少女ハ問ウ。漆黒蝶ヲ携エテ

    作者:一縷野望

    「…………」
     ヒルデガルド・ケッセルリング(Orcinus Orca・d03531)が茫洋とした意識で過ごすのはなにも珍しいコトでは、ない。
     だが。
    (「……此処、は?」)
     俯瞰視点が此の場所に在る点に違和を唱える。
    「お久しぶり」
     ……把握すべき事象の優先順位、変更。
     ヒルデガルドが顔をあげた先に立っているのは、自分より少し年少の少女だった。
     肩の上で揃っていたはずの髪が鎖骨の辺りまで伸びているのが、以前からの時間の流れを物語る。
     六六六人衆、序列第五三六位・無子(なこ)。ある春の日に、闇堕ちゲームで相対した娘だ。
    「……」
     ヒルデガルドは音にせず唇だけを動かした――無子、と。
     可聴域ギリギリ、だが拾えたかそれとも予測していたか、無子は口元を歪めると「ヒルデガルド」とはっきり名を呼ぶコトで返す。
    「なーんて。あの日いた人なら誰でもよかったんだけど……ねっ」
     少女の肩口、闇が爆ぜた。
     産まれ出た蝶を襲いかからせながら、無子は淡々と紡がれる問い。
    「未だに『家族』に囚われてるあたしより、ずっとずっと渇いてるあなた。どうして公園の母子を逃がせたの?」
     ……情愛なんてわかんないクセに、何故?
     

    「ひとりでは勝てない、絶対に。だからみんな、ヒルデガルドさんを助けに行って」
     灯道・標(小学生エクスブレイン・dn0085)は呼び集めた灼滅者達へ口早に告げる。
     数ある六六六人衆の武蔵坂灼滅者襲撃の中、標が予測したのはヒルデガルド・ケッセルリング殺害の件。
     襲撃者は、序列第五三六位・無子、ヒルデガルドが相対した六六六人衆だ。
    「無子の使用するサイキックは以前と変らず、殺人鬼と影業のモノだよ」
     黒蝶のような『影喰らい』を好んで使うのがわかっているのが、此方のアドバンテージか。
     もちろんそれに対応し防御を整えた所で、向こうが格上なのは変らない。
     それでも、歯が立たず追い返すのが最善手だった以前より、灼滅できる可能性は高まっている。
    「今回は人質を取っていないしね」
     無子が趣向を疎かにしてまでヒルデガルドを襲った意図はわからない。高位の六六六人衆が背後にいるかもしれない、その点が影響しているのだろうか?
    「……とはいえ、あまり冷静にさせると撤退しちゃうかもしれない、かな」
     髪を指に巻き付けて、標は肩を竦める。
     負けを悟ったら斃される前に引く冷静さ、それを奪うには?
    「無子の拘る『家族』……特に『母子』についてキミ達が語れば、そそられた彼女が引き際を見誤る……そんな気がするよ」
     過去や予測の言動から鑑みるに、無子は親に棄てられていて、更には自分の子も亡くしているようだ。
     母と幼子という灼滅者側にとっては枷となる人質を取る娘、無子。
     このまま野放しにすれば、いつまた陰惨で胸糞悪い事件を起こすか知れたモノではない。
    「できるだけ灼滅はして欲しい……けど、作戦の第一義は、ヒルデガルドさんの救出」
     標は改めてきっかりとした口調で告げる。
    「キミ達灼滅者が斃れたら元も子もないから、その点は心に留めておいてね」
     勝ちが見えたなら、無子の精神を絡め取りつつ、灼滅。
     負けが見えたなら、撤退も視野に入れる。
     ……蓋を開けねばわからぬ事だが、戦いに全身全霊を傾けねばならぬのは確実だ。
     


    参加者
    鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)
    篠原・朱梨(闇華・d01868)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    天河・蒼月(月紅ノ蝶・d04910)
    ミスト・レインハート(闇纏う追憶・d15170)

