草はらに跳ねるは黄金の尾

    作者:示看板右向

    ●precognition
     都会からは離れた集落を静かな風が吹き抜ける。海と山に挟まれ、家々は近代化しているが数はまばらで発展はしているわけではない。
     集落全体を見渡せる崖の上に一匹のけものが現れる。
     一見するとオオカミのようだが、よく見ればその身体がちらちらと白い炎に包まれている事が分かるだろう。そいつは更に、目の周りに歌舞伎役者のようなクマドリがあった。
     しばらく縁取られた目で集落全体を見つめていた。
     ふと耳を動かすと、風の臭いをかぎ、一声もなくことなく立ち去る。
     後に、狐の様な何かの鳴き声が響いた。
     
    ●meeting
    「集まったか。では、早速全能計算域が呼びだした生存経路を伝えよう」
     神崎ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はそういうと教卓に手を突いた。
    「今回の予知が告げたのは、スサノオにより古の畏れが生み出された場所だ」
     それはとある町、というより集落と言った方がしっくりくる場所だ。その集落を一望できる高台に古の畏れが生み出された。近くにも集落からぽつんと離れた人家が一件ほどあり、その前に広がる草原からは集落が一望できる。
    「どうやら今回の古の畏れは、昔、家に憑くと噂されていた『管狐』というものだそうだ」
     その噂の通り、人家の住人やその家に出入りする人間にちょっかいを掛けているらしい。
    「ものが落ちてきて病院に運ばれたり、訪ねた人が後日寝込んだりと、局所的ではあるが被害が広がっているようだ」
     今のところ死人が出ていないのが幸いと言えば幸いである。
    「というわけでこいつの灼滅を頼みたい。出現させるには、家に近付いていけばその前の草原でちょっかいを掛けてくるだろう。戦闘をするには問題ないが、人の家のそばで戦う事になるから何か対策は欲しいな。まあやり方はいくらでもあるだろう」
     問題なのは戦闘で、狐らしく戦闘中でも構わず『憑いて』くる。
     管狐の攻撃自体はたいしたことはないかもしれないが、一時的に味方が操られると厄介だろう。
    「あとは、すばしっこく動きながらこの葉を飛ばして攻撃してくる。威力はともかく、広範囲にばら撒いてくるから気をつけた方がいいな」
     更に加えておくならば、見た目は小さいが古の畏れ、それなりにタフである。
    「ああ、それと、古の畏れを生み出したスサノオに関しては今回は出会えないだろう。すまない。どうやら予知が難しいようで、今後もすぐにはっきりとした予測は出来ないかもしれん。だが、一つ一つ追っていけば、いずれは必ずたどり着くはずだ」
     いや俺たちが、たどり着かせてみせる。ヤマトはそこまで言うと息を吐いた。
    「まあ今回は、行き先も自然の中で気持ちのいい場所のようだ。さくっと解決して、ついでに息を抜いてくるといい」


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    エルメンガルト・ガル(ウェイド・d01742)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    斎賀院・朔夜(愛すべきを護る餓娑羅鬼・d05997)
    倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)

