍に花開いた。

     繋いだ手と手にはにかんで、買い物帰りの小さな二人はショーウインドーのサンタを見上げて立ち止まる。
     姉弟じゃないお姉ちゃんになってほしい。呟く澪に、仙花は首を傾げ問う。
    「……? 姉弟じゃないお姉ちゃんって?」
    「えっと……恋人になってほしいのです~!」
     一瞬、時が止まった。返事は少し待ってと、仙花は慌てて告げる。真っ赤に染まった二人の頬をサンタが見ていた。

     眩い街の中、隣を歩く幼馴染に一つだけ秘密を作る。互いへ選んだ贈り物を藤乃と希沙はせーので見せ合った。
     藤乃から希沙へは深い緑のミトン。希沙から藤乃へは深い青のストール。
    「大事な物を掴むその手が、いつも温かくあるように」
    「寂しいときは、この温もりが包んでくれますよに」
     メリークリスマスと笑いあい、甘味を求めさあ次へ。友を想う暖かな気持ちで二人、繋がった。

     何故今自分に、しかも妙なマフラーを買わねばいかん。店員に捕まった恭太朗を火華は暫し遠巻きに見守る。
    「俺に似合うマフラー見繕ってくれ!」
    「しょうがないですね。私の女子力よく見ておいてください!」
     試行錯誤の30分。空の首にマフラーを巻き、火華は満足げに笑む。こっそり買った手袋には気づいていないようだ。女子力の結晶を写真に残さねばと、二人ゲーセンへ向かう。

     付き合ってほしい買い物とは、実は夕眞への贈り物。折角なら好きな物を贈りたいと思うし、後は。
    「それにこじつけたクリスマスデートだぞ」
     夕眞が選んだ虎の横顔のリングは、照れて目をそらす虎之助に似ていた。お返しのガーネットのリングを手に、喜ぶ顔は大型犬のようだけど。
    「はぐれんようしっかり捕まえとってやー」
     手を重ね歩き出す二人の指には、思い出のリングが煌く。

     片手には弟妹達への贈り物、もう片手には煌びやかな場所に慣れぬ許嫁の手。大切なものを確り握り、湊は喫茶店へ歩く。
    「お前は、何か欲しいものはあるか?」
     伝える為の言葉、欲しい物、今まで縁遠かったものだ。常世の思考は緩やかに回り、一つの答えを導く。
    「……こうやって……たまに、はなしてください」
     ゆっくりでいい。今日だけでなく、これからの為、歩み寄っていこう。

     心通じた友人同士、お茶をしながら言葉を交わす。自然な笑みがこぼれ出すまま、二人密かに探るのは荷物の中。
    「何か新鮮でええね」
    「俺たちはいつも通り何も変わらないのにな」
     紅子がサプライズでマフラーを贈れば、奏夢も同様にピンキーリングを出した。私の為に選んでくれた。驚きと感謝が繋がり、また互いに笑顔になる。
     左手の小指にはめた指輪。その意味は、後で話そうか。

    「右と左で対じゃないタイプのやつ好きなんだよね」
     ピアスとチェーンを手に悩む途流と共に、静樹も鏡を覗き見る。薦められるまま銀のピアスを翳す後輩へ、途流は呟いた。チートずりい、と。
    「何でそこでずりいって話になるんだ?」
     首を傾げる静樹の風貌は、この後向かうカジノにも馴染むだろう。二人は共犯者の笑みを浮かべる。聖夜の喧噪に紛れて、今日は大人の遊びに興じよう。

     運ばれるカジュアルフレンチのコース料理を、クラリーベルは美しい所作で召す。優しくマナーを手解きするうち、惑いがちだった政道の手つきも徐々に慣れ始めた。その礼も兼ね、クリスマスプレゼントを渡す。
    「大好きだぜ、クララ!」
    「ありがとうマサミチ!」
     気高き蒼薔薇色の瞳は、同色のブレスレットを映し嬉し気に細められた。隣を共に歩くに見合う男に、一歩近づけた夜の事。

