天埜・雪(リトルスノウ・d03567)はふと辺り見回して、その異様さに寒気を覚えた。
新しい年を迎えたばかりなのに、周囲に誰もいない。このあたりには大きな神社もあるし、新年を楽しむ人たちで、溢れていてもおかしくないのに――。
まるで、殺界形成でも使ったかのように、人の消えた場所。雪だけが取り残された世界に、突如銀の粉をまき散らしながら降り立つ男。艶やかな辮髪と、質のいい長袍。まるで導士のような風貌の男だった。
『みぃつけたぁ』
聡明そうな顔立ちであるのに、張り付く笑みは野卑なもの。言葉に礼節など欠片もない。
向けられた殺気に即座に反応して、ふわりと浮かびあがるのは、ビハインドの天埜・雫。意図的に呼んだわけでもないのに姿を表した意味を、雪は当然のように気付いて。
油断なく相手を見据え、観察する。
ただでさえ、ダークネスは一対一で勝てる相手ではないのだ。
それなのに今、自分ひとりで対峙しているという事実。
(「ぱ、パパ……」)
雪はぎゅっと雫の裾を握りしめて。
背筋が凍るほど濃い殺気と、物色するような下衆の視線。明らかな力量の差を前に、恐怖せずに立っていられることなど、そうできるものではない。
しかし、それでも雫が傍にいてくれること。そして彼女が潜り抜けた戦いの経験が、その小さな体を奮い立たせていた。
そんな雪の心を見透かしたのか否か、
『お前、ヒュッケバインの闇堕ちゲームで生き延びたんだってなぁ?』
ニィと笑う男の言葉に、雪ははっとして。
目の前の男は、六六六人衆。先程から感じる殺気の濃さからも頷けて。
『つーわけで、闇堕ちゲームで堕ちなかったロクでもねェ駒ちゃんを、生かしておく理由もねーってわけで。俺の暗殺ゲームの点数稼ぎに協力してくれや』
男の主だった腕の関節から、銀色に磨かれた針がぐっとせり上がってきて――。
『別にキョーミ無いんだってよ。だから俺にくれるって。残念だなぁ、因縁のヒュッケバインじゃなくて、『刺青龍(シセイリュウ)』の呉・彗龍サマでよぉ』
ひゃーっはっはと下品な笑いを響かせる彗龍。
確かにヒュッケバインことラーベ・ブルーメのような性質の奴ならば、興味がなかったのかもしれない。そもそもあの時のゲームだって、気まぐれで思いついただけのものと――。
しかしだからこそ、ここで死ぬわけにもいかない。
いずれ、決着をつけたいと願うからこそ。
雫はその頼もしい背に雪を隠して。何が何でも退路を守るつもりで。
雪も生き残るために、必死にありとあらゆる方法を探して。
『その真っ白な肌、俺が綺麗に色差してよぉ』
彗龍が、指先に針を集中させて、跳躍する。
『斬新な刺青で死化粧飾って、棺桶に突っ込んでやっから!』
「緊急事態だ。六六六人衆による、武蔵坂の灼滅者の襲撃が始まった。どうやら過去に闇堕ちゲームの依頼に赴いた灼滅者を狙ってきている。急いで救援に向かわなければ、確実に殺される!」
仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)の言葉に、教室が普段よりも鋭い緊張感に包まれて。
「襲撃されるのは、天埜・雪(リトルスノウ・d03567)。片翼のヒュッケバインこと、ラーベ・ブルーメの闇堕ちゲームに参加した子だ」
雪を狙ったのは、六六六人衆、序列五五六番。呉・彗龍(ウー・フイロン)。ゲームを行ったラーベではないらしい。たぶん、ラーベは興味を示さず、彗龍が名乗りを上げたといった感じだろう。
雪が襲撃された場所は、人もなく、戦いやすい場所。
彗龍は雪をいたぶりながら殺そうとする為、最初に雪のビハインド、雫から始末に掛かる。
「皆が辿り着くのは、頑張っても襲撃二分後。彗龍と雪達が攻撃を終えた後だ」
この時、不意打ちもできるという。
「彗龍は助けが来るとは思っていないから、近くの遮蔽物から狙撃すれば、かなりの確率でダメージを与えることができる。この時だけ、命中率が1.5倍跳ねあがってるとみていい」
彗龍の油断で、命中精度が高まっている初撃で、どこまでダメージを与えられるか。もちろん、もとの命中精度が低めのものだと、外すかもしれないが。
