悪鬼は魔王を名乗りて姫襲う

    作者:飛翔優

    ●奴は名乗る、俺が魔王でお前が姫と
     最初からひと気がない場所にいたのか、あるいはひと気のない場所に来てしまったのか。
     水城・恭太朗(サムガリアン毛布術・d13442)は立ち止まり、きょろきょろと周囲を見回した。理由が思い至らずに、小さく首を傾げていく。
    「……いつの間にこんな所に。一体ここは……」
    「どこだっていいじゃねぇか、なあ?」
     不意に響いた男の声は、少し昔に聞いた声。
     振り向く先には、前の開いたジャケットを羽織る筋骨隆々の男。名を……。
    「お前は……絶鬼!!」
    「おう、久しぶりだな! 恭太朗とか言ったか!」
     六六六人衆、六ニ七番の絶鬼。かつてスーパーマーケットを襲撃し、灼滅者を闇堕ちさせた男。
     警戒し身構える恭太朗に対し、絶鬼は笑いながら告げていく。
    「暗殺ゲームってのをやっててよぉ! ま、運が悪かったと思って諦めてくれ。あるいは、そうだな……」
     右手には硬い拳、左手にはショットガン。ジリジリと歩み寄りながら、言葉を畳み掛けていく。
    「さながら俺が魔王で、お前が姫。となると、後は……」

    ●放課後の教室にて
    「みなさん、あけましておめでとうございます。本来なら笑顔で迎えるべきなのでしょうが……」
     新年早々集まった灼滅者たちを前にして、おみくじの筒を持つ倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は神妙な面持ちで説明を開始した。
    「六六六人衆による、武蔵坂の灼滅者の襲撃を予測しました」
     襲撃を受けるのは、水城・恭太朗。
     襲撃者はかつてスーパーマーケットを襲った六六六人衆、六ニ七番の絶鬼。
     一対一では絶望的な力量差。放っておけば確実に殺されてしまうだろう。
    「ですので、説明を聞き次第速やかに救援へと向かって下さい」
     葉月は地図を広げ、現場を指し示した。
    「説明を聞いた後、急いでこの場所に行けば、二回ほど刃を交わした両者のもとにたどり着く事ができるでしょう」
     後は恭太朗と合流し、絶鬼を倒す……と言った流れになる。
     絶気の姿は前の空いたジャケットを羽織る筋骨隆々の男。得物は己の拳とショットガン。力量は……。
    「八人で戦いを挑めば倒せる……と思われます。こちらも成長していますからっ」
     技は、ショットガンを打つとともに繰り出される、加護を砕く格闘術。拳連打による打撃。ショットガンで足を殴打する……と言ったもの。
     また、破壊力に優れている。そのため、一撃一撃に注意を払う必要があるだろう。
    「後は……そうですね」
     葉月は語る。
     前回の事などを合わせて考えると、絶鬼は灼滅者たちがあらゆる意味で全力を尽くしている限り、他所へと興味を逸らすことはない。
     絶鬼の興を削がなければ、逃げられてしまうこともないだろう……と。
    「……」
     葉月は地図など必要な物を手渡し、締めくくりへと移行した。
    「第一目標は恭太朗さんの救出。しかし、灼滅者を暗殺しようとする六六六人衆を野放しにするのは非常に危険……ですので、可能な限り撃破を目指して行動して下さい。何よりも……みなさんで無事に、無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    結城・創矢(アカツキの二重奏・d00630)
    梅澤・大文字(張子の番長・d02284)
    朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)
    丹生・蓮二(パラダイムシフト・d03879)
    水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)
    華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    水城・恭太朗(サムガリアン毛布術・d13442)

