贖いのバイオレンス

    作者:悠久

     女を殴るのは気持ちがいい。
     それは例えば早朝であったり、深夜であったり。無防備に歩いているところに近付き、まず一発。
     悲鳴を上げる口を塞ぐように、一発。弱々しく崩れ落ちる体へ、更に一発。
     そこから先は抵抗しなくなるから、弱々しく泣くだけのそいつを好きなだけ殴って、気が済んだら捨てていく。
    「この……ひとごろ、し……」
     その日の女はなかなかしぶとくて、鬱陶しいほどに煩かったから、最後に顔面を思い切り蹴飛ばしてやった。
     サッカーボールみたいに跳ねて、愉快だったぜ。
    「は、は……ははははっ!」
     腹の底から笑う。楽しくて楽しくて仕方がなかった。
     最初の頃こそ抵抗があったけれど――今はもう、何も感じない。

     ああ、次はどいつを殴ってやろうか。
     できるだけ、『あいつ』に似ている女がいいな。


    「『病院』の灼滅者には、もう会ったか?」
     教室に集まった灼滅者達を見回し、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はそう切り出した。
    「今回、お前達に依頼するのは、その『病院』の灼滅者達からもたらされたダークネスの陰謀に関することだ。『贖罪のオルフェウス』というシャドウが、ソウルボードを利用し、人間の闇堕ちを助長しているらしい」
     なんでも、彼らは『贖罪の夢』を見せて心の中の罪の意識を奪うことにより、人間の闇堕ちを促進しているのだという。
    「被害者は、竜崎・晃。20歳くらいの男だ。深夜や早朝など、人のいない時間帯に1人歩きの女性を狙い、惨い暴力事件を起こしている。
     どうやら、幼少期に母親から暴力を振るわれていたようだな。
     その復讐のために、何の関係もない女性を襲っている、といったところか……」
     なんとも気分の悪い話だ、とヤマトは顔をしかめた。
    「だが、ダークネスの被害に遭っているとなれば、見過ごすわけにもいかないだろう。
     竜崎が自宅で眠っている日時は予測されている。お前達はそこに忍び込み、ソウルボードへ侵入してくれ」
     シャドウは夜中、竜崎の罪の意識を奪うため、神の元で懺悔するかのような『贖罪の夢』を見せている。
    「厄介なのはここからだ。この懺悔を単純に邪魔しただけでは、竜崎自身がシャドウのようなダークネスへと変化してしまう。そうなれば、奴とは戦うしかない」
     変化した竜崎の戦闘能力はシャドウに匹敵する。おまけに、竜崎と同じ背格好の黒い人型の眷属を2体ほど呼び出すようだ。
     ダークネスもどきの使用サイキックはシャドウハンター、咎人の大鎌に似たもの。眷属はストリートファイターに似たものを使う。
     だが、と。ヤマトの瞳に、鋭い光が宿る。
    「罪の意識を受け入れるよう竜崎を説得できれば、シャドウのようなダークネスもどきは、竜崎とは別に単体で出現し、お前達へと襲い掛かってくる」
     その場合、ダークネスもどきの戦闘能力は低下し、眷属を呼び出すこともできなくなる。
     ただし、このダークネスもどきは竜崎を執拗に狙ってくる。
     竜崎が攻撃を受けてしまった場合も、ダークネスへもどきの強さは説得前と同じになってしまうという。
     竜崎を守るには、灼滅者達が彼を庇って戦う必要がある。
    「守りたいという気持ちが強ければ、竜崎を庇うことは容易い。
     だが、誰かを守って戦うことには、常に危険が付きまとう。それこそ、いつもの倍の傷を負うくらいにな」
     苦々しい面持ちで、ヤマトは灼滅者達を見回す。
    「説得が成功すれば、目覚めた竜崎は罪の意識を取り戻し、良心の呵責に苛まれることとなる。
     少しばかり、言葉を掛けてやるのも悪くないと思うぜ。それこそ、慰めでも、怒りでもな。
     だが、説得に失敗した場合は……もう、何もかも手遅れだ。どんな言葉も、奴には届かない。
     その時は、あまり深入りせずに帰って来いよ。そもそも、お前達が気に病む必要なんてどこにもないんだ」
     よろしくな、と頭を下げるヤマト。
     ――その姿は、いつもよりほんの少し、寂しそうに見えた。


