殺戮印のお茶会へご招待

    作者:志稲愛海

     新しい年を迎えたばかりの街は、本当ならば、とても賑やかなはずなのに。
     気が付けば……殺雨・音音(Love Beat!・d02611)の周囲には、誰の姿もみえなくなっていた。
    「あれっ、道間違えちゃったのかな~?」
     早く帰らなきゃ~と呟きながらも、そんな不気味なほど静かな風景を、きょろきょろと見回す音音。
     だが――その時だった。
    「えっ、な、なんで~!?」
     ふいに驚いたように大きく瞳を見開き、思わず音音は立ち止まる。
     この場にいたのは……そう、彼女だけではなかったのだ。
    「あはは、探したよぉー。でも見ぃーつっけたっ♪ あけおめ、ことよろチャン~!!」
     異様にテンションの高い、パンクファッションに身を包んだ男。
     そしてその男の顔を、音音は知っていた。
     そう――以前対峙した、六六六人衆。
    「俺様チャン、ナント灼滅者チャンの首を、ちょーんっと刎ねに来ちゃったんだぁー!」
     序列五四二位、有末・七兎であったのだ。
    「え、えっ……なんで、ネオンのことを~!?」
    「なんでってー? だってチョー面倒だけどぉー、闇堕ちゲームのコマは片付けないとでしょー? ちょっと遅れた年末年始の大掃除~♪ あ、首を刎ねる灼滅者チャンの順番はねぇ……そーんなのテキトーに決まってんじゃんー!」
     ケラケラと壊れたように笑うイカレ野郎を前に蘇るのは、闇堕ちゲームの時の恐怖。
     怖いのはキライだよぉっと首を振る音音の足は、ガクガクと大きく震えるも。
     でも……大好きな弟のためにも、ここで大人しく殺されるわけにはいかないから。
     諦めるのはイヤだもん、と。必死に地に両足を踏ん張り、六六六人衆と向き合う音音。
     そんな彼女の様子を見て、へらへらとふざけたように笑った後。
    「弱っちいやつは、みーんな首を刎ねちゃうんだぞぉー!!」
    「……!」
     最高にイカしてる俺様チャンの、楽しい死のお茶会へようこそぉっ!! と。
     残忍でイカレた笑みを浮かべた刹那、音音目掛け、七兎の得物が振り下ろされる。
     

    「ったく、あのイカレ野郎、やっと見つけたと思ったら……っ」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、いつものような人懐っこい笑みではなく、険しい表情でそう唇を噛み締めた後。集まった灼滅者達を見回し、察知した事件を語る。
    「六六六人衆がね、武蔵坂の灼滅者を襲撃することが分かったんだ。その中には、以前オレが予測した闇堕ちゲームを起こした、序列五四二位の有末・七兎(ありすえ・ななと)の姿もあってね。七兎は今回、闇堕ちゲームで対峙した灼滅者のひとりである、音音の前に姿を現わすんだ」
     七兎に襲撃されるのは、武蔵坂の灼滅者である、殺雨・音音。
     音音は以前七兎が起こした闇堕ちゲーム事件に赴いており、彼と面識がある。
     七兎をはじめ六六六人衆達は、どうやら今回、以前闇堕ちゲームの駒となった灼滅者達を殺しに動いているようで。
     そしてこのままでは、確実に音音は殺されてしまう。
     なので急ぎ、彼女の救援に向かって欲しい。
    「七兎の得物は以前と同じ、妖の槍と鋼糸で、このふたつの武器と六六六人衆のサイキックと基本戦闘術を使ってくるよ。すごく強敵だけど……でもみんなも以前よりずっと強くなってるからさ、七兎を追い詰めることだって不可能じゃないはずだよ。バベルの鎖に察知されない接触タイミングはね、七兎の初撃を音音が受けた直後。この一撃だけなら、音音の命に別状はないよ。とはいえ、強烈な攻撃には違いないから、十分気をつけてあげてね」
     七兎は強敵で、何をしてくるかわからないイカレ野郎であるが。
     以前よりも強くなっている灼滅者達が力を合わせ、エクスブレインの未来予測をうまく生かし戦うことができれば。襲撃に遭う音音の救出が最優先ではあるが、七兎の撃破も不可能ではないかもしれないという。
     仲間の命に関わる今回の案件、どういう方針や作戦で七兎と戦うか、考えて臨んで欲しい。
     
