夢見るおもちゃの村~アドヴェント・ドリームナイト

    作者:志稲愛海

     12月の国際空港を彩る、クリスマスの色。
     そんな煌きを見つめ微笑むのは、ひとりのドイツ人女性であった。
    「帰ったら大忙しよ、フィン」
    「リーナ、君の村はアドヴェントの時期が一番賑わうからね」
     リーナとフィンは寄り添い、空港内を並んで歩くも。
     ふいに、ふわり大きなあくびをした彼女に彼は笑う。
    「君、これでもう何度目のあくび? 今頃時差ボケかい?」
    「ん、時差ボケかしら……? 最近、なんかよく眠れないの」
     恋人同士での日本旅行も、今日で最終日。
     だがリーナを襲うのは、頻繁すぎるあくびと強烈な眠気。
     リーナ自身原因がわからず大きく首を傾けるも。
    「あ、そうだ……友達にお土産を買わないと。フィン、申し訳ないけど……近くのベンチで荷物番お願いね?」
    「ああ、フライトまで時間あるし、構わないよ」
     そう快諾する彼に大きな荷物を預け、眠い目を擦りながら。
     リーナは売店へと歩き出すのだった。
     

    「みんな、クリスマスの準備は進んでるー?」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はいつも通りへらりと笑んだ後、未来予測を語り始める。
    「今回察知できたのはね、シャドウの一部が日本から脱出しようとしてる事件だよ」
     日本国外はサイキックアブソーバーの影響で、ダークネスの活動はできないはずであるのに。シャドウは、帰国する外国人のソウルボードに入り込み、国外に出ようとしているという。
     そして日本に恋人と訪れている、リーナという女性。
     そんな彼女のソウルボードに、シャドウが入り込んでいるようだ。
     リーナは故郷のドイツへ帰国するべく国際空港に来ていて、フライトまでの待ち時間、空港の売店を巡っている。
     恋人のフィンとはこの買い物時間のみ別行動なので、彼女のソウルボードに侵入するチャンス。リーナを上手く連れ出し夢に侵入して、シャドウを撃退して欲しい。
     
    「リーナのソウルボードの中はね、一言でいえば「おもちゃの村」だよ」
     そう言いつつ遥河が広げたのは、ドイツの或る村の資料。
     そこは、ドレスデンから南に進んだチェコとの国境近くにある。
     そして村が一番賑わうのは、クリスマス前――丁度今の時期という。
    「リーナの故郷はね、ドイツのザイフェン村ってところだよ。ザイフェンは人口の3分の2が何らかのおもちゃに関する仕事についているみたいで。この「おもちゃの村」に、クリスマス前には世界中から沢山の人が訪れるらしいよ。町にはね、150余りのおもちゃ工房がずらりと並んでるんだって。シャドウの潜むソウルボードも、この村の夜の風景が広がってるよ」
     クリスマスツリーを飾る木製オーナメントやくるみわり人形、窓辺を彩るロウソク立てや可愛い天使のミニチュア。
     この村で作られる木のおもちゃ目当てに、クリスマス前は沢山の人が訪れるというが。
     リーナの家も、村にあるおもちゃ工房のひとつらしい。
    「シャドウはね、村の工房のいずれかに隠れてるから……ちょっと大変だけど、工房を探して回って見つけ出して、シャドウを撃退して欲しいんだ」
     沢山ある工房から探し出すのは少々大変かもしれないが。
     村中の窓に木作りのおもちゃが美しく飾られて。町を巡る曲がりくねった小道に街灯がともされれば、月や星とともにきらきらと輝く雪。
     そんなアドヴェントの夜の夢の中、折角なので。色々な工房を巡り、おもちゃの村の風景を楽しみながら探し歩けば。少しは、探索も苦ではなくなるのではないか。
    「工房を見て回ってシャドウを探しつつも木作りのおもちゃや作業工程とかを見物したり、クリスマスの美味しい食べ物屋台が並ぶクリスマス市を覗いてみたりとかさ。クリスマスカードにもよく描かれてる丸い教会もこの村にあるみたいだから、シャドウを探索しつつ、おもちゃの村の雰囲気を楽しんでもいいんじゃないかな」
     それから遥河は、潜んでいるシャドウについて語る。
    「リーナの夢の中では、特に何か事件が起こっているわけじゃないけど。見つけ次第、シャドウの撃退をお願いするね。このシャドウはサンタ帽をかぶっていて、戦闘になるとシャドウのサイキックと得物のリングスラッシャーのサイキックを使ってくるよ。それでシャドウ自体は強敵ではないみたいだけど、周囲におもちゃの兵隊のような配下を侍らせてるんだ。とはいえ兵隊は殴りかかってくるだけで弱いから、シャドウとの戦いに邪魔にならないようまとめて薙ぎ払っちゃってね」
     戦場となる工房は、木作りの人形が壁沿いにずらりと沢山並んではいるが。
     特に障害物になるものは何もなく広く、視界も照明が灯っているので問題ないだろう。
     遥河はそこまで説明を終えた後、改めて資料を眺めて。
    「おもちゃの村って、なんか響きからして素敵そうだよね! オレ、サンタさんにプレゼント何お願いしよーかなー」
     気をつけて行ってきてね、と灼滅者の皆を見送るのだった。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    イゾルデ・エクレール(ラーズグリーズ・d00184)
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017)
    廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)
    一・威司(鉛時雨・d08891)
    鏡・エール(中学生エビテンハンター・d10774)

