隣の芝生、むしれば蜜の香

    作者:一縷野望

     ――子供の頃から人の持ってるモノほど欲しくて仕方がなかった。
     手に入れてしまえばとたんなに輝きを失って、どうでもよくなるのだけど――。

    「夫を返してちょうだいよ!」
     踏み切りの甲高い音にも消されぬ金切り声で、子供を抱いた女がスーツ姿の女を詰る。
    「坂本さんが私に言い寄ってきたんですよ? 彼の自己責任です」
     スーツの女、鈴子は涼しげな顔に歪んだ三日月を刻み飄々と応える。
    「この泥棒猫ッ!」
     以後、口角泡飛ばしもはや意味を為さない叫びの女、腕の赤子が火がついたように泣き喚き加勢する。
    「はぁ」
     気怠げに髪をかきあげて溜息。そんなうんざりした態度に反して、心は優越感で満たされているのだが。
     長く付き合えば必ず綻ぶのが男と女。
     そこにつけいり人の持っているモノをとりあげるのは本当に愉しい。
     彼らは無くして初めて価値に気付き焦る、その絶望を見るのはどんなテレビドラマより面白い。
     カンカン……カン……。
     目の前を電車がすれ違い終わり、警笛が止んだ。
    「…………死んでやる。この子と一緒に踏み切りに飛び込んでやる」
     衝動的な台詞だが、思い詰めた暗い瞳は本気にも取れる。
    「いい大人ですし私の許可を得なくていいですよ。自己責任でどうぞ」
    「ッ?!」
     怒りの余り言葉を失う女に、鈴子は素っ気ない口ぶりで添えた。
    「哀しんでくれるといいですね、坂本さん」
     坂本さんの妻である彼女も坂本さんではあるのだけれど、そんな事はどうでもいい。
     

    「こういう女はミステリィだと一番の被害者候補だね」
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)の冷めた灯の瞳には、処置無しとの呆れが広がっている。
    「来てくれてありがと。『病院』の灼滅者とはもう逢った?」
     この度の依頼は『病院』の灼滅者からもたらされたダークネスの陰謀についてである。
    「贖罪のオルフェウス」
     短いセンテンスで告げられた名は、四大シャドウの一角に在る大いなるダークネス。
    「奴が目をつけたのは罪人」
     彼らは罪を告白し悔悟する夢を見る。目覚めた後、罪の意識は拭ったように綺麗さっぱりなんにもなし。引き替えに闇堕ちへと近づいていく、一歩一歩。
    「罪の意識がないからやりたい放題さ。例えば今回の不倫中毒の玉置・鈴子(たまき・すずこ)のようにね」
     20代後半独身の彼女は、会社の上司、学生時代の友人……手当たり次第に妻帯者の男へ手を出しては捨てを繰り返している。
     ――もはやこれは『恋』ですらない、かもしれない。
     夢の中、鈴子は頭を垂れて罪の告白をしている。この懺悔を邪魔すれば戦闘開始だ。
    「普通に邪魔すれば、鈴子がシャドウもどきになって襲いかかってくるよ」
     ――では普通じゃない邪魔の仕方は?
     言外の問いに標は瞼を下げて半目で息を吐いた。
    「皆が罪を受け入れるように説得して成功すれば、鈴子の代わりにシャドウみたいなのが現れる」
     ……鈴子が罪を受け入れれば、ね。
     標の揶揄するような声にはそれが平易ではないと滲んでる。
    「こいつは鈴子よりは多少弱いけど、鈴子を集中して狙うから庇いながら戦うコトになる、下手したらこっちの方が難易度高いかもね」
     特殊な点として、灼滅者の内鈴子を庇いたい想いが最も強い者が自動的にダメージを肩代わりする。ただしダメージは2倍。
     ちなみに鈴子を護り切れずに攻撃を受けてしまった場合、敵の強さは元に戻る。
    「どちらの形態にしても、三人の配下を連れてるよ、見た目は不倫相手を模してるっぽいね」
     ほら、こんな所にも業の深さが滲み出ている。
     鈴子を説得するかそのまま戦うかは灼滅者に委ねられている。
     ちなみに説得に成功した場合は、目覚めた後で罪の意識に苛まれるので心のメンテナンスをしてやった方がいいかもしれない。
     説得しなかった場合は、罪の意識は相変わらず失ったまま。彼女は不倫という果実を貪り続けるのだろう。
    「とはいえ、元々鈴子にそういう欲の芽があったわけだし、深入りしてもいいコトないかもね」
     綺麗な言葉で諭したからといって鈴子が道を正せるとは限らない。
    「ま、どの道こんなコト繰り返してたらいつかしっぺ返しはくると思うけど、それも『自己責任』だよね」
     鈴子が好む台詞で締めくくり、標は灼滅者達を送り出すのである。


