クリスマス2013~お菓子なリースを聖夜に添えて

    作者:春風わかな

     街がクリスマスに彩られる頃、武蔵坂学園の伝説の樹も赤や黄色の電飾を施され巨大なクリスマスツリーへと姿を変える。
    「うわぁ~、大きいねぇ~」
     初めて見る巨大なツリーを見上げ、目を丸くする星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)もまた、クリスマスを楽しみにしている1人だった。
     クリスマスを控えて盛り上がる校内を歩く夢羽の足取りもまた自然と軽くなる。
     その時、ふと夢羽の視線がとある扉の前で止まった。
     松ぼっくりや鈴のついたリボンで彩られたクリスマス・リース。
    (「――おかしでリースが作れたら、いいのに」)
     オシャレなリースには憧れるが、食べられるお菓子のリースの方が嬉しいのが本音。
     せっかくのクリスマス。
     みんなで一緒にお菓子でリースを作って、時間があるなら出来立てを食べるのもいい。
    (「ユメ、なんだかすごくいいことおもいついた気がする!」)
     夢羽はお菓子のリースを実現させるため、急いで協力してくれそうな人物を探しに行くのだった。

    「クリスマス・リース、作るけど、来る?」
     久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)からの突然声をかけられ、何かと思いつつも生徒たちが足を止める。
    「あのね、ドーナツでリース作るの! それでね、かんせいしたら、みんなでいっしょにたべよう♪」
     來未の隣で夢羽が身振り手振りを交えながら一生懸命に説明を始めた。
     夢羽の説明を纏めるとこうだ。

     1、最初にリースの土台となるドーナツを作る。
      ドーナツ生地の材料を混ぜた後は好きな形を作って油で揚げればよい。
      フワフワだったりサクサクだったり。チョコレートや苺味の生地を作るのも自由。
      シンプルに丸い形に型抜くだけでなく、ねじったり編み込んだり。
      形も星型やハート形にしても可愛いかもしれない。

     2、ドーナツが出来上がったらデコレーションをする。
      粉砂糖やチョコレートをかけるだけでなく。
      アイシングで模様を書いたり、ナッツやアーモンドを飾ったり。
      そのデコレーションは無限に広がる。
      チョコペンでメッセージを添えることもできるだろう。
      もちろん、本物のリースのようにリボンや花を飾るのも問題ない。
      各自で自分だけのオリジナルリースを作ってくれればよい。

    「ね、かんたんでしょ?」
     嬉しそうな夢羽の言葉に來未も頷く。
     出来上がったリースは持ち帰るだけでなく、メイン会場のデザートとして皆に振舞うことも可能だ。
     もちろん、その場で出来立てを試食することもできる。
    「どんな、リースにしよう、かな」
    「ユメね、おほしさまの形のリース作りたいな~」
     思案顔の來未を前に、夢羽は早速作りたいリースについて語りだした。

     ――あなたも美味しいリースでクリスマスに彩りを添えてみませんか?


