クリスマス2013~ヤドリギの下でキスを

    作者:立川司郎

     白い雪がちらつく季節。
     武蔵坂学園も、クリスマスの準備をする賑やかな声で溢れていた。日が暮れた学園内を歩くクロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)の視界に、ちらりと光が入る。
     ゆらり、と揺れる灯は提灯のようだ。
     白い提灯に、相良の家紋。
     めずらしく相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)は、白い地味な羽織を着て手に提灯を提げていた。彼女の視線は、じっともみの木に注がれている。
     ようやくクロムは、彼女の前に大きなもみの木が置かれている事に気付いたのである。のんびりと見上げ、感嘆の声をあげる。
    「これは大きいね」
    「そうだろう?」
     ふ、と隼人は笑って振り返った。
     何だか、もみの木を見上げる隼人はとても楽しそうで、とても羨ましそうで、少し寂しそうだった。
     クロムはそんな隼人に気付き、ひょいと顔を覗き込んだ。
     じっと目を見つめるクロムの視線を、隼人は外さない。
    「何だ、お前も人恋しい時期か?」
    「俺はいつでも人恋しい時期だ」
    「心寂しいやつだな」
    「心豊かなやつだと言えよ」
     そう言い返し、クロムは大きく笑った。
     西洋では年末よりもむしろクリスマスの方がメインで、クロムも心が躍るようだ。隼人としても、何かクリスマスらしい事がしてみたいのだと言う。
     隼人の家は、男所帯である。
    「うちにはクリスマスが無くてな。……男所帯だったからな、そういう可愛らしい風習とは無縁だった。父ちゃんは『サンタさんに要りませんって言っておいた』と毎年言ってたな」
     だけど、こんな話を聞くとちょっとだけそわそわする。
    「どんな話?」
     クロムが聞くと、隼人はもみの木を差した。
    「クリスマスのリースに使うヤドリギってあるだろう?」
    「ああ、知ってる」
     くすりと笑ったクロムの様子では、やはり有名なのだろう。
     ヤドリギの下にいる女の子には、キスをしてもいいのだ。クロムは隼人がその話しをするのを、じっと聞いていた。
     もしかするとクロムは識っていたかもしれないし、識らなかったかもしれない。
    「mistletoe。北欧神話で、光の神を殺す矢となった木だ。しかし西欧では解毒薬であったり幸運とされていたり、重要な役目を持つ」
    「ヤドリギの持つ力が、二人を幸せにしてくれる。そう信じられているのさ」
     クロムが答えると、隼人は頷いた。
     だから、たまにはこんなのもいいんじゃないかと思ったのだ。
    「せっかくだから、大きなリースを作った来ようと思う。ここで出会った人が、幸せになれるように……な」
    「隼人も待つのか?」
    「俺が? ……ふふ、俺にキスしてほしければ手土産の一つでも持って来い」
     曖昧に濁し、隼人はゆるりと歩き出した。

     クリスマスの日、ここには大きなツリーが立つ。そこには、大きな白いヤドリギの飾りが下がっているという。
     ヤドリギのリースが掛かったツリーの下で待つ女の子にはキスをしてもいい。
     ただ一つだけ、贈り物をしたなら。


    ■リプレイ

    ●あふれる想い
     触れた心の温もり。
     伝えたい心を、今日あなたに。

     ツリーを見上げる雪花は、どこか懐かしそうにしていた。
     様々な恋人達が待ち合わせをするこのツリーの下、佇む雪花にクロムが近づく。
    「クリスマスはカップルだけのものではありませんのよ」
    「そういうお前は?」
     クロムが聞くと、くすりと雪花は笑いクロムの頬にキスをした。
     ひとりの方にキスのプレゼントをする為ですわ。

