湖を作りし巨人

    作者:緋月シン

     宵闇の中を、一匹の獣が歩いている。
     色は白。まるで燃え盛る炎のように揺らめきながら、闇の中でその存在をぽっかりと浮かび上がらせている。
     大きさとしては大型犬程度か。だが犬と似た外見をしていながらも、その形はむしろ狼に近い。額には大きな傷跡があり、まるで三日月が如き形となっていた。
     それが歩いているのは、とある湖の傍だ。周囲に人気はなく、吹き付ける風が僅かに湖面を揺らす。
     と。
     ――ウオォォォオン!
     不意に獣が吼えた。
     その音は周囲に響き渡り、まるでそれに呼応するかのように湖面が波立ち始める。
     それが起こったのは、その直後だ。
     波が一層激しくなった場所、湖の中央部分が盛り上がったかと思うと、それがその姿を現す。
     それは、腕だ。それだけで人一人分はあるだろう巨大な腕が、湖面から生え出たかのように突き出ている。
     さらにそれはそれで終わることなく、そこから這い出てくるかのように、頭、胴体、腰と次々にその姿を現していく。
     最後に出たのは、足。それは、一体の巨人であった。
     そして巨人はゆっくりとその身体を起こすと、半ばほども水に浸かっていないその足を、外へと向けて動かしだす。それと共にその足首に嵌められた鎖が一瞬外気に触れ、即座に水中へと沈む。
     獣は、いつの間にかその姿を消していた。

    「さて、既に話を聞いたことがある人も居るでしょうけれども、先の戦争以後スサノオによって古の畏れが生み出された場所が幾つも判明しているわ」
     四条・鏡華(中学生エクスブレイン・dn0110)はそう言って話を切り出すと、その詳細を語りだした。
    「そもそも古の畏れというものは、性質的には都市伝説と同等のものよ。ただし現在の噂話を元にしている都市伝説とは異なり、古の畏れは過去の逸話や伝承などを元にしているわ。そして私が今から話すのも、そのうちの一つ」
     元となったその名は、ダイダラボッチ。
    「ダイダラボウなど類似の名前は数多くあり、日本の各地で伝承されている巨人のことね。現れるのは、その足跡だという言い伝えがある、茨城県水戸市にある千波湖よ」
     基本的にダイダラボッチとは本来人に危害を加える存在ではない。
     だが時にその足跡が湖となったり時に山を作り出したりと、それが与えた影響は大きいとされている。
    「その畏怖の面が顕在化した形になるのかしらね……古の畏れとして生み出されたそれは好き勝手に暴れまわり、周囲のものを破壊しつくすわ」
     伝承でもよく地団駄を踏んだりと子供っぽいところが多々見受けられる存在である。足元に何かがあれば簡単に踏み潰されてしまうだろう。
    「もっともさすがにそれで湖が出来るほどの大きさではないけれども、それでも六メートルほどはあるわ」
     出現する時刻は深夜。千波湖の中央付近から現れ、千波公園の方に向かって歩いていく。
    「人気がない時であることや、駅や線路の方に向かわないことは幸いというべきかしら」
     それでも、放っておけば公園は滅茶苦茶にされてしまうだろうし、運悪く人が通ってしまわないとも限らない。
     それでなくとも、夜が明けてしまえば被害が出てしまうのは確実だろう。
     それは防がなくてはならない。
    「基本的には湖から上がったところで戦闘を仕掛けることになるでしょうね」
     何か他にいい手があればそれでもいいだろうが、皆が接触できるのは早くてもダイダラボッチが出現した後になる。
     他の方法を考えるにしても、それを考慮に入れて考える必要があるだろう。
    「ダイダラボッチの攻撃方法は単純よ。腕を振り回すか、足で踏み潰すかのどちらかしかしてこないわ」
     とはいえ相手は六メートルの巨体である。当然油断することは出来ない。
    「この事件を引き起こしたスサノオのことも気にはなるでしょうけれども、その行方はブレイズゲート同様予知しにくい状況になっているわ」
     だが引き起こされた事件を一つずつ解決していけば、必ずその元凶に繋がるだろう。
    「だからまずは、その一つ一つを確実に解決していくことが重要よ」
     鏡華はそう言って、灼滅者達を見送ったのだった。