    ■リプレイ

    ●Frohe Weihnachten
     100人を超える生徒たちが集まる会場では材料を揃えた者から次々とドーナツ・リースの制作に取り掛かる。
     楽しげな雰囲気に誘われ、ルミッカも鼻歌まじりに早速ドーナツ生地を捏ね始めた。
     きょろきょろと周りの様子を伺っていた悠凱や玖も見よう見まねで生地を捏ねる。
    「お菓子作りは苦手なんやけど……大丈夫やろか」
     不安を隠せない紅葉に「大丈夫です」と頷く莉茉だったが、彼女の手元を見てさっと顔色を変えた。
    「紅葉さん、そんなに牛乳をいれては、ダメです……!」
     お菓子作り初心者だらけの【LCD】メンバーにとって経験者の莉茉が頼り。
    「莉茉君、綺麗にねじるにはどうすればいいっすか?」
    「なぁ、黒猫ドーナツ作りたいんだけど、ゴマとチョコ、どっちがいいかな?」
     玖と悠凱の質問に答える莉茉の隣では、維が早速ドーナツを揚げている。
    「すげーいい匂い、食べたい!」
     ほんのりと漂うバナナの香り。誘惑に負けそうになるが維はぐっと我慢。
     一方、皆を真似つつドーナツを成形したレニーは揚げ立てのアザラシドーナツを取り出すや否や鍋の中へとボチャンと放り込んだ。
    「わ、ぁ! レニー、男らしい!」
     思わず目を丸くするルミッカだが、当のレニーはきょとんとした顔。
    「白くするなら、ホワイトチョコに浸せばいいよね」
     男気溢れる発言に維が堪えきれず噴出した。
     幸せが詰まった時間はまだ始まったばかり。
    「ほら、香織くん。しっかり掻き混ぜてごらん」
    「んと、こーんな、感じ?」
    「うんうん、プロい!」
     真剣な表情で一生懸命ドーナツを作る香織。
     そんな彼女を見つめる絲絵の頬は気が付くと緩くなる。
    「絲絵お姉ちゃん。出来上がったら、はんぶんこに、しようね」
     ふわふわまんまるドーナツとハート型ドーナツ。
     2人で一緒に作ったドーナツの味は、きっと特別な味。
    「困ったことがあったら任せとけって」
    「それじゃワタシの分、作ってくれる?」
     【Café : Phönix】の店長・勇弥が言うや否や、早速さくらえが生地の作成を依頼した。
     下手に土台に手を出したら収拾つかなくなる、と言うのがさくらえの主張。
     同意を求められた健も美味しい土台が重要なことに異論はない。
    「ココは料理に手馴れてる兄ちゃん達に任せたぞ!」
     だが、頼れる料理上手な鏈鎖と実は……。
    「菓子はよく作るんだが、ドーナツは初めてだな」
    「神鳳さんは、彩瑠さんの……手助け、頼んだ」
    「……わかった。さくらの生地は俺が用意する」
     二人分の生地を捏ねる勇弥の隣、鏈鎖の手元からはチョコシロップの甘い香りがふんわりと漂ってくる。
    「健、デコレーション、楽しみだね♪」
    「ああ、食べるの惜しい位キレイなヤツを作るぜ!」
     はやる気持ちを抑え、さくらえと健は嬉しそうに顔を見合わせるのだった。
     ドーナツを作る紫鳥が「そういえば……」とのんびり生地を捏ねる縁に告げる。
    「リースって、神様の永遠の愛を現しているらしいですよ」
    「ほへぇ、そんな意味が……なんだか、とっても素敵……」
     縁はふにゃりと表情を崩しうっとりと呟いた。
     ――ね、縁さん。
     そっと紫鳥が縁の名を囁く。
    「リースが出来たら半分こして食べましょうねっ」
     神様の愛を半分こ。もっといっぱいの素敵が増えますように――。