    「ペアマグとか欲しいです、だめですか?」
     赤と緑のカップは聖夜の思い出に丁度良い。買い物を終え外に出れば、暮れた空に観覧車が浮かんでいた。
     乗りませんから、と怯える蘇芳の視界を朗が塞ぐ。
     ――朗さん。今日こそそう呼びたかった。躊躇いがちにこぼされた声で、朗の苦笑は微笑みに変わる。
    「俺だけ見てればいい……」
     暖かな腕で抱き竦め、そっと何度も口付けを交わす。

     マーケットの露店を物色する香乃果と峻の目は真剣そのもの。
    「男の人って何を貰うと嬉しいですか?」
    「俺は特に欲しい物無いが。ま、やっぱり鳥に関する物だろ」
     峻の示した硝子の鳥は、細かな翼の細工につい魅入る品だ。少し頑張って二羽お迎えし、峻も揃いでツリー型の台座を買う。
    「豊、一年間色々世話になったな」
    「私達からのプレゼントです。受け取って下さいね」
    「え、ああ、うん」
     ……有難う。礼は来年の働きで……嬉しくて、うまく笑えない。

     英国雑貨店で買い物を終えたいろはとイヴは、一緒にクレープに齧りつく。
    「クリスマス的なものは門外漢だから、本場の事を知ってるイヴが居てくれて助かったよ」
    「ふふ、可愛いクリスマスカードいっぱい買えましたね」
    「イヴさんっ、良いところに! 少しお時間いただけませんかっ」
     次は敬厳からSOS。マフラー選びに迷っているらしい。皆が頼ってくれるのが嬉しく、イヴは笑顔を返す。
    「スクールマフラーは派手ですか? お似合いだと思うのです!」

    ●雪
     華やかな聖夜の街並みに、ましろの好奇心もあちらへこちらへ大忙し。転ばないで下さいねと笑いながら、帷も共に広場を目指す。
     ――ずっとずっと、仲良しで居られますように。
     ――この絆が永遠でありますように……。
     心通じ合う相棒だから、女神へ届ける願いも一緒。ふたり並んで満面の笑顔。メリークリスマス、で写真を撮った。触れる雪は儚くとも、カメラの中にずっと残る。

     イルミネーションより、はしゃぐ君の可愛い顔を見ていたいのに。案の条クリスに怒られた桃夜は目線の先に女神像を見つける。
     来年のクリスマスも、こうしてトーヤの傍に。そう祈るクリスの願いが叶えばと、桃夜もまた祈る。重ねた想いに、幸せの雪が降りそそぐ。
     その一片が桃夜の鼻へ。クリスは思わず噴き出し、雪を掃う。
    「はい、とれた」
     そっと口付けも落とし、彼は笑った。

     蒼に彩られた水と優しく降る白が、街の趣を変えていく。弥太郎となのはは感嘆の声をあげ、夢中で雪を捕まえた。
    「おー! 綺麗、すごいねー、屋内なのにね!」
     本当に雪が降ってるみたいだ。ラグビー部の皆にも見せたかったなと思いだし、なのはは部の勝利と繁栄を願う。
     けれど、弥太郎はとっさに思いつかず。
    「何お願いしたの?」
    「えっ? ああ、世界平和……ですかね、はは」

     要が思い描くのはもういない人の面影。逢いたいと願っても届かないから、せめて隣の友の願いよ、女神に届け。
    「イシュのお願いは?」
    「神頼みくらいは私以外のひとにお願い事をお譲りするですよ」
     ユイくんの願い事が叶えばいい。私は願えば叶えてもらえる立場だからと、イシュテムは天を仰ぐ。
     想いはきらきら巡り、優しい雪へ。誰かがこんなに、知らない誰かの幸せを願ってる。

     ひよりの手をひき人波を抜け、悠は女神の元へとエスコートする。冬の星空みたいなイルミネーションの下、綺麗だねと笑いあう。
    「冬って感じで、わくわくしちゃうの」
     よそ行きの服、大好きな友達。何だか特別な時間。この幸せがずっと続きますように。
     悠の願いを聞けば秘密とのお答え。続いた言葉に、そっと微笑みたくなった。
    「でも、女神様に全部頼るって訳にはいかねーかな」