    参加者
    芹澤・朱祢(白狐・d01004)
    史央・柚(皐に眠る白の欠片・d01401)
    篠原・朱梨(闇華・d01868)
    犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)
    藤枝・丹(六連の星・d02142)
    神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456)
    八乙女・小袖(鈴の音・d13633)
    黒橋・恭乃(喰罪キョウノ・d16045)

    ■リプレイ

    ●懺悔・表面
     必要最小限の物以外はないワンルームマンション。そこに眠る鈴子からは『不倫中毒』が示す自己顕示欲の強さは感じられなかった。
     そんな彼女のソウルボートは、相反するように物にあふれ返っている。
    「女の子の服と玩具ばかりだな」
     壁に掛けられた女子制服に目をやり、神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456)は感想を漏らす。
    「全体的に使い古された感じですね」
     制服のほつれや人形の髪の乱れを見出した黒橋・恭乃(喰罪朱祢・d16045)は鈴子は何処かと視線を巡らせた。
    『また、不倫をしてしまいました』
     襖に遮られた先から響くくぐもった懺悔。
     早速踏み込もうと面々を藤枝・丹(六連の星・d02142)は腕を伸ばし遮った。
    「もう少し彼女の懺悔を聞いてみるっす」
    「確かに」
     短く頷く八乙女・小袖(鈴の音・d13633)は耳を澄ます。果たして彼女は何処を『悪しきコト』と認識しているのか。
    「うん、彼女の気持ちを聞いておきたいね」
     篠原・朱梨(闇華・d01868)もまた同意する。多勢で押しかけて問い詰めるより、ある程度把握して向う方がよさそうだ。
    『坂本さん、奥さんの育児ストレスで八つ当たりされて辛そうだったから……』
     言い訳だらけ。
     斯様に手軽な懺悔で拭える程罪は軽くなく、またそれを良しとする程世界は温くも優しくも、ない。
     説得を考えぬ自分は聞く必要もないと、犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)は襖から遠い場所へと身を下げた。
    『私といた方が、坂本さんだって幸せだと思うんです』
     自己弁護に史央・柚(皐に眠る白の欠片・d01401)は指先隠す程に長い柚をぎゅっと握りこむ。
    (「人から奪って……幸せに……なる」)
     その考えに違和を感じない自分を見出してしまい、心が騒いでおさまらない。
     多分、これは、くるしいという、気持ち。
    (「この部屋見てたら、なンかわかる気がする」)
     上の兄姉の部分が破られた家族写真を見つけ芹澤・朱祢(白狐・d01004)は溜息をつく。
     感じる。
     ……餓え、を。
     此処にはひとつだって『彼女のために用意された』モノが、ない。