     それから遥河は、一通り説明を終えた後、ぐるりと皆を見回してから。
    「作戦の最優先事項は勿論、音音の救出だよね。でも、このままいつまでもあのイカレ野郎を、野放しにしてはおけないから。すごく危険な任務だけどさ……事件の解決をよろしくお願いするね」
     そして無事に全員で帰ってきてねと、そう灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)
    高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)
    炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)
    竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)
    御門・美波(堕天アストライア・d15507)

    ■リプレイ

    ●ウサギさんのかけっこ
     縞々模様の猫さん滑り台に、トランプ柄の兵隊服着た人形達が行列を作る薔薇の花壇。
     まるで不思議な薬でも飲んで小さくなったかのような錯覚を起こしそうな、子どもの目線からみれば大きなオブジェやアスレチック。
     昼間のこの場所はきっと、訪れた子ども達にとって楽しい御伽の空間に違いないだろうけれども。夜の街を過ぎ、人の姿もない小ぢんまりとした街外れの児童公園にふと足を踏み入れた殺雨・音音(Love Beat!・d02611)は、自然とその歩調を速める。
     ……メルヘンチックなのに、何か恐い。
     夜の公園に並ぶ遊具の動物さん達は、静かすぎるこの闇の世界の中、じっと妖しく息を潜めているようで。愉快なはずのその表情は、古びて少しくすんでいることも手伝い、不気味で狂気染みた雰囲気すら何故か感じてしまう。
     そんなふらりと迷い込んだ誰もいない夜の公園を少し不安気に見回しながらも、帰路を急ぐ音音。
     だが、この場所へと足を踏み入れた兎さんは、彼女だけではなかったのだ。
    「俺様チャン、ナント灼滅者チャンの首を、ちょーんっと刎ねに来ちゃったんだぁー!」
     音音の前に突如現われたのは――六六六人衆の序列五四二位、有末・七兎。
     過去に行なった闇堕ちゲームに使った駒・灼滅者達の首を、ひとりずつ順番に、処刑するかの如く刎ねるために。
     七兎は笑みを浮かべたまま、くるりと器用に鋭利な槍を天へと旋回させた後。
    「弱っちいやつは、みーんな首を刎ねちゃうんだぞぉー!!」
    「……!」
     月に冷たく光るその残酷な切っ先を、音音目掛け繰り出したのだった。
     その螺旋の軌道を描く衝撃が唸りを上げた刹那、彼女の纏うカラフルな洋服の右肩部分が、じわりと鮮やかな赤に侵食されて。
    「とゆーことで、ゲームの駒は、みーんな斬首刑ー♪」
     早速その首を落とさんと、指先で弄んでいた刃の如き糸を、七兎はピンと両の手で引き締める。
     だが――その時だった。
    「音音危ない!」
    「!」
     刹那、公園内に響いた声。
     さらに突如闇の世界から解き放たれたのは、異形巨大化した『掱』。
     そして虚を衝かれ大きく瞳を見開いた七兎へと唸りを上げる拳が、そのへらへらした横っ面を思い切り殴りつけたのだった。
     大きく地を蹴り、誰よりも早く現場に駆けつけた男。
    「何する気か知らねぇがダチに手ぇ出したんだ。殴られる覚悟くらいはあるんだろ?」
     その誰にも追いつけぬずば抜けた脚力をもって、真っ直ぐに七兎へと突っ込んだ炎導・淼(武蔵坂学園最速の男・d04945)は、エクスブレインの予測したタイミングから一寸の狂いもなく、バベルの鎖を掻い潜る強烈な先制の一撃を敵へと浴びせて。
    「友の危機に参上! イカレタ兎さんは、闇の向こうに退場して貰いましょうか?」
    「音音チャンを殺らせるワケにはいかないよねー」
     標的となった友人・音音を庇えるよう、気を配りつつも。
    「……っつか、マジゲーム感覚で友達殺されんのは流石に勘弁なの」
     七兎を包囲すべくすかさず位置を取るのは、最初に声を発した竜胆・山吹(緋牡丹・d08810)や高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)。
