またおも……誰だお前

    作者:聖山葵

    「ごめん」
     少女の告白に返ってきたのは短い謝罪の言葉だった。
    「俺、隣のクラスの餅屋の子が好きなんだ」
     ただ、それだけで充分だったというのに少年は続けたのだ、後に続いた沈黙が耐えきれなかったかのように。
    「……んなにお餅がいいの?」
    「え?」
     オレンジ色に染まる通学路、間をおいて少女のもらした呟きに少年は振り返る。チーズより餅の方が好きだと言った訳ではない。
    「そんなにお餅が好きなの?」
    「いや、俺が言ってるのは餅とチーズの話じゃなくてだな……て、阿津模?」
     だから訂正しようとして、少年は気づいた。少女の身体に異変が起きていることに。
    「阿津」
     事態が飲み込めず尚も声をかけようとした少年は、この時逃げるべきだった。
    「ふざけるなモッツア! モッツアレラチーズより美味しい餅なんて存在しないモッツァぁぁ!」
    「うぐっ」
     ご当地怪人へと変貌を遂げた少女は、少年に襲いかかるとそのカッターシャツに手をかけ、アンダーシャツごと少年の服を引きちぎったのだから。
     
    「モッツアレラチーズのモッツアレラには引きちぎるを意味する言葉からから来たという説とシャツを着ないと言う言葉から来たと言う説があるらしいな」
     腕を組み、やって来た君達を迎えた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が起きようとしていることを告げた。
    「だが、通常ならば闇堕ちした時点でかき消えてしまう人間の意識が、今回のケースではまだ残ったままなのだ」
     いわばダークネスの力を持ちつつもダークネスになりきっていない状況ではあるが、それも長くは続かない。
    「放置しておけば完全なダークネスになってしまうだろうな、だがそれ以前に」
     介入せねば件の一般人が思いを寄せていた少年が強制的に『シャツを着ない状態』へされてしまいかねない。
    「故にもし少女が灼滅者の素質を持つのであれば、闇堕ちから救い出して欲しい」
     完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅を。
    「むろん、救えるに越したことはない。可能であるならば、せめて救える者は救いたいのだよ」
     故にはるひは君達を呼んだのだろう。
    「問題の少女の名は阿津模・れいら(あつも・れいら)、中学三年の女子生徒だ」
     片思いの相手に告白してふられたれいらは、好きだった少年がチーズより餅を好んでいたからふられたと誤解し、ご当地怪人チーズモッツア・レーラへと変貌する。
    「外見的には引きちぎって下さいと言わんがばかりのミシン目が入った真っ白い水着を身につけた少女だな」
     外見に反して服破りの状態異常でもつかなければ破れない程度に丈夫な水着ではあるらしいが、豊かな胸がその水着をはち切れんばかりに膨らませているので男性は目のやり場に困るかもしれないとのこと。
    「そして、実に寒そうでもある。私も人のことをあまり言えない服装かもしれないが」
     激しくどうでも良いが、ともあれご当地怪人と化したれいらはそんな外見になるらしい。
    「尚、君達がバベルの鎖に引っかからず介入出来るのは、れいらが変貌した直後をおいて他にない」
     タイミング的には、少年を庇えば服を破られるのをギリギリで防げるタイミングだ。
    「戦場になるであろう夕暮れの通学路には他に人も居ない。少年の安全さえ確保出来ればあとは――」
     ご当地怪人と化した少女と戦うだけ。
    「むろん、戦いと言っても物理的なものだけではない。闇堕ちした一般人と接触し、人間の心に呼びかけることで戦闘力を下げることが出来るのは君達も知っての通りだ」
     闇堕ちしかけている一般人を救うにも戦闘してKOする必要があり、どのみち戦いは避けられない。ならば、心の中で己の闇と戦う少女を言葉で加勢することで戦いを有利に進めることも出来るはずだった。
    「闇堕ちは失恋とれいらの愛するモッツアレラチーズが餅に負けたと言う思いこみに端を発する」
     故に餅にチーズが負けたという誤解を解くか、モッツアレラチーズの良いところをあげるなりして励ますこと出来ればれいらの意識も変化することだろう。
    「戦闘になれば少女はご当地ヒーローと影業のサイキックに酷似した技で応戦してくる」
     影のかわりに操るのは変形させたチーズっぽいものだったりするかもしれないが、それはそれ。
    「この季節に上半身裸では風邪をひきかねない」
     それを防ぐ為にも少女の凶行は防がなくてはならない。
    「むろん、このままダークネスの生まれてしまう結末もな」
     宜しく頼むと頭を下げたはるひに見送られ、君達は教室を後にするのだった。
     


