成瀬・樹媛(水晶の蝶・d10595)は、こんな噂を耳にした。
『ほろ酔いの色気で誘惑する淫魔が存在する』と……。
淫魔は夜の繁華街に出没しており、チェリーな男を見つけると、ほろ酔い加減でふらりと迫り、めくるめく快楽の世界へと、相手を誘ってしまうようである。
こうなると淫魔に襲われた相手は、骨抜き。
まるで酔っぱらっているかのように、夢心地。
普通のプレイでは満足する事が出来ず、どんどんアブノーマルな世界へと迷い込んでしまうようである。
そのため、淫魔が出没している周辺では、元チェリーボーイの変態が出没しており、一種の社会問題になっている。
ただし、淫魔はチェリーボーイにしか興味がないため、彼らは論外。
例え、街で遭遇したとしても、軽くあしらわれてしまうようである。
それが原因が一部が暴徒と化し、チェリーボーイ狩りを行っているらしく、夜な夜なウホウホッと奇妙な叫び声が聞こえているようだ。
しかも、彼らは見た目でチェリーっぽいと判断しているらしく、場合によっては自分のタイプだからチェリーでいいや的な時もあるので注意が必要。
また、淫魔自体はマシュマロのように柔らかい豊満な胸を武器に、超越したエロスなテクニックを駆使して襲い掛かってくる以外、これと言った特徴はないが、チェリーボーイ狩りをしている連中には、色々な意味で気をつけた方が良いだろう。
参加者 | |
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緋神・討真(黒翼咆哮・d03253) |
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) |
黒沢・焦(ゴースト・d08129) |
桐城・詠子(ダウンリレイター・d08312) |
逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150) |
安城・翔(魔法使い始めました・d13932) |
虚未・境月(月渡り・d14361) |
火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424) |
●運命
「あー、また変な依頼に引っかかったか」
緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)は愛用の神父服に身を包み、仲間達を連れて街中を闊歩しつつ、遠い目をしていた。
最早ここまで来ると、運命の赤い糸で結ばれているというより、禍々しいどす黒い縄で縛られていると言った方が正しく思えてしまうほど、討真は妙な依頼と縁があった。
「全く……小中高生、未成年の集まりなんですから、そ、そんな事は当たり前じゃないですか……! そうですよね、皆さん」
桐城・詠子(ダウンリレイター・d08312)が動揺した様子で、仲間達に声をかけた。
だが、そのうちの何人かが……、視線を逸らした。
おそらく……、と言うよりも間違いなく、脱チェリーを果たしているのだろう。
「ところで、チェリーな男ってなんでしょうかねー。さくらんぼの匂いがするとかですかね?」
火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424)が、キョトンとした表情を浮かべた。
どうやら、若い男性の事を指さす言葉のようだが、それだけでは説明が不十分のようだった。
しかも、仲間達は何処か体調が悪いのか、妙に咳き込んでおり、誰ひとりとして明確な答えを出してくれなかった。
「チェリー専門とかまた変な趣味してるね。よくわからないけどさ」
虚未・境月(月渡り・d14361)が、やれやれと首を振る。
淫魔はチェリー達を自分好みの色に仕上げる事で、自らの欲求を満たそうとしているらしく、それ以外は興味なし。
しかも、その欲求が満たされる事がないため、新たなチェリーを求めて、街中を彷徨っているようだ。
