横須賀斬艦行

    作者:真壁真人

    「ハッ!!」
     どこか稚気の宿った少年の声が山に響く。一直線に繰り出した拳は衝撃を生み、山の斜面を崩壊させた。
     自分に向けて雪崩れ落ちて来る木々を見据え、銀髪の少年は長大な無敵斬艦刀を取り出し、握る手に軽く力を籠める。
     斬艦刀の柄は、本来のそれと変わらぬ金色。しかし、刃は漆黒に染まっていた。
     体を覆う赤いオーラが刃を伝い、刃の突端にまで達するのと、降り注ぐ木々が剣の間合いに入るのは同時だ。
    「……」
     軽く息を吸い込んだ瞬間、少年の手が霞んだ。降り注ごうとしていた木々は跳ね返されたように宙を舞い、落下して跳ね返されるたびごとに、形を小さく変えていく。
     やがて少年が無敵斬艦刀を降ろすと、カンナ屑のような薄い木屑と見まごうまでに切り刻まれた樹木の残骸が周囲に散らばった。
     常人はおろか、灼滅者すらも遥かに超えた身体能力。
     だが、それを発揮した少年はどこか不満げな顔をしていた。
    「何か物足りないなぁ……」
     修行の定番といえば山籠もり。
     以前から行いたいと思っていたことではあるが、これを繰り返していたところで、到底強くなるようには感じられなかった。
    「やっぱり斬るものが悪いのかな?」
     手にした無敵斬艦刀をジャグリングのように指先だけで宙に投げては受け止め、弄びながら少年は小首を傾げる。
     ふと魂の奥で、ざわめくような不快な感触を覚え、少年は苛立ち紛れに落ちて来る斬艦刀を蹴り飛ばした。斬艦刀が回転しながら、乾いた音を立てて深々と岩に突き刺さる。
    「……そうだ! いいこと閃いた!」
     少年は無敵斬艦刀に駆け寄り、それを引き抜いた。
    「こいつは無敵斬艦刀……やっぱり戦艦を斬らないと! 確か横須賀に海軍基地とかあったよな」
     今は戦艦が停泊しているのか知らない。が、無ければ無いで目についたものを斬るだけだ。そう思いながら、彼は素早く荷物をまとめる。
    「原子力空母とかあるかな? あれなら少しは硬そうだし……それに、あの闇を受け入れる度胸もない弱虫達が出て来るかも知れないしね」
     冬の海を目指す少年の足取りは、呟く内容とは裏腹に軽い。今の彼にとって、鍛練の過程で周囲に生じる被害など、考慮の内に入ろうはずもなかった。
    ●横須賀斬艦行
    「皇・銀静さんのことは知っている?」
     集まった灼滅者達に、エクスブレインの須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)がそう尋ねた。
     『スサノオ』の封印が解かれる現場となった四日市殲術病院での戦いで闇堕ちした灼滅者、皇・銀静(銀月・d03673)。
     戦いの後に殲術病院から姿を消した彼が、ダークネスとして事件を起こす未来が予測されたのだという。
    「ダークネス化した銀静さんは、神奈川県の横須賀市に現れるみたい」
     銀静の闇堕ちした姿たるアンブレイカブルは、横須賀の米軍施設を目指している。まりんが読み取った未来予測情報によれば、彼は純粋に鍛練を目的としているようだ。
     アンブレイカブルらしいというべきか。
    「彼は軍艦を斬ろうと海軍基地に向かってる。みんなには、闇堕ちした銀静さんが基地に辿り着く手前で迎え撃って欲しいの」
     基地の軍事力など、ダークネスの前では何の役にも立たない。勝利しうるのは、そして銀静を元の彼に戻しうるのは、武蔵坂学園の灼滅者達をおいて他にない。

    「闇堕ちした銀静さんが、施設の入り口に現れたところで戦いを挑むのが確実みたい。強者との戦いを求めるアンブレイカブルとしての意識を利用すれば、簡単に戦いに持ち込めると思うよ」
     元より相手には逃げるつもりもないだろう。
     説得するには絶好の機会だと、まりんは力説する。
    「銀静さんは、無敵斬艦刀と、ストリートファイターのものに似たサイキックを使うみたいだね。ただ、闇堕ちして本来よりもずっと強くなってるから、その点には注意してね」
     だが、その危険を冒さねば、仲間を助け出すことは出来ないのだ。
    「くれぐれも気をつけて。頑張ってね!」