「序列が高い相手だが、上手くいけば灼滅できるかもしれない。彗龍も、自分がと名乗りを上げた以上、できる限り暗殺を完了させたいという意地もあるから」
そのため、普段ならあっさりと逃げられてしまうような序列の六六六人衆も、今回ばかりはうまく立ち回れば灼滅できる。
もちろん、相応の作戦が求められる。
「ここで失敗すれば、雪は死ぬ。死は避けられない。今一番大事なことは、仲間を守る事だ」
功を焦って、雪が死んだら、取り返しは付かない。危険を感じれば、撤退も視野に入れた方がいい。
しかし、灼滅者を暗殺しようとする六六六人衆を野放しにするのは非常に危険なので、雪を守り切ったうえで、可能な限り灼滅を目指せれば尚良しだ。
沙汰も、雪とは一度依頼を通して知り合った仲。
また彼女の顔が見たいから。
「危険で責任ある任務だ。けれど此処にいる皆なら、必ず雪と一緒に帰って来てくれると信じてるよ」
参加者 | |
---|---|
帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872) |
天埜・雪(リトルスノウ・d03567) |
呉羽・律希(凱歌継承者・d03629) |
サフィ・パール(ホーリーテラー・d10067) |
倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392) |
東屋・紫王(風見の獣・d12878) |
白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246) |
石見・鈴莉(影導く氷星の炎・d18988) |
見なれた公園に現れた、異質な何か。
それは秀麗な顔貌の中に潜む、銀針の骨格でできた醜悪な化け物。六六六人衆序列五五六番、呉・彗龍という男だった。
初めて見た相手にいきなり命を狙われる。原因は闇堕ちゲームの後処理であるということは、六六六人衆らしい殺戮の口実として納得するものの。しかし本来の相手である『片翼のヒュッケバイン』ことラーベ・ブルーメが、何の得もなく暗殺ゲームの資格を譲るなどあるのだろうか。
天埜・雪(リトルスノウ・d03567)はそこに疑問を感じつつも。相手が彗龍であるという不満をそのつぶらな瞳に隠しもせず映し、今まさに攻撃してくる姿を射ぬく様に睨む。
その視線を、彗龍は可笑しげに受けとめ顔を歪めながら、
『ヒュッケバインじゃねぇと嫌って顔してんなぁ? お呼びじゃねーってか。ひゃはっ!』
束となって突き出している銀針。雫の存在を縫い潰すかの如く降り落ちて。
雪は彗龍より距離を保つように動きながら、先読みの力を宿す一矢を打つ。
(「こんなところで、しぬわけにはいかない」)
雫が霊撃を振るうけれど、危げなくかわす彗龍。気魄属性に対しての反応は、かなり優れている相手らしい。
そんな相手に、ビハインドは相性がいいものの。このまま戦い続けたとしても、数分後に殺されるのは目に見えている。簡単に逃がしてくれるような相手でもない。
『だったらはっきりと言葉にしてみろや? 俺はヒュッケバインよりは優しいからなぁ。標的変えてやるかもしれねーぜ?』
雪はますます敵意を深める。もちろんラーベに対して。
声が出せないこと。それは、ラーベに聞かなければわからないこと。
興味無いと言いながらも、なんだかんだと此方のことはよく覚えている。
試しているのか。それとも、弄んでいるのか――彗龍という下賤な輩を使って。
彗龍の肘の関節より飛び出す尖鋭な針は、砲弾の様な勢いで空を裂く。
雫はチェロの弓で銀針の軌道を反らし、ぎりぎり攻撃をかわして。きりりと引いた弦の音。雪の放つ癒しの矢は、雫にさらに力を。
奏でる霊障波が、彗龍の肌をかすめる。
『ひゃはっ! そうでなくっちゃ面白くねー』
血を一払いして、彗龍は全身の関節という関節から銀針をせり上がらせて。
『んじゃ、これならどうよ?』
鋭い針が次々と地面を貫き、乾いた空気に砂塵舞う。
(「パパ! パパ!」)
おねがいきえないで――雪の唇が織りなす願いが、白く色付き、冷たい世界に広がったように思えた。
