美しき刃の如く

    作者:幾夜緋琉

    ●美しき刃の如く
     新緑の緑が色鮮やかに見える、長野県は某所の山中。
     人気の全くない、深い山中に……キィ、キィと言う鳴き声の様な音が響く。
     さらにガサガサという、木々のこすれる音。
     ……動物か、人か……いや。
    『……キィ……』
     現われたのは、鼬。
     いや、その身体は普通の鼬に比べれば遥かに大きく、そしてその両手には……鋭く、鈍く光る鎌。
     つまり……鎌鼬。
     彼らはその山中を、その鎌を振り回しながら徘徊し、獲物を探していたのである。
     
    「ふふ……皆さん、揃っている様ですね? それでは説明を始めますね」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者皆に軽く微笑みを浮かべつつ、説明を始める。
    「今回、皆さんに解決してきて欲しい事件は、長野県に現われてしまったはぐれ眷属を退治してきて欲しいんです。はぐれ眷属は今の所、被害者を出してはいませんが……このまま放置しておくと、いつかは人里まで降りてきてしまいます。そうなる前に、皆様で退治してきて欲しいんです」
     そう良いながら姫子が見せる写真は、美しい新緑が映る山中の写真。
     しかしその新緑を切り刻んでいるのは……。
    「はぐれ眷属の種類は鎌鼬……腕が鎌になった鼬です。その鎌は鋭く、攻撃力も高いので下手に油断していると、返り討ちに遭いかねません」
    「また、鎌鼬の数は10匹居る様ですが、その内の一匹は他の鎌鼬に比べて一回り大きな身体をした、ボス格の鎌鼬の様です。このボス鎌鼬は、攻撃力、体力共に高いですし、その攻撃の刃には毒の効果がある様なので、ご注意下さいね」
    「尚、戦場となるのは当然彼らの根城である山中になります。地の利は彼らにある訳で……足場の悪い所、斜めになっている所などがあるかと思います。彼らは余り賢くありませんので、自分達の戦いやすい場所へと誘い出すのも一つのポイントになるかもしれませんね」
     そして、最後に。
    「幸いまだ被害者は居ない事件ではありますが、被害者が出る前に倒せるのはむしろ幸福だったと思って、必ずここで倒してきて頂ける様、期待しています。皆さん、宜しくお願いしますね」
     と、ぺこりと深く頭を下げた。


    参加者
    近衛田・十秋(糸手繰る黒・d01169)
    高城・美穂(風詠みの巫女・d01448)
    杏里・縁(夢見る虚ろ・d01558)
    白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)
    グレン・キャラウェイ(アンフォーギヴン・d01737)
    エレノアール・エイリアス(ヴィヴィセクター・d03569)
    双樹・道理(諸行無常・d05457)
    九十九・悠一(無にして万物の刃・d05744)