     仲良し三つ子は一緒にドーナツ作りの真っ最中。
     手際よくドーナツを作る真雪に花音はずっと感心しきり。
    「私、真雪ちゃんみたいなお嫁さんが欲しい!」
    「じゃぁ、私は花音ちゃんと弧月くんをお婿さんに貰おうかな」
     なんてね、と真雪もぎゅーと抱きつく花音にハグ返し。
     じゃれ合う二人を見つめ、今年も三人息災で過ごせたことに弧月は素直に感謝する。
    「ね、ドーナツできたら一緒に食べようね!」
    「ああ、楽しみだ」
     3人で一緒に作ったドーナツの味はきっと幸せの味。
     レシピ本と首っ引きで生地を捏ねていたあずさのドーナツも形になってきた。
    「天嶺、揚げるのお願いっ」
    「あ、あたしのもよろしく!」
     機嫌よくキリカの分も引き受け、天嶺は慣れた手つきで油の温度を調節する。
    「あずさ、ドーナツの油切りしてくれるかな?」
     アシスタントのように隣に立つあずさが揚がったドーナツを丁寧にバットに並べた。
    「ね、後でみんなでとっかえっこして食べよーよ!」
     キリカの提案に天嶺もあずさも二つ返事で頷いて。
     早く食べてみたいね、と笑顔を交わす。
     ドーナツを揚げるひよりが嬉しそうに春を呼んだ。
    「みて! ほら、キレイなきつね色だよ」
    「おおっ、うまそーな色だな!」
     ひよりが差し出した揚げ立てドーナツからほわっと漂う食欲をそそる香り。
     ドーナツに顔を近づけてイイ匂いを堪能する春のお腹がぐぅぅと鳴れば。
     くすりとひよりが笑みを零す。
     どんな風にドーナツを飾ろうか。
     出来上がって交換するのが今から楽しみだねと2人にっこり微笑んだ。
     焼きドーナツを作る緋織の隣で京は慣れた手つきでコロコロドーナツを揚げる。
     一方、フワフワ星型ドーナツを目指す透夜は思うように星形が作れず大苦戦。
    「織部さん、夕永さん……お手伝いをお願いしても良いでしょうか」
    「なんですかー? できることならなんでもやりますよー!」
    「わ、星型? 可愛いね」
     京がてきぱきと星をかたどると、緋織が細部を丁寧に仕上げていく。
     あっという間に歪んだ星っぽい物体だったものは綺麗な星型ドーナツへ生まれ変わった。
    「そういえば……」
     ふと緋織は会場のどこかにいる幼い少女のことを思い出す。
     彼女も星型ドーナツを作ると言っていたが……。
     その頃、夢羽はメイテノーゼにドーナツを揚げて貰っていた。
    「俺の居たドイツでは穴のないドーナツが一般的だった、な」
     喋りながらも無駄のない動きでメイテノーゼは揚げ立てのドーナツをバットへ移す。
    「ふわっとして中にジャムが入ってるんだ」
    「いいなぁ~。ユメも食べてみたい!」
    「一度食べてみるといい、美味いよ」
     ドーナツの油が切れたことを確認し、メイテノーゼは夢羽の方へと向き直り。
    「――さ、夢羽さん、冷めたらデコレーション、頑張って」
    「ありがとう!」
     やっぱりお星さまは黄色だよねと少女は呟き、デコレーションの準備に取り掛かった。