    参加者
    メアリー・ランドベルト(ヘビーウェポンシューター・d00707)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)
    月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)
    布都・迦月(幽界の深緋・d07478)
    細野・真白(ベイビーブルー・d12127)
    法月・茨(咎人は眠り姫の夢を見るか・d22605)

    ■リプレイ

    ●歪んだ色彩の世界
     ソウルアクセスを用いて降り立ったそこは、赤と黒の入り混じった世界だった。
    (「なんとも嫌な色、だね……」)
     周囲を見回し、月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)は眉をひそめる。
     今まで様々なソウルボードを見てきた架乃だからこそ敏感に感じられるもの。
     悲哀、暴力、愛情――様々な感情が交錯し、乱れていく色彩。
     そんな中、たったひとつだけ純白に輝くのは、1体の美しい聖母像。
     その傍らには、1人の若い男、この精神世界の主である竜崎・晃がひざまずいていた。
    『……ああ。またやっちまったんだよ、オレ』
     聖母像を見上げるその瞳に宿るのは、明らかな狂気と――どこか、縋るような光。
    『でも、許してくれるんだろ? だって、悪いのはオレじゃなくて……』
    「あ、あのっ!」
     男の言葉を遮るように、細野・真白(ベイビーブルー・d12127)は精一杯、声を張り上げる。
    「懺悔の前に、わたし達とお話しませんかっ……!?」
     相手は自分よりも年上、おまけに人相もどこか凶暴で、話しかけるのは少しだけ怖かった。
     でも、それ以上に『彼を救いたい』という気持ちが勝って。
    「あなたのお顔、どこか辛そうに見えます。……傷つく痛みを、知っているんでしょう?」
     母を喪うこと。赦されたいと願うこと。そのどちらも、真白にとっては覚えのある感情だ。
     彼女の言葉に、竜崎の肩が微かに震える。
    「ここは夢、竜崎さんの心が見る夢です」
     言葉を引き継ぎ、優しくそう語りかけたのは佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)。
    「ですから……貴方とお母様のお話を、貴方の本当のお気持ちを聞かせてはいただけませんか?」
    『……ああ、そうだな。所詮はただの夢、アンタ達がどこの誰か、なんて関係ないことだ』
     竜崎が、ゆっくりと灼滅者達を見回した。
     その顔に浮かぶのは、満面の笑み。けれどやはり、どこか虚ろで。
    『なら、少しくらいは話してやってもいいぜ。悪いのは、全部コイツ……オレの母親なんだ』
     と、竜崎は傍らの聖母像を見上げた。
     恐らく、それは彼の母親を模ったものなのだろう。
     優しい微笑を浮かべた聖母像の顔目掛けて、竜崎はおもむろに唾を吐き捨てる。
    『オレの前で、この女は1度たりともこんな顔を見せてくれなかった。オレに与えられたのは、暴力だけ。最低の母親だろう?』
    「……だから、関係ない女の人を殴ったの?」
     静かに見守っていた架乃が、ふと、不快を露わにする。
    「その行為はホントに復讐? 相手は赤の他人、母親本人には伝わらないよ?」
    「目を覚ましなさい! アンタは、他の人にまで、自分と同じ痛みを味わわせるつもりなの!?」
     神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)も、きつい口調で言葉を重ねた。
     女性を傷付けて喜ぶ男なんて許せない。けれど、その原因の一端がダークネスにあるというのなら。
    (「絶対に、ここで止めてみせるわ……!」)
     固い決意を胸に、明日等は竜崎を見据える。
    「今の竜崎さんの姿は、貴方の母親と同じ……ではないのですか」
     説教なんて柄ではないけれど、と。
