マジパナくバナナっとるナナコちゃんがマジパネェ話

    作者:空白革命


     闇夜に交差する閃き。
     幾重に連なる赤き燐光が月明かりに揺らめい――。
    「ですとろおおおおおおおおおおおおい!」
     すごく中二臭い立て看板がぶち破られた。
     ドロップキックで破られた。
     腰からずざーっと落ちる美少女。
    「はうっ、あっふっ……腰、やっべこれ、腰打った。くっそ痛……!」
     夏のアスファルトに転がったミミズがごとく。
     暫くびったんびったんぷるぷるした挙げ句、美少女(?)はゆっくりと起き上がった。
     バナナの着ぐるみをきた美少女(笑)が起き上がった。
    「ヒューッ、着ぐるみが無ければ即死だったZE」
     額の汗をぬぐう。
     ぬぐってから、ハッとした顔で虚空を見上げた。
    「あれ? そういやなんでアタイこんな所にいるんだっけ。っていうかなんで看板ぶち破ったんだっけ!? っていうかっていうかなんでバナナ着てんだっけえ!? ……あっ、バナナはただの趣味だコレ。コレはいいわコレ」
     腰についたゴミをぱたぱたしてから起き上がる。
     ポケットからバナナを一本取り出し、丁寧にむきながらこれまでを反芻してみた。
    「えーっとここまでの記憶はぶっちゃけ一時間くらい前から先がなくってー、看板破ったのは勢いでー、バナナは……アレ? アタイなんでバナナ着てんだコレ!? あっ趣味だコレ!」
     なーんだじゃあ問題ないやーと言って美少女(バナナ)はバナナを囓った。
     中身がナイフだった。
     口から血ふきながらのたうち回った。
    「ふぁーっく! ナイフじゃねーかちっっくしょー! もうアレだコレ、出会った人間片っ端からぶん殴って憂さ晴らしするしかねーよコレちっっくしょーお!」

     ……信じられないかも知れないが。
     彼女が今回のヴァンパイアである。
     

     バナナをゆっくりとむく須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)。
     彼女が言うにゃあ、難駄波ナナコ(なんだば・ななこ)っていう十歳くらいの美少女がひょんなことから闇堕ちしたんだそうな。
     多分親戚かなにかがヴァンパイアになったことで副次的にうっかり墜ちちゃったパターンらしく、その影響かそれとも元からアホだったからか記憶が勢いよくステーンと抜けちゃっていて、色々あったあげくその辺の人をぶん殴って憂さ晴らしをしようとしているらしい。
     まあ放って置いても平和な感じがするが、目先の問題としてしてその辺のおっさんはワンパンで死んじゃうはずなので、今のうちに取り押さえて殴り倒しておかにゃーならんというハナシであった。
    「あ、でも……なんだかんだ言ってヴァンパイア。ダークネスだからね。解決するためにはこの子を倒さなきゃ行けないし、いざ戦闘になったらすごく強そうだし……」
     バナナを剥ききってから、キリッとした顔をした。
    「とりあえず気をつけてね! とりあえずね!」


    参加者
    伊舟城・征士郎(アウストル・d00458)
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)
    風吹・小葉(そよ風レボリューション・d15110)
    天城・翡桜(碧色奇術・d15645)
    中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)
    蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806)

    ■リプレイ

    ●女性はもっとバナナを食べた方がいいというフレーズにエロい意図を感じたら末期
    「秘技、バナナ変身っ!」
     バナナの着ぐるみを着た美少女(バナナ)が身体を丸めつつこてんと横になった。
     そんな彼女から5キロメートルくらい先。
    「もうこれバナナどころか『黄色い点』じゃねえか! せめて1キロくらいにしとけよ!」
     地面を強かに叩く水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)の姿があった。
     尚シャツの文字は『バナナ』の模様。
     後ろからそっと肩に手を置く天城・翡桜(碧色奇術・d15645)。
    「どこで売ってるんですか、それ。作ってるんですか?」
    「翡桜さんツッコミどころそこじゃない」
     そのまた後ろから肩に手を置く水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)。
     一方で、風吹・小葉(そよ風レボリューション・d15110)は額に手を翳してバナナ変身を観察していた。
    「あの子同い年かな。見た目だとそうなんだけど……」
    「まあそれはそれとしてだ。アレで間違いないんだよな? 今回のヴァンパイア」
    「たぶん……道ばたに落ちてるバナナって、思ったよりシュールね」
     綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)と中津川・紅葉(咲き誇れや風月の華・d17179)は腕を組んで唸った。
    「ヴァンパイアって闇の貴族だろ? もっと優雅で威厳のあるもんだと思ってたよ」
    「成った瞬間優雅になれたらそれはそれで恐いけど。そもそもあれはヴァンパイアと思っていいの? バナナと合成したバナナンパイアとかじゃないの?」
    「新機軸の馬鹿ね……まあいいわ、あれでもきっと素質はあるんだもの。助けないと、でしょ?」
     首をこきりと鳴らす蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806)。
     彼女の視線を受けて、伊舟城・征士郎(アウストル・d00458)がスマートな顔で言った。
    「はい。救える可能性があるなら、尽力したいと思います。しかし相手はダークネスです。油断せずに行きましょう」
    「…………」
    「…………」
     あ、真面目なひとが綺麗にまとめてくれた。一同みな、そんな風に思った。