    ●吐露・本音
    『あなた達は』
     懺悔が終ったタイミングで姿を現わした灼滅者達に、鈴子は警戒露わに眉を潜める。
    (「さて」)
     仲間達は果たして彼女を救うコトが叶うのか?
     マフラーと同じ色の凜然とした瞳で沙夜は気配を消し佇む。此よりの時間、異物たる自分が説得の妨げにならぬように。
     果たして鈴子は、人が皆知らず学ぶ『罪悪』という概念から自由になってしまった『人ならざるモノ』か、それとも仲間達が信じる『人』の儘か。
     見定めて導かれた事象が奔り出した時、必要であればまた命裂く罪を犯す――それが自分の役目。
    「こんはんは。突然押しかけてごめんなさい」
     ラシャのように艶やかな黒髪を垂らし、朱梨はしっかりと頭を下げた。
    「鈴子さんとお話ししたくて」
     その眼差しは無垢で幸せに背を向ける鈴子を何処までも憂う。
    「本当は、わかってるんじゃないかな」
    『な、何を……』
     朱梨の台詞に口元押える、彷徨う視線を絡め取ったのは小袖の厳しく凛々しい琥珀。
    「懺悔するからには、それが悪い事だと認識しているのだろう?」
    『あなた達一体?!』
     焦る様にどうか落ち着いて下さいと恭乃は穏やかに制した。
    「我々は責め苛むために来たのではありません」
    『じゃあ何しに?!』
    「貴女の想いを伺いにに参りました」
     引きだした言葉に返す形ならばより素直に染みこむだろう、恭乃はそう考える。
    『……私の言葉?』
     喋りたくなさそうに口ごもる。埒があかないと踏んだ楼炎は一歩踏み出し核心へ指を伸ばした。
    「私には不倫する気持ちは分からないが」
     基点になる恨みがあると読んではいるが、現状手にした情報では確信には至らない。
    「誰かを求めている様に見えて、本当は寂しいだけじゃないのか?」
    『知った口を聞かないでくださいよっ』
     即座の反駁。だが戦慄く唇は根源のひとつに触れられたと鷹揚に物語る。
    「……ご、ごめ、ん、なさい」
     その詫びは煽られた怒りへ、ではなくてこれから紡ぐ自分の台詞に対してだ。
     縮こまるように柚越しの指をあわせ、翡翠髪の少年は震える雛のように口火を切る。
    「た……他人の幸せを、奪っても……自分の幸せには……なりません」
    「欲しがって奪って、けどすぐに捨てて」
     柚の紡いだ『奪う』というキーを拾い、朱祢が後を継いだ。
    「本当に欲しかったもんはちゃんと手に出来たわけ?」
     飢餓には共感できる、でもその方法には嫌悪が満ちる、だから何処か突き放すような口ぶり。
    「ね、鈴子さん」
     朱祢の本意が歪まぬように、朱梨が柔らかな声音でその名を呼んだ。
    「このままだと傷付くのは相手より鈴子さんだよ」
     人に涙を流させて彼女も満たされない――こんな悲しい恋からは手を離して欲しい、どうか。
    「お姉さんこのままだと奪われたままっすよ」
     わざと逆さま言葉で、丹は鈴子の関心を惹く。
    『べ、別に私は寝取られたりなんてしてない……』
    「家庭放り出す浮気男相手に大事な自分すり減らして、その手の中に何か残った?」
    『ッ……あ、ぁあああ』
     顔を覆う彼女に「もしかして」と楼炎は閃く。
    (「浮気をされたのは彼女ではなくて」)
    『そうよ! 浮気して離婚するようなお父さんなんて、誰も幸せにできないわよっ!』
     金切り声が告げたのは彼女のトラウマ――家庭不和からの両親の離婚。

    ●トラウマ逆さま蜜の味
    『お母さんの女の尊厳ズタズタです』
     侮蔑と優越が満ちる瞳で鈴子は取り憑かれたように口走る。
    『そんな女より私は相対的に幸せです! だから盗るの、盗っちゃうのぉ!』
    「成程……」
     狂乱を冷ますように恭乃は割り入った。
    「貴女は今の行為で幸せになれないとわかっているのですね」
     自身も罪に悩む身だからこそ赦せない、オルフェウスの示す偽懺悔への怒りを抱きながら。
    「貴殿は棄てられた者の怒りや哀しみを知っている。同じ不幸を他人に与え、蜜として貪ってどうする?」
     例えそれが何処までも甘かろうが、結局は鈴子の身も心も蝕んでしまうのは想像に難くない。
    「か……かつて自分が奪われた物と……似た形をしていても、それは違う……もの、だから」
     揺らぎながら自分の歪みを鈴子に重ね、彼女が立ち直れば自分も同じようにできると信じて、柚は言葉を連ねていく。
    「自分を粗末にするな! 愛されたいのだろう?」
    「ね、鈴子さん。今ならまだ間に合うよ。こんな事はやめよう?」
     叱るような楼炎と諭すような朱梨に、鈴子は唇を噛んだ。
    『私の……罪』
     朱祢の示した事。
    『私の知る、哀しみ』
     小袖の叱責。
    『違う、モノ』
     柚が形にしてくれた想い。
     口元で繰り返し沈思黙考、だがやがてぶつぶつと音のない呟きが漏れはじめた。
     それが本当の懺悔かと期待した灼滅者達。
     だが。
    (「彼女は倫理という価値観を超越した者、か?」)
     離れた場所から見ていた沙夜だけは冷徹に鈴子の心を捕らえる。
     扉はまだ全て開ききっていない、恐らくは。

