俺より強い奴だけに会いに行く！

■リプレイ

●強さを求め続ける男
　夜闇を切り裂き走るトラックが貨物を運んでいく関越自動車道。
　既に眠りについたはずの高架下では、暴走族たちが集会を開いていた。
　下品に笑う彼らの輪に、名乗りを上げるは日暮巌鉄。
　一触即発の空気を破り、間に割り込んだのは灼滅者。
　きょとんと目を開く巌鉄を眺め見て、スウ・トーイ（ゲートキーパー・d00202）は帽子に片手を当てて微笑んだ。
「勿体無いね。お前さんの義が哭いてるぜ」
「成程…確かに強そうだが……温いな」
　禰宜・剣（銀雷閃・d09551）は暴走族たちへと向き直ると共に殺気を放ち、剣呑な言葉を黙らせた。
「失せろ……此処は真に強い者が集う場所だ……失せろ！」
「ひっ」
　走り去る光景を眺めた上で振り返り、改めて巌鉄へと語りかける。
「あんたが巌鉄か……強者を求めてきたと聞いた」
「……おうよ。であんたらは一体」
「こいつらより、俺達のが強いよ」
　不良たちを追い払ったことへの文句が出る前に、鴇・千慶（ガラスの瞳に映る炎と海・d15001）が自信の程を示していく。
　だからだろう。巌鉄は表情を和らげ、ひとまず話を聞く体勢に移った様子。
　灼滅者たちは頷き合い、説得へと移行する。

　最初に語りかけたのは、大野・良太（ドロボウ野良犬・d05969）。
「なんつーか……強くなりたいんだよな、あんた」
「ああ、その為にここに来た」
「それなんだが……ただ強ければなんでもいいのか？　他に譲れないものがあるから堕ちきれないじゃないのか？」
　巌鉄の抱く闇を知っていると、だからこそ……と言葉を続けていく。
「堕ちきっちゃえば楽になるよな？　でも、俺たちが征きたいのは楽な道じゃないよな？」
「ふむ……そうだな。だが、強くなりたいという想いに偽りはない」
　返答を前に、一宮・光（闇を喰らう光・d11651）は一度目を閉じた。
　先ほどまで、この場所で集会を行っていた暴走族。
　一人で殴りこみに行く度胸。闇のせいではあるけれど、良い人であることに違いはない、そう思った。
「そうですね……弱者のために力を使うことも力を求めることも間違いではありません。自分も強い敵と戦うために力を求めています」
　だから、正義の心を誘う方向での説得を。
「でも、真に強くなるには心構えも大切です。力を制御することもまた強さ。力に闇に飲み込まれてはいけない……そう思います」
　真の強さを伝えた上で、一度巌鉄の答えを待つ。
　反応は芳しくない。
　首をひねり言葉を探している、あるいはさらなる言葉を待っているような巌鉄に、続いて那梨・蒼華（蒼氷之華・d19894）が語りかけた。
「強者と戦いたい理由、よもや本来の目的と、その手段が入れ替わっているのではないかな」
　心根は優しいと、聞いた話からは感じていた。
　このままでは守るべき人たちを、弱いものとして、眼中にすら入らなくなってしまうと感じていた。
「もうしそうなら、何故強い者と戦いたいのか、最初の思いを思い出して欲しい。そして、その力を正しく使って貰いたい」
　もう一度原点に戻って欲しい……そう伝え、改めて巌鉄の様子を伺った。
　やはり、どこか困り顔。
　巌鉄は頬をかきながら、それでも落ち着いた調子で返答した。
「何か勘違いしてるみたいだが、弱いものを守る……なんて思ったことは一度もねーぜ？　ただ、弱い奴とは戦う必要がないだけで、手伝うのは……まあ、クラスメイトや友達なら当然だろ？　ま、結果的に守ったってことは結構あったけどな」
　あくまで己は戦闘狂。
　最優先事項は、強い敵と戦うこと。
　どんな感情を覚えただろう？　カツァリダ・イリスィオ（黒百合インクィジター・d21732）は静かに眉根を寄せ、静かな言葉をぶつけていく。
「強さとは手段であって、目的にすることではありません。何かを成すために強さを求めるのは構いませんが、ただ強くあろうとするのは間違いです」
「んなこた言われてもなぁ……」
　価値観の相違、繋がらぬ道。
　されど巌鉄の唐揚がうずいているように見えるのは、強者を前にしているからか。はたまた闇が強まったか。
　灼滅者たちは身構えながらも、さらなる言葉を……。

