クリスマス2013~伝説の木に彩りを

    作者:

    ●12月のある日
     金淵の赤いリボン。ラメ入りのマニキュア。モールにフェザー。鈴にビーズ。
    「姫凜ちゃん? 何してるの?」
     それらが所狭しと広げられた賑やかな机に向かう背中に、荻島・宝(高校生ダンピール・dn0175)が声をかけた。振り向いた少女は赤い瞳を柔らかく緩めると、とてもとても楽しそうに微笑んだ。
    「宝くん。クリスマスツリー用のね、飾りを作ってるの」
     唯月・姫凜(中学生エクスブレイン・dn0070)の手の中には、ボールチェーン付きの透明なプラスチックボール。
     そこにラメ入りのマニキュアを塗り、乾く前にビーズを散りばめる。
     仕上げにきゅっとリボンを巻けば、キラキラと輝くささやかなクリスマスオーナメントが完成した。
    「――へぇっ。簡単に出来るものだね!」
     瞳を輝かせた宝に、姫凜は手を止めた。
     つい先日灼滅者として目覚めたばかりのこの友人は、武蔵坂学園でのクリスマスを初めて迎えるのだ。
     オーナメント作りだけでこんなに瞳を輝かせる彼は、絢爛豪華な武蔵坂学園のクリスマスを見たら、どんなに驚くだろう?
     不意に過った考えに企む様に微笑んで、姫凜は「そういえば」とクリスマスに纏わる話を始めた。
    「宝くん。伝説の木って、知ってる?」

    ●伝説の木のクリスマス
    「クリスマスツリーを飾ろう!」
     教室に現れた宝の表情は、それはそれは輝いていた。
    「武蔵坂学園って、クリスマス会するんだって? パーティ会場にある伝説の木、俺達で飾ろうよ」
     武蔵坂学園、クリスマス会――昨年もこの日を学園で過ごした生徒達の中には、メイン会場が伝説の木の足元であったことを覚えている者もいるだろう。
    「電飾とかモールとか、一般的なツリー用のオーナメントは一通り学園に揃ってるみたい。それをパーティが始まるまでにみんなでめいっぱい飾りつけしよう? 豪華なツリーに、きっとパーティも盛り上がるよ」
     当日午前から、パーティが始まるまでの時間。
     きっと過ごしてみればあっという間の時間だが、焦るほど時間が無いわけでもない。高さ10メートル弱、登るにも大変な巨大ツリーではあるが、箒で空だって飛べる灼滅者達にとってはさしたる問題ではないだろう。
     灼滅者なら安全に、時間内に飾りつけを終えられる。だからこそ、宝は提案した。
    「実は、さっき姫凜ちゃんがオーナメント作ってたんだ。作るって発想、俺には無かったんだけど……この日のために、手作りするのもきっと楽しいよ」
     オーナメント作成用の工具は、武蔵坂学園にある物を当日用意しておくと宝は言う。
     材料も、思いつく一般的な工作材料は揃っている。通常屋内でする工作作業を屋外ですることになるため防寒対策は必要だろうが、そこさえ確りしていれば、手ぶらで来てもある程度の物は作れるだろう。
     当日、天気は晴れの予報。しかし、雪がちらつくかもしれないという。
    「東京って風強いし、雪降るんなら結構冷えそうだよね。工作するなら手袋とか――汚れるの嫌なら、軍手とかかな? あったかい飲み物持ってきて、暖取りながらなんてのも良いかも。……いずれさ。折角だし、みんなで楽しもうよ」
     去年のクリスマスから、あっという間に1年。そう思う灼滅者は、決して少なくないだろう。
     忙しないダークネス情勢。駆け足の日々だからこそ、クリスマスくらいは友人と、恋人と、多くの思いを込めたオーナメントを手作りしたり、協力して飾り付けるのもきっと楽しい筈。
    「どんなツリーになるのかな。俺も、当日を凄く楽しみにしてるよ!」
     思い寄せて飾る伝説の木――人の思いを乗せて輝くツリーは、この日だけの晴れ姿を見せてくれるだろう。


    ■リプレイ


     早朝。伝説の木には人だかりが出来ていた。
    「この大木をクリスマスツリーにするのか」
    「君は手空いてる?」
     通りすがりに突然かけられた宝の声に、聖太はびくっと肩を震わせる。
    「俺、塾で……」
     言いながら自分でも残念に思えた聖太は、一際強い声で言う。
    「勉強疲れが吹っ飛ぶ綺麗な飾り付け、期待してる!」