    参加者
    ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    雪乃城・菖蒲(黒と等しき白・d11444)
    虚未・境月(月渡り・d14361)
    月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)
    逆月・真神(噂程度の殺人鬼・d22419)

    ■リプレイ

    ●介入せし者
    「阿津」
     姿を変え行く少女、だが事態を呑み込めないながらも少年はもう一度声をかけようとした。直後に自分を待ち受ける結末など知らずに。
    「っ、うわぁぁ」
     だが、少年は最後まで言い終えるよりも早く身をすくませ、悲鳴を上げて少女に背を向けた。
    「ここから逃げ……って、その必要もないかな」
     殺気に当てられた少年の反応は一般人であれば是非もないが、声をかけようと振り返った時には既に走り出していたことに新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)は苦笑する。元々相手は一人、雪乃城・菖蒲(黒と等しき白・d11444)が退路を確保していたこともあって、逃げ出す者を遮るものは何もない。
    「ふざけ……」
     結果、激昂したご当地怪人の腕は少年の身体を捕らえかね。
    「失礼致します。申しわけありませんがストップ、です」
    「モッツア?!」
     空を切りかけた元少女の手が掴んだのは、神凪・燐(伊邪那美・d06868)が手にしたWOKシールドの端だった。
    「だ、誰モッ、モッア」
     灼滅者達からすれば、割り込むことで何とかご当地怪人チーズモッツア・レーラことれいらの凶行を防いだ訳だが、誰何の声を上げるのはいきなり見知らぬ相手が立っていれば当然のことだろう。
    「わ、わたっ」
    「うわっ」
     背後に回り込んだ逆月・真神(噂程度の殺人鬼・d22419)へいきなり膝カックンされたことで途中から悲鳴に変わっていたがそれはそれ。ちなみにモッツアの直後に漏れた声は、そのまま倒れ込んできたに押し倒された真神のあげたものだったりする。
    「あの方も、餅屋なんてよけいなことを言わなければ……」
     エクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053)が見つめる先、全力で駆け出した少年はもう随分小さくなっていた。
    「あー、その、だな?」
     見た目だけなら際どい水着少女が人間ベッドの上で仰向けになったの図。ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)の放った殺気によりシャツを破られるはずだった少年が逃げ出し、目撃者が灼滅者達のみであったことが救いになるかはわからない。
    「餅とモッツアレラチーズと比べるなど言語道断!!」
     ただ、真神は何事もなかったかのようにご当地怪人を脇にのけて立ち上がると、真っ先に口を開いた。
    「い、いきなり何するモ」
    「それ即ち、野球選手とサッカー選手を比べるほど無意味なことだ!! そんなことを言う貴様は心のどこかでモッツアレラチーズが餅に負けていると思っていることだ!!」
     とりあえず不意打ちで膝カックンされたことについて抗議しようとしていたモッツアもこれは聞き逃せなかったらしい。
    「ち、違うモッツア! 『も』から始まる白い食べ物、見た目だって――」
     頭を振って始めた弁解は、答えにはなるだろうか。
    「餅とモッツァレラ、方や穀物、方や乳製品、何 を 持 っ て 比 較 し ろ と ?」
     と言う、話を聞いてヴァイスが心に浮かべた疑問というかツッコミの。
    「荒れるのもいいかげんにしてください!」
    「モ、モッア」
     ともあれ、もはやご当地怪人の意識は逃げ去った少年から完全に灼滅者達へと向いていた。と言うか、エクスティーヌの一喝はご当地怪人を萎縮させた。
    「チーズがお餅に劣るとは思ったことがないよ」
    「だいたい、チーズとお餅を比べたりしません」
     そして、月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)の言葉に続ける形で、元少女の思い違いを否定する。
    「違う……モッツア?」
    「ええと。とりあえずさっきの人が好きなのはモチじゃなくてモチ屋の女の子だからね。って聞いてる……?」
     ご当地怪人は呆然としていたが、虚未・境月(月渡り・d14361)の呼びかけのように事の始まりは勘違いだったのだから。