    ■リプレイ

    ●跳ねない狐。
     高い空から風が降りてきて、草はらをなでる。背の高い草が一斉におじぎをする。
    「うー、さっむい」
     一本道を進む灼滅者たちの中で、エルメンガルト・ガル(ウェイド・d01742)が身を抱く。風の通る心地良い場所なのだから、どうせなら夏に出てくれればよかったのに。
    「寒いのか? 缶おでんならある……うわっ!」
     と、パンパンに膨らんだリュックサックを背負った槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)が転んだ。
    「うえー、なんだ? さっきからよくこけるぞ?」
    「……大丈夫、か?」
     近くにいた斎賀院・朔夜(愛すべきを護る餓娑羅鬼・d05997)が、自分の中で覚悟を決めてから、手を差し出す。
    「サンキュー」
    「注意しないと、危ない……ぞ」
    「おう、ありがとな。へへ、弁当が楽しみだな。オヤツ、やっぱ300円までだったか? あ、バナナはおやつに入るんだっけ? 缶おでんは? セーフ?」
     こいつ目的忘れてるんじゃないだろうか、という視線がいくつか刺さったが、そんなものお弁当の前には無意味だ。
    「管狐かー。狐は好きなんだけど、憑き物だったら話は別よね。うん、少し気は引けるけど」
     何故か草の引っ掛かる道を進む倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392)の言葉に、同じく草をよけながらの十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)がポツリポツリと返す。
    「管狐、ね。初めて、見るけど、一般人に、これ以上、被害、出す前に、倒さないと、ね」
    「ホント、スサノオも迷惑千万ねぇ」
     明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)が、重いため息とともに言った。草原の中の一本道は見た目よりも歩きにくい。
    「この前の新宿防衛戦で逃しちゃったから、今回の依頼の様に古の畏れなんて出てくるんだから……メンドくさいったらありゃしないわ、まったく。ちゃっちゃと片づけちゃいましょうか」
     あくまでマイペースな瑞穂の隣で、クラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)が腕を組む。
    「スサノオが見つからない以上はこうして目の前の相手を片づけて行くしかないが、古の畏れ……この国の古来の伝承、なのか?」
    「そうね、昔の都市伝説ともいえるから、管狐は古の畏れらしいといえばらしいのかしら。管狐といえば、昔は呪詛に使われる妖怪だったわね」
     クラリスの疑問に神薙・弥影(月喰み・d00714)が応える。
    「呪詛……呪いか」
    「ええ、相手に不幸が降りかかるように、管狐を使って……」
     たとえば使われた管狐が危ない場所で相手を転ばせたり。
    「……なるほど、そういうのはお手の物ってわけね」
    「すでにちょっかい掛けてきてるのか」
     気合を入れ直すと、遠くから草を踏む音が近づいてくるのに気付いた。
    「多分、人、とか、じゃない」
     深月紅が呟く。草原の一部が傾いだ。
    「来るぞ!」
    「ただの動物だったらごめんよっ!」
     草原の中を何かが一直線に向かってきた。直前で飛び上がったそれをエルメンガルトが盾で弾き飛ばす。動物のような何かが声をあげて飛んでいった。
    「あれが管狐ね。はっきりとは見えなかったけど、確かにキツネっぽいわね」
    「音は……大丈夫だ」
     朔夜は鋼糸を構えつつ、辺りの音を遮断した。
    「喰らい尽くそう……かげろう」
    「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
     草原の中、灼滅者たちのかがり火に挑むように、木の葉や草の葉が跳びかかってきた。

    ●跳ねる狐。
    「さーて、そんじゃ狐狩りと洒落込みましょうか~」
     瑞穂が愛用のM37フェザーライト・カスタムを取り出しコッキングする。
    「……まず、は、だ」
    「動きを、止める、ね」
    「かくれんぼも鬼ごっこも無しよ」
     深月紅が魔力で作った弾丸を撃ち込む。いくらか草が散り、命中した管狐の動きが鈍る。朔夜の影業と御影のかげろうが草原の中を回り込み、駆け、草原に隠れた管狐を縛りあげた。空中に掲げられた管狐は素早く身体を捻り、脱出するがそれでは遅い。
    「よーし、さくっとぶっ飛ばすぜー! お前なんか……えーと、昼飯前だ!」
    「続くぞ、頼む!」
     康也はシールドを構えて突撃。押し飛ばした管狐を、着地前にクラリスが追撃する。魔杖剣を叩き込み、魔力を爆発させた。
     地を蹴り、管狐がいきなり飛び上がる。灼滅者たちから距離を取ると、コンビネーションのあった連撃をうけて一層やる気を増したように素早く走り回る。灼滅者たちを中心に円を描き、広く葉を打ち出す。
    「ちょこまか動くのに付き合ってやる必要はないよね」
    「避けられなかったら後ろに入ってよー」
     エルメンガルト、紫苑がシールドを広げて葉っぱを受ける。
    「そこ、9時から反時計回りに移動。裏をかいて来るわよ!」
     瑞穂の生み出した風が草の葉を払い、傷を回復する。同時に、回り込んだ管狐が跳びかかった。エルメンガルトがすかさず割り込む。
     管狐は巧みに身をくねらすと、割り込んだエルメンガルトの頭に飛び付いた。
    「エル、大丈夫!?」
    「……モチロン」
     エルメンガルトはいつも出さないトーンの声で答えて、近くの紫苑をシールドで弾き飛ばす。
    「おっとぉ!?」
     白眼のエルメンガルトの頭の上で、管狐はその隙に鳴き声を上げて回復し始めた。
    「明らかに大丈夫じゃないじゃない、目覚ましなさい!」
     慌てて弥影のかげろうが管狐に噛み付き、引きはがす。投げ捨てられた管狐が着地する間に瑞穂がエルメンガルトの狂気を払う。はっ、とするエルメンガルトの目には正気が戻っていた。
    「壊すのではなく、治すのが医者の仕事、ってね~。回復は任せて頂戴。身体は大丈夫?」
    「ん、ありがとう」
    「大人しく……して、いろ……」
     朔夜の影業が唸り、管狐を縛ろうと空中を走る。しかし今度は身体を巧みにくねらせながら地を駆けかわす。勢いのまま、今度はクラリスに飛びかかる。
    「うわっ!」
     頭にしがみつき、強力な暗示を使う。
    「……クリス?」
    「ふふふふ、うふふふふ。父様、兄さまー、まってー♪」
    「あぶ、ない」
     クラリスの振り回す剣を深月紅がかろうじて避ける。いつもほどの鋭さはないが、攻撃役だった彼女の剣は脅威だ。康也が目の前で盾を構え、真正面から受け止めた。
    「へっ、仲間に大けがなんて、させるかよ! 誰か、頼む」
     仲間に怪我も、仲間を傷つける事もさせない。康也はそのまま押し込み、クラリスの動きを止める。
    「まかせて!」
     その隙にエルメンガルトがクラリスを治す。管狐がクラリスの肩を蹴ったところを紫苑がシールドで横向きにぶったたく。
    「うーん、悪さしないなら飼いたいとか思っちゃったけど、これは飼ったらひどい目にあいそうだし素直に灼滅しないと」
     低めの内野フライくらい飛んでった管狐が草原に着地した。

