アンタ、ケツがガラ空きだぜ！

■リプレイ

●誘う尻
「本当に……、居たんだね……。こんな都市伝説……。とりあえず私に被害はなさそうだけど、男性陣の覚悟は半端無いだろうな……」
　来海・柚季（幻想の雪花・d14826）は乾いた笑いを響かせながら、都市伝説が確認された繁華街に向かっていた。
　都市伝説が現れてからと言うもの、この辺りでは一気に人気が無くなり、依頼に参加した男性陣も妙にピリピリとしていた。
　おそらく、ここで気を抜けば……掘られる！　と言う危機感があるのだろう。
　みんな必要以上に背後を気にしているようだった。
「人の気配のない街とは此処まで寂しいものか……。おのれ都市伝説、早々に退治せねば！　……色々な意味で」
　六文字・カイ（死を招く六面の刃・d18504）は、色々な意味で危機感を覚えていた。
　ブロック塀には血文字で『尻ガードは無意味』と書かれており、事態の深刻さを物語っていた。
「最近、聞かないから、出ないと思ってたのに……。ああ、冬だからか……」
　妙に納得した様子で、栗原・嘉哉（陽炎に幻獣は還る・d08263）が溜息を漏らす。
　さすがにこの寒さでは、変態も外には出てこない。
　だが、その変態が都市伝説となれば、話は別。
　寒さなんて、何のその。むしろ、ライバルが減って、やりたい放題し放題。
　自らの欲望を発散すべく、スキップ感覚で、変態行為に勤しんでいるのかも知れない。
「どちらにしても……、背中を見せたら終わりとかいう奴ですね。一体、私は何故この依頼に顔を出したのでしょうか？」
　そんな疑問を抱きつつ、ヴォルフガング・シュナイザー（Ewigkeit・d02890）が首を傾げた。
　最悪の場合は、都市伝説によってその身を汚され、一生癒える事のないトラウマを植え付けられてしまう可能性さえあるような依頼……。
　それが分かっていながら、何故参加してしまったのか。
　その余裕が分からぬまま、都市伝説が確認された現場に向かっているが、流石に尻は渡せない。どんな事があっても、掘られる訳には行かないのである！
「それでも、見た目や台詞を聞く限りは、普通にかっこ良さ気なんだがな。ガチホモでなければなぁ……」
　困った様子で頭を抱え、禍薙・鋼矢（剛壁・d17266）が汗を流す。
　一番の問題的は、それ。それだけである。
　気を抜くと、一瞬でやられる……！
　それが分かっている以上、ここで気を抜く訳にはいかない。
　鋭利な刃物の如く感覚を鋭くさせて、都市伝説の奇襲に備えねばならなかった。
「まあ、好みは人それぞれだけれど、パイルバンカーみたいなのは危ない。もっと、優しくしないと……。後、いきなりするのは相手に失礼。ちゃんと、お友達から始めないと……」
　そんな中、御剣・譲治（デモニックストレンジャー・d16808）は、誰よりも理解があった。
　都市伝説がやっているのは、通り魔と同じ事。
　そんな事をして人から好かれる事などない。
　しかし、きちんと手順を踏んで行為に至るのであれば、それはそれでアリだろう。少なくとも、近隣住民が都市伝説を恐怖の対象として見る事はない。
　ただし、その場合は別の問題が急浮上してしまう可能性も高いのだが……。
「とりあえず、薄い本を描いていいですか？　大丈夫、俺は18超えてるから、いろいろ書けるし……」
　まるで他人事のように、伊織・順花（追憶の吸血姫・d14310）がニコリと笑う。どちらにしても、都市伝説の狙いは男のみ。よって、何の心配もない。それこそ、微塵の心配も。
「……たくっ！　彼女とクリスマスだってあるっつーのに……くっそ！　はやく終わらせよう、こんな酷いのは！！」
　自らフラグを立てている事に、永舘・紅鳥（永響紅衝・d14388）が大声を上げる。
　途端にぞわっと背筋に寒気が走った。
　それが何を意味しているのか分からなかったが、何者かによって『印』をつけられたような錯覚を受けた。