    ■リプレイ


     ひらりひらり。
     百年昔を思わせるレトロ街灯の元、蝶達の影が遊ぶ。
     好む蜜は、命。
     たんまり喰らい帰ってきた蝶達を無子は指先で愛でた。
    「……」
     一方、銀糸に翳る金は柘榴のように爆ぜ裂けた左肩を一瞥、疵を測る。
     ――深い。
    「本当はあなた、渇いてないんじゃない?」
     平坦だが安定しない声が音消しの結界の中を渡った。
    (「素体となった者の影響が色濃く出ているダークネス」)
     被害者選定の拘りからヒルデガルド・ケッセルリング(Orcinus Orca・d03531)がそう導けば、石畳が水面のように、ゆらり。
    (「未だ完成も完結もしない少女……故に」)
     危険度は高い。
    「今際の際に……」
     招くように囁く。
     一歩、二歩、人差し指と中指を剣のように真っ直ぐ伸ばした娘が踏み込んでくる。
    「教えてやる」
     戒めるような胸の革が解けた。
     否、錯覚。
     其れは、闇色の水連れ跳ねたオルカの見せた幻影。
    「本当?」
     あたかも命亡くし蝿に集られるように蝶にまかれ消えるシャチ。其れを破り届く指先がヒルデガルドの喉元を赫く裂いた。
    「殺せば教えてくれるのかなぁ?」
     頬に跳ねる血を欲しがるように吊り上がる唇の端がぴくり引き攣る。
    「……」
     シャチは撒き餌、いや自分すら、餌。寄せた胸元、自分ごと圧縮した魔力を注ぎ込む。
     一、
     二、
     三、
     がくんがくん、がくん。
     駒の少ないアニメのように無子が痙攣するを感じる。手ごたえはあった、同時にヒルデガルドは当初の推察の正確性を確信する。
     足りない。
     危険度は、高い。
    「ほら、はやく答えてよ」
     金が一度だけ瞬いた。
     嗤う少女から溶け出す黒蝶により導かれるは、死――。
    「僕が答えてあげようか?」
     おぞましき黒蝶を押し戻す蒼燐光、ひらり。
    「久しぶり、悲しいお母さん」
     死を覆すように庇い立つ天河・蒼月(月紅ノ蝶・d04910)の澄んだ声は、影に蝕まれながらも凜然と在る。
    「ふふ、次はキミかなって思ってたよ、蒼い蝶」
     何処か嬉しげに蒼月の蝶を払う。
    「俺のことも憶えてるかな?」
     ミスト・レインハート(闇纏う追憶・d15170)に仰け反った背中を狙われた無子は、間一髪でしゃがむ。
    「……気配が変ったねぇ、何人殺した?」
     確か彼は純粋で思い詰めた瞳をしていたはずだ。
    「俺はいかなる女の子でも斬らないと決めていた」
     喪失に彷徨っていた彼は今確固たる存在と共にあるから。
    「嘘吐き、今斬った」
    「だけど、本当に大事なものに手を出すというのなら」
     ――君と戦う。
     短く告げるミストの影、ヒルデガルドから零れる血が止んでいく。疵を包むように張り付くは、真っ直ぐな性根現わす文字を背負う護符。
    「ヒルデガルドさんを……学園の仲間を殺すなんてさせません」
     きっかり告げる日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)はこの路の演出する時代に馴染む装束で、神聖性すら漂わせている。
    「ヒルデガルドさん、助けにきたですよ」
    「……」
     状況は八人であたる通常作戦に等しい物へ移行――ヒルデガルドは認識を更新する。
     かとん……。
     乾いた音と共に、空から闇を切り取る筋に地上からの白い光が交わる。
    「――」
     邂逅を果たす無子を前に、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)は、無。ただ柄を撫でた。
     と……。
     揺れたのは紅の髪飾りのみ。だが狙い研ぎ澄ました太刀は無子の腱を着実に刻んだ。
    「誰?」
     気配を殺すいろはを知覚させぬように、鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)は踵を石畳に叩きつけ踏み込む。そして杖を目一杯につきだし鳩尾を思い切り打った。
    「っ、ふぅ」
     バランスを取るように重心を後ろへ戻しヘッドフォンを外せばクリアになる噎せ返る音。
     に。
     と、共に歪む口元。
    「アンタってさぁ……昔のアタシに似てる」
     口ずさむは気弱さから遠いソマリ。
    「へぇ」
     続きの代わりに赫が石畳を汚す。
    「誰も死なせない」
     闇に決して紛れぬ茨を巻いた指でうなじをなぞり、篠原・朱梨(闇華・d01868)は離した。疵の深さより動きを奪う、其の狙いは果たされる。
    「殺させない」
     其処に悲しみや苦しみがあるのなら、繰り返すわけには、いかない。
    「……もう、遅いよ」
     いろはを皮切りに急所に重ねられた痛みよりその慈悲が、痛い。
    「……」
     夜闇に弱く啼く声にアルディマ・アルシャーヴィン(継承者・d22426)は一瞬だけ眉根を寄せる。だが何も発さずに冬の冷たさに冷えた手の甲を撫でた。浮かぶは護り司るような実体のない盾。
    (「暗殺ゲームといい、ダークネスの動きが活発になってきているな」)
     武蔵坂の未来に憂慮を示し足をよろけさせる無子の頬を打つ。


