●もうすぐクリスマス
「摩利矢さん。クリスマスの予定、決まってる?」
12月のとある日。
夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)と上泉・摩利矢(高校生神薙使い・dn0161)が顔を突き合わせ話していた。
「クリスマス……えぇと」
だが、問われた摩利矢はと言うと、何やら考え込み出した。
「……全国的な冬のお祭り、みたいな日だっけ?」
クリスマスなんだっけ、と考えていたらしい。
「まあ、大体そんな感じね」
かなり大雑把な認識と言えるのだが、そこから訂正すると話が長くなるので柊子はそのまま話を続けた。
「学園では12月24日に、盛大にクリスマスパーティが開かれるのよ。昼間から夜にかけて、かなり賑やかにやるらしいわ」
すっかり説明役な柊子だが、彼女も学園のクリスマスは今年が初めてだ。
「折角だから、摩利矢さんも何かに出てみたらどうって思って、企画のお知らせ集めて来たの」
「ふむ……ん? これは」
柊子が持ってきたお知らせの紙の中から、摩利矢は一枚に目を止めた。
それは――。
●新企画、雪玉転がしロイヤル
今年もクリスマスが近づいて参りました。
去年のクリスマスを学園で過ごした人なら、覚えてる方もいるでしょう。
人工降雪機を使ってグラウンド一面に雪を積もらせた事を。
今年のグラウンドも、雪を降らせて積もらせます。
でも、折角積もらせるんだから、都会では中々出来ない雪遊びもしてみようじゃないですか。
そんな新企画が、雪玉転がしロイヤル。
転がしましょう。雪玉を。時間と体力の続く限り。
ルールは以下の通り。
・グラウンドで雪玉を転がし、その大きさを競う。
・制限時間は1時間。
・直径5センチからスタート。
・チーム参加の場合、1チーム2人まで。
・小学生のみのチームの場合、3人までOK。
・勿論個人参加もOK。
・チーム、個人、全学年入り乱れてのバトルロイヤル風勝負。
・武器、サイキック、及びESPの使用は禁止。(但し寒冷適応はOK)
・過剰な妨害の禁止。
・異物の意図的な混入によるかさ増しNG。
・景品はケーキ。終了後、皆で食べよう。
(上位者のケーキは超豪華! 本職のパティシエ作のクリスマスケーキです)
雪遊びはしたいけど雪まみれにはなりたくない、なんて人にはお勧めです。
ふるってご参加下さい。
●柊子と摩利矢
「へぇ……雪玉を転がして大きくするの、結構難しいんだよね。形が悪いと転がし難いし」
「あら? 経験あるの?」
「村の子供達が、冬になるとやってたよ。あの村、結構積もったから」
少し懐かしそう顔で、お知らせを見つめる摩利矢。
「気になるなら、参加してみたら?」
「私もいいの?」
「皆で楽しくクリスマスを過ごす為の企画だからね」
迷う素振りの摩利矢に、柊子は笑って促すのだった。
●
一面雪景色の武蔵坂学園のグラウンドには、雪玉転がしロイヤルに集まった72人の声がしていた。
「今こそ、2人の力を合わせる時!」
「あいわかった! やよ殿、力を合わせ参ろう!」
楽しげにポーズを決めてみたり。
「雪国育ちの本領発揮だな!」
「立派な雪玉作りましょうね、お兄さま!」
「雪国育ちのヤツらが有利だと思ったら大間違いだからな! 横浜育ちなめんな!」
地域的な対抗心が燃えてたり。
「フィーネ。折角だしどっちが大きい雪玉作れるか、勝負しない?」
「受けて立ちましょう! 百花、罰ゲームの用意は良くって?」
「ふははー。道産子のオレに勝てるとお思いか。ガチで参る」
「どや顔がにくい。千佳ちゃん、小太郎くんも吃驚の大きさにしたろねっ」
「……しのむらさん! かのさんの背丈を越す物をつくりますよ!」
いつもの仲間も、この時は競う相手になりもする。
「摩利矢殿、久し振り! あの時以来だね」
