「フヒッ! フヒヒ……良いよぉ、最高だよぉ……とっても可愛いよぉ。そうだとも……美しい物を愛でて何が悪い……悪い事なんて何も無いさ……」
深夜、パソコンのモニタを凝視しつつ薄気味悪い笑みを浮かべる男。
画面には、学生と思しき制服姿の少女達を盗撮したと思われる画像の数々。
「やっぱり白が最高だぜぇー! ヒャッハー!」
全身を覆う脂肪を揺らしながら、その男は楽しげに笑うのだった。
「病院の灼滅者とはもうお会いになりまして? 彼らによってもたらされた情報なのだけれど、贖罪のオルフェウスというシャドウが、ソウルボードを利用して、人間の闇堕ちを助長しているのですわ」
と、説明を始めたのは有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)。
「彼らのもくろみを打ち砕いて下さいまし」
具体的には、罪を犯した人間にソウルボード内で贖罪の夢を見させ、罪の意識を取り除くのだという。
罪悪感を無くした人間は、現実世界で躊躇いなく悪行を重ね続けるようになり、最終的には闇に堕ちると言う寸法だ。
今回標的となったのは、マサと言う名前の中年男性。
元々学制服を着た女子が好きだったらしいのだが、出来心から盗撮を始め、今では罪悪感も無く次々に罪を重ねている。
「まずは彼の自室からソウルボード内に侵入し、贖罪の夢を妨害せねばなりませんわね」
この際、単に邪魔しただけであれば被害者の一般人はシャドウの様なダークネスもどきと合体し、襲いかかって来るだろう。
逆に、罪を受け入れる様に説得させる事が出来たなら、ダークネスもどきが単体で出現する。そちらは戦闘力としては劣るが、被害者である一般人を守りつつ戦わねばならなくなるだろう。
ここで被害者が攻撃を受けてしまうと、説得失敗と同様の状況になると言う。
「通常時のダークネスもどきは、望遠レンズ付きの高性能カメラを携えていて、主に低い姿勢から攻撃を繰り出して来ますわ」
肥満体型ながら動きは素早く、その激写攻撃は威力も侮れないという。
「もしも説得に成功したならば、敵は見た目も貧相になって、ケータイをカメラ代わりに攻撃してくる様ですわ。体力攻撃力なども、軒並み低下しますわね」
ただ先述の通り、この場合は一般人を狙って攻撃してくる様になる。マサを守る事が出来なければ、前者の強力なダークネスもどきに変化してしまう。
「幸い、この夢の中では『夢を見ている本人を守りたい』と強く願えば、その願いが一番強かった人間が攻撃を肩代わりする事ができますの。……ただし、この場合に受けるダメージは二倍になりますわ」
となれば、一人だけが常にマサを守り続ける事は難しいだろう。上手く連携を取りつつ、戦わねば成るまい。
「それと、説得に成功した状態で作戦が成功したならば、マサは罪の意識を抱えたまま目を醒ましますわ。何らかのフォローをしてあげても良いかも知れませんわね」
軽く声を掛ける程度のケアでも、彼が立ち直る助けになるはずだ。
説得が成功しなかった場合は、罪の意識を持たずに目を醒ます為、今後の社会復帰にはやや不安が残る事になってしまうだろう。しかし、そこから先は灼滅者の領分では無い。深入りは無用だ。
「では、行ってらっしゃいまし。お早い帰りをお待ちしておりますわ」
そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
神宮寺・琴音(金の閃姫・d02084) |
神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616) |
桜庭・理彩(闇の奥に・d03959) |
倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007) |
紅羽・流希(挑戦者・d10975) |
小早川・里桜(黄泉へ誘う黒氷桜・d17247) |
綾芽・藤孝(林檎大好き・d22545) |
男風名・鳴海(変態を極めようとせし者・d23498) |
●
「おぉ……貴方は何故その様に清くあられますのか……それに引き替え、私は罪深き人間です。今日もまた罪を重ねてしまいました……。うら若き少女達のスカートの……その中を盗撮したのです」
見渡す限りに何も無い、だだっ広い空間。空は重そうな雲が覆い隠していたが、雲の切れ間の一点からのみ強い光が差し、地上に跪く男を照らしていた。
「解っているんです……こんな事をしてはいけないと。しかしやめられない……私はどうすれば良いのでしょうか……罪深き私の魂は、もはや救われる事は無いのでしょうか」
跪き、両手を光源へと伸ばし、男は嘆いた。
と、そのときである。天から差す光は一層輝きを増し、男の身体を包み込んだ。
「おぉ……これは……なんて、温かいんだ……」