    参加者
    鏡・瑠璃(桜花巫覡・d02951)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    真白・優樹(あんだんて・d03880)
    戒道・蔵乃祐(酔生夢死・d06549)
    天乃・桐(カルタグラ・d08748)
    木嶋・央(黄昏の執行者・d11342)
    塚地・誇(淡碧・d19558)
    セリス・ラルディル(月下の黒蝶・d21830)

    ■リプレイ


     月明かりに照らされた夜。シンと静まり返った人気のない場所を、八つの人影が歩いていた。
     灼滅者だ。その傍には湖があり、今は目的地へ向けて歩いているところである。
     だが周囲が静かだからといって、彼らも静かであるとは限らない。
    「ダイダラさんは全国そこかしこに伝承が残ってるんですよねぇ」
     その先頭を歩きながら話を繰り出しているのは、鏡・瑠璃(桜花巫覡・d02951)だ。そういった話が好きなのか、その様子は楽しげである。
    「この湖もその足跡だって伝承があるので……まぁ、そこに比べれば小さいかとはー」
     千波湖の外周はキロを優に超す。それを足跡とする巨人が果たしてどれほどの大きさなのかは分からないが、それでも今回のそれは話によれば六メートル程度であるらしい。
     もっともそれでも十分巨大と呼べる存在ではあるが。
    「ダイダラボッチ、か」
     ポツリとその言葉を口にしながら、セリス・ラルディル(月下の黒蝶・d21830)はその存在へと思いを馳せた。
    (「仲間なら頭に乗ればいい景色がみれそうなんだが、な。敵な以上倒さないといけない存在、か」)
     そんなことを考えるセリスは外見上は普段通りに見えるものの、その内心までもがいつも通りとは限らない。
     何せセリスにとってこれは初めての依頼となるのである。
     だが。
    「……ん、初めてこうした形で仲間と戦うが、安心感が違う、な……」
     さり気なく周囲を見回しながら、口の中だけで言葉を転がした。
    「ダイダラボッチさんは、お話の中では天地を作った神さまの生き残りで優しい巨人さんだってお聞きしてましたけど、このダイダラボッチさんは……何か、違います……」
     鏡華より聞いた今回の話と、自らの知っているダイダラボッチに関する話との差異に、アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)がその顔を僅かに顰める。
    「ダイダラボッチさん、本当は優しい巨人さんの筈なのに……でも、一般の方に被害を出す訳にはいきませんから……倒さないと……」
     その存在を想いながらも、決意を込めて呟いた。
    「全く困ったもんだな。攻撃衝動の赴くままに破壊と暴力を撒き散らすのか。バベルの鎖で存在が世間に露見しないとはいえ、被害が無かった事にはならないからねえ」
     ――余計な事に気を回さなきゃならないのは、迷惑極まりない。
     そう口にしつつ、戒道・蔵乃祐(酔生夢死・d06549)は遠くへと視線を向けた。
     さすがに今はよく見えないが、その方向には公園があるらしい。
     そこを含めた周囲が突如破壊されていたら、それを見た人達は何をどう思うか。
    「或いはそういう、わけのわからない壊れ方をした日常に恐怖する人々の感情こそが、ダークネスの力の源になるのかもしれないけどねえ」
     不毛で、面倒臭い話だと吐き捨てる。
    「ムカつくぜ。イライラするんだよ。ぶっ殺したくなる程ね」
     その方角を睨みつけたまま、その拳を握り締めた。
    「最近のスサノオ事件では、それぞれ違う個体が活動してるみたいですね。いよいよ全国のスサノオが覚醒しはじめましたか」
    「スサノオに古の畏れね。また厄介そうなダークネスが現れたもんだよ」
     天乃・桐(カルタグラ・d08748)の言葉に、真白・優樹(あんだんて・d03880)が愛用の帽子に触れながら溜息を吐く。文句を言いつつも、何とかしなければならないのが灼滅者の辛いところである。
     と。
     不意に犬の遠吠えのような鳴き声が、周囲に響いた。
     未だ目的の場所には辿り着いていなかったが、それが何であるのかを八人は瞬時に把握する。全員が、一斉に同じ方向へと視線を向けた。
     直後。その視線の先、湖の中央部分に巨大な何かが出現する。
     凡そ六メートルほどの巨体。件の巨人、ダイダラボッチだ。
    「ちっ……!」
     出現に間に合わなかったことに舌打ちしつつ、木嶋・央(黄昏の執行者・d11342)はボードにでも乗るように箒に飛び乗る。同じく蔵乃祐も箒へ乗り、二人はほぼ同時に空へと駆けた。
    「形成――」
     一直線に巨人へと向かいながら、央はスレイヤーカードを掲げると解放のための言葉を紡ぐ。
     取り出された武器は二メートルを越そうかというほど巨大な杭打ち機――ディメンションブレイカー。右手で掴むとそのまま巨人の傍まで寄り、だが歩き出しているそれへと向けるのは逆の手だ。
     瞬間足元の水から熱が奪われ、凍りつく。足を動かす直前であったために引っ張られ、前へとつんのめった。
    (「スサノオが生み出した古の畏れ、か。一体何だってスサノオはこんなものを生み出したんだかな」)
     そんなことを考えながら、央はさらに巨人の熱をも奪う。
    「ほら、どうしたデカブツ。悔しかったら反撃してみやがれ」
     挑発をしつつも、攻撃が届かないように距離を取りながら攻撃を加えていく。それが鬱陶しかったのか、足元の氷を強引に砕いた巨人の視線が、央へと向いた。
     だが巨人が何かをするのよりも先に、そこへと突っ込んでいく影が一つ。
     蔵乃祐だ。
     そのまま速度を落とすことなく突撃しながら、蔵乃祐は握り締めた拳をさらに硬く固める。
     狙う先はその顔面、横っ面。
     ぶん殴った。


