呼ばれしは氷雪の怪

    作者:泰月

    ●銀の尾を持つもの
     降り続いた雪が積もって、すっかり白くなった田園地帯。
     人の寄らない冷たい銀世界の中に、其れはいた。
     ニホンオオカミに良く似ているが、その白い身体は、所々炎の様に揺らめいていた。淡く輝く銀色の尾も同様だ。
     白き獣は何かを探すかのように、しばらく田畑の上をうろついていたが、突如、山から強い風が音を立てて吹いてきた。
     積もった雪が散らされ、風に巻き上げられて辺りが白く覆われる。
     十数秒後。
     風が止むと、そこには着物姿の女性だけが静かに佇んでいた。白き獣の姿はどこにもない。
     女性の両足には鎖が絡まっており、鎖の先は雪の中に続いていた。

    ●雪の怪
    「改めまして、天野川・カノンです。これからよろしくお願いします」
     集まった灼滅者達を見回し、仁左衛門の上の天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)はぺこりと頭を下げた。
     そして、小さく息をついて。
    「でねでね。早速だけど、スサノオの動きが掴めたんだよ」
     あっさりとくつろいだ口調に切り替えて、カノンは言葉を続けた。
    「正確には、スサノオが『古の畏れ』を呼び出したのが判った、だけどね」
     カノンによると、此度のスサノオは新宿に現れたそれよりも遥かに小さい固体であると言う。
     とはいえ、古の畏れを呼び出すと言う点は変わりないようだ。
    「スサノオが現れたのは北陸地方の小さな集落の近く」
     古の畏れは、集落の外れに広がる田園地帯に呼び出されている。
    「今の所、まだ誰も襲われてないよ。たまに短い吹雪を起こしてるくらいで」
    「吹雪?」
    「うん。呼び出されたのは、能力から考えて雪女だね」
     ネット検索しながら、カノンは説明を続ける。
    「吹雪の日に現れて人を凍死させる。或いは人の精気を奪う。そう言う雪女の伝承があるみたいだよ」
     人に害をなす類の雪女の伝承。
     それが元になって呼び出された古の畏れのようだ、と。
    「吹雪を起こしたり、氷柱を撃ってきたり。あとこっちの体力を奪って来たり」
     それらの攻撃は全て遠距離であり、範囲が広いものもある。
    「あと、回復と妨害能力の強化を兼ねた能力もあるよ」
     どうも中々厄介な相手のようだ。
    「雪女を呼び出したスサノオは、もう何処かに行っちゃったみたい。どうも、見えにくいというか予知が上手く出来なくて。でも、こうして古の畏れを呼び出すのを1つずつ追っていけば、必ずスサノオに辿り着けると思う」
     急がば回れ、の言葉もある。
     掴めた事件を解決する事で、いずれ何かを掴めるかもしれない。
    「だから、まずは今回の古の畏れの灼滅、よろしくお願いします」
     そう言って、カノンは再びぺこりと頭を下げるのだった。


    参加者
    向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)
    東風庵・夕香(黄昏トラグージ・d03092)
    式守・太郎(ニュートラル・d04726)
    犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)
    雪乃城・菖蒲(抜け落ちた蒼白・d11444)
    柊・司(灰青の月・d12782)
    法螺・筑音(出来損ないの大極・d15078)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)