     布都・迦月(幽界の深緋・d07478)はどこか躊躇いがちに、けれどはっきりとそう口にする。
    「貴方が憎んでいる母親と同じように、別の女性を殴り続ける事が罪だと解っているからこそ……そうして懺悔をしているのでは?」
     迦月の声に、徐々に熱が篭っていく。
     被害者である竜崎が同年代の青年だからだろうか。最初に見た時から、どこか放っておけない気がして。
     けれど――。
    『アンタ達に、何が分かるっていうんだ……!!』
     竜崎から返るのは、絶叫。魂を振り絞るように、声の限りに。
     血走った両目も限界まで見開かれる。
    『オレは痛かった! 苦しかった! でも、ガキだったからどうにもならなかったんだ! その苦しみを、痛みを、誰かにぶつけて何が悪いんだよぉぉぉっ!?』
    「……殴られる痛みを知ってるのなら、さ」
     その狂気を受け止めるように、エリアル・リッグデルム(ニル・d11655)の言葉が響く。
    「本当は痛みを伴わない愛情が欲しかったんじゃないの?」
     復讐のためだけに、無関係に牙を向ける――なんて。
     身に覚えのある所業と真っ向から向き合わされているようで、エリアルは自嘲するように笑うしかない。
     けれど。積もった恨みの裏側には、同じくらいの願いや望みがあるはずだから。
    「殴られた以外の思い出は……無いのかい?」
     あまり他人と密に関わることのないエリアルが珍しく口にした、真摯な言葉に――竜崎の動きがぴたりと止まった。
    『オレは……オレ、は』
     愛して欲しかった、と竜崎は呟く。途端、ソウルボードの中に仄かな光が灯った。
     それは恐らく、本当に微かにしか存在しない、幸せだった瞬間の思い出なのだろう。
     まるで蛍のように浮遊する光へ手を伸ばし、法月・茨(咎人は眠り姫の夢を見るか・d22605)がほう、とため息を吐いた。
    「そう……貴方は、愛されたことがあるのですね」
     憂いを秘めた微かな笑みを覗かせて――刹那、茨はその表情を厳しいものへと変える。
    「なら、これ以上、偽りの贖罪に縋ることは止めましょう。貴方の中には、前を向いて歩くための糧が存在している。……修羅の道へ足を踏み入れる必要など、どこにもないのです」
    「一緒に帰りましょう、竜崎さん」
     真白が、小さなその手を差し伸べる。
    「ええ。きっと勇気を出して断ち切った先には、本当の人生が開けます」
     志織もまた、柔らかな笑みを浮かべ、竜崎の傍らへ屈み込んだ。
    『アンタ達……どうしてそんなに、オレのことを……?』
    「普通じゃない境遇なのは君だけじゃない、ってこと。事実、私なんて天涯孤独の身だし?」
     途方に暮れたような表情の竜崎を見つめ、架乃が小さく笑った――その瞬間。
    「……来たわよ!」
     竜崎への説得を仲間達に任せ、後方で周囲を警戒していたメアリー・ランドベルト(ヘビーウェポンシューター・d00707)が、鋭い声を上げると共にGG-フラワーシャワーを構えた。
     間髪入れずその銃弾を撃ち込んだ先は、聖母像の向こう。
     そこにいたのは、爆炎に包まれる黒い影――竜崎の罪の意識を奪っていた、シャドウのようなダークネスもどきだった。
    「悪いけど、あんたなんてお呼びじゃないのよ! さっさと灼滅されちゃいなさい!!」
     メアリーが放つ絶え間ない爆炎の弾雨に、敵はその動きを制限される。
    『な、なんだよ、これ……!』
     困惑する竜崎を守るように、灼滅者達は体勢を整える。
    「まあ、安心して」
     超撲殺を構えたエリアルが、その目へ冷徹な光を宿し。
    「ここからが、俺達の仕事ですから」
     迦月は、竜崎を安心させるように微笑する。
     その手の甲から、一瞬にしてエネルギー障壁が展開された。
    「少々手荒ではありますが、竜崎さんが良き方向へ進むためのお手伝いをさせて頂きます」
     西洋剣をすらりと抜き放った茨が、その刃へ祝福の口付けを落とす。
     それが、戦闘の始まりだった。

