贖罪の対価

    作者:緋月シン

    ●無くしたモノは
    「それでは、ありがとうございました」
    「いえいえ、こちらこそ色々と丁寧にありがとうねぇ」
    「いえ、それが仕事ですから。では」
     男はにこやかな笑みのままで一礼すると、家の扉を潜った。
     そのまま閉じていく扉の向こう側に居る家人に向かい、再度一礼。その体勢のまま、扉が閉まるのを待つ。
     そして。
    「今回も上手くいったな……まったく、ちょろいもんだぜ」
     その表情が一転、信じられないほど下卑たものへと変化した。
     先ほどまでの優しげで爽やかな雰囲気などは欠片もなくなっている。そこには、今行なったことに対する罪悪感などは微塵も感じられない。
     しかしそれが、今の男の本来の姿だ。資料を詰めた鞄を持ち替えながら、家を後にする。
     男は所謂訪問販売などと呼ばれる、とある商品を売りつける者であった。
     ただしその値段がべらぼうに高い。普通であれば決して手を出そうなどとは思えないようなものだ。
     だが男は絶妙な話術と雰囲気作りで、それを次々と売りつけていた。
     先月の販売成績はトップ。この調子でいけば、今月もトップなのは間違いないだろう。常に最下位であった以前とは雲泥の差である。
     当然、会社での扱われ方も同様だ。奴隷同然であったあの頃とは比べ物にもならない。そしてその影響は、私生活にまで及んでいた。
     もっともその分苦情の電話やトラブルは増えたが、男の知ったことではない。買うと言ったのは自分だ。その時の迂闊な自分を呪うがいい。
     まさに順風満帆な毎日である。
     ただ、その代わりとして、何か別のモノを無くしてしまったような気もするが……男がそれを気にすることは無い。
     思い出せないのならば大したものではないだろうし、何よりそれを無くしたおかげで現在があるのだとしたら、それは願ってもないものだから。
     故に。
    「さて、次の獲物は、っと」
     そうして舌なめずりしながら、男は次なる場所を求めて歩き出すのだった。

    ●贖罪の名を冠するシャドウ
    「『病院』。この間助けることに成功した彼らだけれど、もう会ったかしら? その彼らから、とあるダークネスの陰謀に関する情報がもたらされたわ」
     四条・鏡華(中学生エクスブレイン・dn0110)はそこで一旦言葉を止めると、皆の顔を確認するように見渡した。それから、その言葉を口にする。
    「贖罪のオルフェウス。それが、敵の名よ」
     種族はシャドウ。それも、高位の存在だ。
    「ソウルボードを利用し、人々の闇堕ちを助長しているらしいわ」
     どうやら何らかの悪事を行った人に対して贖罪を促し、その罪の意識を手放す事が出来る夢を見せ、奪った罪の意識によって闇堕ちを促進している、ということのようである。
    「今回あなた達に依頼したいのは、その夢を見させられているうちの一人、千場和幸という人物の救助よ」
     和幸はとある高額な物を売る訪問販売員であり、その夢を見させられるようになってからは随分と成績を伸ばし周囲からの評価なども変わってきているらしい。私生活も含め色々と順調なようだ。
    「もっとも、騙され物を買わされることとなった人達のことを考えなければ、の話だけれども」
     基本的に対象のソウルボードに侵入するまでは、いつもシャドウを相手にするのと変わらない。
    「いつもと違うのはその後ね。贖罪の夢は、いつものような悪夢では無く……そうね、神の前で懺悔して罪を告白しているような感じ、といったところかしら」
     この懺悔を邪魔することで、敵が現れることとなる。
    「ただし普通に邪魔をするだけだと、被害者がシャドウのようなダークネスもどきとなり、戦うことになるわ」
     その戦闘能力も、シャドウに匹敵ほどである。
    「けれど邪魔するだけでなく、罪を受け入れるように説得する事ができれば、被害者とは別にシャドウのようなダークネスもどきが現れるわ」
     この場合はダークネスもどきの戦闘力が下がるが、被害者を庇って戦わなければならなくなるだろう。
     もし庇わず、或いは庇うことに失敗してしまった場合は、説得をしなかった場合と同様の状態になってしまう。
    「基本的にどちらの場合でも使用する能力に違いはないわ。その能力も普通のシャドウと同程度ね」