     星降るような光の雨と、触れれは消える淡い雪が、貴方と巡った季節の終着点。紋次郎は煉の手を強く握る。
    「綺麗……」
    「此処のもまた綺麗、だな」
     もっと皆といられるよう、もっと大きな自分に。煉の祈りは願いというより目標に近い。
     俺にだけもっと我が儘言や良いのに。もっと長く一緒に、ずっと傍で。けれど多くは望まない。ブーツを穿いた茜の眸が今、常より近く見えるから。

     瞼を伏せ、祈りを捧げる千波耶の横顔を、幾筋もの星の軌跡が照らす。
    「わたしね、雪が降るのを真下から見上げるのって好き」
     ふわりと舞う泡の雪、追うように流れゆく光の雨。願いが召された、と葉は思った。並んで空を見上げれば、自分たちまでふわふわ空に浮かべる気がする。
    「何祈ったの?」
    「俺が願い事するように見えるか?」
     あるとしたら――そう言いかけて、口を閉ざす。

     初めて目にする光の祝祭を千代子は食い入るように見つめた。無病息災、健康祈願は初詣の領分だろう。女神には隣の彼が幸くあれと祈る。
     楽しげな横顔を眺め、来てよかったと咲月は思う。どうか彼女と末永く仲よくできますように。
    「千代子は何を願ったんだ?」
    「儂のは内緒じゃ、ふふ」
     笑まれれば、手に触れる雪すら暖かい気がして。あぁ――この子は俺の特別なのかもしれない。

     ゆまの願いは唯一つ。皆が、偽りのない笑顔でいられますよう。
     光の洪水を浴びても心揺らがぬ夜トには願いもない。ただ、鼻についた雪を拭う彼女の指は心地よい。泣きそうな顔をしているなら、こうして抱き寄せ傍に居たい。
    「……泣いてる水瀬をかくすくらいは、出来る、ぞ?」
    「素敵な時間を、ありがとうございます」
     この感情は何だろう。今が凄く幸せで、泣きたくなってきた。

     作り物の空、作り物の雪。何だか変な気分と明莉は心桜に呟く。
    「俺達が今ここに居るのは『本当』なのにね」
    「中に『本物』の気持ちがあるから、綺麗に見えるんじゃよ」
     願いは同じ。自分の望みは、君の願いが叶うこと。
    「なら『来年も再来年もずっと、心桜が俺の傍で』」
     いっぱいご飯を食べてますように、と続けたら可愛い拳で殴られた。そんな君とこの先も、共に在れますよう。

     暖かで穏やかで幸せな時が、末永く続きますように。答え合わせをすれば、時継とユウの願いは同じ。
    「キミとも、もっとこうして一緒の時間を過ごしたいからね」
     舞いだした雪に故郷の風景を重ねながら、ユウはもう一つ小さなお願いをする。
    「……先輩、折角だし、その。記念写真。どうかな?」
     照れる娘の白い手をひき、噴水前へ。光と雪の幻想の中、彼女は躊躇いがちに微笑んだ。

     濃藍の天蓋から星の雨。千鳥とオニキスは共に光に打たれ、手を重ねあい天を仰ぐ。
    「ちーちゃん。あたし今ね、幸せだよ」
     心揺さぶる瞬間を、もっと共有したいから。女神さま。どうかずっとこの人の空で、あたしを飛ばせて下さい。
    「全く、ニケの隣は心が休まらないね」
     整えた筈の心に、君の言葉が波紋を描き、彩りを生む。我儘な願いだって届く筈。君は、最高の魔法使いだから。

     流されそうな人の中、先輩に手をひかれ歩く。熱心に祈る燈の姿も紫桜には微笑ましく映る。己の願いは少しはぐらかし教えた。
    「またこうやって出掛ける機会がありますように……とかかな」
    「燈は…………、きっと……叶わない願いだけど」
     少しの間。言ったら叶わない気がするし、やっぱりヒミツと眉を下げ、笑う。
     紫桜が首を傾げる。想いを告げれば、もっと困らせてしまうから。