    参加者
    東谷・円(ヤドリギの魔法使い・d02468)
    長瀬・霧緒(開国天使ペリリーヌ・d04905)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    桐淵・荒蓮(殺闇鬼・d10261)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    時雨・翔(ろくでなし・d20588)
    ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)

    ■リプレイ

    ●遭遇
     在日米軍横須賀基地の正門前で、灼滅者達はアンブレイカブルの少年と対峙した。
    「銀静、奇遇だな。お前も観光か?」
     ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)がごく自然に声を掛ける。【円卓世界】に席を連ねるユーリーの言葉は相手が闇堕ちしていなければ自然なものだっただろう。
     だが少年は言葉に対し、手にした大剣を向けて応じる。
    「なんか人がいないと思ったら、君らのせいか。戦艦斬りツアーのオマケかな?」
     少年が片手で弄んで首を傾げる。
     周囲は長瀬・霧緒(開国天使ペリリーヌ・d04905)とギーゼルベルトのESPによって隔離され、余人が入り込まないようになっていた。周辺被害を抑えることを目的に行動する有無の存在もある。
    (「端々に見える仕草が銀静本来のものと違いますね」)
     銀静が所属している【赤松式地下リング】の部長である赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)はそう感じる。
     東谷・円(ヤドリギの魔法使い・d02468)は少年の言葉に鼻白んだように言った。
    「俺達はオマケかよ……しかし、原子力空母とは、またロマンを分かっているじゃないか。けど、ダークネスの意見じゃ却下だな」
    「へぇ? じゃぁどうするつもりかな?」
     期待するように笑いながら少年が続きを促す。
    「戦艦とはいえ、動かないものを斬ったとて大したことはないな」
    「動かないものを斬るより僕らのほうがやりがいはあると思うよ? 当たればだけどね」
     ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)と時雨・翔(ろくでなし・d20588)が不敵に告げた。淳・周(赤き暴風・d05550)が言葉を重ねる。
    「アタシらとやった方が修行になると思うぞ?」
    「私達の勝負の申し出、闇を受け入れた貴方がまさか断りませんよね?」
     問いただすように言った鶉に、少年はわざとらしく刃を向ける。
    「熱烈なお誘いだね。それじゃ戦艦の方は君達を倒した後にしよう」
    「フッ……そう簡単に通れると思っているのか?」
     そう声を向けたのは、殺界形成で周囲を無人にしていた霧緒だ。赤いマフラーに正義の心と横須賀へのご当地愛をみなぎらせ、敢然と言葉を放つ。
    「横須賀で狼藉を働こうというのなら、この横須賀のご当地ヒーロー、開国天使ペリリーヌを倒してからにしてもらおうかァッ!」
     回した腕を鋭く伸ばし、霧緒はスレイヤーカードの解除コードを口にする。
    「変ッッ……身ッッ!」
     一瞬の閃光が迸った。
     そして現れるのは、水兵服と水着に身を固めた横須賀のご当地ヒーローの姿だ。
    「ご当地ある限り戦うぞッ! この命、燃え尽きるまでッ!」
    「実は男とかいうオチ無いよね」
     拍手をしていたアンブレイカブルに、桐淵・荒蓮(殺闇鬼・d10261)が歩み寄る。
    「ん、何か用?」
    「俺達は、お前の中で戦ってる銀静を助けに来たんだ。お前に用はない……すっこんでろダークネス」
    「へぇ……」
     少年の顔が一瞬歪む。
     瞬間、硬い物の砕ける激音が基地前に響いた。