「――あ、星瞑か。久し振りだね」
そんな中に現れた星瞑のペンギン着ぐるみが珍しいのか、しばし凝視する摩利矢。
「おーい摩利矢さん、今日も猛進ですか」
「お久し振りです、と紅葉狩り振りですね」
「こうして会えると、嬉しいね」
「あ、いたいた。久し振り」
小次郎と静菜と緋織も集まってきて、最後に晶が兄のフリをして現れる。良く似た容姿を活かした悪戯。
「お久し振り、元気だった?」
唯一双方に面識のある緋織は気づいたが晶と目配せし、悪戯の経過を見守る。
「晶! いつまでオレのフリしてるんだ」
「っと」
悪戯を止める為、渡里が雪玉を投げるが――晶が避けてしまい、静菜に当たった。
「あれ? 渡里が2人?」
現れた渡里に困惑する星瞑。明かされる種明かし。
「何か変だと思ったら悪戯の犯人は渡里さんでしたか」
「待て。犯人はあき――」
「お返しですよ!」
雪玉が投げ返されると同時に、笛の音が鳴り響いた。
●
いよいよ始まった雪玉転がしロイヤル。
勝負は雪玉が小さい内から、始まっていた。
「私なら出来るはず!」
投げるような勢いで雪玉を転がし始めるアリスエンド。
「よーし、めいっぱい頑張って大きくするぞー!」
「……茜歌、もう少しゆっくりの方が……」
全力疾走しそうな茜歌を、桐人がやんわり抑える。
「勢い良くいきますよ!」
「神音、遅れないでくださいな」
ライバル同士でペアを組んだ神音と桜。
まずは手応えを掴む為、2人で全力で雪玉を転がし始める。
「ふふふ、今日のシューナちゃんは一味違うンよ!」
「最初から全力で行くからね!」
「超豪華ケーキのために負けるわけには行かないんだよ!」
「先輩方とは言え、女性に負けるわけにはっ」
同じクラブの朱那、鈴、壱琉、京介の4人もそれぞれ最初から全開だ。
「大事なのは気合よね! えーい!」
「御崎さん、あの、ちょっと早……っ」
一面の雪にテンション上がって大はしゃぎな柚衣に、わたわたとついていく穂波のペア。
バランスが大事だとかのコツは既に半ば忘れかけていたけれど、2人力を合わせる楽しい一時だ。
「こうやって雪と戯れるのも楽しいものですね……」
流希は周囲に人の少ない場所を選んで転がしている。目指すは美しい球体。
気がついたら、アリスの視界は冷たい白に覆われていた。
「わわ、大丈夫ですか!」
雪に滑って転んだアリスに、慌てて千景が駆け寄り助け起こす。
「雪、冷たい……」
「冷やすのは良くないですよ。女性なんですから、ね」
冷たさにプルプル小さく震えるアリスの頬に残った雪を、千景の指が拭う。
「あ、ありがと……千景」
星瞑は傾斜を探しては、その上に雪玉を押し上げる。傾斜を利用して雪玉に少しでも勢いを付けるのだ。
「多くの雪を我らが糧とするぞ!」
「番長の仰せの通りに」
転がり易く美しく漢前な雪玉を目指す、大文字と花色。
蛇行させつつ歪になった形は大文字が削り、花色が塩をかける。
「イソガバマワレって、ばーちゃんが言ってたぜ」
雪玉が割れないよう叩いて、しばし固まるのを待つアキラ。
普段は大雑把な彼だが、今日は突っ走らない。目指すはケーキ。
「はぜりん、疲れたら遠慮なく俺に任せろ!」
自作の『雪玉が大きくなる歌』を一時止めて、慎重に雪玉を転がすハゼリを気遣う紀人。
「ワ、ワレに後を託す程弱っちゃいないけぇ! 続き歌っとれ。その歌は嫌いじゃないけぇの」
紀人が相手だと、つい強がってしまうハゼリであった。
銘子と美菜は小休止して、雪玉固め中。
「大きくなーれ、大きくなーれー」
猫の手模様の手袋をつけた美菜の手が、既に自分の身長の半分近くになった雪玉を叩く。
「美菜ちゃん、ミルク飴を――」
銘子が飴を差し出したその時。
「どーん! ばーん!」
銘子のストールが揺れる勢いで、黄色い何かがばびゅんと通り過ぎた。