     二人が空中で戦闘に入ったのを、残りの六人は移動を続けながら横目に眺めていた。
    (「央……油断するな、よ」)
     セリスは静かにそう思いながらも、待機できるような場所へと向かい移動していく。
    「――あっ」
     そんな中、塚地・誇(淡碧・d19558)が思わず声を上げてしまったのは、蔵乃祐が巨人を殴った直後だ。
     そこからであるならば、巨人の全体像を掴むことが出来る。その腕の動きまでも、だ。
     蔵乃祐も即座に離脱の動きへと移行していたが、そもそも空飛ぶ箒での移動はそれほど速度が出るものではない。不意を突けば話は別だが、そうでなければ巨人が腕を振り回す方が圧倒的に速いのである。
     気付いた時には既に襲い。蔵乃祐の視界を、壁が如き肉塊が覆う。
     お返しとばかりに殴り飛ばされた。
     勢いよく飛ばされていく蔵乃祐を、追撃の為に巨人が動く。だが直後、再度その足元が凍り付いた。
     言うまでも無く央によるものだ。
     それは即座に砕かれてしまったが、その間に蔵乃祐が体勢を立て直す。そのまま距離を取るように動くと、巨人もその後を追い動き出した。
     少しばかり予定外のことはあったが、どうやら上手く注意を引きつけることには成功したらしい。皆の居る場所に誘導するように、引いていく。
     しかし全力で移動はしているものの、それでも移動速度も巨人の方が上だった。影の触手が放たれ熱を奪うも、それを緩めるには至らない。
     陸上まであと少し。ほんの数メートルで地面に降り立てるというところで、上空から巨人の腕が伸ばされた。
     回避は、間に合わない。そのまま叩き付けるように腕が振り下ろされ――
    「放たれた送り火は~屍を焼き尽し~♪ 比良坂へ続いてく~冥闇穿ち猛る~♪」
     聞こえたのは、ギターがかき鳴らされる音と、歌声。
     直後、巨人の腕が爆ぜた。
     放たれたそこに居たのは瑠璃。身に纏う服装を巫女のようなものへと変え、構えているのは小型のガトリング――衣通姫。
     舞い散る桜の如く、さらに火線をばら撒いた。
     それは怯むほどのものではなかったが、それでも巨人の動きが僅かに鈍る。
    「ジャバウォックさんっ、力を貸して……!」
     そこを逃さず襲うのは、アリスの影だ。足元の禍々しいそれが巨大なドラゴンのようなものへと変化し、その爪が巨人を斬り裂く。
    「あんなのに好き勝手暴れられたらたまらないね。速攻で撃破を目指すよ。ここから先は立ち入り禁止だ」
     それに続き、宣言しながら攻撃を放つのは優樹。制約を込められた魔法弾が、その足を貫いた。
     そうして巨人が仲間からの遠距離攻撃に晒されている間に、蔵乃祐は地上へと着地する。先ほどの傷を自らの手で癒しながら、後方へと移動していく。
     それから、改めて気を引き締めた。先ほども油断をしていたわけではないが、詰めが甘かったのも事実である。今度は繰り返さないように集中しながら、先ほどの礼代わりに石化をもたらす呪いを叩き込んだ。
     そうして遠距離からの攻撃を繰り返していた彼らであるが、それでも巨人の上陸を阻止するには至らない。
     もっともそれは最初から分かりきっていたことだ。油断せずその動きを注視していく。
     水より出た巨人の足が、そのまま地面を踏みしめる。それだけで地面が軽くへこみ、周囲を震わせた。
    (「足元に近づくのは得策とは言えない、な」)
     それを眺めながらそんなことを考えていたセリスであるが、そこに不意に声が掛けられる。
    「セリス、間違っても巨人に潰されたりするなよー。すげぇ間抜けな絵になるからな」
     箒から地面に降り立った央だ。笑いながら向けられた茶々に、セリスは少しだけ抗議を含んだ視線を向けるも、すぐに巨人へと戻す。
     そうしている間も巨人は動き続けているのである。目を離していられる余裕はなかった。
     もっともセリスの内心に浮かんでいる感情は、実のところ恐怖などではない。
    (「大きな人形が動いてる……」)
     まるで某アニメのロボットのようだとか思い、むしろウキウキしていた。
     とはいえそれが表情に出ることは無い。時折それっぽい素振りを見せる程度だ。
     ともあれ、今は戦闘中である。意識を切り替えると、光の刃をその足元へと向かい撃ち出した。