    ■リプレイ

    ●Dornröschen
     空を飛ぶサンタクロースのソリが降らせる、煌く粉雪。
     ジングルベルの音色に合わせ踊るのは、オルゴールの上のスノーマン。
     可愛らしい飾りが施された大きなクリスマスツリーを見上げ、はしゃぐ子ども達。
     そんなXmas色の国際空港の売店で。
    「このTシャツは何て書いてるか分からないけど、日本的で素敵!」
     眠そうながらも、『雑草魂』や『忍者』などと書かれた漢字Tシャツを眺めるのは、ドイツ人女性――リーナである。
     鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)と鏡・エール(中学生エビテンハンター・d10774)は、明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017)から届いたメールを確認した後。不測の事態に備え待機するエクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053)とイゾルデ・エクレール(ラーズグリーズ・d00184)に見守られながらも、彼女との接触を試みる。
     まずリーナに近づくのは、珠音。
    「どうして泣いているの? あ、ドイツ語だと分からないかしら……」
     『盆栽』と書かれた漢字Tシャツを鏡の前で身体に当てていたリーナは、突然泣き出した珠音に声を掛けるも、困った様に周囲を見回す。
     だが珠音はハイパーリンガルを駆使し、敢えてたどたどしいドイツ語で続けた。
    「あのっ、部屋……休む、行きたい……ママ、待つけど……分からない……」
    「あら、ドイツ語わかるのね。休む部屋……空港の休憩室? 空港の人に訊いてみようね」
     珠音の手を優しく引き、そう言って売店を出るリーナ。
     ――その時だった。
    「あっ!?」
    「きゃっ!」
     ばしゃりと、リーナの真っ白のコートが赤に染まった。
     躓いたエールの握るトマトジュースが、派手に彼女へと飛び散ったのである。
    「ご、ごめんなさい」
     そしてエールが頭を下げた刹那、咄嗟にやって来たは、ひとりの空港職員。
    「お客様大丈夫ですか?」
     いや、正確にいえば……プラチナチケットで職員に扮した、廿楽・燈(すろーらいふがーる・d08173)だ。
    「あら、これじゃまるでクリスマスカラーね」
     白のコートに緑のスカート、それにトマトジュースの赤を見て、リーナはそう笑って。
    「もしよろしければ、こちらでお洋服を着替えられる場所を用意しますのでご案内します」
     謝りながらもエールは、燈のその言葉をハイパーリンガルで彼女へ。
    「そこでこの染みを洗えるかしら? あ、この子、迷子みたいなの。ママが休憩室にいるみたいだけど……それを職員さんに伝えてくれない?」
    「ぁ……Danke schön!」
     リーナはぺこりと頭を下げた珠音に、きっともうママに会えるわよ、と笑む。
     小学生の燈が職員というのは、少し不自然ではあったが。ESPの効力も手伝い、日本人は小柄だという印象から、今回は何とか誤魔化せたようだ。
    「休憩室には広い洗面台もありますので、皆様ご一緒にどうぞ」
     無事怪しまれずリーナを連れ出すことに成功する灼滅者達。
     そして向かうは、事前に止水から連絡を受けた指定の休憩室。
     そこは勿論すでに、受け入れ準備万端。
    「空調が故障してるようで、今から緊急メンテをしなければならないので、あちらの別の休憩室に移動願います」
    「その後も清掃しますんで、しばらくはここ使えへんのですわ。ほんますみません」
     プラチナチケットで清掃員に扮した一・威司(鉛時雨・d08891)と千布里・采(夜藍空・d00110)は一般人をさり気なく追い払って。やって来たリーナや仲間が中へ入った事を確認すると、『清掃中』の看板を入口に立てておく。そしてエクスティーヌ達とも合流し、揃って休憩室の中へ。
     余程眠かったのだろう、威司や采が準備しておいた快適な室内で、既に彼女は寝息を立てていた。
     止水は女性用のリーナのコートを燈に着て貰った後、ジュースの汚れを軽く叩き、クリーニングを施して。
     熟睡するリーナを見つめ、エクスティーヌはその清楚な青の瞳を細める。
    「うまくいきましたね」
     でも、本番はこれから。
    「ほな、行きましょか」 
     ソウルアクセスで――いざXmas色溢れる、夢の中へと。