●釣られたケダモノ
　都市伝説は、それからすぐに見つかった。
　効率よく都市伝説を見つけるため、二班に分かれて行動した矢先。
　ほんの一瞬の出来事であった。
「クッ……、うわっ！」
　途端に嘉哉の尻に激痛が走る！
　そして、何も考える事が出来ないほど、頭の中が真っ白になった。
「……大人しくしろ。お前はただ……、身を委ねるだけでいい」
　都市伝説の渋く、囁くような声が、耳元を撫でる。
　その声を聴いただけで、ゾクゾクッと背筋に寒気が走った。
　そうしているうちに、だんだん痛みが和らいでいき、気持ち良さの方が勝ってきた。
（「俺じゃなくてよかった～……」）
　それを目の当たりにした紅鳥は、内心ホッとしていた。
　掘られなかったのは、ほんの偶然。
　自分の後ろに嘉哉が立っていたおかげ。
　おそらく、嘉哉がいなければ問答無用で掘られ、腹の底から悲鳴を上げていた事だろう。
　だが、ここで何もしない訳には……、嘉哉が掘られるのを、黙って見ている訳にはいかなかった。
　それは自分の身を守ってくれた嘉哉に対する裏切り行為。
　嘉哉の犠牲を無駄にしないためにも、ここで都市伝説を仕留める必要があった。
「まさかと思うが、俺を殺る気か？　だったら、覚悟しておけよ。お前が次に動いた瞬間、ケツにドデカイ風穴が開くぜ」
　そう言って都市伝説が、紅鳥をジロリと睨む。
「うっ……」
　その途端、紅鳥は動けなくなった。
　元々、狙われていたのは、紅鳥自身。
　都市伝説が掘りたいのも、おそらく紅鳥。
　思わず心臓の鼓動を止めたくなるほどの恐怖が宿る。
　しかし、ここで自ら尻を差し出せば、絶体絶命のピンチに陥った嘉哉を助ける事だけは出来る……はず。
「でも、これだけの人数を相手にする事になんて……」
　『出来る訳がない』と、ヴォルフガングは思った。
　だが、都市伝説の狙いが、紅鳥だとしたら……。
　攻撃を仕掛けたのと同時に、紅鳥が……掘られる！
　もしかすると、それは必要な犠牲なのかも知れない。
　紅鳥が掘られる事によって、都市伝説を倒す事が出来るのであれば、それこそ運命。確定された未来である。だからと言って、このまま見捨てるわけにはいかない。紅鳥がそれを望まぬ限り……。
「そこまでですっ！」
　次の瞬間、柚季が嘉哉を突き飛ばし、都市伝説に体当たりを浴びせた。
　都市伝説は咄嗟に受け身を取ったが、勢いを抑える事が出来ず、そのままバランスを崩して、派手に転倒！
　その間に柚季の連絡を受け付けて、駆けつけた仲間達が都市伝説のまわりを囲む。
「ふっ……、俺とした事が……」
　都市伝説が、クールに笑う。
　少し遊び過ぎたかも知れない。
　久しぶりに見つけた上物の獲物であったため、舌の上で転がすようにして弄び過ぎたのが、最大の敗因であった。
「デ、デカッ！」
　鋼矢が思わず声を上げた。
　まさに規格外。天を貫くほどに凶悪なソレは、まるでもう一つの心臓が埋め込まれているのではないかと思うほどに脈打っていた。
「怖かったな、忘れていいんだ。こんな事、忘れていいんだ」
　順花が優しく嘉哉に声をかける。
　それ以外の言葉が浮かばない。
　嘉哉自身は、都市伝説のソレにウットリしていたが、それを他人に悟られまいと小さく首を横に振った。
「こんな事をして、どうなるのか分かっているのか？」
　都市伝説が不機嫌そうに順花達を睨む。
「ならば、来るがいい」
　しかし、譲治には微塵も迷いがなかった。
　その場でコートを脱ぎ捨てると、大胆な水着姿でラブフェロモンを使い、バックスタイルで積極的に都市伝説を誘った。
「ほう……、面白い。ならば、貴様の尻が俺を受け入れるのに、相応しい器なのか、ここで試させてもらう」
　それと同時に都市伝説が譲治に突っ込み……、ひとつになった。
「お、おお……なんだ、これは！」
　だが、予想以上にジャストフィット。
「こ、これは……ブラックホール！　いや、違う。まるでスルメのような中毒性を持った……ぐわああああああああああああ！」
　しかも、まるでアリジゴクの如く、抜け出したくても、抜け出せない。
　まるで自分のすべてを奪われてしまうのではないかと、錯覚するほどの吸引力。
　都市伝説は恐怖を感じた。
　そして、予想を上回るほどの……解放感！
　都市伝説は果てた。それこそ、抜け殻になるほどに。
　しかし、都市伝説に休息の時間は残されていない。
　いつの間にか用意されていたベンチに腰かけ、ガイが思わせぶりに青いワークギアのジッパーを下ろす。
「……闘らないか」
　都市伝説はその言葉に逆らう事が出来ず、飛び掛かるようにして襲い掛かってきた。