     ……だって、鈴子は嗤ってる。

    『あははっははっは!!』
     鈴子は喉元をなぞりうっとりと謳い出す。
    『私幸せです、幸せですよ?』
    「お姉さん……本当に?」
     ――お姉さんは救う価値のない人?
     伏し目がちの漆黒を揺らめかせ丹は口にはできぬ問いを作る。
     此処へはダークネス退治のために、来た。
     大人だから自己責任で……そう想いながらも何処か応援したい気持ちはあったのに。
    『幸せですよぉ? 私、悪くなぁい!』
     ふざけたようにケタケタ笑う。それでも沙夜を除く七人はまだ信じたいと願う。だってまだ、鈴子はシャドウもどきへと変じていない!
    『愛情を感じさせる事ができなくなった女が悪いんです』
     ……棄てられたお母さんが悪いのよ。
     お母さんが悪いの。
    『……お母さん、が』
    「自分のものが欲しかったのに、くれんかった親が憎いンか」
     それならわかる。親の愛が欲しかった自分にも。
     静かに紡がれた朱祢の声と同時に嗤い声が止んだ。
    「お下がりばかり、か」
     小袖の台詞に対して堰ききったように鈴子は叫ぶ。
    『そうよ! どうせ私のモノなんてひとつもないんだからぁ! だったら人から盗ってなにが悪いの?!』
     ……それしか、自分のものの作り方なんてわからないよ……。
    「お姉さん、これから自分のものを作ればいいっすよ」
    「帰れば、またやり直せますから」
     その助けになりたいと丹、恭乃も手を差し伸べた。
     手を取り泣き出す鈴子に、輪の中に混ざらぬ沙夜は彼女が『人』であったと悟る。
     ――であれば、この扉が開いた後、待つのは人殺しの時間。
    『……お母さん?!』
    「違う」
     沙夜からすると母の姿をしているのは非常に興味深いが考察は後だ――。

    ●向き合うために
    「下がって」
     朱祢は鈴子を後ろへ突き飛ばし、何処か鈴子に似た中年女性のシャドウへ影を放った。
    「貴殿は精進できるはずだ、その道を我々が開こう」
     誰が庇う事になるのかわからぬが、その負担を少しでも軽くするために、小袖は地を蹴りシャドウを殴りつけ怒りを煽る。
    「……庇う気はないっす」
     仲間を支える癒し手として、丹は仕切り直すように気持ちを漉しあげる。そしてモノトーンで、印をつけるように一番年長の男性を斬り裂いた。
    「回復は任せたぞ!」
     その台詞にふっと口元を緩めるも一瞬、
    「失せろ……」
     臨海まで高まった楼炎の殺意まかれる男の傍らで、シャドウに甘き茨が絡みついた。
    「鈴子さん、悲しい想いは朱梨達が払うから」
     だから、目が醒めたら素敵な恋をしてね。
     そう微笑んだ少女は敵に有為に立たれるのを嫌い、既にそこには居ない。
    『……?』
     昏い怨念に晒されたと気づいたのは、だぶだぶのコートを着込んだ少年が身代わりに黒く蝕まれているのを見た後だった。
    『ヒッ』
    「鈴子、さん……うば、っちゃ……駄目って気づけた……」
     ずっと泣き出しそうな顔だった柚、今浮かべているのは――嬉し泣き。
     向き合おう、共によく似た罪に。其れを為すために、護る、絶対、に!
     小袖に二体、楼炎に一体、配下に鈴子を狙う指向性がないのを見て取り、沙夜はシャドウを基点に攻撃阻害の糸を張り巡らせる。あわせて掛かったのはクラッシャーの一体、此方の攻撃を集中させている個体だ。
    (「もし鈴子がシャドウもどきに変じたならば、彼らは皆ディフェンダーだったのだろうか?」)
     ここは芝生をむしる鈴子が赦しという甘露を貪る偽りの楽園。
     まるで無機物を仕分けるように指引き糸を戻す自分、やはり罪を咎め諭す資格などないと沙夜は断じた。
    (「もう叱責は必要なさそうですね」)
     オルフェウスの歪んだ贖罪から逃れた鈴子に、恭乃は微笑みかける。そして柚の歌声を耳に純白纏う大鎌で仰け反る一体を薙ぎ払った。