    ■リプレイ

    ●魔王は勇者を待ち望む
     夜の吉祥寺の大通りを歩く人々の喧騒だけが聞こえてくる、寺に囲まれた場所にある人気のない公園。
     不幸にも仲間はおらず、幸いにも他人はいない状態で、水城・恭太朗(サムガリアン毛布術・d13442)は六六六人衆の六二七番、絶鬼と対峙していた。
    「久しぶりだなおっさん、覚悟はあの日から出来てるぜ」
    「はっ、どうやらそのようだな。んじゃま、短い間だがよろしくやろうぜ!」
     短い会話の後、絶鬼が大地を蹴って駆け出した。
     恭太朗は刀を抜き放ちながら竜が如き水氣を体中に巡らせて、三百六十度、何処から攻撃を受けても大丈夫なように防御を固めていく。
     初手は真正面から、という心持ちか。絶鬼が小細工抜きで殴りかかってくる。
     一撃目は水氣で受け止め一歩下がった。
     二撃目は刀で弾いて一歩下がった。
     三撃目は足をもつれさせたふりをして、尻もちを付きながらも回避する。
    「……ほう」
    「っ……さすがの馬鹿力だな」
     転がるように退避し距離を取り、勢いに任せた立ち上がった後に戦の神を降ろしていく。
     刀の切っ先を絶鬼へと突き付けて、口元に笑みを浮かべていく。
     もっとも、余裕はない。
     受け止めるだけで四分の一は持って行かれた以上、まともに受けてしまえば果たしてどうなってしまうかわからないのだから。
     それでも、恭太朗は退かない媚びない顧みない。仲間が来てくれると信じ、自らを保つことを再優先に絶鬼の攻撃を受け止める!
    「っ! 流石じゃねぇか!」
    「どうも……っと」
     腕に伝わる衝撃が骨に軽いひびを入れた時、慣れた気配を感じた。
     絶鬼を見据えたまま息を吐き、冗談めかした調子で声を上げていく。
    「うわぁん皆あのおっさんホモなんです!」
    「おいおい、そりゃねぇだろ! 確かに俺が魔王でお前が姫とは言ったがよ! ……ま、勇者様一行のご登場だ。全力を持って出迎えようじゃねぇか!」
     絶鬼もまた破顔し、空に向けてショットガンをぶっぱなした。
     公園中に轟く銃声が、本格的な戦いを告げる鐘となる!

