寝正月、しませんか

    作者:海乃もずく

     お正月ぐらいはのんびり過ごしたい。
     そう考える灼滅者だっているだろう。
    「いるいる、いるよ、きっと!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は力強く両のこぶしを握る。
     ……あなたがのんびりしたいんですね、まりんさん。

    「というわけで、お正月に、学園内でのんびりできる場所を用意したよ」
     えっへん、とまりんは胸を張る。
     もちろん、家や部室でのんびりする人もいるだろうが、あえてみんなで集まって、学校でのんびりするのも悪くない。
    「こたつやホットカーペット完備、空調ばっちりのぬくぬく部屋! ここでごろごろしよう」
     こたつでぬくぬく。
     ホットカーペットでごろごろ。
     もふもふしたものを抱いて、好きなだけ転がろう。
     手近なところに、美味しいものを並べて。
     正月番組をだらっと見たり。
     お正月くらい、のんびりだらっとしたっていいんじゃないか――。

    「友達と一緒でも、1人でまーったり過ごすのもいいし。寝正月を楽しむ者同士、だらっとおしゃべりするのも、いいかもね」
     


    ■リプレイ

    ●こたつとみかん
     お正月といえば、寝正月。
     温かい場所と、楽しい相手と、美味しいもの。
     今日くらいはゆっくりとして、日頃の疲れを癒やしましょう――。

    「いやぁ、平和だねぇ」
     里月はこたつで、ぬくぬくまったり。
    「やー……。やっぱり炬燵って暖かいですねぇ……」
     一緒の氷雨も、ぬくぬくまったり。
     氷雨の腕には里月からもらった腕時計。時々触りながら、話題は去年までの思い出話や、今年の天体観察のこと。小ぶりの天球儀と星座早見表を回し、星座の神話本を一緒に見る。
    「今年は、各季節で星が観たいと思うのですよ」
     氷雨の話を聞きながら、手に取るのは本日何個目かのみかん。
     時間無制限、個数関係なしのみかん皮むき対決。
     里月は大雑把に剥くけど、皮はなるべくひとつで剥きたい派。氷雨は皮が途中でちぎれないように、注意しながら急がず剥く派。
     みかんの皮で、犬や猫の顔、こたつとざぶとんのミニチュアをつくったり。剥いたみかんはもちろん、本人がおいしく食べます。
     今年もよろしく、と言葉を交わせば、楽しい時間はゆるやかに過ぎていく。

     こたつの一角には、莉都とグロード。去年は出かけたけど、今年はゆっくりのんびり。こういう過ごし方もいい。
    「おせちも美味いが、やっぱみかん!」
     莉都が剥いたみかんを食べて、年賀状を見て、正月番組を眺めて。
    「よっし、2014年も頑張れればー……いや、頑張る。頑張りますッ!」
     唐突に宣言される、今年の抱負。
    「何を頑張るのか知らないけど、言ったからには頑張りなよ?」
     小さく笑ってグロードに応え、莉都は「僕は……もうちょっと、素直に、なる……」とつけ加える。
    (「少しずつ、人間らしく、忘れていたいろんな感情をグロードと一緒に取り戻したい」)
    「今年も一年よろしく頼むぜ、莉都!」
     グロードの言葉に、うん、と莉都も頷く。
     今年も宜しくね、――相棒。

    「……のんびりできて幸せ」
    「たまにはのんびりするのもいいよね……」
     司は突っ伏して、麒麟は座椅子に背中を預けて、こたつの温かさを満喫中。
     みかんをくわえてぼんやりしている麒麟。座椅子の背もたれから、体がずるずると沈む。
     ……あ。
    「(……きりんの足、司くんの足に当たっちゃった?)」
    「(……足が、きりんさんの足に当たったみたい)」
     悪戯心を起こした司は、つま先で麒麟の足をつんつん。
     麒麟も司の足をつんつん反撃。
    「(リョウドフンソウは、一歩もひけないんだから)」
     お互い、こたつの外ではそしらぬ顔で。
     しばらくこたつの中でやり合っていたけれど……息切れする頃には、停戦協定。
    「……テイセンキョウテイは、みかんでいい?」
    「オッケー。じゃあ半分こだね」
     2人で半分こにしたみかんは、さっき食べたどのみかんより、甘くて美味しい気がするね。

