皆殺しの順番

    作者:天木一

    「あれ? どこだ……ここ?」
     戸惑った表情で紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)が周囲を見渡す。
     暗い屋外。人気の無い場所。何よりそんな場所に移動した覚えがない。
     映画のシーンが切り替わったように、突然目の前の映像が変わっている。
     視界の端に人影が映った。スーツ姿の男が手に提げたコンビニ袋から、湯気の立つ肉まんを取り出すと旨そうに頬張る。
     腹が空いていたのか、三口で平らげると次の黄色い皮のカレーまんに取り掛かる。
    「ま……さか……」
     殊亜はその男を凝視する。確かに見覚えがある。そう、それどころか――。
     男はデザートのあんまんを食べ終えオレンジジュースを飲み干すと、ゴミをきっちりと袋に入れて括る。そしてポケットから取り出したハンカチで口を拭った。
    「ふー……待たせたかな? いや、こう寒いと温かい中華まんが美味しくってね」
     気さくな笑みを浮かべて男が殊亜と向き合う。
    「お前は……」
     声が掠れ背筋に冷たいものが走る。間違いない、殊亜はその男を知っていた。
    「あけましておめでとうございます。お久しぶりだというのに、こんなところに呼び出してすまないね」
     男は申し訳なさそうに頭を掻く。
    「君達と遊んだ前回の闇落ちゲーム。私が勝ったと思っていたのだけど、君、そう君が堕ちて私が勝った……はずだったのに」
     じろじろと男は殊亜を凝視する。
    「あーやはり戻っているね。どうやら詰めが甘かったということですか……私の負けですね」
     大げさに溜息を吐き男は天を仰ぐ。
    「何の用だ……四九五番……」
    「あーなに、新しいゲームに誘われたのも一つですが、君はゲームを遊び終わったらどうします?」
     声を絞り出し質問した殊亜に、男は質問で返す。
    「遊んだ後は後片付けするでしょう? 出した玩具はちゃんと元の箱に片付ける。私はどうもそういうのが気になる性質でしてね」
     男は横に置いてあった鞄から無造作に自動拳銃を取り出す。
    「君達という玩具で遊んだのなら、ちゃんと最後まで片付けてしまわないと、気になって仕方ないんですよ。だからまずは君が最初の一人です」
     そう言って男は何かを投げつける。
    「……サイコロ?」
     掴んだのは6の目が上を向いた普通のサイコロだった。
    「ほう、出た目は6ですか。それなら約束しましょう。6発の弾丸を撃ち込んで君を殺すと」
     銃口が向けられると、殊亜も覚悟が決まった。
    「なら俺も約束するよ。6等分に斬り裂いてあの時の片をつけてやる……鈴木太一!」
     炎を纏った光の剣でサイコロを斬り飛ばすと、絶望的な戦いにその身を投じた。
     
    「みんな、六六六人衆がうちの学園の灼滅者を襲撃するみたいなんだ!」
     焦りの見える顔で能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が事件の説明を始める。
    「襲われるのは紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)くんだよ。このままだと……確実に死んでしまう。急いで助けて向かって欲しいんだ!」
     大変な事態に集まった灼滅者の顔も引き締まる。
    「他にも狙われている人がいるみたいだけど、襲われるのはどうも闇堕ちゲームで勝った灼滅者みたいだね」
     殊亜もまた闇堕ちゲームに参加した一人だった。
    「どうやってかは分からないけど、敵は邪魔が入らないよう屋外に殊亜くんを呼び出すみたいなんだ」
     それを避ける事はできない。夜の全く人の居ない場所で敵と出会う事になる。
    「急行すれば、そこで戦いが始まる直前には間に合うはずだよ」
     事態は急を要するが、救いは一般人が全く居ない場所だということだろうか。邪魔にならないよう人払いがされているのかもしれない。
    「敵は六六六人衆の四九五番、鈴木・太一だよ。以前、闇堕ちゲームを行なったダークネスでもあるんだ。強敵だけど、一般人が居ない分こっちも全力で戦闘が出来るからね、何とかなると思う」
     誠一郎が説明を終えると、隣で大人しく控えていた貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)が前に出る。
    「今回の事件は一歩間違うと仲間に被害が出る大変なものだ。だが皆で力を合わせれば強いダークネスであっても戦えるはずだ。微力ながらわたしもお手伝いさせてもらう。何としても救い出そう!」
     イルマは真剣な表情で戦う覚悟を見せると、他の灼滅者達も同じ気持ちで頷く。
    「みんな、どうか殊亜くんを連れて無事に帰ってきてね。それと、可能なら敵は灼滅して欲しいんだ。灼滅者を個別に狙うような敵だからね。野放しにはしたくないんだ。難しいかもしれないけど、お願いするよ。お正月はおめでたい日なんだから、きっと吉報が来るって信じて待ってるからね」
     誠一郎の信頼を背に受け、灼滅者は仲間を助ける為に戦いへと赴く。