     ただし説得に成功した場合は、戦闘能力は四分の三程度となる。
    「説得の内容等はあなた達に任せるわ。その方が上手くいくでしょうし。そもそも説得を行なうかどうかも含めて、ね」
     尚、説得に成功しそのまま現実世界へと帰還できた場合、被害者は罪の意識を取り戻した状態で目が覚めることとなる。
    「その場合は今まで犯した罪の意識に苛まれるかもしれないから、なんらかのフォローが必要かもしれないわね」
     もっとも説得が成功するかも含め、どうなるかは皆次第だ。
    「とはいえ、私はあまり心配はしていないけれど。あなた達ならば、上手くやってくれるに決まっているもの。そうでしょう?」
     最後にそう言って、鏡華は灼滅者達を見送ったのだった。


    参加者
    二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)
    蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    天峰・結城(全方位戦術師・d02939)
    狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)
    吊籠・九曜(失楽・d22446)

    ■リプレイ


     八人が降り立った先にあったのは、真っ白い空間であった。まるで疚しいことなど欠片もないとでも言わんばかりのそこを眺めながら、柿崎・法子(それはよくあること・d17465)はふと仲間の方へと視線を向ける。
    「こうもシャドウハンターが揃うのは珍しいことだね。ボクにとっては初めてのシャドウ戦になるんだけど」
     物珍しげな様子で言いつつ視線を戻せば、変わらずそこにあるのは白のみ。
     しかしその中で、一箇所だけ黒く染められた場所がある。
     件の男、千場和幸はそこに居た。
     目を閉じ両手を重ねている姿は、懺悔というよりは祈りのようにも見えた。それだけを見れば、罪悪感を感じていないなど嘘のように思える。
     いや、事実それは嘘ではないのだ。ただこの場でそうすることにより、失われてしまうだけで。
    (「贖罪のオルフェウス、中々愉快な力を持ってるようだねえ」)
     それを見ながら、吊籠・九曜(失楽・d22446)は思う。
    (「しかし、実際境遇に問わず、自分から悪に進んで赦されたいと願わされてるのも中々滑稽な話ではあるけれど。ま、僕なんかがそう思うのも心苦しいけど……」)
     気を抜かずに楽しもうと、胸中で呟いた。
    (「誰だって罪を犯します。でも、人はその罪に気付き、時に省み、時に償います」)
     星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)は探偵である。ただし性分が災いしまともに解決できた事件はあまりない。
     けれどもそれは事件と関わっていたことを否定することではない。
     故に、その罪を反省する権利も、償う権利を奪ってしまうということに。
    「贖罪のオルフェウス、怖ろしいですね」
     その様子を観察しながら、ポツリと呟いた。
    (「ハートと言いスペードと言い思考はまるっきり善人だ」)
     それらのやっていること、やろうとしていることを考え、蛙石・徹太(キベルネテス・d02052)はそう思う。
     ただしそこには、人間らしくないほど、という言葉が付け加えられるが。
    (「人外の力で捻じ曲げようなんざ洗脳もいいとこ。ダークネスが余計なことしなきゃこんなことにはなってないんだっつの」)
     そうして皆がとりあえずとその様子を眺めることしばし。不意にそこへと近付く影があった。
    「懺悔にいらしたのですか?」
     聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)である。
     その声に、和幸の瞳が開かれた。ヤマメへと視線が向けられ、しかしそこに篭められていたのは、当然と言うべきか不審と疑念である。
     だが。
    「それは何故ですの? 何か心にかかるものがあったのでしょう?」
     敢えてヤマメはそれを無視した。
    (「悪質な方を増やすのは絶対阻止、ですの!」)
     思いながら、言葉を紡ぐ。