     ツリーの下に立つ華月も、駆け寄ってきた雷歌もそわそわとした様子。
     雷歌が差しだした小さな包みを、華月は嬉しそうに笑って受け取った。
     ヤドリギのしきたりを思いだし、華月は緊張した様子で佇む。
     約束、守らなきゃ…。
     そう思った華月に、雷歌の顔がそっと寄せられ額がふれあう。
     雷歌の額も、緊張の為か熱い。
     -全部女子からやらせる訳にいかねぇだろうが-
     意を決した雷歌の緊張は、華月からの不意打ちの口づけでかき消された。

     いつものジャケットに赤いマフラーを巻き、アインは梗香を待つ。
     待った? と聞く梗香にアインはいつもの表情で大丈夫と答えた。手渡された小さな包みを、梗香は嬉しそうに見つめる。
     アインはそれを見届けると、無言で背を向けた。
     その腕を梗香が引き寄せ、顔を近づける。
     突然の贈り物に、アインは驚いたような顔をしていた。
    「ねえアイン、まだ時間ある?」
    「あ、ああ…構わん。時間はいくらでも、ある」
     アインはそう答えると、梗香の手を取った。

     緊張の余り上手く話せない京。
    「メリー、ク、クリス…マス…」
     贈り物を受け取り、千草はぎゅっと抱きしめた。
    「本当はケイに全てを激しく捧げたいのですが」
     そういうと、背伸びをしてそっとキス。
     益々慌てる京。
    「いやまあ僕はうれしいし期待もしたけど…あっ」
    「そういう可愛い反応をするから、つい虐めたくなっちゃうのよね」
     千草はくすりと笑う。
    「あなたを愛しています。どうかこれからも私を愛してください」
     こっちこそよろしくね、と京が答えた。

     肌寒い風吹く中、空の事を考え灯倭は待つ。
     待たせてごめんと言う空も、吐息は白い。
    「空くんも寒くなかった?」
     自分のマフラーを掛けてあげながら、灯倭は笑みを返す。
    「お陰で俺も暖かいさね。そんじゃ、俺からもこれを」
     贈り物を手渡され、灯倭は大切に受け取る。
     目を閉じてもらうと、背伸びをして優しくキス。
    「えへへ…何かちょっとはずかしいね」
    「照れくさいけど、その、何ていうか、ありがとうな」
     空も照れくさそうに、頭をぽんぽんと撫でてくれた。

     ようやくマッキの姿が見えると、優希那は嬉しそうに手を振った。
    「マッキ様、メリークリスマスですよ!」
     笑顔の優希那に、マッキから花束に似せたマカロンの贈り物。
     可愛い花束に、優希那も嬉しそう。
    「あ、ありがとうございますですよっ!」
     受け取り、優希那は周囲を見まわす。
     お互い緊張しっぱなしで、優希那は顔を赤くして背伸びをした。
     マッキのほっぺに、精一杯のキスを。
    「お返し」
     そっとマッキは、優希那の手の甲にキス。

     芥汰の姿を見つけ、転がるように飛び込んだ夜深。
    「我、良イ子、待機、でシた!」
     嬉しそうな夜深の頭を芥汰が撫でる。
     贈り物の花籠を抱くと、芥汰は言われるまま屈む。
     背伸びしてマスク越しに触れるようなキス。
     俺になんて勿体なかったかもよ、と芥汰が呟くと夜深は首を振った。
    「ヤドリギの、話。本当ネ?」
     幸せだという深夜に、芥汰はマスクを少しずらして夜深の髪に唇をあてる。
     ほんのり桃色に染まった頬で、夜深は芥汰に抱きついた。

     いつもより真剣な表情で、名草は優衣の元にやってきた。
     ちゃんと言おうと決心した名草。
    「優衣ちゃん、好きです」
     何時の間にか君は、僕の帰りたい日常になっていた。
     名草の告白に、優衣は顔を上げて微笑んだ。
    「わたしも、好きです。わたしの料理を美味しそうに食べてくれる、あなたが大好きです」
     名草は、一緒に育てていきたいとケイトウの花の種の入った瓶を手渡す。
     誓いはヤドリギのリースの下の、名草からのキス。