     光の雨へ朱梨が託す願いは、椿の幸せ。その隣に居れたらもっと……これは我儘だと思う。
     卒業する時に伝える言葉は朱梨に伝わるだろうか。全て思い出してくれるのか。決意と不安の狭間で椿は揺れる。
    「デートらしく、一緒にご飯食べて帰ろうか?」
    「……え? これ、デート、なのかな?」
     繋いだ手の奥深く、互いの願いは秘めたまま。どうしたらいい、でも――期待、しちゃうよ。

     蒼刃と薙乃は、今年も兄妹で聖夜を過ごす。
    「自分のことを祈ったよっ」
    「俺は……薙の願いが叶いますように、って」
    「ばかじゃないのっ」
     女神様には兄さんの幸せを祈ったのに。ちゃんと自分のこと願えばいいって、どうしたら素直に言えるのだろう。
     胸の痛みに目を瞑り、降り注ぐ雪に二人、願いを重ねた。
     例えいつか隣に別の男が立っても、蒼刃は妹の幸せを願い続けるだろう。

    「願うなら『みんなが幸せになりますように』って決めてるの」
     一番優しい願い事は、大き過ぎて叶う筈もない。蒼の眸がひどく空虚に写り、一平は模糊を強く抱きしめた。
    「幸せにする。俺が、お前を、必ず幸せにするから」
     神も奇跡も、誰もその意思を持たなかったのだ。だからお前はそんな顔で笑う。
     幸せよ、疑わないでと女は言った。貴方の腕の中、貴方の幸せを願えるのだから。

     神様――なんて、二度と信じないと思ってた。祈りを捧げるふりをして、カイはヴィルクスを盗み見る。どこか潔い横顔は、いつも以上に眩しい。
    「ありがとう」
     お前のおかげで私は変われた。前を向くことが出来た。カイはただ微笑みを返し、代わりに蒼いビロードの箱を渡す。
    「……これからも、傍に居て欲しい」
     ――ああ。祈るほどのことでもないかもしれない、そう思った通りだ。

     輝く水を浴びた女神は溜息も出る美しさ。かける願いは人それぞれ、やはり聞いてみたいもの。
    「ちょっと変な癖があって、それを直せますようにってね」
     それが何なのかレニーは教えてくれない。首を傾げつつシャルロッテも答える。
    「今日この時は世界が平和でありマスヨウニ、と!」
     降り出した雪を両手いっぱいに集めたら。お願い女神様――今日位、ダークネスも定休日にしよう?

    ●星
     初めての観覧車から見る街は、きらきら星のように輝いている。火蜜とユークレース、なっちんの三人で、雪が出来る場所まで登った。
    「ひゃー、おちる、おちるですー……!?」
     怯える小さな友達を火蜜は包むようにぎゅっと抱き、ストールを半分こ。
    「落ちないですよ、もう怖くない……」
     背を撫でる手の温もりに、幸福を感じた。暖かな微睡みに包まれて、ゆっくり空を降りてゆく。

    「日本の、クリスマス。すごい、きらきら……!」
     遠ざかる景色に、去りゆく年が重なるよう。はしゃいだり怯えたり忙しないアスルを草灯は微笑ましく眺めた。
     いつも、ありがと。
     ふと届いた言葉に、草灯は笑みを零す。
    「……こちらこそ、有難う。ルーのおかげで素敵な一年になったわ」
     来年の挨拶を交わせば、アスルはふにゃりと破顔した。誰かと過ごす聖夜は、こんなに暖かい。

     眼下に煌く東京は常と違う街のよう。男二人夢の逃避行の肩身の狭さも忘れかけた頃。
    「お前もいつものしかめっ面だけじゃつまらんだろ」
     不意にぐいと引き寄せられ、喬市は既視感に肩を強張らせた。両頬に添えた手、迫る十織の顔。これは――。
    「……物理的に変えようとする奴があるか莫迦」
     頬を引っ張られ、軽く眉根を寄せる。笑顔を頂くまで延長戦だと、夜景の中の幸せを探す。