    ■リプレイ


    「わぁ! すごいです、雪がこんなに」
     もこもこした暖かそうな白いコートを着込んだカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)が、目を輝かせ雪の中へと駆け出す。
     辺り一面の雪景色に興奮を隠し切れないようだ。
    「すごいねー。後でちょっと遊びたいな! 雪だるまとか作りたい!」
     こちらも白いもふもふな上着を着込んだ犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)が後に続く形で駆ける。
     犬のような耳と尻尾のデバイスを楽しげにパタパタ動かし雪の上を走るその様子は、どこか仔犬を連想させる。
    「はしゃぎたくなる気持ちは判りますよ。僕も、こんなに雪が積もってるのは初めてですからね」
     前を走る2人を眺める柊・司(灰青の月・d12782)も声も、心なしか少し弾んでいた。
     わざと雪の深い所にずっぽずっぽと足跡をつけて回る様子から見ても、彼も彼で楽しんでいるのだろう。
    「山間部はきっと、もっと積もってますよ~。今日は気温もそこそこあるので、皆さん良かったですね~」
     個人的事情で何度か北陸に足を運んだ経験がものを言うのか、雪乃城・菖蒲(抜け落ちた蒼白・d11444)も着込んではいるが、慣れた様子で生来の気楽さを失わずにけろり。
     実際の所、雪が溶けない程度には低い気温なのだが、彼女にとっては『そこそこある』程度らしい。
    「うん、雪山はヤバイのよね。眠っちゃダメってゆーアレよね」
     着込んでもこもこふわふわな向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)がこくこくと頷く。
     さて、なんだか和やかな空気だが、灼滅者達はここに雪遊びをしに来た訳ではない。
    「田んぼに出ましたが、いませんね雪女。もっと先でしょうか」
     こちらも厚手のコートを着込んだ式守・太郎(ニュートラル・d04726)が未だ雪の降り続く周囲を見回し呟く。
     各地に出没するようになった小さなスサノオ。
     その一体の置き土産である、古の畏れ――雪女。その灼滅こそが今回の旅の目的だ。
    「スサノオがわざわざ各地の伝承に力を与え、蘇らせるのにはどんな意味があるんでしょうか……」
    「さてな。都市伝説と似てると聞いたし、差し詰め、過去の都市伝説って所か」
     スサノオの行動の意図が掴めず、小さく首を捻る東風庵・夕香(黄昏トラグージ・d03092)。
     その後ろを歩く法螺・筑音(出来損ないの大極・d15078)は、目先の脅威を警戒し油断なく周囲に視線を巡らす。
     とは言えこの周囲には、敵の姿も気配も感じられない。
     真っ直ぐに続く平穏な雪道を進む事、十数分。
    「関東の人間に、この寒さはきついですね……」
     マフラーでぐるりと覆った首元をややすぼませる太郎。
     服の中にカイロを忍ばせてあるのだが、それでも隙間から入ってくる空気の冷たさと来たら。
    「和歌山の人間にも、きついです。早く帰りたい」
     楽しげに足跡を残していた司だが、北陸の寒さに早くも心が折れかかっている。
    「俺ぁ寒さに慣れてるが……こう吹雪くのは流石につれぇぜ……」
     警戒は解かぬまま、筑音も頬に当たる雪の冷たさに顔をしかめる。
    「この景色が余計寒く感じさせるんだよね」
     どこまでも続く雪景色を眺めつつ、ポケットに忍ばせたカイロのありがたみをしみじみと感じるアロア。
    「ホットココアで良ければ、用意してきましたよ」
     保温の効くボトルを掲げて微笑む夕香。
     寒い時には、体の内から温めるのも良いものだ。
     一方で、あまり寒さが堪えてなさそうな猛者達もいた。
    「菖蒲さんは、寒くなさそうですね?」
    「まあ、このくらいなら~。氷点下いかないなら全然大丈夫ですし~♪ カリルちゃんも、平気そうですね~」
    「ええ。ヒーローは寒いのなんてへっちゃらなのですよ!」
     相変わらずけろりとしている菖蒲に、元気いっぱいに答えるカリル。
    (「私、寒いのちょー苦手なんだけど」)
     目の前でご当地ヒーロー同士のやり取りに、思わず胸中で呟くアロア。
    「白いわんこの雪女、果たして銀髪なのか黒髪なのか楽しみなのさ!」
     蕨も寒さを気にした様子はなく、先頭をずんずんと進んでいる。
     寒がりつつ、楽しみつつ。
     十人十色で進んでいると、次第に降る雪の勢いが強くなってきた。