     巨人はどうやら、完全に彼らを障害として認めたらしい。足元のそれらを排除せんと、腕を振り下ろし足で踏みつける。
     その度に周囲を軽い振動が襲うが、同時に巨人の身体にも衝撃や斬撃が飛ぶ。
    「……そういえば、こういうのどこかの長編アニメで見た覚えがありますよ。切ったり撃ったりしたら死の泥が溢れてきたりしませんよね?」
     様々なものが乱れ飛んでいる状況に、何処か暢気な様子で桐が呟く。
     とはいえ別にその本分を忘れたわけではない。言葉は暢気であっても、その視線は絶えず巨人の挙動を睨み続けている。
     と、不意に巨人の視線が八人の居る場所ではない、別の方角へと向いた。
     その方向に何があったのかは分からない。瑠璃の殺界形成によってこの周囲に人が立ち入ることはないはずだが、或いはその効果範囲外に居るのを見つけたのか。
     だが細かいことを考えるよりも先に、桐は動いていた。
     両手に集中させたのはオーラ。それを、巨人の顔面目掛けて撃ち込んだ。
     即座に睨む形となった視線が、桐を見下ろす。直後に振り下ろされた腕は、攻撃直後の硬直に陥っているその身体ではかわすことが出来ない。
     しかし見事に自分の役目を果たし、巨人の注意をひきつけることに成功した桐はその結果を素直に受け入れる。
     殴られ吹き飛ばされ、だがその身体が地面に叩き付けられる前に、蔵乃祐より注ぎ込まれた力がその傷を癒す。
     そして攻撃直後を狙われたら弱いのは、巨人も同じである。
    「ダイダラボッチって国作りの神様なんでしょ、大きいとはいえ六メートル程度じゃさすがに名前負けだね」
     その隙を突き、足元へと飛び込んでいたのは優樹だ。より正確に言うならば、その影である。
     大きな相手は足元から崩していくのがセオリーであると。
    「目覚めたばかりで悪いけど、お呼びじゃないんだ。お引き取り願うよ」
     鋭い刃と化したそれが、巨人の足を斬り裂いた。
     さらに攻撃はそこでは終わらない。もう一人、そこに飛び込んでいた者が居る。
     誇だ。その手に握られているのは、山原水鶏という名の魔槍。
     螺旋の如き捻りを加えて突き出されたそれが、巨人の足を穿ち貫いた。
    『――――!』
     さすがにそれは効いたのか、巨人が吼える。
     だがそこで手を休める理由などはない。
     直後に放たれたのは、セリスによる黒き波動。巨人の身体を薙ぎ払い、それに合わせるように央が巨人へと踏み込む。
     構えているのは右手。自身の闘気と魔力が合わさり、蒼き雷となって握られているそれごと右腕を覆う。
     雷が形作るのは、巨大な虎の姿をした雷獣。
    「魔力解放――喰らい尽くせ、武甕槌ッ!」
     地面を蹴り、杭ごとその胴体へとぶち込んだ。
     解き放たれた雷がその身体を焼き、だがそれでも巨人は倒れない。ふらつき、一歩だけ後ろへと足を下げるが、耐え――しかしその時には、既に二つの影が迫っていた。
     それはアリスと瑠璃。
    「ヴォーパルの剣で……魂ごと、斬り滅ぼします……!」
     僅かに先行していたアリスが、空色の光焔と化したヴォーパルソードを振り抜く。巨人の身体へと突き刺さったその剣は、しかし何の外傷も無くすり抜けた。
     だがそれは攻撃が効かなかったことを意味するわけではない。それは、霊魂を直接破壊するための攻撃。
     巨人の足から力が抜け、それでも堪えようと顔を上げた巨人の視界に映ったのは、自身の身体を踏み台に、舞うように空へと飛び上がった瑠璃の姿。
    「幻想が現実に追い付く前に、潰えろッ!!」
     打ち下ろされたのは、異形巨大化した腕。それは奇しくも、巨人が最初に放った攻撃のように、その視界を腕が覆いつくす。
     そして。
    「歪みし理は……潰えるが道理!」
     打ち抜かれた後に残ったのは、滅び行く巨人の身体だけであった。


