王様のお菓子

    作者:佐和

     外の寒さに少し身を震わせてながら、秋羽は寮の自室へと戻った。
     暖房がじわじわと温かさを伝えてくるのにほっとしながら、コートを脱いで。
     落ち着き、椅子に座ってから、受け取ったばかりの手紙の封を切る。
     そこには懐かしい几帳面な文字が並んでいた。
    『秋羽へ
     面白い食べ物を見つけたので発送を手配した。
     ガレット・デ・ロワという、フランスの正月に食べられるパイだそうだ。
     サクサクしたパイ生地に、アーモンドクリームを詰めて焼いてあるらしい。
     フェーブという小さな陶器製のミニチュアが入っていて、当てた人には幸運が訪れると言う。
     秋羽と、秋羽と共にいてくれる仲間達に、新年も幸運が巡るように。
     追伸 年末も正月も東京へ戻れなくてすまない』
     気付くと、封筒の中にはもう1枚、紙が入っていた。
     寮の住所と秋羽の名前、そして父の名前が書かれた配送票。
     そこには、到着予定である1月初旬の日付と共に、品名も書いてあった。
    『ガレット・デ・ロワ 10ホール』
     ……結構な量を手配してくれたものである。
     到底1人で食べる量ではない。
     どうしようかと秋羽は考える。
    「……みんなで、公現祭?」
     そして、仲間を探すべく、秋羽は再びコートを手にして寮を出た。