    ●力による証明を
    「ようやく見つけた……絶鬼!」
     銃声が響き続ける中、結城・創矢(アカツキの二重奏・d00630)が声を張り上げた。
     絶鬼の懐へと入り込み、肥大化した拳で殴りかかる。
     クロスした腕に阻まれ、肉体に突き刺すことは叶わない。
     故に仲間たちを導かんと、巨体を押さえ込みにかかっていく。
     顔を見て気づいたのだろう。絶鬼が口の端を持ち上げた。
    「ほう、てめぇは」
    「あの日受けた屈辱……俺は、俺達は、一度たりとも忘れた時は無い。自分の無力をあの日ほど強く感じた時は、後にも先にも無い。それでも!」
     創矢は殺気を感じると共に飛び退り、反撃に備え身構えた
     更に大きな声を上げ、決意の言葉を響かせる。
    「今の俺達はあの時とは違う。お前を倒す、その為だけに手に入れた刃、手に入れた力で……今日こそ、決着をつけさせてもらう!」
    「はっ、やれるもんならやってみろ。その、覚悟のない状態でな!」
    「あの時の借りを返しにきたよ!」
     絶鬼が踏みだそうとした刹那を狙い、華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)が斬りかかった。
     太い腕に阻まれ刃を食い込ませることしかできていないけれど、守るための力は獲得。弾かれた衝撃に乗って距離を放ち、強く睨みつけていく。
    「私の事、覚えてる?」
    「ああ……なるほど、戻ったか」
    「行くぞォ! 吉祥寺駅番白虎隊!」
     会話に気を取られていると思えるうちに、梅澤・大文字(張子の番長・d02284)が大号令を響かせた。
     おしにん! と恭太朗ら駅番メンバーが呼応した上で、大文字は改めて下駄を響かせ走り出す。
    「業炎番長漢梅澤、参る!」
     側面へと回り込み、いかつい頭部に狙いを定めた。
     マントを靡かせながら熱く、力強いビームを放ち、絶鬼の意識をひいて行く。
    「……ほう」
    「この業炎番長、漢梅澤の愉快な仲間達に手ェ出したらどうなるか……六六六のクズに思い知らせてやるぜ!!」
    「いいねぇ、その意気。なら、全力でやってみろ!」
     灼滅者たちの攻撃の後、最初の反撃へと移行した絶鬼。
     鈍い音が響いていく傍らで、清浄院・謳歌(アストライア・d07892)は恭太朗を照らしていく。
    「恭太朗さんは……うん、大丈夫みたい。だから全力で支えてけば、きっと……!」
    「……絶鬼さん見た目からしてガチじゃん……こんなのに狙われて恭太朗……南無」
     丹生・蓮二(パラダイムシフト・d03879)は足を強打された大文字に代わり最前線へと立ちながら、肩越しに霊犬のつん様へと指示を出す。
    「次は番長を頼む。俺は……」
    「慌てん坊の魔王だろうが鬼だろうが、最後は倒されるのが相場ってね!」
     拳に霊力を込めて殴りかかっていく蓮二に合わせ、水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)もまた剣を掲げ切り込んだ。
     手のひらに、腕に阻まれてしまったけれど、仲間とともに数度重ねてきた以上、内部には衝撃として伝わっている。
     そのはずだと、創矢は二人と入れ替わるようにして飛び込んだ。
    「この一太刀……見切れるか!」
     大上段から斬りかかるも、硬質な肩に刃は早々通らない。
     弾かれることもない創矢の体を、大文字がショルダータックルで押しのけた。
    「っ!」
     傷を癒やし終えたばかりの右足が、ショットガンによる殴打で砕かれる。
     唇を噛み締め耐えぬいて、大文字は絶鬼を睨みつけた。
    「アソんだ代金は……キッチリ命で払って貰うぜ!」
     不愉快なゲームを止めるため、絶鬼を決して逃さぬため。
     誰も闇堕ちしないよう、誰かが命を落とすことがないように、大文字はただ守るために行動する。
     絶鬼は笑みこそ浮かべれど、決して手を緩めることはない。
     拳が、ショットガンが風を切る度に、癒やしきれぬ傷跡が灼滅者たちへと積み重なる……。

     寒々しい冬空の下で繰り広げられている、熱のこもった激しき死闘。
     氷結すれば勢いも削げる……といったところか。朝比奈・夏蓮(アサヒニャーレ・d02410)が、氷の塊を生み出し発射した。
     絶鬼の羽織るジャケットへとぶち当てて、拳大ほどの範囲を凍りつかせる事に成功する。
    「冬に氷漬けっていうのも素敵でしょ?」
    「確かに冷てぇなぁ。だが、この程度じゃ」
    「ま、そう簡単にヤれる訳ねぇだろーが……」
     余裕の声を上げる絶鬼の元へ、楸が影を向かわせた。
     広げた影で飲み込むも、即座に打ち破られてしまう。
     問題ない、と口の端を持ち上げて、剣を横に構え直した。
     影が視界を塞いだ一瞬のうちに懐へと入り込んでいた恭太朗が、氷結したジャケットを下から切り上げる。
    「この程度じゃ、だって?」
    「はっ、やっぱ違うねぇ。覚悟ある奴の一撃は……」
     砕けた氷はたくましい肉体へと突き刺さり、周囲をも氷結させていく。寒さを感じた様子はないけれど、少しずつ蝕むことはできているはず。だから……。
    「きょたろーを狙ったんだから、簡単には逃がさないよ……!」
     夏蓮は拳に強い霊力を送り込み、跳躍した勢いのまま殴りかかっていく。
     恐怖を心の内側へと押し込めて。
     全てを恭太朗を、仲間を守り、絶鬼を倒して全員で変えるとの想いで満たしたまま。
     頬を捉えた一撃は、たくましい肉体を拘束する霊力を解き放つ。
     今はまだ堪えた様子などないものの、重ねてゆけば……。
    「行けるよ、うん!」
    「はっ、その強気もいつまで持つかなぁ!」
    「テメェが倒れるまで……倒れた後もだ!」
     挑発的な疑問を、楸が大きな声で打ち消しつつ、高く、高く飛び上がる。
     大上段から剣を振り下ろし、右肩に食い込ませることに成功した。
    「闇堕ちの次は暗殺……そんな悪趣味なやつを野放しになんてできねぇからな!」
    「ははっ、だったら押し通して見やがれ、その意地を!!」
     即座に弾かれてしまうも、刃には僅かな赤が伝っている。
     少しずつ、確実に攻めている事はできていると確信し、灼滅者たちは更なる攻勢を仕掛けていく……。

