温室物語

    作者:本山創助

    ●胎生
     植物園を思わせる広大な温室の中で、その少女は何不自由なく、幸せに育った。
     肌は褐色で、瞳は青い。東南アジア系の健康的な美少女で、年は十二歳。もし学校に行っていたなら、小学六年生になっていたはずだ。
     伸び放題の青髪は、立てば膝の裏まで届くが、少女は猫のように手足つけて駆けずり回るので、毛先はいつも地面を引きずっていた。
     ガラス張りの室内には、熱帯雨林で育つ木々や草花が生い茂っている。空調が整っており、年間を通して快適な室温に保たれていた。一糸まとわぬ少女が冬でも平然としていられるのは、この環境のおかげである。
     ある夜。
    「あぉおん」
     ガラスの天井に浮かぶ月に向かって、少女が物憂げに鳴いた。
     すぐそばには、老紳士が横たわっている。ときどき訪ねてきては、優しく撫でてくれるその老紳士のことが、少女は大好きだった。なのに、今夜の彼は、急に倒れたかと思うと、ただ苦しそうに呻くばかりで、少女がすり寄っても触れてはくれない。
     少女にとって、彼は唯一の人だった。彼以外の人間は、生まれてこの方見た事がない。
     途方に暮れて右往左往する少女の手を、彼が強く握った。
     少女は彼の耳元に口を近づけ、祈るような気持ちで鼻歌を歌った。
     彼の好きな歌だ。
     彼とは、いつも鼻歌で気持ちを伝え合っていた。
     少女が歌うと、彼は低いハミングで応え、二人の鼻歌は心地よいハーモニーを生み出すのだ。
     しかし、今夜は違った。
     彼は歌うことなく、静かに息を引き取った。
     それでも少女は、歌い続けた。
     自分がひとりぼっちになってしまった事を理解し、完全に闇に堕ちる、その時まで。

    ●教室
    「いったい、どんな背景事情があってこうなったのかは分からない。それはともかく、この子を助けて欲しいんだ」
     賢一が説明を始めた。

     彼女は名前を呼ばれた事が無い。そもそも、名前が無いんだ。人間社会から完全に隔離されて育てられたらしい。日本語どころか、人語を聞いた事すらないので、どんな言葉も通じない。そんな彼女が、育ての親である老紳士の死をきっかけに闇堕ちしてしまう。でも、キミ達が現場に到着する時点では、完全には堕ちていない。素質があれば、彼女は灼滅者になれるかもしれない。
     キミ達が現場に到着するのは、老紳士が亡くなってから一時間くらい経った頃になる。彼女は老紳士のそばで鼻歌を歌っているから、そこで接触して欲しい。
     すでに闇堕ちは始まっているけど、完全じゃないから、彼女の心に呼びかける事は出来る。でも、言葉は全く通じないし、下手に喋ると驚かせてかえって逆効果になると思うから、説得の方法には工夫が必要かもしれない。
     戦闘になれば、彼女はサウンドソルジャーと解体ナイフ相当のサイキックで戦う。猫みたいにすばしっこいから、上手く包囲しないと戦闘が長引くかもしれないね。愛する人を失った悲しみや怒りを全力でぶつけてくるだろうから、油断は禁物だよ。
     彼女の説得は難しいかもしれない。
     でも、キミ達が力を合わせれば、きっと良い結果になると思う。
     それじゃ、頑張ってね!


    参加者
    リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)
    壱寸崎・夜深(宵咲星蛍・d03822)
    アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)
    烏丸・鈴音(カゼノネ・d14635)
    禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)
    御風・七海(夜啼き翡翠・d17870)