    ●こたつでわいわい
     『一年の計は元旦にあり』。……これは、物事は最初が肝心であるということわざ。
    (「なので、2014年も穏やかにお菓子を食べられるようにと、ミオは寝正月をするのです」)
     半纏姿のミオと目が合ったのは、電気コンロでぷっくりとしたお餅を焼く優歌。にっこり微笑んで手招いてくれる。
     いそいそと優歌のこたつに入って、ミオはぺこりとごあいさつ。
    「こんにちは。とっても香ばしい匂いがしたのです!」
    「はい、今がちょうどいい焼き加減ですよ」
     どうぞ、と優歌から手渡されるのは、海苔としょう油のお餅。ミオが持参したおせちにおやつ、おもちにお茶もこたつに並べて。
     通りかかった恭子が、こたつ上のラインナップに目を止める。
    「お、ええな、こうゆうの。いかにも正月らしくて」
    「えへへ〜♪ 好物の無限ループで、幸せなのです!」
     恭子も加わって、お餅と砂糖醤油が追加投入。
    「あむ……幸せやなぁ」
     恭子の表情はすっかりとろけている。
     こたつでぬくぬく、お餅とおやつ。甘味に飽きたら、うめ昆布茶。数の子と緑茶でさっぱりしたら、いざまたおやつへ、れっつごー。
     正月ならではの幸せを、みんなでゆっくりかみしめて。

     【正義の味方部】の集まるこたつには、お茶とお菓子に、みかん、それにアイスクリームがどっさり。
    「正義の味方にお休みはないけど、たまにはこうやって英気を養うのも大事だよね」
     謳歌は愛用のどてらで、万全のくつろぎ体勢。
    「お正月の1日ぐらいは、こんな過ごし方も良いですね」
     太郎は家着の作務衣と白マフラー姿。とぽぽとお茶を淹れて、織子へ。
     茶を受け取った織子は満足そう。
    「炬燵にみかん! 至福! だが、炬燵にアイスもいいものだよな」
    「こたつでアイス、日本人の偉大な発明よね……」
     エリザベスも、猫も斯くやという勢いでこたつを満喫中。
     鑑賞するのは、謳歌持参の時代劇映画。
     丸めた新聞紙で殺陣を実演しつつ、俳優さんの良さを力説する謳歌。見よう見真似で殺陣に挑戦する織子。
    「剣術家の爺さんが好きなので、俺も結構見ましたね」
    「……今度私も使ってみようかしら、日本刀とか手裏剣とか」
     太郎とエリザベスも、興味深く見入っている。
     時代劇の次は、エリザベス持参のアメコミ物。エリザベスの解説を聞きながら、アクションに感嘆したり、つい質問攻めにしてしまったり。
     炬燵で温もりを感じながら食べ、映画を見、ついうとうとしてしまったら寝ても良い、そんなぜいたくな時間。
    「……ちょっと眠たくなってきちゃった……」
     謳歌がそう言った時には、エリザベスもうとうと、織子も本格的な寝正月の体勢に。
     太郎がかけてくれた毛布にくるまって……みんなでしばし、言葉通りの寝正月。

    「おぉ……これぞお正月!という物が一式揃っているのだな……!」
     九鬼はお正月の経験がほとんどない。わくわくとこたつに突き刺さってみたり、おせちをつまんでみたり。ふと、ゲームらしき箱が目に止まる。
    「ルールを知りたいならば、今なら色々と教えて差し上げますよ……」
    「ひゃっ!?」
     振り向けば、ホットカーペットの隅で丸まっていた猫が、片目で九鬼を見ている。
     流希は猫のまま歩み寄り、テーブルゲームの箱に肉球つきの前足を乗せる。
    「テーブルゲーム研究会部長の実力、とくとお見せいたしましょう……猫の姿でですが……」
    「おおぉ……!」
     わくわくとゲームの箱を開けたところで、正月番組を見ていた紫苑がやってくる。
    「……なぁ、俺も混ざっていいか?」
    (「年末に転入して以後ゴタゴタしてたからな……正月くらいはのんびりしたい」)
     幸い、身の回りのことも大晦日前には片付いたし。正月くらいは一休み。
    「いやはや、こうやってゲームを楽しく嗜みながら過すというのは楽しいことですねぇ……」
     猫の姿のまま、流希は柔和に呟いた。