「ヒマワリ着ぐるみの体力、舐めるなー♪」
「今の……」
「ミカエラね。あ、転んだ」
2人の視線の先で、ヒマワリ着ぐるみが雪の中に消えた。
●
「冴君! 妹さんが手を振ってますよ!」
「雛ドコ?! ちゃんと防寒してる?!」
慌てた様子で辺りを見回す冴だが、これは柊の嘘八百。冴の手を止める為の策略だ。
「まんまる雪玉ごろごろと~おいしいケーキを目指すです~♪」
そこに、思いつきの歌を歌いながらあすかが現れた。転がす雪玉は、意外と大きい。
「その歌、ケーキって何回言いました?」
「でまかせですから覚えてるわけないのですっ!」
柊に問われて、ふんぞりかえるあすか。やっぱり手が止まる。
「あれっ? 思ったよか結構おっきい!?」
あすかの雪玉を見て、我に返る冴。
一方、柊の雪玉は2人のそれを大きく上回っていた。
「せーの、で一緒に押そうねー♪」
「うん。せー、のっ!」
欲張らず形を整えながら少しずつ大きくしてきた鐘と小夏。
雪玉は順調に大きくなった、のだけど。
「はぁ……頑張る鐘ちゃん超可愛い。真っ白な雪に水色の服とか、マジ天使……」
隣で頑張る鐘の愛らしい姿に、小夏の視線はそちらに釘付け。
「えへへ……ありがと」
鐘もそれが嬉しくてその場でくるくる回るものだから、小夏はますますぽわわん。
「案の定、小夏は鐘しか目に入ってないな……」
周りが見えてなさそうな妹達には近づかないようにしようと、心に決める九湖。
と、その時。
雪玉に伸ばした彼の手が、瑞希の手に触れた。
「って、わっ! 瑞希と手が……ご、ごめっ」
「ほえ? 奏君、手が当たったくらいでどうしたの? あ、ボクの手冷たかった?」
不意の接触に顔を赤くし慌てる九湖だが、瑞希はきょとん。気にした風はない。
「き、気にしないでいいよ! 兎に角、雪玉大きくしよう!」
「うん。残り時間乗り切って、パティシエ作のクリスマスケーキ、一緒にもぎ取ろうね奏君!」
取り繕う九湖の言葉に、瑞希は力強く頷き返した。
「食のため、美味しいもののため、負けられないっ」
視線を巡らせて、残雪の多い場所を探す壱琉。狙うは上位。本気モードだ。
「重……転がら、ん……」
すくすく成長した京介の雪玉は、彼の肩まで達していた。その分、重さもかなり。
「だぁぁぁぁっ!」
力を入れて一気に押し込めば、雪玉は一気に転がり――フェンスに激突した。
「諦めたらそこで終了ってね! まだまだ行くよー!」
ギャースと叫ぶ京介を尻目に、雪まみれの鈴が雪玉を押して駆ける。
ルールでESPが使えなくても、めげない鈴。
「転がしてー、転がしてー、転がしてー、固めてー、転がしてー……あれ?」
かなり歪な形の雪玉を前に、首を傾げる朱那。考えて形を整えていた筈が、歪な形がそこにあった。
「ココア? 南守先輩の分もありますか?」
「……え、ええと」
妨害のつもりでココアを勧めた百鳥だったが、霧湖の純粋な視線に勝てず、すごすご引き下がる。
南守はその間も雪玉を転がし、雪上にウサギを描いていた。
が、その進行方向に寝そべっている、譲。
(「なに、同じクラブの仲間を轢かねーだろ」)
体を張った進路妨害。
「今何か踏んだ? ……気のせいだよな、うん」
南守は止まらなかった。声もなく雪玉に潰される譲。
「茉莉くん、向こうだ! 南守くん達のうさぎに侵入してやろう!」
「了解です! うりゃー!」
おにぎり片手の煉火がチョコの付いた指で南守を示せば、全力で雪玉を転がす茉莉。
「荻原、雪玉にタローさん巻き込んでる!」
「タロー!? ……じゃない!?」
茉莉の注意が後ろに逸れた結果、雪玉が再び譲を潰す。
「交代だ、茉莉くん。戻るぞ!」
更に茉莉と交代した煉火が、トドメとばかりに躊躇いなく譲の上を通過。
「新妻ー! 傷は浅いぞー!」