    ■リプレイ

    ●哀
    (「なんだ、こりゃあ……」)
     禍薙・鋼矢(剛壁・d17266)は、口をあんぐりと開けたまま、周囲を見渡した。
     まるでジャングルだ。
     道らしきものはあるが、歩くのが困難なほど、伸び放題の草木によって浸食されている。
     植物の壁によって視界は阻まれ、先が見通せない。
     花も、葉っぱも、果実も、どれもみな大きい。
     生ぬるい空気に、強い香り。
     原初的な生命の奔流が、ここに具現化していた。
     見上げれば、立派に育った椰子の木が、遙か頭上で大きな葉を揺らしている。
     覆い被さる枝葉の向こうに透かし見えるのは、夜空を格子状に区切る、ガラス張りの高い天井。
     そこから入る月明かりが、天然色の世界を青く照らしていた。
    「ンーンンーンーンー……♪」
     草木の奥から、かすかに、少女の歌が聞こえてくる。澄んだ、美しい声だ。
    (「なぜこんな所に隔離する必要があったのか」)
     鋼矢は、歌の方へと歩みを進める。
    (「老紳士は何者なのか……。全く気になることだらけだ」)
     突如、視界が開けた。
     鋼矢は身をかがめ、後続の仲間達に『待て』のサインを出す。
     約一五メートル四方の空間が広がっていた。
     中央には白い噴水。
     その前に、少女がいた。
     噴水の方を向いて、じっと座ったまま、歌を歌っている。
     長く波打つ青髪が、少女の後ろ姿をすっぽりと覆い隠していた。
     肌は見えず、確認できるのは、青髪から覗く猫のような耳と、長い尻尾のみ。
     少女の足下には、礼服姿の老紳士が横たわっている。
    「ンーンンーンーンー……♪」
     淡々とした旋律が、聴く者の心に、何かを訴えかけてくる。
     無常……諦観……孤独……そこから展開される、希望。
     胸が張り裂けそうなほどの渇望。
     やがて静かに絶望し、旋律は元に戻る。
     灼滅者達は、じっとそれに耳を傾けた。
     それから、どれほどの時が流れただろうか。
     海底に沈んだ石像のように、身じろぎもせず。
     月明かりに濡れた広間を見つめながら。 
     同じ旋律を、何度繰り返し聴いただろうか。
    「ン、ンン、ン、ンー……♪」
     黒猫を抱いた壱寸崎・夜深(宵咲星蛍・d03822)が、小さく口ずさんだ。
     少女を驚かさないよう、心をひとつにしながら、同じ旋律をなぞっていく。
     猫耳が、ピクリと動いた。
     夜深に続いて、風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)も声を重ねた。
     最初は静かに、それから少しずつ、声量を豊かに。
     少女の体が、心地よさげに揺れる。
     そこに、烏丸・鈴音(カゼノネ・d14635)の、低く、柔らかな男声が加わる。
     少女が、くるりと、振り向いた。
     青い瞳が、広間の入り口に佇む灼滅者達を捕らえる。
     その整った顔からは、感情がすっぽりと抜け落ちていた。
    (「大丈夫、一人じゃないよ。寂しくない」)
     少女の視線を受け止めたまま、鈴音は変わらぬ調子で歌い続ける。
    「ラーララーラーラー……♪」
     海堂・月子(ディープブラッド・d06929)が、少女に語りかけるように、声音を重ねた。
     青い瞳を見つめながら、微笑みかける。
     少女は、座ったまま、灼滅者達に向き直った。
     青髪に埋もれた体からは、褐色の手足が覗いている。
     しなやかな野生の美が、そこにあった。
     少女は、月子を真似て声を出した。
    「らーららーらーらー……♪ ラーララーラーラー……♪」
     最初はぎこちなかったが、すぐに月子と同じ発音になった。
     耳が良いのだろう。発声を真似ることは、造作もないようだ。
     少女は、灼滅者達をまるで警戒していなかった。
     しかし、心を許しているわけではない。
     歌にすがりつくことで、現実から目を背けているようだ。
     繰り返し歌われる旋律に、氷香のバイオリンが滑り込んだ。皆のユニゾンに合わせ、ゆったりとしたベースラインを加える。
     鋼矢が低いハミングで、そのベースラインをなぞる。
     歌声が、ハーモニーとなった。
     少女の瞳に、光が戻る。
     引き寄せられるようにして、夜深が、少女に歩み寄った。
     黒猫は夜深の腕から飛び降り、並んで歩く。
    (「大好キ、人、喪失……我、想像シか、無理けド……」)
     そろり、そろりと距離を縮める。
    (「父様、母様、兄様。ソれと……」)
     雫型のペンダントを、そっと握る夜深。
     思わず、涙が溢れた。
     少女は、ぽろぽろと涙をこぼす夜深を、不思議そうに見つめている。
     二人の距離は、もう無かった。
     二人は見つめ合ったまま、同じ歌を歌う。
     無常……諦観……孤独……そこから展開される、希望。
     氷香のバイオリンがベースラインを離れ、希望の旋律を力強く奏でた。
     淡々とした歌声に生気が宿り、渇望に向けて、音量を増していく。
     皆の歌声も高まっていく。
     高まりが頂点を迎えた、その時。
     氷香は音を止めた。
     絶望に転じる一歩手前で、全員の声がぴたりと止んだ。
     鈴音が、ひよこの風鈴を掲げる。
     ――チリーン。
     澄んだ音が、少女の胸を打つ。
     その頬を伝う、一筋の涙。
     少女は、夜深と一緒に、涙をこぼした。
     バイオリンが、再び希望の旋律を奏でる。
     それは、希望の旋律をアレンジした、別の旋律に変化していく。
     優しい思い出に包まれるような、温かい旋律。
     少女が、新しい旋律をなぞるように歌う。
     涙に揺れる、少女の声。
     そこに絶望の色は無い。
     旋律は、鎮魂の調べに転じ、やがて安らかな解決を迎えた。
     歌が、終わった。