    ●贖罪の代償
     仲間達が戦闘体勢を整えたことを見て取ると、メアリーは一旦、ダークネスもどきに対する攻撃の手を休めた。
     とはいえ、その瞳に燃え盛るような闘志は変わらず。
    「こっちはね、鬱憤が溜まりまくってるのよ」
     メアリーが竜崎への説得に参加しなかった理由は、怒りのため。
     竜崎の罪も、それを利用しようとしたダークネスも。
     何もかもが許せなくて、とても上手く言葉をかけられるとは思えなかった。
     だから。
    「私に出来るのは、戦いに勝って、竜崎さんを連れ戻すことだけ! さっさと倒されなさい!」
     地を蹴り、漆黒の人型をした敵へ素早く接近すると共に、両手に抱えていた巨大な銃器へ影を纏わせ、敵を直接殴り付ける。
     影はそのまま敵に絡み付くと、その体の内部へ侵食し、徐々にダメージを与えていく。
     オオオ……と、嘶きのような声が上がった。
    「懺悔するような経験、ないけどさ」
     と、架乃はPunishmentを構えて。
    「……絶対間違ってるよね、こういう展開は」
     許すこと、許されることを決めるのは、想いを抱く本人だけだ、と唇を噛む。
    「お願いします、月舘さんっ!」
     真白の天星弓から、その背中を支えるように癒しの矢が放たれる。
     了解、と応える架乃。銃口に蓄えられた膨大な魔力は、狙いを過つことなく敵を焼いた。
     重ねるように、後方の明日等からも極太の光線が撃ち出される。
    「これ以上、あなたの好きにはさせないわっ……!」
     だが、2人の放った光線を振り払うように出現したのは、巨大な漆黒の鎌。敵が、己の体の一部を変化させたのだ。
     死の力を宿した刃は、勢いを弱めることなく振り下ろされる。
     すなわち、呆然とした表情の竜崎へと。
    『うわ、うわぁぁぁっ!』
    「させるかっ……!」
     2人の間へ滑り込んだ迦月が、エネルギー障壁でその刃を押し留めようとするが――止められない。
     大鎌は、庇った迦月ごと竜崎を吹き飛ばした。
    「させないわっ!」
     叫ぶ明日等。なおも竜崎達へ負い縋ろうとする敵を遮ったのは、彼女のライドキャリバーによる突撃だった。
    「お前の相手をするのは、僕達だ」
     動きの鈍った敵目掛け、エリアルのロケットスマッシュが炸裂する。
     冷静、かつ渾身の一撃が、漆黒の影のようなその体を大きく吹き飛ばした。
    「大丈夫かい」
     と、エリアルは後方の迦月を振り仰ぐも、
    「当然!」
     竜崎を他の仲間へ任せるようにして立ち上がった彼は、たった今負った傷など気にもせず、エリアルの横をすり抜けるように敵へと突進した。
     インパクトの瞬間、手のひらに展開したエネルギー障壁を力いっぱい叩き付ける。
     痛みと怒りの織り交ざったような絶叫が、ダークネスもどきから上がった。
     同時に、その大鎌から凄まじいまでの力が周囲へ放出されて。
     無数の刃と化した力が、灼滅者達へ鋭く襲い掛かる。
    「皆さん、すぐに回復いたします」
     後方で冷静に戦況を見守っていた茨が、即座に西洋剣を掲げ、戦場へ癒しの風を吹き渡らせた。
     主を援護するように、霊犬の枸橘も浄霊眼で仲間を癒す。
     だが、無数の刃から竜崎を庇った志織のダメージは深刻で。
    「こんな痛み、どうということはありません……!」
     負傷に震える足で、それでも彼女は立ち上がった。
     竜崎を狙って接近する敵へ、志織は両手で構えた注射器を突き刺す。針を通し、その力を吸収したのだ。
     力を吸われ、動きの鈍った敵に、エリアルの振りかぶった超撲殺の殴打が2度、3度と炸裂する。
     回転するたびに威力を高め、精度を高め。
    「心の傷は、けして塞がることはない。それを利用しようだなんて……外道の所業だ……!」
     吐き捨てるように叫んだその言葉と共に、敵の体は天高く打ち上げられた。
    「落ちなさいっ……!」
     成すすべなく宙を舞う漆黒の体躯目掛けて、明日等の放ったオーラキャノンが炸裂する。彼女のライドキャリバーも、主を援護するように射撃を行った。
     不定形の体に、大小いくつもの穴が空く。が、いまだ致命傷には至らず。
     弱々しく墜落した敵へ一瞬で肉薄し、架乃が手にした武装の銃座で殴り付けようとするも、
    「っ……!」
     至近距離から漆黒の弾丸を放たれ、回避のため、後方へと跳躍することとなってしまう。
     ――そこに、一瞬の隙が生まれた。
     再び竜崎へと接近する敵。振り下ろされる一撃。
     止められない、と。誰もがそう思った瞬間。
    「駄目ですっ……!」
     真白の小さな体が、竜崎を抱きしめるような格好で彼を敵の攻撃から庇っていた。
    「あああっ!!」
     小さな体を震わせるのは、激痛による悲鳴。
     それでも、彼女はけして竜崎から離れようとはせず。
    『ど、どうして……』
    「……辛かったら、泣いてもいいんです……」
     と、真白は微笑み、呆然とする竜崎の手へそっと触れた。
    「だから……帰りましょう、竜崎さん」
     その背から、癒しをもたらす魔力の霧が迸る。
     拡散していくそれは、どこか翼のようにも見えて。
     次の瞬間、深い傷を負った真白を守るように、茨の放った無数の光輪が飛来する。
    「私達は、どこか似ています」
     憂いを含んだ茨の言葉。
     恵まれない境遇。或いは、降りかかった数奇な運命。
    「だからこそ、分かるのです。……振り回されてばかりでは悔しいでしょう?」
     と、志織は小さく笑って。敵の懐に飛び込むと共に、目にも留まらぬ拳の連打を見舞った。
     吹き飛んだ敵目掛け、狙いを定めて発射されたのは極大の魔力の光線。
     敵の全身を呑み込むほどのその威力に、メアリーが満足そうに笑みを漏らす。
    「こんな奴、さっさと吹っ飛ばして帰りましょう」
    「もしもその罪が、1人で負うにはあまりにも重いというのなら」
     炎を纏い、凛と立つ迦月が、ちらりと竜崎を振り向いた。
    「俺達が、背中を押してやる」
     だから、と。小さく笑って。
     瀕死のダークネスもどきの体を、迦月の一撃、その激しい炎が包み込む。
     ――燃え盛る炎が消える頃には、その体は完全に消滅していた。