    ■リプレイ

    ●美しき郷に降る影
     姫子の事件解決の依頼を受けて、灼滅者達が集まるのは長野県某所の山中。
     人気は幸いな事に全くなく、不気味な静けさが辺りを包んでいる。
     そんな山中の道のりを歩きつつ。
    「ふむ……山中とは、意外に厄介だな」
    「……? どう、して……?」
    「遮蔽物が多い。人は集団戦には向かないのだが、獣たちにとっては最大限の効果を発揮できる場所だからな」
    「……そう、ね」
     白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)と、杏里・縁(夢見る虚ろ・d01558)の会話。
     山中に現われし敵、はぐれ眷属の鎌鼬。
     この山中に現われた鎌鼬を倒してきて欲しいというのが、姫子の依頼。
    「しかし今回は、灼滅者としての初仕事になるのだよな……私も、他の皆も。私は沖縄より本土に出立し、暫く時が流れたものの、運命は回り出したという事か」
    「そうだな。いわば初陣……ずっと先だと思っていた世界に直接関わることが、この歳で出来ると思わなかったぜ」
    「私もだ。敵の数は10体だったか? 初陣の相手にとって不足無しだ。早期の討伐を以て、周囲の安全を確保できる様にしなくてはならないな」
    「そうだな。10体という事は俺達の数よりも多い。さて……俺のこの格闘技術が役に立つのだろうか…………いや、させなきゃならないのか。死ぬのはいつだって構わないが、無駄死はゴメンだぜ」
     睡蓮から、双樹・道理(諸行無常・d05457)、近衛田・十秋(糸手繰る黒・d01169)、グレン・キャラウェイ(アンフォーギヴン・d01737)の言葉。
     そしてそれに九十九・悠一(無にして万物の刃・d05744)、エレノアール・エイリアス(ヴィヴィセクター・d03569)からも。
    「ともあれ下手に油断は出来ません。鎌鼬……名前くらいしか聞いたことはありませんが、鋭い刃を持った者達でしょうから、その一撃には注意しなければいけませんね」
    「ええ……ふふ。うふふふ……鎌鼬さんの内臓って、どんな感じなのかしら? 楽しみですわぁ……」
     真剣な悠一の言葉に対し、殺人鬼としての本性をあらわにしてしまうエレノアール。
     そんな彼女の言葉を……少し引きつりつつも。
    「ま、まぁ何だ……この地にいるのだろう私の仇を討つために、一つ一つ任務をこなしていくことにしよう」
    「ああ。どんな形で世界とこれから関わっていけるかは解らないが、まずは目の前にある問題を解決していくのが先決。期待も有り、不安もあるが、一つ一つやるだけだ」
     と睡蓮、道理がそれぞれ言葉を紡いで……そして。
    「さぁ皆様、この先ですわ」
     高城・美穂(風詠みの巫女・d01448)が静かに宣言。
     一層と暗く、深く暗闇と……道なき道。
    「よし。先ずは俺達が待ち伏せられる場所を探さないといけないな。足場が良く、少し開けた場所があると良いのだが……はたしてどうだろうか?」
    「そうだな……地図は一応調べてみたのだが、さすがにそういう場所まで地図には載っていなかった。なので歩いて探すほかにないだろう」
    「同じく、渡しも近くの村や町の人達に聞いてみたのですが……ほとんど人が訪れない場所らしく、そういう事を意識した事も無いので解らない、という事でした」
     グレンに道理と悠一が告げる。
     鎌鼬にとって、山中はホームグラウンド……唯でさえ実力は同等なのだから、少しでもこちらにイニシアチブを撮っておきたいと考えるのは作戦を進める上で当然のこと。
    「ただ余り時間を掛けても仕方ない。不意打ちされる可能性もその分高まるからな。では……今から30分。30分探して見つからなければ、コレで強制的に場所を作り出す。本来ならば、あまり草木を傷つけたくはないのだがな」
     睡蓮が皆に見せたのは鉈(なた)。
    「……(こくり)」
     それに静かに頷く縁と、他の仲間達。
     ……草木の生い茂る、道の様で道ではない道のりを踏み分けながら山中を進み、開けた場所を探す。
     しかし……そういう場所は容易に探せる様なものではなく、時間だけが刻一刻と過ぎ去って言ってしまい……すぐに30分が経過。
    「……仕方ない。ここに陣を張るとしよう」
     睡蓮が鉈を振い、場所を作り出すのであった。

