戯れに、殺す

    作者:日向環


     …ろーく!

     カウントダウンは始まっていた。

     …ごー!

     それは誰であろうと止めることはできない。

     …よん!

     人々の熱気。

     ……さん!

     柴・観月(サイレントノイズ・d12748)は、その瞬間、確かにその輪の中にいた。

     ……にー!

     新しき、年が始まる。

     ……いち!

     その瞬間に。

     ……ぜろ!!

    「!?」
     いったい何が起こったのか、すぐには理解できなかった。
     いつの間に、こんなところな来てしまったのだろうか。あの瞬間、自分はどこでなにをしていたっけ?
    「久しぶりだね。僕のこと、覚えてる?」
     冷たい夜風ととともに、その声が背中に浴びせられた。
     観月は本能的に構えを取ると、声がした方へ体を巡らせる。
    「お前……」
     人を小馬鹿にしたようなその笑みには、見覚えがあった。美しい銀髪。甘いマスク。その体を無理に拘束している白い服。
     忘れるものか。あの日のことを。
     次に会ったときは叩きのめすと、心に誓ったのだ。
    「どうやら、覚えていてくれてるようだね。というより、今日まで生きていてくれて嬉しいよ。こうしてまた会えたんだからさ」
    「……シルヴァーニ・ギュンスブルグ!」
     血を吐いたような気がした。この男と、再び相見える時が来ようとは。
    「誰かがさ、また面白い『ゲーム』を思い付いてくれたんだ。せっかくだから、今回も参加させてもらおうと思ってね」
    「『ゲーム』……だって? また、俺たちを闇堕ちさせようというのか?」
    「そんなゲームは、とっくにオワコンだよ。まだやってる人たちもいるみたいだけどね。1回やったら、僕、飽きちゃったんだよね」
     銀髪の青年――シルヴァーニ・ギュンスブルグは、大袈裟に肩を竦めてみせた。
    「今度のは面白いよ。サバイバルだ」
    「サバイバル?」
    「あのゲームで生き残ったやつらを殺して回るんだ」
    「なん……だと?」
    「一番手はキミ。その次は、あの時殺し損ねちゃった生意気なやつのところに行こうかな。あの偽神父も面白そうだよね。……ああ、あの女の子たちは、どんな風に鳴いてくれるかな。何だか、わくわくしてきちゃったよ、僕」
     シルヴァーニは歓喜の笑みを浮かべたまま、小さく身震いした。
    「大丈夫、すぐには殺さないよ。瞬殺してもいいけど、そんなんじゃ面白くないからね。……それじゃ、始めようか。『暗殺ゲーム』をさ」


    「やばいのだ! やばいのだ! とってもやばいのだ! すぐにみんな集まって欲しいのだ!!」
     木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)の緊急招集を受けて、灼滅者たちが集合する。初詣にでも行くつもりだったのか、みもざは晴れ着姿だ。
    「六六六人衆による、武蔵坂の灼滅者の襲撃を予測してしまったのだ」
     襲撃されるのは、玉川上水キャンパス高校2年3組の柴・観月だという。
    「放っておくと、柴先輩が殺されてしまうのだ。急いで救援に向かって欲しいのだ」
     どうやら、六六六人衆は、闇堕ちゲームに勝利した灼滅者を狙って事件を起こしているらしい。
    「柴先輩を襲撃するのは、シルヴァーニ・ギュンスブルグっていう序列499番のやつなのだ。すぐにはトドメを刺さず、いたぶっていたぶっていたぶって殺すとっても嫌なやつなのだ」
     じっくりねっとり、いたぶって殺す残虐性を持つ六六六人衆だ。
    「柴先輩を虐め殺すことに執着しているので、全くの無警戒なのだ。だから、ガラ空きの背後からの奇襲は、ほぼ成功すると思っていいのだ」
     シルヴァーニ・ギュンスブルグの視界から外れた場所から奇襲すれば、確実に先手を取れそうだ。
    「先手を取れたからといって、油断は禁物だよ。なにしろ、柴先輩たちが以前戦ったときは、殆どまともに相手してもらえずに、完敗した相手なのだ」
     だから、そこに油断があるはずだと、みもざは言った。
    「みんなは去年、たくさんの強い相手と戦って、打ち勝ってきているのだ。日々、みんなは強くなっているのだ。だから、絶対に前回と同じではないはずなのだ!」
     幾度の死線を潜り抜け、日々仲間たちと切磋琢磨し、皆は確実に力を付けてきている。実力の差は、埋まってきているはずだ。
    「シルヴァーニ・ギュンスブルグは、一人を執拗に攻撃するクセがあるのだ。それを逆手に取れば、攻撃を受ける人をある程度特定できるはず。そうすれば、かなり守りやすくなると思うのだ」
     狙われる相手が分かれば、確かに守りやすい。自分が狙われないと分かっていれば、思い切った行動も取りやすいだろう。
     