    ●Buon Natale
    「三つ編みの星型リース抹茶味を作るぞー!」
     おー! と拳を突き上げた千波耶と真珠はお喋りしつつドーナツ作りも同時進行。
     淡々と生地作りをこなす煌介とは対照的な姿を眺め、やはり女子はスゴイなと密かに感心する千昭だったが。
    「飾り付けは千昭先輩と煌介先輩にお願いしますね」
     にこりと微笑む真珠からの突然の指名。
     デコレーションには遠慮がちだった煌介も煌めく材料たちに魅了されて思わずこくり。
    「さぁ、チョコ大臣とスプレー大臣の出番です!」
    「スプレー大臣、して良いっすか?」
     千昭はこっちとチョコの袋をぎゅっと押し付け、煌介はキラキラとスプレーチョコを振りかける。
     千昭の大好きなチョコもたっぷりと纏ったドーナツを見て目を輝かせる真珠と千波耶。
     そんな仲間たちを見つめる煌介の瞳は慈愛の光に満ちていた。
     チョコやグミで彩りを添えるのも綺麗だが、花やリボンで飾るのも良いか……。
     ドーナツを飾る火夜の横では雪姫はこっそり揚げ立てドーナツへと手を伸ばす。
    「ねぇ、白伽さん。どんな色を飾ったらいいでしょうか」
    「おいしいのがいい……」
     迷うことなく即答した雪姫の返事に火夜は苦笑いするしかなかった。
     色とりどりの材料を並べ、ドーナツの飾り付けに夢中な桜子と夢羽。
    「あら? もしかして星咲ちゃんのデコの味は黄色のレモンさん?」
    「ユメいってないのに……桜子ちゃんなんでわかるの!?」
     目を丸くする夢羽に「ナイショ」と悪戯っぽく笑った桜子は橙色のチョコを見せ。
    「さぁ、ここで問題。私のは何味でしょー?」
    「むむむ……わかった! ミカン!」
     わかりやすいのもお揃いかしら、と桜子は笑顔を浮かべ。
     次はお花を飾ろうと、まだまだドーナツデコり隊は頑張るのだった。
    「わぁ、よみちゃんの模様とっても綺麗!」
     白いアイシングで描かれた丁寧なレース模様を見て結月が羨ましそうな声をあげる。
    「いいなぁ、結月もやってみたい!」
    「いいわよ、手伝うから一緒にやりましょう」
     詠の丁寧な指導に従い、結月は一生懸命レースを描けばハート型のドーナツも大人っぽい雰囲気を纏う。
    「完成したら、一緒に食べましょう?」
    「うん、でもその前に記念写真も撮ろうね!」
     ノリノリでドーナツをデコる千巻は「ねぇねぇ」と晴汰の肘をつつく。
     にこにこ笑顔の千巻が晴汰の掌にちょこんと乗せたのは砂糖細工のお花。
    「見て。これ食べられるんだよぉ! せぃちゃん食べる?」
    「うん、食べる食べる!」
     ぱくっと頬張れば花は口の中で柔らかく溶けた。
     デコデコ盛り盛りな千巻のリースとシンプルな晴汰のリース。
     半分こすれば美味しさもきっと2倍になる。
    「いい感じ! 上手ね、エニちゃん」
     手取り足取り尻尾取り。凪の指示のもとエニエはドーナツ作りに初挑戦。
     お礼、とばかりにエニエは凪のドーナツのデコレーションをお手伝い。
    「なぎねーは吾輩が描いてあげるのである」
    「わぁ! 嬉しいわ、ありがとう!」
     凪に褒められ頭を撫でられエニエは得意顔。
     味見用ドーナツをぱくりと頬張り、会場の散策へと繰り出した。
    「なかなか難易度高いわね、これ……」
     ねじって編み込んで……とドーナツ相手に月子は大苦戦。
     一方の華月はキャラメルで髪を描き、赤いベリーの瞳を添えて。月子を模ったドーナツを仕上げてゆく。
    「月子お姉さん、出来上がったらリース交換しませんか?」
     華月の誘いに月子は笑顔で答え。
     二人過ごした時間もまた楽しい想い出の1ページとなった。
    「特大ドーナツを皆さんでデコレーションしましょ♪」
     じゃじゃ~んと和が持ってきたドーナツのサイズは直径1m。
    「林檎や飴細工の風車を飾りましょか」
    「それじゃぁ、私はミニチュア和風家屋を作るわね」
    「チョコの蝶も忘れたらあかんなぁ」
     早速飾り付けを始めた輪と時生の横で、和は皆の似顔絵を描き描き。
     飴細工で4人分のリボンを作っていた歩が和の絵を見て顔を引き攣らせる。
    「これが自分っすかね?」
     恐るおそる指さした歩に「正解~♪」と嬉しそうに和は頷いた。
    「味のあるイラストよね」
     ふふっと時生が優しく笑えば、頑張っとうなと輪もぽふっと和の頭を撫でる。
    「えへへ、リースっぽくなりましたね♪」
     嬉しそうに和はドーナツに向けて携帯を構えた。
     ツリーをイメージしたドーナツを作った新一郎。飾り付けに使った金平糖をぽいっとあまねの口にいれてやる。
     口の中に広がる甘い味にあまねもにこりと笑顔を浮かべた、が。
    「ええと、でもこれはつまみ喰いになってしまうのかしら……?」
     そわそわと不安気に周囲を見回す。
     会場に漂う甘いドーナツの香り。
     そういえば……と杏子が飾り付けの手を止め心桜に問いかけた。
    「こっこ先輩、クリスマスのご予定は?」
    「えっ、わらわ、デートは……」
     狼狽えるあまり、デコペンで描いたリボンがぐにゃりと曲がる。
     頬を赤く染める可愛い先輩をにこにこと見つめ。
     杏子は余ったドーナツを笑顔で心桜に差し出した。
    「鷹次ちゃん、チョコペンで『めりーくりすます』って英語でお願いなのです!」
    「文字入れだな、バッチリやるぜ!」
     鷹次はルゥの頼みを快く引き受け、さらさらとメッセージを書いてやる。
    「お、ルゥのリースは可愛くできたな」
    「鷹次ちゃんのカニさんも可愛いのです!」
     鷹次に頭を撫でられ、ルゥは嬉しそう。
     ――楽しいクリスマスはこれからだ。