     来る筈の人物が来ず、ようやく塞とあんずは事態を把握した。
     周囲は喧嘩が出来る雰囲気では無く。
    「あの黒服…。ま、まぁせっかくのクリスマスだしな。ほらよ」
     と押しつけるように塞はプレゼントをあんずに渡した。
    「えっと、つまり…どういう事なの?!」
     文句を言いつつ、あんずが受け取る。
     だが、周囲を見る限りキスをせねばならない様子。
     赤面しつつ塞はあんずの額にキス、強引にあんずの手を掴んだ。
    「…そういう事だから、行くぞ」
    「あ、えっと…はい」
     突然のキスですっかりしおらしくなり、真っ赤な顔であんずは俯いた。

     遅いです、なんて拗ねてみせたのに一狼太はどこか嬉しそう。
     やっぱり文子は可愛いと思っていた事は口に出さず。
    「メリークリスマス」
     一狼太は、用意していたマフラーをそっと文子に巻いてあげた。
     目を細めて、文子はマフラーに触れる。
    「…ん、それじゃ帰りましょ」
     くるりと背を向けると、一狼太は肩を落とした。
     足を踏み出した一狼太に、振り返って文子が不意打ちのキス。
     唇の横に、触れるように。
     悪戯っぽく笑う文子の頬が、少しだけ赤い。

     柊を飾った小箱に入っているのは、ハナ手作りクッキーだと言う。
    「はじめて誰かに渡すクッキーなの」
     ハナは料理が苦手と聞いていたので、樒深は大切に受け取った。
     贈り物はもう一つ。
    「ね、目を閉じて?」
     言われるままに閉じると、耳元で『好き』と言葉が。
     そして触れた温もりで、樒深の頬は紅潮していた。
    「…ちょっと、今見ないで、ホント」
     恥ずかしがる樒深の表情も、ハナは見逃したりしたくないのだ。

     カップルだらけのツリーの下、居心地悪い思いをしながら十夜は戻って来た。
    「ほら、これ。メリークリスマス。あとこいつはおまけな」
     プレゼントの入った袋と、缶の紅茶を手渡す。
     暖かい缶を両手に包み、そして伏せた目を上げる六花。
    「とーや、目ぇ瞑れ!」
     言われるまま瞑った十夜の頬に、柔らかい感触。
     目を開けると、六花は既に背を向けていた。
     首をかしげる十夜に、六花はヤドリギについて話始めた。

     独り身同士、とエウロペアはお出かけの誘いを楽しげに受けた。
    「む?プレゼントかえ」
     ターコイズに金の星を散らした細工のストールが、エウロペアに掛けられる。
    「ヤドリギの下に居る女の子には、キスしてもいいんだと」
    「ああ知っておるぞ。しかしそれはプレゼントを貰った時の話で」
     と言いかけ、ようやく気付いた。
     式夜から、触れるようにキス。
    「よーし、どこかで暖まっていくか」
     驚いた顔のエウロペアに、式夜がいつもの笑顔で言った。

     選んだのは、先輩の好きな海外ブランドの万年筆。
     上部が、英国の円柱型ポストになっている、限定品である。
    「では、これを」
     ヨゼフからの贈り物を受け取るあげは。
     その腕時計の文字盤に刻まれた言葉の意味、また年端もいかない君には分からないかもしれない。
    「一緒に年を重ねていこう」
     私達は、互いの手を取る事だけで幸せになれるんだ。
     ヨゼフが手を取ると、あげはが身を寄せて二人で口付けを交わした。
     年の差を感じていたあげはの心に、ヨゼフの言葉が染み渡る。