     室内を見回す白乃が見つけたのは、知った顔。
    (「クラスメイトの人がいるねー!」)
     教室で見慣れている、特徴的な聖職服姿。
    「ねえねえ、あっそぼーよー!」
     呼び止められた深夜は、なめらかな動作で白乃をこたつへとエスコート。
    「美しい銀の髪ですね……刀剣のように鋭く、人を惹き付けて離さない」
     女の子に大人気の甘いケーキを出しつつ囁く、深夜の言葉もどこまでも甘い。
    「……失礼、貴女の輝きに魅せられた私をお許しください」
     白乃の目が、オモチャを見つけた子供のようにきらりと光る。
    「ボク『達』が口説かれる? ……へぇ、上等じゃねーか」
     次の瞬間には口調が変わって、
    「オレ『達』を口説けるモンなら口説いてみろよ」
     深夜の口角が、わずかに吊り上がる。
     今日はまだまだ、時間はたっぷり。深夜にネコミミをつけて遊ぶ時間も、白乃を口説く時間も十分ある。
     ――最後に笑うのは、果たして、誰?

    ●こたつでうとうと
    「炬燵とは、久しぶりに御座いますね」
     ぽかぽかの陽光がよく当たる場所で、九里と真魔はこたつ虫。
     こたつの上には、あおさ海苔のお吸い物、ストーブでよく焼いた餅。そして。
    「ほう、花札ですか。……あぁ、この札、綺麗に御座いますねぇ」
     真魔が九里の手元を覗き込めば、札の絵柄は九月の菊。
    (「きゅうりちゃンには橙や赤、黄のお陽様色が良く似合う」)
     互いに負けぬと笑み交わし、……いざ勝負。
     勝ちと負けとを繰り返すうち、徐々に瞼が重くなり……これは、太陽が一枚上手だった模様。
    「どうやら、御天道様の勝ちのようで御座います」
     敗北の笑みを一つ、九里はゆっくりと瞼を閉ざす。
    「やっぱり……おひさまの下での昼寝は格別だなー……」 
     真魔も一緒にこたつにもぐり、2人揃って眠りの淵へ。
     ……今年も、沢山の思い出を共に紡げますよう。

     雪音、透流、杏子の3人。こたつを囲んでぽつぽつと言葉を交わしていたけれど、今は3人とも、どこか眠たそう。
    (「のんびりとすごすのもおつなものですなぁ~」)
     ぼんやり思う雪音。今日は何もせずに過ごしたい。
    「ゆきにい、みかんむいて~?」
     自分で剥けとビハインドにあしらわれ、少し頬を膨らましつつ。自分で剥いたみかんをゆきにいに「はい、あーん」。
     みかんを片手にうとうとし始めた雪音に、杏子もつられてあくびを一つ。
     みかんの皮をわきに寄せ、こたつに頭をこてんと乗せる。隣のこたつからいただいた、アイスクリームもおいしかった。
    「お腹いっぱいになったら、眠くなってきちゃった……」
     目を閉じる杏子を、透流は何となく指でつついてみる。
    「う~……美味しそう……いただきます」
    「わあっ!?」
     指を囓られそうになって、慌てて引っこめたり。
    (「戦いを忘れて、たまにはこういうのもいいかな……」)
     こたつの温かさに誘われ、透流も眠くなってきた。
     小学生向けの少女漫画雑誌の上にま突っ伏して、眠気に誘われるまま目を閉じる。
    「くかー……すぴー……」
     新春の1日を、こんな風に過ごすのも、悪くない。

    「学校で、こんな場所を提供して貰えるとはなー」
    「こたつでごろごろーです!」
     清十郎と雪緒。2人の霊犬、八風と鯖味噌。みんな一緒にまったり寝正月。
    「……はー……こうして穏やかな時間がずっと続けば良いのに……です」
    「そだなー、いつまでも、ずーっとこうして……」
     寄り添って入るこたつは気持ちいい。穏やかな時間の中、甘いみかんを探したり、剥いたみかんを半分こしたり。
     雪緒はついと手を伸ばし、八風のしっぽをもふもふもふ。
    「八風、鯖味噌さん、いつも有難うなのですよー……」
     八風のしっぽをもふもふしながら、雪緒の視線はちらちらと鯖味噌のしっぽへ。
    「鯖味噌のしっぽもモフモフですぜー」
     そんな様子は、清十郎にはとうにお見通しだったようで。
    「わ、良いのです? で、ではそーっと…」
     ……のんびりごろごろ幸せな寝正月。2匹の霊犬もうっとりと気持よさそうに。