     ヴィルヘルム・ギュンター(伯爵・d14899)と御門・美波(堕天アストライア・d15507)も、ダークネスを取り囲むように素早く陣形を成せば。
    「……死合、開始!」
     ダブルジャンプを駆使し飛び出したヴィルヘルムの右籠手の黒狼が牙を剥くと同時に。
     死合、開始(ゲームスタート)――そう高らかに開戦を告げた美波の拳が雷光を纏い、敵の顎を跳ね上げんと天高く突き上げられた。
     だが七兎は軽い身のこなしで、それらの攻撃をひらりとかわして。
    「おっとっとー。てかさすがの俺様チャンも、今のはちょっぴりビックリしたぁー」
     ぺっと口から血を吐き捨てながらも、ぐるりと駆けつけた灼滅者達を見回したのだった。
    (「暗殺ゲームか……死人が出なければいいが……」)
     そんな七兎を確りと見据えつつ、そうふと思うヴィルヘルムの隣で。
    (「命を弄ぶような奴って、気に食わないんだよねぇ……だから、やらせはしないよ」)
     狂気じみた人の遊び相手は、狂った相手がお似合いだよ……美波(わたし)とかね? と。無邪気を装うその瞳で倒すべき相手を捉えつつも、改めて身構える美波。
     そして、最初の一撃を受けてダメージは負ったものの。
    「まさかネオンが目を付けられるなんて思わなかったよ~」
    「弟くんじゃなくて悪いが助けに来たぜ、団長」
     ケモ耳を揺らし皆へと駆け寄る音音の無事な姿を確認し、淼はそう瞳を細めてから。
    「でも、皆がいるのは心強いよ~っ」
    「ってコトで、きっちし守っていきますか!」
     琥太郎も今度は音音も加えて一緒に、改めて敵へと向き直るのだった。
     エクスブレインの予知通りのタイミングで動き、七兎への奇襲を成功させた灼滅者達。
     だが、七兎へと叩きつけた衝撃は初撃のみで。
     七兎が行動を起こすその前から周囲に潜伏しておき、そしてタイミングを見計らって奇襲する作戦を、多くの灼滅者達が考えていたのだが。
     エクスブレインから聞いた予知の内容や状況からも分かるように、今回は急を要する案件であり。またそのため標的の音音にこの暗殺ゲームのことを前もって伝える余裕もなく、現場に駆けつけるだけでもギリギリであったため、囮作戦や潜伏作戦は今回は到底不可能であったのだった。
     そのため、迷わず放たれた初撃による奇襲は成功したものの、それから後がスムーズに続かなかったのである。 
     とはいえ、皆が到着する前に音音がみすみす殺されることは、無事に阻止できた。
     あとは……目の前のイカレたダークネスから受けた招待を、全力で返すのみ。
     撃退、いや可能ならば灼滅、というカタチで。
    (「まさか向こうからやって来るなんてねえ。折角また会えたんだ、前回の屈辱を晴らしてやるよ」)
     七兎と顔を合わせるのがこれが初めてではないのは、標的となった音音だけではない。
     それは、宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)も一緒で。
    (「長かった……あの悪夢のような数日からずっと行方を探していた」)
     風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)も、目の前の因縁の相手へと紅月の如き瞳を向けると、殺気を孕んだ鋭い視線を投げた。
     この六六六人衆が過去に起こした闇堕ちゲームによって、大切なものを傷つけられ、一度は深い闇へと堕ちて。武蔵坂の仲間に再び救われたあの日以来ずっと孤影は、このダークネスを探していたのだ。
     今度こそ、ぶちのめす、ではなくて。
    「よう、久しぶり。そしてさよなら」
     その企みと命もろとも、断つために。
     そして何よりも。
    (「友達の音音が危ないって聞いて、居ても立ってもいられなかったから。絶対に一緒に帰ろう」)
    (「今回は、誰かを置いてけぼりにしてトボトボ帰るなんてこと、しないんだからねっ」)
     山吹と音音は、そうぐっと胸に想いを抱きながら、仲間達を見回す。
     もう誰も欠けずに、誰も悲しまないように……今度こそ全員揃って、武蔵坂に帰るために。
     
