リィン。
鈴が鳴る。
現れたのは、スサノオだ。その全身は白毛で、オオカミのような姿をしている。
何の変哲も無い夕暮れの田舎道。
リィン。
白毛の耳に、飾り鈴が光った
ソレは辺りを一度だけ見回し、静かに去っていった。
次に現れたのは、髪の長い女性だった。真っ赤なワンピースを着用し、ふらふらと歩く。だが、足首と地面を鎖で繋がれているので、遠くまではいけないようだ。夕暮れの道を行ったり来たりしている。
特徴的なのは、口元を隠すように付けた大きなマスクだ。
「そぉか。皆が居なくなれば、ワタシが一番、キレイ、だよね?」
くすくすくす。
真っ赤なワンピースの女――『古の畏れ』は、愉快気に笑った。
●依頼
くまのぬいぐるみを抱えた千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が、教室に現れた。
「あのね、また古の畏れなんだよ」
夕暮れの田舎道に、真っ赤なワンピースを着た古の畏れが現れるのだという。
「みんなは、口裂け女って知ってる? 口元をマスクで隠した女の人で、『私綺麗?』って質問して、耳まで裂けた口元を見せて脅かしたり、綺麗じゃないって言うと襲ってくるんだけど……」
太郎は戸惑ったように、首を傾げた。
「今回現れた古の畏れはね、相手に綺麗かどうか確認するんじゃ無くて、相手が綺麗だと思ったら襲ってくるみたいなんだよ。口を裂いたり、綺麗な格好を引き裂いたり、ね」
つまり、美しい人が美しくなくなれば、自分の評価も上がると言う事らしい。
「口裂け女じゃなくて、口裂き女ってところかな。この口裂き女は、田舎道を通りかかった綺麗な人を襲うんだよ。だから、綺麗な格好をしたり、お化粧したりしておびき出してほしいんだ」
見渡しの良い場所なので、囮と伏兵に別れることは難しいだろう。
また田舎道だが、通学路になっているため下校中の生徒が通りかかる危険がある。人払いなどの対策も必要だ。
口裂き女の攻撃方法は二つ。
近接で口を裂くか、遠隔で服を破るか。
また、わずかながら回復手段も有しているようだ。
「あとね、綺麗な人って言うのは、女の人とは限らないから、男子も何とか工夫してください」
女装というわけではなく、あくまで自分なりに綺麗な格好ならば何とかなるはずだ。……おそらく、だが。
「もう知っている人も居るかもしれないけれど、この事件を引き起こしたスサノオの行方は、予知がしにくい状況なんだよ。でも、事件を一つ一つ解決していけば、必ず元凶のスサノオにつながっていくはずなんだ」
太郎は、くまのぬいぐるみを抱きしめ、皆に頭を下げた。
「だから、皆頑張って。無事帰ってきてね」
参加者 | |
---|---|
勿忘・みをき(誓言の杭・d00125) |
天祢・皐(高校生ダンピール・d00808) |
鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847) |
真白・優樹(あんだんて・d03880) |
紺野・茉咲(居眠り常習犯・d12002) |
エタンセル・ブランシュ(堕星ジュメレ・d21276) |
東郷・勇人(小学生デモノイドヒューマン・d23553) |
音森・静瑠(小学生サウンドソルジャー・d23807) |
●美しい集団が行く
夕暮れの田舎道を、灼滅者達が歩いている。
「古の畏れっていうわりにはなんか俗っぽい感じというか」
帽子を触りながら真白・優樹(あんだんて・d03880)が周りの仲間を見回した。
「勝手に因縁つけて問答無用で襲ってくるってもうただの通り魔だよね」
自身は、大人っぽいメイクに綺麗系の服装でまとめてきたが、皆がどんな格好で来たのか興味津々だ。
「相手を下げることで相対的に自分を上げるという発想なのでしょうか……。畏れと呼ぶにはいささか……」
緑色ベースの美麗なショートドレスを身につけた音森・静瑠(小学生サウンドソルジャー・d23807)が、控えめに頷いた。防具をダイナマイト版に変形させることにより、いっそう美しく着飾って見える。
「し、しかしこの格好……少々恥かしいですね……」