    参加者
    紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)
    西条・霧華(高校生殺人鬼・d01751)
    神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)
    狩生・光臣(天樂ヴァリゼ・d17309)
    露裏・魂(残念な姓名・d19793)

    ■リプレイ

    ●暗殺ゲーム
     夜の帳が下りた大きな公園。その遊歩道で二人の男が剣呑な様子で対峙していた。
    「昔のままだと思うな!」
     炎を宿した光の剣を手に、覚悟を決めた紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)が先に仕掛ける。
    「存分に暴れなさい。難しいほどゲームは楽しくなるのですから」
     スーツ姿の鈴木・太一は楽しそうに迎撃する。剣を銃身で受け、銃口を向けて発砲する。殊亜は咄嗟に身をよじると、弾丸は左肩を赤く染める。
    「まずは一発」
     その時、周囲から鈴木に向かって幾つもの攻撃が放たれた。どす黒い殺気が覆い、氷柱が、影が、音波が襲い掛かる。
     鈴木はそれを銃弾で撃ち落し、鞄を盾に防ぐ。だが全てを防ぎ切れず、殺意に飲み込まれ、影が足と背中を斬り裂く。
     周囲を見渡せば、いつの間にか8人の灼滅者達が取り囲んでいた。
    「助っ人ですか、どうやら私の行動が知られていたようですね」
     油断無く、それでも余裕を持って鈴木は銃を構える。
    「殊亜くんを闇堕ちさせただけでは飽き足らず、今度は命まで狙うなんて……。これ以上、好き勝手はさせないよ!」
     神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)は霊犬の久遠と共に、恋人の殊亜を守るように前に立つ。
    「胸糞悪ィ」
     吐き捨てるように柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が敵を睨む。
    「下らないゲームに手を出した事後悔させてやらぁ!」
    「お前を倒して、全員無事に帰らせてもらう」
     縛霊手を構えて踏み込む高明と同時に、無造作に思える動きで呼吸を外し、間合いを詰めた吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)が反対側から縛霊手で殴りつける。
    「おおっと」
     鈴木は一撃目を銃身で捌き、二撃目を鞄で受け止める。だが衝撃で鞄は吹き飛び、霊糸が腕に巻きつく。
    「蓮華の花言葉をご存知ですか?」
     その隙に、陰から現われた西条・霧華(高校生殺人鬼・d01751)は眼鏡を外して表情を消していた。そして殺意も見せずに槍を突く。撃ち出された氷柱を鈴木は身を屈めて躱す。だがその背中に氷柱が突き刺さった。
    「貴様の好きにはさせるか! らぁ!」
     自らの感覚を鋭くした八咫・宗次郎(絢爛舞踏・d14456)は、敵の動きを読んだ一手を放っていた。鈴木は腕の霊糸を撃ち抜いて飛び退く。
    「誰も死なせはしない!」
     貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)の足元から漆黒の獣が起き上がる。影が獣となり鈴木の足に喰らいつく。
    「……お前はその体の本来の持ち主を、多くの人を死に至らしめた害悪。此処で其の首、貰い受ける」
     仲間を救う。狩生・光臣(天樂ヴァリゼ・d17309)は強い意思を胸に宿し、戦いに対する葛藤を踏み越えてギターをかき鳴らす。そんな想いの籠もった激しいメロディは、衝撃となって鈴木を打ちのめした。
     吹き飛ばされながらも鈴木は反撃する。光臣の頭部を狙う弾の前に露裏・魂(残念な姓名・d19793)が割り込んだ。放った光輪を盾にしてその一撃を受ける。
    「さて、こんなゲームを始めるからには自分の命を賭けてはいるんだろうな? どちらにせよこちらの方針は変わらんがな」
     掠めた弾にこめかみから血を流しながらも不敵に笑う。
    「いやはや、今回はワンサイドゲームかと思ってましたが、これで俄然面白くなってきましたね」
     鈴木は飛んでくる氷柱を撃ち落としながら、嬉しそうに殊亜を見る。