    ●魅力
    「モッツァレラチーズか」
     少女を見たままで、辰人は呟く。別に豊かな二つのモッツアレラチーズに目がいった訳ではない。そう言う意味では枯れていた。
    (「チーズで押してるのか、服装で押してるのか、餅と対抗で押してるのか、判断に苦しむご当地怪人だね……」)
     大まじめにもっと別の事を考えていたのだ。口に出したら何処かからきっとツッコミが入っていただろうが。
    「日本では近年メジャーになってきたものだね」
    「癖も香りも強いブルーチーズは日本人に余り好まれない。だが、味も香りも癖が無いモッツァレラチーズは世界で万人に受け入れられ、評価され、浸透する程のチーズ」
     かわりに口をついて出た言葉にヴァイスが続き、ちらりと仲間達を見る。
    「そうですね、モッツァレラチーズは癖が無く、私もグラタンやパスタに良く使いますね。重宝する優秀なチーズです」
    「モッツアレラチーズは歯応えがあって美味しいんです。それを嫌いになる人なんていません!」
     肯定するように燐が頷けば、「絶対じゃないけど」と言う言葉を端折ってエクスティーヌが断言する。
    「ほ、本当モッツア?」
     闇堕ちを招いたのが絶望であるならば、チーズへの賞賛は希望。
    「俺さ、個人的には和より洋の方が好きなんだよね。特にイタリア料理。モッツァレラチーズを素直にサラダに入れて食べるとか、パスタに入れて風味をまろやかにするとかすごく好きだよ」
     灼滅者達の言葉に周囲を見回したご当地怪人へ境月は徐に頷いて告白する。
    「うぅ……」
     好きなのはチーズであるが、それでも少女にとっては救いだった。
    「チーズは種類豊富ですし……沢山料理で使われていて、良いとこばかりですよね~。ピザとかに欠かせませんしねぇ~」
    「クセが弱いから、一般的な日本人でも食べやすい。トマトと合うから、カプレーゼとかピザとかにも合うか」
    「おもちにチーズも美味しいんですよね~あべかわ餅っぽくして……カロリーさえ気にしなければ……」
     お腹の減っている人が夜中に聞いたなら、夜食テロかとも取られかねない言葉は、きっと敗北感に苛まれていたれいらには心地よく。
    「そうモッツアよ、なのに何故」
    「失恋したのはチーズだからではありません。あなた自身の魅力が負けたからです!」
     理解者を得たと思ったからこそ出た愚痴に答えたのは、エクスティーヌだった。
    「チーズを理由にしないで、しっかり現実を見てください!」
    「貴女が思っているより、モッツアレラチーズは愛されていますよ?」
    「な、……ふふふ、そうモッツアか。良かった。負けた訳じゃないとわかって安心した。なのに何故涙が止まらない……モッツア?」
     叱責の声と励ます声に目を見開いた元少女は、晴れやかな笑みを浮かべつつぽろぽろと涙をこぼす。誤解は、解けたのだ。
    「きみはそんなモッツァレラチーズが好きなのだろう? そして、彼も好いていると。それなら、暴力や好みではなく、魅力で彼を振り向かせてみればいいよ」
     もっとも、灼滅者達の話は此処で終わらないのだが。
    「も、モッツア?」
    「そうですよ。ただ、闇墜ち八つ当たりは今回は場違いですし」
     思いがけない言葉に声の主を捜そうとしたご当地怪人が目に留めたのは、殲術道具を手に頷いた菖蒲の姿。
    (「さてさて~お餅も好きですが、チーズも美味しい季節ですからねぇ~。変なことになる前に、助けてよい年末にしましょうか~」)
     説得はまだ終わらない、だがここからは説得だけでもない。
    「お話する為に……叩かせて頂きます~」
    「な」
     短い音を発した直後、足下まで伸びていた菖蒲の影がアギトの中にモッツアを呑み込み、口を閉じる。
    「黒き奔流に飲まれて沈みなさい……」
     閉じられた影の口から漏れる悲鳴をBGMに影は沈みだし。
    「っぷは、何するモッツア!」
    「あなたを救うため、全力でいきます」
     影をこじ開け、飛び出たご当地怪人へ今度はエクスティーヌが影を繰った。
    「っ、きゃぁぁ」
     極限まで薄く、鋭い刃に変わった影法師ははち切れそうだった布地ごと元少女の身体を切り裂いて。
    「うっ、く……」
    「要するに、あの彼は見た目も大人しい女性の方が好みなのだろう? それこそ餅のように、飾り気のない癖のない女性」
     傷を押さえながら後ずさるモッツアに、ヴァイスは言う。
    「正直言って、君は女の私から見ても恰好を含め刺激が強すぎる」
    「それ、何割かはあの影のせいモッツア!」
     抗議しつつもご当地怪人が衣服を押さえっぱなしなのは、手を放すと何かが零れ出てしまうからなのかもしれない。
    「むぅ」
     もちろん、だからといって攻撃や説得を止める理由にはならないのだが、モッツアの言うことにも一理ある。
    「モッツァレラチーズとは味も香りも、癖のない優しいもの。それでは世界に認められる、万人受けするモッツァレラチーズのような素晴らしい女性とは言えないぞ」
     と相手をスルーして説得を続けることも選択肢にはあるが、真面目で几帳面な性格のヴァイスがその抗議をさらりと流せるはずもなく。
    「だから、この部分を何とかするまで攻撃はやめべっ」
    「あ」
     考え込んでしまったヴァイスの前で、調子に乗ったご当地怪人の身体を巨大化した腕が押し潰した。

