●クリスマスの楽しみ方は人それぞれ
今年もあと1カ月を切った。街は待ちきれないようにクリスマスムード一色、少し増した寒さが否が応にもそれを盛り上げる。
武蔵坂学園でも敷地内にある伝説の木が、クリスマスツリーへと模様替え。
飾り付けられた電飾が、華やかでロマンチックなイベントへのカウントダウンのように輝く。学園内でもパーティ会場の準備は進んでいて、聖夜に改めて愛を誓うカップルも多いのだろう、けれど。
世の中には一組カップルができると一人あぶれるとか、結構イケメンなのに何故か縁がないとか(逆もまた然り)、世間にはいろいろあるのであり。
そんな人にとってのクリスマス、ケーキ食べて寝るかで終われるのであろうか。
否。
この学園に限ってそんなわけはない。
●こんなクリスマスはいかがだろう
「ってことでクリスマスに、デスマッチつきのパーティやらないか?」
教室のみんなは宮之内・ラズヴァン(高校生ストリートファイター・dn0164)が、ちょっぴり頭を打ったと思った。もしくはプロレス愛をこじらせたと思った。
まあ落ちつけよとか言われて頭とか冷やされたあと、違うってと力説した彼は氷嚢を返して熱弁をふるった。
「乱闘できる会場借りてあるんだって! 今年の暴れ納めに皆でデスマッチやって、思いっきり食って騒がないか?」
話はこうだ。
ロマンチックな夜を過ごす人も多いのであろうが、世の中そんな人ばかりではない。
でもそうじゃない人の為の聖夜があっていいはずだ。
非ろまんちっく需要を満たす会場を作ってしまおうじゃないか。
おひとりさまな方、彼氏彼女が出来なかった皆さまご優待。非ろまんちっくな現実への怒りや悔しさや不満を爆発させて皆で大乱闘しよう。
クリスマスなんだから、会場に美味しいお料理やスイーツも用意して、乱闘ではなくヤケ食いに集中してもいい。
会場内ではデスマッチブースとヤケ食いブースを分けて設置。ヤケ食いブースへの襲撃は禁止だが、デスマッチブース内ではサイキック使用可とする。医療班を用意しておくので心おきなく思いのたけを爆発させて、聖夜に昇華してしまおうではないか。
「要するに、お互い八つ当たりしてスッキリするんだな?」
「もちろん恨みっこなしだぜ。最後に立ってた奴が勝ち。『キング・オブ・ぼっち』の栄光が語り継がれていく!」
そんな称号絶対いらない。
いらないが、ストレス解消には悪くない。ご馳走だってついてくるし、クリスマスに乱闘なんてどうかしてるのもたまにはいいし。青春っていろいろ叫んだり炸裂させたりするものだし。
折角の聖夜を楽しまない手はないじゃないか。
そう思っちゃったあなた、いかがでしょう?
●それは果たして栄光なのか
クリスマス・イブのこの日、学園のとある棟は宴会の装いも華やかに、入場者たちを待ちうけていた。問題は入場者たちがいずれも、いろいろな意味でやる気満々であるという点であり。よっこらせと長机の位置を調整しマイクを設置すると、柿崎・法子(d17465)はいきなり用件から入った。
「ようこそ独り身デスマッチパーティへ!」
会場に集まった者たちからどよめきが返る。
そう、ここはパーティはパーティでも、デスマッチ会場。
ぼっちの怒りや悲しみ、迷いを昇華すべく設置された戦場だ。そのすべてがマットに立つものに向かうか、隣のブースのテーブルに並ぶご馳走に並ぶかという違いだけ。
「実況はRB団の召集が無くて悲しみにくれたボク、柿崎法子がお送りするよ。ルールは簡単、『最後まで立っていた者の勝ち』!」
再びのどよめき。我こそは最後の一人たらんという意欲が伺える。
「クラブ単位からライドキャリバーまで参戦する今大会。最後まで生き残りキング・オブ・ぼっちの(不名誉な)栄光を手にするのはいったい誰なのか!……あ、ボクは遠慮しておきます」
何故か栄光のくだりで参加者のモチベーションが激減したが、それはさておき。
いざ、ゴング!!