    「それにしても皆さん上手ですね。俺も頑張らな……」
     遥斗の視線が黒焦げの物体を捉え思わず口をつぐむ。
     その物体の主、シヅキは真っ黒に焦げたドーナツを見ながら首を傾げた。
    「おかしい、皆の作り方を参考にしたのに……」
     なぜか似たのは真っ黒焦げになった司のドーナツ。
    「司のそれ、チョコの黒さじゃないな……大丈夫なのか?」
    「大丈夫じゃありません。そして好きでやってるわけでは……」
     アルベドの問いに口を尖らせる司だったが、すぐに解決策を思いつく。
    「こうすればいいですよね……ていっ!」
     さっと揚げ立てのキレイなドーナツと自分の黒焦げドーナツをすり替えた。
    「あらあら、それは氷高さんのドーナツでは……あ、ばれましたね」
    「柊――! 貴様っ! 返せ――!」
     くすりと笑う香奈芽の視線の先では、司が樒を盾に激昂したみゆから逃げ回る。
    「こら、二人とも落ち着け」
     みゆを宥めようと出来立てのドーナツを差し出した樒だったが、それはすでに誰かがつまみ食いをした跡が。
    「いつの間に……」
     苦笑する樒。と、同時に香奈芽とみゆも声をあげた。
    「あら、私のクッキー減ってる気が……」
    「待て! 柊はまだ食べるなー!」
    「失礼な。僕ばかり疑われるのは不本意……」
     司は反論するが……残念、証拠品を両手に持っている。
    「あれ? 俺の包丁……」
    「……つまみ喰いは行儀が悪いぞ」
     アルベドがシヅキの包丁を素早く奪い、司にすちゃっと突きつけ御用。
    「はぁー……まったく、しょうがないなぁ……」
     はいはい、と遥斗がクッキーを差し出せば司は機嫌よく受け取って。
     確実に遥斗は【ましろのはこ】保護者ポジションを確立しつつあるのだった。