    ●Der Nussknacker
     金平糖の様に煌き降る、夜空の星々と真白な雪。
     逆に天へと昇っていくのは、白い息と木彫りパイプ人形が燻らせる煙。
     沢山のシュビップボーゲンの炎が、アドヴェントの夜を優しく照らしている。
    「おー! なんじゃあれ! すげー!」
     先程の空港での儚げな迷子は何処へやら。
     人の夢の中に長居するのもと思いつつも、初めての海外の風景にはしゃぐ珠音。
     止水は、突然走り出し遊び出す珠音に振り回されながらも、工房を覗いてみて。
    「へー、こんな人形を造ったりするのか……」
     いかつい顔のくるみ割り人形たちを眺め、そう零しながらも。
     暗い工房もちょっぴり覗いて見つつ、以前受けた同様の依頼を思い返す。
     夢の中とは言え、ちょっとした世界旅行だな、と。
     そして珠音が見つけたのは、背丈の倍以上はある、巨大なくるみ割り人形。
    「めーし、すごく大きなくるみ割り人形があるのじゃ! 巨大なくるみでも、これで割れそうじゃね!」
    「そんなに巨大なくるみはないと思うけど……」
     それから止水は再び走り出そうとする珠音をひょいっと抱え上げて、次の場所へ。
     今回の目的は、リーナの夢に潜むシャドウを見つけて追い払う事。
     でも、遊びたくなるのもわかるから。
     沢山のおもちゃが並ぶ工房を楽しく巡りながら、照明が灯った東側の工房をひとつずつ、珠音と止水は確認していく。

     おもちゃ溢れるリーナの夢にはしゃぐのは、珠音だけではない。
    (「おもちゃの村ってわくわくするなぁ。依頼だって分かってるけど少しは楽しみたいな!」)
     村の西側を探索するのは、燈と威司。
    「わ、木でできた可愛いお花がたくさん!」
     街灯と月明かりを頼りに、曲がりくねった小道を進んで。
     出会った工房に並ぶのは、可愛い花を持ったブルーメンキンダーの人形。
    「ふむ……このおもちゃは良く出来ているな」
     木で出来ているとは思えないほどふんわりした花の出来に、威司も小さく瞳を細めて。
     スノーマンやペンギンのやじろべえを順に揺らしてみつつ、まじまじ見つめる。
     よく考えてみれば、こうしておもちゃをじっくりと見る機会などなかったから。
    (「子供の頃は、訓練ばかりさせられて遊ぶ余裕が無かったから、尚の事……」)
     あたたかみ溢れる木のおもちゃが並ぶこの風景は、威司にとって新鮮で。
    「あ、そこの赤い瞳の黒うさぎさん、威司先輩に似てる気が」
    「この花を持っている女の子は、燈に雰囲気が似ているな」
     ちょっぴり眼光鋭い黒うさぎさんと、橙色の花を抱えた笑顔の女の子の人形を手にしたりしつつも、工房を探索していく。
     広がるおもちゃの世界に目を輝かせ、存分に楽しんでいる燈。
     でも勿論、シャドウ探索も忘れてはいませんよ!