    ●たたかいのじかん
    「さて。……遊ぼう、僕と」
    「うぐぐ、ふざけるなモッツア! さっきの、遊びってレベルじゃなく痛かったモッツアぁぁ!」
     のしかかっていた腕をはね除け、仮面を付けた巴の顔を涙目でモッツアが睨み付けたのは、つい先程のこと。
    「きみがチーズを好きだという情熱があるのなら、可能性は見える気がするね。さぁ、おいで。僕らがきみを、いい女にしてあげよう」
    「言われなくとも、さっきのお返しモッツア!」
     だが、気がつけば夕暮れの通学路は完全な戦場に変わっていた。
    「私にも闇堕ちから救出した子が居ます。貴女と同じ力を持ってます。もちろん、貴女もぜひ助けたい」
    「っ、何を……あ」
    「お前を、切り裂いてやる」
     形を変え、凶器と貸したチーズをけしかけた元少女が巴を庇う形で盾になった燐の言葉へ微かに怯み、放出されるどす黒い殺気への反応が遅れたところに別方向から襲いかかるのは、解体ナイフの切っ先。
    「きゃあっ……あ、あっ、あ……見るなモッツアァァ!」
     ギザギザに変形した刃は、悲鳴を上げるご当地怪人の水着を引っかけて、状況を悪化させた。
    「いい女ってそう言う意味だったモッツアか?!」
    「違う、違うよ?」
    「何たる卑怯、セクハラ反対モッツア!」
    「だから違うって聞いてる……?」
     狙ってやった訳ではないだろう。だが、憤るモッツアは境月の言葉に耳を貸す様子はなくて。
    「よいしょ」
    「こうなればこっちも対こはべらっ」
     一人盛り上がっているところに境月はマテリアルロッドを振り下ろした。ツッコミではない、所謂フォースブレイクである。
    「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
    「むきぃぃぃ」
     派手にぶっ叩かれたご当地怪人は、巴の声にいきり立つと立ち上がるなりそちらを追いかけ出す。何だか灼滅者達に遊ばれているようにも見えるが、それだけ説得が効いて弱体化しているのだろう。だと思いたい。
    「逃げるなモッ、わ、た、たっ」
     一矢報いようとムキになるモッツアが、何かに足を取られて手をばたつかせつつバランスを崩したのは、この直後。
    「捕まえた」
     触手に変じた影でご当地怪人の足を捕まえた真神は、獲物を捕らえたまま周囲を見回した。
    「今がチャンスだよ」
     弱体化した上、バランスまで崩しているのだ。
    「ちょ、ちょっと待」
    「すみませんね」
    「流石にそれは出来ない」
    「も、モッツアーッ!」
     流石に灼滅者達は待ってはくれず、サイキックが降り注ぐ。
    「はぁはぁ、まだモッツア」
     それから暫し、弱体化しつつもよく耐えたものだろう。あちこちを斬られた水着姿で、傷だらけのチーズモッツア・レーラは再びチーズを刃に変える。
    「せめて一太刀ッ、あぁぁぁ!」
     振るわれたチーズの刃。
    「ごめんね」
    「な」
     これと切り結ぶかと思われた巴の殲術道具は非物質化してすり抜け。
    「モツァ」
     身体に達した一撃に霊魂と霊的防護を傷つけられたご当地怪人の身体が傾ぐ。
