赤き爪のスサノオ~開かずの古き箱~

    作者:日向環


     冷たい風か、音を立てて吹き抜けていく。
     枯れ葉が舞い上がり、小さな渦を巻く。
     渦の中心に何かがいた。
     全身が真っ白な毛で覆われた「それ」は、見た目はニホンオオカミに似ていた。ただ、瞳は血のように赤く、爪も毒々しい赤色をしている。尾は2本あった。なかなかに、立派な尾である。
     精悍――という表現が相応しい顔付きで、「それ」は一軒の古ぼけた宿を見上げていた。
     地面に顔を落とすと、吐息のような息をほうと吐き出し、次の瞬間、「それ」は忽然とその場から姿を消した。

     風が再び小さな渦を巻く、その渦はやがて一つの形を成していく。
     白く、ふさふさした毛を持つ不思議な塊だ。細い鎖のようなものが伸び、地面と繋がっていた。
     白き毛の不思議な塊は、その民宿に向かってころころと転がっていった。


    「スサノオってけっこう可愛かったよね」
     黒板にスサノオのイラストを描き終えた木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)は、満足げにうんうんと肯く。
     もうちょっとおっかない顔をしていたような気もするが、みもざが描いたスサノオは、どう見てももふもふの可愛らしいわんこである。
    「うーん。でもこれ、毛じゃなくって、白い炎なんだよね……」
     もふもふできないかーと、真剣に悩んでいる。
    「あ、そうそう。でね、スサノオって『古の畏れ』っていうのを生み出すんだけど、みもざがその場所のひとつを割り出したのだ!」
     えっへんと、胸を張る。
    「江戸時代から続いてるっていう凄く古いお宿があるんだけど、そのお宿の一室に『開かずの小箱』って言われている古い箱がある部屋があるのだ。『古の畏れ』は、その小箱を無理矢理開けようとすると出てくるようなのだ」
     これまで、その部屋に泊まった宿泊客が何人も開けようと試みたのだが、どうしても開けることができない箱らしい。
    「小箱自体には何も不思議な感じはしないから、壊れて開かなくなったただの箱だと思われるのだ。すっごいお宝が入っているというわけではないのだ、残念ながら」
     箱そのものに、不思議な力が封印されているというわけではないらしい。開かなくなってしまったただの箱のようだ。
    「それよりも、このままだとこのお宿に泊まるお客さんが危険なのだ。だから、さっさと『古の畏れ』を灼滅しちゃって欲しいのだ」
     武蔵坂学園の力を使って、既にその部屋を予約してあるという。
    「みんなは、合宿にきた学生ということになってるのだ。昼間なら、少し騒いでも大丈夫だと思うので、『古の畏れ』を呼び出して速攻で灼滅すれば、宿の人たちや他の宿泊客に迷惑を掛けずにすむのだ」
     十二畳ほどの広さの和室で、部屋の真ん中に掘り炬燵がある。床の間が有り、問題の小箱はその床の間に置かれているらしい。
    「出現する古の畏れは、いわゆるおっきなケサランパサランなのだ。体長は30センチの、白い毛の塊なのだ」
     なんかどっかで見たことがあるような気もするが、気にしてはいけない。
    「小さいからって馬鹿にしてはいけないのだ。物凄い電撃を放ったり、白い眠りの粉を振り撒いたりして攻撃してくるのだ。中でも強烈なのが、全身を白い炎で包んでの体当たりなのだ」
     見た目に騙されてはいけないというわけだ。
    「この事件を引き起こしたスサノオの行方は、ブレイズゲートと同じように、予知がしにくい状況なのだ。だけど、引き起こされた事件をひとつずつ解決していけば、必ず事件の元凶のスサノオにつながっていくはずなのだ。だから、頑張って欲しいのだ!」
     みもざは拳を握り締める。
    「因みに、みもざが予知したスサノオは、こんな感じのやつなのだ」
     みもざは、先程黒板に描いたスサノオのイラストを、ちょちょちょいと手直しする。
     真っ白な体毛で覆われ、瞳と爪が赤く、尾は二本のわんこ(オオカミ)だ。
    「宿は一泊できるので、古の畏れを灼滅したら、そのまま泊まって帰ってきてオッケーなのだ。でも一部屋しか取ってないのだ」
     泊まっても良いが、男女同室らしい。
    「そんじゃ、よろしくなのだ」
     みもざはそう言って、灼滅者たちを送り出すのだった。