南側に並ぶ遊具の影へと飛び込んで。覗きこめば、当たり前なのだろうが、誰が見ても劣勢とわかる戦場。
(「雪ちゃん!」)
瀕死といえる雫へと、雪が一生懸命弓を引く姿を間近に見て、今すぐにでも飛び出したくなる気持を、呉羽・律希(凱歌継承者・d03629)はぐっと抑える。
(「彗龍、暗殺を成功させてやるものか」)
(「これ以上悲しむ人増やさない為、ここで、終らせるですよ」)
忘れもしない顔を久方ぶりに見て。白鳥・悠月(月夜に咲く華・d17246)とサフィ・パール(ホーリーテラー・d10067)は頷き合って。
やはり、同じ敵とあいまみえた仲間がいるということは心強く。そして雪と、その友達の為に力になれるということに使命感もあり。
一つ呼吸して、石見・鈴莉(影導く氷星の炎・d18988)は指を折りながら奇襲へのカウントをとってゆく。
倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392)は激しい戦闘音に気が気じゃない。けれど、折れてゆく刻を静かに見つめ精神統一。
(「……考えとか、信念とか、事情とか、どうでもいいや」)
鈴莉は雪の状態と彗龍の動きを見つめながら、一つ一つと指を折る。
(「とにかく、殺させない。絶対に」)
難しいことなんて必要ない。友達を助ける事に理由なんていらないから。
『ひゃはっ! 人形に操られる人形ってのも滑稽だったけどよー』
雫の霊撃を、やはり難なくかわして。とどめを繰り出すべく彗龍が地を蹴った瞬間と、鈴莉の指が全て折れた瞬間が重なって。
(「私は私の立場で出来ることを……」)
手段は選ばない。
決して躊躇わない。
友達が狙われたという動揺を、反撃の刃に変える為。律希はサイキックソードをいつでも呼び出せるよう身構えて。
「絶対に生かしては帰さない――!」
白銀の結晶が流星の様に尾を引いて、黄金色の三日月が闇を斬る。
鈴莉の放った氷弾と共に、叩きこむ光刃。
ぶち当れば、厚い鉄板を叩いた様な鈍い音が響いて。
『だぁぁ~っ! 今日も今日とてまた湧きやがって、なりそこないどもめがぁ!』
更に飛んできた、東屋・紫王(風見の獣・d12878)の緋炎纏う弾丸が側面に弾け、サフィの星屑零す氷星の如き煌めきに穿たれ、彗龍はワナワナしながら苛立ちを露わに吠えた。
制約の弾丸を打ち終えるなり、いきり立つ彗龍を見据えたまま、帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)は素早く雫の横へと並ぶように立ち、雪への射線を塞いで。
「お待たせ、もう大丈夫だ」
「遅くなっちゃってごめんね。雪ちゃん、まだ頑張れる?」
即座に前線へと詰め、安心させる様に紫王は微笑み浮かべ、優陽は彗龍へ威嚇の目を向けて。
助けに駆けつけてくれた仲間たちの頼もしさに、雪は思わず溜まっていた涙を溢れさせそうになったけれど。
感謝と喜びはこの難局を越えてから。雪はぐっとこらえ頷くと、雫の傷を癒して。
「友達に……天埜ちゃんに手を出すなんて絶対に許さないんだから!」
紫苑は悠月と連携を組んで、バベルブレイカーの尖端に意識を集中し、振るうけれども。向こうも序列保有者。虚を突いたとはいえ、かわせる攻撃はかわしてくる。
「覚えていますかなんて、言う気分でも無いですが……。彗龍……あの時は逃がしましたが、今回は、させないですよ」
サフィは未だ結晶を零す槍を手に、彗龍を見上げて。傍らの霊犬・エルは、ふんわりとした毛がさらに膨らんで大きく見えるほど威嚇を露わに。
「借りを返すぞ」
前回の悔しさを晴らすため、悠月の足元よりまき上がる影の羽根。
彗龍は口に溜まった血を吐き捨てながら、
『けっ……そういやテメーら。一匹いたら他に七匹確定の、鬱陶しく湧いて出るのが趣味だった』
ゴキブリみたいな奴らだと揶揄し、公園内を埋め尽くすほどの殺意の爆風で、返り討ちにしてやろうと。
雫は雪にとって心の支え。紫苑は雫への余波も受け持ちながら炎を打つ。
すれすれでかわしてゆく彗龍を逃がさぬよう、すでに受け取った癒しの矢の力を全開にさせて。魔力籠めた紫苑のロッドが、したたかに彗龍へ衝撃響かせて。