    ●血の飛沫くお茶会
    「ほらほらー、そこのオシャレなウサ耳チャーン! 早く逃げないとー、首がぴょーんって刎ね落ちちゃうんだぴょーんっ!」
     輝く光の輪を分裂させ、受けた傷を自ら癒して守りを固めてから。回復役を担うべく後ろへと下がった音音へと視線を向け、ぎゃははっとわざと煽るように下品に笑う七兎。
     そして、ヒュッと周囲に張り巡らせた鋭利な糸が大気を鳴らすも。
    「女の子から狙うとか、ちょっとオトコとしてどーなのソレ?」
     咄嗟に後ろへと下がってきた音音を庇うように立ちはだかるのは、琥太郎。
     琥太郎は構えたシールドを広げ、抜かりなくより戦闘に備えながらも。
     ぴょんぴょーん! と飛び跳ね笑うイカレたダークネスの様子に呆れたように嘆息して。
    「まさかネオンが目を付けられるなんて思わなかったよ~」
    「あははー、誰にしようかなぁー♪ って、あみだくじで、見事ウサギチャンが大当たりだったんだよぉー!」
     琥太郎に礼を告げつつもそう言った音音に、愉快な様子で手を叩く七兎。
     本当に今回の標的は、ゲームの駒となった灼滅者の中から適当に選んだらしい。
    「別に誰でもいいとか……戦意もやる気も失せる」
     余所でやってくれればいいのによ、と。
     淼は、不死鳥の如き炎の様に燃え盛る怒りを、『掱』へと込めて。
    「……二度とこんな面倒に殺雨が巻き込まれないようにきっちり灼滅するしかねぇな!」
     真っ向から全力で七兎を殴りつけるべく、その巨大な拳を大きく振り上げる。
     そして七兎の解き放った強烈な漆黒の殺気が、あっという間に前衛の灼滅者達を一瞬飲み込むも。
    「前に立ってくれる皆の為にも、ネオンだって、ガンバるもんっ」
     戦場に優しき風を招き、無数の光輪を生み出しながら、必死に戦線を支える音音。
    「さぁ、キミの好きな死合だよ? ……楽しもうよ、狂人さん」
     そう――これは、死合(ゲーム)だと。
     ぐっと踏み込んだ美波の鍛え抜かれた拳が容赦なく、七兎の腹部へと鋭角に突き刺さる。
     だがその衝撃にぐらりと揺れながらも、不気味なほど楽しそうな笑みを宿して。
    「……俺様チャンも君も、狂人? でも本当に狂ってるっていうのはさぁ、もっとこう……迷いのない目をしてるもんだよ?」
     ほら、サイコーにイカしてるこの俺様チャンの目とかさー、と。
     その奥底を見透かすかのようにじっと美波の瞳を見つめ、くすくす笑う七兎。
     だが、そんな美波をからかうように見つめていた七兎の顎を、彼女から引き離すかのように綺麗に打ち抜いたのは、ヴィルヘルムの雷を宿した拳であった。
     その衝撃をモロにくらった六六六人衆は、ばたりと大の字になって倒れる。
     だが、そんな七兎へと容赦なく放たれたのは、絢矢の生み出した冷気のつらら。
     それをすかさず身体を逸らして間一髪避けた七兎はつまらなそうに舌打ちする。
    「なんだーつまんないー。折角、俺様チャンが死んだフリの名演技したのにぃー!」
     倒されたフリも、相手を煽るようなふざけた態度も、もういい加減お見通し。
    (「イカレた連中には散々な目に合されたからね。やられてばかりじゃあいられないよ」)
    「あんたが早々にくたばれば、この物語はハッピーエンドなんだよ」
     お花畑野郎の言動に振り回されることなく、軽くあしらう絢矢。
     そして叩き斬るかのように豪快に振り下ろされるのは、山吹の異形巨大化した強烈な拳。
     さらにたたみかけるように続き、羅刹の腕を模した孤影の縛霊撃が唸りを上げて放たれるも。
    「あれれー? 堕ちたはずなのに、また灼滅者に戻ったんだー? 早く俺様チャンのこと殺しにこないかなーってワクワクしてたのになぁー」
     その異形巨大化した孤影の拳を、一見細身に見える腕で容易くガードしつつも、逆手に握る槍をふと構えた七兎は。
    「じゃあ、戻っちゃったならもう面白くないしぃ……すぐに死ねばいいんじゃね?」
    「!」
     至近距離から孤影の身体へと、うねり狂う螺旋の衝撃を突きつけたのだった。