    参加者
    姫乃木・夜桜(右ストレート・d01049)
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    深火神・六花(火防女・d04775)
    鬼形・千慶(破邪顕正・d04850)
    ギルドール・インガヴァン(星道の渡り鳥・d10454)
    深山・戒(翠眼の鷹・d15576)
    飯倉・福郎(喰ライング人生・d20367)

    ■リプレイ


     時代を感じさせる宿だった。
     地方ローカル線からバスに乗り換え、野を越え山を越え到着した頃には、陽は西に傾き始めていた。
     時刻は間もなく15時。おやつの時間である。
     まだ太陽が昇りきらない時間に出発したはずなのに、到着がこんな時間になってしまうとは、誰が予想したであろうか。
    「江戸時代から続く由緒正しき宿屋に古の畏れ。なかなかマッチしたロケーションだね」
     うむ、悪くない。と、ギルドール・インガヴァン(星道の渡り鳥・d10454)はその宿を見上げる。
     瓦屋根の二階建ての宿だ。ところどころが傷んでいるようだが、今にも壊れそうな……という表現からは程遠い、しっかりとした造りの宿だった。
    「こういうとこに泊まれるのは有り難いけど、堪能するのは仕事を済ませてからだな」
     深山・戒(翠眼の鷹・d15576)が応じた。
    「ハイ、合宿で来ましたー。……何のクラブかはナイショでっす!」
     既に玄関に入り、ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が手続きを行ってくれている。古びた旅館の玄関で、ヒマワリの着ぐるみが、ひょこひょこ動いている姿は何とも珍妙である。
    「お部屋は一階の『芍薬の間』になります。こちらへどうぞ」
     柔らやな物腰で、仲居さんが部屋に案内してくれた。年の頃は40代半ばか。
    「ありがとうございます」
     丁寧に頭を下げ、米田・空子(ご当地メイド・d02362)は靴を脱ぐ。
     履き物はそのままで良いというので、一行は仲居さんに付いて部屋へと向かうことにした。
     板張りの廊下は歩く度にギシギシと音を立てるが、綺麗に掃除がされていて、埃一つ落ちていない。
    「何の集まりで御座いますか?」
    「……仮装かな」
     鬼形・千慶(破邪顕正・d04850)は半笑いで答える。実際、道中の電車の中でも奇異の眼差しを向けられていた。バスは幸いにして乗客は自分たちだけだったが、運転手さんが妙に緊張していたのを覚えている。
    「コスプレ研究同好会の合宿です」
     柔らかな笑みと共に、深火神・六花(火防女・d04775)が補足する。
    「まあ、そうですか。この辺りは景色もいいですから、撮影には最適の場所だと思いますよ」
     なかなか物知りな仲居さんである。
    「お食事は7時で御座います。大浴場は24時間開放して御座いますので、お好きな時間にどうぞ。何か御座いましたら、お呼びください。それでは、ごゆっくりおくつろぎください」
     正座したまま、仲居さんは襖を閉めた。
    「……行ったようだぜ」
     耳を欹て、仲居さんの足音が遠ざかるのを確認していた千慶が、皆にそう告げた。
    「畳の良い香りだな」
     戒が掘り炬燵に入ってのんびりとしている。いつの間にか、人数分のお茶を煎れていた。
    「ふぅ……」
     お茶を飲んで、まったりした時間を過ごす一同。こらこら。
    「年末だってーのに、あたしらも仕事熱心な事ねえ。ま、変に大きな被害出て、本気で年末年始潰れるよかマシか……」
     大きく肩を竦めながら、姫乃木・夜桜(右ストレート・d01049)は部屋の整頓を始めた。いつまでも休息しているわけにはいかない。
     この部屋の中で戦闘を行うのである。戦闘の邪魔になりそうなものは、予め片付けておくにかぎる。
     とはいえ、部屋の真ん中にある掘り炬燵だけは如何ともし難い。
    「先の戦争で倒したはずの相手がこうやって事件を引き起こしている。謎ばかりが先行するが、今は一つ一つを潰していくしか、真相に辿りつく手段はなさそうだな」
     戒は床の間に歩み寄ると、古風な掛け軸の前に置かれている小箱を取り上げた。木製の小箱だった。小さな鍵穴がある。
    「本当にただの箱なんだな。どうしてこれの中身がケセランパサランなんだろう」
     戒は小箱を、ためつがめつ観察する。
    「……箱をしまえばいいのでは?」
     飯倉・福郎(喰ライング人生・d20367)が身も蓋もないことをいう。確かに、ここに放置しておくから被害が出るかもしれないわけで、小箱を隠してしまえば件の「古の畏れ」が出現する可能性は極めて低くなる。
     が、それでは根本的な解決には至らない……はず。
    「きっと事情があるのでしょう、むしろソレを知りたいのですが」
     ビハインドのシェフが、その通りだと肯いている。
     夜桜が窓側へ移動した。万が一に備え、逃走経路を潰しておく。
     ミカエラがサウンドシャッターを展開した。これで、戦闘音が部屋の外に漏れることはない。
     空子はナノナノの白玉ちゃんを呼び出す。皆、準備完了のようである。
    「気を付けて」
     ギルドールが声を掛けてくる。
    「本物……かもしれないケセランパサラン。割と楽しみなんですけど」
     千慶が興味深げ、戒が持つ小箱を見詰めた。
     戒が蓋に手を掛けた。
    「……」
     開かない。
     そう。エクスブレインは、「開かずの小箱」と言った。宿泊客が何人も開けようと試みたのだが、どうしても開けることができない箱だとも。
    「ぬ~~~!!」
     顔を真っ赤にして、戒は小箱を開けようとするが、蓋はうんともすんとも言わない。
     思い出して欲しい。エクスブレインが何と言ったのかを。彼女は、「『古の畏れ』は、その小箱を無理矢理開けようとすると出てくるようなのだ」と言ったのだ。
     つまり、本気で開ける必要はない。
    「つお~~~!!」
     でも、戒は頑張った。小箱を開けようと。そりゃあもう必死に。だが、彼女の努力も虚しく、小箱の蓋は開かなかった。
    「ぜー……ぜー……。だ、駄目だ。何だこれ……」
     息も絶え絶えに戒が嘆いた直後、掘り炬燵の中から「それ」は出現した。
     体長は30mmあまり。真っ白い毛の塊だ。ケサランパサランである。
    「おぉ、あれがケセランパサランか。ちょっとかわいいな」
     千慶は目を見開いた。油断は禁物だとは言われてるが、愛玩動物のようなこの姿を見てしまうと、心が和んでしまう。
    「これは可愛らしい」
     ギルドールもニッコリ。捕獲して、学園のプールに放したい衝動に駆られる。
    『もきゅ』
     鳴いたぞ、こいつ。