律希が気の弾丸を放つ。しかし追尾力を以てしても、やはり技の偏りから得意系統らしい気魄系は当てるのも困難。優陽の雲耀剣もしかり。
彗龍の全身より放たれる銀針。
それは豪雨の如く、隙間なく大地へと貫く。相乗効果によって、優陽には毒の重なりも軽視できない。
しかし厚いディフェンダー陣の奮起のおかげで、メディック班の回復分担が容易に。施す力の兼ね合いも判断しながら無駄なく行き渡るよう声を掛け合い、律希が優陽へと防護符を。
命中補正を兼ねて、雪の弾いた矢が紫王のバベルの鎖に輝きを。飲みこむ様に弾ける火炎。魔氷に侵された部分の皮膚が衝撃に割れて。
悠月の振るうカミの一撃。彗龍を覆う邪気を吹き飛ばす。
『ひゃはっ! 潰してやらぁ』
エルの斬魔刀を易々かわし、彗龍は鏖殺領域。
強い波動に耐えきれず、とうとう雫がかき消される。とはいえ、救援が来るまで戦い抜き、今まで立ち続けていたこと自体が、雪をどれだけ守ろうとしていたかの証でもあって。
暗殺の標的にされたショックが大なり小なりあるはずなのだ。そこに雫の消滅。紫苑は心配で雪を見やって。
(「わたしは、だいじょうぶですから」)
気丈に立ち、矢を番える雪。助けにきてくれた仲間たちがいるから。だからそんな仲間たちを支えるため、弦を弾く。
「守るよ、なんとしても」
「大切な友達なんだから!」
紫苑は、空が揺らぐほどの波動宿す拳を連打して。
見切り等を踏まえ、気魄系より命中率の高いと思われる剣技を打ちこむしかないと、鈴莉は黒死斬。
振るう一閃は、闇に羽ばたく不死鳥の残骸。軌跡はしたたかに腱を横切り、鮮血は燃えるように。
『クッソウゼェから、テメーらから消えやがれ』
頭数減らそうと、紫苑へと彗星の如く降り落ちる彗龍の銀針を、咄嗟に受け止める優陽。
「彗龍さんに比べこの一撃はとても儚いかもしれない。けれど」
頂いた加護は吹き飛ばされようとも。微かに残った癒しの矢の力を頼りに。
「積み重ねる事で少しでも力を抑え込めるなら……私は迷わずこの一太刀を振り抜くわ」
鈴莉に刻まれた足止めの力が、彗龍の回避率を鈍らせて。
優陽の雲耀剣が、彗龍の銀針でできた骨格に衝撃を与えて。
『けっ、テメーらも必死だなぁ、おい』
もともと氷の重なりも鬱陶しいのもあって、彗龍はシャウトで大半の戒めを吹き飛ばす。
彗龍の素早さが復活し、当たらぬ事で攻撃に勢いに緩みが。
「やはり、手強いね」
五百番台半ばの相手。紫王は少しでも追いつめる為、間断なく火炎纏い紅蓮で穿ち、悠月はカミの力纏い風に乗る様に軽やかに間合い詰め、鬼神の爪で削り込んでゆく。
鈴莉が縛霊撃で戒めを再度狙うが、勢いよく地を這うように低い姿勢のままかわされて。彗龍は、ダメージもさることながら、連携が取れていない故に目立つ優陽を狙い打ち。
閃く爪先、そして落下する踵。
強烈に入った一撃に、優陽は意識を手放して。
薄くなったディフェンスの壁。好機と、彗龍は雪に狙い定める。
早々の完遂と撤退を目指し、天頂より空を貫いてくる、銀の箒星。
地を蹴りあげる紫王。小さな雪へ覆いかぶさるようにして守って。
「大丈夫かい?」
はあはあと肩で息する紫王、それでも掛ける言葉は男らしく。何が何でも雪を守るため。
自分を守ってくる人たちの背を見つめ、雪は唇を噛みしめて。だからこそ、自分は最後まで立ち続けなければならないと。倒さなければならないと。
負けないように矢を放つ。勝利を呼びよせる為。
「ダークネスは、人を不幸にするです。命ある身として同じ、自分の裏側のようなものですけど」
悠月と合わせるように、サフィは影を解き放ちながら、気を引く様に声を上げ。
集中打を避けるため。一番あってはならないことを阻止するため。
「これ以上悲しむ人増やさない為、ここで、終らせるですよ」
『けっ、ガキの分際で偉そうによぉ!』
しかし簡単に目的をすり替えてくれる様な相手ではない。銀針の雨で確実に後衛陣を巻き込んだ。
「雪ちゃん!」
毒によめく小さな雪を支えるように、律希は自分のことなど後回し。防護符を即座に張り付けて。