    ●強弱
     音の源は、少年の足元だった。
     強烈な踏込みに耐えかねたアスファルトが砕けたのだと、頭で理解するよりも早く荒蓮の体は反応している。
     横殴りの斬撃が荒蓮の咄嗟に構えた日本刀と噛み合うが力が均衡したのは僅かに一瞬、アンブレイカブルの強烈な膂力は荒蓮を吹き飛ばさんとする。
    「そう易々と……!」
     アスファルトに刀を突き立て、堪える荒蓮の後を追って、少年は灼滅者達の只中に飛び込んで来る。それを迎撃する形で、鶉がオーラに包まれた拳を打ち込んだ。
     大剣を引き戻し、鶉の拳を捌く少年を目掛け、ワルゼーが槍を携え突き進む。
    「我らはお主に縁のあるたくさんの人の想いを受けてここに居る。彼らのためにも、お主にそのような愚行を行わせるわけにはゆかんのだ!」
     螺旋を描きながら突き込まれた槍が少年を貫く寸前、剣気が少年の手にした大剣から噴き上がる。
     穂先が剣風に絡め取られ、槍の穂先は少年を掠めるに留まった。
    「やるじゃん」
    「浅いか!」
     少年とワルゼー、双方の口から声が漏れる。
    「皇を……仲間を守る為に頑張った想いを救うために! 燃えろ、アタシの炎!」
     周の拳から、炎が轟然と噴き上がる。
     ワルゼーから距離を取った少年の胸に、魂を乗せた炎は一直線に突き込まれた。
    「力を求めるのは何の為だ? 力それ自体が目的じゃないだろう。少なくとも、灼滅者である皇は!」
    「うざったいんだよ!」
     顔をしかめた少年が、拳を引こうとした周を大剣を持つのと逆の手で自分の方へと引き寄せる。杭打機のような勢いで、強烈な膝が周の腹に叩き込まれた。
     揺れる体目掛けて大剣が振り下ろされようとした瞬間、ペリリーヌが斬り込んだ。
    「同じ横須賀に来るなら、海軍カレーでも食べるだけに済ませなさい!」
    「じゃあ君達を倒した後で食べさせてもらおうかな!」
     突き出される切っ先が受け止められようとした瞬間、刃は非実体化した。すり抜けるように駆け抜けたペリリーヌの刃が少年の肩口を切り裂き、彼女はそのまま再び少年から距離を取る。
    「ったく、婚約者とか、色んな女の子達に心配を掛けて……これは全力で叩いて連れ戻してあげないとね!」
     翔の呼び寄せた雷が反撃に出ようとした少年を立て続けに襲った。
     雷に耐えきった少年が駆け出し、嵐のような勢いで剣を振り回す。翔とユーリーのサーヴァント達がその身を挺して荒れ狂うアンブレイカブルの剣から灼滅者達を守った。
     ユーリーは、暴虐を繰り広げるアンブレイカブルに向けて告げる。
    「弱くなったな、銀静」
    「自分の闇を受け入れることもできないような奴が何言ってんだ……僕は強い!」
     一面ではそうだ、とユーリーは思う。単純な力量では自分は本来の銀静にすら届かない。しかし、だ。
    「銀静……君は今、何を思って剣を手にしている?」
     彼が説くのは騎士としての心構えだ。仲間達の傷が、彼の手から放たれる光に癒されていく。
     荒蓮と周が影業を引き伸ばし、少年の足元から巻き付けんとする。強引にそれを引きちぎる少年に、ユーリーは続けた。
    「力を求めることに、私も異論はない。だが、今の君はどうだ! 今の君の剣は以前よりも鈍く、輝きも感じられない!」
    「だったら僕に斬られた仲間の前で、同じセリフを吐くといいさ!!」
     強烈な踏込と共に、大剣が振り下ろされた。灼滅者達の立つ地面に震動が走る。だが、受け止めた鶉は交差させた両腕を深く切り裂かれながらも、その一撃に耐え切っていた。
    「受けきって見せますのよ、艦は切れても、私の体は切れません!」
    「剣とは己を映す鏡なり……何度でも言ってやろう。今のお前は弱いのだと!」
    「今こそ……その剣の意志! 折れぬ闘志を示せ銀静!」
     今は黒く染まった騎士剣。その由来を剣は思い出させようと言葉を紡ぐ。
    「ああ、そうだよな……お前なんかに負けるかって!」
     苦々しい表情を作る少年が再び攻勢に出るより早く、円の弓から癒しの力を宿した矢が放たれた。
    「無茶するぜ、全く」
    「けど、やらなきゃならないことだからね」
     円に続いて翔も鶉を守るよう、リングスラッシャーを差し向ける。
     鶉の負ったダメージは、円の一矢だけでは到底足りないほどに重い。だが、それだけの威力を受けてなお彼女も、そして他の灼滅者達も退かず果敢に敵に立ち向かっていく。
     自分達が仲間を取り戻せると強く信じること。
     それこそが灼滅者達が闇に堕ちた仲間達を救い出す、第一の条件に違いなかった。
    「デモノイドヒューマンの人を救ってくれたのなら……」
    「なら、その恩義に応えなければデモノイドヒューマンじゃねぇよなぁ!」
     光琉とライが放った蒼色の閃光が、ダークネスの体を貫いていく。