    「この程度ッ」
     にもかかわらず、顔を歪ませつつモッツアはアスファルトを蹴って飛ぶ。
    「もう一度自分を見つめ直してみろ」
     その先には真っ直ぐれいらを見つめている人が居た。
    「「くっ」」
     視線を合わせられず微かに目をそらしたせいか、刃は想定の場所を大きくそれ苦々しげな声と斬りつけられて漏らした声が被る。
    「回復だって出来ますとも、ジャマーばかりじゃないんですよ~」
    「しまっ」
     傷は浅い、しかも即座に対応されたとなれば、動揺と攻撃に集中するあまり注意が散漫になったこの時は灼滅者にとって攻撃のチャンス以外の何ものでもない。
    「餅なんかに負けない程に、強く」
     癒しの力を込めた矢を撃ち出した直後の菖蒲にも見えていた。自分の矢を身体に突き立てたままのヴァイスが拳にオーラを集めモッツアへ肉薄する姿が。
    「頃合いだね」
    「モッ」
     連続で繰り出される拳に翻弄されるご当地怪人の身体を飛来した光刃が切り裂き。
    「ぐぅぅ、私は、私はぁ」
    「助けたいんです、だから」
     燐の片腕が膨れ上がった。異形化し、敵を押し潰す為の質量を得たそれは、よろめくれいら目掛けておちて行く。
    「まだ、まだモッ」
     少女の中の闇からすれば最後の抵抗か、自分にのしかかる巨大な腕を受け止めようとしたモッツアは。
    「戻っておいでよ。モッツアレラチーズの良さをわかってくれる人がきっと現れるから……今はじっと我慢しよ」
    「っ、きゃあぁぁ」
     別方向から繰り出された縛霊手の一撃に殴り飛ばされると、元の少女に戻りながらアスファルトの上に倒れ込んだ。

    ●帰還
    「私……」
    「めげないでくださいね。モッツアレラチーズへの愛が無限なように、愛は尽きるものではないのですから」
     全てではないものの、闇堕ちしかけていた時の記憶もいくらかはあったのだろう。身を起こし、暫く俯いたままだった少女は、エクスティーヌの声に頷き、ありがとうと礼を口にした。
    「他の方もありがとうございます、その……」
     もちろん、言葉一つで誰もが全てを吹っ切れると言う訳でもない。失恋したのは事実であり、少女の、れいらの顔には何処か影があったのだから。
    「まぁ、これはご丁寧に。では、色々話したいこともありますが……その前にケーキバイキングでもいきましょう!」
     故に、言葉を返しつつ菖蒲は提案した。
    「奮発して奢っちゃいますよ~失恋にロンリーがなんだ!! ですよー♪」
     散財も恐れない、ただ一人の少女が持ち直してくれることを願い。
    「でしたら、チーズケーキの種類が多いお店を」
     思いが通じたのかれいらは笑みを浮かべると、更に言葉を続ける。
    「ただ、その前に着替えてもいいですか」
     と。そう、辰人に渡されたコートを羽織っているとはいえ、彼女の服はボロボロになって居たのだ。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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