    ●バナナは地面についてるとこから黒くなっていくのでそうならないように吊るしておくバナナハンガーっていうのがあるけど市販のハンガーへし折って作った奴でも全然大丈――ってタイトル長!
     バナナのすぐ横を、緑色の影が跳ねた。
     まるで銃弾のようなそれを察知し、ばびゅんと飛び跳ねるバナナ。
    「何やつ! まさか神技バナナ変身を見破ったというのか……!?」
    「そんな小細工が通じるとお思いですか。私には無効です」
     淡緑色の影をわき上がらせ、キリリとした顔で言う翡桜。
     一方でバナナは『なん……だと……?』とか言って振り返った。
     真面目か、と思ったがココアはやっぱりモリナ……じゃなくてここはやっぱりヴァンパイア。バナナはトゥォーンとか変なかけ声で飛び上がると、足にオーラを纏わせてドロップキックを繰り出した。
    「正体を知られたからには生かしておけん。しねえええい!」
    「そこですっ」
     間に割り込み、巨大なエネルギーシールドを展開する征士郎。
    「相手は強力です。黒鷹、専守防衛型で戦闘配置。味方をできるだけ生き延びさせるんです!」
     彼のシールドに両足突き刺したまま腕組みをするバナナ。
    「ククク、正しい判断だ。さすがは運命を超えし者たちといったところよ。だが、巨獣に小蠅がいくらたかったところで、いったいなにができようか!?」
     シールドを超えて飛び散るオーラスパークが征士郎の頬を切る。
     流れる血をそのままに、彼は黒鷹(ビハインド)と共にV字のスラッシュを繰り出した。
     即座に強固なシールドを発生させ、バックジャンプで距離を取り直すバナナ。
    「簡潔に申し上げましょう。私たちの学園には難駄波様のお気に召す方がいらっしゃるかもしれません。こちらにいらしてみては?」
    「何? クク、貴様はまるで…………………………」
     バナナは顔を上げ……そして固まった。
     斜め下を見つめて数秒黙ったあと、近くにいた小葉へと振り返る。
    「ねえ、この後どういう台詞言ったらいいんだっけ」
    「えっ……」
    「アタイこういうシチュはじめてだからよくわかんないんだけど、状況的にアタイが悪の魔王的なアレってことでいいんだよね? 名乗っても居ないのに名前知られてて気持ち悪いけど、そういう間柄ってことでいいんだよね?」
    「えっと……」
     小葉は暫く考えてから、びしりとバナナを指さした。
    「バナナは、そんなことしない!」
    「何……だと……!? え、じゃあ何するの?」
    「そんな普通に聞かれても困るよ! み、瑞樹ちゃん……」
    「あ?」
     バナナの皮を剥くと内側が既にスライスされているっていう手品について考えていた瑞樹だが、急に話を振られてビクッと背筋を伸ばした。
    「ああ、バナナ? そうね、なんでバナナなんだろね。パインとかじゃダメなの? だって酢豚とかピザとかのパイン美味しいじゃん。あと風邪ひいたときは桃缶。これ鉄板だよね。ほてった身体に冷えた桃とシロップの組み合わせは最高だよ。なんかね、栄養なんちゃらかんちゃらっていうアレでも実証されてるってテレビで言ってたし、うん。あ、でもバナナはコスパいいのか。牛乳やヨーグルトとも相性いいし、朝食にする人よくいるよね。私は米と味噌汁派だけど……で、なんの話だっけ?」