    ●剣嵐
     周とワルゼー、2人の拳は間断を入れずに少年に向けて繰り出され続ける。
     2人の拳と少年の振り回す大剣は幾度もぶつかり合い、舞い散る炎とオーラが冬の横須賀の空気を熱く燃え上がらせていた。
     攻撃を捌きながら少年が繰り出して来る重い攻撃は、荒蓮と周が強引に受け止める。
    「銀静、俺は今回お前を本当にすごいと思った! なんたってあの状況で死者の一人も出してないんだからな! 後の手助けくらいは俺たちにやらせろ!」

     【赤松式地下リング】の部員たちは、彼らの仲間を取り戻すべく、部長の鶉とワルゼーを補佐し、銀静に次々と声を投げ掛けていた。
    「まだ戻らぬか! そなたの魂はその程度でござるか?」
    「銀静ちゃん、お願い、戻ってきて! ダークネスなんかに負けないで! 聞こえてるんでしょ?」
    「銀静さん! これだけの人があなたを待っています。それでも尚闇に飲まれたままですか! そんな弱い人と同じ部になった覚えはありませんよ! 負けるなーー!! かえってこぉーーい!!」
    「銀静おにーちゃん、負けたらめ~なの! おっきな狼とだって戦ったおにーちゃんは、自分の中のだーくねすには負けないの! だから戻ってきてよ!」
    「銀静サンがクラブに入ってカラ、マダ話し足リナイ。マダ競い合ってナイ」
    「皇さんの帰りを待っている人はたくさんいます。どうか闇の力に負けないでください」

     灼滅者達の言葉は、確実に魂の奥に隠れた銀静の心を揺さぶり、目覚めさせようとしているようだった。
     だが、少年と銀静は二心同体。ダークネスと灼滅者、肉体を御する魂はどちらか片方だけだ。己の存在が再び魂の奥底に押し込められようとする窮地に、ダークネスの攻撃は一層激しくなる。
    「どいつもこいつもウザいなぁ! すぐにこいつら殺して、お前を黙らせてやる!」
     魂中の銀静へと吐き捨てる少年の手にした大剣はその性能を十二分に発揮し、近くにいる灼滅者達を確実に傷つけていた。
     霧緒の放った光線が少年の注意を逸らすが、それも一瞬のこと。僅かな時間で少年は冷静さを取り戻し、前衛達へと攻撃を繰り出して来る。
    「元がストリートファイターだけのことはありますか」
    「さっさとケリをつけないとな」
     弓を引き絞り、続けざまに癒しの矢を放ちながら円は呟いた。
     円やユーリー、さらに翔までが回復に回っているが、一撃一撃の重さが最大の障壁だ。癒せる範囲にも限界はある。
    「待て御調、まだ危ない! 攻撃が……」
     荒蓮の言葉に、鶉はちらりと後ろを見た。
     銀静の婚約者たる御調が、銀静の元へ近付こうとしているようだった。
     彼女が前へ出ようとするのを制止する荒蓮。だが、御調の纏う雰囲気に彼は勿論、義兄の神流も制止の言葉を飲み込む。弟泰河はもはや制止する気もない様子で、彼女の行動を援護する。
    「動きを止めてくれ!」
    「承知した」
    「事情は知らんが、やるまでさ!」
     リングスラッシャーを放つユーリーに、ワルゼーと周が同意を返す。
     ここが正念場と攻撃の応酬を加速させ、少年を釘づけにする。だが、逃げられなくなるのは2人にしても同じことだ。切り裂いていく剣撃を、荒蓮が受け止める。
    「俺は大丈夫だ……それより御調、お前の想いを、思い切りぶつけてやれ……っ!!」
    「皇! お前自身が本当に、心から……一番待ってる奴がそこにいるんじゃねーのか?」
     もはや限界に達しつつある荒蓮を癒しながらの円の言葉に、少年の顔が何かに苦しむように歪み、動きが止まった。
     その隙を逃さず、彩愛が少年を御調の眼前へ投げ飛ばす。かたずを呑んで見守る灼滅者達の前で少女はおもむろに口を開き、右腕を振るった。
    「銀静……今すぐ即刻可及的速やかに帰りなさい……でないと婚約破棄するわよっ!」
     渾身の鬼神変が、闇堕ち中の彼女の婚約者の顔面を殴り飛ばした。