    ●強敵
    「残り5発。どこに撃ち込みましょうかね」
     殊亜から視線を逸らさぬまま、何気ない動作で宗次郎へ発砲した。弾丸が太股を貫く。
    「くそっ、気をつけろ!」
     宗次郎の警告の声。皆の視線が逸れた間に、鈴木は殊亜の前に居る紫へと距離を詰めていた。
    「来るよ!」
     殊亜が紫を守るように光輪を投げる。紫と殊亜が一直線に並ぶ位置に鈴木は踏み込み、銃弾を放った。
    「任せて! 久遠!」
     紫が縛霊手を盾にして光輪で減速した銃弾を受け、久遠が駆け寄り口に咥えた刀を振るうと、鈴木は間合いを開ける。そこへライドキャリバーのディープファイアが突撃して吹き飛ばす。
     受身を取って着地した鈴木の背に霧華が無音で近づく。足元から伸びた影が鋭く足に刺さる。そのまま刀の抜こうとした時、銃口が正面を向いた。霧華は咄嗟に左手を持ち上げる。撃ち出された弾丸は鞘に当たり軌道を変え脇腹を抉る。
    「……っ」
     思わず出そうになる声を殺し霧華は刀を抜き放つ。鈴木はそれを屈んで避けると更に銃口を突き付けた。
    「おいおい、標的を間違えてない?」
     魂が剣を振り銃身を弾く。銃弾は木に穴を穿つ。
    「ゲームに焦りは禁物です。まずは周辺から片付けていくのが、一番の近道だったりするのですよ」
     銃把で魂の頭を殴りつける。よろめいた所へ銃を撃つ。
    「そうはさせない」
     光臣の放った氷柱がその弾丸を横から弾いた。弾丸は地面に刺さり、逆方向から伸びた影が剣となって鈴木を斬りつけた。
    「袋叩きにさせてもらうぜ。お前に対してこれっぽっちも悪いとは思わねぇしな」
     高明は続けて影を動かす。鈴木は紙一重でその攻撃を避けながら銃口を向ける。放たれた銃弾をライドキャリバーのガゼルが受け止めた。
    「大丈夫か?」
     後方に下がった霧華の傷をイルマが癒す。
    「助かります、では……」
     血が止まると霧華はすぐさま氷柱を撃ち込み敵の動きを阻害した。
     迷彩を施した体で昴は視界から外れるように近づき、鈴木が振り向いた瞬間、縛霊手でボディブローを決める。放たれた霊糸が鈴木の体を縛った。
    「今だ!」
     昴の声に一斉に攻勢に移る。
    「さっきのお返しだ!」
     宗次郎が魔法の矢を放つ。足に開いた穴はイルマが塞いでいた。鈴木は躱そうとするが霊糸が絡まり動きが鈍る。矢は方向を変えて追尾し、鈴木の太股に突き刺さった。
    「その醜悪な心ごと溶けて消えろ」
     光臣が液体を撃ち出す。鈴木はそれを背中に浴びる。じゅっと焼けつく臭いと共に服ごと肉を溶かす。
    「あちちっあー冬とはいえ少し熱すぎですね」
     鈴木は振り返りもせずに光臣に向けて発砲した。その前に魂が立ち塞がる。剣で銃弾を受ける。弾は左腕を抉った。
    「二人揃って最強ってことを教えてやろう!」
    「ええ、私達の邪魔する輩に目に物見せてあげましょ!」
     殊亜と紫が息を合わせて仕掛ける。殊亜の炎の剣が横薙ぎに奔る。鈴木は屈んでそれを避けた。そこへ紫の影が地を這い鈴木の足を貫き縫い止めた。続けて久遠とディープファイアが銭と機銃で十字砲火を浴びせる。
    「行くぞ!」
     返す炎の刃が鈴木の首を狙う。だがその一撃は首の皮を傷つけた所で阻まれる。
    「このまま押し切れる……なんて思いました?」
     手品のように取り出した銃が左手にも握られている。それはピタリと殊亜の胸に押し当てられた。発砲。だがその弾丸は殊亜を押しのけて身代わりとなったディープファイアに直撃する。
    「強いカードを切り続けて勝てるほど、ゲームというのは甘くないんですよ」
     殊亜を助けようと動く仲間に、両腕を広げ二挺拳銃を乱射する。適当に撃っているように見えて、その射撃は正確だった。仲間を守るように魂、紫、久遠、ガゼルが攻撃を防ぐ。
     鈴木は銃口を殊亜に向け、引き金を引く。2発の弾が右腕と左足を貫通した。
    「うぁっ」
    「これで残り3発ですね。そろそろ敵わないと悟りましたか?」
     痛みを堪える様を眺め鈴木は更に撃つ。それを魂が庇った。
    「いったいなーもう」
     攻撃を受けながら魂は霧を展開し、自分と仲間の治療を行なう。
    「破邪の剣よ、戦士達に恩寵を」
     続けてイルマも青白く光る剣を掲げ、癒しの風を届ける。
     銃口を向ける鈴木に向け、地を這うように低い姿勢で駆けた霧華がすれ違い様に刀を一閃する。刃が胴を裂き血がスーツに滲む。
    「戦いはこれからです」
     その言葉は皆の気持ちを代弁していた。強敵なのは最初から分かっている。覚悟の上で戦っているのだ。闘志が衰える事は無い。