    「作戦の第一目標は、襲撃されている柴先輩の救出なのだ。だけど、灼滅者を暗殺しようとする六六六人衆を野放しにするのはとっても危険なのだ。こんなゲームを続けさせない為にも、可能な限り撃破を目指して欲しいのだ」
     上手く立ち回れば、灼滅も不可能ではないと、みもざは言う。
    「最低でも、シルヴァーニ・ギュンシュブシュ……ごほん。シルヴァーニ・ギュンスブルグを撤退させれば柴先輩は救えるのだ。あと、どうしても勝てないと思ったときは、勇気を持って退くことも大事だからね」
     無駄に命を落とすことはない。
    「では、直ちに現場に直行して欲しいのだ!」
     みもざは晴れ着の袖から火打ち石を取り出すと、景気よく切り火を切って灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    色梨・翡翠(黒蝶アンサイズニア・d00817)
    黒山・明雄(オーバードーズ・d02111)
    成瀬・圭(ブロークンシーケンサ・d04536)
    村山・一途(残酷定理・d04649)
    仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)
    樹・由乃(温故知森・d12219)
    柴・観月(サイレントノイズ・d12748)
    鈴木・昭子(籠唄・d17176)

    ■リプレイ


     夜風が身に沁みた。
     柴・観月(サイレントノイズ・d12748)は、足早に仕事場へと向かっていた。
     新年早々、憂鬱だった。
     よりにもよって、何で自分がという思いもあった。
    「…見つけたよ」
     不意に、背後から声を掛けられた。親しげな声だった。交友関係が多い観月だったが、聞き馴染みのない声だ。
    「久しぶりだね。僕のこと、覚えてる?」
     知っている。自分はこの声の主を知っている。
     振り返ると、人を小馬鹿にしたような笑みがそこにあった。美しい銀髪。甘いマスク。その体を無理に拘束している白い服。全てに見覚えがある。
    「どうやら、覚えていてくれてるようだね。というより、今日まで生きていてくれて嬉しいよ。こうしてまた会えたんだからさ」
    「…シルヴァーニ・ギュンスブルグ!」
     咄嗟に、ポケットの中のスマートフォンを操作した。仲間への連絡だ。
     知っていたのだ。予め。今夜、自分が襲撃される事実を。
     知ったのは、ほんの数分前のことだ。仲間が知らせてくれた。
    「誰かがさ、また面白い『ゲーム』を思い付いてくれたんだ。せっかくだから、今回も参加させてもらおうと思ってね」
     銀髪の男――シルヴァーニ・ギュンスブルグは、楽しそうにニッコリとした。子供が、大人に玩具を買って貰った時のように、とても嬉しそうに。
     六六六人衆、シルヴァーニ・ギュンスブルグ。序列は499番。
     観月はこの男を知っていた。いや、忘れるはずもない。自分を含め、4人の仲間が深手を負った。仲間の命を救う為に、2人の少女が闇の力に身を委ねた。
     完敗だった。何もさせてもらえなかった。
     叩きのめすと心に誓った相手が、今、目の前にいる。自分を殺す為に。
    「大丈夫、すぐには殺さないよ。瞬殺してもいいけど、そんなんじゃ面白くないからね。…それじゃ、始めようか。『暗殺ゲーム』をさ」
     銀髪の男は笑みを引っ込めると、腕の中から武器を取り出した。
     観月は素早く踵を返した。全力でその場から離れる。
    「逃げるの? しょうがないなぁ…。それじゃあ、少しだけ付き合ってあげるよ。だけど、少しだけだよ?」
     シルヴァーニはすぐに追い付いてきた。
    「ねぇ、どこまで行くの?」
     全力で走る観月の横に並び、わざわざ彼の顔を覗き込みながら問い掛ける。
     観月はまだスレイヤーカードを解放していない。だから、シルヴァーニの動きの方が遙かに早い。
     だが、殺人鬼は観月の進行を妨げるような真似はしなかった。回り込んで進路を妨害することもできたが、どうやらその気はなさそうだ。鬼ごっこを楽しんでいるのだ。
     裏通りに入り、右へ左へ。
     やがて、目の前に袋小路が現れた。
    「僕を袋小路なんかに誘い込んで、何を企んでるのさ」
     シルヴァーニは大仰に肩を竦めた。見え見えなんだよね。
    「そうそう。キミに伝言があったのを忘れていたよ」
    「伝言?」
    「裏原ザンゲキって知ってるよね?」
    「!?」
     観月は僅かに動揺する。誘い込みがバレていることにではない。聞きたくもない名を、再び耳にしたからだ。六六六人衆の623位、裏原ザンゲキ。この手で、息の根を止めた殺人鬼の名だ。しかし、その代償として、自分は闇堕ちせざるを得なかった。あの時、彼女達がそれを選択したように。仲間の命を守る為に。今度は、自分が。
    「彼の兄貴分って人がね、キミによろしくって言ってた」
     銀髪の男は笑いながら、ウロボロスブレイドを伸ばした。蛇のようにうねりながら、刃は観月の右耳を掠めた。
     焼け付くような痛みが走った。生暖かいものが首筋を伝う。
    「いつまでも手加減をしてあげられないよ?」
     早く本気を出せと催促しているのだ。
     動揺は、今の痛みで消し飛んだ。スイッチが入った。
    「わざわざ袋小路までお誘いした訳、解るよね」
     サウンドシャッターを作動させする。
    「――お久しぶり銀髪野郎。今度こそちゃんと、叩きのめすよ」
     その言葉を聞いたシルヴァーニが、嬉しそうに破顔した。
    「歌え」
     夜の闇の中に、観月のスレイヤーカードが舞った。