    ■リプレイ

    ●公現祭のガレット
     教室に持ち込まれたガレット・デ・ロワを最初に出迎えたのは凶堂・零士(d21854)。
     料理人の端くれとしての興味と、持参した道具とで、綺麗にパイを切り分けていく。
     傍らでは風輪・優歌(d20897)が用意してきた紅茶の支度を始めて。
    「ミオもフランスの紅茶を持って来たのです」
    「ハーブティーもどうですかね?」
     樒・ミオ(d22380)と紅羽・流希(d10975)も茶葉を差し出した。
     準備が進み、段々と盛り上がっていく教室。
     紅茶を注ぎつつそれを見回すと、優歌の顔に自然と柔らかな笑みが零れていく。
     その横に、どさっ、と重そうな段ボール箱が詰み上がる。
     驚く優歌に気付いて、にかっと笑ったのは伊集院・二郎(d22953)。
    「王様っつったら! 俺様が参加しないわけにゃいかねえだろ!」
     ばしっと叩いた段ボールには『伊集院農場 王様のジャガイモ』と書かれていた。
    「あとトマトもあるぜ!」
    「それ、どうされるのですか?」
    「……さあ?」
     宣伝のためと持ち込んだはいいものの、さして考えてなかったらしい。
     とりあえず、二郎はパイと一緒に配り始めた。
    「日本ではお正月にお節やお雑煮を食べるでしょう?
     フランスではね、新年のお祭りに必ずこれを食べるの!」
     選んだパイを前に、オデット・ロレーヌ(d02232)の説明を聞くのは【猪鹿蝶】の面々。
     日本のことを教わってばかりのオデットは、普段とは逆の状況に嬉しそう。
    「たくさんお友達を呼んで、切り分けて食べるのよ」
     切ったパイのどれを誰に配るか、テーブルの下から大人の問いに名前を答えていった幼いあの頃を思い出しながら、オデットは説明を続ける。
    「優しい菓子なんだな」
     大事な友人との大事な1年になる様に。
     そんな願いを感じ取って、一條・華丸(d02101)は改めてパイを見た。
    「しかも御神籤っぽい事も兼ねてるなんて超盛り上がるよ!」
     早速フォークを握った姫乃井・茶子(d02673)の瞳もキラキラ輝いて。
    「今日は俺達とフランスの正月を分け合おうか」
     殿宮・千早(d00895)の言葉で、それぞれ選んだパイを口にした。
     話はさらに弾み、話題はパイの中身に移っていく。
    「きっと白鳥だな」
    「鳩だったら嬉しいかな。平和の象徴。だけど同時に、戦の神の八幡様の遣い。
     私達にはピッタリかもって思うんだよ☆」
    「私は青い鳥のがいいわ。皆が私の青い鳥だもの」
     各々の意見を聞く千早の皿の上、転がり出たのは幸運を呼ぶふくろう。
     千早はフェーブにキスをして、オデットへと差し出した。
     日本での今日のガレットが、新しい思い出の1頁になるようにと。
    「パイに人形を入れるって、これのことだったんだ」
     緑茶を注ぐ金岡・劔(d14746)は、【砂糖・甘味研究会】の1人。
    「てか、食いもんの中に陶器を入れる発想……フランス、すげーな」
     まずはと1切れずつ取ったパイを見つめ、崎守・紫臣(d09334)も呟いた。
    「あ、パイの中にまたパイのフェーブとかどうです?」
     紅茶を用意する一條・京茅(d09341)は良く分からない提案に顔を輝かせ。
    「いっそ、マスタードたっぷりなフェーブにしてもいいんじゃね?」
     ファルケ・リフライヤ(d03954)に至っては、本来のフェーブの役目から離れた方向へ暴走していく。
     トッピングしても美味しそうと、劔がジャムを、京茅とファルケがクリームや蜂蜜などを用意して。
     それらでパイを飾って、いただきます。
    「策におぼれるとはまさにこのことかっ!!」
     こっそり混ぜておいたマスタードを自らトッピングしてしまったファルケが悶絶する前で。
     劔は、がりっと固い歯ごたえを感じた。
     あわや噛み砕かれかけたのは、熊の形のフェーブ。
     早速、紙の王冠を被った劔は、空になった皿を差し出して命令した。
    「もう1つパイ下さい!」
     同じく皿を空にした京茅は、きょろきょろ周囲を見回して。
    「ま、まだあっちの机には……」
    「あ、こらこら。一條、食べ過ぎるなよ。足りなければファルケに作ってもらってだな……!」
     突進する京茅の勢いを止めつつ、紫臣は女王様へのパイを取りに行く。
     でも、本当に止めるべきなのはここかもしれない。
     そう思える勢いで、八鳩・秋羽(dn0089)はひたすらもぐもぐもぐもぐ。
    「秋羽さん、ほんとに食べるの大好きなんですね」
     それを眺めながら、北南・朋恵(d19917)が微笑ましげに笑った。
    「紅茶、いかがですか?」
     勧めてくれたミオにこくりと頷き、カップを受け取るも、秋羽の口はいっぱいのまま。
     その様子にミオも笑って、
    「それじゃあミオも頂きますです」
     秋羽の隣に座ると、パイをぱくんと口に運んだ。
     秋羽と同じく無言でもくもくと食べ続けるのは大山田・小太郎(d20172)。
     食べたことのないパイをゆっくり堪能していると、不意に声がかけられる。
    「ハーブティーはいかがでしょう?」
     顔を上げた先には、流希の笑顔と不思議な香りのお茶。
     面白そうに覗き込んで、小太郎もカップを受け取った。
     真中・翼(d24037)は勢い良く、切り分けられたパイにかぶりついて。
    (「そういや、フェーブとかってのが入ってるんだっけ?」)
     幸い外れだったが、入っていたら歯が折れていたかもしれない。
    「というか、当てたら幸運なものが原因で不幸な目にあうのはゴメンだぞ!?」
     おかわりは慎重に、そっとかぶりつくことにする。
    「幸運の入ったお菓子、なんてとっても素敵ですよね」
     わくわくしながら、大場・縁(d03350)はフォークを動かす。
     楚々とした手つきでフェーブを探すその隣で、山田・透流(d17836)も、無表情な瞳の奥に同じわくわくを抱いていた。
     美味しさと期待の中、気付けば、増えるは空の皿ばかり。
     ちょっと食べすぎかと思いながらも次の皿を手に取ると、フォークに初めての固い手応え。
    「わあ、白猫さんのふぇーぶ、ですねっ!」
     覗き込んだ縁が顔を輝かせた。
     紙の王冠をかぶって、お姫様気分でくるり1回り。
    「自分じゃなくても、当たった方に幸運が訪れると思うと嬉しくなっちゃいますね」
     透流に拍手を送って、縁はふわりと微笑んだ。