　空気が張り詰めていく。
　無駄な雑音が、風を残して遠ざかっていく。
　このままでは中途半端なまま戦いが始まってしまう。
「あんたは弱きを助け強きをくじく男と聞いた！　ならば打ち払うべきは己の闇だ！」
　だから剣が指し示す。
　今、真に戦うべき相手を。
「真に強者を目指すならば己を蝕む闇を打ち払え！　其れとも…弱者も潰しただ暴れるだけの悪鬼に成り下がりたいのか！」
　正直な話をしてしまえば、自身もすぐに戦いたい。
　しないのは、彼を学園へと連れ帰りたいから。
　敗北を与え、さらなる高みへと導きたいから。
「……へぇ」
　イマイチ反応の鈍かった巌鉄が、僅かに口の端を持ち上げた。
　今こそ畳み掛ける時と、千慶が言葉を重ねていく。
「強くなりたい、俺も何より誰より強くなりたい。君は強いね。身も心も。今の気分はどう？　闇に飲まれそうな自分がいない？」
「……確かに、邪魔臭い声がビンビン響いてるなぁ」
「それ、負けたら君は君でなくなっちゃうよ。強いやつにどんどん挑んで弱いやつは助ける君のままでいてほしいよ」
　現状を再認識させることで、今、戦うべき相手を示すため。
　更に先ゆく道を示すのだと、桜庭・成美（まどろみの斬殺者・d22288）は言葉をつないでいく。
「強い人と戦いたいんでしょう？ならいい場所を知っているのよ。教えてあげる。貴方が自分を取り戻せたらだけどね」
「……」
　再び、沈黙が訪れた。
　冷たい風が高架下を駆け抜けた。
　数十秒の時を経た後に、トラックの音を破り、響いたのは巌鉄の笑い声。
「くく……なるほど、確かに自分に負けてちゃ世話ねーな！　よしわかった、ああ分かった。どうやら、俺はまだ存外に弱かったらしい」
　これから強くなる。
　最後の言葉を紡いだ後、巌鉄の雰囲気が別物へと……アンブレイカブルへと成り果てた。
　カツァリダは素早くカードを引きぬき、静かな構えを取っていく。
「救われぬものに光の救済を、異端者には神威の鉄槌を、Amen!」
　言葉を響かせ武装する灼滅者たちとは対照的に、アンブレイカブルは喋らない。
　ただただ深く腰を落とし、仕掛ける機会を伺っていた……。

●バトルマニアは戦いを
　駆け出したスウを迎え討つかのように、アンブレイカブルは拳を突き出した。
　盾で防ぎ、衝撃が体を駆け抜ける。
　されど押されることなく、負けることなく押し返し、勢いのまま大地を蹴った。
「お喋りがてら軽ーく、血の気抜いとこうか」
　己を印象づけるため、盾をアンブレイカブルに押し付ける。
「誰かの為に強く在れば良いじゃないか。手放すより、護って苦しむ方がずっと強い。そう、俺は思うんだがな」
　己の思いを伝えた上で飛び退いて、追撃に備え腰を落とす。
　合わせるように身構えていくアンブレイカブル。
　横合いから良太が切り込んだ。
「っ！　やっぱ、一筋縄ではいかないねぇ！」
　太い腕を盾に阻まれて、有効打には至らない。
　構わぬと笑い退いた彼と入れ替わり、光の放った影狼がアンブレイカブルの元へと到達する。
「絶対に救います。ですから、どうか……！」
　木場にて守りを切り裂いて、一歩、後ろに退かせた。
　が、反動を活かして前に飛び、スウに向かって蹴りをはなった。
　すかさず蒼華が剣を掲げ、優しい風を起こしていく。
「流石に強い。が、そう簡単に終るつもりも無い」
　戦いはまだ、始まったばかり。
　支えていけば活路も見いだせる。そう、治療する力に思いを込めて……。