    ●刃持つ者
     そして待機場所を作り出した灼滅者達。
    「……では……てんだろに頼めるか?」
    「ええ。てんだろ、ではおねがいしますわね」
     十秋から依頼を受け、エレノアールの霊犬、てんだろは一声吠えると共に山を駆けていく。
     霊犬が鎌鼬を発見し、そしてこちらまで連れてきてくれることを期待しつつ……その場に待機する灼滅者達は。
    「……辺りの警戒を忘れないようにな。背後から叩かれては、堪らないからな」
     と、十秋の言葉に従い、四方八方に警戒を張り巡らせる体制を取る。
     …………そして、それから暫し。
    『ワゥォン!!』
     霊犬の吠える声が、遠くから響く。
    「……発見した様ですね」
     美穂の一言に、皆も一層気を引き締める。
     そして遠くの方から、犬が草木を踏み分けながら駆けてくる音も。
    「……」
     その音に、指ぬきの黒いグローブを嵌める十秋。
     そして……霊犬が灼滅者達の目の前に現われると、すぐさま追いかけてきた鎌鼬の群れが灼滅者にぶつかる。
    「……害を為す前に退治してくれる。覚悟しろ、獣共」
     十秋の宣戦布告。そして。
    「目標確認。攻撃……開始」
    「我が道、修羅の道なれば戦いこそが我が証明。故に立ち塞がる者、ことごとく打ち倒さん!」
     縁、悠一も声を上げ、グレンと共に、最前線でクラッシャーの配置としてぶつかり、そして迎撃に黒死斬、抗雷撃、トラウトナックルを放つ。
     そしてその配置に続く、ディフェンダーの睡蓮も。
    「標的確認。火葬(インシナレート)、開始!」
     己の力を確認する様にしながらも、バニシングフレアを掃射。
     鎌鼬は炎にまかれる……が、そのダメージをものともせず、反撃ののろしを上げていく。
    「っ……! その異様な姿からして動きづらそうだが……その分攻撃力は強いな」
    「解った。美穂!」
    「ええ。巫女として、この世の人々を守る使命にかけて、私は皆さんを癒します。一人たりとも欠ける事なく、戦い続ける力を!」
     美穂がまっすぐに敵陣を見据えながら、清めの風で減少した体力を回復。その際にボスと思しき敵を見定めておく。
     そして敵陣の攻撃を切り返すように、中衛に立つキャスターの十秋、てんだろ、ジャマーのエレノアールが行動。
    「てんだろ、あの大きな鎌鼬を攻撃するのよ!」
    『ガゥゥ!』
     エレノアールに頷き、六文銭射撃で遠隔攻撃……しかしその攻撃は交される。
    「っ、素早いですわね……どうにか近づかないと不味いですわね」
    「ああ。となれば先ずは、立ち塞がる敵の前中衛を倒すしかないか」
    「ええ。という訳で併せて行きますわよ」
     エレノアールと十秋はそう頷き合いながら、斬弦糸と黒死斬で斬りかかり、足留め効果とジグザグの効果を与える。
     そして道理も、後方からのヴェノムゲイルで攻撃を行う。
     そうして、続けて第二ターン。
     ……その身体の大きなボスの前にいる鎌鼬の数が5体。
    「有象無象の厄介者達が本当一杯だな。まぁ仕方ない……続けて行くぞ! 朧風!」
     悠一と縁がティアーズリッパーで一匹集中攻撃……そしてトドメとばかりにグレンが地獄投げで、投げ放ち倒す。
     そして睡蓮がすぐにもう一人の方に対し立ち塞がりながら、グレンへフェニックスドライブで強化を付加。
     前衛陣がしっかり固まり、後方に対する攻撃を通さない様に構えると、十秋、エレノアール、てんだろの中衛陣は斬弦糸、黒死斬、それに射撃で次なる一体に攻撃を継続させる。
     更に後衛の道理はヴェノムゲイルを継続して使用し、相手の数を減らすようにする。
     無論、鎌鼬らの反撃がすぐにやってくる。その鋭い鎌の手を振り回しての攻撃で、血飛沫が飛び散る戦場。
    「させません。破魔と癒しの力を、高天原におわします八百万の神たちに願い奉ります」
     無論、それらの攻撃に対しては、美穂が清めの風をたびたび使う事で、その被害が高くならないように押さえ込む。
     ……三ターン目、四ターン目と欠けて、更にもう一人の鎌鼬を倒す。
     敵最前列にいた鎌鼬は倒せたものの、まだ8体……数はやっと自分達と同等。
    「中々……しかし負けない」
     そう言う縁。目から光は失われては居ない。
     いや、他の仲間達も、決して諦めては居ない……例え厳しい戦いであろうとも、諦めなければ活路は開ける。
     確実に、敵を一匹ずつ相手にして、トドメを刺していく。そして受けたダメージは、美穂と、被害度合いによってはてんだろも浄霊眼でヒールを行う事で戦線を維持していった。