譲を掘り出す百鳥の隣では、霧湖が手を合わせていた。
「わぁい! いただきまーす」
明莉が心桜に差し出した肉まんなど、序の口。
「久城ー! 今そっちに妨害入るぞ。ちゃんと防御しなさーい」
「堂々と妨害宣言してんじゃねえ!」
雪玉構えて迫る佐藤から、ペアの杏子と雪玉を庇う脇差。
「佐藤さん、後ろからナディア達が来てる!」
「うわ、こっち来んグハッ!?」
「ちょ、待ごふっ!?」
明莉の声の直後、猛スピードで転がって来た雪玉が佐藤、脇差と続けて跳ね飛ばした。
「雪玉自身が行き先を決めたんだ……俺は悪くない」
「誰か轢いた? 事故なら仕方ないよね」
直哉もナディアもしれっと言ってるけど、この人達確信犯。
「佐藤先輩……こんな姿になってしもうて」
「あれ? わきざしせんぱいどこ行っちゃったのかな?」
ペアが倒れた心桜と杏子だが、気を取り直し雪玉転がし再開。
「あ、あかりんぶちょうだ。なおやせんぱいも見てる! えいえいっ!」
何故か転がす手を止めて、小さな雪玉を作っては投げ始める杏子。
「お前ら……こうなりゃ反撃だ! ついでにリア充爆発しろ!」
復活した脇差も参戦し、飛び交う雪玉。
「鈍が、復活したか」
「もう一度轢いときましょう」
「佐藤先輩の仇じゃ!」
不穏な相談を始めた直哉とナディアの後ろから、心桜が急襲。吹っ飛ばされて雪に埋もれる2人。
「おい、キョンに鈍! 雪合戦じゃなぶっ!?」
「明莉先輩にもどーん!」
明莉も心桜に轢かれた。
「ナイスだ望月! 俺も行くぞ!」
「させるか! 雪まみれになるがいい!」
「こっこせんぱいっ、これも楽しいよっ!」
佐藤が復活し、糸括はクラブ内雪合戦が勃発した。
とまぁ一部混沌としてはいるが、大半は平和だ。
めぐみは疲れたら休憩を取りながら、球体を保つよう丁寧に転がす。
雪を集めては転がし。理緒も1人、黙々と雪玉を大きくしている。
(私がこうしている間にも、彼や彼女達は幸せそうに……)
が、その内心では、何とも言えない情念の炎が密かに燻っていた。
「以前、お世話になったモノだ。覚えているかい?」
バテて座り込む摩利矢に、謡が声をかける。
「改めてよろしく。今日はお互い頑張ろう」
やり直したいんだ、と謡が差し出した手を、摩利矢は小さな笑みを浮かべて握り返した。
「やっほー! 摩利矢お姉ちゃん、久し振りー! 元気そうで何より何より」
そこに、アリスエンドも現れ握手を交わす。
「ゆっくり落ち着いて大きくすれば、『2人で』食べられる位のケーキが貰えるかもよ~?」
更にスティーナも近寄って来ると、アドバイスめいた事を言い残して雪玉と共に去って行った。
「神音、いつ交代しても良いですわよ」
「まだまだ終わりませんよ……!」
交代を待つ桜の呼びかけに、しかし神音は頷かなかった。本当は疲れていたけれど、やせ我慢。
「いつでもどうぞ。別に、私が全部転がしてしまっても構わないのでしょう?」
ライバル同士だからこそ。互いに、簡単に弱音を見せられない。
「ぶはっ……無事か? ネル?」
「ああ、大丈夫や、紅鳥ハン」
ずぼっと雪の中から顔を出す紅鳥とクリミネル。
転がす内に2人揃ってヒートアップして、雪玉を転がす手に力が込もり過ぎた結果。
突然崩れた雪玉が、頭上から降ってきたのだ。
「ネル、雪まみれだぞ」
「紅鳥ハンもやで?」
顔を見合わせ、同時に吹き出す。作り直す時間はまだ残っている。
「勢い付ければ重さもへい……ふぬぬ。さ、坂道はないか!」
響く希沙の叫び。日焼けした頬を流れる汗一筋。まさに貴方のいるそこが、坂の始まり。
「ふん! ふんっ!」
近くでは、千佳も力いっぱい雪玉を押している。
「……ころがらない!」
が、背丈半ば以上の雪玉は、押せどもびくともしなかった。
(「頑張れオレ、今年一番の気合を注ぐのだ!」)