    ●王様のキス
    「これは、アーモンドクリームと……模様はナイフで入れているのかな……?」
    「いやはや、興味は尽きませんねぇ」
     パイを眺めて真剣に考え込む類瀬・莉茉(d22592)に、流希も作り方を考えながら頷いて。
     切り分けの終わった零士は、今度は手帳を取り出して、自分の分のパイを手にする。
     やはり料理は食べてみなければ分からない。
     口の中に広がる甘さを味わいながら、思い当たった材料を手帳に綴る。
     莉茉も倣うように、フォークをパイから口へと運んで。
    「あ、美味しい……」
     美味しさに自然と頬が緩んでいった。
     じっくり味わい楽しみながら、おうちで作れるかな、と次の楽しみに胸を弾ませる。
     ハーブティーを啜りながら、流希もパイを1口、2口。
    「おや、これは王子様、ですかね?」
     そこにころんと転がったフェーブを、朋恵が羨ましそうに覗き込む。
     流希は微笑むと、フェーブを朋恵へと差し出した。
    「幸福とは、分かち合うことが楽しいと思いますので」
    「お姫様、ですね」
     紙の王冠を、莉茉が朋恵の頭に乗せる。
     おろおろしていた朋恵だけれど、ふとフェーブのルールを思い出す。
     幸福が1年続く、とかをすっ飛ばして思い浮かんだのは、王様は好きな人を選んで……
    「き、キスなんて……できませんです……!」
     何故かトマトをかじっている秋羽を一瞥してから頬を真っ赤に染め、じたばた手を振り回した。
    「では可愛らしい姫君に1曲贈りましょうか」
     流希は微笑ましげに笑ってウクレレを取り出し、ぽろろんと奏で出す。
    「何はともあれまずは! 今年もヨロシクねー」
     志塚・慧杜(d03025)の挨拶から始まったのは【分水嶺】。
    「改めまして、あけましておめでとう!」
    「うん、今年もよろしくね」
     年が明けてもう既に何度も会っているけれど、エルメンガルト・ガル(d01742)と竹端・怜示(d04631)も笑顔で挨拶を返したら。
     次はパイ、と食べ始める。
     相変わらずマスクを外さずに飲み食いする怜示よりも気になるのは、フェーブの行方。
     その中で、ハート型のフェーブを当てたのは慧杜のフォークでした。
    「どう? 似合う? 女王様ですわよ!」
     早速、王冠を被った慧杜は、それらしくえばってみる。
     そんな慧杜と、怜示を交互に見たエルメンガルトは、
    「それで、女王様。キスするの?」
    「ななな何言ってんだよ」
     わくわくした瞳を前にして、うろたえる女王様。
     けれども、怜示はそんな慧杜の前に跪き、
    「麗しき女王陛下に……」
     そっと手を取り、爪の先に口付けを捧げる。
    「こんな感じかな?」
     尋ねる怜示の手を、真っ赤になった慧杜が慌てて振りほどいた。
     ティーセットを準備しながら、霧渡・ラルフ(d09884)は懐かしげに目を細める。
    「ガレット・デ・ロワ……昔一度食べたことがありますネェ。
     日本のおせちもおいしいデスが、新年をお菓子で祝うのもなかなかイイものデス」
    「世界にはいろんなお祝いがあってとっても素敵!」
     上條・雅(d11260)もうきうきわくわく。
     各々選んだパイを、1口ぱくり。
     美味しさに綻ぶ笑顔を向け合った。
     けれども残念ながらどちらの皿にもフェーブはなくて。
    「当たったら、誰にキスをするつもりデシタか?」
    「もう、聞かないでよそんなこと……」
     それでも一緒に居られるだけで幸せだから。
    「えっと……今年もよろしくね、らるる」
    「ハイ、雅嬢」
     【鈴鳴り】は、初めてのお菓子にも初めて皆で過ごす一時にも胸を弾ませて。
     初めて尽くしに勿忘・みをき(d00125)は少し緊張気味。
     紅茶を注ぐ烏丸・鈴音(d14635)の意識も、ふと手元から反れてしまう。
    「すず先輩、氾濫、危機……!!」
     壱寸崎・夜深(d03822)の慌てた声に、溢れる寸前で留まる琥珀色。
     くすりと微笑んだ雨嶺・茅花(d02882)が、浮いた爪先を揺らしながら楽しげにそれを眺める。
     夜深のにだけ角砂糖を2つ転がして、鈴音が紅茶を配ったなら。
     次は香ばしいアーモンドの味を楽しむ時間。
    (「こうして人と茶会をするのも、悪くはないな」)
     緊張もほぐれたみをきは、また次も誘ってみようと考えて。
     鈴音と共に、驚きにフォークを止めた。
     転がり出たのは、小さな天使と妖精のフェーブ。
    「王様! 恭喜恭喜!!」
    「ん、とても似合ってる」
     拍手を送る夜深と、紙の王冠を渡して頬を緩める茅花に、2人は照れ笑い。
     けれども。
    「おにーさん方、幸せ分けて?」
     女王様へのキスを、と促されて、一転、困惑顔。
    「……その、投げキスで勘弁して下さい」
     赤面したみをきは、ダメ、ですか? と伺って。
     一方の鈴音は、小さな雛の縫いぐるみを取り出した。
     夜深の頬へと近づけて、その口がふんわりと触れれば、少女は嬉しげにぴょこりと跳ねる。
     続いて茅花へ、そしてみをきにも、ふわふわのキス。
    「皆々様が1年幸せでありますよう」