    ●Joyeux Noël
    「もしよければフランス式のリースを作ってみない?」
    「テーブルに置くタイプのですよね」
     樹の提案に彩歌も「いいですよ」と快く頷く。
     彩歌が土台を作る間に樹がデコレーションの準備、と分担して手際よく進め。
    「んっと、クリスマスといえば、赤と白か赤と緑……かな?」
     彩歌の言葉に従い樹が赤と白のラインでドーナツを彩ればパッとクリスマスめいて。
     また来年も一緒にお祝いしましょうね、とリースの前で約束を交わした。
     チョコドーナツに耳を付けて……と直人は器用に兎リースを作っていく。
     くろうさぎは自分、そして最愛の人は金色うさぎ。
     ニ匹の兎を並べ、直人は満足そうにリボンを結ぶ。
     白いチョコを纏ったドーナツに桃色のチョコの花を添えて。
     仕上げに氷砂糖の星を飾れば優歌のドーナツも完成。
    「これ、何に見える?」
     ゆずるの問いにイコはぱちぱちと瞬きを二つ。
     薄桃色のドーナツは何かの顔を模っていて。
     ぴょこんと伸びた耳に見覚えがある。
    「ふふ、わかったわ」
     ナノナノちゃんねと囁くイコに、正解とゆずるも笑顔で頷いた。
     二人で一緒に作ったドーナツは食べるのが勿体なくて。
     味見用を作ろうと少女たちは再びドーナツを飾り付ける。
    「ね、折角だからアリスちゃん、食べてみてよ」
     よろしくてよ、とアリスが頷けば、響斗は彼女の口元へドーナツを差し出した。
    「はい、あーん♪」
    「……硲様、何をなさっていますの?」
     子供扱いされたとカチンときたのか、アリスはぴしゃりと響斗の手をはねのける。
    「わー何でもないです!」
     昔はよくこうして食べたのに……。
     響斗の呟きは会場の喧騒にかき消された。
    「よし、渾身の逸品! ほい、六、あーん」
     ぱくり、と六が齧った円のドーナツは予想通りすごく美味しくて。
    「円君がつくるの、やっぱりだいすき!」
     落ちそうになる頬を押え、おかえし、と六もドーナツを差し出した。
     鮮やかすぎる見た目に恐る恐る円もドーナツを食べてみると……。
    「あれ? 意外とうめぇじゃん」
     もう一口、とおねだりされてにっこりご機嫌の六だった。
    「葵さん、あーん♪」
     味見用のハート型ドーナツを由愛が差し出した。
     身を屈めた葵はドーナツを食べる……振りをして由愛に優しいキスを落とす。
     そしてそのまま涼しい顔でドーナツをぱくり。
    「え……っ!?」
    「お返し。由愛も食べる?」
     突然のキスにドキドキが隠せない由愛が可愛くて。
     にこりと微笑み葵もドーナツを差し出した。
     薫と翔也、二人で一緒にデコレーションしたドーナツを早速試食。
    「えっと……『あーん』とかしてみます?」
     薫が恥ずかしそうに差し出したドーナツを翔也はぱくり。
     お返し、と翔也に食べさせてもらったドーナツは甘く幸せな味がする。
    「来年も再来年も……こうして一緒にお菓子作りがしたいですね」
     嬉しくて薫は小さく頷くのが精一杯だったけど。
     チョコプレートに描かれた兎も微笑んだ気がした。
     出来上がったドーナツを十六夜が渡すと、空もはいっとドーナツを差し出す。
    「お兄たま、どうぞ♪」
    「おぉ……っ! ありがとうな、空」
     空の頭を撫でて十六夜はさっそくドーナツをパクリ。
     十六夜のために作られた激辛ドーナツは好みの味で。
     褒められた空は満面の笑みを浮かべる。
     ――この後サンタさんからのプレゼントが彼女に届くのは、もう少し後のお話。