己の全てを受け入れ、優しく抱擁される様な心地良さに、男は魂が良心の呵責から解放されてゆくのを実感した。
「あぁ……この様な私でも赦して頂けるのですね……」
――むに。
「温かい……」
続いて、柔らかい御手に頬を撫でられる様な感触。男は完全に罪の意識から解放され――、
「それはワタシのお稲荷さんだ!」
「……え? う、うわぁぁっ!?」
男が目を開けると、そこに在ったのは男風名・鳴海(変態を極めようとせし者・d23498)の股間。
「な、なんだお前達は!」
「日本男児たるもの、恥を知りなさい! おなたの行いは卑劣な盗撮であって許されざるものではありません!」
「くっ……?!」
小学生ながら、びしっと言い放つのは神宮寺・琴音(金の閃姫・d02084)。年端もゆかぬ少女に厳しい言葉を突きつけられ、思わずたじろぐ男。
「此処で懺悔して、罪を忘れて……また新たな間違いを犯す。止められる筈の間違いを、繰り返し続ける。……貴方はそれでもいいのか?」
「っ……な、何なんだお前達は……邪魔するな! 俺は今……赦しを得ていたんだ! 贖罪をしていたんだぞ!」
更に、静かな口調で告げる小早川・里桜(黄泉へ誘う黒氷桜・d17247)に対し、ようやく切羽詰まった表情で言い返す男。
ちなみに彼女、普段は美青年に見間違われる男装の麗人だが、今日は年相応の女子高生ルックである。マサ的にはドストライクだったのか、一瞬息を呑んで足先から顔までをじっくり眺めつつ、上擦った抗議の言葉を紡ぐ。
「貴方は、そうやって何度、懺悔を致しましたか? よく、思い出してくださいねぇ……。毎日、夢の中で懺悔をして、何度も何も知らない少女達を盗撮したのですよ……?」
紅羽・流希(挑戦者・d10975)は彼の温厚な性格を表わしたような間延び口調で、しかし内容は厳しく男を詰問する。
「そ、そんな……違う! 赦されたんだ! 俺は! だから……だから良いんだ!」
しかし、男は怯えたように被りを振ってヒステリックに叫ぶ。
「そしてそうして懺悔なさるということは、盗撮がどれほど罪深いことかご自覚なされていらっしゃると存じます」
丁重な言葉遣いで、静かに告げるのは神楽・慧瑠(戦迅の藍晶石・d02616)。
「それは……わ、解ってる……だからこうして!」
「必要なのは懺悔じゃない、許しを得る唯一の方法はその下劣な行いを止める事よ」
「ぐっ……」
慧瑠の言葉に、やや過剰な返答をした男へ、桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)はぴしゃりと言い放つ。
「……だが、仕方ないだろう……あんな短いスカートを履いて、健康的な脚を覗かせていたら……誰だって……」
「好きな物を傷付けるのはいけない事だよ。それは『愛でる』じゃなくて『いじめる』だよ」
「っ……!」
今回最年少の灼滅者である綾芽・藤孝(林檎大好き・d22545)は、子供らしく純粋な言葉と眼差しで、弁解する男の言葉を遮る。
「あなたのしている事は美しい物を愛でているとは言いません。相手を辱めているだけです」
「……くっ……」
尚も逃げ場を求めて視線を巡らせる男に対し、倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)は繰り返し彼に自らの罪を突きつけた。
「……そうさ……その通りだ……俺は罪を犯した……」
逃げ場を失った男は、がくりとうなだれて自らの罪を改めて認め、その咎から逃れる事は出来ないと理解したようだった。
「ふひっ、おいおい……何してくれてるんだよぉ……別にイイだろぉ、盗撮くらいさぁ」
と、唐突に姿を現したのは痩せぎすのいかにも陰険そうな男。手にはスマホを携えている。
「そいつだって反省してるんだしさぁ、減るもんじゃないしさぁー。なぁ? また撮りたいだろー?」
「う、うぅ……俺はただ」
「皆まで言うな! 女性のパンティを愛でるその気持ちは凄くわかる! それは男の業だ」
「?!」
出現したシャドウもどきと男の会話を断ち切り、力強く声を上げるのは鳴海。
確かに彼の出で立ちを見る限り、女性物の下着に掛ける並々ならぬ執着が窺える。と言うか、なんだったら盗撮魔のマサよりも、ストレートな変態である。
しかし、彼の存在によりマサの自己嫌悪が和らいだのは間違いなさそうだ。
「ちっ……だったら力ずくでソイツを取り込むまでだぜぇー……」
ゆらりと上体を揺らし、スマホを撮影モードに操作するシャドウもどき。罪から逃れ得ぬ事を悟ったマサと、力ずくで合体しようと言うつもりのようだ。
灼滅者達はマサを守るべく、一斉にスレイヤーカードを切った。
●
「ふひっ……丁度かわいい子が大勢居るしよぉー、俺と一緒になってまた撮りまくろうぜぇー?」
外見に似合わず俊敏な身のこなしを見せる盗撮魔。スマホのカメラを灼滅者達――の背後に隠れるマサへ向ける。
「ひいっ?!」
――パシャッ!