     観月がスレイヤーカードを解放するのと、左足に激痛が走ったのは、殆ど同時だった。黒死斬の直撃を食らったらしい。
     痛みに表情を歪ませながら顔を上げると、シルヴァーニは憎々しげな顔で頭上を見上げていた。肩から血が滴り落ちている。
     複数の足音が響く。
    「…やれやれ。新年早々ツイてない奴だな」
     黒山・明雄(オーバードーズ・d02111)は観月にそう言葉を掛けてから、銀髪の男に視線を移す。
    「…おい、誰の後輩に手を出そうとしているんだ?」
    「よう、499位。オレらのダチに結構な仕打ちじゃねえか。生きて帰れると思うなよ?」
     成瀬・圭(ブロークンシーケンサ・d04536)が続く。
    「初っ端から情報が漏れてるとはね。キミ達は地獄耳なのかな?」
     六六六人衆は肩を窄めた。
     色梨・翡翠(黒蝶アンサイズニア・d00817)と鈴木・昭子(籠唄・d17176)の2人が、素早く観月の前に回り込み、彼を背後に庇う姿勢を整えた。
    「新年早々の大厄を祓いましたら、今年一年安泰やもしれませんよ?」
    「そう願いたいね」
     昭子の軽口に、観月は小さく笑って答えた。
    「奇襲なら、もう少し上手くやらないとね。こんなところに誘い込まれたら、誰だって気付くよ」
     それが本当なのか、強がりで言っているのか、判断は難しかった。コンビネーションが僅かに乱れた結果、奇襲した7人の攻撃全てを直撃させることができなかったのは事実だったからだ。
    「僕の遊びを邪魔しにきたんだ。覚悟はできてるんだよね?」
    「結構トラブル巻き込まれ体質ですよね、柴さん」
     村山・一途(残酷定理・d04649)の言葉を聞き、観月は苦笑いする。否定はできない。
     一途は笑みを返すと、銀髪の男を睨め付ける。
    「さて、殺すということは、殺されるってことですよ六六六人衆。あなたに覚悟はありますか」
    「まさか、僕を殺すなんて冗談を言うつもり?」
    「いや。…今度こそ殺す」
     暗がりの中から壁伝いに、仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)が姿を現した。彼もまた、シルヴァーニを知る者の一人。闇堕ち、重症……笑う白い男。今もまだ、脳裏に鮮やかに浮かぶ悪夢だ。
    「闇堕ちさせた人数で、何かボーナスでも貰えたのか?」
    「おやおや、お久しぶり。キミの方から来てくれるなんてね。わざわざ殺しに行く手間が省けちゃった。でもちょっと待っててね。先に、彼を殺しちゃうから」
    「そんなに首が欲しけりゃ取っていきなさい。できるものなら」
     樹・由乃(温故知森・d12219)が一喝した。
    「僕はツイてるみたいだ。キミとキミ、そしてキミも、『ゲーム』を生き残った人だよね、確か」
     六六六人衆は、翡翠、一途、由乃を順に指差す。
    「665番、霧咲・克司。543番、ゴトウ。637番、須郷・総一郎。ゴトウ以外はやられちゃったんだっけ? ゴトウは今回のはパスした気がするよ」
     どうやら六六六人衆は、何らかの方法で情報を纏めているようだ。
    「悪趣味な殺人ゲームを始めると聞いたら邪魔するよね。思い通りにはしてあげない」
     だから、今度も叩き潰す。翡翠は身構えた。
    「アイツを殺したいなら、まずは俺達を越えて行け」
     明雄が圭と一途、そして由乃に視線を送る。クラブ【-Epitaph-】の仲間だ。
    「…この場所をヤツの墓にする。俺達で墓碑に銘を刻んでやろうじゃないか?」
     それが我らが意志。我らの志。
    「そんじゃァそいつに一句入れよう。なんて書けばいい? “クソッたれのサド野郎、虫のようにくたばる”とか?」
    「みんな好き勝手言いますよね。ま、話の続きは切り刻んでからでも遅くはありません。…それでは、格好付けて生きて、潔く死にましょう」
     圭の言葉を、一途が受ける。
    「献花なら任せてください。きっとオダマキがお似合いです。花言葉は『愚劣』」
     草神様は何者に対しても平等です。そうですよね、観月さん。由乃が観月に視線を流した。
    「皆にこれ以上迷惑掛ける訳には行かない、ね。…だから、ここで×んで。お前に墓場なんて勿体無いよ。以前嬲った奴に×されるのが、お前みたいな人殺しにはお似合いだ」
     痛む足を引きずり、観月は真っ直ぐにシルヴァーニを見た。
     明雄は俯きながら小さく笑むと、直ぐに真顔に戻して顔を上げる。
    「───……それじゃ、始めよう。『狩りの時間』をな」
    「うん。遊ぼうか」
     シルヴァーニは嬉しそうに応じた。