    「あは……あはは。すごい一杯釣れましたね」
     怒りの儘に寄せた黒蝶をアルディマに真っ直ぐ向わせる。
    「……くっ」
     アルディマは奥歯を噛みしめ腕をクロスし堪える。防御に身を寄せはしたが、圧倒的な質量で躰が抉られていく。
    「ちょっと多すぎです」
     戻った蝶に唇を寄せて一人頷く無子。留めるべくソマリは口火を切った。
    「アタシも実は親に見捨てられた」
     ……そう、織歌は棄てられた。
    「だから似てるって言ったんですか。で、絶望した?」
    「ソレに呑まれないために、アタシが生まれたんだヨ」
     更に動きを鈍らせようと狙った脇腹、其処に無子はいなかった。
    「家族の愛はすごくあたたかいです」
     沙希の胸に浮かぶは、身を呈して護ってくれた母と母のように愛情を注いでくれる姉の面差し。
     今傷付いたばかりの仲間へ護符を放ちながら、沙希は記憶の中の母と同じ台詞を唇にのせる。
    「お腹を痛めた子は愛おしいのって」
    「そんなことわかってますよっ」
     激高に色を名ら持つ蒼月と朱梨が悲しみを募らせる。家族に愛された記憶を持つ二人は持たない無子が「わかっている」と吐く気持ちを悟ってしまったから。
    「無子さん」
     闇から明ける空の水晶を解き放ち、朱梨は言葉を探す。
     疵付けたくは、ない。
     でも惹きつけなくては、ならない。
    「……喪った子は無子さんの大切な存在だったんじゃないのかな」
     朱梨の問いに僅かだが首が縦に揺れたのを見て、蒼月はきゅっと柄を握り締める。
     その大切は、僕の抱く大切と同じ――多分。
    「子供は気持ちいいことすれば勝手に増えますよ」
     蒼と黒の蝶が疵付けあうのを見上げながら、無子は喉を鳴らす。
    「ひねくれたことを言うのは羨ましさの裏返しだよナ?」
     ソマリの素振りで話すは織歌か? ぬくもりの記憶を持つ仲間への眼差しは無子とまったく同じだった。
    「あたしのことはいいじゃない。それよりどうして母親を護ろうとしたの?」
    「XX染色体の生物は概ね、子を守る行動を取る。只それを利用したに過ぎない」
     その答えが彼女を満たすものではなかったとは、自分とよく似た眼差しが物語っている。
    「どうでしょ。勝手に産んどいて自分の都合で邪魔者扱い。あの公園にいた母親だってそうですよ」