     夢の中とはいえ、クリスマスムード一色の外国の風景。
    「折角ですし……目一杯楽しみましょう! 一件目で当てたりしない限りは」
     エールがエクスティーヌと探索するのは村の南側。
     さすがに最初の工房でシャドウに大当たり! とはならなかったが。
    「フム……参考にしたいなぁ」
     可愛らしいレープクーヘンやシュトレンなどの菓子や、ジューシーなソーセージが並んだ、雪の帽子をかぶった小さな屋台を見て廻る。
    「食べ物屋台は実際に食べられ……ない?」
     エクスティーヌはふとそう呟き、首を傾けるも。
    「ん、美味し~!!」
     チョコレートがたっぷりかかったシロップイチゴを試食してみたエールは、その甘さに、思わずそう叫ぶ。
     夢の中だから、満腹にはならないけれど。
     手にしたお菓子を口に運んでみれば……美味しい夢を見た後、とても幸せな気持ちになるのと同じような、そんな感覚が。
     それから屋台を楽しんだ後は、照明の灯った工房をひとつずつチェック。
     普段は将棋で遊ぶエクスティーヌにとって、おもちゃに触れる機会はそうないが。削られていく木がカタチになっていく様を興味津々に見つめ、スノードームの中に降る雪景色を眺めて。
    「あっ、あれは……!」
     ふと見つけたのは、どうぶつの絵が描かれた木製のしょうぎ。
     エクスティーヌはエールと共にシャドウを探索しながらも、ザイフェンの木のおもちゃや甘い物を堪能しつつ微笑む。
    「いつか実際に行ってみたいですね」
     そう……これは現実ではなく、リーナの夢の中だから。

     村の北側へとてんてんと続くのは、2人と1匹の足跡。
     采は真白な雪の世界にごろり転がった霊犬を微笑ましげに見つめ、全身についた雪を払ってあげてから。
    「おもちゃの工房をのぞけるのは、えらいえぇねぇ」
     照明の灯っている工房を見つけ、イゾルデと共に足を運んだ。
     その工房にも、木でできた沢山の人形たちの姿が。
    「なんや、似てるわぁ」
     そう采がふと手に取ったのは、ブルーとホワイトの色をした、左耳がたれているわんこのおもちゃ。
     キコキコと車輪になっている両足が回るたび首を前後に振るその様を、隣でお利口にちょこんとお座りしているその姿と重ねて。愉快な動きをするおもちゃと自分を交互に見つめ微笑む主人に、尻尾を振りつつも小さく首を傾けている霊犬。
     イゾルデが手に取ってみたのは、夜を纏ったような黒の衣装を着た、鉄砲を脇に抱えた兵隊の人形。星の装飾が施してあるオルゴールを開いてみれば、賛美歌とともに回るのは、黒服の聖歌隊の行列。
     そして――その音色を耳にしながら、ふと窓の外へと視線を向けた采は。
    「次は、あそこの工房に行ってみましょか」
     街灯で照らされた小道から少しだけ外れたところにある、小さな工房の存在を見つけて。
     木の人形たちに見送られながら、イゾルデと霊犬と共に、再び雪の降る中を歩き出す。
     その工房は、ひっそりと闇に隠れるように存在しているが……窓からは確かに、仄かな照明の光が漏れている。
     そして、ごめんやす、と。
     采が小さな工房の扉を開けると同時に鳴ったのは、木製のドアチャイムの音色と。
    「……!」
     アドヴェントの夜空に響き渡る、大きな笛の音であった。
     