    「バナナの皮を剥いたら中身が既にスライスされてる手品についてじゃなかった?」
    「あー、あれね、ワイヤーを通して紐で締めるみたいに切断すんの」
    「マジデジマ!? ずっと魔法だと思ってた! やっべえ! パネェ!」
     地面に身を屈めてよしなしごとを語り合う瑞樹とバナナ。アンド、祇翠バナナと紫雲バナナ。
     二人は(と言うか皆は)新たなるバナナの登場にビクッとなった。
     多くのものを捨てすぎたゴンさんみたいな顔をして呟く祇翠。
    「バナナ。それはミラクル・フルーツ。健康維持に必要な栄養素を備える嗜好品。世界中のスポーツ選手からも賞賛されるスター。そんなお前が……俺は、好きだ!」
    「キュン……!」
     目をハートにさせて両手の指をもじもじさせるバナナ。
     が、すぐに目の色を元に戻した。
    「あれ? それバナナに対してであってアタシ関係なくね?」
    「……そうかもしれない!」
    「そうだった!」
     バナナはびょーんと飛び上がると、片足を上げ両腕をY字に掲げ手首を鎌状に下ろすという謎のポーズをとった。
    「危うく騙されるところだったぜ! 油断大敵火がボーボーだぜ! ヒューウ!」
    「キャラの安定しない子だなあ」
     口笛が吹けないのか口で『ひゅーう』って言うバナナである。
    「こうなったら、戦争しかねえな!」
     死ねえええいといって例のポーズのまま飛びかかってくるバナナ。
     それを、瑠音が全力のバベルインパクトで迎え撃った。
    「爆裂粉砕、バナナパーティー!」
    「マンマミーヤ!?」
     バナナは地面に落っこちると、お腹を抱えてごろごろ転がった。
    「バナナコーデが施されたバベルブレイカー……いやさバナナブレイカーは痛かろう」
    「チクショー! 今脇腹弱いんだぞ! 身体がバナナみたいにめきょっと歪んだらどうしてくれメギョ!?」
     わめくバナナの脇腹にジャストで飛び乗る金糸雀。
     両手の翼を掲げ、くちばしを自慢げにそそり立たせると、若干さっきのバナナと同じようなポーズをとった。
    「金糸雀、バードフォーム! さあ、冷凍バナナになりなさい!」
     かちこちと凍っていくバナナ。
     紅葉はそこへそっと近寄ると、縄を通してきゅっと縛った。
    「これできっと、身が締まったバナナになるわよね」
    「いえ、内側だけスライスされたバナナになるかと」
    「翡桜さん突っ込みどころがきわどい」
    「ええいひかえろう! ひかえおろう!」
     ミスト的ななにかをまき散らしてわーわー暴れるバナナ。
     乗ってた金糸雀や紅葉たちをはじき飛ばすと、とりあえず体育座りになった。
    「あのー、そろそろ帰りたいんだけど」
    「まさかの!?」
    「なんかー、皆と敵、みたいな? かんじだから? まじチョベリバだし。MK5だし。テキトーに戦ってそれっぽく終わりにしたいと思うんだけど」
    「じゃあとりまそれで」
    「うぃーっす」
     バナナたちはとりあえず向かう会うような位置に移動すると、今から敵と味方に分かれて戦うんですよみたいなポーズをとった。
    「ふははははは! よくぞ来たな灼滅者たちよ! しかし生など無意味。我が腕に抱かれ、息絶えるがいい!」

