クリスマス2013~武蔵坂学園雪合戦

    作者:天木一

    「はっ……やっ!」
     グラウンドの隅で、体操服姿の貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)が壁に向けてゴムボールを投げていた。
    「とっ……!」
     跳ね返ってきたボールをさっと避けると、ボールは後ろに配置してあった緑のネットにぶつかって落ちる。それを拾ってまた投げるという動きを繰り返していた。
    「あっ……こんにちは」
     近くに来た人の気配に気付き、イルマは振り向くと汗を拭って挨拶をした。
     そんなイルマに何をしているのかと尋ねる。
    「これは特訓だ。もうすぐクリスマスだが、イベントがあるのを知っているだろうか?」
     ツリーに飾りつけや、ご馳走を食べるパーティなど、当日は賑やかなクリスマスのイベントが幾つも行なわれる。
    「そのひとつに『雪合戦』があるそうだ。わたしはそれに参加しようと思っている」
     グラウンドに人口降雪気で雪を敷き詰めるのだ。そこで雪合戦が行なわれる。
    「去年も行なわれたそうだが、残念ながらわたしはまだ学園に居なかったのでな、今年が初参加だ」
     わくわくした表情でイルマはグラウンドが白く染まった景色を想像する。
    「学年合わせてクラス番号でチーム分けされるようだ。クラスの仲間や先輩後輩と力を合わせる競技のようだな」
     人数が足りない場合は、ある程度戦力が均衡するようチームを合同した連合軍となる。
    「ルールは簡単だ。雪玉に被弾した者は失格。見事生き残った最後の1チームが優勝となる」
     サーヴァントの参加は認められている。サイキック、ESPは使用禁止だ。道具は各チームの本陣に固定されている雪球製造器だけ使用できる。
    「それと優勝したチームには学食の食券が贈られるそうだ」
     聞いていた灼滅者達の目の色が変わる。年中餓えた学生達には魅力的な賞品だった。
    「失格になっても、温かいココアが振舞われる。それで冷えた体を温めるといいだろう」
     それも魅力的だなと、イルマは微笑んだ。
    「遊びとはいえ、やるからには勝利を目指して全力を尽くすつもりだ。参加する方は当日よろしくお願いする。みんなで存分にクリスマスを遊ぼう!」
     ヤル気十分なイルマの言葉に、皆も声を合わせて拳を振り上げた。


    ■リプレイ

    ●雪合戦
     クリスマス。それは白い雪に覆われた戦いの日である。
     真っ白に染まったグラウンドに合戦の準備を終えた勇士が集まっていた。
     赤いゼッケンの赤軍は1A梅組と3C桜組と6F菊組の連合、総勢17名。緑のゼッケンの緑軍は2B桃組と4D椿組の連合、総勢16名。青のゼッケンの青軍は5E蓮組と7G蘭組と8H百合組の連合、総勢17名。紫のゼッケンの紫軍は9I薔薇組の総勢23名。全4チーム73名が合戦を行なう。
     順番にフィールドの北から時計周りにチームが配置された。
    『用意はいいですねー? それでは、第二回武蔵坂学園雪合戦を開催します!』
     壇上から姫子がピストルを撃ち、合戦の幕が開けた。

    ●緑軍×赤軍
    「2B桃連合ファイッ!」
    「「おお!」」
     七の掛け声と共に緑のゼッケンが一斉に動く、前衛は赤軍の陣へと侵食していく。
    「笹さんファイト! マフラーの重みでふらふらして危なっかしいけど、頑張れ負けるな!」
    「一緒に頑張ろうね笹さん!」
     百花と笹さんは一緒に雪玉を懸命に作り、紅太はそれを運ぶ。
    「やるからには勝ちを狙わないとね」
     エアンも気合十分で雪玉を投げつける。
    「フフフ……ボクだってたまには頭を使うんだい!」
     蜜蜂紅はシェルターから敵を覗いては違う場所から雪玉を投げる。
    「こっちは援護射撃だ、前衛の仲間をサポートしよう」
    「平和は乱すが正義は守るものっ! 吉祥寺3-Dの銀色の彗星。銀さんこと、中島九十三式・銀都参上っ」
     晃は隠れながら遠投し、銀都も声を上げて敵の意識を引く。
    「同じチームになったね、頑張ろうね」
    「リアンくん、ギルドールくんは敵になったね。全力で行こうね!」
     カーティスと潤子は元気良く、雪玉を持って攻撃に行く。
    「ねえねえ、あるなちゃん。食べたらおいしいかな?」
    「シロップをかけたらおいしいかも?」
     ララが作った雪玉を渡しながらお餅のようだと言うと、あるなはおにぎりみたいと受け取った雪玉を投げる。
    「うおっと……」
     雪原迷彩の沙雪は、ジグザグに玉を避けながら敵陣へ駆ける。
    「奏音は右を頼むぜ」
    「どーんとお任せ!」
     武流と奏音は後ろから、攻撃してくる敵に向け雪を投げて牽制する。その隙に沙雪はシェルターに飛び込んだ。
    「よし確保だ! ここから攻めよう!」
     合図を送り、合流しようとする仲間の為、雪を投げつけた。