    「わぉ、出た! 雪女だ!」
     真っ白な田んぼの一角に佇む和服姿の女性に気づいて、アロアが声を上げる。
    「雪女、銀髪なの」
     蕨もその姿を認め、耳と尻尾がぴんっと立った。
     その足元に鎖が絡まっているのを確認すると、灼滅者達は素早く動いた。
    「おでましか……とっとと片付けて暖を取りてぇもんだな」
     左腕に巨大な杭打ち機を装着した筑音を初めとして、次々に次々に封印を解除しそれぞれの得物を握る。
     アロアの傍らにはナノナノが、カリルの少し後ろに刃を咥えたドーベルマンに似た霊犬が、それぞれ姿を現す。
    「こちらから見えている以上、向こうの視界にも入ったと考えるべきで――来ますっ!」
     慎重に間合いを詰めていた太郎が、自分の言葉を遮って警告を上げたその直後、雪と冷気が吹き荒れた。
    「翼よ。皆を守って下さい」
     急速に気温が低下していく中、太郎は焦らずその手に意識を集中させる。
     前に出た4人の体が氷に包まれるよりも一瞬早く、太郎の手から翼の様に広がった障壁が仲間達の盾になり冷気を和らげる。
    「ヴァレン!」
     さらにカリルがそこに重ねるようにして、手の甲から障壁を広く展開する。
     同時に名前を呼ばれた霊犬は、一声吠えて応えると魂を癒す視線を司の背中に送った。
    「いきなりですねぇ。さて、貴女はお話出来るんでしょうか……それとも、伝承でしか無い人形なんでしょうか?」
    「宣戦布告だ、受け取れよッ」
     菖蒲の纏うオーラの輝きが彼女の周囲の雪を紫に染め上げ、筑音が顔を覆うように翳した右手越しに殺気の篭った刺す様な視線を向ける。
     殺意が2人の力を高め、放出されたどす黒い殺気が雪女を覆い付くし、喰らっていく。
    「むむたん、しゃぼん玉!」
     2人の殺気が収まるよりも早く、アロアの指がギターの弦を弾いた。
     激しい音色が揺らす空気で雪が散り、雪女の体が揺れる。音に乗るように漂ったしゃぼん玉が後に続いた。
    「雪女……ですか」
    (「寒そう、ですね」)
     雪女を捉えていた司の視線がほんの数秒、手の中にある朱塗りの槍に落とされる。
     去来した言いようのない想いを押さえ込み、司の手の中で鱗模様が回った。
     咽び泣くような音は、槍が風を斬る音か。螺旋の捻りを加えた槍の一撃が繰り出されれば、更に激しい音が続いた。
    「貴女に人を襲わせる訳にはいかないんです……もう一度静かに眠って下さい」
     静かに雪の上を駆け抜けた夕香が、バベルブレイカーを装着した腕を振り被り、叩きつける。
     高速回転する杭が、穿ち、ねじ切る勢いを持って打ち出される。
     しかし、杭が貫く寸前、ひらりと雪女の和服の裾が翻った。
     動作としては小さい動きだったが、結果、思ったほどの手応えが得られず夕香の表情は僅かに曇る。
    「もしかして、そちらも『いまいち』でしたか?」
     その様子に気づいた司の言葉に含まれた意味に気づいて、首肯する夕香。
     2人の視線の先で、雪女はただ静かに灼滅者達の前に佇み続けている。
     ならばその足を止めようと、わざと派手に雪を掻き分けて蕨が駆ける。
    「オオカミは獲物を逃がさないの」
     死角がないならば自らの動きで作る。
     雪に紛れ振るった白銀の杖は雪女の足を違わず捉え、その足に絡みついた鎖が衝撃で僅かに揺れた。