     お菓子作りはあまり経験のない佐那子と末梨。
     ドーナツ作りは初めてだが、予習もしたし器用さには自信があるし……と末梨は佐那子に完成品を差し出した。
    「ど、どうでしょう……?」
    「……」
     無言の佐那子を見て末梨は全てを察する。
    「来年……また頑張りましょうか」
     一緒に精進しましょう、と佐那子に慰められ、末梨はこくんと頷いた。
     弟の鴻之介に捏ねて貰って作ったドーナツの形はいびつだったり。
     揚げる時は油が跳ねて大騒ぎ。
     飾り付けはなかなか思うようにできなくてやっぱり鴻之介にやってもらって。
     それでも陽羽は大満足。
    「ほら、ひーねー、口あけて」
     あーん、と完成したドーナツを食べさせてもらえばとても幸せで。
    「おいしいね、コウちゃん♪」
     愉しい時間に頬を緩める二人だった。
    「よーし、ドーナツいっぱい食べちゃるぞー!」
     彰二の声とともに開始されるド-ナツ争奪戦@【文芸部・跡地!】。
    「ちょ、兎ちゃんそれオレの!」
    「ふっ、取られる前に取る!」
    「って、おい、作った端から食ってんじゃねーよ!」
     兎紀と彰二が競うように豹のドーナツを奪い合う。
    「ちょっと、二人とも暴れるのやめてよ!」
     慧一は助けを求めようと仲間たちを見まわす、が。
    (「ん、ドーナツおいしい」)
     一人淡々と侑二郎は抹茶味のドーナツをぱくりと齧っていた。
     残念ながら争奪戦を止める気配はない、にもかかわらず……。
    「あ、ずりいぞ彰二先輩! 兎先輩!」
     密かに豹のドーナツを狙っていた戦も颯爽と参戦。
    「あぁぁ……戦くんまで……」
     キリキリ痛む胃を押さえ慧一はがくりと肩を落とす。
    「通常運行だなぁ」
     争奪戦を眺めつつ、冬人はドーナツ作りを続行。
     器用にデコった勘九郎は得意気に冬人を肘でつついた。
    「見て、俺の自信作! すごいでしょ!」
    「上手いなぁ。勘って本当手先器用だよねぇ」
     しみじみと呟く冬人に褒められ勘九郎はご満悦。
    「これもどうぞ、っと♪」
     彰二と戦が争うように手を伸ばしたドーナツは、天狼がパチンと指を鳴らせばなぜか兎紀が作ったカラフルすぎなドーナツに変身。
    「なんじゃこれはー!?」
    「失礼なっ、俺が作ったドーナツをみんな食えよ! ほら、天狼も彩希も!」
     ほい、と兎紀が差し出したドーナツを「ありがとう……」と彩希が恐々受け取る、が。
    「…………」
     原色だらけのデコレーションに思わず息を呑んだ。
    (「これ、大丈夫なのよね……!?」)
     天狼と視線を交わす彩希の笑顔が心なしか引き攣っているのは気のせいではないだろう。
    「一応、食べた人はいますけどね、ハイ」
     ぱくぱくとドーナツを食べながら侑二郎はちらりと彰二たちに視線を向けた。
     まぁ、大丈夫だろう、多分。
     どこにいてもいつもと変わらぬ賑やかさ。こんなクリスマスなら、悪くはない。

    ●Hyvää joulua
    「あー! 部長だけズルーい!」
     ぽりぽりナッツを齧りながらドーナツを揚げる淳平を見てウララが叫ぶ。
    「む。揚げ加減はオレが見ててやるから。オレにもナッツを捧げよ」
    「おー、いいぞ、ハルもウララも食えよ」
     デコレーション用のナッツをお供に3人はドーナツをデコレーション。
    「ムル先輩、それは……!」
     揚がったドーナツにチョコをかけていた秋が目を丸くするのも無理はない。
     允のドーナツにはチョコペンで怪しげな文様が描かれているのだ。
    「やだ、ムル! オレ勧誘はお断りだかんね?」
    「それ、呪いと間違えてないか?」
    「怪しい宗教じゃねーよ!」
     秋がツッコミをいれる暇もなく、【第17美術室】の部室よろしくわいわい賑やかにドーナツは作られていく。
    「ちょ、何か向こうでとんでもなく大きいの作ってない!?」
     ほら、とウララが指さした先では千代助が超巨大ドーナツを作っていた。
    「ウラーラ、みの。デコレーション手伝ってくれよ」
     千代助は女子に頼んだはずだが、なぜか飾り付けには男子も参戦。
    「じゅんじゅん、変なソースかけんなって」
    「見えないから平気だって」
    「秋風サン、それちゃんと中まで火通ってる?」
    「大丈夫だろ、色も変わってるし」
    (「秋風先輩に生焼けっぽいかも、って言った方がいいかな……っ」)
     ――結局、千代助が生焼けだと知るのは食べた時だった。