     冥の喜ぶ顔が見れるなら、そう思った。勇気を出して乗り込んだものの――狭い籠の中、暗い硝子に写る飛燕は浮かぬ顔。
     そんな彼の隣に座り、冥は微笑んだ。大丈夫だ。ぽんと肩を叩き、遠くを指す。
    「ほれ……街に散らばる光が美しいぞ」
    「本当だ……上から見た街ってこんなに綺麗なんだね」
     天頂で交わすメリークリスマス。輝く景色と開けた視界の中、恐怖も忘れ笑みを浮かべた。

     七の贈り物の封を開け、鶴一は思わず噴き出す。
    「仕方ねえなあ、寂しい夜は一緒に寝てやるよ……」
     我ながら独り身のOLのよう。テディベアの額にキスする彼の傍ら、七も鶴一の贈り物を開ける。袋から現れた猫耳ルームウェアに、思わず硬直。
    「……やだーこれであたしも林檎三個分に大変身」
     あの夜景が残業で出来ていたっていい。笑いの絶えない聖夜と友へ、メリークリスマス。

     窓の外を見ながら、レイシーは反対側の玲仁の様子を窺う。彼は景色より、もっと遠くを見ているように思えた。話しかけても、返るのは空返事ばかり。
    「悩み事とかあるなら聞くぜ? 喋ってみるだけで、結構違うもんだ」
    「……そうだな」
     頼ってもいい。その言葉に玲仁はぽつぽつと口を開き始める。本当は誰かに聞いてほしかったのかもしれない――10分間だけ、甘えさせて貰おう。

     風は吹きましたか。
     レインの問いに達人は年始の願掛けを思い返す。吹いたと思うよ――戦の中、一度は闇に身を預けても。
    「ならば、それで結構。あとはその風が、途切れぬように」
     あなたを慕う人は多いのだから。達人自身が思っていたより、ずっと。
    「粗末には扱わないよ、絶対に。君も自分を大事にね」
     窓の外、夜景に雪が舞った。助けを求める者の元へ、風はきっと吹き続く。

     話とは何かと思ったが、そういう事かと雛菊は得心した。
    「ボクの目を覚まさせてくれて有難う」
     闇堕ちした悠蛇が他人とは思えなかった。雛菊の憧れた養父は、宿敵に殺された。力及ばず挫けかけた時、支えてくれたのはこの言葉。
     笑顔を守れる人になれ。
    「……出会えて良かったと思うんよ」
     躓かず前を向いた彼女を、悠蛇は強いと思う。皆に支えられ、同じ理想を追える気がした。

    「一体電気代だけでいくらかかってるんでしょうね」
     美しい夜景を前にその一言。折角の夜でも相変わらずの正影へ、ヴィヴィターニャはすねたように頬をふくらます。
    「……家で待っててくれてもよかったんだよ?」
     何かあったら俺が責任取らないと、なんて理由、乙女はほしくない。くるりと背を向けた彼女の死角に、正影は探し物のハートを見た。
     ……まぁいっか、後で報告すれば。

     雪の通る夜景を、椿は惚けたように眺めていた。常とは違う娘らしい装いに笑みを隠さず、紫王は隣の椿をじっと見つめる。
    「――っていう、俗っぽいジンクスがあるんだって」
    「ふーん……折角だし探してみる?」
     夜に隠れたハートに賭けを。俺が先に見つけたら、今日一日だけ――恋人みたいにデートしよう。
     冗談か、本気か。読めぬ笑顔に頬が火照って、椿はぎこちなく肯定を返す。

    「今日はヴィッターが私のルイーツァリですね」
    「光栄だね、ミーラヤ・プリンツェーサ」
     優しく手をひき、ヴィタリーは愛しのお姫様を空の旅へご案内。郷愁に揺れるナタリアの胸中を察したか否か、こっちに来なよと声がかかった。
     騎士の掌に誘われるまま、隣に座り幸せを噛みしめる。聖夜の挨拶は故郷の言葉で交わした。皆が、仲間が――他でもない貴方が今、傍にいてくれている。