●とりあえず乱闘
城・漣香(d03598)、何故デスマッチブースにいるのか状況が把握できない。確か空戯・宵(d16260)が言ったのだ。『皆と一緒だからぼっちじゃないね!』って。
「いくよー漣香くん! 全力で行くね!」
「部長を存分にボコれると聞いて」
石動・茜歌(d06682)と終夜・玲(d01022)が想いをぶつけに来ていたりして。
「オレに恨みでもあんのかよ! 眼鏡掛けてんのに視界がぼやける!」
攻撃をビハインドの煉で受け止めながら、涙目で全力疾走する漣香を眺めて、浅守・双人(d02023)は実感した。
「集中砲火がスゲェ……愛って重いんだな~」
気を取り直し、双人は朗らかに漣香に並走して微笑んだ。
「それにしても城先輩って良いキャラですよねー!」
「何でそんな楽しそうなの!?」
影縛りを繰り出す玲が本気すぎる。他の面子はどうしたのか。振り返ったら、カートにタッパーを山積みにした天宮・祥太(d04634)と天宮・優太(d03258)がヤケ食いブースへいくのが見えた。部長、眩暈なう。
「食べてこそのクリスマスだね!」
チョコ、ショート、タルト、チーズ、並んだケーキを片っ端から肉と交互に摂取する宵に、ビハインドのアルくんが青ざめる。もちろん食べるだけではない。
「あっ! 漣香くんが狙い撃ちに! 頑張れ漣香くん! 負けるな漣香くん!」
「女の子(宵)に応援されるとか羨ましいじゃねーかこの野郎!」
玲がキレたが、気のせいか声援が食事の片手間だ。かと思えば祥太はガチでテイクアウトにきている。
「黄色の蓋は冷凍できるもの、緑の蓋は冷凍できないけど日持ちするもの、青の蓋は冷凍できなくて日持ちしないものね」
「うん、わかったー。入れていくねー」
和やかに優太が頷いた。基本的に彼は弟しか見ていない。
「出来たら俺の分のタッパーもー」
「取ってあるよ! こっち1ダース!……クリスマスって楽しいね、祥」
玲に爽やかに返して弟へ微笑む優太に漣香は悲鳴をあげた。
「オレの分も飯取っといてよ!?」
「これは、見た目魔法少女なのにノウキンノウキン言われ続けて傷ついた乙女心の分!」
「負けないぜ、物理系魔法少女!」
双人が適当にスラッシャー射出とか始めて、茜歌の女子力(物理)に対抗する。
「フタリン危ねぇから狙いは定めろよ!」
「これは、祥太くんにもらったおみかん取られた時の分!」
「茜歌ちゃんそれ冤罪……」
祥太がヤケ食いブースでおろおろと呟いたところで届くはずもなく。
「これは、新宿の戦いのときに手刀入れられた分だぁーっ!」
「アッ茜歌ちゃんさんやめあ痛ー!」
レーヴァテインでの反撃むなしく、漣香は茜歌のティアーズリッパーの前に撃沈した。
霊犬を従えて睨みあう、両角・式夜(d00319)と花蘂・賢汰(d16514)。
「純情中坊の拳の力見せてやるっすよ両角先輩!」
「よろしい、ならば戦争だ。我が拳がクリスマス爆発しろと疼いておる……!」
賢汰が不敵な笑みを浮かべる。お互い大事な霊犬がいる身だ。
「ほーらお藤! 美味しいおやつが待ってるぜー?」
「花たん、餌は反則だぞ!?」
ツッコミついでの怒りの一撃がクリーンヒット。賢汰が吹っ飛ぶ。
「ふ、ふぅははー! 身長の差は覆せないようだな! たかが6cmされど6cm!!」
「ひでぇ! 後輩相手に本気パンチとか慈悲の欠片もないんすか?!」
高笑いを背に聞きながら、柊・司(d12782)の厳かな宣告がなされた。
「今までの不埒な悪行三昧の数々、見逃すわけにはいきません」
螺旋を描き顔へと奔る槍の穂先を躱し、柴・観月(d12748)は杖を構えた。
「言ってみたいだけだろその台詞」
眼鏡を狙う弛むことない槍の連撃は稲光の如く閃く。
「あ、ばれました?」
受け流しながら返り討ちを狙う、杖の銀光が弧を描く。
「眼鏡は割れたら弁償して貰うからな」
「勿論弁償しますよ。写メきっちり撮ったらね」
激しい数合の後、穿ちにいった穂先を捉えた杖が使い手を打ち据えて打ち破った。
勝負あり。起き上がった司はけろりと呟いた。
「そう言えば別に殺す必要はありませんでした」
「……今気付くの、それ」
モーリス・ペラダン(d03894)と舞笠・紅華(d19839)は真っ向から睨みあっていた。
「正々堂々、ぼっち同士で勝負だべ! ヤマガタトランス!」
「精々堂々と、2対1でお相手しマショウ、バロリ!」
応じて現れるビハインドの女性。よく知っている紅華も花笠をかぶると妖艶に微笑む。
「花笠剣士ヴェニヴァーナ、推参」