     響く声を合図にわっと歓声上がり、伝説の木の1日は幕を開けた。
    「みかんはてっぺンで、……短冊の願い事は何がいいかなァ」
     夕鳥が飾ろうと掲げた物に目を見張った社が慌てて解説した『クリスマス飾り』。夕鳥の顔は林檎の様に赤くなる。
    「そうなのかァ……」
    「キャンディケイン持ってきました、一緒に飾りましょう?」
    「きゃんでぃけいん?」
     しかし小さな恥も何のその。一度飾り始めれば、珍しい飾りの数々にはしゃぐ夕鳥に社も思わず微笑んだ。
     サンタ姿の動物のぬいぐるみを作るのは優歌だ。
     作り方は友人と練習したばかり。そこに伝説の木に合わせた趣向を凝らし、大き目の、ヘリウムガスでふわふわ揺れる愛らしいぬいぐるみが幾つも出来上がる。飾る瞬間が楽しみだ。
    「スバル。どれ飾る?」
    「靴下かな。プレゼントもらえるかも!」
     笑う昴の隣、キラキラ光る雪だるまの飾りを持つイリヤの瞳は輝いていた。
     育った国柄。クリスマスという行事に縁の無かったこれまで。初めての経験に輝くイリヤの表情に、昴も楽しくなってくる。
     親友が一緒だから――同じ思いに笑む視線を交わすと、2人は同時に声上げた。
    「「メリークリスマス!」」
     ビハインドが生前付けていた黒猫の髪飾りを模して美都子も飾りを縫う。
    「あれ、こーきくん?」
     形が明確な為か、あっという間に完成してしまった。どこへかいなくなったビハインドを探す瞳は、やがて苦笑に緩む。
    「あぁ、いました」
     他の女の子を見ているこーきくんに声をかけ、美都子はいざ、飾りつけへ向かう。
    「出来た?」
     レクトが手元を覗けば、ナノナノ・きゅん太を模したしいなのオーナメントは歪な仕上がりだった。
    「レクトさんはうまくできました?」
     寂しそうに笑うしいなを、レクトはぽんと撫でる。
    「俺も霊犬連れてないし、見よう見まね。目立たない所に飾って、宝探し気分で眺める人たちに楽しんで貰おう」
     その言葉と笑顔に滲む優しさに、しいなも思わず微笑んだ。
     貴耶は、さくらえを落ち着かない様子で見守る。
    「貴耶はこーゆーの、器用に作れそうだよねぇ」
     空き缶切るさくらえの鋏さばきは、怪我しないのが不思議な危なっかしさ。事前用意していた自分のオーナメントの仕上げに、どうしても集中できない。
     手伝うか否か――幼馴染の葛藤知らず、さくらえの手が遂にキリへと伸びた瞬間。
    「さくらえ、リボンや端切れでも作れるみたいだぞ」
    「うん?」
     会場用意の安全材料を一式手渡す間に、キリが密かに回収されたのは言うまでも無い。
    「へー、ガーラントっていうんだな」
    「はい。楽譜はクリスマスのお歌です」
     嬉しそうに笑う真白が楽譜を切り抜き作ったガーラントが、風にくるくる揺れる。
    「ほんと歌好きだな」
     言いながら動く有貞の手もくるくると器用で、真白は目を見開いた。
    「トナカイさん?」
    「……とみせかけて、バイソン。何かリクエストあったら作ってやる」
    「えっと……サンタさん!」
     作成に夢中の2人が飾りつけを始めるのは、もうちょっと先の話。
    「出来るだけ高い所につけたいよな」
     南守と隣の梗花の手には、持ち寄ったオーナメント。
     示し合わせた様にお互い『誰かさんに似てる』天使と黒わんこに笑いながら、きょろきょろと飾り場所を探す。
    「肩車してやるよ。俺のも託していいか?」
    「それじゃあ肩車、上、頑張ります!」
     気合い充分、ぐんと持ち上がった梗花がツリーへ手を伸ばす。……が、細身とはいえ如何せん梗花は高2男子。
    「ちょっ……南守、しっかりしてよっ」
     周囲の人にも支えられ、2つの飾りは親友の様にツリー上に寄り添った。
    「できたー」
     陽桜の手には、クリスマスらしいグリーントパーズベースのリースが輝いていた。
    「羽柴さんらしく、可愛らしいですね。月原さんの作ったものは、綺麗ですっ」
     材料は煌介提供のパワーストーン。完成品を見せ合い、煌介と呉羽は無邪気な陽桜の笑顔に相好を崩す。