    「私、天津水さんの事、好きなんです」
     買って貰ったぬいぐるみの袋を、ちゆは強く抱きしめる。
     それなりに楽しかった日の終わり。彼女が漸く絞り出した言葉も、想いも、このはには想像通りだ。
     応じてはならない。なら、なぜ今日ここに来たのだろう。
    「僕は――」
     偽りの想いを告げられる一歩前、ちゆは窓へ視線を泳がせた。答えが虚ろでも、この夜景が二人の想い出に残るなら。

     夜の遠くを見ていたセドナの目線が、不意に射雲へ移る。
    「……あの、さ。クリスマス、一緒に過ごせてよかったよ。来年も、その先もずっと……一緒に過ごしたいな」
     射雲はきょとんと首を傾げた。
    「好きだ、あたしと付き合ってほしい」
     ちゃんと伝えないと。意を決し告げた秘めた想いは、今度は届いたようだ。
    「あ、ありがとう、ございます。僕でよければ、よろしくお願いします」

     気になる彼の隣に座り、マコトの胸は高鳴る。でも聖夜に待っていたのはもっと素敵な驚きで。
    「僕、マコトさんのことが、好きだよ。よかったら、僕と、付き合ってくれませんか?」
     真っ赤な顔で頷く彼女。今日は色んな表情を見れたけど、今が一番照れくさい。
    「マシューくんの歌、今だけは独り占めしていいかな?」
     神様から貰った異国の歌を、君へ。人を好きになるって、暖かい。

     ハートを見つけた吏穏の声が弾んでいる。ロマンティックな物が好きとは本当らしい。
    「幸せになれるな! あ……『2人は幸せになれる』だったか……?」
     意味は教えぬつもりでいた。だが知っていたのなら、漢らしく腹をくくろう。
    「愛してる。もしも応えてくれるなら、受け取ってくれないか」
     綾が差し出したのは月長石のリング。私も愛してると笑む彼女は、少女の顔をしていた。

     美玲華の指が窓をなぞる。現れた言葉に、チアキは頬が火照るのを感じた。
    「紅月先輩、好きです……コイビトになってください……」
     相合傘に並ぶ名は『センパイ・みれか』。
    「……実は俺も美玲華のこと気になってたぜ」
     交わる視線、二人で巻くマフラー。抱き寄せる手もまだぎこちないけれど。
    「……頑張って幸せにするから」
     心安らぐ一時を、来年も、その次も、ずっと一緒に。

     勇気を絞りデートに誘った。少女らしい服を着た。重蔵と竜胆は互いに緊張の面持ちで向かい合う。
    「なぁ。オレ変に見られてねぇよな?」
    「なんで変なんだよ? その……似合ってるし可愛いぜ」
     沈黙。頬が火照り、窓に視線をそらす。夜景に輝く七色のハート――綺麗、の一言が言葉を繋いだ。
     もう一歩、勇気を。
     重蔵は竜胆の手を握る。幸せに満ちた娘の顔が、娘らしく微笑んだ。

     初めての恋人と過ごす聖夜に、瑞々しい喜びが胸を満たす。
    「清十郎と一緒だから、一層綺麗に見えるのかもです……?」
    「俺も雪緒と一緒じゃ無かったら、こんな素敵な夜景見れなかったろうな……」
     ハートを見つけ喜ぶ雪緒を清十郎は愛おしげに見つめた。添えられた手に、交わす視線に、高鳴る鼓動が導くまま。
     ――大好き。
     閉じられた宝石箱の中、煌くように幸せなキスをした。

     初めての聖夜、二人きりで籠の中。緊張で言葉少なにハートを探しながら、智は真琴へぽつりと呟く。
    「……学園祭の時と、おんなじですね」
     二人きり。その時、夜景に幸せの印が瞬いた。背を押されるように隣へ移る智を、真琴も真っ直ぐ見つめ返す。
    「……前と同じ、なら……今度はもう一歩、踏み出そうかな……」
     瞳を閉じ、手を繋ぎ、互いの影を重ねあう。幸せは、確かに訪れた。