「ほろ酔いの色気か。それは中々に魅力て……強敵だな。そんな雰囲気で迫られたらとても拒めねえな、チェリーなら尚更。……くっ、惜しむべきはチェリーボーイしか相手してくんねぇのか……。叶う事なら俺もあの頃に戻れたら良いのだが、そうもいかねえよな、とほほ」
柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が、ションボリと肩を落とした。
だが、この場所にタイムマシンでも存在していない限り、過去を変える事など不可能である。
ならば、今ある手札で理想郷に旅立つ方法を考えた方が、色々な意味で現実的であった。
「……俺、彼女居るからって言うと、興味なくなるよね? なくなるよね?」
黒沢・焦(ゴースト・d08129)は、不安になった。
チェリーかどうかはさておき、変態の仲間入りなど、絶対にごめんである。
「と、とにかく、淫魔を見つけ出す方が先ね。もしかすると、もう見つけているかも知れないけど……」
そう言って逢見・莉子(珈琲アロマ・d10150)が、乾いた笑いを響かせる。
視線の先にいたのは、まるで何かに取り憑かれた表情を浮かべた男達。
その男達がレミングスの大行進の如く、何かを求めてフラついていた。
「今回は久々に依頼参加したから勘を取り戻しながら戦う事になりそうだ。狙うは淫魔のみ! 周りのやつのことは気にしねぇ! 待ってろよ、淫魔! 骨抜きにできるならやってみろ!」
そして、安城・翔(魔法使い始めました・d13932)は覚悟を決めた様子で、彼らの後を着いていった。
●チェリーのニオイ
それから淫魔が現れたのは、すぐだった。
「あらぁ~ん、この中に可愛いチェリーちゃんがいるようね。一体、何処から匂いのかしら?」
淫魔が思わせぶりな態度を取りつつ、ゆっくりと辺りを見回した。
その途端、前方を歩いていた男達が一斉に回れ右をすると、まるでエサ場に集まる池の鯉の如く勢いで、『俺だ、俺!』と自分をアピールし始めた。
「だったら、ひとりずつ確かめてみようかしら?」
そう言って淫魔が男達の首筋に顔を近づけ、クンクンと匂いを嗅いでいく。
こんな事でチェリーか否か見分ける事など出来そうにないように見えたが、それをされた男達は大興奮! 既に腰砕け状態になっていた。
「俺はチェリーじゃないよ」
そこで境月が宣言をした。
「あら? そうなの~。へえ~、そうなんだ。だったら、この匂いは何処から漂っているのかしら?」
境月の顔色を窺いながら、淫魔が今度は高明に迫る。
「い、いや、俺はお目当てのチェリーじゃねえって!」
如何にも不慣れで落着きない感じで、高明が激しく首を横に振る。
だが、それは淫魔を欺くための演技!
「確かに……、そうみたいね」
しかし、淫魔は騙せなかった。
その後ろにいた男達がチャックに手をかけ、『もしも本当にチェリーだったら、危ないところだったなぁ』と警告混じりに呟いた。
おそらく、高明がチェリーだった場合は、男達が力ずくでチェリーを奪い、舌の上で転がすようにして弄び、自分色に染めていた事だろう。
そう思うと淫魔の対応に感謝だが、違って反応を示していた時の事を考えると、まったく生きた心地がしなかった。
「まあ、良い身体っちゃ良い身体だが、悪い。俺は嫁さん一筋だから。……って、軽々しく触れるなよっ、変な匂いをつけて帰ったら、殺されるだろうがぁぁぁ」
嫌悪感をあらわにしながら、討真が淫魔を払い除ける。
「だったら、なおさら匂いつけ~」
淫魔が含みのある笑みを浮かべて、討真の体に纏わりついた。
そのたび、濃厚な香りが、討真の体にこびりついていく。
「こ、こらっ! やめろ! マジでシャレにならねえから!」
討真が青ざめた表情を浮かべて首を振る。
本当にマズイ。マジでヤバイ。
途端に、脳裏に浮かぶのは、言い訳の数々。
とにかく、理由を考えねば……。考えなければ、生き残れない。
いやいや、きちんと理由を離せばわかってくれるはず。
いや、分かってもらわなければ、困るのだ。
だが、甘い匂いを漂わせ、何もなかった、しなかった、という理由が通じるだろうか? それこそ、普段から信頼されているか、否かに掛かっていた。