    「うおおわんこ! こいちゃん上手!」
    「やだー! このほっぺのぷくぷく具合そっくり!」
     恋愛が作ったわんこと鈴が作ったラブちゃん。
     2匹並べてドーナツに飾ればまるで仲良くじゃれ合っている様。
     リボンをくるりと結んで星を飾って。
     二人の想い出が詰まったリースのお味は最高のはず。
     写真を撮ったら、どうぞ召し上がれ。
    「りねちゃん、どんなリースにした?」
     見せて、と身を乗り出した穂純は丁寧に飾られたリースに目を輝かせる。
     一方、りねは穂純の可愛らしいドーナツにキュン!
    「わぁ、穂純ちゃんの雪だるまさんもすごく可愛い!」
    「ね、二つ並べて写真撮ろうよ!」
     穂純の誘いに早速二人はドーナツ並べて記念撮影。
     パシャリ、とシャッターを切る音が会場に響いた。
    「おおっ、ともちゃん上手!」
     可愛くデコレーションされたハート型ドーナツを見て錠は素直に褒める。
    「錠さんのは音符いっぱいです」
     音楽好きな錠らしいリースも朋恵は写真に収め。
    「そうだ。クリスマスの想い出に、俺達も一緒に写真撮らねエ?」
     錠の誘いに朋恵は元気いっぱい頷いて。
     カシャっとシャッターを切る音が会場に響いた。
     思い出すのは仲良く過ごした幸せな毎日。
     チセと朔日はお喋りに花を咲かせながらドーナツを飾り付ける。
    「チーのチョコドーナツだ! お花畑も妖精さんも可愛い」
    「わぁぁ、朔日ちゃんおリース、シキテとピリカがいる!」
     ありがとうの感謝の気持ちを込め、出来上がったリースは交換こ。
     ――また来年も一緒に遊ぼうね。

    「よろしければ皆で一つのリースを作ってみませんか?」
     こんな風に、と手振りで恵理がイメージを伝えるとヒオを筆頭に【空色小箱】の皆が諸手をあげて大賛成。
     皆でドーナツを作って飾って繋げて。來未と夢羽のドーナツもリボンで繋げると更に大きなリースになった。
    「わぁい、完成ですね♪」
     完成したリースを前にヒオの髪がぴょこんと揺れる。
    「私のドーナツ、ちょっと毒々しかったですね……」
     カラフルなチョコスプレーをかけすぎてしまったか。溜息をつくアトレイアを慰めるようにポンポンと來未が肩を叩く。
     赤いサンタ帽子を被った紗月は皆に見つからないように割れてしまったトッピング用クッキーをこっそりぱくり。だって、捨てるのは勿体ないし……。
    「あれ? なんか今パクっとした人見ちゃったような……?」
     悪戯っぽい笑みを浮かべて近寄る和佳奈に慌てて紗月は首を横に振る。
     和佳奈にもクッキーを分けて取引成立、皆にはナイショにしてもらうことに成功した。
     耳を澄ませば志歩乃の優しい歌声がドーナツ・リースで溢れた会場に響く。
    「このリースなら、きっと皆さ悪いことから守ってくれるね」
    「ええ、リースには魔除けの意味もありますから」
     志歩乃と恵理が嬉しそうに出来上がったリースに視線を向けた。
    「そうだ、みんなで記念写真撮りませんか?」
     紗月に誘われ來未たちも一緒にみんなでリースの前に集合。
     皆の想いを詰め込んだ世界に一つだけのリースとともに静かにシャッターを切る。
    「来年も楽しい一年になるといいね」
     みとわの願いは皆一緒。
     来年もまた一緒にキラキラと輝く宝石箱みたいな想い出が作れることを願って。

     ――Merry Christmas and Happy new year!

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月24日
    難度:簡単
    参加:111人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