    ●狐火。
    「……まだ。ひとつ、ひとつ、積み、重ねる」
     深月紅の影が刃となって、管狐を斬りつける。本体だけでなく、管狐の毛皮も狙った攻撃の効果が見えてくるのは少し後だろう。
     構え直したクラリスが、先ほど以上にやる気を立ち上らせる。
    「おい、貴様……僕に取り付いて何をした。いやいい、とりあえず倒す。貴様ごと忘却の彼方に消し去ってやる」
    「まったくちょこまかとまぁ、すばしっこいこと。ああもう、面倒ったらないわ」
     瑞穂が広く風を巻き起こし、前線で戦う仲間たちを癒す。
     躍り出たクラリスの炎を纏った一撃が、管狐をとらえる。炎を受けつつ、それでも管狐はまだ動く。
    「タフ……だ、な」
     着地を狙った朔夜の影業を、管狐は予想より素早く地面を蹴ってかわす。弥影はかわした所に突っ込み、魔力と共に一撃。管狐は踏みとどまって耐えた。攻撃後の隙を突いて弥影に跳びかかる。
    「またかよ!」
    「任せて!」
     管狐の霊力を真正面から頭に受けて、弥影はふらふらと、戦場で棒立ちになる。夢うつつのような状態で立ちつくす弥影は、
    「えぇい! しっかりしなさい!」
     紫苑にビンタで回復の気を叩き込まれた。ビンタをかわして管狐が跳び退る。
    「大丈夫?」
    「……っ、ええ、ありがとう。にしても、同性とはいえ女の子をひっぱたくとかいい度胸じゃないの」
     首を振り、弥影は気丈に笑った。紫苑も笑い返し、小さく呟く。
    「……かっわいい」
     管狐の打ち出す鋭い葉に切り傷を負いながらも康也が突撃。管狐は康也の視界が狭まった瞬間に飛び上がり、突撃をかわす。
    「うおお、かわいくねーぞこいつ! まて、ぶっ飛ばしてやるぜ!」
    「ちゃんとこっち来て欲しいよね、あまのじゃくな」
     康也の後ろから、突撃の影になる形でエルメンガルトが放った真っ白なビームが管狐をとらえた。鳴き声を上げて吹っ飛ぶ。
     草を折って止まった先から反撃とばかりに鋭い葉がが飛びかかる。
    「すぐ直すから、気にしないで突っ込みなさい!」
    「おねがい、ね」
     攻撃の出所が管狐のいる場所だ。深月紅は管狐の飛ばす葉に敢えて向かう。逆風の中、後ろから瑞穂の援護を追い風として受け、葉っぱの弾幕を突きぬけた。ナイフから虹色の炎が緩やかに尾を引いて、管狐を斬る。
     管狐は炎に身を包みながら、素早く地面を蹴る。逃げるのではなく、深月紅の方向へ飛びかかり、そこに紫苑が割り込んだ。霊力を纏い、管狐が紫苑の肩に着地する。そこで小さく一鳴き。
    「……かわいい。やっぱ私この子飼う! はっ! 女の子も一緒に買えばいいのね!」
    「……錯乱してるわね」
     紫苑が一直線に弥影に向かう。弥影は突撃してくる紫苑をかげろうで受ける。横からエルメンガルトが抑え込み、管狐の退路も同時に抑える。
    「そろそろ悪戯は止めようか」
    「きめます。年貢の、納め、時、よ」
     深月紅は狙いを定めて解体ナイフを握り直す。草を鳴らして、狙い澄ました刃が紫苑の肩に乗った管狐を切り裂く。肩から落とすだけでなく、斬撃は管狐の体勢を崩し、炎は身を包むほど大きく燃え上がる。
    「さあ、彼方に消えてしまえ!」
     動きの固まった管狐をクラリスが叩き上げる。命中すると同時に魔力を爆発。見た目以上のダメージと共に管狐が宙に上がる。朔夜が飛び上がった。
    「……悪戯は……これまで、だ……」
     雷を纏った拳を一度。
     最後に一声鳴くと、管狐は灼滅の炎に消えた。