     守る赤軍もまた近づかせまいと激しい弾幕を張る。
    「普段から! 鍛えた! この! 反射神経をみろーーっ!」
     囮として八千華が飛び出すと、敵が姿を現して雪玉が襲いくる。それを避けると仲間が動き出す。
    「いくわよ!」
    「いざ合戦、3C桜組の力見せてやるよ!」
     会廻が声を掛け、陽哉が一番手となって一斉に敵に雪玉を放る。
    「るりか、行くぞ」
    「うん! て、関島さんの目が全然笑ってないよ……」
     るりかの前を行く峻は、食券の為に死力を尽くす覚悟だった。
    「やっぱ勝負事はいいよなぁ。食券が懸かってるとなりゃ、ますますやる気が出るってもんだ!」
     気合を入れ鴇臣は楽しそうに雪玉を手にした。
    「っていう感じだよ。ルールは分かった?」
    「ああ、まあやれば分かるだろ」
     ルール説明をしたギルドールが雪を投げて見せると、リアンも同じように試してみる。
    「思いっきりいくよ!」
    「援護しますわよ!」
     久良がダッシュで敵に向かうと、アウグスティアは狙いをつけて敵を牽制する。久良は至近距離から敵に放つ。
    「雪玉はじゃんじゃん作るッスから、どんどん投げて構わないッスよ!」
    「お手伝いしますね」
     水面と杏理は手を休めずに雪玉製造機で量産していく。
    「ボクサーの独壇場だぜ!」
     意中の娘にカッコいいところを見せようと、拳虎はフットワークで攻撃を避ける。
    「それでは行きましょう」
    「おうよ。胸の大きい女子から狙うぜ!」
     え? と目を丸くする弥太郎の隣から、鉄兵はダッシュで見つけた女子を狙いに行く。
    「ラグビーボール型を作ってみたよ」
     雪玉を作る鋼は加工してラグビーボールの形をしたものを作ってみせた。

    ●紫軍×青軍
     反対側では紫軍が動き出していた。
    「今年も勝利を目指してがんばりましょう!!」
    「「おおー!」」
     鞠藻の言葉に連覇を狙い気勢を上げる。雪原迷彩を着込んだ一団が動き出す。
    「さ、今年も勝利を奪いに行くよぉーっ」
    「行くぞ黒白! ディフェンダーがアップ!!」
    「自分思ったんッスけど、一撃リタイアの状況でディフェンダーも何もないッスよね?」
     雪玉を手に千巻はダッシュして敵陣を目指す。それを追うように祐一と雪玉を運ぶ迦楼羅が駆け、黒白が引きずられるように後に続く。
    「ほんなら援護したろかー」
     右九兵衛が牽制する事で迎撃の手を緩めさせる。
    「機動力のある低学年から狙うか」
     芥はキャリバーを盾に標的を狙う。
    「さて、では全力で差配を振るわせてもらうわね」
     逢紗が指揮を執り防衛ラインを構築する。
    「今年も優勝目指してがんばろーねっ!!」
    「今年もV2と行きましょう」
     結月と七波は気合を入れて近づく敵に雪玉を投げる。
    「ん、今回もしっかり優勝したいよね。頑張るよ」
    「射撃や投擲はちょっと自信があるよ」
     七葉と星流はシェルターに隠れ、敵が射程に入るのを待つ。
    「雪玉完成! いっぱいできたよ!」
    「じゃあお届けしてきてね」
    「気をつけて下さいね~」
     雪玉を作った紫、殊亜、馨麗は白く迷彩したキャリバーと霊犬の久遠と鳴滝さんに載せ前線へ運搬させる。
    「危ない!」
     颯が飛来する雪玉を見て、京夜を引っ張り寄せて身を守る。
    「ありがとう香坂ちゃん」
     京夜は笑顔で礼を言うと、雪玉作りを再開する。
    「ここは絶対守るよ」
     サーヴァントの綾姉さんと颯は仕掛けてきた相手に反撃を開始する。
    「さあ、いっちょがんばりますか!」
     大輔が飛び出そうとすると剛速球の雪玉が真横で弾けた。顔を青くして思わず回れ右して戻る。
    「何で私が……」
     雪だるまアーマーを装備した寧美が震える。黒白に着せるはずだったのにどうしてこうなったと重々しく前に進む。
    「でっかいのを作るぜ」
     朝は雪だるまを作る要領で大きな雪玉を作り始めた。