     いくら見た目が可愛くたって、もふもふしていて愛くるしかったとて、倒さねばならない相手であることには違いない。
    「きゅー♪」
     先制パンチとばかりに抗雷撃を打ち込もうとしたミカエラだったが、ケサランパサランの方が動きが速かった。
     バホッという重々しい音と共に、大量に白い粉がぶち撒かれる。ケサランパサランを取り囲んでいた夜桜、空子、千慶、戒の4人が瞬時に眠りに落ちた。
     遅れて、ミカエラの攻撃がヒット。
    「けほけほっ」
     白い粉が舞い飛ぶ。部屋の中は、一瞬にして真っ白けだ。
     ギルドールが影の触手を伸ばす。行動制限を付けなければ、長期戦になる可能性もある。
     戦闘音は外に漏れることはないが、ドタバタと動き回る振動までは消せない。長い時間、激しく動き回る振動を不審に思い、仲居さんが様子を見に来てしまうと厄介だ。
     が、ケサランパサランは身軽に跳ね回り、無数の影の触手を躱した。
    「師匠、よろしく」
     顔を晒した瞬間に白い粉を吸い込んで、激しく噎せている師匠の後ろで、福郎は夜霧を展開した。
     六花のオーラキャノンが打ち込まれたが、与えたのは掠り傷。
    『もきゅっ』
     反撃とばかりに、ケサランパサランは凄まじい電撃を放った。
     白い粉に続き、前衛陣は今度は強烈な電撃を浴びせられた。
     猛烈な睡魔に襲われ、何が何だか分からなくなっている前衛陣は、振り上げた武器が味方に当たったりして大変なことになっている。
     夜桜はオーラを纏った掌で、ケサランパサランを撫で撫で。
    「みんなしっかりー!」
     ヒマワリ水着のリボンをひらひらさせながら、ミカエラは聖なる風を仲間たちに向かって送り出す。そろそろ起きて貰わないと自滅しかねない。
    「さっすが、スサノオの眷属! 偉大だったり、英雄だったり、純真だったりするんだろうな~」
     ちっちゃなお耳と可愛らしい手足を持つ変な生き物の姿が、ミカエラの脳裏を過ぎる。感心している場合ではないのだが。
    「ゆ、油断したぜ……」
     油断してはいけないと頭では分かっていたものの、あまりの可愛さに和んでしまった結果、痛い目をみた千慶が逆襲する。拳にオーラを集中させると、凄まじい連打を叩き込んだ。
    「げほっ。げほっ」
     白い粉が飛び散る。まともに吸い込んでしまった千慶が咳き込む。
    『もっきゅっきゅーーー!!』
     気合いを入れたケサランパサランが、その体を白い炎で包み込み、千慶に向かって一直線に突っ込んできた。
    「うおっ!?」
     直撃を食らった千慶が、思わず膝を突いた。話には聞いていたが、これはかなり痛い。一瞬、お花畑が見えた。
    「捕らえた!」
     してやったりと、ギルドールが歓喜の声をあげた。影の触手が、ようやくケサランパサランの体を捕らえたのだ。
     体中真っ白けになりながらも、福郎の師匠がしつこく顔を晒す。ケサランパサランの体がびくぅっと震えると、
    『もきゅ! もきゅきゅ!!』
     見えない何かと戦いだした。
    「ここです!!」
     モーターをフル回転させ、福郎はチェーンソー剣を振り上げた。狙うは、ケサランパサランから伸びている鎖だ。無数の刃が高速で回転し、ケサランパサランを繋ぎ止めている鎖をガリガリと削る。
    『もきゅきゅきゅきゅ!?』
     驚いたケサランパサランが変な声をあげる。全身を振るわせ、強烈な電撃を大放出する。その電撃全てが、前衛陣にものの見事にクリティカルヒット!
    「!!!!!」
     骨格が透けて見えてしまうほどの電撃に、声無き悲鳴が喉から飛び出る。
     ミカエラが慌てて聖なる風を吹かせたが、てんで回復が追い付かない。六花が炎の翼を広げて治療をフォローする。
    「……お、お花畑が」
     二度も見る人も珍しい。
    「……川の向こうに先代がいた」
     戒は越えてはいけない川を越えかけたらしい。
    「私のせい……じゃ、ないですよね?」
     アイドリング状態のチェーンソー剣を手に、ちょっとオロオロする福郎。鎖も思いの外頑丈で、一撃だけでは破壊できなかった。ちょっと傷が付いたくらいだ。
     ここいらで一気に仕留めないと、色々とやばそうである。
     気合い一閃。夜桜の尖烈のドグマスパイクが、ケサランパサランに叩き込まれた。千慶がケサランパサランの背後(と思われる位置)に回り込んで、強烈なティアーズリッパーを放つ。
     白い粉と共に、白い毛も飛び散る。
     ギルドールは縛霊手を掲げて、霊的因子を強制停止させる結界を構築する。これ以上、ケサランパサランに好き勝手に動き回られては困るのだ。
     灼滅者たちの猛攻に対し、ケサランパサランも必死の抵抗だ。わんだふるでの特攻を試みるも、自分が振り撒いた粉に滑ってバランスを崩し、こてっとその場でずっこけた。体が麻痺しているから仕方がない。しかし、これは致命的だった。
    「白くてふわふわって、そそられるけど、人に害をなし得るなら、倒すしかないのかね」
     戒の痛烈な鬼神変の直撃を食らうと、
    『もきゅーーーっ』
     悲しげな悲鳴を上げながら、ケサランパサランは白い粉となって飛び散っていった。