ドレスの裾を気にしながら、静瑠が瞳を泳がせた。
「音森はドレスで飾ってきたのか。皆の思い思いの綺麗には感嘆するばかりだ」
勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)のスーツの裾がゆらり揺れる。
同じ言葉でも、色々な捉え方があるのだと感心していた。
みをき自身は、燕尾スーツにベスト、リボンタイと中性的な麗人のようだ。
「……ん、これじゃ格好いい、か? 綺麗……よく分からんな」
敵の綺麗の基準が分からないので、自分なりに綺麗に見せるため最大限努力してきたのだ。
「凄く綺麗だと思うよ!」
優樹が親指をぐっと上げた。
「ですが、こう言うESPを使えば、一般人の気を引いてしまうのではないでしょうか?」
ダイナマイトモードを発動させている静瑠が小首を傾げる。
周りを見ると、自分と同じように防具を変形させるESPを使っている仲間がいる。
これでは人払いの阻害になるのではと、静瑠は危惧しているのだ。
「殺界形成を使って人払いは完了してるから、大丈夫だと思うよ」
優樹の言葉通り、殺気により辺りに一般人の影は無い。
安心して、ダイナマイトだったりゴージャスだったりプリンセスだったりできるわけだ。
「俺は、ゴージャスにしてみたぜ」
その言葉通り、東郷・勇人(小学生デモノイドヒューマン・d23553)は、何が綺麗になるか分からないからと、身嗜みをきっちりと整えた上でゴージャスモードを使用していた。一般人が居れば、その姿を見てきっと感動しただろう。
勇人の姿は目を見張るほど豪華で、しかも嫌味が無く綺麗だった。
「口避け女はいいから、スサノオもふりたかったなー」
エタンセル・ブランシュ(堕星ジュメレ・d21276)は、装備している防具をプリンセス版に変形させ、きらきらと輝いて見える。
更に、ビハインドのデラシネと共にきらきらのクリスマスリースを首にかけ、きらきら度がぐんとアップしていた。
「お前は綺麗にする必要あるのかなー」
言いながらデラシネを見ると、楽しそうに香水を振りまいている。
「マスクの下、ほんとに口が裂けてるんかな?」
見てみたいような、見てみたくないような……。
紺野・茉咲(居眠り常習犯・d12002)は、いつもよりシャンと目を開け、きりりとした表情である。
髪もヘアワックスで整え、おろしたての制服をきちりと着ている。
だが、やはり慣れない格好に少し落ち着かない様子だ。
「いやぁ、皆さんキラキラしてますねぇ」
天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)が、皆の装いを眺めながら茉咲に声をかけた。
「うん。すごいなぁ」
茉咲が頷く。
皐は、身嗜みを整え、落ち着いた色調の服装でまとめてきた。フォーマル程は堅苦しくなく、親しみやすい雰囲気だ。
こういう綺麗もありかなと言うことだったが、皐の姿は事実清潔で美しく皆の目に写っていた。
二人の横を、鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)が歩く。
「……っていうか、この季節にこの格好は寒いだろ! さっさと出てこい口裂き!」
夜魅は、チューブトップにホットパンツという、露出度の高い服装で口裂き女の出現を待っているのだ。
たしかに、この季節、その格好は寒いと思う。
だが、ホットパンツから伸びる足が健康的で美しく夕日に映えている。
くびれたウエストに脚線美と、自信があるだけの事はあるすばらしいボディラインだ。
●現れた畏れ
しばらく歩いていると、背後から不自然な鎖の音が聞こえてきた。
「あなたたち、綺麗、ね。それは、許さない、事だわ」
言葉と共に、現れたのは真っ赤なワンピースを着用した女性だった。口元を隠すように付けた大きなマスクも特徴的だ。
挑戦的な口調で、灼滅者達をにらみ付ける。
「『古の畏れ』と対峙するのは初めてだ」
口裂け女とは、かつて異常なまでに伝播した都市伝説と聞く。噂と違うのは、畏れとなってしまった故か、それとも?