切られるシャッター。絵梨佳の説明が確かならば、敵の攻撃を受ければ、マサはシャドウもどきに取り込まれてしまう。
だが、そのファインダーの前に立ちふさがったのは琴音。
「この一刀、防げるか!」
――ブンッ!
己の身の丈を超える斬艦刀――零式を盾に激写攻撃の直撃を防ぐや、そのまま鋭い斬撃を繰り出す。
「ぬうっ!? ……ガキがぁっ……俺のストライクゾーンはJC1~JK2までなんだよぉー」
「このシャドウもどきを倒したら盗撮やめてくれるかな」
漆黒の弾丸を形成すると、おぞましき盗撮の権化へ向けて放つ藤孝。
少なくとも、この悪夢よりマサを解き放つことによって、彼は罪の意識を持つ事になる。良心のある人間であれば、これまでの様に際限なく罪を重ねる事はなくなるはずだ。
「マサ様も罪を自覚されていますし、本来あるべき状態に戻させて頂きましょう」
口元に添えていた扇子をシャドウもどきに向け、言い放つ慧瑠。口調や振る舞いこそ優雅だが、地面を蹴ると瞬く間に敵の間合いへ躍り込む。
――ギュィィン!
「ぐぅおおおっ!」
そしてそのまま、高速回転するバベルブレイカーの先端を、盗撮シャドウの腹部へと見舞う。
「……まだだ……」
「鬱陶しいわね。古来、『人でない』罪人は火炙りになったそうよ。お前も同じ目に合うと良いわ、許されざる者」
――ザンッ!
ぐらりとよろめきながらも、ローアングルから激写攻撃を繰り出そうとする相手に対し、冷徹に紡ぐ理彩。燃えさかる炎を纏う心壊が、敵の肩口を大きく切り裂く。
「なうっ! ……ククク……やってくれるじゃないかよぉ……だけどまだまだだぜぇ」
直撃を受けながらも、敵は未だその薄ら笑いを消す事は無い。再びシャッターが切られる。
これまでマサが吐き出してきたおぞましい罪の意識こそが、このシャドウもどきを構成しているのだ。一筋縄で行かないのも当然と言えるだろう。
「罪の意識は良心の証明。勝手に取り除いてもらっては困ります」
WOKシールドで激写攻撃を受け止めつつ、ソーサルガーダーを展開する慎悟朗。受けたダメージをたちどころに完治させる。
「ふひはは……罪の意識なんて抱えたって苦しいだけさぁ……全部吐き出してリセットした方が楽だろうがよぉ……」
「どんな夢であろうと、ダークネスが見ていい夢など無いな」
拳に精神壁を纏わせた流希の口調は、先ほどまでの穏やかさとは打って変わって、凛と厳しい物へと変わる。
――バキィッ!
鍛え抜かれた拳は、戯れ言を口にする敵の顔面を強かに打ち据える。
「ぐっ……へへ、邪魔すんなよぉ……お前達から先に片付けてやろうかぁ? それからゆっくりと、そこの盗撮男を取り込んでやればいいしなぁ」
「そのような事、赦してたまるか」
「ふぉっ?!」
いざ戦闘が始まれば、着慣れぬ姿への気恥ずかしさもどこへやら、スカートを翻し素早い動きで距離を詰める里桜。
――シャッ!
盗撮魔が思わずスマホを構えるが、里桜はファインダーが彼女を捉えるより速く、愛刀咲耶を居合抜く。
「ぐっ……へへ……良いショット頂きぃ……」
灼滅者らの波状攻撃によって、シャドウもどきには少なからずダメージが蓄積しつつあるはずだが、そう簡単には膝を折らない。
「もっと撮らせてくれよぉ……うおっ?!」
「これを見てくれ……どう思う?」
尚もスマホを向ける敵の眼前に立ちふさがったのは、鳴海。ビックマーラーEX☆~全てを貫く漢のご立派様☆~がファインダーの前に聳え立つ。
――ドスッ、ドスッ!