    「とりあえず、お掃除ですよね……これ」
     部屋の惨状を見て、六花が誰ともなくポツリと呟く。部屋に備え付けの物は極力壊さないようにと配慮して戦ったものの、まき散らかされた白粉が、部屋の中を白の世界へと変えている。流石に掃除をしないと、一晩過ごすことはできなさそうだ。
    「でも本当に、何が入っているのでしょう?」
     六花は蓋が閉じたまま箱をしげしげと眺める。振ると微かに音がするので、何かが入っていることは間違いなさそうだ。
    「……もしかして化粧箱だったのか?」
     戒が首を傾げる。
    「ケサランパサランって、瓶に白粉と一緒に入れとくと増えて、しかも持ち主に幸運を運ぶとか、なんかそういうやつじゃなかったっけ」
     瓶ではなくて、桐の箱が良いらしい。穴を開けていないと、窒息して死んでしまうと言われている。いちおう生物なので、呼吸をしなけれはならないのだ。
    「欠片でもいいから持って帰れねぇかな」
     千慶は持参してきた瓶に、白粉に埋もれていた白くてふわふわした何かをそっと入れると、白粉も少し拝借した。
    「……せめて、バレンタインデーは……」
     ぶつぶつ言いながら、福郎もポケットから何かを取り出すが、一同の視線を感じたので、慌てて首を振る。
     こっそり持ってきた白粉は、ポケットから出ることはなかった。