射撃技で確実に雪が落とされてしまうから。言葉じゃ無理ならと、紫苑はロッドに魔力を収束。攻撃して彗龍を圧倒すことが自分の役目。気合いと共に振えば、強烈な一撃に彗龍が初めて呻きをあげた。
地を踏ん張り。忌々しげに睨めつけて。串刺しにしてやると、強烈な回し蹴りが紫苑を襲う。
咄嗟に飛びだすエル。しかし道路までふっ飛ばされてゆく姿に、サフィは思わず声を。
「これ以上はさせない」
下衆の笑みを塗りつぶしてやる勢いで、深緋を広げる紫王の剣技。
またエルがきえてしまった――その悔しさをぶつけるべく、サフィの放つ氷弾が彗龍の肌に弾け。体内から鋭利な先端を花咲かせ。
『テメーも刺し殺してやらぁ!』
爪先に集中した銀針の束。追撃も重なり紫王はさし抜かれ、背中から大地へと落ちてゆく。
「諦めない、投げ出さない。天埜ちゃんを守るためにここに来たんだから!」
「光と共に、踊れ――!」
完全に消え去るディフェンスの壁。しかし今まで彼等が頑張ってくれたからこそ維持している、癒しの矢の加護を最大限利用するために。紫苑は臆することなく飛び込んで穿つバベルインパクト。光刃が紫苑の周りを巡る月の様に空を踊りながら、彗龍を切り裂く。
奇襲以降、どういう戦法をとるのか。非常に悩ましい選択を強いられる相手であったことには間違いない。
此方も彗龍を追いこむため長期戦の構えで臨んでいるように、彗龍も暗殺を完遂すべく、長期戦の戦法を選んでいる。
力を高めては削ぎ合う。そんな状況に陥る可能性が高い相手。いかに相手の欠点を見抜き、いかに力を削ぎ、いかに相手行動を限定させるか。
『ドクソめがぁ!』
灼滅者の隊列的に、クラッシャーの紫苑を早々に落とせなかった。それが彗龍にとっては酷く痛い。ぎりりと、歯軋りする彗龍。金属が擦れ合う様な耳障りな音が響く。
『マジ害虫みたいにしぶてーな。欠陥品の分際でよぉ』
「あたしたちは、欠陥品なんかじゃないっ!」
シャウトで戒めをぶち破った彗龍へと、鈴莉は全力否定しつつ氷結の弾丸打ちこんで。
『欠陥品だろーが、ああ? どっちつかずのなりそこない。それともこう言ってやりゃあいいか!? ダークネス殺さなきゃ自分すら保てねー、癒しとやらの中毒者がよぉ!』
容赦なく銀の彗星打ち放つ。
どっと衝撃に紫苑が震えて。しかしまだ致命傷ではないものの――完全にブレイクされた癒しの矢。
とはいえ彗龍も、かなり追いつめられた状態。
果敢に攻めたてながら、雪を守らんとする強固な意志。揺らぎない灼滅者に、彼はある意味圧倒されていた。
上手くいけば殺せるが、運が悪ければ逃げる前に死ぬかもしれない。
『あー……苛々するド畜生』
もともと恥も外聞もない六六六人衆である。生存確率の高い方を選びとる。
撤退と決めれば、憎たらしい程易々と逃走経路を見出し逃げてゆく。
「尻尾を巻いて逃げるか、卑怯者め!」
「待ちなさい!」
律希と紫苑がその逃走を妨害しようとしたものの。しかし包囲乏しい状況では、それも叶わない。
「逃がして、しまいました……」
虚しく空を切った妖冷弾を見送って。へたりとサフィは座りこむ。あと少しだったと悠月も悔しげに。
こっちも言ってやればよかった。ここで逃げたらヒュッケバインに使えない駒だって殺されるかも、と。
そうすれば逃走に長けた六六六人衆の逃げ道を精神的にふさげたかもしれない。実際、ヒュッケバインから言わせれば、彗龍もゲームの駒扱いだったのだから。
微かな余力があったのも事実だが。しかし雪を守り切ったことが一番の勲章。
「大丈夫だよ、雪ちゃん」
傷付き遊具に背を預けながらも。微笑む優陽は雪を気遣い。
ひとまずアップルティーでも飲もうか。そんな日常的な雰囲気に、自然と安堵が広がって。
ほかほかの湯気が、寒い公園の空気に甘い香りを溶かして。
美味しい。
声に出なくても。
優しさいっぱいに囲まれて、雪は感謝の涙と微笑み向けて。
さ、帰ろう。
お帰りの言葉が待ってるから。
作者:那珂川未来 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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