     白い息を吐いて待っていた鋼を、鷹秋は包む込むように抱きしめた。
     風は冷たいけれど、待っていた鋼はドキドキワクワクした時間。
    「これを渡しゃ、キスしていいんだったな」
     小さな包みを鋼のコートに入れると、少し屈んで優しくキスをした。
     鋼は目を伏せ、じっと鷹秋に身を任せる。
     言い伝えの効果、覿面ってやつか。
     そう囁くように言うと、今度は熱いキスを交わす。
    「メリークリスマス、鷹秋。この一年、本当に楽しく幸せだったよ」
     次の一年も変わらず、と鋼が言葉を返した。

     初めてのデート、司は赤のコートに白いマフラーを巻いて宥氣を待つ。
     ヤドリギの下、沢山の恋人達が待ち合わせ去って行き…。
    「だれーだ?」
     後ろから目隠しをされ、司が驚いて振り返る。
     待ち人に笑顔を向けると、宥氣は贈り物の小箱を差しだした。
    「メリークリスマス」
     司は大切に受け取り、そっと目を伏せる。
     きょとんとしていた宥氣も、すぐに察して唇を寄せた。
    「ゆうちゃん!好き!」
     胸一杯の想いを込めて、司が抱きついた。

    ●それは誓い
     ヤドリギが、勇気をくれますように。
     貴方に伝えたい、この言葉と心に。

     ツリーを見上げていた隼人を見つけ、通が近づいてきた。
    「こんな所にいたのか」
     何げなく、通はこの間の金比羅さんの帰りに地元に寄った話をする。
     中身は、有松絞りの手ぬぐい。
    「ところで、これは何の集まりなんだ」
    「…ハハ、お前さんにはまだ早ェのかね?」
     隼人は豪快に笑うと、通の手の甲のキスをした。
     ツリーの下だからな、とそう言いながら。

     初めて過ごすクリスマス、葛は先にツリーの下で待つ。
     小走りで駆けてくる彼女を見て、葛はほっと笑う。
     今日も茜は可愛い。
    「待ちました?」
    「今来たところ」
     そう答えると、茜は葛にカードを差し出した。
     感謝を込めて、手作りのメッセージカードを。
     大切に仕舞った後、葛は茜の頬を手で包んでじっと見つめた。
    「…あの、さ。俺、茜のこと、大好き、だ」
     そっと触れた唇が鼻先に…そしてもう一つ、唇に。
     茜も葛さんの事、大好きです。

     愛はそわそわとヤドリギの下を行き来。
    「あたしは…」
     千歳と一緒になる資格とか、自分は幸せになっていいのだろうか、と色々考え不安。
     現れた千歳は、グレーのジャケットを着こなし、真剣な表情で愛の前に立った。
    「もう、笑顔で壁を作るのは、やめる」
     僕の事を、愛ちゃんは受け入れてくれる?
     と、差しだされた小さなブーケ。
     愛は受け取り、目を細めた。
     迷った末、愛は勇気を出して唇にキス。
     しっかりとその愛の体を、千歳が抱きしめる。

     ツリーで嬉しそうに手を振るシェリーを見つけ、七狼はほっと表情を和らげた。
    「今晩は、俺ノお姫様」
     そう差しだしたのは、綺麗な薔薇の花束。
     七本の赤と三本の白が意味するものに思いを馳せ、シェリーは胸が一杯になった。
    「シェリー、君をアイシテイル。俺ノ…花嫁にナって下さい」
     七狼とシェリーの、未来の予行演習。だけどこの気持ちは真剣。
     シェリーは思わず、七狼に抱きついた。
    「有り難う、わたしも…」
     愛してる、とシェリーは七浪にキスをした。

     待ち合わせをする女の子の中、桔平は花梨菜を見つけて駆け寄る。
     ドキドキして待つ花梨菜は、少し紅潮していた。
    「左手、出して?」
     手を差しだした花梨菜の指に、桔平からの贈り物が輝く。
     薬指には、小さなルビーがついた指輪が光る。
    「もう、花梨菜ちゃんのクスリユビ、予約しちゃって…いい?」
    「…ありがとうございます」
     胸が一杯で、涙が零れる花梨菜。
    「わたしこそ、よろしくお願いします」
     ようやく言葉を返すと、桔平の唇にそっとキスをした。