     煌介はミルキークォーツで雪の結晶、呉羽は小さめのガーネットと大き目のペリドットを合わせツリーを模した。石の力秘めた贅沢なオーナメントは、電飾が点滅すれば伝説の木に独特の光反射による新たな彩り添える筈。
     飾る瞬間を待ち望み、煌介は相棒の箒を携え微笑んだ。
    「三千歳くんは何作ったの?」
     問うたイーニアスに、三千歳はフェルト天使を差し出す。
    「どうかな、ニアに似てる?」
     自分に似せ作られたと解って、イーニアスはほんのり照れ笑い。
    「そんな風になれていたらいいな……ありがとう」
    「ニアは天使だよ! 綺麗で強くて、すごくすごく素敵!」
     少女の笑顔と言葉に照れたイーニアスは、三千歳に似せたサンタ人形を出しそびれてしまったけれど。笑顔の時間は、かけがえ無い思いを紡ぐ。


    「フンフフ~ン♪ メリ~・クリスマ~ス☆」
    「ミッチーさんがサンタさんのよう……あ、お鼻光ってるからトナカイさん?」
     七色に光る鼻を装着した道家の肩上で飾り付けを進める藍花は、道家命名シャイニングスター(派手な星)を手に、流石に上は無理かと木を見上げた。
     すると、ビハインドが笑顔で藍花の手から星を抜き去り、上空へと浮上していく。
    「……」
     憮然とした顔を浮かべた藍花は、この後道家のライドキャリバーMT5を存分に飾り付けるのだった。
    「爆発☆、爆発―☆」
     大量の飾り抱え不穏な言葉をノリノリで口ずさむカフェは無論、危険物は何一つ持っていない。
     器用に頭に珈琲入りのマグカップ載せ、『RB』を模った赤く光る飾りや、サンタの格好をした黒いアヒルの手作り人形、無駄に精巧なイカ塩辛の手作り人形などを飾っていく。
    「今年も素敵な彼氏はできなかった……」
     此方は独り身仲間・杏と共に伝説の木を訪れた赤兎。2対のウサギのぬいぐるみが、ツリー上に寄り添う。
    「杏ちゃんのハート飾りで、ウサギをラブラブに飾っちゃおう!」
    「来年は恋人クリスマスも体験してみたいですよね! 願掛けとか、伝説の木にご利益ないでしょうか?」
    「ご利益ありますようにご利益ありますようにご利益ありますように……!」
     切なる叫びが届くかは、今は誰にも解らない。
    「てっぺんもらったぁああ!」
     元気な叫びは天辺目指し木を昇る都々。シャラフの脇、ゾルタンは溜息を落とす。
    「あまり無理すると落ちる、気をつけろ」
    「天辺ほしいだなんて、子供みたいな奴……あれで18歳とか詐欺に近い」
     茶のもふもふコートで高所まっしぐらの都々は、不意に2人を振り返った。
    「二人とも、すっごい景色良いよ!」
    「どうするゾルタン。私たちも登るか?」
     苦笑し手を振り返すシャラフが問うと、寒さ凌ぎのホットミルクを飲み干し、――樹上の恋人へ向けゾルタンは叫んだ。
    「ちっ、仕方ねぇから行ってやるよ!」
     逆に伝説の木から降り立った咲哉は、今一度飾り付けた装飾を見上げた。
     ツリー上層に羽ばたく2羽のガラスの鳥。共に見る人の笑顔を思い咲哉が笑んだ時、聞こえた声は姫凜だ。
    「綺麗ね、真珠色の鳥」
     誰を思って飾ったの? といたずらっぽく笑った姫凜に、咲哉は照れくさくなって目を逸らした。
    「全部ツリーに飾れたらサンタサンからご褒美だ」
     長丹前に赤い三角帽。不思議な姿で佇む十織の一言に、葉が欲したプレゼントはナノナノ・九紡。
     10色の折紙眼鏡を飾り終え、ずい、と大きな靴下を差し出した。
    「手伝った。プレゼントちょーだいプレゼント」
    「ちゃんと靴下まで用意してきたのな」
     九紡持ち帰るべく、姉に頼んで編んで貰った特製靴下。用意の良さに感心しながらも、十織はにぃ、と笑う。
    「だが九紡を貰うってことは、俺もついてくるってことだ。そのサイズじゃ望みのプレゼントは入らんぞ?」
     葉が九紡を嫁に迎える日は、まだ先になりそうだ。
     ツリー上空、つむぎの箒の上にはいばらも共に在った。
     飾った薔薇とナノナノのオーナメントに興味を示すきららに、2人は笑みを交わす。
    「きららは、ナノナノが気になるみたい」