そんな2人を尻目に着実に雪玉を大きくしていた小太郎であったが、実は雪遊び初心者。
それぞれに余裕の無い緑目トリオ達であった。
「ウメ、あそこに雪がいっぱいあるから、あっちへ転がそう!」
「一杯雪があるとこ、了解で――」
壱の言葉に頷き、梅生が雪の中へ一歩踏み込んで――足を取られ顔から雪に突っ込んだ。
「わぁっ! ウメ、大丈夫!?」
「……冷たい。家帰りたい」
すぐに壱が引っ張り出すが、梅生のテンション急降下。
「うわぁ。あれは寒い」
その様子を見ていた颯音も、思わず合掌。
「花凪先輩! 新雪そっちに残ってます!」
一方、戦闘モード寸前な京は、心を鬼にして勝ちを狙う。
「了解、お任せあれっすよ! うりゃあああ!」
気合の入った京の指示で、颯音も気合を入れて雪玉を転がして行く。
「お二人とも頑張ってますね……」
その様子は、寒さに萎えかけた梅生の心にも火をつけた。負けてられない。
「ああ。勝負は最後までわかんないよ!」
顔を見合わせ頷き合い、壱と梅生も勝負に戻る。
「はい、しーちゃん。お疲れ様」
雪玉の形を整えながら押し付けて固めていた紫炎の視界に登る湯気。
視線を下ろせば、お茶を差し出す紅葉の姿。
「お。ありがとな主人」
しばしほっこり休憩タイム。冷えた体に暖かなお茶が染み渡る。
「目標の1メートルは越えたかしら?」
問われて紫炎は、首を傾げる紅葉と雪玉を見比べる。
「多分越えたけど、1位目指して頑張るぞ、主人」
「ま、こんな所かしらね」
自分の体力を考え、慌てず急がず雪玉を作り上げた百花。
「さて、フィーネはバテるくらいで済んで……ないわねぇ」
視線の先には、転んで雪まみれなフィーネの姿と、何故か点々と赤く染まった雪玉。
「大丈夫?」
「ええ。楽しいですわよ!」
手を差し伸べた百花に、フィーネは口の端を赤くしたまま、心の底からの笑顔を向けた。
「サフィア、スピード上げるぞ」
「仮面、全力で行くよ」
霊犬を雪玉に乗せた渡里と、ビハインドと並んで転がす晶が同時にスパートをかける。
矢宵とブレイブの前に鎮座した、1m近い雪玉。
「やよい達は身長が同じくらいだから、押す力は同じに出来る筈なの!」
「タイミング諸々、やよ殿に任せるでござる!」
頷き合い、力を合わせて転がす2人の足跡が、等間隔で雪に刻まれた。
「「あ……」」
気づいた時には、桐人の掌は茜歌の手の上にあった。
雪玉に置く手が重なった、偶然の触れ合い。
(「ええと、俺達はどうすればいいんだったか……雪玉。そうだ、雪玉を転がすんだな」)
(「うわあああ手が触っちゃった! どうしようこれって戦いの合図? って違う今は雪玉!」)
赤面から硬直を経由して揃って動揺した2人は、それまでの慎重さが嘘のような勢いで突き進み始めた。
雪玉が崩れぬよう、形を整えつつコースを選んで頑張ったチセと夜深。
(「今なら、良いかな」)
時計を確認したチセは、残る時間、思い切り雪を転がし駆ける事にした。
「やみちゃん、全力疾走行くよ!」
「全力疾走? わ、わ!」
突然走り出したチセに、慌ててついていく夜深。全力で雪の上を駆ける2人。
「やみちゃん、楽しいね!」
「雪、フかふカ! 素晴らシ! 雪遊ビ、楽シ、ネ!」
転がす雪玉に添えられた2人の手は、色違いの水玉模様に包まれていた。
「行くぞ、みやび。せーのっ!」
竜雅の声に合わせて、みやびと2人で雪玉を押し進める。
前半、みやびが湿らせながら形を整えた雪玉は、大きさを増しても綺麗な形を保っていた。
「お兄さまと一緒ならどんな順位になっても楽しいですわ」
兄妹は力を合わせ、雪玉を更に転がしていく。
『せーのっ!』
こちらも声を合わせて、雪玉を押す紀人とハゼリ。
「これ、後でかまくらにできねェかな」
「そんなに2人も入りきらんよ」
紀人とのやり取りに、ハゼリの頬は小さく綻んだ。