    「今のお仕事、お勤め先の会社ははっきりと悪質と感じます。貴方はどうしたいですか? 騙される方が悪いと本当に思われますか?」
     あくまでも本人の意思によって悔い改められるように。その努力の為の一歩の後押しの為に。
    「現実にままならぬ事は多いでしょう。けれど心が痛むのなら、それは変えるチャンスですの」
     自分の罪を認めて留まってくれるよう祈りながら、言葉を重ねていった。
    「さて、随分とあくどい稼ぎをしている様だが……商売相手にお前の隣人の、友の、家族の関係者は居ないと言い切れるのか?」
     狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)は言葉を投げながら、同時に思考を回転させていく。
    「その者達がお前を恨んでいるかも知れない。お前が大切と思う者達が、お前に殺意を抱いているかも知れない。本当にいないと言えるか?」
     それは、罪に関しての事柄。
     当人が罪を罪と認識しなければ、それはその者にとって罪では無くなる。罪とは当人が過ごしてきたコミュニティーより学び取るものだ。
     それは倫理観であり長い年月を掛けて築き上げられた物、人間の歴史の一部か。
    (「では全ての罪から開放された者は只の獣と成り下がるのか? 興味深いが……今は答えは出まい」)
     或いは目の前の人物をそこまで堕とせば答えは見つかるのかもしれないが、それでは本末転倒である。
     だからこそ、投げられる言葉は相手を揺さぶるために。
    「おまえは誰かに必要とされているのか?」
     少なくとも罪の意識が残っているから、懺悔という儀式が成立しているのだから。
    「人を食い物にする理由は何だったよ?」
     謝る相手が違うんじゃないのかと、徹太はそう言いつつ、問いかける。
     病気の家族を養うためだとか、そんな大層な理由は多分ない。あったのはきっと平々凡々な……当たり前の何か。
     そういう生活をしていたのは本人の意思だ。被害者とばかりも言うこと出来ないが、人は様々である。
     だから。
    (「シャドウがチャチャ入れる前の心を救う」)
     その頃の気持ちを思い出してくれたら、と。
    「誰かに赦されたら自分を許せるってのか。苦情の声をちゃんと聞いて、やったことを解ってから受け入れてください」
     思いながら、最後は願うように言葉を投げた。
    「罪を赦す神なんて居るなら何で僕達は酷い目に合うんだろうね。居てもせいぜい甘言で誑かす魔性くらいさ」
     九曜は語る。内容に反し、その顔に笑みを浮かべながら。
     その笑みに嘘はない。それがどんな理由によるものかは、きっと本人しか分からないだろうけれども。
    「本当に君が懺悔するのは君が騙した相手じゃない? あはは……僕なんかが言うのも悪いけど、結局何処にも上手い話なんて無いんだ」
     嘯きながら、変わらずその顔には笑みが浮かんでいた。
    「さて、一つ聞かせて欲しい事がある。罪の懺悔というものは、『過去の行い』にする物だろう? ならば、これより先、君が行うであろう行為は罪ではない、とそう言うのかい? これから先ずっと、『この場所で懺悔する事は無い』そう誓えるのかい?」
     人の罪。二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)は言葉を作りながら、それに思いを馳せる。
    (「演算機械たるボクに、唯一性の無い答えを演算するのは難しい事だけれどね」)
     自分を演算機械だと思っている雪紗に、心や罪などはよく分からない。
     だが、なればこそ。
    「……無理だろう? 何せ君は既に、何度もここで懺悔しているのだから。君が救済される方法は只1つ。これより先に罪を生み出さない事、だ」
     その言葉は、相手の論理の綻びを突く。
    「確か千場さん、以前は訪問販売の成績も最下位で苦しんでられたんですよね? それって、ご自身がされている事にずっと悩んでられたからではないかと思い至りまして」
     続けられる言葉は綾のもの。
    「生きるため、割りきって考える方だって大勢います。でも、貴方はそれをしなかった。今、こうしてシャドウに唆されるまでは」
     それはただ出来なかっただけなのかもしれない。自分の為だったのかもしれない。