    ●怒
    「あうっ……うううっ……」
     老紳士の亡骸に覆い被さり、少女が嗚咽を漏らす。
    (「主よ、憐れみたまえ」)
     リズリット・モルゲンシュタイン(シスター・ザ・リッパー・d00401)が、祈りを捧げた。
     人は人として生きるべきだ。たとえ老紳士と少女が幸せだったとしても、こんなのは間違っている。
     そう思いながらも、リズリットは祈る。
    (「主よ、彼らに永遠の安息を与え、絶えざる光で照らしてください」)
     黒猫が、少女に身をすり寄せる。
     少女は顔を上げると、黒猫を抱き上げた。
     涙に濡れた頬をぬぐうように、黒猫が頬をすりあわせる。
     少女は黒猫を、きつく抱きしめた。
     老紳士の冷たい肌から逃げるように、黒猫の温もりを抱きしめた。
     きつく、きつく。
    「にっ……!」
     黒猫が、苦しげにあえいだ。
     それでも少女は、力を込めていく。
    (「殺すつもり?!」)
     とっさに、少女の腕をつかむリズリット。少女が、リズリットを睨んだ。
     リズリットは、しゃがみ込んで少女と目線の高さを揃えると、苦しげな黒猫に目をやり、首を振った。
     少女の瞳に、怒りが宿る。
    「がうぅっ!」
     リズリットの腕に、少女が噛みついた。
     痛みに顔を歪めるリズリット。
    (「痛みなくして人は理解し合えない――」)
     リズリットは、少女の気が済むまで、好きにさせるつもりだった。
     だが、今の少女は、心を闇に囚われている。他者の痛みなど、気にも留めない。
     少女の牙がリズリットの皮膚を貫き、骨まで噛み砕こうとした、その時。
    「ぎゃふっ!」
     少女の頭に、アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)のバベルブレイカーが炸裂した。杭ではなく、自分の体よりも大きな本体部分を、直接叩きつけた。
     黒猫を放して、バッと飛び退く少女。噴水の縁にしゃがみ、頭を抱える。
    「あぐあぐ、んーんっ!」
     アルカンシェルは、噛みつく真似をした後、首をブンブン振って、怖い顔をして見せた。
    「ふっぎーぃっ!」
     四つ足になった少女が、猫のように背中を立て、髪の毛を逆立てる。
     戦闘態勢だ。
     黒猫が、少女を真正面から見据えた。
     その足下から、真っ黒な木の葉が舞い上がり、黒猫をらせん状に包み込む。
     渦の中から現れたのは、キャットスーツ姿の御風・七海(夜啼き翡翠・d17870)だ。
    (「……うん、その激情、しっかり吐き出そうね」)
     七海が構える。同時に、少女が消えた。
    「あっ」
     七海は右脇腹を抱えて、膝を突いた。キャットスーツに、血がにじんでいる。
     振り返れば、遙か後方で、少女が血に濡れた爪に舌を這わせていた。挑発的な眼差しを灼滅者達に向けて、ニヤリと笑う。
    「話の通り、随分と素早いわね」
     月子が艶然と微笑みながら、両手を広げた。灼滅者達が、少女を取り囲むように展開する。
    「溺れる夜を始めましょう?」
     月子は右手を差し出すと、少女を手招きした。
     しかし、すでに少女の姿は無い。
     ハッとして下を見る月子。その懐で、少女が爪を振りかぶっている。
     ザン、と肉を斬る音。
     斬られたのは、割って入った鈴音だ。