    「きららだけではなくて僕もだよ。つむぎらしくて、可愛い」
     やがていばらの飾り付けを待って、再び箒はふわりと上空へ。
     吹く風にちりりと揺れる金のリトル・ベルは、寄り添う2つの居場所を告げる音標。
    「狙うは天辺のお星様だよ~」
     ツリーの天辺を指した命は、だぼだぼトナカイスーツ姿でレナータのデッキブラシに跨る。
     一方レナータはミニスカサンタ。跨るブラシにサンタのソリ装飾を施し、浮かぶ姿は正にクリスマスの風物詩だ。
    「あれっ」
    「えっ」
     しかし至った天辺で、自力で木を登ってきた都々と箒の命・レナータ、星を掲げ持った2組が鉢合った。
    「どっちも飾っちゃお!」
     そう言って笑う都々に、命とレナータも同意の笑みを交わす。
    「いいよね、レナータ」
    「So good」
     こうして、伝説の木には今年、2つの星が飾られた。


     【ウルフカオス】。緑基調のボタンリースを作る善四郎を時兎が覗き込む。
     木製クリスマス装飾が時兎は好きだった。だからその手は、器用にリース型の木切れを緑に染めると、蒼と白薔薇のチャームを接着し、思い立った様に木切れの裏面に木彫りを始める。
    (「実は自分、刃物使うのがどうも苦手なのだよな」)
     彫刻刀捌く音聴く銀嶺も、紙粘土ボールや善四郎に教わったボタンリースに挑戦。
     その奥でビハインドの刹那と共にチェーンとリボンを編み合わせるのは那由多だ。
    「所々纏めて、飾りを付けて……」
     銀パーツ、オーナメント。組み合わせを変え様々なモールを仕上げて行く脇には夜那も。苦手な工作、模索しながら手を進める。
    「どうにかなる、か? 水色の羽と金の輪……」
     完成したのは簡単ながら愛らしい天使。しかし夜那は「オレじゃ、これが精一杯っす……」とがっくり肩を落とした。
     ギルアートが器用な手先で生み出すはスノーマン。
    「他の皆のも気になるからな、完成したら覗きに行くんだぜー」
     白毛玉のポンポンとフェルト。あっという間に愛らしいスノーマンを量産し、向かったのは傍、潤子。
    「見て見て、可愛いでしょ!」
     潤子が差し出したのはカルトナージュ――フランスの伝統手芸・飾り箱だ。布、レース、花等が彩る華やかな仕上がり。
    「へぇ、可愛いじゃない」
     七の声に、潤子は誇らしげに笑った。その七は羊毛フェルト製のサンタな白い犬を差し出して、そっと箱に収めた。
     いよいよ、飾り付け――ツリー見上げたその時、善四郎が「これも一緒に」と袋を差し出す。
    「すごい……銀モチーフ飾っちゃうとか店長太っ腹ァ!」
    「バイト先で『モッテッテイイヨー』って言われた売れな……ごほん、貴重な銀モチーフ! ゴージャスなツリーになる事間違いなしっすよ!」
     此処でツリーに散りばめられた無数の小さな銀達は、今年のツリーの仕上がりを大きく左右することとなった。
    「オーナメント作り、楽しいですね」
     風花がボールオーナメントに白猫を描く間も飾り量産する優夜は生き生きとしていた。嬉しいと同時に、何が出来たのかが気になった。
    「文化祭のもふりーと作りの成果が、今ここに」
     手を止めた優夜は平時通りの無表情で、手毬サイズの黒・白猫達をずらりと並べる。
    「白猫、たくさん作りすぎたから一つあげる」
     それぞれの思いが、ツリーを少しずつ彩っていく。
    「ツリー飾りにリースって、変?」
     小首傾げた依鈴に、姫凜は首を横に振る。金スプレー仕上げの『始めも終わりも無い』輪飾りに、依鈴は縁続く願いを託す。
    「姫凜ちゃん……見つけてくれて、ありがと」
     何のことかは言わない。でも――届いた依鈴の感謝に、姫凜は微笑んだ。
     哉汰と雪花は、飾り場所を探して木を見上げていた。
    「高いとこにつけてみる? あ、でも届かないかな」
    「……高い所、ですね。お任せ下さい」
     役に立てるのが嬉しくて、聞くが早いか雪花は箒で舞い上がる。あっという間に空の少女を見つめ、哉汰は迷いに笑んだ。
     少女の首には、先ほど自分が巻いたマフラー。髪には大切な人を思い作っていた筈の飾りが、予定と異なる雪花の瞳色を添え揺れている。