     ヤドリギのリースを見上げる桜子。
     見つけた深玖は寒くなかったかと頬に手をやると、少し冷たくなっていた。
    「待っていてくれてありがとう。俺のお嬢さん?」
     そう言って深玖は、白と赤ポインセチアの花束を渡した。
     可愛らしい花束のお礼をしばし考え、桜子は屈んでもらった深玖の頬にキスを返した。
    「ありがとう」
     素敵な贈り物に感謝を。
     だけど、お返しはまた今度と深玖。
    「夜月様のことなら、いくらだって待てるのです」
     そう笑った彼女は、より一層愛らしかった。

     後ろから抱きすくめられ、驚かせる藍の声も温もりも華凜にはすぐに判る。
    「もう、藍君ったら」
     拗ねたように言う華凜に、藍が小箱を差しだす。
     いつかの婚約指輪の代わりに、鍵を模った銀のモチーフリング。
    「はめて…くれますか?」
     華凜の願いに応え、指に指輪をはめる藍。
     贈り物に想いがこみ上げ、華凜は唇にキスを贈る。
     頬にと思った突然のキスに、藍が驚く。
    「…ずるいです、それ」
     触れた部分の熱は、暫く忘れられそうに無い。

     現れた神流は、いつもと少し違う気がした。
     ヤドリギのジンクスを気にしていた霧。
    「改めてこういうプレゼントっていうのも恥ずかしいんだけど」
     そう言って、真紅のプリザーブドローズをくれた神流。
     まるで、どこかに行ってしまうようで。
     どうしようもない不安にかられ、霧は贈り物のマフラーを掛けると引き寄せるようにしてキスをした。
    「たまには僕からも…」
     頬を赤くする霧を、神流は抱き寄せる。
    「来年も一緒に居られたら良いね」
     囁く言葉を、心に留める。

     菜々が来て、間を置かずに式がやってきた。
     いつものジャージではなく、黒地のワンピースを着た今日の菜々は華やかである。
    「菜々をどれだけ傷つけたか分かってる」
     けど、自分の気持ちに嘘はつけないと式は告げる。
     じっと黙っている菜々の左手をとると、式は薬指に指輪を通した。
    「いつか、胸を張って君の隣に居られるようになるまで」
     式の言葉を聞くと、菜々は背伸びをして式にキスをした。
    「このまま放したくないっす」
     抱きついた式の温もり。

     春陽と七海の頭上にも、小雪がちらついてきた。
    『春陽の好きな人って、どんな人?』
     七海が筆談で、春陽に聞く。
    「月人さんは目つきも口も悪いし、機嫌悪い時なんかチンピラ全開だけど…でも、優しくて頼りになる人よ」
    「おい、あること無いこと吹き込んでんじゃねーよ」
     突然背後の月人に気付き、二人は驚いて振り返る。
     どうやら刻も到着しているようだ。
     どっちが先に来たのか分からずじまいだけど、七海と春陽は見合ってくすりと笑った。
    「『お幸せに』」
     二人で言い合う。
     贈り物のお礼に、春陽は月人に軽くキス。
    「あとでまた沢山するから、ね」
     そう笑うと、月人の手を引いた。
     二人を見送り、刻はイヤリングの贈り物を七海に渡す。
     ふと感慨深げに雪を見上げた刻は、七海の微笑に気付き向き直った。
    『大好き』
     触れた唇から、テレパスで伝わる言葉。
     刻が思っていたよりずっと暖かくて、温かいキスだった。

     マハルからくるみへのプレゼントは、ナノナノのクルルン用のリボンだった。
     クルルンを大切にしているくるみだから。
    「じゃあ、お返しのキスはクルルンがした方がいいかな?」
     そう言い、困った様子のマハルに冗談だとくるみが笑う。
     二人の心にあるのは、去年の聖夜の事。
    「1年前よりもっと好きだよ」
     そして来年は、もっと好きになってる。
    「ボクも大好きだよ。今までも…これからも」
     マハルが抱き寄せると、くるみも身を寄せ目を伏せた。