     ――チリン。
     風鈴が揺れる。
     少女はビクッと体を震わせると、あっという間に噴水のてっぺんに飛び乗った。
     月子が鋼矢に目をやった。
    「少しあの子の足を止めてくれる?」
    「美女に言われて断るのは男が廃るってもんだ。任せな!」
     月子のウィンクを受けて、噴水の中に入る鋼矢。
     少女は、ザブザブと水の中を駆けてくる鋼矢を充分に引きつけると、パッと消えた。
     が、しかし。
    「にゃっ?!」
     噴水の縁に片足を着いた少女が、バランスを崩して両腕をぐるぐると回した。その足下には、鋼矢から伸びる黒い影が巻き付いている。
    「行き先は、そこしかねえからなあ!」
     噴水は灼滅者達に囲まれていた。その中で最も手薄な場所に、鋼矢は罠を張っていたのだ。
    「さすがね、鋼矢君」
     月子の異形化した右腕が、間髪入れずに少女をブッ飛ばした。
     一直線に吹っ飛び、生い茂る草木の中に姿を消す少女。灼滅者達が駆けつけた時には、すでに椰子の木に上っていた。
    「まてまてまてーっ」
     もの凄い速さで、アルカンシェルが木を上っていく。
     すごく怖い!
     慌てた少女が跳ぶ姿勢をとった瞬間、アルカンシェルが椰子の木を思いっきり揺すった。
    「んにっ?!」
     少女の足は空を蹴り、バンザイした格好のまま、真下に落ちていく。
     着地点で待ち構えているのは、氷香とリズリットだ。
    「……ダークネスだけを削ります」
    「未練ごとぶった切ってやるわ」
     二人の剣が閃く。
    「にゃっ!」
     少女の爪が、リズリットの日本刀を弾いた。が、非物質化したクルセイドソードは綺麗な弧を描き、少女の体をすり抜けた。
    「ぎゃうぅっ!」
     胸を押さえて地に転がる少女。
     そこに、バベルブレイカーの杭がブッ刺さった。アルカンシェルの追い打ちだ。
     しかし、杭が貫いたのは、少女の青髪二~三本のみ。
     地を転がって杭を避けた少女が、怒りに震えながら、二本足で立ち上がった。
    「ぅぅぅぅぅ~……」
     この時、アルカンシェルはチャンスだと思った。
     おもむろに噴水の方を指さし、凍えるように自分の肩を抱いて悲しげな顔をした後、土を指さし、そこでホンワカ安らかに眠るそぶりをして見せた。これは、「冷たくなって、寒そうじゃろう? ならば、暖めてやらんとかわいそうじゃ。その老人を大切に思うなら、土の下に眠らせてやるべきじゃろ!」という意味の身振り手振りである。
    「ウウウウ~!」
     少女のうなり声はさらに大きくなった。ぜんぜん通じてない!
    「ニャァアアアアアアアアアッ!」
     少女が、月に向かって鳴いた。
    「アアアアアアアアアアアアッ!」
     その大音声が、天井のガラスを振るわせる。
     夜深は、制約の弾丸を撃つ構えを解いて、耳をふさいだ。他の灼滅者達も、同様に耳をふさぐ。
     アルカンシェルは、とっさにサウンドシャッターを確認した。
     ――大丈夫。展開済みだ。
     ピシッ。ピシピシッ。
     異変を感じ、夜深は天井を見上げた。
     天井が真っ白だ。ガラスに細かいヒビが無数に走っていた。
    「アアアアアッ!!!」
     少女の怒りが頂点に達した、その時。
     爆発するような音と共に、天井のガラスが一斉に砕け散った。