     そして10ターンが経過。
    「……これで、倒れろ!」
     悠一の一撃で、5匹目の鎌鼬が倒れ……後衛への活路が開く。
     しかし後衛へ攻撃出来るという事は、ボスの鎌鼬の近接攻撃が出来るという事……その大きな体躯から繰り出される攻撃が如何ほどの力を持つかは、まだ解らない。
    「しかし立ち止まっている訳にはいかない……進むぞ!」
     睡蓮が宣言し、戦線を上昇させる。
     それを待っていたかの様に、ボス鎌鼬はその身体を大きく震わせて……鋭い一撃を振り落とす。
     今までとは比べものにならない位の大ダメージ……更に毒の効果がじわりと身を蝕む。
    「大丈夫だ。俺へのキュアは必要ない!」
     グレンはシャウトしながら、キュアを自己に放つ。
     キュアを持つはグレンと悠一……そして美穂。
     毒を受けた仲間が誰か、に応じてキュアを手分けして使う事で毒の効果を残さないようにしていく。
     また、回復不要となれば。
    「さぁこの一撃を食らえ!」
     グレンが雲耀剣を放つと、悠一、縁がトラウトナックル、睡蓮が地獄投げという形で、ボスを狙う。
     また十秋、エレノアール、てんだろ達も、ジグザグスラッシュ、黒死斬、斬馬刀でバッドステータスを次々と付加していく。
     そんなバッドステータスのオンパレードに、流石にボス格という敵ではあるが、疲弊していく様がみてとれる。
    「へへ、どうやら結構効いてる様だぜ!」
     道理が嬉しげに仲間に告げるのは、気分が高揚している故。
     ……そして更に1ターン、2ターン攻撃を続け、ボスの体力も残り後僅か。
    「よし……これでトドメだ。その魂、私の火勢として共に過せ! 灼滅!!」
     睡蓮が渾身の抗雷撃を撃ち放つと、ボス鎌鼬の身体は雷鳴に包まれ、朽ちる。
     ……そして残るは、ザコ四体。
    「さて……貴様らの親玉は倒した。後は貴様等だけだ」
     そう言いながら、悠一は武器を強く握りしめる。
     ……無論、鎌鼬が怯えたりする事は無い。その獣の如き本性の儘に猛攻を継続するのだが、それに対してこちらは前衛陣が鉄壁を敷いて、ダメージを受け止めていく。
     そして、3体を数ターンで倒し、残るは後一体。
     灼滅者達の疲弊も激しくはあるが、気合いで耐える。
     そして。
    「……覚悟」
     静かに縁は言い放つと共に……交差すると共にナイフを一閃。
     真っ二つに切り裂かれたその身体が維持出来なくなるまで数秒……そして。
    『キィィィィ……!!』
     そんな断末魔の叫び声を上げながら、はぐれ眷属達の姿は消えていったのである。

    ●刃折れて
    「……目標沈黙確認。作戦終了……」
     ふぅ、と息を吐きながら呟く縁。
     他の仲間達も戦いで高揚した意識をクールダウンさせつつ。
    「終わったな……皆、怪我はないか?」
    「……ああ…………すまん」
     十秋の言葉に、謝る道理。
    「ん? 何故謝る?」
    「いや……冷静で行こうと思っていたが、熱くなっていた様でな……」
     道理は今回冷静であれ、と考えていた様だが、初の実戦という事で……いつのまにか気分高揚していたらしい。
     それに自戒し、落ち込んでしまっている様なのだ。
    「仕方在りませんわ。そんなに落ち込まないで下さいませ」
     と美穂が慰めの言葉を告げると、他の仲間達もそれに頷き、笑う。
     そして。
    「さて、無事事件も解決出来たんですよね?」
    「ああ、一件落着……だな」
     悠一に十秋は頷きつつ。
    「なら……かえろう?」
     縁の言葉に従い、灼滅者達は……その場を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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