モーリスとバロリのコンビネーションをかいくぐり、紅華が挑みかかる。
「ボッチパワーの詰まったトラウマの前に慄くイイデスヨ!」
そこへ突然、機嫌よくエンジンをふかした轟天が行野・セイ(d02746)のビハインド、ナツを乗せて現れた。ワンピース姿のナツがふわもこの服をすぽんとバロリに着せてみる。似合うかしら?と振り返るのへ、紅華が微笑んだ。
「その服もお似合いですね、いってらっしゃいませ」
ナツ渾身のコーデらしく、轟天もシールやもこもこヘアゴムなどでデコられ放題。二人のビハインドは轟天に乗ると、ヤケ食い会場へと滑りこんでいく。ナツとバロリの為にシートの反発力を最適に調整していた佐々・名草(d01385)がにょろりと現れ、二人と轟天を激写し始める。
その一瞬を突いて、紅華がモーリスを確保した。
「リア充でなくとも爆破させていただきます。お受けなさいませ、花笠ダイナミック!」
ちゅどーんと派手な爆発が上がったところへ、すかさずセイが労いの言葉と同時にパイ(集気法つき)をぶちこんだ。
「お疲れ様!」
「あぺっ」
「パイオイシイデース……」
モーリスはもちろん、紅華もパイを避けそこねる。セイはくすくす笑うと、乱戦の会場を振り返った。もちろん、その一瞬も名草はしっかりカメラに収めていた。
母国のクリスマスを覚えているアルディマ・アルシャーヴィン(d22426)は複雑な表情で周辺を見回した。独り身がどうのと言ったようなノリは日本特有のものだろうか。まあ、さすがに乱闘までやるのはこの学園だけか、とも思う。
「さて、何処まで通じるか、試させてもらおうか」
どうせなら腕試しだ。そこに華々しいロックを響かせて躍りこんできたのは深廻・和夜(d09481)だった。クリスマスにぼっち、という現実こそが充分な武器となろう。
「そんなあんたに現実のプレゼントですってな!」
彼女の足元から影がぐわっと持ちあがる。アルディマもクルセイドソードを掲げた。
いい具合に乱闘になっている会場で、宮之内・ラズヴァン(dn0164)の背後に忍び寄る影。ポケットに油性マジックを忍ばせた岬・在雛(d16389)である。
ラズヴァンが気配に気づくより早く、彼女は雄叫びをあげて襲いかかった。
「ドォラララァ!」
「え、ちょ、ぶげ!」
背後から最大出力でぶつけられたギルティクロスに、抗う暇もありはしない。
ぱたりと倒れたラズヴァンを見下ろして、在雛は酷薄な笑みを浮かべて油性マジックのキャップを外した。
「おっしゃ、次いいいいい!」
次の獲物へと在雛が飛びかかる後には、マジックでちょびひげを書かれたラズヴァンが転がっていた。
近・遠距離攻撃タッグを組んだ参加者もいる。
「リア充がなんだ、独り身生活万歳!」
「独り身上等!この鬱憤を健全に晴らしてろうじゃねぇか!」
乱闘が健全かはさておいて、桜倉・南守(d02146)と咲宮・響(d12621)は息の合った動きで近づくものを牽制していた。
「南守、後ろは任せた!」
「任せといてよ。真正面から大暴れしてくれ、咲宮さん!」
遠距離では南守のバスタービーム、近づけば響のトラウナックル。完全な連携だったが。
「……さて、良ければ手合わせ願おうか?」
小早川・里桜(d17247)だった。響は親友の知人と聞いている。折角だから全力で殴り合いをしようというのだ。もちろん男女平等、響が拳に影を宿す。
「何発我慢出来るか、耐久テストと洒落込もうか」
一撃を見舞おうとした時、殺気を感じて南守が跳び退る。一瞬前まで居た場所を凍りつかせて、穂都伽・菫(d12259)がわずかに表情を動かした。
「……やりますね」
退屈しのぎの参加である。一人じゃないし、背後を任せるリーアもいるし。本当は少し寂しいけど、乱闘してれば紛れる気がするし。
響の援護どころではない、距離を取る南守を菫が狙う。
「よけられますか?凍符『闇龗神のお通り』!!」
「やべ! でも目指せキングオブ独り身!」
お互いに笑ってしまっている、南守と菫だった。
笑いあうものはここにもいる。
カードを解放し、神庭・律(d18205)はマントを影業の中へ放ると拳を固めた。
「いやァ、実に愉しく、そして清々しいなァ!」
「ああ、折角の特別な夜だ。大いに楽しもうじゃないか」
槍を構え、松田・時松(d05205)が唇の端を吊り上げる。
律の霊犬・実琴がヤケ食いブースでハイカロリーわんこご飯を貰いながら見守る中、繰り出される槍と、踏み込み放たれる拳が舞う。
しかしわずかな隙をつかれた時松が、鳩尾に一撃を喰らって吹き飛んだ。