「凄く……大きいです……アッー!」
ジェット噴射の勢いを借りて、死の中心点に杭を突き立てる鳴海。
とは言え、夢中の戦いは、説得によって敵の弱体化を成功させた灼滅者達の有利に、傾きつつあった。
●
「もう一息ですわ、参りましょう」
「正義の鉄拳お受け頂く」
――バッ!
「ぐっ! ま、まだ……」
慧瑠と琴音は、左右より挟撃する様に攻撃を仕掛ける。各々の拳が閃光を纏い、無数の光となって男を打ち据える。
さしものシャドウもどきも、体力の限界が近づきつつある様に見える。
「惨めに消えて行きなさい――心壊!」
――ザシュッ。
理彩の刀が、スマホを手にした男の、右腕を庇う様に出された反対の腕を切断する。
「ぐああぁぁーっ!!」
「そのシャッター、もはや切らせません」
慎悟朗のクルセイドソードは非物質化し、今度はスマホを手にした右腕を霊的に断つ。
「き、貴様らぁぁっ……」
「男心を踏みにじる奴は、落とし前を付けて貰うぜ」
「贖罪のオルフェウス。貴様の目論見、此処で一つ潰させてもらうぞ」
間を置かず、間合いを詰めた流希と里桜は、それぞれ最上段と中段に構えた業物を、鋭く振り下ろす。
――ドシッ!
「がはぁっ!」
黒い血飛沫をまき散らし、倒れ伏すシャドウもどき。
「……例え両手が使えなくても……この眼と言うファインダーを通して、心というネガに、スカートの中を収める事は出来るぅっ!」
「何かカッコ良い感じで気持ち悪いことを言いだした」
「貴様の執着は解った。だがそれは愛ではない!」
暫し回復に専念していた藤孝だが、敵が瀕死である事を確認し、再び攻撃に転じる。これに呼応し、バベルブレイカーを振り上げる鳴海。
――ドッ!
「ごぶっ……ローアングルよ……永遠なれ……」
瀕死のシャドウもどきにこれを耐える余力は残されていなかった。
●
「貴方様のなされたことは残念ながら刑事罰に問われる内容でございます。その意識を背負うことは苦しいことかと存じますが、しかし、だからこそしっかり向き合わなければなりません。ご自身の行動を省みてやり直したいと思うのであれば、すべきことがございましょう」
「……あぁ……」
扇子を口元に添え、厳しいながらも親身に言葉を紡ぐ慧瑠。
無事ソウルボードを脱した一行とマサ。彼の心には、これまで重ねた罪によって生じた罪悪感が戻っている様だ。
「今は苦しくて、不安かもしれないが……まだ間に合う。大丈夫、きっとやり直せる筈だから」
「あぁ、ちゃんとした格好をして生活を正せば、こんな劣情を抱かずとも認めてくれる女性が現れるだろう」
里桜と流希も、うなだれるマサを励ます様に言葉を掛ける。
「うむ、愛でる道は間違っていない……けれども方法を間違えてはいけないのだ!」
「……あぁ、アンタ達の言う通りだ……償って、真っ当な道に戻れる様頑張るよ……」
鳴海にポンと肩を叩かれ、マサは小さく頷く。説得力があるのだかないのだか……。
「これでもう、悪い事しないでくれるといいな」
「えぇ、花泥棒は盗人に非ずとか言いますが、れっきとした罪ですしね。……でも罪は償えると思います」
マサの部屋の扉を閉めつつ言う藤孝の言葉に頷きながら、期待を込める慎悟朗。
「夢の中で、ストッキング履いてるとは言え、やっぱり撮られるのは良い気しないわね。……そう言えば、盗撮したデータはどうなるのかしら」
ふと、気になってマサの部屋を振り返る理彩。
「盗撮データでしたら……帰り際に電源コードに足を引っかけてしまって、パソコンも外付けのハードディスクも、壊れてしまったみたいです」
にこりと微笑む琴音。
撮られた子達の為だけでなく、収拾した画像を見るうち、マサが再び悪の道に戻ってしまわないようと言う予防線にもなるだろう。
しかし、いずれにしても今後の事は彼次第。
灼滅者は自らの責務を全うし、凱旋の途に就いたのだった。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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