     カシャン。
     氷と氷がぶつかって、空中で甲高い音を立てて砕け散る。
     雪女の指先から放たれた氷柱の一撃を相殺し阻んだのは、菖蒲の槍から放たれた妖気の氷柱。
    「冷気対決でもしましょうか……負けませんよ?」
     その身に纏う毒々しい紫の輝きも手伝ってか、気楽な笑みの中に何処か妖しさを漂わせ、菖蒲が雪女を見据える。
    「その動き……止めさせて貰うぜ!」
     間合いを詰めた筑音がの左腕から、激しい音が響く。
     ドリルの様に回転するバベルブレイカーの杭は、まともに当たれば敵の身体をねじ切りその動きを止める一撃であったが、対して雪女はまたもひらりと小さく動いた。
    「ちっ……ちょこまか動きやがって」
     千切れた和服が落ちると同時に消えゆくが、感じた手応えは浅く、筑音が舌を打つ。
     だが、灼滅者達の間に、確信に近い考えが浮かんでいた。
     これまで雪女が直撃を避けた攻撃は、どれも闘志を全面に出す気魄に頼った類のもの。
     それが2度3度と続けば、偶然で片付けられるものではない。
    「なら……これで、確かめます」
     太郎が言った直後、白の上に黒が広がる。
     足元から伸びた影は五指を揃えた手の形を取ると、猛然と雪女へ迫る。影の手刀が雪女を斬りつける。
    「ご近所さんに迷惑をかけるわるいひとには、おひきとりいただくのですよー!」
     その後を追って、カリルが間合いを詰めた。
     影の手刀が切り裂き、オーラを纏った色黒の拳が連続で叩き込まれる。
    「こちらはどうでしょう」
     朱塗りから夕焼け色に持ち替えた司が、杖を突きこむ。
     黄昏に輝く杖による静かな一撃は雪女を捉え――直後、内側で魔力の弾けた衝撃に雪女の体が大きく揺らいだ。
    「間違いなさそうですね」
     小さな笑みを浮かべた太郎の言葉に、何人かが頷いた。避けられ易いサイキックがあると判ったなら、戦い方を少し変えれば良いだけの事だ。
    「白いわんこが呼び出したのになんか、負けないの!」
     スサノオに対して抱く対抗心のような感情を隠そうとせず、ジェット噴射の勢いに乗って飛び込んだ蕨の一撃は、雪女のバベルの鎖の薄い一点を貫いた。
     敵の能力を探りながら戦う一方で、別の試みも実行に移される。
    「この地で眠りについていた貴女を、強引に目覚めさせたのは白い狼に似たスサノオです」
     同様に魔力を込めた杖の先端を雪女に触れさせながら、夕香が雪女に語りかける。
    「彼の目的は、何かご存知ですか?」
     雪女の意志と、スサノオの目的を探る問いかけ。
     しかし対する雪女の答えはなく、代わりに紅く輝く雪が吹き荒れた。
    「なんて冷たさ……でも、まだ倒れるわけには……っ!」
     紅い雪に包まれ体力を奪われ、雪の上に膝を付く夕香の背中に届く光。
    「冷たそうね。大丈夫?」
     アロアの縛霊手から放たれた浄化の光とナノナノのハートが熱の奪われた体を癒していく。
    「意志と言うか……人格と呼べる程のものではなさそうですねぇ」
     溜息混じりに呟く菖蒲の足元で、影がざわりと広がる。
    「逃がしたりして他の場所で暴れられると厄介ですし……話も聞けそうにない。早々に退場願いますか」
     菖蒲の足元から伸びた影の刃が、雪女を切り裂く。
     雪の上に落ちた銀の髪は、瞬きする間に消えていた。