     青軍は迫る紫軍に向け弾幕を張り、迎撃体制を整える。
    「ふっ……俺の実力を見せてやる!」
    「まず一人……あ?」
     紙袋に前張りという全裸に近い猛々しい姿をした拓馬の後頭部に、八雲の雪玉が至近距離から命中する。それを皮切りにクラスメイトから集中砲火を浴びて雪だるまの如く埋もれた。
    「不謹慎な輩は片付けました、気を取り直して合戦と参りましょう」
     絶奈が近づく敵を迎撃に移動する。
    「了解した。攻撃を開始しよう」
     その後にイルマも続く。
    「さあ、雪玉はいくらでもあるから持って行って」
     樹が製造機を使って雪玉を山積みしていく。
    「……寒いのは、苦手なんだよ。いやマジで……」
     厚着した悠一がぶるっと震えながら玉を運ぶ。
    「あそこが怪しいかな」
     麗羽は敵が潜んでいそうな場所に向かって雪玉を投げて反応を見ていく。
    「ほらほら、どこ狙っているアルか? ワタシはここにいるアルよ~」
    「本陣に籠もってればいいって訳じゃない。攻めなくては勝てないからな」
     チャイナドレス姿の明が堂々と前に出て、飛んで来る玉を踊って避けながら進む。それをフォローするように九凰院紅が牽制して敵の動きを止めた。
    「なに、とりあえず全力で投げればいいのだろ?」
     鉄子は難しい事は考えず、大きな拓馬という名の雪玉を抱えて敵に突っ込む。
    「―――隙間を縫って、まず一人!」
     シジマが動き回り、仲間を狙う敵に雪玉を投げつける。
    「普段は部活の試合形式以外じゃ中々対決しないしな……面白ぇ、やってやんぜ!」
    「俺はフォワードで攻める。バックスは任せた」
     良輔と冬崖が前に出る。投げる球は回転が掛かって弾丸のように飛ぶ。
    「同じチームですね! がんばりましょう!」
    「後ろは任せて、きっちりフォローするわ」
     桜も続いて前に立ち、囮として敵の玉を避ける。櫂は攻撃をステップで回避しながら、大きな敵を狙う。
    「頃合か? 一気に行くぞ!」
     八雲は仲間に続いて全力で敵陣を襲撃する。