「ううっ、早く帰りたいなー……。彼女が待ってるから。彼女が! 待ってるから!!」
途端に焦が叫ぶ。
もう、この状況が耐えられない。
動揺すれば淫魔にからかわれ、迂闊な事を言えば男達に襲われるという二重苦状態。その打開策として彼女がいる事を強調してみたが、淫魔も男達が微妙な反応。半信半疑。おそらく、状態的に言えば吊り橋の上で両側から逃げ道を塞がれているような感覚であった。
「ともあれ、えっちいのはあかんですよ!」
警告混じりに呟きながら、狩羅がクリエイトファイアを使う。
だが、淫魔も男達も動じない。
それ以上にチェリー探しに全身全霊を注いでいるらしく、淫魔に至ってはその状況を楽しんでいるようだった。
「ううっ、何やら嫌な視線を感じるわね」
莉子が全身に鳥肌を立たせた。
この様子では、男達の舐めるような視線に恐怖を感じているのだろう。
出来る事なら、今すぐこの場から離れたい気持ちが溢れ出ているようだった。
「確かに……、この状況はひどくマズイ気がします」
色々な意味で身の危険を感じた詠子が殺界形成を使う。
その途端、男達が怯えた様子で、その場から離れていった。
「バランス……ブレイク!」
次の瞬間、翔がスレイヤーカードを解除した。
それを目の当たりにした淫魔は、何が起こったのか分からず、両目をぱちくりさせていた。
●戸惑い
「……えっ? 何なの? ま、魔法……?」
淫魔は一瞬、自分の目を疑った。
何が起こったのか、サッパリ分からない。
ただ、ひとつ分かる事は、絶体絶命のピンチに陥ったという事。
何とかしなければ……。ここから早く逃げなければ、と言う気持ちが、淫魔の心を揺さぶった。
「もう逃げ道はないよ」
すぐさま焦が行く手を阻み、蹂躙のバベルインパクトを仕掛ける。
それでも、淫魔は逃げ道を探すようにして、その場から飛び退いた。
「逃がさないわよ、絶対に!」
次の瞬間、莉子がナノナノと連携を取るようにして、淫魔に攻撃を仕掛けていく。
そのため、淫魔は攻撃を避ける事が出来ず、ドシンと派手な音を立てて尻餅をついた。
「……安心しろ。一瞬で終わらせてやる」
高明の言葉に淫魔は焦った。
「い、嫌よ! なんで、アタシがこんな目に!」
そう言って淫魔が這うようにして逃げだそうとしたが、その先には境月が既に陣取っている。
「さっさと消えてね、おばさん」
そして、境月の放った神薙刃が冷たい言葉と共に淫魔めがけて直撃した。
「な、な、何ですってぇ~!」
これにはさすがに淫魔もキレたが、ダメージを受け過ぎたせいで、肉体が消滅し始めた。
それでも、淫魔は最後の力を振り絞るようにして、恨み事を吐き捨てながら跡形もなく消滅した。
「罪に溺れ地獄を廻りなさい」
淫魔が消滅した場所を眺め、詠子が冷たい視線を送る。
肉体が完全に消滅するまで、淫魔はこの世に執着し、境月に対して恨み事を吐いていたが、運命には逆らう事は出来なかった。
「間違いなく恨まれましたね。あの淫魔に……」
狩羅がそう思うのも無理はない。
鬼のような形相を浮かべた淫魔が、最後に残した言葉。
その言葉が耳の奥まで、脳裏に刻み込まれていた。
さすがに化けて出る事はないと思うが、再び現れてもおかしくないほど、恨みと気迫がこもっていた。
「でも、なかなかいい身体をしていたな」
そう言って翔が溜息を漏らす。
淫魔だからこそ、あそこまでスタイルが良かったのかも知れないが、それでもあの体を見てムラッと来ない男などいない。
そう思ってしまうほど、整った美しい身体をしていた。
「……浮気だと思われないうちにさっさと帰ろう」
そのため、討真は不安になった。
ただでさえ、甘い匂いが消えずに困っている。
逆に、これで浮気だと思われない方がおかしいと思うほど、匂いがプンプンと漂っていた。
(「あの淫魔……、とんだ置き土産をしてくれたな」)
そう思いつつ、討真は帰路についた。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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