     けれども。
    「とても優しい方なんですね、千場さんは」
     普段残念な探偵少女は、それを優しさだと推理した。
    「どうか、その優しさを蔑ろにしないで下さい。貴方なら違う生き方だってきっと見つけられるはずです!」
     励ますように、言葉を伝えていく。
    「例え罪の意識から逃げたとしても罪は消えない。もし本当に懺悔するならば夢ではなく現実で行うべきなんだよ」
     俯く和幸へと近付き、法子はその両肩を手で掴んだ。
     驚き顔を上げる和幸の目を、法子はしっかりと見詰める。
     そして。
    「……ちゃんと前を向きなよ」
     大事なそれを口にした。
     そうして皆が説得を行なう中、しかしそこに加わらない者が一人居た。
     天峰・結城(全方位戦術師・d02939)である。
    (「早速、病院と合併の影響が出ましたか。とはいえそれが遅いか早いかだけの事ですし、贖罪のオルフェウス……因縁がないわけじゃないですしね」)
     だがそれは何もしていないという意味ではない。結城は説得ではなく、周囲の警戒へと回っていたのだ。
     戦闘になってもすぐに対応できる様、説得による相手の言動の変化やその様子に気を配る。
     故にこそ。それに真っ先に気付けたのは結城であった。


     前兆はなかった。だからそれを表すのに最も相応しい言葉は、気付いたらそこに居た、というものだろう。
     和幸の背後。色は黒く、その形は不定形。ぶよぶよしたよく分からないそれは彼らの知っているものによく似た、しかし別のものだ。
     シャドウもどきである。
     出現したもどきは、早速とばかりに和幸へ襲い掛かろうと動き出す。が、その動きが唐突に止まった。
     否、止められたのである。
     その身体へと巻き付いているのは、目に見えないほどに細い糸。
    「対象捕縛……」
     結城による鋼糸だ。
     それによって動きを止められたのは数瞬であったが、それだけあれば十分だ。その間に皆は和幸を後方へと退避させると、意識を戦闘のそれへと切り替える。
     瞬間。
    「現れましたね、犯人はアナタです!」
     声が響くと共に、指がもどきへと突き付けられた。
     綾だ。
    「私は探偵です。罪を裁くのが仕事です。よって、罪の塊のあのシャドウは私が倒します! どうです、見事な三段論法でしょう」
     ドヤ顔でそんなことを言い出す綾であるが、実際のところそれはシャドウではないので前言からして間違っている。というか、そもそも罪を裁くのは探偵の仕事ではない。
     その性分を存分に発揮した穴だらけの論法に仲間の皆からはなんともいえない微妙な視線が送られるが、綾はそれに気付かない。
     というよりは、その余裕が無かったというべきか。完全に無視しその脇を抜けていこうとするもどきに、綾は慌てて剣を振り被る。
     無視するなと言わんばかりに、白光を放つ斬撃を叩き込んだ。
    「目的解。『シャドウの殲滅』。これより灼滅演算を開始する」
     そんな様子を横目に、雪紗が取り出すのは黒と白のライフル銃――ジェミニ・バタフライ[カストル]とジェミニ・バタフライ[ポルクス]。
    「――GetReady?」
     脳の演算能力の高速・最適化を行ないながら、それらを構えもどきへと向ける。
    「対象の軌道及び行動予測完了。現状況の最適解を照合……トリガー」
     和幸の保護などは仲間がやってくれるはずだ。ならば自らがすべきは攻撃だと、攻撃のみに集中していく。
     形成されるのは漆黒の弾丸。銃口の向きそのままに、撃ち放つ。
     黒が黒を穿ち、貫いた。
     だがどれだけ邪魔をされようとも、もどきは和幸を狙うのを止めなかった。押さえ切れなかった攻撃の一つが、和幸へと飛ぶ。
     それは灼滅者達の合間を縫って突き進み、和幸の身体へと到達する――その直前。強引に割り込んできた手袋に覆われた拳によって、叩き落された。
     法子だ。
     強引であったためにその身体も傷つくが、即座に九曜から放たれた光条がその傷を癒す。
     さらには攻撃の威力を少しでも緩和するために、ヤマメが分裂させた小光輪をその前方へと展開する。
     そうしながら、ヤマメは和幸へと注意を払うことも忘れない。せめて安心できるようにと、声を掛け勇気を与えられるように言葉を投げていく。