     雪女との戦いの時が過ぎる程に、一体の空気から熱が奪われていく。
     全員の吐く息は白くなり、辺りに積もった雪は凍り、ジャリジャリと硬い足音が響く。
    「ちょっと冷たすぎるんだけど! 風邪引いたらどーしてくれるワケ?」
     雪女に対して愚痴交じりに言いながら、アロアは激しくギターをかき鳴らす。
     雪を乗せた冷たい風に負けじと音が響けば、リズムを合わせてハートが舞う。
     吹き荒れる雪が雪女の姿を覆い隠し、放たれる冷気はじわじわと灼滅者達の体力を奪っていたが、アロア達が回復に専念しているおかげもあり、戦いの熱は灼滅者達の中で確かに高まっていた。
    「オオカミはこのくらいじゃ凍らないんだよ」
     冷たい輝きを放つ白銀の杖を構える蕨の青い瞳は、これまでよりも何処か楽しげに輝いていた。
     その視線に何かを感じたか、ふわりと浮きあがる雪女。
    「動き止めさせて貰うって……言っただろうがよォッ!」
     しかし、身を翻すよりも早く、筑音が足元から伸びた影の鎖を絡みつかせて引きずり降ろす。
    「意志なき者に負けるわけにはいきません」
     硬くなった雪を踏みしめ、白いマフラーの裾を翻して太郎が駆ける。
     駆け抜けざまに直刃の刀を抜き放つ。数度閃いた反りのない刃が、影の鎖を縫いこむように雪女を切り裂いていく。
    「白いオオカミは私だけで十分なのさ!」
     僅かに動きの止まった雪女に、蕨の杖が叩き込まれる。葬る意志を込めた魔力が、雪女の内側で暴れる。
     傷つき疲れたように俯く雪女の細腕が、風を撫でる様に振るわれる。
     その動きで幾つも生み出された、冷たくも美しく鋭い結晶が作られた。
    「後ろには通さないのですよ!」
     飛来するその軌道を読んだカリルが、迷わずその前に飛び込んだ。
     氷晶に深く身を裂かれ体から力が抜ける。膝が崩れ、雪の上に手を付く。
     倒れる寸前。それでも、雪女を見据えるカリルの青い瞳の中に、恐れの色は全くない。背後にヴァレンの癒しの視線を感じていたから。
     そして、カリルの後ろから、司と夕香が左右に分かれて飛び出す。
    「もう、終わりにしましょう」
    「これ以上、進ませはしませんっ」
     鬼の様に巨大な拳と、回転する巨大な杭が同時に打ち込まれる。
     余波で雪が陥没する程の凄まじい衝撃に、ついに雪女が崩れ落ちる。
    「……いえ、まだですっ」
     地に伏せたままの雪女の腕が僅かに上がり、その指先に冷気が集まるのを見て、夕香が息を呑む。
     そんなになってまで、まだ人を凍らせようとするのか。
    「冷気対決は私達の勝ち、ですね~」
     だが、その背中に菖蒲が槍の穂先を突きつける。
     ゼロ距離から放たれた氷柱に貫かれ、断末魔の声もなく、雪が溶けるように雪女の姿は消えていった。
     
    「……掴めませんでしたか」
     雪女が消える寸前、司の伸ばした手は雪を掴んだだけに終わった。
     小さくかぶりを振ってから、膝に付いた雪を払って立ち上がる。
    「結局、スサノオの尻尾は掴めず……か」
    「残念です。まっしろのもふもふ、触りたかったのですよー」
     筑音とカリルが周囲を見回すも、スサノオがいる様子はない。
    「何も残ってないようですね……」
    「むぅ。白いわんこめ」
     聞いていた通りとは言え、夕香と蕨が少し残念そうに呟く。
     雪女のいた場所を探っても、そこはもう、ただ雪が積もっているだけだ。
     大勢の足跡や戦いの跡も、時が経てば消えてなくなるだろう。
    「スサノオの性質は、興味深いですねぇ」
     痕跡がないのなら、北陸にある山の信仰や伝承を調べておこうかと考えながら、菖蒲が呟く。
    「手がかり見つからないしさ、早く暖かい所へ移動しよっ。もう凍死しちゃうし!」
     スサノオの痕跡探しを諦め、アロアが田んぼの外に出る。
    「ん、寒い……。ラーメンでも食べて帰りたいです」
    「ラーメン!」
     続いて田んぼを出た司の呟きに、蕨の尻尾がぴんっと反応した。
    「うぅ~……流石に身体が冷えてきたな」
     肩についた雪を払いながら筑音も田んぼの外へ。
    「古の畏れに働き続ける事で、何が起こるんでしょうか」
     最後尾についた太郎が、田んぼを振り返り呟く。
     今はまだ答える者なきその問いは、風に流れて雪の中へと消えていった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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