    ●解放の解法
     沙夜は前に踏み込み無造作に手の甲で一体を打つ。
     横目で見るは母を具現化したかのようなシャドウ、これこそが彼女のトラウマかと冷たく見定めた。
    「鈴子さん、もう少しだけ辛抱してね」
     ……貴女に夜明けを。
     朱梨はたたらを踏む男を紫水晶で一刀両断。
    「倒れさせないっすよ」
     胸に挿した花の香りの安らぎを振りまくように、丹は剣に記された祝福を解き放つ。
     怯える鈴子を見ると、朱祢の胸に苛烈が迸る。
    (「人の幸せ壊すヤツの気持ちなんか……」)
     わかりたくない。
     苛つくような炎は、彼女が毒牙にかけた男の映し身の二人目を葬り去った。
    「影よすべてを喰らいつくせ!」
     楼炎の号令に呼応するように、足下から獣が奔り三体目を地につける。
    「だ……い、じょぶ……うん……」
     御霊の光を自らに翳す柚。朱祢のシールドリング、小袖のダガーで護られてるからまだ顔はあげられる。
    「貴様の相手は、私だ!」
     燃えさかる火のように吼え髪を靡かせて、小袖はシャドウの胸に肘を入れると、勢いの儘に顔面を裏拳で叩きのめした。お返しと言いたげに小袖の頬に漆黒の拳が突き刺ささる。
    「もう終りますよ」
     今日もかき集めた欠片、それは罪色か。
     産まれ出でたモノから造り替えらし人格恭乃は、優しい声で罪人を赦す。だが自身は救いを拒絶するのだ、贖っても罪は消えないのだから。
    (「ねぇ、オルフェウス」)
     自分の分身たる大鎌で鈴子の闇を消すように、シャドウを虚空へ葬り去った。

    ●罪知る目覚め
     沙夜が凭れるドアの内側、鈴子は目を醒ます。
    『私なんて事を……両親が別れる辛さ、知ってたのに……』
     起きても消えぬ罪。
     いや、ようやく夢から醒めたのだ。
     だが潰れそうな心の儘に、鈴子は顔を覆い崩れ落ちるしかできない。
    「つ、罪を……犯さなきゃ、得られない物も……あるから」
     それ以上の言葉が続かないのは、柚自身も未だ同じ迷路で迷うからか。
    「最初から自分に感情向けてくれる人にすれば、いい」
     虚ろは埋めきれずとも遥かにマシと、朱祢は自身の経験を重ね告げる。
    『でも私みたいな非道い女……』
     嗚咽と共に零れた台詞に、恭乃はソウルボードの中と同じく勇気づけるように手を取った。
    「罪を真正面から見つめた今の貴女なら、やり直せます」
    「過ぎてしまったことは変えられん。たが直そうという気持ちが大事だ」
     自信を持てるように願い小袖も添えた。
    「だから、鈴子さん、前を向いて歩こう」
     さらに掌を重ね朱梨はきゅっと握り締める。
    「誰も不幸にしない幸せが、きっと見つかるよ」
     泣きはらした瞳に灯る希望に少女はほっと口元を綻ばせる。
    「まず自分を愛せ! 愛されたいならな」
     助けた躰、心も救いきりたいと楼炎は鼓舞をする。
    「……償いたいって思うなら、応援しないでもないっすよ。そういう人は一杯いるから」
     落ち着いて周りを見れば、さほど世界は冷たくないと丹は視線をあわせて優しく笑みかける。
    『確かに、貴方達が証明してくれてます』
     今交された言葉は決して綺麗事じゃ、ない。
     赦されないとしても、傷つけてしまった人全てに告げよう――ごめんなさいを。
     まずはその前に。
    『皆さん、ありがとう』

    作者:一縷野望 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 3/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