敵を認め、みをきが距離を測る。
ビハインドと共に、ディフェンダーの位置についた。
「それにしても都市伝説に地縛霊を混ぜたような不思議な存在ですねぇ」
同じ前衛でも、クラッシャーの位置に立ったのは皐だ。
その地に居座る事に何か意味があるのか。
「まぁ、なんにせよ一般人の脅威になるものを放置できないのは確かですね」
槍を左手に、剣を右手に構える。
「いずれにしても討たねばならぬのは変わりませんし、為すべきことを為しましょう」
静瑠が静かに決意を表し、メディックの位置に下がった。
「戦う、と、言うの?! だったら、殺す。そうすれば、ワタシが、一番、綺麗になるっ」
灼滅者達の様子を見て、口裂き女が声を張り上げる。
同時に、両手を広げ襲い掛かってきた。
「良い肉壁になってきなー」
仲間と口裂き女の間に割り込ませるように、エタンセルはビハインドのデラシネを前衛に送り出した。
デラシネはディフェンダーとして位置につき、口裂き女に向かって霊撃を飛ばす。
「……っ」
初撃に邪魔が入り、口裂き女が不愉快そうに舌打ちをした。
続けてスナイパーの位置で魔導書を構えたエタンセルがカオスペインを放つと、敵が憎悪の目ではっきりとエタンセルを睨む。
「自分が一番綺麗になりたいから、綺麗じゃなくする。って云ってもその場所動けないなら、一番になるにも限界あるよなー」
だが、エタンセルは表情を変えない。
加えて、ごく当たり前のことだと言わんばかりに突っ込むと、敵が長い髪を振り乱して走り出した。
「うるさい、うるさい、うるさいっ。そんなキラキラ、壊してやるっ」
どうやらエタンセルの首に飾られているリースに狙いを定めた様子だが。
「誰もいなくなれば自分が一番とか。一人だけで一番なって何の意味があるんだか」
理解できないや、と、優樹が割って入った。
雷に変換した闘気を拳に宿し、素早く身を屈める。
完全に死角から回り込んだため、口裂き女は体勢を変えることも出来ない様子だった。
痛烈なアッパーカットがヒットし、敵の躯体が空を舞うように吹き飛んだ。
「何者であれ、勝手な理由や理屈で人を傷つける輩は嫌いだよ」
言いながら、優樹はバベルブレイカー・リボルバーカスタムを手に、次の攻撃に備え走り出す。
口裂き女が吹き飛んだ先、ちょうど落ちてくる地点では夜魅が拳を構え待ち構えていた。
「やっと出やがったな! はー、寒かったぜ」
言うなり、雷を宿した拳で、下から突き上げるようなパンチを放った。
「なっ……、ぁ」
再び宙を舞った口裂き女の身体が、地面に叩きつけられる。
そこに、勇人がヴァリアブルギガントブレイカーを携え飛び込んできた。自身の身体以上のバベルブレイカーは、振り上げるだけで勇人を右へ左へと揺さぶる。
「ヴァリアブルギガントブレイカー、……」
それを操り、杭の長さを調節して、確かに敵の身体に打ち込んだ。
「ショートシュート!」
気合と共に撃ち抜くと、ビクリと敵の身体が跳ね上がった。
「くっ、憎い。綺麗な者が、憎い。ワタシが、一番、綺麗だから……!!」
まだ致命傷には至らないのか、口裂き女がよろよろと立ち上がった。
「……俺は別に、あんたの顔が綺麗じゃないとは思ってないけど」
仲間をかばうように、茉咲がシールドを広げる。
「自分の都合で誰かを傷つけようとするその姿は、醜いと思う」
言い放つ言葉は、冷たく口裂き女に刺さった。
「ワタ、ワタシが、醜い?!」
口裂き女は、取り乱したように自身の顔に手をやる。マスクを掴み、小刻みに手を震わせ、必死の形相で灼滅者達を見据えた。
「いいえ……。いいえ」
やがて、叫び声が高らかな笑いに変わる。
「ワタシは、綺麗、なのっ」
くすくすくす。
口裂き女は愉快気に笑い、自身の傷を癒した。
●ワタシ、綺麗?