     ショットガンを放った後の一撃、ショットガンによる足を狙った殴打、素早い拳による連撃……どれも、守りに優れる者以外は二撃と受けられない威力を持つ。
     三発ほどもらってしまった蓮二は距離を取り、深く、深く呼吸を整えた。
     宿敵との対峙は武者震いがしてしまう。嫌いな六六六人衆が、今、目の前に存在する。
     すでに、友達が暗殺されることは防いだ、させなかった。
     仲間を、特に恭太朗と、一度堕ちている灯倭は守りたいと誓っている。だからこそ、常に万全の状態を整えんと、協力して攻撃を防ぐのだ。
     傍らには、つん様。力強い眼差しで、顔色を取り戻していく蓮二を見つめている。前に出るための力を与えている。
     前方では、創矢が剣を掲げていた。
    「今一度……!」
    「はっ!」
     僅かな電灯にきらめく刃はショットガンに受け止められ、強い衝撃だけを絶鬼の体へと伝えていく。
     直後に灯倭が切り込んだ。
    「っと」
    「そこっ!」
     絶鬼が体を逸らした刹那に手首を返し、胸元を薄く、されど確実に切り裂いた。
     勢いのまま身を寄せて、絶鬼の瞳を至近距離から睨みつけていく。
    「あれから、闇堕ちや、護る事について沢山考えた……堕ちた恩人の命も、助けられなかった」
     積み重ねてきた経験が、思いが、彼女を再び絶鬼との戦いに呼び寄せた。
    「その中で出した、今の私なりの答えを見せる。誰より大切な人を護る為以外には…そして護りたいものをずっと守り続けるためにも、私は二度と堕ちない」
    「……ほう」
     絶鬼が瞳を細めたのを合図に、灯倭は杭打ち機を持ち上げた。
     ショットガンによって足が砕かれるのも構わずに突き立てて、ノータイムでトリガーを引いて行く。
     右肩を貫いた上で、変わらぬ瞳で言い放った。
    「その為に強くなる。その覚悟を、お前を倒して、今見せてあげる……!」
    「……やってみろ。俺は、その意地も覚悟も、砕くだけだ」
    「やれるもんなら!」
     言葉を被せ、蓮二が飛び込んだ。
     霊力を込めた拳でぶん殴り、絶鬼の体を軽く確実に縛り付けた。
    「やってみな! まあ、やらせねぇがな!」
    「力あるものが全てを通す。通したいなら、示してみろ!」
     拘束することは叶わず引きちぎられる。
     その勢いのままに放たれた拳が蓮二の胸に、肩にみぞおちへと突き刺さった。
     積み重なってきたダメージがここに来てリミットを超え、治療をしたとしても一撃受けられるかわからない状態へと追い込まれる。
     されど、蓮二は最低限度以上に退くことはない。
     呼吸を整え、つん様の治療も受け取って、口元に笑みを浮かべたまま絶鬼を睨みつける。
    「は、何でも思惑通りになると思うなよ? のこのこ出てきた事を後悔しな!」
    「そこだよ!」
     蓮二の言葉を証明するかのように、夏蓮の放った影が絶鬼の手足を縛り付けた。
     積み重ねてきた拘束の残滓が功を成したか、綱引きできる程度の抑えこむ。
    「くっ……」
    「今のうちに治療を! 攻撃を!」
     絶好のチャンスを逃すなと、夏蓮の声に呼応し灼滅者たちは攻め込んだ。
     この一瞬ではまだ、倒せない。けれど、勝負の天秤は灼滅者たちの側に傾いて……。