    ●貴方だけの贈り物
     貴方に選んだ贈り物、貴方を想って選んだ贈り物。
     今日この日、ヤドリギの見守るツリーの下で渡そう。

     フレアスカートにリボンの付きのパンプス、ツリーの下に佇む鈴音は今日も愛らしく。
    「年中着流しのあっしとは大違いでさァ」
    「娑婆蔵は娑婆蔵らしくていいじゃない」
     そう、鈴音が答える。
     娑婆蔵からの贈り物は、金と銀の双子鈴を結わえた、ギヤマンの簪。
    「鈴音、と名前を思って選びやした
     はにかんだように笑い、鈴音は頬に…。
     と、少し回り込んで唇に浅くキスをした。
    「メリークリスマスッ。この後もよろしくね」
     驚いた娑婆蔵を見て、火照った顔で彼女は笑う。

     待つ時間すら、愛おしく感じる。
     紫桜の姿を見つけると、柚姫は柔らかに微笑んだ。紫桜から柚姫へのプレゼントは、桜と雪をモチーフにしたイヤリングである。
     柚姫の髪色によく映えるに違いない。
    「いつも私の傍に居て、想ってくれてありがとうございます」
    「俺の方こそありがとうだよ」
     互いに、傍に居られる事が幸せだとかみ締める。
     少し屈んで貰うと、柚姫は紫桜の頬にそっとキスをした。
     大好きです、と囁くようにして伝えて。

     待ち合わせよりも一時間も早く来て、そわそわと待ち続けた都璃。
     ようやく来た慶を、都璃は一瞬嬉しそうに見返し…それからつんと視線を反らした。
    「私も今来た所だ」
     そんな都璃を、愛おしそうに見ている慶。
     愛しの都璃へと、貰ってくれるよねと念を押すように手渡す。それは、君の瞳に似た緑石のピンキーリング。
     指にはめて、都璃は嬉しそうに目を細めた。
     贈り物のお礼は…。
     そわそわしながら、都璃はやがて強引に襟元を引き寄せて口づけ。
    「メリークリスマス、慶」

     贈り物の手編みのマフラーを抱え、舞は携帯を取り出していた。
     そろそろ来る頃なんだけど、と不安に思う舞。
    「あとどれ位かかりそう?」
     携帯に出たアモウに話ながら、舞は肩を叩かれ振り返る。
     待ち人はすぐ傍に。
     そして突然のキスに、舞の顔が火照る。

     周囲の恋人達を見て、何となく察したロン。
    「はは~ん、そういう事ネ」
     やってきた丞に素知らぬ顔をするロン。
     待たせたことを謝り、贈り物を差しだした。
    「メリークリスマス、ミオ」
     悪戯心で惚け予定だったけれど、紅玉のイヤリングを見て驚くミオ。
    「ミオに似合うだろうと思ってな」
     そう言って丞はミオにつけてくれた。
     じんと胸に熱い思いがこみ上げるミオ。
    「タスク、ウォー・アイ・ニィっ!」
     唇を捧げたミオの目には、うっすら涙が浮かんでいた。

     家は同じでも、待ち合わせは別々。
     おめかしして九鳥は木鳥を待つ。
    「きーくん、こっち!」
    「おまたせ」
     頭の雪をそっと払い、木鳥は九鳥の頭にセージを飾った。
    「夕飯用じゃないよ」
    「…御守りかな?」
     首をかしげる九鳥に、照れたように木鳥は視線を反らす。
     ありがとね、と九鳥は答えて頬にキスをした。照れ隠しに歩き出す木鳥と手を繋ぎ、九鳥はその背を見上げる。
     何時の間にか、小さかったその背は伸びて見上げている。