    「皆さん、巨人退治お疲れ様でした。……ずっと敵を見ていたからか、首が痛いですね」
     皆にねぎらいの言葉を掛けながら、桐は首を回し苦笑を浮かべた。
     マッサージにでも行きたい気分であったが、生憎と時間が時間だ。おそらくは開いている店などはないだろう。
     それを残念に思いながら、身体を伸ばす。
     そうしながら視界に映るのは、再び夜の静寂さを取り戻した千波湖。さすがに戦闘の余波が皆無だったとは言えないが、少なくとも公園に辿り着く前に撃退することには成功している。
     ならばそれで十分だろうと、安堵の思いを得ながら痛む首を再度回した。
    「スサノオは先の戦争で灼滅したと思ったんですけど……やっぱり他にもいるという事でしょうか……?」
     巨人が確かに居た証である足跡を眺めながら、アリスはふと呟いた。
     そうしていても、答えが出ることはない。だがいつかは、きっと……。
    「古の畏れ……妖怪みたいなモノが多いのでしょうか。さて」
     鎮魂歌を弾いていた瑠璃であるが、それを終えると立ち上がった。周囲を調べるためである。
     何か見つかるとは限らないが、それでも何もしないよりはマシだろう。
     巨人の居た場所を中心に、軽く調べ始める。
     そんな皆の様子を見るともなしに眺めがらも、セリスはアリスと同じように消え去った巨人の居た場所へと視線を向けていた。
     何を思っているのか、その表情から察することは出来ない。
     ただ、そのままジッと何もない地面を見詰めながら。
    「……普通なら害の無い妖怪、か……。古の畏れとして生まれて来なければ友達になれた、のかなぁ……」
     誰にも聞こえない声で、残念そうに呟いたのだった。

    作者:緋月シン 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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