    ●幸運のフェーブ
    「パイの中にフェーブが入っていたら1年幸運が続くなんて素敵だね」
    「折角ならフェーブが当たると良いですね」
     素敵なジンクスに目を輝かせていた有馬・由乃(d09414)だけど、1口食べたならその美味しさに顔を綻ばせて。
     食べられただけで満足そうなその様子に、葛籠・慎一郎(d21376)はくすくす笑って自分のパイにフォークを入れた。
     かつん、とパイの中に感じた小さな手ごたえは、陶器の指輪。
     綺麗に拭いて、由乃に差し出すと、
    「頂いて良いのですか? 可愛い。ありがとうございます」
     嬉しそうに受け取る彼女に、慎一郎は未来を夢見て目を細めた。
    (「いつかきちんとしたものをあげたら、由乃は受け取ってくれるかな?」)
     ゆっくり2人のお茶を楽しむのは森田・依子(d02777)と鈴木・昭子(d17176)。
    「フェーブも色んな形があるみたい。
     カラフルな亀とか、長寿モチーフっぽいからありそうじゃない?」
    「亀さん、かわいいです。縁起物です」
     温かな紅茶も添えて、パイをそうっと崩してわくわく運試し。
     昭子の皿にころんと転がり落ちたのは、青い鳥のフェーブ。
     拍手を送る依子へと、昭子はそっとフェーブを渡して。
    「幸運をお裾分けできるほど近くにいてくれることこそが、わたしのさいわいですから」
     ふんわり微笑む昭子を、青い鳥ごと依子はぎゅっと抱き締めた。
    「本当に……無事で良かった」
     笑顔で共に1年を紡ぐ。それが2人の幸せだから。
    「んー。旨いなーっ」
     パイを味わっていた逢坂・兎紀(d02461)は、傍らの二之瀬・夕姫(d07010)の視線が隣で出たフェーブに向いているのに気付く。
     フェーブに興味はなかった兎紀だが、夕姫のその姿が何となく残念そうに見えて。
     ふと、今日つけていたヘアピンの柄を思い出して、それを外した。
    「それじゃ、夕姫にはこの王冠やるよ」
     夕姫の髪に、外したばかりの小さな王冠をつけて、兎紀はにっこり笑う。
    「ありがとう、ございますです……!」
     思いがけない王冠に、夕姫は小さくお礼の言葉を紡ぐのが精一杯。
     フェーブが当たらなくても幸せが訪れてしまった模様。
     ヘアピンにそっと手を触れて、夕姫は嬉しそうに微笑んだ。
     ガレット・デ・ロワに興味津々の【ひび】は、香りを楽しみ模様を眺めて。そして勿論。
    「フェーブはどこに入ってるのかなあ」
    「どれにフェーブが入ってるんだろう……」
     アッサム紅茶を入れる小豆里・霧湖(d20756)の呟きに重なったのは桑子・千鶴(d02524)の声。
     顔を見合わせた2人は思わず笑い合う。
    「うぅ、全然決められません……」
    「あの、せーので指差して決めませんか?」
     悩む穂之宮・紗月(d02399)に千鶴が出した提案は、賛成の声に囲まれる。
     皆で、せーのっ。
     4つの指が示したパイは3切れ。
    「あっ、ミル先輩と同じの選んじゃった!」
    「ははっ、本当だ。霧湖と好み似てるのかも?」
     霧湖と重なった結城・美流(d07009)は楽しそうに笑って、まずは2人で1つを半分こ。
     でもその1つに入れた霧湖のフォークに、こつんと固い手応え。
    「こういう時は……えぇと、フェーブの幸せも半分なんでしょうか?
     幸せお裾分けみたいでとっても素敵な気もしますけれど」
     紗月が首を傾げる横で、千鶴が微笑みながら美流に紙の王冠を手渡すと。
     美流は、照れる霧湖の頭に王冠を乗せた。
     女王様は、むしろ幸せは相乗効果と、マカロン型のフェーブを掲げ、
    「今度は皆でこれを食べにいきましょう!」
     下した命令に、美流と紗月が嬉しそうに拍手を送る。
     それを眺めて、千鶴はくすりと笑った。
     
    「きっと、今年も幸せな1年になりますね」
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月15日
    難度:簡単
    参加:38人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 6
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