    ●奪還
    「……凄いな」
     感心するように荒蓮が呟き、他の灼滅者達も唖然とした表情を浮かべた。ダメージ自体はさほどでもないようだが、ダークネスも流石に虚を突かれたと見えて動きを止めている。
     これぞ好機と、翔は銀静に問いかける。
    「君にとって彼女は、どれだけ心配を掛けようがどうでもいい程度の存在なのかい?」
     自分にも止めてくれる人がいたのなら、大切な相手を失わずに済んだだろうか。それは、翔自身にも分からない。だが、翔が女の子の悲しむ顔を見たくないと思っていること、それだけは確かだ。
     大切な人を失わせる悲しみを、女の子に味合わせて良いはずがない。
    「違うよね? 君には、まだやることがあるよね?」
     顔をしかめた少年が振るう刃を、鶉がオーラを宿した手で掴み止める。それでも止めきれない威力に、崩れ落ちながら彼女は告げる。
    「あなたと共に行動した仲間は全て生きています。あとはあなたが闇に打ち勝つだけ! 絶対に斬れないもの……絆の力を闇に見せてあげてください!」
    「ああそうだ、スサノオを前にして怯まず、皆を守ろうと選択したオマエの『覚悟』を、俺達は知っている」
    「お主にダークネスとなる覚悟はいらぬ。灼滅者として、銀静として、大切な者達の元に戻るべきじゃ」
     共に戦った治胡、そして彼女や銀静によって闇堕ちから救われた雪が、鶉の言葉を肯定する。
    「なら今度こそアイツの仲間を死なせてやるさ!」
    「させるものか!」
     ダークネスが苦し紛れに繰り出した大剣はユーリーの霊犬を消滅させるが、続く一撃をワルゼーが手にした剣で受け止めるだけの時間を作った。剣を通じて伝わる衝撃に体を軋ませながら、彼女は強引にその切っ先を剃らし、決定打を免れる。
    「……軽い! 信念の無い刃では戦艦は斬れても、我々の絆は切れはせぬ!」
     御調が語った言葉を思い出しながらワルゼーは剣を押し込んでいく。
    「たとえ勝利しようとも、銀静殿が無事に帰って来なければ、何の意味もない!」
    「俺は知っているぞ。銀静は約束を破る男ではない。御調と約束しただろう、必ず戻るって。あと一息だ、頑張れ!」
    「君はまだダウンを取られただけだ! レフェリーのカウントは続いている! 今こそ立ち上がれ! 皆の声援が聞こえないのか!」
     荒蓮の言葉に合わせ、ペリリーヌの放つビームが横須賀の空気を切り裂く。灼滅者達の叱咤激励が、少年の魂を揺さぶるのがありありと感じられた。
    「思い出せよ! 剣を振うのは独りじゃなく共に歩む仲間の為だろう!」
     熱き魂を宿した周の拳が、少年の胸を衝く。
     冬の港町に響く打撃音。そしてダークネスは苦笑を浮かべた。
    「……認めてやるよ……君らの強さを……後あいつにもっと強くなれって言っとけ」
     倒れ込む少年の姿は銀静本来のものに戻っていた。手にした大剣が、本来の金色を取り戻していく。駆け寄る灼滅者達に周は告げた。
    「よし、撤収するぞ! 再会を喜ぶのは後でもできる。学園に帰ってから、だ!」
    「え、闇堕ち復帰記念に横須賀ツアーとかどうですか……?」
     霧緒の言葉を聞き流し、灼滅者達は帰還の途につく。
    「灼滅者の宿命とは、誠に厄介なものだなぁ……」
     取り戻した銀静を囲む仲間達の姿に、ワルゼーは喜びと達成感を感じつつも、改めてそう痛感するのだった。

    作者:真壁真人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 5/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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