    ●バナナ……って今度は短か!
    「ジャストウェイクン――コール・ブレイド!」
     難駄波ナナコはバナナの皮を素早くむくと、内側からほとばしる光の剣を出現させた。
     黄色い光が天を突き、ナナコの大上段斬りによっておもむろに地面へ叩き付けられた。
    「皆さん、下がって!」
     盾でもってそれを受け止める征士郎。
     だがしかし、相手の破壊力は彼のガードを易々と突破し、上から下へと刃を通過させてしまった。
    「ぐ……うっ、なんて、出力……」
     しかし斬られたのは魂のみか。内側だけスライスされたバナナの如く征士郎の身体に傷はついていないというのに、彼は苦しげに膝を突いたのだった。
     彼をフォローすべく霊障波を連射しはじめる黒鷹(ビハインド)。
     だがそれを、ナナコは避けるでもなく防ぐでもなく、まるで微風を浴びるかのように平然と突き進んできた。
     そんな彼女が今纏っているものを見て、祇翠が低く唸る。
    「あれは……あのお腹に張られているシールは……!」
    「知っているの、祇翠?」
     金糸雀に呼びかけられ、祇翠は額の汗をぬぐった。
    「安くて栄養満点と言われもてはやされたバナナ界を震撼させた『ペンギン印のバナナ』……その価値なんと『一本六百円』!」
     驚きに振り返る瑞樹。
    「なん……だって……? 祝福されし破邪のバナナを掲げることで聖バナナ化したっての!?」
    「驚いている暇はないぞ俗人どもお!」
     ナナコは新たに二本目のバナナを取り出すと、赤きオーラを先端から噴出させた。
    「くるぞ紫雲、うおおおおおお!」
     祇翠は霊犬紫雲と共に飛び出すと、二人同時に全力のクロススラッシュを繰り出した。
     ナナコの一人クロスアタックと交差する。
     全身を切り裂かれる祇翠……だがナナコの方は。
    「なにっ、シールだけを切り裂いただと!?」
    「カットフルーツだ! それ以上高価にはさせないぜ!」
    「でかした、繋げるよ金糸雀さん!」
    「いいわ。サニー、フォローして!」
    「甘い、バナンパイアミスト!」
     ナナコはバナナを早食いすると、甘いバナナの香りを漂わせながら狂戦士(バナサーカー)化した。
     瑞樹の神霊剣と金糸雀の斬影刃をそれぞれ片手で受け、へし折る。
     そこから開脚キックでそれぞれ蹴倒すが、瑞樹たちは仰向け状態から同時に鬼神変とと縛霊撃を繰り出した。
     激しいインパクトをくらってはじき飛ばされるナナコ。
     霊犬サニーに回復を貰いながら、金糸雀は口元の血をぬぐった。
    「バナナのくせに……やるわね」
    「貴様こそ、鳥のくせにやるではないか……む!?」
     ナナコはバナナの皮を素早く放るとエネルギー化し、皮を開いたような形のシールドを展開した。
     右にでも左にでもない。両サイドにだ。
     なぜか?
     両側からまるで押しつぶすかのようなサンドアタックが叩き込まれたからだ。
     翡桜と唯織(ビハインド)による、縛霊撃と霊撃のデュアルブートである。
     バナナシールドのエネルギーが低下。ナナコは小さく……いや大きく舌打ちをした。
     正面から突っ込んでくる紅葉に気づいたからだ。
    「これ以上暴れると、ざるに盛ってたたき売りにするわよ!」
     助走をつけ、縛霊手をスタンプしてジャンプ。
     影業を足下に集中させると、おもむろなドロップキックを叩き込んだ。
     インパクト時に影が急速に変形し、ナナコの身体に巻き付く。
     思わず押し倒されるナナコ。
     だが。
    「バナナ形状を甘く見るなよ!」
     ナナコは、ダルマを横倒しにした時のように不自然な動きでうにょんと起き上がったのだった。
    「なにその動き! 属性が迷子過ぎるわ!」
    「すきありー!」
     背後から飛びかかる小葉。
     まずは背中に騒音刃。バナナの皮が激しく傷ついたところへ、流れるようにズタズタラッシュを叩き込んだ。
    「ぐあああああアタシの弱点が背後だとなぜわかったあああああああ!」
    「そうだったの!?」
    「着ぐるみである以上後ろを確認しづらい……フ、最初から見抜いていたぜ」
     思いっきりホラをふいてキメ顔をする瑠音。
     腕に装着したバナナブレイカーがうなりだし、杭部分がかなりキモい回転をしはじめた。
     激しく踏み込み、激しく突っ込む。
    「必殺必中、バナナスパイラル!」
    「バナナナアアアアアアアア!」
     ナナコは『バナナキングに栄光あれー』とかノリで言ったあと、その場のノリで爆発四散した。

     で。
    「金無いんだけど、電車賃貸してくんね?」
    「ごめん、私IDカードだ……小銭ねえや」
    「じゃあ一諭吉でいいよ!」
    「逆ギレかよ! ずうずうしいよ!」
     ナナコと瑠音が額を付き合わせてぎゃーぎゃー騒いでいた。
    「あー、灼ったね。あれは確実に灼(灼)ったわ」
    「一応聞きますけど、それは『灼滅者化した』の略称なんですよね?」
    「この着ぐるみどこで着替えるか……駅のトイレとかで着替えるのはマナー違反なんだよな?」
    「バナちゃん同い年だったんだねー。思った通り」
    「バナちゃん!? 女の子につける名前じゃないわ……」
    「ええと、じゃあ……そろそろ帰る?」
    「そーね」
     『二次会カラオケ行く?』くらいのテンションで夜の町へ消えていく灼滅者たち。
     そこに、行きの間には居なかった新たな灼滅者が加わっていたことは言うまでも無い。
     彼女はくるりと振り返ると、誰に向けてんのかわからんような自己紹介を始めた。
    「アタシは難駄波ナナコ。バナナ一本あれば何でもやってみせるぜ! ただしシリアスだけは簡便な!」

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 14
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