    ●四つ巴
     赤軍は緑軍の勢いに呑まれ、防衛線が崩れ始める。
    「ふふふ、よし――手加減はしないよ、杏理ィ」
     杏理を見つけた無常は悪い顔で追い込んでいく。
    「せ、先輩、目が怖いですよ!」
     脅えながら隠していた雪玉を投げる。無常はそれを避けニタリと笑う。
    「不意打ちとはいけない子だなァ」
     雪玉が杏理の顔を直撃した。
    「ほら、リアン。連携してどんどんいくよ!」
    「ああ、任せろ。しかし意外と面白いな」
     ギルドールと連携して、リアンは楽しそうに雪を投げる。
    「2人が来たよ!」
    「負けないからね!」
     カーティスと潤子が迎え撃つ。潤子の雪玉をギルドールは避ける。だがそこにカーティスの雪玉が飛んできて被弾する。それと同時にリアンの投げた雪がカーティスを倒した。
     動き回る潤子をリアンが追い、2人の雪玉は同時に当たった。
    「きゃー! 冷たいっ!! 腹チラな格好のままだから冷たいっ!」
     前線で動き回った八千華がとうとう当たり、冷たさに震える。
    「もう少しで……え?」
     攻撃に集中するあまり無防備になったアウグスティアが背後からの雪玉に被弾した。
    「9時の方向から来たぞ!」
    「了解!」
     峻とるりかは互いをフォローし迎撃していく。
    「こっちだ!」
     敵を発見した陽哉がシェルターに身を隠す。
    「両方で投げれるんだぜ!」
     鴇臣は右と左の手を使って2人分の働きを見せる。
    「絶対に勝つわよ!」
     仲間に活を入れながら会廻は雪玉を補充する、そこを狙われ雪玉が降り注ぐ。
    「うおー! させねぇ!」
     拳虎が庇って雪を受けた。同時に敵にも雪を投げつける。
    「道連れだ!」
     久良は被弾の瞬間、抱えた雪を放り投げ敵と一緒に倒れた。
     そこに背後から敵が押し寄せてくる。
    「回り込まれた?」
     会廻は振り返る、その敵は赤ではなく、青のゼッケンをしていた。

     紫軍は雪玉の補給ルートを確保し、火力による優位を得ていた。
    「見つけたのよ」
     匍匐前進する巫女は敵を発見し、雪玉を投げ頭部へ命中させた。
    「そろそろ慣れてきたし、ここからが本番だよ!」
     大輔も勇気を出してダンスするように身軽な動きで戦場を進む。
    「俺、カッコイイ! 全校のお姉さん達、この最高にカッコイイ俺を見て……!」
     バク転して雪玉を避けつつ、太一は自称カッコいいポーズで反撃する。
    「わ、太一くんあんなに前に……すごい! 僕も負けられないね! えいえいえいえいっ!」
     蒼月ががむしゃらに雪玉を投げつける。
    「天河さん、前はちゃんと見てねっ? 相良君に当たってしまうわよ」
     緋織が忠告しながらも雪玉を手渡す手は止めない。
    「あ、天河……今年はお前かー!?」
     宙でバランスを崩して落下する太一。そこへ集中砲火を受けて脱落する。
    「……あれ? なんか去年、こんなことがあったような……?」
    「……敵の注意を惹き付けてくれたのね。尊い犠牲を無駄にしないよう攻めましょう!」
     思い出そうと首を傾げる蒼月を急かすように、緋織が敵を指差し意識逸らした。
    「そんな、黒白! お前、俺の為に!!」
    「やっぱりこうなるッスかぁぁぁ!?」
    「その犠牲無駄にしないからねっ」
     祐一が黒白を盾として身を守っている間に、千巻が敵陣に突入して防衛線に穴を開けた。
    「見つけたよ! ってええ!? 何か多くない?」
     なのはが同じラグビー部の仲間を見つけて攻撃しようとすると、4人も居るのに気付く。
    「見つけたのはこっちだぜ!」
    「待て、あまり前に……」
     冬崖が止めるのも間に合わず良輔が突進する。そこを砲撃に晒され被弾した。
    「しまったぁぁぁああああ前に出過ぎてたあああああッ」
    「わっわっ……! 目がまわる……」
     四方から飛んでくる玉に桜も当たってしまう。
    「これ以上は無理かな?」
     櫂は避け続けるが、投げる雪を補充する暇も無く敵が迫るのを見て打つ手を無くす。
     前線の一角が崩れると、青軍は敵の侵入を許してしまう。
    「残念ダンスは終了アルね」
     明は降り注ぐ弾幕に避ける場所を失い雪まみれとなる。
    「ここまでか」
     シェルター越しに何人もの敵を倒した九凰院紅も、放物線状に落ちてきた雪玉に当たってしまう。
    「くっ!? やっぱり殺戮経路の予測が無いと回避は厳しいか」
     八雲もやられ、前線が決壊した。
    「ウォーーー!」
     同じく鉄子も倒れる。何故か肌色な格好で。安心な事に大事な部分は全て雪で覆い隠されていた。ついでに拓馬もその横に転がっていた。
    (「俺の扱い酷くないか……?」)
     どこかでそんな呟きが聴こえた気がした。
    「このままでは全滅だ」
    「一度後退して体勢を整えましょう」
     イルマが身を屈めて避けると、絶奈は残ったメンバーに指示を出し雪玉を抱えて移動を始める。
    「ここは俺に任せてぇな、はよ行きや!」
     その後ろを突かれないように、シジマが残って敵の動きを止める。
     向かった先は同じく壊滅の危機にあった赤軍の陣地だった。