　アンブレイカブルの放つ拳は、蹴りは重く、時に加護すらも砕く。
　されど、自己を省みることはない。
　重ねていた呪縛が、斬撃が徐々に功をなしていた。
「そろそろ……うん、行けるはずです！」
　故に、治療役を担い風を起こしていたカツァリダが、畳み掛ける好機だと伝えていく。
　いち早くアンブレイカブルの懐へと入り込んだ成美は、紅蓮の斬撃と共に囁いた。
「暗闇を歩いたって、そこに本当の強さはないわ。本当に強い人はそもそも闇になど堕ちないもの……」
　全くだ、と聞こえたのは果たして気のせいだっただろうか？
　聞こえた気がした声に呼応し飛び退けば、アンブレイカブルの拳が空を切る。
　よろめいた体を引き戻しすぐさま体勢を整えていくさまを見て、は喝采した。
「良い立ち回り…見込んだ通りだ！　だからこそそのまま闇に飲まれるのは惜しいっ！」
　思いもまた言葉の通り。
　素早く駆け抜け背後へと回り込み、白刃の切っ先を下へと向けていく。
　足を切り上げ、動きを鈍らせ、蒼華の剣を導いた。
「本命は、こちらだ。その動き、縛らせて貰う」
　かと思えば蒼華は張り巡らさせていた結界を起動して、アンブレイカブルの自由を奪い去る。
　身じろぎもできぬさまを眺め、スウは静かな溜息を吐き出した。
「多分、お前よりも巌鉄の方が強いんだろうな」
　さほど被害がないのは抑えてくれている証、負けないでいてくれている証だと、紅い両刃短剣を振り回す。
　対角線上からは、良太もまた剣を振り下ろした。
「いいねぇいいねぇ、けど……もっと、もっと上へ、高みへ行けるだろう？」
　口元には歓喜の笑みを。
　これからへの喜びを。
　返答など返せぬアンブレイカブルの体は、千慶が両腕で抱え上げた。
「君ならこっちに帰ってこれるから、負けないで！」
「強い人と戦うために、ね」
　投げ捨てられたアンブレイカブルを、成美の不可視の刃が貫いた。
　力を失い倒れていくアンブレイカブルを……巌鉄を軽く抱きかかえた上で、静かな息を吐き出していく。
　笑っていたから。
　安らかな眠りについた横顔が、これからを夢見たか歓喜に染まっていたから。

●更なる戦いこそが望み
　程なくして目覚めた巌鉄は、勢い良く起き上がると共に感謝の言葉を口にした。
　何度も、何度も、ただただもっと強い奴と戦えることが嬉しいと。
　今、自分に勝つことができたのが嬉しいと。
　それは、灼滅者たちのお陰だと。
　ひと通りの言葉が止んだ後、剣が改めて巌鉄を祝福する。
「お帰り……よく戻った！」
　更に、改めて学園のことを説明した。
　説明が深いところへと向かうに連れて、巌鉄の瞳がキラキラと輝いた。
「誰かを守るために強くなれる環境ですし、厳鉄さんの興味は尽きない場所だと思います。強い敵もわんさかいますけど」
　最後に光が締めくくり、巌鉄の様子を伺っていく。
　己が答える時間と察したのだろう。巌鉄は元気に、明るく声を上げた。
「そこの行ったら強い奴と戦えるんだろう？　むしろ頼みてぇくれえだ！　……ま、ついでだ、守るってこともしてやるよ」
　了承は、新たな灼滅者への道標。
　戦闘狂は戦闘狂のまま、されど新たな契を交わし……新たな仲間と共に、彼らは学園へと帰還する。
　これより歩む道行を示すかのように、月が、静寂に沈む道を照らしていた。

作者：飛翔優	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年12月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 1／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 0
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