     あたしだって――。

     語尾は夜に千切れた。言うのを躊躇ったようにも、見えた。
     飛び交う言葉と剣戟の中、いろはは息を殺しじっと無子の様子を観察する。出血量、その疵はまだまだ浅い。だが穿たれた位置は動きを阻害するモノ。
    (「充分に重ねられているようだね」)
     柄に置いた手と瞼を下ろす。
     かき消える標的、躰を鋭さから力へと切り替える。
     ふ。
     あがる瞼と共に吐かれたいろはの幽かな呼吸音は、
    「意味なく生まれてくる命なんてこの世にはない」
     ミストの声により消された。
     それでよい、狙い通り。刹那からめた視線が意図は通じていると物語る。
    「綺麗事言わないでよ」
     無子の気持ちの昂ぶりを誘う作戦、だが本心は悲しみから解き放ちたい、ミストはそんな二律背反に苦悩する。
     ――斬りたくないものを斬らずに済む強さには、未だ遠い。
    「アルディマさん、大丈夫です?」
    「ああ」
     沙希に頷きアルディマは歩き出す。仲間達の立ち位置に気を払い足を止めると、剣を真正面に構えた。放つ輝きは無子には祓われたものの、剣より引き出された破邪の力は彼の護りを高めていく。
    (「果たして彼女は答えを得られるのだろうか?」)
     作戦を察知し、無言で追い込む位置へヒルデガルドにあわせ、いろはは薄紅色の裾を翻す。そろそろ気配を殺す必要もないだろうか。


     問い掛けは無子の好奇をそそり其の足を石畳に縫い止めた。だが個々の疵の深さを確実に捉え、狙いを集中させる冷静さも持ち合わせて、いる。
    「あなたはお母さんと子供を狙うって聞いてるです」
     もう何度目だろう、溢れた殺意に翻弄された仲間達を目にするのは。濁った景色を祓うよう毅然と唇を動かしながら、沙希はアルディマに蓄積された癒せぬダメージが気掛かりでならない。
    「子供を異物って思う人を掃除してるんですよ」
    「異物だなんて思うわけないですっ。私の母は最期まで守ろうとしてくれましたっ」
     否定はさせない、清き風を招き沙希は大切な感情を爆発させた。
    「無子、憶えてないか?」
     黒い蝶が纏う腕を掴み引き寄せるように剣を入れたミストは、少女の躰をずらすように離した。
    「公園の母親達は命がけで子供を守ろうとした」
     逃げるよう訴えても置いていけないと言い返すぐらいに。
    「愛なく生まれてくる命なんてない」
     ――あの日の無子は確かに圧倒的に強かった。
     けれど。
    「あたためてあげたかったと思える君は知ってるんじゃ?」
     ――あの日の無子は試す度に傷付いていた。
     無に絡まり糸描く蒼蝶は蒼月の心を示すように瞬き震える。
    「知って……なんて……だって」
    「ねえ、無子さん」
     今まさに殺し合っているというのに、手を取るように穏やかに朱梨は彼女を呼んだ。
    「やっぱり無子さんが大切に思ったように、奪う子も、奪われる親の大切な存在のはず」
     だから、殺しちゃだめだよ。
     もちろん彼女が戻れぬ路に行き着いているのは悔しいがわかってる。だから藍茨は主の意志に従い苛烈な疵を幾つも穿った。
    「ちょっかいかけたくなるのはわかるゼ」
     衝撃は織歌から。
    「でもそれじゃ駄目なんだよ」
     堕ちては駄目なんだと、でももう遅すぎる。
    「――」
     こん。
     そんな軽い音が相応しい所作でいろはは鞘で打った。実際は強大な魔力を注ぎごっそりと無子の命を奪う、一撃。
    「ッくぅ……」
     たたらを踏んだ先は、壁。
     喋りながら軽く命をつまんでいるつもりが追い込まれていたとようやく気付き、無子は息を吐き――赤子のように無垢に笑った。
     だがその笑みは一瞬で崩れる、背後からアルディマの圧縮魔力が追い打ちを掛けたからだ。
    「……痛いよ」
     お母さん。
     無音の唇、従うように爆ぜた蝶は青年の躰を蝕みきった。