    ●意地を押し通せるのが力だけならば
     一撃受けられるかもわからないと思われた拳を、蓮二がぎりぎりの所で受け止めた。
     先ほどの目測を誤ったわけではない。
     絶鬼が弱まっている証拠なのだろうと、謳歌は杖に力を込めていく。
    「もう少し、もう少しで倒せるよ! 最後まで油断せずに頑張ろう!」
     絶鬼の背後へと回り込み、背中に向かってフルスイング。
     爆発する魔力に揺らぐ絶鬼の懐に入り込んだのは、刀を鞘へと収めた創矢。
    「貴様を斬るために鍛えた刀だ……切れ味は身を以て知ってもらおう!」
     答えも待たずに、居合一閃。
     断つ事こそ叶わぬも、腹部に鋭く、深く食い込ませ、常人ならば致命傷となるだろう深い傷を刻み込んだ。
     なおも振るわれたショットガンは、大文字の影が絡め取るように受け止める。
    「そろそろ仕舞いだ。何でも燃やす漢の炎で丸焦げにしてやるよ!」
    「……はっ!」
     返す刀で振るった炎を纏いし影刃は、たくましい足によって止められた。
     片足を動かした以上、早々に動けるわけはないだろうと恭太朗が飛び上がる。
    「今日だけ俺はお前の殺人鬼になる」
     自由を削ぐ技を刻んだ後、幾度も重ねてきた大上段からの斬撃。
     硬い皮膚に阻まれてなお続けてきた全身全霊の斬撃が、左肩に深く、深く食い込んだ。
     断ち切る事こそできなかったものの、もはや、左腕を動かすことはできないだろう。
    「ぐっ……」
    「のこのこ出てきやがったのが貴様の運のツキだ。とっとと永眠しやがれ」
     すぐさま楸が飛び込んで、左脇腹に鋭き斬撃を刻んでいく。
     振り抜くとともに退いて、謳歌が飛び込むための隙間を開けていく。
     謳歌は剣に力を込め、非物質な存在へと変化させた。
     守護の想いが、討伐の願いが導くままに突き出して、体の中心を深く、深く貫いていく。
    「今だよ!」
    「……」
     動かず、沈黙する絶鬼。
     謳歌を除きもっとも近い場所に位置するは、灯倭。
     静かに睨みつけたまま、ただまっすぐに杭打ち機を左胸へと突き立てた。
     間髪入れずにトリガーを引き、誤る事なく貫いて……。
    「……私達の勝ち、だね」
    「……ああ」
     貫かれたまま、絶鬼の姿が薄れていく。夜の闇へと、溶けて行く。
    「ったく、ずいぶんと強くなったもんだ……ああ、そうだな、敗者に何かを言う権利はねぇ。祈ってやるよ、テメェらが、意地をいつまでも押し通していけることをなぁ!」
     呟きが風に運ばれた時、絶鬼もまた跡形もなく消滅した。
     静寂を取り戻した公園で、灼滅者たちは安堵の息を吐き出して……。

     傷が、痛みは残り、されど全員健在なまま勝利を収めた灼滅者たち。
     一気に緊張の糸が切れたのだろう。夏蓮がその場に座り込む。
    「良かった……勝てて、みんあ無事で……」
    「恭太朗姫、大丈夫だった? 主に貞操とか」
     少しでも精神的疲労が紛れるように、謳歌は冗談を飛ばしていく。
     言葉を受け止めおどける恭太朗の腰に、蓮二が軽く手を伸ばした。
    「んじゃ、帰還時にお姫様抱っ……この姫デカイ」
     姫と呼ぶにはいささか大きすぎる男、恭太朗。彼を中心としたやり取りは灼滅者たちに笑顔を与え、帰還するための活力を湧き上がらせた。
     さあ、帰還しよう! 全員の無事を伝えるため。六六六人衆の討伐を伝えるため。
     報告を待つ仲間たちが集う学び舎へ……!

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 20/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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