    「通すな! 防げ!!」
     明雄の怒号が飛ぶ。
     観月に向けて放たれた月光衝を、翡翠と昭子が射線上に強引に割り込み、その身で受け止める。
    「ちっ」
     舌打ちしたシルヴァーニを挟み込むような形で、左右から由乃と圭が螺穿槍で同時に仕掛た。更に一途が黒死斬を浴びせる。
     シルヴァーニは無理に体を捻って回避行動を取るが、完全には躱しきれなかった。
    「まだ終わりじゃないぜ」
     明雄のバベルブレイカーが、シルヴァーニの脇腹を狙う。ぐにゃりと体を捻り、銀髪の男は日本刀の刃でこれを防ぐ。直後、狙い澄ましたメイテノーゼの黒死斬が、殺人鬼の右脛を斬り裂いた。
    「楽しませてくれるね」
    「余裕かましてんじゃねぇ!!」
     圭が更に間合いを詰め、凄まじい拳の連打を叩き込む。
    「ちっ」
     百を超える連打を完全には捌ききれず、シルヴァーニは再び舌を打つ。
     明らかに苛ついていた。観月に対しての三度にわたる攻撃が、狙い通りにいかないからだ。表情を見ずとも、不機嫌さは伝わってくる。
    「邪魔なんだよキミ達は!」
     瞬時に圭の死角に回り込み、黒い殺気を纏ったティアーズリッパーを炸裂させる。
    「ぐはっ!?」
    「ケイ!」
    「成瀬さん!!」
     背中を深々と斬り裂かれ、思わず膝を突いた圭に、明雄と一途がカバーに入る。
     一撃食らっただけだというのに、かなりの深手だった。まともにもう一撃食らったら危険だ。観月のエンジェリックボイスだけでは、受けたダメージの半分も回復できない。
    「邪魔をするからだよ」
     シルヴァーニは残忍そうに口元を歪めた。
    (「次はどっちを狙う…?」)
     この男の性格上、もう一度圭を狙うとも考えられる。だが今、守るべき対象が2人に増えたことで、彼らの中に迷いが生じた。
     同時に放たれた由乃と一途の黒死斬をすり抜け、殺人鬼が狙う相手は――。
    「させません!!」
     昭子が身を投げ出すようにしてシルヴァーニの眼前に飛び出す。
    「守る! 守ると決めたんです!」
     ウロボロスブレイドを体に巻き付けた翡翠が立ちはだかる。
    「邪魔だよ!」
     日本刀を横に薙ぎ、月の光の如き一閃を放つ。
    「ぐっ…」
    「くっ!」
     今度はシルヴァーニの気迫の方が勝った。昭子と翡翠のカバーよりも一瞬早く、月の光は観月とメイテノーゼを捕らえた。
    「ひひひひひ…っ」
     薄気味悪い笑いを発しながら、シルヴァーニは直ぐさまもう一歩踏み込んできた。ここへきて、流れが六六六人衆に傾く。
    「なにっ!? 逃げろ、柴!!」
    「柴さん!」
     割り込もうとしたメイテノーゼを押し退け、シルヴァーニのティアーズリッパーが観月に直撃する。
     鮮血が飛び散った。
     ――ありがとう。助けにきてくれて……。
     観月の唇が、そう動いたように見えた。