     ユエファからアルヴァレスへの贈り物は赤い小箱だった。
    「開けてもいいですか?」
     ドキドキしながアルヴァが開けると、中には見覚えのある鍵が。
    「居候さんなんて言うする…けれど、もう家族みたいな感じ…だし」
     いつでも帰って来られる御守り。
     彼女の気持ちが本当に嬉しくて、アルヴァは狼狽した。
     それから片膝を付き、騎士のようにユエファの手の甲にキス。
    「愛してます、心の底から」
     彼の気持ちに応え、ユエファは額にキスをした。

     急く気を押さえてヤドリギの下に向かうと、奏は嬉しそうに駆け寄ってきた。
    「レインさん、大丈夫です?寒くないですか?」
     ぎゅっと奏が抱きつくと、ほんのり暖かい。
     レインは奏に、小さな白い箱を送った。
     星空モチーフのブレスレット。
     ワンポイントに、アベリアの花がついていた。
    「素敵です」
     レインに付けてもらうと、目を細めて見つめた。
     でもお礼のキスは、少し恥ずかしいから帰ってから。
     そう言うと、奏はレインの額にキスをした。

     ツリーの下には蒼埜の笑顔が待っている。
    「やあ、蒼埜。待っていてくれたね」
    「待ってたよ。楽しみだったから」
     そう言った蒼埜に、オリヴィアはブリザーブドフラワーの花束を差しだす。
     青薔薇とマーガレット、そしてスターチスを纏めた花束にはオリヴィアの思いが込められていた。恭しく差しだされた花束を受け取り、蒼埜は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
    「しなきゃ駄目…かな」
     そう聞き、そっと頬にキス。
     蒼埜の手を取り、オリヴィアはエスコートをする。

     由燠の姿が見えると、瑠璃羽は嬉しくて駆け寄り抱きついた。
     しっかりと受け止めてくれた由燠に、瑠璃羽は彼の大好きなチョコのお菓子をプレゼントする。
     メリークリスマス、そして…。
    「あのね…大好きだよ」
     ふわり、と微かに唇が触れる。
    「今のじゃ分かんない、もいっかいして」
     意地悪そうに笑う由燠に、精一杯頑張った瑠璃羽は困ったような顔。
     だけどゆっくり唇を近づけ、由燠にキスを。
    「俺も好きだよ」
     瑠璃羽の笑顔を思い、由燠はキスに応える。

     駆けてくる実の華やかなミニスカートが風に揺れる。
    「遅くなりました、ごめんなさい」
     息を整え、実はアルレットに鉢植えを渡す。
    「お、ポインセチア?」
    「私と一緒に育てませんか?」
     花言葉は、私の心は燃えています。
     アルルはそれを聞き、優しく実を抱き寄せた。
    「Merci Cherie…」
    「アルルくん…大好きです」
     実が唇を合わせると、アルルも情熱的に応えた。
     来年、この花が美しく咲きますように。

     赤いミニのシフォンドレスが、由良によく似合っていた。
     現れた由良の華やかな出で立ちに、空哉も目を奪われていた。
    「帰ってから開けてくださいましね?」
     と手渡された包みは、ほんのり甘い香りがする。
     ツリーの下での待ち合わせ、でも由良はどこかそわそわして移動を促す。
    「そう焦るなって。もうちょいゆっくりしていこうぜ」
     そう言うと、空哉は由良を強引に抱き寄せた。
     由良に対する、ささやかな仕返し…いや、お返し?