    (「俺の中の大事な人って、誰だろうな」)
     それでも哉汰は小さく呟く。
    「来年もまた一緒に過ごそうね」
     完成品を参考に、プラスチックボールオーナメントに装飾を施す由乃へ、慎一郎は問うた。
    「ところで、由乃ってやっぱり夜は予定ある……かな?」
     由乃はきょとんとして無い、と答える。そのまま「良かったら……」と続いた慎一郎の今宵の誘いはあまりにも慎重で、由乃はいたずらっぽく笑い、答えた。
    「楽しいエスコートを期待しています」
     笑顔の中、穏やかな思いが交差する。
    「ふふ、あんまりハードル上げないでね」
     夜へと繋いだ約束は、この時をますます鮮やかに彩る。
    「こういうんは好き勝手つけるんもええけど、バランスを考えるっちゅーのもオモロいねん」
     木全体を見て飾る位置を指示する右九兵衛に、紅葉も応えて右に左にと駆け回る。
    「サンタちゃんはこっち?」
    「ちょい右……ん、ええで。次はこれ、アレの上らへん……」
    「う、うくべーさん!」
     ふと、縋るような紅葉の声に視線落とせば。
    「手が、届けないの……」
     ぴょんぴょん跳ねて、でも手が届かない紅葉の姿に右九兵衛は笑った。
    「ほな、一緒に飾ろか」


    「今日は寒い! でも体は温まってるよ!」
     楽しみで仕方なくて。駆け足でやって来た杏那は、カラフルなモールを1つに束ねツリーへと括り付けた。
     深緑の上、花咲いた様に華やいだそこに笑んだ時、ふわりと落ちてくる白。
    「雪!」
     空には、雪がチラつき始めていた。
     名の通りツリー上層の装飾を目指していた【空部】は、何と全員空を飛べず。
    「脚立用意! 肩車も出動ー!」
    「オッケーシューナ!」
     明るく言い放った朱那に指された才葉は、即時朱那を肩車。前向きさに供助もけらけら笑う。
    「朱那ごと転ぶなよー」
    「落とさないよう掴まえとく! って、供助の鳥さんかわいいな!」
     才葉が目に留めたのは供助の鳥飾りだ。銀の星を咥え、白い体と紺の羽根にはスパンコール。朱那のリボンの虹と合わせれば、1つの空風景の完成だ。
    「オレは折紙ででっかいお星様! アシュと幸太郎は?」
     見遣った先、幸太郎とアシュは装飾の作成中。アシュの手元にはオーロラモチーフの美しいリボンが煌きその完成を待つ、が。
    「ぶはは、こーたろの不器用さはナンか意外やな!」
    「う、うるさい! 俺は工作が得意じゃないんだ! 光ってれば月なんだよ!」
     三日月型の銅版。シンプルな幸太郎のオーナメントは、不器用以上に個性的で。
    「……集めると、賑やかになっていいね」
     周囲の協力もあり、空部の装飾は最終的にツリー上層部に飾られた。
     彩り重ねたツリーを見上げ笑んだセカイは、調理室で用意したホットチョコレートを配って歩く。
    「寒いですから。召し上がってください」
     冷めにくい蓋付きマグ。気遣いの行き届いた差し入れに、次々と笑顔が咲いていく。
     世間話交わしながら、手際良くオーナメントを仕上げた鈴と千波耶は雪降るツリーを見上げていた。
     並べた飾りは2人の瞳色――金と青の、星の海とオメガスター。
     周囲の光を反射し、思っていたより綺麗、なんて。言い掛けて見た千波耶が纏う緊張を察した鈴は、気合い注入とばかり力強く背中を叩く。
    「でぇと頑張ってこいよ!」
     千波耶の体を鈍らす妙な緊張感。この後バイトに行く親友からの後押しに、千波耶は鈴を抱き締めて感謝した。
     【柴くんち】の元では、願いのリボンに雪だるまサンタ、ちまりと愛らしいリースなどの製作が進む。
    「ちょ、揺らさないでって言ったのにこの眼鏡」
    「いや、やるなって言ったからやれってことかと思って」
     脇で観月にぐらぐらと脚立揺らされる司に、白ピンポン玉へSE-500番トーンに似た模様を書き込む芭子は声を掛ける。
    「そういえば柊の葉って受難を意味するらしいよ」
    「袖岡さんそんなこと言わないで助けぎゃー!」