    ●混戦
    「ウルスラァ!! 勝負だ!!」
    「望むところ! さあ皆さんご一緒に!」
     圭とウルスラが戦場で遭遇する。
    「「雪玉ファイトッ! レディィィ、ゴォーッ!」」
     2人は同時に叫び雪玉を投げ合い乱戦へと突入する。
     緑に攻められ壊滅状態の赤の陣地に、生き残った青、そして追い立てる紫が現われ、4つの勢力が乱立する戦場となる。
     どちらを向いても敵がという状態に、緑軍も被害が大きくなっていく。
    「あーやられた」
     最前線で投げ合っていた沙雪が被弾する。
    「ふぎゃ!」
     降り注ぐ雪玉に蜜蜂紅が被弾し、女性らしくない悲鳴を上げた。
    「右から来るぞ大和! エアン、お前なら雪玉を雪玉で相殺出来る!」
    「はいよー」
    「任せろ!」
     紅太の指示に従い大和が雪を投げ、エアンが飛来する雪玉に雪玉をぶつけて落とす。
    「えあんさん凄い……あっ雪玉をもっと作らなきゃ!」
     思わず戦いに見蕩れていた百花は手元に視線を戻して笹さんと雪玉を量産する。
    「ふふ、笹さんもあんなに頑張ってるんだからあたしも頑張らなくっちゃね」
     七はそんな様子を見て攻勢を強めた。
    「補給の間よろしく!」
    「リズムを合わせるのはダンスの基本。Take it easy♪」
     武流と奏音互いをフォローして隙をなくすように連携する。
    「お餅もだけど、あるなちゃんもおいしいそうだよね」
    「ボクは食べれないと思うよ?」
     ララとあるながそんな会話をしながら雪玉を投げていると、後方から雪玉が飛来し命中する。
    「背後から敵!」
    「まだまだ戦いはこれからだぜっ」
     晃と銀都が迫る敵を迎撃する。だが両面となった戦いにどんどんと消耗が大きくなっていった。
    「いたいた!」
     なのはが女子を執拗に狙う鉄兵を見つけて後ろから近づくと頭目掛けて雪を投げつけた。
    「いてっ……てっ」
     ヒットし動きが止まると、飛びかう玉が幾つも直撃した。やったと喜ぶなのはにも玉が当たる。
    「すみません。隙だらけだったもので」
     弥太郎が申し訳なさそうにラグビーボール型の玉を投げていた。
    「三角雪玉とか俵型雪玉とかも作ってみたよ!」
     鋼が楽しそうに玉の補給を持ってくる。

     激しい戦いにどの軍も脱落者が増えていく。
    「すんません! ココア下さい~! 2つ!」
     京夜は受け取ったココアを颯に渡す。
    「ちぇ……最後まで残りたかったなぁ」
     颯は悔しそうに呟いてココアに口をつけた。
    「運動して体は冷えていないけど、温かいものは嬉しいわね」
    「……さ、寒い。こんな中動き回るとか、無理だ」
     味方への補給時を狙われ被弾した樹も美味しそうにココアを飲み、隣で震える悠一はココアで暖を取る。
    「雪だるまアーマーの弱点は、攻撃できないことだ……」
     寧美はガチガチと震えながら持参したカレーを食べて熱補給を行う。
    「当たってしまったか」
     芥はフェイントを使って2人を撃破したところで狙撃を受けて脱落する。
    「いっきまっすよ~~~ぃ」
     腕をぶんぶんと振って投げた馨麗の玉は右九兵衛の顔を掠めて飛んでいく。
    「あぶなっ! 当たったら洒落ならへんで」
    「左側から敵が迂回して来ます、気をつけてください!」
    「了解したよ! 紫さん迎撃を始めるよ!」
    「殊亜くん、後ろは任せて!」
     雪を運ぶ鞠藻が敵を見つけ警告すると、キャリバーに乗って殊亜が勢いを使って遠投する。紫がその隙を埋めるように近くの敵を牽制し敵の足を止めた。
    「見つかったか」
    「押し通りましょう」
     イルマと絶奈は残り少なくなった雪玉を手に、決死の覚悟で突撃する。
    「そこら辺かな」
     麗羽が怪しそうな場所に威嚇で投げた玉が敵に当たる。
    「これだから乱戦は嫌いなのよ」
     被弾した巫女は雪を払って起き上がる。隠れる場所の少ない乱戦では動き続ける者が生き残っていく。
    「ははははっ、どうでゴザルか、ケイ。カップルに雪玉投げつけるよりスッキリするでゴザろう?」
    「ああ、全く楽しかったよ。……おめーと遊べてな!」
     ウルスラと圭の長い死闘は相打ちで終わり、2人は清々しい笑顔を見せ合った。