     戦いよりも、掃除の方がしんどかった。
     死して尚、灼滅者たちにダメージを与えるとは、ケサランパサラン恐るべし。
    「廊下側はいやです寒いから。誰か変わってくんね?」
     寝る位置を決めるべく、くじを引いた千慶は見事廊下側をゲット。古い宿なので、襖の隙のから冷たい風が流れ込んでくるのだ。
     仲居さんに用意してもらった衝立を、戒がそそくさと部屋の中へ。寝るときはこの衝立で、男女間を仕切るつもりなのだ。
     体中粉っぽいので、ミカエラや六花は早速露天風呂へ。
     ギルドールは宿の浴衣を着込み、嬉々として露天風呂へと向かう。胸元が肌蹴気味だが、着方は教わっているので、帯の締め方はばっちりだ。
    「……あの時みたいな空……」
     星が瞬き始めた空を見上げ、六花はふとセンチメンタルな想いに耽る。
     空子と白玉ちゃんも、のんびりとお湯に浸かる。
     ミカエラは……泳いでいた。

     宿での卓球。
     それは、コーヒー牛乳を賭けた命懸けの戦い。
    「喰らえ、ラケット・ぱーんち!」
    「You bastard!」
     ミカエラの強烈なスマッシュを、夜桜が同じくスマッシュで打ち返す。ドリルのように回転するピンボン玉が、ミカエラの眉間を直撃!
     ミカエラ、ノックアウト。
    「よっしゃ、どっからでもかかってこいやー!」
     挑戦者、千慶。ホーミングしてきたピンポン球が、千慶の鳩尾を痛打。
     千慶、憤死。
    「ぬわー!」
     福郎&師匠コンビ、玉砕。
    「これ、卓球か……?」
     累々たる屍の山に、茫然とする戒。
    「おかしい。一般人レベルの能力で勝負していたはずなのに……」
     卓球台に並べられたコーヒー牛乳にフルーツ牛乳、イチゴ牛乳を見詰めて、夜桜は一人で全部は飲めないと、途方に暮れていた。

    「あの開かずの箱って結局何が入ってんの?」
     仲居さんを捕まえて、千慶が質問。確かに中身は気になる。
     戦いの後、ギルドールが色々といじっていたが、結論としては、蓋が壊れて開かないただの箱という感想だ。
    「よく分からないんで御座います」
     昔からある箱なので、実際、中身については誰も知らないらしい。
    「何で壊れた箱を客間に置いてるんです?」
     福郎の質問には、「話題性ですよ」と、仲居さんは笑って答えた。
     何故、この土地にスサノオが現れたのか、何故ケサランパサランだったのか、その謎はまだ解明できそうにない。
     古き宿は、やがて夜の闇に包まれていく。
     赤き爪のスサノオが、次ぎに現れるのは果たして――。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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