「……ああ、流石神庭くんね。すごく痛かった」
「松田くんのウサミミ姿が見たいのでね!」
立ち上がる彼女に手を貸し、律は笑った。
乱闘の中素早く他者から距離をとりつつ、紅羽・流希(d10975)はぽそりと呟いた。
「さて、本格的にトップを狙いにいきましょうかねぇ……。常に誰も狙いそうに無いものを取りに良くことが、いかに難しいか体現しましょうかねぇ……」
その前に踏み込んで鞭を揮っているのは静月・優那(d21490)。
「アハハハハハッ!!もっと、もっとやろうぜ!」
先ほどまでは柔和な笑みを浮かべ、攻撃回避に重点を置いていたのだが、文字通り人が変わったようだ。攻撃を受け流し、流希は首を捻った。こういったところに来るということは、自分も寂しいのかも知れない。
「まぁ、殴りあいましょうかねぇ……」
少なくとも今は、それを忘れられるというものだ。
彼女は血の飛び散ったミニスカサンタ服をまとっていた。
「仲間で参加……部活で参加……沢山居ますねぇ~」
足元に湧きあがった黒い影が、淀むようにうねる。
「ロンリーより協力できそうでいいですね……」
雪乃城・菖蒲(d11444)は超イイ笑顔で宣言した。
「そんな皆さんにクリスマスプレゼントを渡しましょう~♪」
漆黒の鏖殺領域が広がる。ある者は呑まれ、ある者は距離を取る中、紅蓮の輝きを宿した刀を振りかざし、結崎・蜜耶(d14369)が襲いかかった。
「悪いけど、手加減はしないからね!」
もやもやを吹き飛ばせればいいのである。好きな人が出来なくていじけてるとかそんなんではない。
「高校生活最後ですし~容赦……もとい、遠慮無しですよ~♪」
「リア充なんて大嫌いだあああ!!」
見事に会話がかみあってない。
この騒ぎの中で黙々と食べられること自体、ある種の才能と言わざるを得ない気がするが、フードファイターは【イトマカルタ】の他にもちゃんといた。
「たーべーるぞー!!」
かつてこれほど雄々しい宣言があっただろうか。九十九坂・枢(d12597)はその宣言を裏切ることなく、流れるような手さばきでスイーツを食べ、タッパーに整然と詰めていた。
「美味しいー! でもこのカロリーは……脳味噌や胸にはいかへんのよねー」
乙女心は複雑である。これはきっとダークネスが悪いに違いない。
戦いへの新たな決意を胸に枢が食べまくる隣のテーブルで、藤堂・悠二郎(d00377)もまた極めて整然と食事を進めていた。チキンからピザ、ケーキと鉄の掟の三角食い。どちらもマナーを守り、一定のペースで取り置いた食べ物が口へと消えて行く。
だいたい、と悠二郎は思う。年末なんだから掃除をしたり、新年の準備をするべきだ。
(「一週間もすれば初詣にでかけるんだろう? ふん、バカバカしい」)
浮かれやすい日本人の良くないところだ、と思いつつも、ご馳走が食べられたんだから今日は許しておいてやるかという気にはなる。
『ごちそうさまでした』の声は、二人ともまだ遠いようだ。
●そして栄光へ
乱闘は混迷を深め、『茜歌の女子力(物理)には負ける』と言いつつも不意をうって勝利した玲が和夜を下したアルディマを制したり、パイの犠牲者を探すセイを菫を倒した南守が遠距離から狙撃したりと苛烈さを増した。
在雛に背後から襲いかかられた観月がちょびひげを書かれ、原稿のベタを手伝う司と共に原稿描きへ帰還。『メリー爆発マス!』とか叫びながらの式夜の拳に耐えかねた律が大の字に倒れていると、時松がケーキを食べようと誘いにくる。渡したいプレゼントをいつ渡そうかと、迷いながら。
流希を倒して高笑いしている優那へはテンションが上がりまくった蜜耶が跳びかかり、倒れてほろほろと泣いている彼を背に雄叫びをあげたりしている。
結局最後まで立っていたのは、デスマッチ部門は式夜、ヤケ食い部門は枢だった。
「つい、本音が漏れたけど……。来年に賭ける……ッ!!」
どこかほっとしたような蜜耶を下して、お藤と共に『キング・オブ・ぼっち』の栄冠を手にした彼の絶叫は、参加者たちの心に沁みたのだった。
「べ、別に嬉しく無いんだからね!」
作者:六堂ぱるな |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月24日
難度:簡単
参加:31人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 15
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