    「柊の葉の受難が既に……ってふおお私の所に落ちるのかよ!」
     落下した司を、千架は怪力無双で見事お姫様抱っこに成功。
    「いたた……玖律さん済みません」
    「千架ちゃんオトコマエー!」
     歓声あげた真珠の隣、千架の落とした作りかけオーナメントを纏めた昭子がぱちぱちと拍手を送る。一方主犯の観月は、何事もなかったかの様に芭子と「SE-583番の方が良くない?」とかピンポン玉の模様について談義していた。
    「さて、そろそろ箒。高いとこに飾りたいのありますか」
    「真珠さーんわたしの飾り、高いとこお願いしたいー!」
     お約束に眼鏡……もとい観月を除外したお茶会も交えつつ、ツリー見上げる時があっという間に過ぎていく。
     そんな中、【UISCE】の面々は考えていた。
    「この流れだと、サカナは下の方……?」
     ツリーは上層が星空。他の飾りとのバランスも見つつ、納得のサカナツリーにするには下層に飾るべきか。彼らの用意した魚装飾の量は参加者中最大勢力と言えるだけに、ツリーの出来映えを決める要素ともなり得た。
    「ワシのは星座の魚を模したオーナメントじゃから、上部が良いかの」
     篠介の言葉に、イコがぽん、と手を叩く。
    「夜空の景色に浮かぶ海……天の川とか……?」
     こうして、【UISCE】の飾り付け方針が決定した。
    「サカナも偶には空を泳ぐのも楽しいじゃろう」
    「早く飾りつけ、しよう?」
     ツリーを見上げ笑う篠介を、わくわくする瑞樹が柄にも無く急かす。
    「全体はこう、上から流れる様に……高い所はどうしようか。背の高い人に任せる?」
    「……あ、宝センパイ!」 
     蓮二が考えている所に、狭霧が宝を見つけて声を掛けた。
    「高い所? 良いよ、箒持ちの人に手伝って貰おう。俺、声掛けてくる」
    「やった、解決! ところで、荻島君もお魚ツリー一緒にどう?」
    「あはは、喜んで! 楽しそうだし」
     瑞樹のヒトデを受け取ると、宝が人集めに一度場を離れて行く。
    「よし。それじゃ、始めようか!」
     蓮二の掛け声におう、と返し、ついにツリーの仕上げ作業が始まった。
    「狭霧くんの華やか金魚さんも素敵。篠介先輩の星光るお魚さんにもときめいちゃう」
    「高いところは先輩方におねがいして、下は小学生組におまかせください」
     イコが飾り見回しはしゃげば、ヴィオラはにっこりと笑んで届く範囲を請け負って。
    「おおっ 背の高いヒトってこんなにいろんなモノが見えるのか?」
    「はは、四十嵜。一番高い所に泳がしてやるといい」
     篠介の肩車には、悠凱が楽しそうに笑う。
    「光るクラゲに、イクラみたいな粒々のイルミネーションも……あれ、僕の全然魚じゃない!」
    「水棲生物だから問題なし!」
     一樹の声に狭霧が突っ込めば、会場中に笑顔の花が咲く。
     段ボール一杯の飾りは、会場中の仲間達によって、みるみる内にツリー飾られて。
    「んんー、緑の海のサカナツリー、完璧!」
    「きっと、本物の海よりにぎやかです!」
     蓮二とヴィオラの声に、会場中から拍手が沸いた。

     頂点の2つの大星の周囲には、夜空モチーフのオーナメントが星を支える様に煌く。
     全体にはパワーストーン入りの装飾や小さな銀のアクセサリーモチーフが散りばめられ、電飾が点滅する度光を反射して。星瞬く様なキラキラの中に、サンタやスノーマン、天使、ベル、リース、靴下といったクリスマスの定番オーナメント。
     そして、ツリー頂上から足元へなだらかに下る、無数の魚達。
     多くの心を寄せた今年の伝説の木の晴れ姿は、星とクリスマスオーナメントの海の中を魚が泳ぐ、幻想的な仕上がりとなった。

    作者: 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月24日
    難度:簡単
    参加:75人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 9
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