     初めての観覧車に期待を膨らませ、裕也と修斗は観覧車に乗る。
    「修斗、見て、雪と光が綺麗……!」
    「おや、これはまた絶景ですね……煌めきと雪で」
     外に広がる絶景は少し高くて怖いけれど、大切な人が隣にいれば心強い。
    「……、メリークリスマス、だぞ、修斗!」
    「はい、メリークリスマスです。裕也さん」
     頂上で祝いの言葉を交わす。貴方と初めての景色を見れた事が、嬉しい。

     今日は紫廉と陽菜が迎える初めての聖夜。雪の降る空で一緒にマフラーを巻き、寄り添えば、キザな台詞の一つ位言いたくなっても仕方ない!
    「あー……その。……夜景は綺麗だけど、陽菜の方がもっと綺麗だぜ。…………」
     やっぱり恥ずかしい。
     突然の台詞に驚きつつ、悶える彼へ陽菜は笑みかける。うきうきする予感、当たった。
    「……えへへ、ありがとうございます。大好きですよ」

     初デートの緊張と喜びに包まれ、エーミィと紫乃は空の上へ。ハート探しにお喋り、贈り物の交換。初めて尽くしを二人で楽しむ。
    「手作りだからちょっとおかしなとこもあるかもだけど、大事にしくれると嬉しいの!」
     紫の薔薇のコサージュを受け取り、エーミィも嬉しげに藤の花のかんざしを渡す。
    「子供っぽいわたしに好きって言ってくれてありがとう。……これからも、よろしくね」

     二人きりの密室は空に近づき、籠が揺れる。高所恐怖症の虎鉄を膝に座らせ、澪は愛しげに彼の髪を梳いた。
    「こてちゅ~がウチに懐いたんも、コレが切っ掛けやったなあ♪」
     一つのマフラーに包まり豊かな胸に埋まれば、暖かさと柔らかさに蕩けそう。ハートは探す必要ないね、と笑った。君だけに『らぶ』を届けたい。
    「もう、ゴンドラからあふれかねないほどのラブに包まれてるしね」

     贈り物はまだ開けないのか。焦れたように問う筑音に、翼ははにかんで苦笑を返す。
    「んっと、その……何かもったいない気がして……」
    「……開けて見て反応くれねーと、オレも困るじゃねーのよ」
     暫し逡巡の後、開ければ中身はペリドットのピアス。ホールは俺が開けてやってもいい――意地悪い彼の笑みに、頷くしかない。
     メリークリスマス。空に一番近い場所で、大好きを告げる。

     夜闇に浮かぶ白い雪と光の粒。星の海を漂うゴンドラの中で抱き合えば、伝わる互いの鼓動と体温に、胸が鳴る。
    「ずっと傍に居て、ね。奈兎、すき」
     君と離れてしまうのが怖い。微かに揺れる仁奈の瞳を見て、奈兎は彼女を閉じ込めるように窓硝子に両手をついた。
    「俺だって、すきだ。もう離してやれねぇ、から」
     そっと口付けをする。折角取り戻した君を、どうして手放せるだろう。

     大きな志郎の手が、宝物を護るように憂の手をひく。連れ立った空の上、街灯りを共に望もうと互いを呼ぶ声が重なった。
    「空がふたつあるみたいじゃねぇ?」
     肩を並べて硝子に身を寄せれば、星々にはさまれたよう。煌く大地を指差し、そらも映しあえるんだねと笑った。幸せの印、今は星に紛れても。
    「またを叶えるまで、いっしょにいようね」
     絡めたままの指先を、約束の標にして。

     光の波に溺れた東京が、遠い御伽の国のよう。感嘆の溜息さえ凍てつく夜気で、ハナと樒深の指は自然と絡みあった。
    「ね、クリスマスは楽しかった?」
    「……アンタと一緒だから、楽しかったぜ」
     君が隣に居るなら、楽しくない訳が無い。彼女の好きなこの日を、願わくば次も、その先も、ずっと共に過ごせれば。
     樒深は想いを籠めた包みを渡す。誰の目にも触れぬ頂きで、唇を重ねた。