    ●死闘
    「ほう、覚悟はできているみたいですね。でもこれはどうですか?」
     銃口が紫に向けられた。殊亜の顔に焦りが浮かぶ。それを見て鈴木は口を歪める。弾丸が紫の両足を撃ち抜く。
    「いっ!」
    「ほらほら、早く助けに来ないと危ないですよ」
    「紫さん!」
     膝を突く紫の頭部に鈴木は銃口を向けると、殊亜は前に出ようとする。そこを撃たれた。右足と脇腹を弾が抉る。
    「ポーカーフェイスはまだまだですね、大切なものは隠しておかないと。次で最後ですよ」
    「あまり調子に乗るな」
     高明の影が槍となって左足を貫き、意識が逸れた瞬間に光臣が氷柱を放って右手を凍らせた。
    「いいのか、こっちを向いて」
     光臣の言葉に振り向く、そこには昴がいつの間にか近接していた。影が右足を斬り裂く。更に反対側から宗次郎の撃った氷柱が鈴木の左肩を凍らせた。
    「すぐに血を止める」
     イルマが霊力を放って殊亜と紫の出血を止め、殊亜も光輪で自らの深い傷を癒す。
    「やれやれ、邪魔ですね。少し減らしますか」
    「俺が居る限り無理だな」
     鈴木が宗次郎を狙うと、行かせないと魂が回り込む。2発の弾丸が放たれる。魂は光輪で防ごうとするが、1発がすり抜けて腹に当たる。
    「はっ……」
     口から息が漏れる。だがそれでも通さないと剣を構えた。銃口を向けられる。
    「させるか!」
     宗次郎が魔法の矢を撃って妨害しようとする。すると鈴木は狙いを変えて宗次郎を狙う。攻撃が交差する。宗次郎は足と胸を、鈴木は右肩に傷を負う。
    「油断するな、まだ仕掛けてくる」
     鈴木が続けて撃った銃弾に光臣が影をぶつける。
    「攻撃の手を休めず、追い込みます」
     霧華が背後から氷柱を放ち背中に突き刺す。
    「次々と!」
     鈴木は地に膝を突く。執拗な連続攻撃に体のあちこちが凍結し、足は傷だらけだった。
     昴が飛び込む。鋭い殺意を放ち、縛霊手を振り抜く。直撃する瞬間、鈴木は跳躍した。昴の頭上を取り銃弾を放つ。一発が腕を、もう一発が右肩から脇腹へと抜けた。
    「ぬぅ!」
     昴はそれでも倒れずに影を頭上へと伸ばし、鈴木の追撃を防ぐ。
    「ふふ、弱ってると思いましたか? 残念! まだまだ元気ですよ」
     鈴木はスーツの埃を叩いて笑ってみせる。
    「ブラフだ、確実にダメージが蓄積しているぞ」
     ずっと敵を観察していた宗次郎の目には、動きが鈍っているのが分かっていた。
    「どちらであろうと、お前が倒れるまで攻撃を続けるだけだ」
     光臣が酸を撒き散らす。鈴木はそれを避けようとするが、足が止まり腕で防ぐ。
    「どうやら勝負を早めないといけないようですね」
     ぼろぼろになったジャケットを引き千切り、銃を構えて殊亜を狙う。
    「させないってね」
     魂が防ごうと光輪を投げる、その時、銃口が魂に向けられた。2つの弾丸が右肩と胸を貫く。魂は血を吐き仰向けに倒れた。
     僅かな動揺、その隙を突き殊亜へ発砲する。それをディープファイアが庇い砕けた。鈴木はそのまま乱射する。
    「殊亜くんは、私が守るんだから!」
     紫と久遠が受け止め、ガゼルが銃弾を受けながら突撃し鈴木を吹き飛ばす。
     その先で待ち構える高明が縛霊手を叩き込んだ。
    「吹き飛べぇ!」
     鈴木は宙を舞い木にぶつかる。