    ●前を向いて
     暗い部屋。ベッドの上、目覚めた竜崎は呆然とした表情で黙り込んで。
    「……まあ、アンタも皆も無事でよかったわ」
     別に心配してるわけじゃないんだからね! と、視線を逸らす明日等の頬は赤い。
    「警察には、自首なさるのですか?」
     志織の言葉に、竜崎は静かに頷く。
    『オレがやったことは、母親と同じ……最低のことだからな』
    「ま、それが妥当だろうね」
     でもさ、とエリアルは肩を竦めて。
    「罪と向き合うことで、見えるものもあると思うよ」
     精一杯悩んで、苦しんで。それが前を向くための力になればいい、と。
    「1人で背負うには重いかもしれない。けれど、ただ後悔するだけじゃなく、今の貴方にできることを」
     それが本当の贖罪だから、と。迦月はそっと竜崎の肩に手を置いた。
    『……できるのかな、オレに』
    「大丈夫です」
     竜崎の手を握り、真白は何度も頷いた。
    「竜崎さんは、こうして帰ってこられたんですから」
     なら、自らの罪と向き合うことも――いつか、他の誰かへ優しくすることもできるはず。
    「ええ」
     と、茨も言葉少なに頷く。竜崎が罪より引き返した、そのことに内心安堵しながら。
    「……あんたがもう夢に頼らず、自力で罪に立ち向かうなら、手を貸してあげてもいいわよ」
     少し離れた場所で様子を見ていたメアリーは、不意にそう口にして。
     架乃はメモを取り出すと、そこにさらさらと連絡先を記入し、竜崎へと差し出した。
    「はい、これ。年下だからって遠慮はいらないよ」
     いつでも相談OK! と書き足して、架乃は小さく笑う。
     困惑気味にそれを受け取った竜崎は、改めて灼滅者達を見回し――。

     ありがとう、と。小さく頭を下げた。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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