     雪は澄んだ夜気を切り、眼下の星灯りと融け合って消えていく。蓮二と鵺白も二人寄り添い、静寂の中、高まる熱だけを暫しわかち合う。
     ――あぁ、好きだなぁ……。
     ふと覗いた鵺白の顔が、いつもよりもっと綺麗だった。すうと閉じる瞼に吸い込まれるように顔を寄せ、蓮二は囁く。
    「ご褒美、もらっていい?」
     帰ってきてくれてありがとう。口付けの名残が残る唇で、娘は微笑んだ。

     乗りたいと言いだしたのはどちらだったか。傍に寄ろうとすれば籠が揺れ、稲葉はひっと声をあげる。直人は浅い溜息と共に、恋人を部屋の中央へ抱き寄せた。
    「寄り添っても傾かないだろ?」
     閉じ込められた腕の中、はやる鼓動まで伝わりそうな距離。おずおずと上目遣いの瞳に絡めとられ、直人は雨のようなキスを落とす。
    「……直人はいつもずるい」
     ハートの事、すっかり忘れてた。

     七色ハートを探すマキナの肩に、秀憲の頭が凭れる。傾きそうな空の小部屋に揺られて寄り添えば、二人世界から隔離されたよう。
     やっぱ短いな。
     地上に近づく部屋の中、秀憲がふとこぼす。この時間がひどく大切に思え、じっと彼の顔を見つめた。
    「あの……いつもありがとう」
    「ええねんで。俺もありがと」
     マキナは目を細め、笑った。そっと髪を梳く優しい指は、これからも傍に。

     雪舞う夜気に体を震わす奏を見て信彦はにこりと笑う。突如軋んだ床にびくりとしたのも束の間、隣に身を寄せる信彦の温もりが奏を包んだ。
     信彦の手がそっと頬に触れる。互いにはにかんで笑み、口付けを交わす。
    「……愛してるよ、奏」
     もう一方の手は握ったまま、奏からも口付けを。
    「……こうして過ごせて幸せだ。本当にそう思う」
     観覧車が回り終わっても、もう一人じゃない。

     地を離れ、船はいよいよ空にも届くよう。
    「華凜。……手を握って、良いですか」
     触れた藍の指が揺れていた。このまま君への想いごと、深い夜に呑まれ、消えてしまいそうで。
     去年より高くなった肩へ華凜はそっと身を寄せた。静寂の中、温もりをわけあう。やがて告げられた言葉に娘は目を細めた。
     ――大好き。
     追って想いを告げる。大丈夫。去年の約束も、未だここにあるから。

     眼下の夜景を見おろし、思い返す一年前。友人だった依子と篠介は、今二人きりで空の上。不意に頬へのびた篠介の掌を受け、依子は緩く瞬いた。
    「なんか……夢みたいだな、って思って、さ」
     夢じゃないよ。小さく囁き重ねられた手に、愛おしさがこみ上げる。
    「……ちゃんとぎゅっとして」
     寄り添い、照れ隠しのように、夜景の中に幸せの灯を探す。灯を宿した君の瞳が、綺麗だった。

     一年を過ごすうち、黒虎の膝上は銀河の定位置になった。共に見下ろす地上の星は美しく、銀河は綺麗と声をあげる。
    「銀河こそ、この一年でもっと綺麗になったぜ?」
    「……あ、ハート見つけた!」
     照れ隠しに指差し、幸せをかみしめる。告白から一年――再び聖夜の力を借りよう。
     振り返り、抱きつきながら唇に不意のキスを。大胆な彼女ににやりと笑み、黒虎は強く唇を吸い返した。

     暮夜のキャンバスを人の営みが彩り、灯が揺れる。秋に重なる遠景に、今日は特別な聖夜の魔法を描けそう。
    「これからも、先輩の時間、少しだけ、私に分けて欲しいの」
     ここから、女神へ願いも届くだろうか。紡が溢した想いは藍が受け取った。
    「女神様じゃねェけども……それっくらいは叶えさせてくれ」
     二人泳がせた視線の先に、七色の灯。瞬く視界の隅を、雪がふわりと横切った。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月24日
    難度:簡単
    参加:134人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 17/キャラが大事にされていた 5
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