    ●喜
     ガラスの雨が、ジャングルじみた室内に降り注ぐ。
     リズリットは、とっさに、老紳士の遺体にマントをかけた。
     天を仰いだまま、両手を広げてガラスを浴びる少女。
     いったい、何を感じているのか。
     今はただ、呆然と、空を見上げている。
     美しい夜空だった。
     ガラス越しではない、本物の、澄んだ夜空だ。
     抜け落ちた天井から、冬の寒さが、どっと流れ込む。
     急に、少女が自分の肩を抱いて震えた。
     そして、何かに気付いたかのように、アルカンシェルを見た。
     アルカンシェルを見つめながら、自分の肩を抱いて震えてみせる。
     アルカンシェルも、同じように震えてみせる。
     少女の顔に、笑みが浮かんだ。
     さっきの身振りの一部が、ようやく伝わったのだ。
     ――チリン。
     天井から、風鈴の音がした。
     格子状の梁の上に、鈴音が立っている。
     少女を見下ろし、ここへ来いと手招きした。
     少女は弾けたように木に飛び移ると、あっという間に天井に上り、鈴音の横に並んだ。
     そこから見えるのは、どこまでも果てしなく続く空。
     温室の中からは決して見ることのできなかった、素敵な世界。
    (「この広い世界には未だ知らない物が、出来事が、沢山待っているのだよ」)
     鈴音が、少女に微笑みかける。
     少女も、目を輝かせて、ニッコリと笑った。
     少女の青髪が、風になびいてふわりと舞い上がる。
    「……あっ」
     天井に上ってきた氷香が、慌てて少女を毛布で包んだ。
     同じく上がってきた七海が、鈴音を睨む。
     一瞬、鈴音は首をかしげたが、すぐに視線の意味に気付き、少女から目をそらした。
     七海はスレイヤーカードから着物を取り出すと、少女に着せようとした。
    「うー、うーっ!」
     着物を嫌がる少女。寒い方がまだマシだと言わんばかりである。
     その両頬を、七海がぴしゃりと叩いた。
    (「じっとしてなさい」)
     その瞬間、少女の猫耳と尻尾が、ぽんっと消えた。
     元の人間に、戻ったのだ!
    「うーっ……」
     少女は不満げにうめいたが、七海の気持ちが伝わったのか、されるがままに、着物を着せられた。
     下に降りると、夜深が少女に飛びついた。
     少女に抱きとめられながら、夜深が優しく青い髪を撫でる。
    「御帰り、ナさイ。良かタ……」
     少女も同じように、夜深の頭を優しく撫でた。
    「おかえり、なさい、よかた」
     少女が言った。
    「エ? お話、可能?」
     驚く夜深に、少女も驚いた風に言う。
    「え? おはなし、かのう?」
     どうやら、発音を真似ているだけのようだ。とはいえ、とにかく耳はいいので、言葉の習得は意外と早いかもしれない。
     少女が、ガラスに埋もれた遺体の前に立った。
     リズリットが、静かにマントをとる。ガラスが滑り落ち、老紳士が現れた。
     少女は膝をつくと、老紳士の胸に、頬をつけた。
     最後のお別れだ。
     夜深も、少女の傍らで手を合わせた。
    (「優シ、人。どウか、良、夢を……」)
     少女が起き上がると、リズリットは老紳士の胸に花を添えた。

     事後処理を済ませた頃には、すでに夜が白み始めていた。
     敷地から出る灼滅者達を、赤い太陽が出迎える。
     その先にあるのは、無限の可能性を秘めた未来。
     温室育ちの少女が今、新たな一歩を踏み出した。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 9/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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