    「いかんっ」
     至近のいろはがアルディマを隠すように襷はためかせ両手を広げる。
    「殺させないんだからっ」
     ヒルデガルドのオルカに併走し前に出た朱梨は仲間を肩に担ぎ引いた。
    「あはははは……痛いよ、痛いよお母さん……」
     だがもはや無子は籠の蝶、逃げる気も棄てたか。
     此処からは純粋に殺し合うだけ。
     ……殺し合うだけ、なのに。連なる音は留まらない。
    「無子、やはり愛なく生まれてくる命なんてない」
    「あたしが、そうだよぉ?」
    「違う」
     抱え続けたミストの想いは不器用な否定へと形を為す。
    「君が、君の子供が、きっとそうであったように」
     彷徨う視線を目隠しするように、ミストは月斬る剣を平らに持ちそのまま滑らせた。
    「だからもう、悲しい記憶にとらわれるのはやめにしよう」
     断ち切りたい、もう此処で。恐らくは悲しみからダークネスに堕ちてしまった彼女を。
    「大切なんかじゃない。大切だったらあたしは……殴られなかった」
     この嗟嘆が先程の自分への答えだと気づいた朱梨は「ごめんね」と唇を動かした。喪ったこともなく幸せな家庭で生きて来た朱梨には、その嘆きを本当の意味で理解できないから。
     ――彼女は闇の中、もう陽は二度と昇らない。
    「織歌も名前を呼ばれなかった」
     戦う時だけ首に下がるヘッドホンをつつけば、風が桜融ける髪を弄んだ。
    「だからアタシは織歌の名前を呼ぶんだよ……」
    「そうか、キミはそうやって呼んでもらう方法見つけたんだぁ」
     穿つソマリの声に振り返ったのは子供、いや赤子のような涙声。
    (「お姉ちゃんがいたら、こんな風にならなかったですか?」)
     皆が饒舌になる中で、織歌が生みだしたソマリを初めからもつ沙希だけは無言で風を招く。
    「僕は、君を『いらない』と言いたくなかったんだ」
     力無く剣が下がり、堰ききったように蒼月から想いが溢れ出た。
    「……ねぇ、君の」
    「あたしは『バカ』で『クズ』だって呼ばれてたって言ったよね」

     ――君の『子』の名前は?

     無子とは絶対呼びたくない、それは彼女に対してのはずだった。なのに零れ落ちた疑問は『子』の名について。
    「ふ」
     無子の肩口で影を増した蝶達が、ふわり、ばらけた。
    「『バカ』で『クズ』……だよ。お母さんはそう呼ばれて育ったんだ」
     自分を示すように胸に手をあて、無子は身を乗り出した。
    「あたしがお胎にいた時に、お母さんはずっとそう呼んであたしを殴…………あはっ、あははははははははは!」
     蝶を消した赤子は、憑き物が落ちたように笑う。
     例えば人を騙す際に元の人格の振りをする、そんなダークネスは笑う。
     例えば例えば人を堕とすために罪悪感でもなんでも利用するダークネスは、斯様に嗤う。
    「親になれば救われたかもしれないのに罪から逃れられたかもしれないのに結局同じ事をするんだお母さんなんて同じ事をするんだ同じことををおなじことを……」
     呪詛の混迷に巻き込まれたのは、二度目の邂逅に感情を強く持つミストと蒼月。其処へ無子は駄々っ子のような殺意を叩き込んだ。
    「さあ」
     膝をつきかける二人を守るように降り注ぐ桜の花びら、それはいろは。
    「戦の作法をまっとうする名を持たぬ役者の幕だよ」
     ダークネスの前に立つも構えず緩やかに腕を下ろす小さな少女は、お仕舞いを告げる。
     ヒュ。
     笛のような音色で斜め上に差し出された掌は、まるで赤子の髪を撫でるように翳され、そっと引かれた。
     不可思議かな、ただそれだけで名無しの娘は天地逆転。
     月が降る。
     否、それは無機質な金の瞳。
    「母は子を守る行動を取る、情愛は解らなくとも」
     ……記憶している。
     その声は果たして本当に紡がれたのか? だが甘えるように口元に弧を描いた無子には確かに届いた。
    「あたしのお母さんも」
     憶えててくれるか……な?

    作者:一縷野望 重傷:アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・d22426) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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