たまにはこうして2人で何かを作るのも、良いものだ。
「ミカちゃん!」
「はっ! 小次ちゃんがあたいを呼ぶ声!」
「行くぜ! 合体!」
「最大加速、突撃ーっ」
小次郎が雪玉を抱えて飛び、ミカエラが走り込む。
ロボアニメ的効果音が似合いそうな勢いで、2つの雪玉が合体。
「ふぅ、満足」
「へへー、雪だるまだよ」
やり遂げた顔の小次郎に、Vサインのミカエラ。
「すげーです……」
見ていた美菜は、開いた口が塞がらない。
「良かったわね。乗せた衝撃で壊れなくて」
銘子が2人に飴を差し出した直後、終了を告げる笛の音が響いた。
●
49組による雪上の戦いを見事制したのは、大文字と花色のペア。
「なぁ、花色。イイコトって何だ?」
「イイコト? 何のことだかさっぱり!」
優勝賞品の、クリスマスツリーに見立てたフルーツタップリのドーム型ケーキの箱を抱え、2人は会場を後にした。
続く2位は紅葉と紫炎のペア。
僅差で負けて膨れていた紅葉だが、頭を撫でる紫炎の大きな掌とブッシュドノエルの大きな箱に機嫌も戻る。
3位は、並み居るペアを押しのけて小太郎。
大きなフルーツケーキを手にした彼に、千佳と希沙の視線が向けられる。
そして、持ち帰り希望者以外で始まるティータイム。
「美味しいね、穂波ちゃん」
「私の分も要ります?」
実に美味しそうにケーキを頬張る柚衣の姿に、穂波が思わず問いかける。
「一緒に食べよう。その方がきっと嬉しいし、幸せだよ」
これは、2人で楽しく頑張った成果だから。
「……そうですね、一緒に」
静かに首を横に振った柚衣の言葉に、穂波も微笑み返した。
「これからもよろしくね」
「望むところですわ。私のライバルさん」
神音と桜は、苺のタルトを間に互いに労う。
「冴君、奢りよろしくね」
「くっそー……司君めー」
やや豪華なホールケーキを手にした柊を、恨めしそうに見やる冴。
「でも、久し振りに3人で遊べて楽しかったですっ」
あすかのその言葉には、言い合っていた2人も一瞬顔を見合わせ、揃って頷いた。
「大丈夫? 寒くない?」
梅生の前に置かれるお汁粉ジュース。颯音から頑張った後輩へのご褒美。
「良かったな、ウメ。俺には?」
「風宮くん。俺、ホットジンジャーね」
「私はストレートの紅茶をお願いします」
壱には遠慮なく、勝者として飲み物を要求する颯音と京であった。
順位に応じてグレードや大きさが落ちるものの、参加者の大半は『ケーキ』にありつけた。
切ないのは、最下位の3組だ。
「百鳥……」
「……何も言うな、新妻」
散々潰された挙句、プチシュー1個ずつになった百鳥と譲。
より悲しい結果と言えそうなのが、糸括の面々。
クラブ内で激しく競った結果、彼らの前には、プチシューかカップケーキのみ。
『どうしてこうなった……』
「どうしても何も、お前ら、絶対わざとだったよな!?」
呻く仲間達に突っ込む脇差の声も、どこか悲しげに響いた気がした。
「雪玉、重ねて雪だるまに出来ないかなぁ」
「いっぱいあると、やはり作りたくなってしまいますよね」
窓の外を眺めていた緋織と静菜は、小さく頷き合い、湯気の立つカップを置くと再び外へ。
やがて、1人、また1人とその後に続いて行き――。
雪玉は、雪だるまへと姿を変える。
形や大きさは様々。
2mをゆうに越える巨体や、花で飾られた雪団子トリオなんかもいる。
クリスマスで賑わう学園に、20体程の雪だるま達が静かに佇む光景が加わった。
作者:泰月 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月24日
難度:簡単
参加:71人
結果:成功!
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