    「あ、あれ? ごめん、殺しちゃったみたい」
     あははと、軽い笑いを発するシルヴァーニ。
     メイテノーゼが、動かぬ観月の前で茫然としている。
    「柴ぁ!! うおおおお!!」
     獣のような声を上げながら、明雄が突っ込んできた。
    「よくも柴さんを!!」
    「わあああ!!」
     一途と由乃が力の限り攻撃を叩き込む。
    「ふざけんなぁ!!」
     痛む体を押して、圭が気迫の一撃を見舞った。
     まともに食らったシルヴァーニだったが、お腹を抱えて楽しげに笑い続ける。翡翠と昭子の攻撃を食らってから、ようやく笑いを引っ込めた。
    「キミだとルール違反なんだよな」
     圭を見てニタリと笑った。次に殺すのは、キミにすることにしたよ。
    「おいおい…次は、俺を狙うんだろ?」
     メイテノーゼがシルヴァーニの前に立ち塞がる。感情が籠もっていない無機質な声だった。
    「いけない…!」
     咄嗟に翡翠がその間に割り込む。堕ちるなら、自分一人でいいと決めていた。知り合いが目の前で闇に堕ちる姿など、誰も見たくはないはずだ。ましてや友人の死など。
     不穏な気配を察知し、昭子が歩み出る。
    「もう、他の誰も殺させません。あなたが奪おうとしているものは、わたしが既に出会ってしまった、ご縁です。よこどりされるのは気にくわない。だれが手放してなどやるものですか」
     綺麗な鈴の音が、彼女の歩みと共に響いた。
    「じゃあ、キミが先に死ぬ?」
     血塗れの六六六人衆は、日本刀を持つ右手をあげる。刃を、昭子の首筋に当てた。
    「прощаться」
     シルヴァーニが腕に力を入れたその時――。
    「…トドメは刺しておくべきだったな」
     麗しき星の銀杖が、シルヴァーニの右脛の傷口に押し当てられる。そこに目掛けて、天空から雷が走った。
    「!?」
     さしものシルヴァーニも動揺した。今日のこの戦いにおいては、それは致命的な動揺だった。
     一途の縛霊撃と昭子の影縛りが、銀髪の男を捕らえた。
    「しま…っ」
     続けざまに、由乃の黒死斬とメイテノーゼの斬影刃が襲い掛かる。蛇剣を体に巻き付けるが、僅かに行動が遅れた。防ぎ切れない。
     息も吐かせぬ怒濤の攻撃。
     ザッ。
     ザシュッ。
     ザッ!
     ザッ!!
    「がはっ」
     血を吐き、よろめく銀髪の男。
    「たあああ!!」
     粉塵をあげ、気合いと共に突撃してきた一途が、シルヴァーニの「死の中心点」を貫く。由乃がその影から飛び込み、光と化した「サンセベリア」が殺人鬼の内なる魂に一撃を見舞う。
    「がふっ」
     シルヴァーニの両膝がガクリと折れた。
    「――さあさ、お帰りはこちらの黄泉路へどうぞ」
     昭子がしなやかな手付きで、背後の闇を指し示す。
    「ああ、遺言ぐらいは聞いてあげますよ。何一つ残せないなんて寂しいでしょう」
     膝を突いたままの殺人鬼を、一途は見下ろした。
    「僕を殺せると思っているなんて、笑えるね」
    「そうですか。冴えない遺言ですね」
     一途の言葉が終わるか終わらぬかのうちに、圭の「ad libitum」が振り下ろされた。
     短く呻き、殺人鬼はその場に俯せに倒れた。
     30秒が経過した。殺人鬼は動かない。
     皆が覗き込む。
     と、
    「あはは…!!」
    「!」
     シルヴァーニは起き上がると、天を仰いで狂ったように笑う。そしてそのまま、仰向けに地面に倒れ込んだ。
     カッと見開かれた瞳には、もはや生気を感じない。
    「驚かせやがる」
     明雄が苦笑した。
     翡翠が、昭子が、由乃が、そっと胸を撫で下ろす。
     圭と一途がハイタッチを交わす。
     メイテノーゼは、事切れた殺人鬼の体を無言のまま見詰める。
     そして観月は、愛用の「銀庭」を無意識のうちにくるくると回しながら、スマホを取り出した。
     あの日、共に戦った仲間に、銀髪野郎を葬ったことを伝える為に。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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