口裂き女と灼滅者達の戦いは続く。攻撃を繰り出し、時には回復し、互いに引くことなく力をぶつけ合う。
「釘付けになって構わないぞ。……なんてな」
初手から敵の攻撃を引き付けるように動いていたみをきは言う。
「誰が、お前達、など!!」
イライラと声を荒げる口裂き女を見て、すっと距離を取った。みをきのリボンタイが揺れる。
こちらの火力は十分で、敵を押し込んでいることが見て取れた。怒りも付加できているので、攻撃の手段も余裕を持って選択できる。
「綺麗なものと相対する場合は注意しろと教わらなかったのか?」
みをきが出現させた、紅の逆十字が。
「他人を陥れて一番になったとしても意味がない」
「ぐ、……ぁ」
容赦なく、敵を斬り裂く。
「……気が付いたら綺麗になれるはずだ」
「何を、言う、何を……」
よろめき呻いた口裂き女は、駄々をこねるように首を振り手を広げた。
前列に位置する灼滅者達を巻き込みながら身体を回転させ、服を切り裂いていく。すぐに皐が無敵斬艦刀を両手で持ち、敵の攻撃を断ち切るように、迫り来る腕を叩き落した。
「これ以上は、やらせませんよ」
動きを止めず、返す刀で斬艦刀を振り抜く。
勢いに乗った渾身の一撃は、見事に口裂き女の片腕を砕いた。
「ちぃ、綺麗な、者が、居るから、ワタシ、は……」
口裂き女はバランスを崩し、たたらを踏む。
「回復しますね」
その隙に、静瑠が癒しの矢を夜魅に向けた。
皆の足を引っ張らないように、助けてもらった恩を少しでも返せるようにと、状況を見ながら回復を繰り返す。
「助かったぜ」
感謝の言葉を述べながら、夜魅は渦巻く風の刃を生み出した。
「こっちからも、神薙刃だっ」
狙いを定めるには、十分に下準備が整っている。勇人は、夜魅に合わせるように激しい風の刃を生み出した。
「いっけぇぇぇっ」
二人の激しい刃が、古の畏れを次々と切り裂いていく。
「あぁ、ワタシ、は、ワタシの……」
じゃらじゃらと鎖を鳴らし、口裂き女がよろめいた。
その姿をしっかりと狙い、エタンセルは口裂き女に向けて指さした。
「撃ち倒されたいかい」
言いながら、魔法の矢を放つ。
攻撃の手を休めない。
畳み掛けるように、優樹がバベルブレイカーを手に敵に迫った。
「骨ごと捩じ切る。少しは痛みを思い知れ」
ドリルのように高速回転させた杭を、荒々しく叩きつける。
ねじ込み、ねじ切った。
「く、ぁ、ああああっ、このっこのっ」
赤いワンピースは擦り切れ、身体は消滅しかかっている。
だが、切り裂き女は、憎悪の表情を浮かべ優樹に向けて腕を振り上げた。
「俺は別に綺麗じゃないからどうなろうと気にしない」
そこに身体を滑り込ませたのは茉咲だった。
「でも、皆、特に女子の顔を傷つけられるのは嫌だなぁ」
敵の最後の攻撃を、身を挺して庇う。
ダメージを受けながら、茉咲は口裂き女のマスクが破れ落ちたことに気がついた。
だから、はっきりと、裂けた口が目に飛び込んでくる。
それを見ても、怯まない。
ただ、少し悲しいけれど。
茉咲は構えた真っ白な鎌を迷うことなく振り下ろした。
「……オヤスミ」
「ええ、ワタシ、綺麗、……?」
消え去る間際の問いかけに、答える声は無かった。
「君はとても、醜くかったよ」
消えていった口裂き女に向かい、エタンセルはそう言葉を残した。
きっちりとしめたネクタイを緩め、茉咲は一つ息を吐き出す。
それから夕暮れの空を見上げ、目を閉じた。
古の畏れは消えた。耳を澄ましても、鈴の音は聞こえなかった。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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