    ●送り合う心
     貴方からわたしへ、わたしから貴方へと。
     二人で送り合うと、幸せも気持ちもまた増えていくから。

     予定より少し早めに付き、水姫は落ち着かない気持ち。
     緊張の色が解けたのは、宿名の姿が見えたから。冷たくなった水姫の頬に宿名の手が当てられると、また少し緊張。
    「大丈夫」
     水姫はそう答え、贈り物として灰色のマフラーを。
     宿名からは雪の結晶のヘアピンをもらい、髪につけてもらった水姫は少し恥ずかしそうに視線を泳がせる。
    「うん、綺麗やなぁ…やっぱり」
     銀色の髪に雪が光り、水姫に宿名がキスをする。
     恥ずかしさを隠すように、水姫は宿名に寄り添った。

     時兎がくれた兎柄の手袋は、ポケットと手の温もりが伝わった。
     瑠璃からは、漆黒の地に純白の彼岸花の筝爪入れ。
     お礼に時兎が手の甲のキスをした。
    「時兎さん、瑠璃も…時兎、と呼んで良いかしら?」
     そして、出来れば友達になりたい。
    「好きなように呼んだらいーよ。友達は…」
     少し首をかしげて考え、時兎がこくりと頷いた。
     瑠璃なら、いーかな。
     その答えに、瑠璃が微笑んだ。
    「メリークリスマス、瑠璃」
     今日はどこに行こうか?

     いつも沢山キスしている音音は、今度は空音からと聞いてツリーへと急ぐ。大好きな空音へ、音音はハートのチャームが付いたネックレスを差しだした。
    「ネオンとおそろいなんだよ~」
     一緒にお出かけする時、付けようね。
     そう嬉しそうに笑う音音に、空音も思わず微笑み。
    「ありがとう姉さん、大切にするから」
     そう言い、音音にキス。
     そして、空音からのプレゼントはケーキ。今度は音音からキスを貰い、空音は顔を赤くして俯いた。
     メリークリスマス、姉さん。

     ツリーを見上げるクリスを遠目に見つけ、桃夜は駆け寄る。
    「クリス、お待たせ」
     桃夜はそう話ながらプレゼントを手渡す。
     クリスが開けると、中から真っ白の手袋が出てきた。
    「ありがとう…大切にするね」
     嬉しそうに抱えるクリスを見つめる桃夜に、クリスは唇を寄せた。
     頬に触れたクリスの唇。
     彼からの贈り物は、キスだけじゃないようだ。
    「プレデルだよ。フランスのクリスマス菓子なんだ」
     ラッピング袋を手渡され、桃夜からもお返しにキス。

     ツリーの下で、プレゼントを抱えて待つみとわ。
     頼人はお待たせと言った後、しばし見つめる。
    「メリークリスマス、頼人」
     そう笑ったみとわがいつも以上に可愛くて、頼人は思わず『みとわ…だよな?』とそう聞き返した。
     もちろん、此処に居るのはみとわ以外の誰でもない。
     頼人がそうして見ているのはみとわだけだから、優しく抱きしめてキスを送る。
     みとわの胸の鼓動も、頼人に伝わっただろうか。
     ずっと傍に居たいとみとわは願い、ずっとこうしていたいと頼人は思う。

     サンタ風のワンピースを着て、雛はドキドキしながら夕陽を待つ。
     胸には、プレゼントのマフラーが抱えられている。
    「あぅ…せんぱい見つけてくれるかなぁ」
    「ひいな、発見!」
     不安にかられる雛の背後から、突然夕陽が抱きついた。
     ビックリして悲鳴を上げた雛の手に、薔薇と葉のクリスマスカラーの花束が。
    「あのね、花束キレイ。すごく嬉しいです」
     笑顔で雛は言うと、背伸びをして夕陽の頬にキスをした。

     待ち合わせの恋人達があらかた思い思いに消えた後。
     ツリーを去ろうとしていた隼人の所に、多岐がやってきた。
    「へぇ、結構器用」
     そう呟き、ひょいとプレゼントを手渡した。
     どうやら、ブッシュドノエルらしい。
    「ヤドリギの下で…」
    「冗談だって、そういうこと誰にでもするもんじゃねぇぞ」
     その代わり、暇なら付き合え。
     そう言うと多岐は、クリスマスの学園を歩き出した。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月24日
    難度:簡単
    参加:91人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 21/キャラが大事にされていた 4
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