    ●Santa Claus' Schatten
     村の北にある小さな工房に潜んでいたのは――シャドウ。
     工房内にキラキラと輝くのは、宝石の様なクリスマス色の電飾。
     まるでそう……サンタ帽をかぶったシャドウのスート、ダイヤのように。
    「大事な夢に潜むんわ、やめてもらいましょか」
     采はシャドウのスートを確認した後、影を宿した得物を大きく振るい、膨れ上がった闇のような宿敵へと叩き付けて。それと同時に動いた霊犬が勇ましく最前線へと躍り出て斬魔刀を繰り出す。
     そして喪服のベールを靡かせ、イゾルデがおもちゃの兵隊へと浴びせるのは、撃ち出した円盤状の光線。その光の軌跡が、兵隊達を纏めて薙ぎ払う。
     いくら強敵ではないとはいえ、灼滅者二人と霊犬で凌ぐには少し敵の数が多かったが。
    「大丈夫か?」
     合図の笛の音を聞きつけ、東西と南から駆けつける灼滅者の仲間達。
     前へと立ち敵の攻撃を受けてきたイゾルデと霊犬へと、威司の展開した夜霧と止水の生み出した温かな光が施される。
     そしてエールの両手に現われるは、刀と剣。
    「解放……めいきょうしすい!!」
     その右手の愛刀『鳴饗屍吸 III++』と左手の愛剣『瞑鏡紫翠』を握り締めながらも。
    「あ、いえ。止水さんじゃなくて」
     念のため、止水のことではありません、ええ!
     それから気を取り直したエールは、右手の愛刀でシャドウを一閃。
    「貴方が! 消え去るまで!! 断ち切る事を止めない!!!」
     その間に、周囲の兵隊の排除にかかる、珠音と燈。
    「かわいい兵隊さんでも、手加減はしないよー!」
     珠音の放った漆黒の殺気が兵隊を飲み込んだのに続き、ドレスの裾を花が咲くように靡かせ、鬼灯の如き赤い刃から螺旋の一撃を繰り出す燈。
    「まとめて仕留めます!」
     そして豪快に振り上げられたエクスティーヌの無敵斬艦刀が唸りを上げ、兵隊を次々と斬り裂いていけば。
    (「そういえば、コルネリウスがハートなら、スペードなんかもいるか」)
     ……めんど、と。
     そうひとつ呟きながらも止水が張り巡らせた糸が、残る兵隊達を絡め取り、呆気なく止めを刺す。
     サンタシャドウも、プレゼントといわんばかりに七の光輪や毒を帯びる弾丸を放ってくるも。
     仲間を癒す位置取りをした威司の夜霧が、皆の状態異常を打ち消していって。
     一気に攻勢へと転じる、灼滅者達。
    「さあ、今日の夢はここで終わり。明日はまた、新しい夢が始まる」
     シャドウにはこれ以上邪魔はさせない、と。
     特殊オーダーメイドだというイゾルデの銃から爆炎の弾丸が放たれたのに続き、影を纏う得物でシャドウのぶよぶよの身体を殴りつける止水。
     さらに珠音の影が、敵を喰らうかの如くシャドウを飲み込んで。
    「ココでツッコむ! さぁて砕いて頂戴! 瞑鏡紫翠!!」
    「あなたは彼女に何をプレゼントしてくれるのですか? 眠いって、辛いんですよ。ここから出て行ってください!」
     リーナには爽快な気分で帰国してもらいたい、と。エールと連携したエクスティーヌの、粉砕するかの如き強烈な一撃が見舞われて。漆黒の蔦を模した燈の影が灼滅の花を咲かせんと、ダイヤのシャドウへと鋭利な刃を剥く。
     そして、その怒涛の攻撃に、ぐらりと一瞬上体を揺らした宿敵へと。
    「逃したないなぁ、ほんまに」
     意思の通じ合った動きで、霊犬と共に、影の一撃を見舞った采であったが。
    「……!」
     やはり灼滅には至らずに……でもリーナの夢から、シャドウを追い払ったのだった。

    ●Die Flugel der Freiheit
     夢の中のおもちゃの村から国際空港の休憩室へと、無事に戻ってきて。
    「ふぅ……。いつか本当に行ってみたいですね」
     そう言ったエールに、エクスティーヌも頷く。
     あんな村が故郷って羨ましいですね、と。
    「良い夢をありがとうな、リーナさん」
     采は眠っているリーナにそう礼を言い、優しく彼女を揺り起こして。
     そして連絡を取った恋人のフィンが休憩室にやってくると。
    「にゅふふ。元気になってなによりじゃね! ところで二人の馴れ初め……むごっ!」
     コイバナは世界の共通言語じゃよ! と、思わず流暢なドイツ語で喋った珠音の口を咄嗟に抑えつつも、土産選びを手伝おうかと申し出る止水。
     そんな彼に、素敵な漢字Tシャツ見つけたから大丈夫よ、とリーナは笑んだ後。
    「あら、染み落としてくれたの? 日本の人は器用だと聞くけど本当ね!」
     クリーニングですっかり綺麗になった白いコートを羽織って。
    「Danke schön、Auf Wiedersehen!」
     灼滅者達に手を振り、帰路に着くべく旅立つのだった。
     アドヴェントで賑わう――雪の舞うおもちゃの村・ザイフェンへと。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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