    ●決戦
    「うちで残ってるのはオラだけッスか?!」
     赤軍最後の一人の水面は3方から来る雪玉を必死で躱す。
    「無理ッス! これはどう考えても無理ッスよ!」
     だがその奮戦も虚しく投げる雪も失い、最後の時を迎えた。
    「時間は掛かったがこれでどうだ!」
     大きな雪玉を転がして朝が突っ込み、水面が潰される。直後に朝は側面を突かれ倒れたが、勢いの付いた雪玉は転がっていく。
     それを機に残った3勢力が一気に動き出す。
    「勝負はノーサイドまで分からん!」
     青軍の冬崖はそのタフさと仲間のフォローによって生き残っていた。雪玉を拾い上げて道を切り開こうと突っ込む。
    「ものども続けー!」
     緑軍は七を先頭に紫軍に対して最後の決戦を挑む。
    「これで最後だ、残った玉を全部使うぜ」
    「勝ち残ろうね!」
     武流と奏音が全力で駆け出す。
    「全力を振り絞っていくぜ!」
     銀都が防御も考えずに思い切り全力投球した。
     紫軍も総力をもって迎え撃つ。
    「結月、七葉、あそこに集中砲火。一気に切り崩すわ」
    「りょーかいなのっ!」
    「狙い打ち……当たったよ」
     逢紗が示す敵の勢いのある点へ、結月と七葉が攻撃を集中する。
    「親分危ない!」
     反撃に飛んで来た雪玉から七波が身を挺して逢紗を庇う。星流が投げてきた銀都を狙撃する。
    「排除したよ」
    「このまま一気に攻め落とすわ」
     ここが最後の正念場と逢紗も前に出て戦う。
    「信じてるぜ! 紫軍、ファイトー!!」
     場外からは千巻の応援する声が届く。それぞれの軍の仲間達も熱い声援を飛ばしていた。
    「流石にもうこっそりできんから、ここからは正々堂々……なんて事にはならんで、クカカカ!」
     右九兵衛は仲間の後ろから山なりに投げて援護する。
     冬崖が獅子奮迅の勢いで斬り込み。七は仲間が倒れながらも足を止めない。そして逢紗も倒れ最後に残ったのは――。

    ●勝者
    『勝者は紫軍です! おめでとうございます! それでは引き続きイベントを楽しみましょう。メリークリスマス!』
    「「メリークリスマス!」」
     姫子の言葉に、勝ったチームの面々は食券ゲットだと拳を上げて喜ぶ。最後に残ったのは結月。ナノナノが最後の一撃を庇っていた。チームの仲間が肩を叩き抱きつく。
     メリークリスマスと、勝ち負け関係なく皆でココアを手に健闘を称え合う。
    「ふ~。身にしみる美味しさだね」
     蜜蜂紅は美味しそうにココアを飲む。
     麗羽はココアを配っていく。膝を突く峻をるりかがココアを持って励ます。
    「可愛い後輩に思い切り当てるなんて!」
    「ごめんごめん」
     拗ねた顔の杏理に、無常は軽く謝りながらココアを渡す。甘く温かな湯気が表情を緩ませていく。
    「ね、もしそっちがよかったら記念に合同写真撮らない?!」
     八千華が声を掛けると俺も私もと次々に人が集まってくる。
     はい、チーズと集合写真が撮られ、楽しいクリスマスのイベントはまだまだ続く。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月24日
    難度:簡単
    参加:72人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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