    ●決着
    「守りが厚いですね、消耗戦は私の好みでは……この気配……包囲されている?」
     何かに気付いたように鈴木は慌ただしく周囲を見渡す。ゲームに夢中で気付けなかったのだ、周囲を囲む気配に。
    「……30人は居ますね、いつの間に?」
    「お前が言ったんだろ、カードは隠しておくものだって」
     殊亜は痛みを堪えて強気に笑ってみせる。
    「まさかゲームの途中で逃げたりしないよね? 逃げるなら次から最弱ゲーマーって呼ばせてもらうよ」
     鈴木の思考が逃走へシフトしたのを感じて殊亜は挑発する。
    「ええ、もちろんですよっ」
     鈴木は銃を撃ちながら殊亜に突っ込む。殊亜は身を低くして光の剣を横薙ぎに振るう。剣は空を切った。鈴木は跳躍して飛び越すとそのまま逃走する。周辺には既に新手の灼滅者が現われ始めている。
    「ゲームは引き時も肝心です!」
    「お前ぇは手遅れだな!」
     高明が影で脚を止めると、ガゼルが突撃して撥ね飛ばす。そこへ康也と透流が追撃を入れる。
    「此処から先は行き止まりです」
     絶奈、クロエ、勇介、睡蓮、あんず、夕月、燈、透流が包囲すると、へると優歌が攻撃を打ち込む。被弾しながら鈴木は走る。
    「臣君、へたれてる場合じゃないっすよ……!」
     颯音の言葉に光臣は僅かに笑みを浮かべ、鈴木の前に立つ。
    「此処がお前の墓場だ。もう決して、奪わせはしない」
     光臣は颯音の攻撃に合わせて槍を突き出し、鈴木の腹に穂先を埋めて凍結させる。
    「あぁっ」
    「またやられたフリか?」
     宗次郎は膝を突く鈴木に氷柱を飛ばす。鈴木は舌打ちして撃ち落とすと宗次郎に向け走る。槍を避けながら密着すると、銃口を腹につけて撃ち抜いた。
     宗次郎は槍を落とす。頭に銃口を当てられた。だが背後から影が伸び上がり鈴木を貫く。
    「どうだ俺のやられたフリは……」
     そこに織兎、空、咲結から治療を受けた昴が影の刃を放った。
    「邪魔です!」
     鈴木はそれを撃ち砕き、銃弾を放つ。それを黒斗が受ける。
    「守りは任せろ」
    「……斬る」
     昴は殺気を纏った手刀で鈴木の足を骨まで断つ。鈴木は銃弾を叩き込んで退く。
     足を引き摺る鈴木の前に、莉奈、狩羅、寅綺が立ち塞がり攻撃を加える。鈴木は銃を乱射して抵抗する。それを奈々、峻、庵子、獅央、千夜、忠継が迎撃して撃ち落す。
     その間に七音、ルフィア、ホテルス、なゆたが倒れた仲間の治療を始めた。
     奈々、峻、庵子、獅央、千夜、忠継からの集中砲火を受け、鈴木は全身に傷を負い脚を止めた。
     敵の数が多くても逃げ切る自信があった、だが蓄積した脚の傷がそれを許さない。
    「あなたは私の苦痛を和らげる……」
     呟くと霧華が刀を振るう。背骨が覗く程の傷、それでも鈴木は反射的に銃弾を撃ち返し、霧華の肋骨を数本砕く。
    「ここまでだ、仲間を傷つける者に容赦はしない」
    「部長に危害を加えようとはいい度胸だよ、四九五番」
     イルマの影が脚の肉を喰い千切り、祢々が魔弾を撃ち込む。
    「灼滅者を甘く見ないで」
     紫が縛霊手で鈴木の顔面を殴り飛ばす。
    「これで終わりだ!」
     膝を突いた所へ殊亜が上段から光の剣を振り下ろす。鈴木は銃で受け止めながら、もう一方の銃口を向ける。
    「ゲームには勝たせてもらいますよ」
     最後の一発が放たれる。殊亜は紙一重で躱した。その時、鈴木の影が伸びて殊亜の背後に立つ。影絵の銃を心臓に向けて撃った。殊亜は踏み込み弾は左腕を貫く。
    「それが最後のカードか?」
    「馬鹿な……」
     必殺の一撃を凌がれ隙が生じる、殊亜は炎の剣を一閃。両断され、鈴木は炎に飲まれた。
    「私の……負けだと」
     炎が全てを包み込み、信じられないという顔で鈴木は消え去る。
     倒れそうになった殊亜を紫が支える。皆傷だらけで疲労に座り込む。重傷を負っている者は倒れたまま。だが強敵の灼滅に成功したその顔は晴れやかだった。

    作者:天木一 重傷:紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358) 西条・霧華(大学生殺人鬼・d01751) 八咫・宗次郎(絢爛奇譚収集・d14456) 露裏・魂(残念な姓名・d19793) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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