    ●ホットカーペットもぬくぬくです
     お茶とミカンとお菓子を持ち込んで、毛布にくるまって。三成と朱毘と風蘭は、3人でごろごろ。
    「……学校行きたくないなぁ」
     朱毘の口からは、いかにもダメ人間な発言がこぼれ出る。
    「元日は知り合いの神社廻りで忙しかったですからねぇ……。今日位はこういったのでも良いかと……」
     そう言う三成にふといたずらっ気を起きて、朱毘は三成に体をくっつける。
    「……ん? 朱毘さん、寒いのでしたら此方に一緒に入りますか?」
     顔を少し赤くしながらの、それでも予想外の恋人の反撃。
    「驚きました……言うようになりましたね」
     かろうじてそれだけいい返しながら、さてどうしようと考えあぐねていたら、するりと風蘭が割り込んできた。
    「……同衾など、まだ早いのでは?」
     じっとりと上目づかいの恋人の妹に、三成からはつい苦笑が漏れて。
    「あら、残念」
     当の朱毘はどこかほっとした口調で、風蘭の隣で横になる。
    「……確かに私も迂闊でしたが……」
     むしろ今の光景の方が。そう呟く三成の声。
     川の字でごろごろとする正月。布団のぬくみと、互いの温かさが心地いい。

     陽丞と昴はホットカーペットに横になってのんびり。霊犬のましろさんも一緒。
    「お前、みかんの剥き方へったくそだな……」
     昴の視線の先は、みかんの皮の汁が目に入ったと、ぱたりと突っ伏す陽丞。
    「あー……もういい、俺がやる」
     器用に剥いたみかんを、涙目の陽丞の口へ。
    「ん……この蜜柑、美味しいよ?」
     お礼とばかりに、不恰好なみかんは昴に押しつけて。ホットカーペットの上でましろを抱っこすれば、温かさと心地良さに、陽丞のまぶたは自然と下がってくる。
    「陽丞お前、ましろ……。ったく、後でちゃんと返せよ?」
     昴の声がかすかに聞こえたような気がするけれど……陽丞は間の抜けた返事をひとつ返すのが精一杯。
    「(俺にしては珍しく眠ることが怖くないのは、昴とましろさんのおかげかな……)」
     優しい眠りは、もうすぐそこに。

     ベリザリオは、弟の織久を誘って寝正月。
     織久の家のお正月は何かと忙しく、そうでなくてもこの学園で再会するまではお正月どころではなかった。
     今年は一緒に寝正月としゃれこもう、と誘ったわけだが……。
    「……やっぱり人前だと猫ですのね……」
     兄の溜息を聞き流し、猫になった織久は、そしらぬ顔で丸まっている。
    「別にやましい事してるわけじゃありませんのに……」
     そこまで言って急に笑顔になった兄に、織久は嫌な予感を覚える。
    「……猫なら、何をしてもいいと言う事ですわね?」
     あっという間にすくい上げられて、くまなくなでまわされ、しっぽやおなかをもふられて。
     抗議の声も、楽しそうな兄には届かない。
    「ふふふ……寝正月を全力で楽しみますわよ」
     可愛い黒猫を抱き締めて、思う存分頬ずりしたり。
     兄弟の時間はまだまだ、たっぷり。

    「(ホットカーペットの上って、あったかいなぁ……)」
     ゆまは、ブランケットを膝にかけてぬくぬく。
     一緒のホットカーペットにいるのは、【がれ庭】の律と府月。
     ごろごろしていた義兄の律が、ゆまを見上げる。
    「お前、正月で少し太っただろ? ゴロゴロしてない方がいんじゃね?」
     むーっと怒るゆまに、律の楽しげな笑い声が重なる。
    「りっちゃん、しーっ」
    「ん? ……おやまぁ、可愛い寝顔しちゃって」
     いつの間にか、府月はうとうと夢の中。
     普段は年に似合わず、大人っぽいクールなコだけども。こうして見る寝顔は年相応に可愛くて。
     律は、眠る府月のほっぺをつんつん。
    「んぅ……あんちゃん、やめてよ……」
     可愛い寝言に、律もゆまも、つい笑顔に。
     ゆまは大きめのブランケットを府月にかけて、自分も隣で横になる。
    (「何だか、弟ができたみたいで、ちょっと嬉しい」)
     府月の寝顔を眺めていたら……何となく……ゆま自身も眠くなってきて……。
     寝入ったゆまに毛布をかけて律も横になり、……あくびを一つ。
    (「忙しい日々を過ごしてるんだ。たまにはこんな日があっても、いいよな」)

     1年の初めにこういう日があることで、今年もずっと頑張れそうな……そんな気がする、正月のある1日のこと。

    作者:海乃もずく 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月10日
    難度:簡単
    参加:35人
    結果:成功!
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