●思わぬ痛手
（「クッ……！　このままでは……！」）
　都市伝説は自らの失敗を恥じ、唇を噛み締めた。
　ありとあらゆるモノを貫く槍を持っている事で、自分の力を過信していたせいかも知れない。
　だが、それ以上に……気持ちが良かった。
　例えるなら、夜景の見える高級ホテルの最上階にあるレストランで、最高のディナーを御馳走になったようなもの。
　出来るなら、もう少しこの時間を楽しみたい。
　都市伝説がそう思っても、仕方がないような状況であった。
　しかし、都市伝説は思った。
　ここまで最強のもてなしをされたのだから、こちらもそれに応えるべきである、と！
　それが都市伝説の本能であり、自らに課せられた宿命であった！
　そして、その相手として白羽の矢が立ったのは、紅鳥ただひとり。
　理由はズバリ、都市伝説好みの尻だったから！
「何だか、妙な視線が……」
　それが単なる気のせいであると、紅鳥は思った。いや、思いたかった。
　その事を確認するようにして、都市伝説の顔を見ると……目が合った。
　紅鳥は、まるで恋に落ちた瞬間のように、時間が遅く流れているような錯覚を覚えた。
　そして、思った。
　ああ、やっぱり掘られてしまうのだと……。
「好きなのはいいけれど、いきなりは早すぎる！」
　その行く手を阻むようにして、譲治が都市伝説の前に立ちはだかった。
「た、確かに……！」
　都市伝説の口から思わず声が見えた。
　譲治はまるで仏。それに比べて、自分は猿。仏の掌で遊ぶ猿に過ぎなかった。
　途端に、都市伝説のプライトが音を立てて崩れ去った。
　何故、今まで気づかなかったのか。もっとも、大切なものが身近にあったにも関わらず、それを捜して旅に出た愚か者のようなものだ。
　都市伝説は自分の愚かさを知って、そんな自分を心から恥じた。
「ならば、俺も本気を出す！　さあ、俺のすべてを受け入れろ！」
　次の瞬間、都市伝説がカイに飛び掛かった。
　あまりにも危険過ぎる故、封印せざるを得なかったフィンガーテクニックを披露するために！
「ちょ……っ、ま、止──っ、はぁあああああ！」
　カイも襲われる事は、覚悟していた。そのはずだった。
　だが、ここまで危険なテクを披露されるとは、夢にも思わなかった。
　しかも、上手い。そんじょそこらのマッサージ師が、束になっても勝つ事が出来ないほどの絶妙なテクニック！
「おお、これは薄い本にしてください、と言わんばかりのシチュエーション！」
　途端に、順花の瞳がランランと輝いた。
「これ以上、誰も……失う訳にはいきません」
　霊犬のシュヴールを盾代わりにしつつ、ヴォルフガングがギルティクロスを仕掛ける。
　それに気づいた都市伝説が右手を伸ばしたが、捕まえたのはヴォルフガングではなく、シュヴールだった。
　これにはシュヴールも身の危険を感じて、嫌々と激しく首を振ったが、この状況で逃げる事は難しかった。
「うらぁ、油断したなぁ！」
　その間に鋼矢が霊犬の伏炎と連携を取り、都市伝説に影縛りを仕掛ける。
　それと同時に都市伝説の動きが封じられ、シュヴールがホッとした様子で溜息を漏らした。
「今だ！　掘るてっく……、ヴォルテックス！」
　次の瞬間、柚季が都市伝説めがけて、ヴォルテックスを発動させる。
　都市伝説はその攻撃を防ぐ事が出来ず、断末魔をあげて跡形もなく消滅した。
「噂って、こわいな。こういうタイプって、春夏秋冬朝昼晩関係ないんだなぁ……。次もきっと……ああいやなんでもない。なんでもないんだ、うん」
　途端に嘉哉が首を振った。
　そもそも都市伝説とは、噂から生まれた存在。
　故に、こんな噂が広まれば、似たような都市伝説が現れる事は、確実。
　そのため、嘉哉は喉まで出た言葉をゴクリと飲み込み、何事も無かった様子で阻止の場を後にするのであった。

作者：ゆうきつかさ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年12月18日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 1／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 10
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