    ●草はらを揺らす。
    「終わったー! 弁当、弁当食おうぜ! ハラペコだ!」
     康也が両手を空に掲げる。紫苑がさっと荷物からシートを取りだした。
    「ふふふ、シートの準備はバッチリよ」
    「3枚も? よく持ってきたわね」
    「もっちろん。鞄の中はほぼそれよ。だから食べ物はおすそ分けしてください」
     紫苑は引いたシートの上に素早く平身低頭した。
    「シート、ありがたいし、食べ物、多めに、もってきたから」
    「まったく。……私もスープを持ってきたわ。保温もばっちりだから、温まるわよ」
     弥影が紙コップに水筒のスープを注いだ。シートの端が風で飛ばないように石で抑えていたエルメンガルトが受け取る。
    「お、ありがたいや。いただきます。はー」
    「紅茶、と、サンドイッチも、あるわ、よ」
     深月紅は包みからサンドイッチと紅茶を取りだす。サンドイッチの具は野菜が多めでヘルシーだ。
    「コレ作ったのか? スゲーな!」
     驚きながら、シートの中央に当然のごとく缶おでんを取り出す康也。隣でクラリスも持ってきた荷を開く。
    「こちらもサンドイッチだ。さすがに簡単なものしか用意して無いがな。……僕もあまり食べる方でもない。いるなら適当に持って行け」
    「やったー、ありがとー!」
     紫苑と、康也も飛び付く。
     朔夜もそっと包みを解いた。
    「握り飯、しか……ないが……良ければ……。無難で……すまない。スープと……紅茶には、合わなかった……かもしれん。……すまん」
     ちなみに具はほぐした鮭と梅干し、それとご飯だけの塩むすびと定番だ。エルメンガルトが自分の弁当を隣の並べる。
    「大丈夫大丈夫、僕のもおむすびだしね。あ、ちなみに僕の方の具はスルメだよ」
     付け加えた言葉に……一同の目が険しくなった。
    「いや美味しいって、炊き込みご飯にしてるんだから。そんな目で見るなよ!」
    「私もお握り。自分の分しかないけど、私も貰うからほしければとっていいわよ」
     さらに瑞穂の開けた弁当の中には、でーんと大きなおにぎりが。形も歪であるが、あんまり気にした様子もなく言う。
    「や、料理得意じゃないし?」
     紫苑がどこか遠くを見ながら朔夜のおにぎりに手を伸ばした。
    「朔夜、ありがと。あ、そういえば私もチョコレートはあるわよ」
    「何で今度は視界に入れないんだよ!」
     エルメンガルトが叫んだ。
    「……挑戦、して……みるか。む、意外と……」
    「だよね! いいでしょ?」
    「うお、紅茶が苦いぞ!」
    「あ、ストレート、だから、そうかも」
     お弁当持ち寄りの結果、新たな世界を開くもの数名。
     瑞穂がもふもふと自家製おにぎりをほおばりつつ、ふともらした。
    「んー、まぁこの調子でスサノオのヤツ、あちこち渡り歩いて古の畏れを呼び出してるのかしらねぇ」
    「そうだとしたら厄介ね。次は、手掛かりがつかめるといいけど……エクスブレインたちの話を聞く限りじゃ、すぐは難しいでしょうね」
     弥影が答えた時、また風が吹く。やはり少し肌寒い。
     けれど見晴らしのいい場所でのお弁当は、風が心の中にも入ってくるようで心地いい。都会じゃなかなかできない。今日は、季節外れのピクニックが楽しければそれでいいのだと、そう思えた。

    作者:示看板右向 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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