     そして動いているのは勿論彼女達だけではない。
     こちらに気を配らないのならばそのまま倒すだけだと、伏姫より大量の弾丸が撃ち込まれる。
     着弾と同時に爆発するそれに紛れるように接近するのは一匹の霊犬。八房という名のそれが咥える斬魔刀が、もどきの身体を一閃した。
     その身体をぐらつかせながら、それでももどきの挙動は変わらない。和幸へと攻撃を試み――だがそれが形となることはなかった。
     その眼前にいたのは、弾丸を発射した直後に走りこんでいた伏姫の姿。勢いを殺すことなく放たれた蹴りが、その身体へとめり込む。
     蹴り飛ばした。
     そのまま地面へと叩きつけられ、しかしもどきはまだ諦めない。しぶとく立ち上がりながら、やはり和幸へと攻撃を放つ。
     だがそれを、徹太が身を挺して庇った。
     ここでやられちゃ何しに来たか分からない。
     そう思い、故に。
    「……来い」
     帽子の下に不機嫌を押し込め、それを呼ぶ。浮かび上がる青く水っぽいハート。それから力を借りるように、身体の傷が癒え力が増す。
     それから構えるのは、ファイナルディファイ。その先にあるのは、懲りずに放たれたもどきへの攻撃だ。
     銃口から発射された光線が、それを貫き叩き落した。
     そしてそれとほぼ同時。別の方角から、別のものへと向けて漆黒の弾丸が放たれていた。
     その発射場所は白い銃身。希望を宿すそれが狙ったのは、攻撃直後の無防備なもどきの胴体。
     それは違わずそこを貫き――それが止めとなった。
     もどきの身体が、ノイズが走ったようにぶれ、揺れる。
     そして。
    「これにてQED、だ」
     二挺のライフルを仕舞いながら、何も無い空間に向けられた雪紗の言葉が、終わりを告げる合図となったのだった。


     全てが終わった後、和幸は今起こった事に呆然としているようであった。
     しかし本当に大変なのはこれからである。罪の意識を取り戻した彼は果たしてどうなるのか。
     だが。
    「罪に耐えられないなら親しい者へ全て話すのだな」
     そんな和幸へと、伏姫は助言の言葉を残す。
    「罪とは当人の物、誰も肩代わり出来ぬ。が、お前を助ける力添えとなるやも知れん」
     何も一人で耐える必要はないのだ、と。
    「先に言うけれど死んで楽に……とかは思わないでよ。貴方の立場には同情しないけど本当に後悔しているなら生きて考える方が重要だよ」
     真剣な表情で、法子は言葉を伝えていく。
    「今の世の中だと厳しいと思うんだけど警察に相談してみるとかどうかな? 今適当に思いついたことなんだけどね」
     それで解決はしないかもしれない。それでも何もしなければ、何も変わりはしない。
    「家族の事を考えると簡単には決められないでしょうが、今の仕事のままでこのあと十数年も続けられると思いますか? 罪の意識に苛まれるようなそんな仕事を元気に続けられると思いませんけどね」
     結城が勧めるのは、彼女達のそれとはまた別の道だ。
    「辞めたらどうですか」
     それに同調するように、徹太がその答えを提示した。
     ジョギングやボランティアに精を出すとか、変わる切っ掛けなんかいくらでも作れると、言葉を続けていく。
    「罪は結局背負うしか無いのさ。だから繰り返さない様にしないとね。……どうか君の未来に救いあれ、なんてね」
     最後におどけたように、変わらぬ笑みのままで九曜が告げた。
     既に言いたいことは伝えてあるヤマメはそれ以上は何も言わず、そして雪紗は敢えて許しの言葉を掛けずに背を向けた。
     後悔を癒し、今を変えていけるのは、罰を遂行するという使命感なのだと、そう思うから。
     八人が去った後、真っ白な空間に残されたのは和幸ただ一人。彼がこれからどうなるのかは、きっと本人にすらも分からない。
     けれども。
     目覚める直前、その表情はほんの少しではあるものの、確かに和らいでいるように見えたのだった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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