    ●命懸けのイカレ遊戯
    「なにやってるんだよぉぉっ! ほらほら、俺様チャンの延髄をしっかり狙って早く脊髄切断しちゃわないと、俺様チャンが全員の首をあっという間に刎ねちゃうんだぞぉー!」
    「は……どこぞの帽子屋よりよっぽどイカれてるよねアンタ」
     戦場の様相は、まさに血塗れティーパーティー。
     七兎を捉えんと影の触手を伸ばしつつ、飛沫く赤に目を爛々と輝かせている目の前のダークネスのイカレっぷりに思わず呆れる琥太郎。
     灼滅者達の血か、自分の血なのか、その両方か。
     異様にハイテンションな七兎は血を喜々と浴びながらも、漆黒の殺気を解き放つ。
    「……!」
     その衝撃の強烈さに、思わず表情を歪める灼滅者達。
     お互いまさに、満身創痍。
     だが回復の手が七兎よりも遥かに多く、倒れても再び魂を奮い立たせ気力で立ち上がる灼滅者達は傷を負いながらも、辛くもまだ全員が戦場に立っていて。
     残る力を振り絞り、じわじわと、徐々に七兎を追い詰めていく。
     そして音音のシールドリングの輝きで体力を取り戻した後、一気に勝負に出たのは、淼。
    「ちょっとキレてるんで火加減無しだ……燃え尽きろっ!」
    「! わ、ちょっ、あちちっ!?」 
     渾身の力を振り絞り、七兎へと見舞ったのは、激しく熱い炎の一撃。
    「あんた達は僕等のこと、虫みたいに群がってくる邪魔な奴らくらいにしか思ってないんだろうね」
     そして続く絢矢の周囲に咲き誇り舞う、赤黒い花弁。
     その輝きを纏うオーラの花弁を成す絢矢は負った傷を癒しながらも、血塗れの七兎へと向けた瞳をふっと細めて。
    「ふふ、虫に楽しみを邪魔されたり、追い詰められるのってどんな気持ちなのかな」
    「貴様と言葉を交わすつもりはない。イカレた奴には、頭が物理的にイカレるほうがお似合いだ」
     強烈な鋭撃に一度は倒れるも再び立ち上がり、尚も戦いに身を投じる孤影。
     今彼を奮い立たせているのは、因縁の相手の企みと命を断つという、強い執念。
     そして敵の心臓を狙い澄まし鋭利な牙で穿たんとするヴィルヘルムと、美波が隠し持っている無数の注射器が悪魔かの如く七兎目掛けて飛べば。
    「兎さん、楽しかったわ。もっと戦いたかったんだけど、終わりにしてあげるわ」
     長引いたこの戦いを終わらせるべく、相手のリズムを崩すタイミングで、雷撃纏う拳を地面すれすれから思い切り天へと突き上げた山吹。
     顎を的確に打ち抜いたその拳の手応えは、十分にあったのだが。
    「まだ終わってねぇ!」
     止まることなくさらに踏み出し、速度を上げるのは淼。
     突っ込むかのように放たれたスピードに乗った衝撃が七兎の身を焦がさんと、唸りを上げる。
     だが……次の瞬間。
     地に倒れたのは、七兎ではなく淼の方であった。
    「わーマジで今の、チョー危なかったぁっ! でもさすが最強な俺様チャンー!」 
     紙一重で襲い掛かる攻撃をかわした七兎のカウンターの鋭撃が、淼の身を貫いたのだった。
     そして包囲網を破り、突破口を開いた七兎は、傷口から零れ落ちる血の華も気にせずに、べちゃりと地に咲かせていきながらも。
    「次会う時はもっともぉっと、俺様チャンをゾクゾク興奮させるくらい強くなっててね、灼滅者チャンたちぃ……!!」
    「!!」
     当初の目的であったはずの灼滅者の斬首刑を、今日のところはあっさりと諦めて。
     躊躇なく大きく跳躍した七兎は、灼滅者達の前から姿を消したのだった。

     もっと灼滅者達が今以上に力をつけ、もっともっと刺激的な殺し合いができる機会がまたくることを。
     イカレたその瞳を爛々と輝かせ、ワクワクと期待するかのように。
     子どもの様に無邪気に、笑いながら。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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